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No.23296の一覧
[0] 【ネタ】猿(十二国記)[saru](2010/11/06 15:28)
[1] 2匹目 魔猿公[saru](2010/11/06 15:29)
[2] 3匹目 斎王君・李真[saru](2010/11/13 19:39)
[3] 外伝 猿が州侯になったわけ[saru](2010/11/14 11:08)
[4] 4匹目 蘭州侯・姫公孫[saru](2010/11/13 20:19)
[5] 5匹目 斎麟・紫微[saru](2010/11/28 20:56)
[6] 6匹目 延麒・六太[saru](2010/12/04 23:05)
[7] 7匹目 海客・中嶋陽子[saru](2011/04/01 17:03)
[8] 外伝 半獣・楽俊[saru](2011/04/04 11:02)
[9] 8匹目 将軍・劉李斎[saru](2011/04/10 11:15)
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[23296] 6匹目 延麒・六太
Name: saru◆770eee7b ID:4e91d614 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/04 23:05
 才国より黄海に戻ってより、度々神仙の訪れが我が庵にあった。
妖魔に対する彼らの用事など碌でもないと相場が決まっているので、こちらとしてはできれば来て欲しくなぞなかった。
けれど奴らは庵にかけた奇門遁甲の陣を突破して我が下へやってきた。
 その多くが地仙、沈みつつある自国を救わんとする心ある官僚たちだった。
何せこの身は玉座が空白であった才国を沈めずに済んだ最大要因である大妖魔、それも麒麟による調伏でではなく遵帝の言葉によって、王に従いし仁道を知る存在だ。
話が通ずるのであらば、説得し自国に招かんと言わんばかりに奴らはこの猿の元へとやってきた。
 正直迷惑であり、やめて欲しかった。
礼節を知らぬ愚か者相手であれば、こちらも無礼で返そう。
されど、礼を知る者どもに対してはどう対処すればいいというのか。
彼らは個の獣の元へ心づくしを持ってきた上で、自国の窮状を訴え、この猿の助力を請う。
俺に返すことができる答えは一つきりだというのにだ。
 李真にすら百年の時を掛けて仕えた、だというのによく知りもしない人間の為に国に使えることなどできる筈がないではないか。
それはわが友を汚す行為であり、同時にこの身の至高の猿たる自負が安易に人に使えることを良しとはしないからだ。
 けれど遠いかつて、もはや親兄弟の顔すらもが思い出せぬほどの昔の良識がそれを咎めた。
日本人であった頃の意識が自身を苦しめる者ならばともかく、一般人を見捨てるなと叫ぶ。
なれど、同時にこの身は既にして妖魔、それも幾百の年月を超えた大妖魔・魔猿公である。
それが己のなすべき行動を変えることを禁じる。
そして従うべきはかつての己ではなく、現在の自分である。
決定と良識、人と妖の狭間で心が軋みを上げるのだとしても、己が成すべき行動を変えることはこの猿にはできなかった。
 だからといって、軋みが切れるわけでもなく、彼らの来訪は俺の精神衛生上非常に悪いものだった。
幸い彼らは王が倒れた後にしかやって来ない。
いわば俺は溺れる者が縋る藁なのだろう。
 だから十二国いずれかの王が倒れると、仮朝が立ち国が安定する程度の時期になるまで呉剛門を開き蓬莱――日本に逃げ出すことにしていた。

 分身の一つを藍染の着流しに変化させる。
自身はひょろりとした男に変化する。
そうして完成するのは、いかにもうだつの上がらないといった風情ののっぽの男だ。
ちなみに背丈が高めなのは前世、今世を通してやや小さめの体躯であるからでは断じてない!
まあ、それはともかくとして俺は街へと向かうことにした。
 初めに訪れたのは質屋。
俺は長い年月を過ごす間に手に入れた装飾品の一つを質に出す。
それは見事な品であったが、質屋の店主はそれを乱雑に掴むとじろじろと眺め、本来の価値より低めである値を告げた。
足元を見られているのだ。
 おそらく、コソ泥の類が盗品を売りに来たものと思われているのだろう。
それもむべなるかな、今の自身は白髪交じりのうだつの上がらない男、こんな上等な品を持っているとはまかり間違っても思われぬであろうから。
 それを踏まえて考えれば、そう悪い値でもない。
揉め事を起こしたくなかった俺は頷き小金を得た。
 金を懐に入れ、久方ぶりに訪れた街をぶらりと散策にする。
ふと見覚えのある顔を見付ける。
「もしや、六太か?」
「?」
 呼びかけるといぶかしげな顔をして少年が振り返った。
「あれ、おっちゃん?」
目を丸くした後に人懐っこい笑みを浮かべた。
「随分と久し振りだ」
「ああ、そうだな。所で六太、こちらへはいつ?」
「んー、ついさっきだな」
「そうか」
 じゃらり、と俺はわざとらしく音を立てた。
六太の目の色が少し変わる。
「久方ぶりだ。積もる話もある。ちとあそこで茶でも飲まないか?」
 勿論、六太に否やはなかった。

 次から次へと店員が俺たちの座る席へと茶菓子を運び、皿がどんどん積み上げられていく。
六太の食べること、食べること。
先程、小金を得たばかりだというのに既に懐の心配をしなくてはならなくなっていた。
「ふう、喰った、喰った」
 満足そうに六太は腹を撫で擦る。
それを俺はじとりと見た。
「奢りとは言ったが……、少しは遠慮というものを知らんのか」
「んあ?」
 爪楊枝で歯と歯の間に挟まった喰い滓を取り除いていた六太はいぶかしげにこちらを見た。
「いいじゃねえか。どうせおっちゃんが、金なんか持ってても本にしかなんねえんだから。おれの腹には言った方が有意義だろ?」
 この小僧はどうやら本の価値を知らんらしい。
「それを決めるのはお前じゃなくて俺だし、だいたい今回は旅費にしようと思っていたんだぞ」
「へっ?」
 六太は驚いた顔をした。
そして申し訳なさそうにボリボリと頭を掻いた。
「あー、ごめんな、おっちゃん」
 あまりにもしおらしく言われたので笑ってしまった。
「いや、気にしなくてもいい。よくよく考えれば、今回旅費にすることはお前に伝えてなかったからな。こっちの不注意もある」
「だけど……」
「それに、まだ金を手に入れるアテはあるさ。六太がそう気にすることでもない」
 ガシガシと頭を撫ぜた。
少し六太は嫌そうな顔をする。
「ちょ、やめろよ、おっちゃん」
「あー、すまんな」
 くすりと笑って手を離した。
六太は唇を尖らしている。
「たく、もう俺は子供じゃないんだぞ?」
「そりゃ、戦国の世から生きてんだ。当たり前だろうが」
「分かってんなら子供扱いしないでくれよ」
「すまんね、こればかりはどうもならん」
「だーあ、もう!」
 その姿を見て愛らしいと思い、同時に哀れだと思う。
六太は麒麟だ、紫微がそうであったように、永劫王に縛られ続ける。
それが箱庭世界の天帝の望みなれば。
「六太」
「なんだよ」
「生きるのに倦んではいないか?」
「…………。なんだよ、珍しい。もし倦んでいたらどうだっていうんだ、蓬莱の妖魔」
 六太の影から向けられる強烈な殺意を無視して告げる。
「後腐れなく、お前を本来のあるべき形に戻してやるよ、狭間のヒト」
「…………」
 しばし六太は考え込む。
その上でしっかりと俺の目を見て言った。
「所為に倦んでいないと言えば嘘になる。だけど、まだ死ぬ訳にはいかない」
「何故?」
「責任がある。与えたのはおれだ。なら最後まで見届けてやらなくちゃならない。だから、その温情を受けるわけにはいかないんだ。そっちの方が楽だと分かっていてもな」
「なるほどな」
 あいつとは違う。
まだこいつは絶望していない。
「ならば、俺が口出しすることでもないか」
「そういうことだ。まあ、気持ちはありがたいんだけどな」
「そうか」
 これは元より口出しをすべきではなかったこと。
ただ、俺が殺してやれなかった彼女と六太を重ねたそれだけの話だ。
「それなら良いんだ」

 呉剛門を細小範囲で開く。
変化し潜り抜けた所で違和感、大気が綺麗すぎる。
向こうが穢れ過ぎていたか、或いはこちらが清浄すぎるか。
恐らくは両者、なぜならばここは幾年かぶりの天帝の箱庭だからだ。
 指を唾液で湿らせ大気を探る。
黄海へ向かう龍脈を発見、風遁を以って同化し一瞬で懐かしの我が家へとたどり着く。
「ん?」
 張られている結界に違和感。
これは俺の張った物ではない。
では何者か、分かりやすい術の癖を見てとる。
「更夜か」
 犬狼真君の号を持つ男、駁更夜の癖と見て取った。
しかし、珍しいものもあるものだ。
好きに使えとは言ったが、あの男が人のいないこの家を使おうとするとは。
 するりと結界を越えると思った通り、庵に明かりが付いていた。
近場の木には駮が繋がれている。
「? おや?」
 もう一度見直す。
しかし、近場の木には駮が繋がれていた。
護るようにろくたが傍にいる。
「あいつが妖獣に乗るだと?」
 あり得ない、宗旨替えか?
……まあ、いい。聞けば済む話だ。
 そして庵の扉を開け、また驚く羽目になった。
「ああ、お帰り、魔猿公。家を使わせてもらっているよ」
「別にそれは構わないが、犬狼真君これは一体?」
 男と女がいた。
共にぽかんと口をあけて、お椀を持っている。
共に唯人だ、男の方からは微かながらに血の臭いが漂う。
 彼らを指示し、駁更夜は言った。
「恭州国の昇山者だそうだ」
「なに? まだ決まっていなかったのか、あそこは」
「さて、もうそろそろ終わりそうだけどね」
 含みのある視線をちらりと更夜は少女に向ける。
少女は気付いていないことだろう。
 だが、かつて所属した国の者ではないとはいえ、王たるものに無礼は許されまい。
「お初にお目にかかる。我は姓を姫、名を公孫、号を魔猿公という。御身らの名を伺いたい」
 そう問いかけるとワタワタと少女は慌て、そして名乗った。
「えっと、あたしは珠晶、あちらは頑丘、黄朱の民です。……魔猿公って本当に!?」
 なんとか、珠晶は名乗りを上げた後、驚きの声を上げた。
ちらりと頑丘と呼ばれた男を見れば、こちらも驚きに目を丸くしている。
「無論だ。崑崙の伝説と混同されて斉天大聖とも呼ばれることもあるがな。少なくても、魔猿公という号を持つ猿は俺以外に聞いたことはないな」
 チラリと見やれば更夜も頷き
「わたしも君以外には聞いたことはないね。それと彼にも固くなる必要はないよ」
と言った。それを聞いた珠晶はさらりと言い放つ。
「じゃあ、そうさせてもらうわ」
 随分と肝っ玉のでかい少女だと驚いた。
普通、安全だと分かっていてもこの猿と初めて遭遇した人間はこの様な行動がとれないというのに。
なるほど、これが次代の供王か。
実に面白い。
 その後、しばし会談する。
「そう言えば、魔猿公と真君はどのような関係なの?」
 そう問いを投げかけたのは珠晶だ。
だが、おい、珠晶、と頑丘が声をかけたことでハッとして
「あ、やっぱりなんでもない」
と先程の発言をなかったことにしようとした。
けれど、それでは面白くない。
「犬狼真君、これぐらいのこと、そういやそうな顔をしないで答えてやればよいだろうに」
 そう茶々を入れると、更夜は困った顔をして
「わたしが答えられないことを知って、それを言う君は意地が悪いよ」
「まあ、意趣返しと思え」
 笑い、
「こいつの為にまあ、概要だけにして言うと、まあ、こいつは天帝の命を受けて俺を天仙にしようとしているわけだな。それにしてはやる気がないがね」
「君が望んでいないことを強要するわけにもいかないだろう?」
「え、どうして?」
 純粋な疑問が珠晶の目に浮かぶ。
どうして、か。
珠晶には一生分からぬことだろうし、分かる必要もないことだ。
だからここはお茶を濁すこととしよう。
「俺は至高の猿。天帝風情には従えぬよ」
「なによそれ、自意識過剰でしょ」
「そうでもなければ、彼は彼ではないさ」
 更夜が笑う。
そうして夜が更けていく。

 翌朝、更夜は珠晶を連れて庵を去った。
一夜の礼を告げて。
珠晶とは奇妙な縁が結ばれたようだが、まあ、仕える気は起きなかった。
それに彼女も俺を従える気は起こさないだろう。
ふざけたつもりでも、どうやら俺が李真のことを未だ引きずっているのを昨夜のやり取りであの敏い子供は築いた様であるから。
心優しい彼女はこの身を従えようとは思うまい。


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