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No.24329の一覧
[0] 【ネタ・オリ主・HOTD】ぞんびものはじめました[ちーたー](2010/11/15 02:03)
[1] 第一話『一日目 私立藤美学園付近』[ちーたー](2010/11/15 02:05)
[2] 第二話『一日目 日本国床主市 私的呼称“ポイントアルファ”』[ちーたー](2010/11/17 01:12)
[3] 第三話『一日目 登山用品店 たのしい八甲田山』[ちーたー](2012/03/25 15:55)
[4] 第四話『一日目 大東亜重工業 第八資材倉庫』[ちーたー](2012/03/25 15:55)
[5] 第五話『二日目 朝 日本国床主市郊外 第二運河橋』[ちーたー](2012/04/10 00:30)
[6] 第六話『三日目 早朝 日本国床主市郊外 大東亜重工業 第八資材倉庫』[ちーたー](2012/04/18 01:22)
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[24329] 第四話『一日目 大東亜重工業 第八資材倉庫』
Name: ちーたー◆7e5f3190 ID:84a555e7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/25 15:55
一日目 夜 日本国床主市郊外 『大東亜重工業 第八資材倉庫』

「おーおー、やってるなぁ」

 もう何度目になるのか。
 数えきれないほど見た床主大橋攻防戦の様子は、ここからでも手に取るようにわかる。
 十分な光量を確保できるように打ち上げ続けられる照明弾の輝き。
 アレが途絶えた時が、渡河の合図だ。
 守るべき市民を放り出して撤退する警官隊。
 危険から逃れようと全力疾走する市民たち。
 それを追う奴ら。
 その光景はまさに地獄絵図という言葉がふさわしい。
 まあ、その程度の地獄など、この先に比べれば可愛いものだが。
 なんにせよ、あそこで死んでいく人々には申し訳ないが、ありがたいことである。
 橋の封鎖解除は、俺にとって行動範囲の拡大を意味する。
 ついでに言えば、橋の内側が安全になることも意味していた。
 声を掛け合いながら撤退していく警官隊。
 悲鳴を上げる市民。
 それは全てが自律行動式の囮として奴らを引きつけてくれる。
 攻防戦で奏でられている銃声や怒号、罵声や悲鳴もそうだ。
 非常にありがたいことに、彼らはどうすれば危険から逃れられ、何をすれば危険に晒されるかを知らない。
 

「距離目測で400かな、あー、500、なんでもいいや」

 実にやる気のない言葉と共に発砲する。
 まだ生きているライフラインのお陰で街灯に映し出された路上は、俺の射撃練習場と化していた。
 元警察官らしい奴の頭部に一撃。
 ライフル弾らしい破壊力を存分に発揮し、one shot one killだ。
 未だに目測が苦手なのは恥ずかしい事だが、当たったからいいだろう。
 拳銃はホルスターの中だったので、アイツは後で回収に行ってみよう。
 
「あと三匹でボーナスのビールだ。
 よしよしよし、頑張るぞ」

 内心で言い訳をしておくと、別に奴らをたくさん倒せば、神様からご褒美をもらえるわけじゃないぞ。
 今の俺は、古風な言い方をすれば魂に染み付いた習慣を取り戻すために、実弾演習をしている。
 そのモチベーション維持のために、動機付けとして自主的なご褒美システムを採用しているだけだ。

「よーし次。
 変異しかけの人間。
 女性、速度は遅い、距離600かな」

 銃声の聞こえる方に助けを求めてきたのだろう。
 スーツが乱暴に破られており、実に見事なプロポーションを見せてくれている。
 だが、肩の負傷は奴らによるものだ。
 前に助けて、お礼をシテもらっている最中に喰われたことがあるから間違いない。
 もったいないが、即死させてやれるうちにやってやるのが人間的な優しさというものだ。
 ああ、オレってなんテ優しいんだろうな。

「Ok,one shot one kill」

 おっと、海兵仕込みの流暢なアメリカ英語が出てしまった。
 さすがは俺だ。
 精神的にはともかく、肉体的には初体験だというのに、最低限の疲労で長時間の拠点防衛をこなしている。
 いや、まあ、肩の痛みは限界だし、足も不調を訴えてはいる。
 だが、自画自賛が許されるほどの見事な狙撃だったのだ。
 それくらいは許してほしいな。

「しかしまあ次から次へとどこから沸いてくるんだ」

 苛立ちと共に再装填。
 その間に接近を許してはしまうが、どうせここへは入ってこれない。
 慌てず、急いで、正確に。
 戦いの基本だ。

「ひい、ふう、みい、と。
 おいおい、一体どれだけ集まってきているんだよ」
 
 どうやら今回はいつもと異なるというのが売りのようだ。
 確かに拠点を手に入れたとなれば襲撃イベントはお約束であるが、それにしたってこれはやりすぎだろう。
 ダース単位で銃本体も持ち込んでいるので損耗はそれほど怖くないが、弾薬には数に限りがある。
 お一人さま一発までという原則を守りつつ使ったとしても、これじゃあ長期間の籠城が難しくなってしまうじゃないか。
 目立つのは嫌だが、コンテナ大作戦と物資回収はどちらもやったほうがいいな。
 大型車両の運転はいまだに慣れないが、まあ、今回がダメでも次回に反映できれば良しとしよう。
 戦闘はそれから十数分ほど続いた。
 途中でライフルを取り替える必要もあったが、なんとか撃退には成功している。
 まあ、阻止しきれずに押し寄せられたとしても内部への侵入は物理的に不可能なんだがな。
 俺は足元のビールに手を伸ばした。
 成果物を眺めながら、一日目を無事に終えたという勝利の美酒を味わおうじゃないか。

「おい!」

 いきなり掛けられた声は、俺を驚かせるのに十分な距離からだった。
 ビールを捨て、ライフルをひっつかみ、開け放しだった非常扉から室内へと飛び込む。
 腰から拳銃を抜き放ち、狙撃銃に許されるだけの衝撃でライフルを床に置く。
 後ろ上下左右再び前。
 慌ただしく視線を向けるが、室内は無事だ。
 何かがいる様子はない。
 まったく、俺としたことが幻聴を聞いてしまったようだ。
 いや、あるいは野良犬の鳴き声か何かの物音を人の声と誤認したのかもしれない。
 いやはや、どれだけ経験を積んでも、頂点には至らないということだな。

「おい!ねえ!ちょっと!聞こえてるんでしょ!」

 そうそう、これもきっと何かの気のせいだ。
 これはあくまでも仮説だが、精神的には耐えられていたのだが、まだ極限状態に慣れていない俺の脳が異常な挙動を示しているのかもしれない。
 考えてみれば当たり前だ。
 今の俺は、歴戦の軍人が戦場で死んだと思ったら平和な日本人男子高校生に憑依していたような状態だ。
 おまけに、身体を慣らす前にいきなり最前線送り。
 頭で理解できていても、身体が付いてきてくれるわけがない。
 きっと、今の俺の脳内は、脳内物質のバーゲンセール状態なんだろうな。
 処理しきれない脳が限界を超え、俺に不平不満を訴えているに違いない。
 やれやれ、今日は浴びるように酒を飲んで寝てしまったほうがいいな。
 
「ちょっとー!逃げないで!早く中に入れて!聞こえてるんでしょ!」

 拳銃の残弾を確認する。
 一発も使っていないので、当たり前だが六発。
 うん、銃弾は勿体無いので、ここはナイフで仕留めるとしよう。
 どうせ、至近距離から不意を打てば抵抗などされるはずもない。

「はいはい、落ち着いて。
 今から下に降りて非常口を開けますよ、はい、ちょっとだけ扉から離れて下さい。お静かにね」

 生きている人間を殺すのに、躊躇を感じるようなお年頃でもない。
 悪いが、俺のために死んでくれ。



二日目 早朝 日本国床主市郊外 『大東亜重工業 第八資材倉庫』

「あら、起きたみたいね?」

 起きるなり聞き覚えの無い人の声。
 これで驚かない奴がいたら会ってみたい。
 素早く腰に手を伸ばす。
 おいおい、手が動かせないじゃないか。

「誰だっ、あれ?」

 脳内のイメージでは素早く飛び起き、距離を取りつつ足首付近に隠し持っているナイフに手を伸ばす俺だった。
 だが、実際には動こうとした所で全身を縛るワイヤーに動きを封じられ、芋虫のようにクネクネとのたうつのが限界だ。
 
「はいはい、動かない。
 悪いけど拳銃は預からせてもらったからね」

 そうですね、俺の方を向いている銃口には、随分と馴染みがありますものね。
 いやはや、こういう展開は初めてだな。
 諦めて目を閉じる。
 考えてみたら、いくら経験を積んだところで俺は運動不足の男子高校生だ。
 弾丸の浪費を恐れてナイフファイトなんて考えるんじゃなかった。

「それで、名前は?」

 次の周回では、銃に頼って生きていくことにしよう。
 やれやれ、できれば痛くしないで仕留めて欲しいところだが、もはや何でもいい。
 それにしても、この倉庫は安全だと思っていたんだが、そうでもないようだな。
 反省点としては、盛大に撃ちまくってしまったことだろう。

「別に取って喰おうって言う訳じゃ、ごめんなさい、今の状況だと冗談には聞こえないわね。
 それで、もう一度聞くけど名前は?」

 次回では射撃訓練にしても、もっと違う場所でやるべきだな。
 それと、リスク計算を著しく誤ってしまった。
 今後のための反省点として覚えておくとして、銃声はまだか?
 できれば嬲り殺しは勘弁してもらいたいところだが。
 まあ、それもしょうがないだろう。
 死ぬ瞬間まで考えるとして、次回はどうしようか。

「名前を聞いてるのよ!」

 怒号と同時に頬に衝撃。
 目を開けると、すぐそばに女性の顔があった。
 女性に手を上げるのはどうかとおもうが、女性が手を上げるってのはいいのだろうか。

「これから殺す相手の名前を聞いてどうするんです?」

 あれだろうか、奴らではなく人間を殺したという実感を噛み締めたいのだろうか。
 そうだとすれば、随分と歪んだ趣味だな。
 まったく、世界が滅茶苦茶になってしまったお陰でこういうサイコさんが自己表現に励むようになってしまって困る。
 それにしても、どうして目の前の女性は驚いたような顔をしているのだろう。
 ああ、あれか。
 俺が恐怖に怯えて命乞いをするのではなく、冷静に返してきたので驚いたのだろう。
 これは困った。
 一発で楽に殺してもらえるように、もう少ししたら惨めな命乞いをするべきかもしれない。

「何があったのかは聞かないけど、貴方に危害は加えないわ。
 約束する。
 だから、名前を聞かせてもらえないかしら?」

 殺さない、ではなく、危害を加えない、ときたな。
 一般人はそのような言い回しはあまりしない。
 そうなると、自衛官か何かか。
 普通ならば自衛官や警察官との合流は嬉しいのだが、この世界だと死亡フラグだから困る。
 自衛隊や警官隊との合流ならばまだ何とかなるが、彼らと合流できるようになるまでにはまだまだ時間がかかる。
 
「別に泥棒だってことで捕まえようって言うわけじゃないわ。
 もう、法律がどうとか言っている場合じゃないからね
 とりあえず、お話をするための第一歩として、名前を教えてくれないかしら」

 ここまで会話を試みてくるということは、少なくとも正常な部分は残っているのだろう。
 あるいは不安すぎて人間的な行いをしないと落ち着かないのかもしれないが、どっちでもいい。
 
「太郎です」

 突然の回答に、彼女は再び驚いたようだ。
 人が素直に名前を教えたというのに失礼な話だ。

「まさか、苗字が山田だなんて言わないわよね」

 はて、この人とどこかで会った事はなかったはずなのだが。
 ああ、そういうことか。

「文句ならば私の両親に言って下さい。
 まったく、山田家の人間に太郎と名付けることは法律で禁止するべきです」

 よほど面白かったのだろう。
 彼女は愉快そうに笑った。
 個人的には全く笑い事じゃないんだけどな。
 
「ごめんなさいね。
 笑い事じゃないんでしょうけど、なんだかおかしくて。
 それで、次の質問をしてもいいかしら?」

 これが非常時であれば大いに怒るところだが、まあ、今日はどうせ暇だ。
 周囲を取り囲まれているわけでもないし、多少の会話ぐらいは大丈夫だろう。

「何なりとどうぞ。
 どうせ明日まで暇ですし」

 だが、明日は忙しい。
 資材を回収し、窓やドアの前に緩衝地帯を作らなければならない。
 できれば道路をコンテナで遮断するところまで行きたいが、それは彼女がどの程度有能かによるな。
 いや、それ以前に開放してもらえるのだろうか?
 明日という日はとても重要だ。
 人々が動き出す前に、あの閃光が走る前に、出来る限りのことをしておかなければならない。

「これだけの武器をどこから?
 鉄砲マニアにしては尋常ではない数よね?」

 まあ、当然の質問だろう。
 一人で扱うにしては明らかに多すぎる数だ。

「使っていれば消耗しますからね。
 あればあるほど困りません。
 整備だ何だで延命できたとしても、結局のところダメになりますからね」

 俺の言葉に、彼女は表情を変えた。
 言外の意味に気がついたのだろう。
 
「ちょっと待って、銃を使って、しかも長期間を一人で戦おうっていうわけ?
 その前に避難所や救援との合流をすればいいじゃない」

 周回していない人を馬鹿にするつもりはないが、避難所に救援とは、事態を楽観視しすぎている。
 人が多く集まる避難所など危険極まりないし、事件発生からこれだけ時間が経過したのに救援が来ていないということは、ここへ直ぐに到着することができない事態になっているということだ。
 つまり、明日以降も生き延びたいのであれば、そのような他力本願の考え方は捨てなければならない。
 
「失礼ですが、避難所に行きたければ私を開放してから好きに行って下さい。
 後ろから撃つような真似はしませんよ。
 ただ、一つだけ警告させて頂きますと、これを通常の自然災害程度に捉えていらっしゃるのであれば、避難所に行くことはお勧めできませんよ」

 これは災害ではない。
 戦争でもないが、ある意味では戦争よりも酷い。
 今回の事態は、何が原因かがわからない。
 つまり、どうすれば危険から逃れられるかを知る方法がない。
 水道水を飲まなければいいのか、特定の食品を避ければいいのか。
 はたまた、ある時期に決まった種類の治療を受けた人々が原因なのか、全く法則性が見えない。
 わかっているのは、奴らに噛み付かれた人間が、時間差で発症するということだ。
 奴らと、奴らに傷つけられた人々を排除でき、内部がある程度制御できている避難所があれば俺も顔を出していいが、そんな場所があるはずもない。
 
「そりゃあまあ、どう見ても普通の事態ではないのはさすがにわかるわ。
 未だに偵察すら見かけないってことは、被害がこの地域だけに限定されているわけでもないってこともわかる。
 でも、だからと言って、それが一人で行動する事とどう繋がるのかしら?」

 この人は一体何を言っているのだろう。
 ああ、そういうことか。
 避難所の崩壊や救援は来ないという事態を経験していないのだから、無理もない。
 いつまでも現状のままという事はありえないと思い込んでいるのだ。
 今日は誰も来てくれないかもしれないが、明日や明後日にはきっと県外から救援に来るに違いないという根拠のない希望に縋りたいのだろう。

「いつ来るか、そもそも来るかも分からない救援を頼りに、安全を自分自身で保証できない場所に身を置く事はできません。
 例えば広域避難所に行くとして、そこの安全は誰が保証してくれると言うんですか?
 確かに、私のように武装した人がいるかも知れない、警官隊が周囲を取り囲んでくれるかもしれない。
 あるいは、ひょっとしたら、避難所に入るにあたっては完璧に近い検疫体制を敷いているのかもしれない。
 実は既に自衛隊と連絡がついていて、今この瞬間にもその避難所に向けて普通科連隊が救助に向かっている最中かもしれない」

 自分で言っていて思わず表情が緩みそうになる。
 かもしれない、かもしれない、かもしれない。
 全てはそうあって欲しいという願望でしかない。

「奴らが押し寄せてきたとして、それからずっと身を守れるような要塞があると思いますか?
 日本警察が長期間の戦闘を行えるだけの十分な弾薬を持っているわけがありませんよね?
 もし持っていたとしても、非常時にそれを分け与えてくれると思いますか?
 あるいは、状況が絶望的になる前に各自で避難するように言ってくれると思います?
 武装した人々がいたとしても、彼らはいざという時に躊躇なく元近所の人と戦うことが出来るでしょうか?」

 人の希望を打ち砕くようなことは言いたくないのだが、彼女が博愛精神や希望的観測に従って別の場所に行ってしまうのは困る。
 もっと直接的な表現をすると、ここまで内部を見られた以上、崩壊することがわかりきっている避難所に送り込むことはできない。
 これから状況は悪化する一方なのだから、そうなってから他の人間まで連れて逃げこまれたりすれば、俺の生存可能時間が大きく減少してしまう。

「発生原因も感染経路も不明な病気なのかもわからない状況で、そもそも患者と呼んでいいかも分からない人たちを完全に排除できているという保証は?
 まだ普通に立って話せる人でも危険であれば中に入れないと誰が何の基準で定められます?
 大切な恋人が、何にも代えがたい家族が負傷していたとして、隠さず厳密な基準に従って全員を切り捨てていけると思いますか?
 あるいは、それを徹底しようとした所で、反発は起こらないでしょうか?」

 俺は悪い意味で日本人を信じている。
 絶対に誰かが自分や自分の大切な人だけは大丈夫と根拠のない判断を下すだろう。
 権力の横暴に立ち向かう自由の闘士も確実に騒ぎ立てる。
 そして警察官たちはもっと状況が悪化するまでは絶対に厳密な基準を徹底できない。

「目に見える範囲では航空偵察どころか報道のヘリコプターすら確認できない状況で、他所の地域から救援なんてくるでしょうか?
 何日持久すればいいんでしょう?明日まで?来週まで?来月まで?
 今はまだ、助けあいの精神でいけばいいでしょう。
 奪いあえば足りないが分けあえば余るでしたっけ?日本の防災対策は大したものですから、それで数日は大丈夫なはずです。
 でも食料が尽きてきたら?どこから食料を集め、誰が基準を作り、どうやって公正に分配するんです?
 隣の家族への配給が貴方より多かった時、空腹と怒りを我慢できますか?
 貴方が我慢できても、誰もが我慢できると思います?」

 被害妄想に近い事を言っているのは自覚している。
 だが、数えきれないほどの経験に基づく事実だ。
 この地獄の中で、少しでも人間と接していたいと思っていた時期は当然あった。
 だが、それは必ず失敗する。
 逃げる途中で見捨てられる。
 囮にされる。
 仲間を見捨ててまで食料を回収してきても、もっと必要だと要求される。
 あるいは、奴らがついてきたと責められる。
 それを全て乗り越えた所で、精神的な満足感以外には何も得ることができない。
 回収した物資は何もしないで座り込んでいる連中のために消費され、難易度が上昇していく中、もっと多い量を、もっと短い間隔で求められる。
 見捨てれば冷酷と罵られ、失敗すれば無能と誹られ、不足すれば責められる。
 ああいう非効率的な事はもう二度とやりたくない。

「まあ、言いたいことはわかったわ。
 何かよほど酷い目にあってきたようだけど、それでこれからどうしたいの?
 鉄砲の山を抱えてここで一人アラモ砦をしたいわけ?」

 また随分と古風な例えを出してきたものだ。
 だが、言っていることは正しい。

「近いですけど、もっと規模の小さなものですよ。
 道路を封鎖し、侵入経路を限定し、可能な限り物資をかき集める。
 ここは物流の上流に位置する拠点が多く、道を塞ぐのに十分な頑丈な資材が沢山あります」

 余りにも自分本意すぎるプランに、彼女は表情を引き攣らせている。
 つまり俺は、自分だけで物資を独占し、ごく狭い範囲で安全を確保し、自分だけが助かろうとしていると宣言したわけだ。
 まあ、時間の問題であって助からないんだがな。

「そこまで考えているなら、他の人だって助けられるんじゃないの?」

 ごもっともな意見だが、それはありえない。
 ここはゾンビ映画の中でも、生物災害を扱ったゲームの中でも、ホラー小説の中でもない。
 明らかな法律違反を早期の段階で受け入れられるのは、まともではない人間だけだ。
 そんな連中を受け入れるぐらいならば、凶悪なサバイバリストとして孤高を保っていたほうがよほど安全だ。
 ああ、ここが合衆国ならば頼れる連中がたくさんいるんだがな。

「助けられるとして、助けてどうするっていうんです?」

 この人の身分は知らないが、只の男子高校生に何を期待しているっていうんだ。
 俺の正体からすれば確かに人々を救うために尽力すべき人間なのかもしれないが、それを理解してくれるような奴はいないだろう。
 それに、俺はもう面倒事を抱え込むつもりはない。
 天は自ら助くる者を助く、というわけだ。
 まあ、偉大なる天国の覗き屋を気取るようなつもりはないがな。


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