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No.23296の一覧
[0] 【ネタ】猿(十二国記)[saru](2010/11/06 15:28)
[1] 2匹目 魔猿公[saru](2010/11/06 15:29)
[2] 3匹目 斎王君・李真[saru](2010/11/13 19:39)
[3] 外伝 猿が州侯になったわけ[saru](2010/11/14 11:08)
[4] 4匹目 蘭州侯・姫公孫[saru](2010/11/13 20:19)
[5] 5匹目 斎麟・紫微[saru](2010/11/28 20:56)
[6] 6匹目 延麒・六太[saru](2010/12/04 23:05)
[7] 7匹目 海客・中嶋陽子[saru](2011/04/01 17:03)
[8] 外伝 半獣・楽俊[saru](2011/04/04 11:02)
[9] 8匹目 将軍・劉李斎[saru](2011/04/10 11:15)
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[23296] 3匹目 斎王君・李真
Name: saru◆770eee7b ID:4e91d614 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/13 19:39
「斎王になったぞ、魔猿公。約定通り私に仕える気はないか?」
「そんな約定は知らん、時の彼方に消えた。とく失せろ」
 行き倒れの愚か者が斎王になった。そればかりでなく、この黄海に隠遁していた俺に仕えろという。
「何を言うか。公は私が斎王になれば仕えると言っていたではないか」
「考えんでもないと言っただけだ。遠回しの御断りの文句だぞ、これは。だいたい貴様分かっているのか」
 凝と斎王君・李真を俺は見つめた。
「俺の手を取るということは、天下万民――少なくとも、泰を敵に回すということだ。何せ、かつて俺が喰った捨身木の卵果は代果。その所為で僅か2、3年ばかりとはいえ、泰王君が即位するのが遅れたからな、奴らにとって俺は怨敵であろうよ」
 もっとも、そのときたまたま実っていたのが代果であったというだけで、俺は戴に行ったことなど一度もない。
おまけに当時の代王がそれを知って良からぬことを思いついたのか、女仙を皆殺しにし、捨身木に火を掛けた為に更に王不在の期間は更に長引いた。
その成果は知らんが、戴の王朝の凋落が始まると、偶に俺を殺して戴の暗雲を払うのだと呪いに傾倒した王様が黄海に凄腕の兵どもを送り込んできて、結構くるものがある。
奴らは引かない、殺さねばこの身にかかる災厄は消えない。
殺したくないのに殺し、殺して覚える血の滾り、今世の俺が身も心も悪鬼の類と思い知る時間だ。
「それにお前はちゃんと家臣の許可を得てここに来たのか? 違うだろう、そうであったら何故――」
 前世の記憶を再現して作った備中鍬を李真の影に叩き込む。
それは本来であれば大地を抉っただろう。
けれども、現実には李真の影に遁甲していた使令を掬いあげ現世へと水揚げした。
「この使令はこんなに殺気立っている? 実の所お前、自分の麒麟すら納得させられてないじゃないか」
 その使令に俺は質問を投げかける。
「なあ、そうじゃないか、天犬よ」
「貴様の様なものに言われることではないが、確かに然り」
 使令は頷いた。
「主上は台輔に見出された後、直にここに貴様を迎えに来られたのだ。故、臣の誰一人として貴様の出仕など望んでいない、魔猿公」
「ああ、それでいい。いや、そうでなくてはならない。だからこそ、そう思わないお前はおかしいと思うよ、斎王君。お前の臣たちを代弁してこの使令は意思を語った。これでもなお、お前は俺が欲しいとぬかすか」
「無論のことだ。私は自らの意見を変える気はないよ」
「なりませぬ、主上!」
 使令は叫んだ。
「これなるは天意に逆らい悪徳を成す無頼の輩。台輔が下したわけでもないこの大妖を才に迎えようとは、乱心されたとしか思えませぬ! これを才に入れるということは、我ら臣下の意を無視のみならず、戴の怒りを買い、果ては天意に背くこととなりかねませぬ。太綱天の巻の一にも天下は仁道をもってこれを治むべしとあります。今の主上のなさり様はこれに真っ向から背きまする」
「だとよ」
「むう」
 李真は難しい顔をして考え込んだ。
「考えるまでもないだろう。妖魔を旗下に加えようだなんて妄想はここですっぱりと断ち切って、諦めるんだな」
「いや、そのことではなくてな」
 人がいい話をしてやろうというのに李真はそれを中断した。
「何故、お前を臣下とすると仁道に背くのだ?」
 はあ?と疑問の声を俺と使令はあげた。こいつは何を言っているのだと。
「うむ、お前達の言っていることも分からなくもない。こやつの悪行、確かに天下万民が憎悪するに値するものだ。なれどそれは遥か昔のことであろうが、今のこやつが人界に出たと聞いたこともないし、それにもはや卵果は喰ってはおらんのだろう」
「阿呆が」
 溜息が出る。
「そんなことは問題ではない。かつてした、いやこれからもし得る可能性があり、その力を持っている、そのことが問題だ。そして斎王君、そんなものを内に入れたければ、俺よりも先に臣下を説得することだ。そんなこともできぬ器には仕える気も起きん。それともお前、かつて才の将であった時の王がそんな相手であったら使える気が起きたか?」
「…………」
 顎に手を当て李真は考え込む。やがて結論が出たのか口を開いた。
「確かに、そんな王には私も仕えたくはないな」
「そうだろう」
「だが……」
 李真は戸惑ったように言った。
「それでは、私はどうすれば貴方に誘いをかけることができるのだ。人間の意見なぞ、十人十色、更に言えば私の欲するところは誰もが嫌がる妖魔の召致だ。全員が認めることなどあり得んだろう」
「ならば、こうしよう。お前が全ての臣下の了承を受けられぬと嘆くのならば、お前の最大の臣、麒麟がお前の望みを笑って承認するのならば、まあ認めよう。もっとも、臣になるか否かは俺の勝手だがね」
「なるほど、確かに公を旗下に加えたいとあらば、それくらいは成さなければならぬか」
 李真は頷き
「では公、その日までご壮健で。私がそれを達成するのを楽しみにしておられよ」
そうふてぶてしく笑った。だから俺はこう返したのだ。
「二度と来るな、馬鹿」


 また一人を打ち殺す。
「チッ、最近とみに多いな」
 辺り一面に人が地に伏せる。これらは先程まで皆熱き血潮を有していたが、しかし今その血は冷え切っていた。
皆が皆、勝ち目がないというのにこの猿へと挑みかかり、尽くが返り討ちとなった。
「どうやら、戴は今落ち目らしいな」
 じゃり、と敷き詰められた白石を踏む音がする。
振り返るまでもなく、俺はその足音の主のことを知っていた。
「李真……」
 斎王君・李真。
治世百年にも至らんとする王朝の主である。
「いや、いつものことではあるが毎度毎度こうでは芸がないな。そうは思わんか?」
「何をしに来た?」
「言わずとも分かるだろうに。いつものあれだよ」
 首を振る李真に苛立ちを覚える。
「いい加減にしておけ、高々妖魔如きを下さんがために王自ら黄海に踏み込むなど、常軌を逸しているとしか思えない。お前は自分が王だということを弁えていないとしか思えない」
「まあ、良く言われることではある」
苦笑。
「だが、少なくともこれに関して私は譲る気はないよ」
「そうかい。だが、今の時期はやめてくれ。見れば分かる通り、人を歓待できる状況じゃないんだ」
 指し示す方向には荒れ果てた大地がある。
常には黄海にあることが信じられぬような、見事なまでの田園風景が広がっているというのに、今は無残なまでに鉄靴で踏み躙られていた。
「客を置いてどこへ行くつもりだ、魔猿公」
 行動の気配を悟ったか、李真が言葉を飛ばしてきた。
「奇門遁甲の陣にまた仙が引っ掛かった」
「殺すのか?」
「当然。それとも何か、殺すなとでも?」
 からかうように問うた。
そして李真はそれには答えなかった。
「当然だな、かかる火の粉は払わねば、死あるのみだ。安心したよ、李真。お前がそのようなことを言う愚物でなくて」
 そう歯を剥き笑う俺を、どうしてか李真は気の毒そうに見てきた。
「荒れているな」
「荒れている? 俺が?」
「ああ、いつも泰然たる魔猿公はいつもこの時節になると荒れているよ」
「…………」
「なあ、魔猿公。才に来る気はないか?」
「その答えは前に言った」
「いや、そうではなく。住まいを才に変えないかと聞いているのだ」
「は?」
 唖然とする。そんな俺に李真は言葉を重ねた。
「度重なる襲撃に飽き果てているのだろう。才に来ればそのようなことは一切ないと約束する」
「何故?」
「命の借りは命で返す、当然の法だ」
「そんなもの必要ない。俺はそんなことの為にお前を助けたわけじゃない」
「ああ、これは私の自己満足だ。貴方に貸しを押し付ける気はないよ」
 不思議なものを見た気がした。
ここ百年、度々会っていた筈の相手だというのにこの男がこんなことを言うとは思ってもみなかったのだ。
 だからだろう、その甘言に乗ってしまったのは。
「そうか、自己満足か。――なら頼むよ、李真。少々骨休めがしたかった所だったんだ」
 そう笑って俺は李真に告げた。

 かくて猿は黄海より才国へと移る。
これが何をもたらすかはまだ不明である。


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