<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.23296の一覧
[0] 【ネタ】猿(十二国記)[saru](2010/11/06 15:28)
[1] 2匹目 魔猿公[saru](2010/11/06 15:29)
[2] 3匹目 斎王君・李真[saru](2010/11/13 19:39)
[3] 外伝 猿が州侯になったわけ[saru](2010/11/14 11:08)
[4] 4匹目 蘭州侯・姫公孫[saru](2010/11/13 20:19)
[5] 5匹目 斎麟・紫微[saru](2010/11/28 20:56)
[6] 6匹目 延麒・六太[saru](2010/12/04 23:05)
[7] 7匹目 海客・中嶋陽子[saru](2011/04/01 17:03)
[8] 外伝 半獣・楽俊[saru](2011/04/04 11:02)
[9] 8匹目 将軍・劉李斎[saru](2011/04/10 11:15)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[23296] 外伝 猿が州侯になったわけ
Name: saru◆770eee7b ID:4e91d614 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/14 11:08
 その日、斎台輔・紫微は奇妙な光景を見た。
「お猿さんが崇められてる……」
 民草はその猿に両手を合わせていた。
その猿は獣の分際で褐衣とはいえ服を着て奇妙な道具を手にしていた。
「ありがたや、ありがたや」
「どこから王様が連れてきたのかは知らないが、このお猿様は堯帝の化身じゃ」
「ありがたや、ありがたや」
「主上、一体これはいかなる事態なのですか?」
 その愛らしい顔に紫微は冷や汗を浮かべ、自らの主を振りかえる。
斎王君・李真は面白いものを見たと目を輝かせる。
「うむ、常々魔猿公は世間で言われているのとは違い、その性温厚にして人智に富むと言ったことがあったな」
「ええ、聞いたことがあります。かつてはともかくとして主上がお会いになった当時の魔猿公は温厚なるものとなっていたと。その住まいには万の書物を収め、田園に囲まれているとも」
「ああ、いい忘れていたが彼の猿公は世話焼きのきらいがあってな、きっと我が国の農作業が気にくわなかったのではないだろうか」
「はあ」
 いつの間にやら猿が大量に増えており、一斉に田畑を耕し始めていた。
しかも、百姓が歓声を上げるにつれてどんどん数が増えていく。
「主上や共に黄海に赴いた者どもの話では、魔猿公は気難しい方だと思っていたのですが」
「いいや、かなり理性的だがあれは本人も自覚している様に本性は猿だ。お調子者のきらいがある」
「なるほど」
 そして魔猿公を見る。その猿はますます調子に乗って今度は運河の整備すら始めている。
もう確実にお手伝いの範囲を超え、国策に介入している。
「止めなくて宜しいので?」
「放っておけ。どう勧誘すべきか、また直接会っていない者どもにどうやって認めさせるか悩んでいたが、このままいけば自然と仕えてることになるだろうから」
「はあ」
 伝承に曰く、彼の猿は神通無比にして強力無双、人界を荒らし天意に抗う無法の獣。
彼女の主の伝えるところによれば、その英知深淵にして仁徳を知る賢き妖魔。
どんな相手何だろうと思っていた。主上が選ばれた当初から百官の反対を押しのけてまで臣としたいと言わしめた大妖魔。
どれほどすごいのか期待していたのだが、なんというか現実は紫微の斜め上をいっていた。
 目の前の光景を見る。
分身した猿の一部が、どこから取り出したのかは分からないが書物を使いながら、子供に学問を教えている。
「民が堕落しないでしょうか」
「安心しろ、多分一週間で飽きる」
 断言、その根拠はいったいどこから来たのだろうか。
そんな紫微の疑問に気付いたのか、李真は紫微の顔を見て笑う。
「いや、魔猿公はなかなかに天邪鬼な性格をしていてな。過度に人に期待されると途端に物事に対するやる気をなくすのだよ」
「それでは国官としては非常に扱いにくいのでは?」
「ああ、間違いなく扱いにくいだろうが、同時に責任感も強いのでな。州侯辺りに任じればかなりの責務を与えることができ、且つある程度の裁量権もあるから真っ当に動いてくれることだろう」
「主上、現在全ての州侯の座は埋まっているのですが」
 まさか、罷免するということだろうか。咎もなくそれはどうかと思うのだが。
「ちょうどいい所に、この蘭州の州侯が仙位を返上したいと言ってきているのだ」
「主上、何かなされましたか?」
「失敬な、そんなことはしていない」
「ですが、あまりに都合が良すぎます」
 つい、と李真は遠方に視線を向けた。
「本当に何もしていないのだ。寧ろ、私は典敦が前々から位を返上したいと言ってくるのを何とか押しとどめていたぐらいだ」
「どういうことです」
「あやつめ、自身が仕えたのは才国ではなく先帝であると言ってきた」
「それは……」
 あまりにも不可解で、州侯としてあまりにも愚か、そう言えれば楽なのだろうがけれどもその気持ちが痛いぐらいに分かってしまう。
「代役がいなかったからこそ、典敦の希望を退けざるを得なかった。魔猿公ならば、十分に勤まると私は見ている。初めこそ妖魔であることから従わぬ者も大勢いようが、けれど」
 目の前の光景、妖魔である筈の猿をあっという間に慕った民草の姿がある。
「あやつならば、なんとかなるであろうさ」
「…………」
 主に並んで紫微もその光景を見る。
妖魔を恐れず慕って笑う人間達、そして人に慕われる妖魔。
天帝の定めを覆す、桃源郷の原型がここにはあった。
「主上」
「うん?」
 彼女の主が振り返る。
その鳶色の目が彼女を見つめた。
「貴方は私をどこに連れて行って下さるのですか?」
「私は何処へも導かんよ。ただ私が満足できる光景を作り出すだけだ。荒れ果てた黄海を緑の一角へと変えた魔猿公の様にな」
 紫微は柔らかに笑う。
「期待させて頂いても、よろしいですか」
「無論だとも」
 かつて荒れ果てていた才を立て直した主はそう応じた。

 その後、いきなり州侯に任じられた魔猿公が怒るのを李真が口先三寸で丸めこんだりなどの出来事があったりもしたが、完全なる蛇足である。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.021425008773804