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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 蛇足IF第二部最終話
Name: ぢくべく◆63129ae9 ID:265dcdd8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:20




クドーがガルアーノと共に精神世界へ意識を落としてどれほどの時間が経っただろうか。
勇者たちの目の前で止まったまま動かない一人と一体の様子を固唾を呑んで見守り、それでもまだ最悪の展開を予想して構えを解かずにいた。
喉がカラカラに乾くような緊張が走り、ただ待つことがこれほど苦痛なものかと誰もが思い、苛立ちと不安を隠す様にして口を真一文字に閉じる。
その間にも絶えず轟音と部屋の揺れは止まらなかった。

「遅ぇぞ……クドー」

その崩壊の中で広がる静寂の中でぽつりとエルクが零す。
表情には余裕がなく、顰めた顔でじっとクドーの背中を睨みつけ続けていた。もうこの背中を失いたくはない。そんなことを思えば、エルクの隣にいたミリルが胸を締め付ける不安から逃れるようにして彼の手を握った。
不安に押しつぶされそうなのは誰もが同じ。ならば彼の友である自分は信じてやらなければならない。

大丈夫だ。エルクは自分にそう言い聞かせて紅蓮の瞳を友に向ける。
一秒が、一分が、そのどれもが長く感じさせる。
息をするのも忘れクドーの背中を睨み続けていれば、ようやくにしてその包帯だらけの背中がピクリと動いた。

「クドーッ!」

誰よりも早くエルクがその背中に駆け付け、そして声を上げる。
続く様にして他の勇者たちもクドーの下へ駆け寄れば、動かなかったガルアーノの巨体が解けるように崩れていった。
果たしてクドーのトドメはガルアーノに届いたのか。誰もがこれを決着として信じたいところであったが、それに反してクドーの動きは緩慢だった。
ゆっくりと、ゆっくりと此方の方に振り向き、ガルアーノに突きいれた右手をぷらぷらと顔の横で振りながら薄らと笑みを浮かべていた。

「終わった」

あまりにも簡潔に言い渡された長く続いた死闘の決着に、誰もが反応出来ず声を失った。
もうちょっと何か言い方があるだろうにと勇者の中の数人は思ってもいたが、クドーの中ではなんとなく勇ましい勝ち台詞を言うのは憚られた。
何せこの戦場に調子づいた台詞を吐きながら登場すれば、なんとも微妙な視線を投げ掛けられたから。

「いや、もうちょっとさー……」
「いいじゃないか、それで」

ジーンが肩を落としながらクドーに疲れたような視線を投げ掛けても、彼は肩を竦めてしれっとそんなことをのたまう。
勝利には勝どきを上げるのが常、などという道理を持ちこむつもりは誰もなかったが、それでも勝利の叫びくらいは上げたいというのが正直なところだった。特にグルガとトッシュ辺りは。

しかしそんな不完全燃焼とも言える中で、エルクだけが身体を丸め、全身の力を込めた握り拳を震わせていた。
ガルアーノを倒した。自分達を取り巻く因縁にカタを付けた。それもいい。
だが何よりもエルクを歓喜で包むのは――――皆が無事で、クドーが無事に帰ってきた。それだけ。
今まで抑えに抑えた少年の感情が火を噴いた。

「よっっっ…………しゃああああッ!!!」

これ以上なくストレートに振り上げられた拳と雄叫びにしばし驚き、勇者たちは気を取り直したようにそれぞれが勝利を分かち合う。
トッシュが腰元の徳利を開けて口を付け、満足そうに頷くゴーゲンやイーガに腕を組んだだけのシュウ。リーザがパンディットと抱き合いながら笑顔を浮かべ、ポコは傍にいたシャンテに強引に抱きしめられて顔を真っ赤にしながら目を回している。
アークは一つ息を吐いて鞘に剣を納めた。

「終わったんだね」
「そーだな……」

ミリルが後ろに手を組んでジーンの隣に立てば、風の子が感慨深そうに動かなくなったガルアーノを見つめていた。
自らの中にある復讐心を認め、それと折り合いを付けながらこの決着を迎えたが、ジーンの心に落ちるナニカは一つもない。ただ戦いが終わっただけ。
勝利の喜びも皆が無事なことへの安堵もあるが、それ以上に――――。
そんな、どこか無表情のまま喜ぶジーンの隣で、ミリルは前を向いたまま口を開いた。

「これからだから、ね?」
「…………そーだな」

ミリルの言葉を噛み締めるように天を見上げ、ジーンはしっかりと頷く。
いつまでも過去を見続けるのはもう止め。それにクドーが戻ってきたのであればもはや彼の復讐は根底から崩れ――――。
そこまで考えればまるで自分が馬鹿のように思えてジーンは恨みがましそうな目でクドーを見た。遅れて来た癖に満足そうに腕を組んでは勇者達の姿を見つめるその友を。
後でえらい目に会わせてやる。ジーンは密かに決心した。

しかしいつまでも此処で喜んでいても仕方がない。
そんな当たり前の事実に短すぎる勝利の余韻から目を覚ますそれぞれだったが、そこでぼんやりと佇んでいた機神が何でも無いように呟いた。

「シカシ……ドウヤッテダッシュツスルンカイノ?」

崩壊の轟音が響く部屋の中にぽつりと落とされた滴は波紋を広げながらそれぞれの口を閉ざしていく。
矛盾した静寂に勇者たちは包まれ、そして動きを止めたまま視線でアークを見た。
例えこの作戦にシャドウ達から教わった未来の知識が根幹を為しているとはいえ、それを決めて先導し続けているのはアークに他ならない。
故に纏め役である我らがリーダーの顔を見る勇者達だったが、当の本人は大真面目な表情を崩さぬままに冷や汗を垂らしながら頬を掻いていた。

「その、本来であれば、だな……」

言い淀んだ時点で皆の表情は蒼くなった。

「潜入していた僕がガルアーノを叩いて破壊工作をしながらさっさと……」
「…………」
「…………ロマリア空港の近くにシルバーノアは待機させている」

無言の視線に初めて目を泳がせたアークが、済まなさそうに脱出の方法だけはあるのだと主張する。
だがそんな事実などこの場にいる全員の求めた答えではなかった。
此処からどうするのか。どうやって脱出するのか。そもそも自分たちは激戦に次ぐ激戦で全力で走ることさえ難しいがどういうつもりなのか。
一斉にして皆がそれを問い質そうと口を開きかければ、それを許さぬようにしてひと際大きく部屋が揺れた。

「お……? なんか視界傾いてねぇか?」
「そんなわけないよぉ。トッシュがお酒呑み過ぎたんじゃない? ほら、トッシュっていっつも徳利持ってる癖に実はそんなに強くないし」
「ポコ……後で呑み比べな」

呑気なことを言う二人など放っておいて、クドーは部屋をぐるりと見回した。
どれほど盛大に暴れたのか幾つもの小部屋が貫通したかのような大広間。床には戦闘の余波で崩れた瓦礫が散らばり、天井を見れば上の階すらもブチ抜いている。
そして金網のように不安定になった足場を見れば、鉄の床の隙間から下の階層が見え、そこからは赤い色をした炎のようなものが絶え間なく広がっていた。

「おい……これは…………」

破壊工作をするといったアークの作戦が、ガルアーノとの戦闘によって自動的に達成されていたのは実に都合のいいことだった。
だがしかし耳に近くなる轟音は徐々に大きくなり、足元すらおぼつかない揺れは地震のそれと見紛うほど。そして斜めになる視界などもはや言い逃れが出来るわけもなく。
クドーが何かを言いかけた時、足場がぐしゃりと歪み、部屋そのものが落盤仕掛けていたことを悟りアークは鬼のような形相をしながら叫んだ。

「走れええええぇぇぇぇッ!!!!」
「ふざけんなあああぁぁッ!!!!」

怒号を上げながらアーク一味はその場から脱兎のごとく逃げ出した。





◆◆◆◆◆





「ゴーゲンッ! 後ろ!」
「年よりをもちょっと労わらんかい!」

走れば走るほどに視界は揺れ、耳をつんざく爆発音は背後から迫り来るようにして大きくなる。
息を切らしながら必死に走れば目の前から群れで向かってくるのは施設内に残されたコピーキメラ。
飛行するヂークの上に乗っかったゴーゲンが放つ氷の刃が一人残らず撃ち貫いていった。

「一人だけ楽してんだから働きなさいッ! 普通ならか弱い女が乗るべきでしょ!?」
「……いや、だから君がか弱いというのはだな……」
「グルガッ! 迎撃!」
「う、うむ」

列を為してとにかく走り続ける勇者たちの耳に、シャンテの金切り声が届く。
一体何処の誰がか弱いと心にその思いを秘めたのはここだけの話。
それを我慢できなかったグルガはシャンテに尻を蹴り上げられるようにして先頭集団の中に走り出た。

「アーク……これは反省会だぞ」
「…………」

勇者の集団が突撃する十字路。その両脇の道から顔を覗かせたコピーキメラを無言のアークと顔を顰めたイーガが蹴り飛ばす。
もはやいちいち剣を握って相手をしている暇も残っていない。既に通路の天井近くから鳴り響いていたサイレンの音すら聞こえない。
一体どこまで崩壊は進んでいるのやら。

「でもあれだよな。イーガが制御装置を破壊したせいでこうやってあいつら突っ込んでくるわけだし……」
「エルクッ! 後でお前も反省会だ!」
「な、何でだよ!?」

当然のようにその事実をエルクが口にすれば、イーガは滅多に荒げない声を大きくして叫んだ。
ひょっとすればイーガ自身、施設が崩壊していく中で暴走したままのコピーキメラが襲ってくる現状に責任を感じていたのかもしれない。
今となってはこんなこと誰にも予想できるわけもないが。
ふと通り過ぎた通路をパンディットに乗ったリーザがちらりと見る。遠くの通路ではコピーキメラが炎に巻き込まれて吹き飛んでいた。

「クドー。最短距離はこちらでいいのか?」
「途中で道が崩落していなければだが。しかしこの先はおそらくロマリアトンネルの真正面だぞ?」
「へへへ……つぅことは爆弾を置いた時みてぇに大量の雑魚を相手にすんのか」

先頭を走るクドーとシュウが冷静に言葉を交わしながら網目のように続く通路を先導していくが、その表情は晴れない。
すぐ後ろではトッシュが呑気なことを言っているようだが、列車一つ暴走させる様な事件を起こしているのだ。どれほどの兵がいることやら。
クドーは目の前で通路の横のドアが開き掛ける所を確認すれば、それを横から蹴り付けた。中から出ようとしたコピーキメラのくぐもった声が聞こえる。

「キメラ研究所から脱出し、そのままロマリア空港まで走る……? そんな馬鹿な」
「それじゃ、儂はテレポートでお先に……」
「いいからさっさと道を開けなさいじじぃッ!! その髭引っこ抜くわよ!」

後ろから聞こえる戯言と怒号を耳にしながらクドーはため息を吐いた。
先ほどからずっとこのような感じで勇者たちは走り続けている。
これ以上ないほどの、ひょっとすればガルアーノと戦っている時よりも厳しい状況だというのに、誰も彼も軽口を叩くことを咎めは――――まぁ、シャンテを除いて咎めていない。

一歩間違えれば全滅の憂き目に合っているこの状況でも、薄らと勇者達の顔に浮かぶのは笑みだった。
根拠などありはしないが、自分たちは脱出することが出来る。『なんとかなる』と心から信じることが出来る。
笑い話のような逃走劇のこれも相まって、その列の集団の中腹にいるジーンとミリルなどはどことなくこの状況を楽しんでいた。

「なんかさ! なんかさ! すっげー楽しいッ!!」
「痛っ……ジーン! 今肘当たった!」
「うおっ……柔らけー……」

そんなことを口走ろうとしたジーンは女性陣から睨み殺されそうなほどの視線を向けられ、そして密かにエルクとクドーは手に刃を握った。
クドーは隣にいたシュウに窘められ、そして何故かエルクはリーザに怒られていた。往々にして女性とは理不尽である。
誰も彼も緊張感が欠けている。だがしかしそれこそが、絶望を欠片すら感じさせぬ意思こそが未来への道を切り開く。
左右に連なる景色が風のように流れていき、そしてクドーたちの突き進む先には光が漏れ始めていた。

「外に出るぞッ! 全員警戒!!」
「今でもしてるってば!」

アークの声にポコが余裕なく叫べば、やがて勇者達が長く感じていなかった光が照らしだす。
未だ太陽は真っ青な空のてっぺんにあり、そしてその青を遮るようにしてモクモクと黒煙が天高く上っている。
トンネルの事故で上る煙とその地下から吹き上がる煙が混じり合い、ロマリア都市部上空は地獄の釜をひっくり返したような光景になっていた。

全員が肩で息をし、そして研究所の入口で少しだけ立ち止まれば、彼らの目の前に広がるのは空港まで続く長い長い線路。
途中には横転した列車がその道を遮っているようにも見えるが、このまま走り続ければ問題なく空港近くまでは辿りつける。
――――そこらにうじゃうじゃといるロマリア兵をなんとか出来れば、であるが。

灰色の軍服に身を包んだ数えきれないロマリア兵の双眸が勇者たちを捉え、それぞれが狼狽するかのようにざわつくと、一人、一人とまたキメラ兵に身体を変化させていく。
そうすれば灰色の波がカラフルな魔物の軍勢と化したのはすぐだった。
統率も何もない1000を越える多種多様な魔物の群れ。それらが口から血生臭い息を吐きながらそれぞれに威嚇し始める。

絶対絶命――――――――には程遠い。

それを確認すると、勇者たちは揃って横一列に並び魔物の群れを真正面に睨みつけた。
武器を持つ者はそれを抜き放ち、魔法を行使するものはその両腕に魔力を宿し始める。
貌に浮かべるのはいつだって変わらない戦いに向かう前の決意に染まった笑み。勇気に彩られた仲間を信じる心。
そこに加わった一人の化け物が右手に闇のオーラを宿し始めると、それを徐に地面へと叩きつけた。

「『リジェネレイト』」

円形に勇者達の足元の地面が黒く染まり、そこから白い光源がぽつぽつと浮かびあがり全員の身体に染み込んでいった。
自らの内に溜めこんだ命を他者に分配し治癒魔法とするクドーだけの闇魔法。先ほどガルアーノから奪い取った命のお陰で、勇者たちの身体を癒すには十分だった。

「これ、副作用とかねぇだろうな」
「心配するな。むしろ普通の治癒魔法より効くぞ? 自分に効かないのが欠点だが」

クドーの隣にいたエルクが、疲労も何も無くなった身体に驚き腕をぐるぐると回しながら調子を確かめていた。
自分の身体から命を分けたような危険な魔法を使った後だというのに、クドーは心外だと答えながら立ち上がる。
もはや遠く先に待ちかまえる魔物達の群れは今にも襲いかかってきそうなほどに闘争の気配を漂わせている――――準備は整った。

アークが天に掲げた剣が鈍く輝き、勇者たちはそれに応えるかのようにして構えを取る。
一触即発の戦場からは音が消え去り、それぞれの息遣いだけが浅く響く。
そして――――振り下ろされた勇者の剣が風を切った時、戦端は開かれた。



「押し通るッ!!!!」



ガルアーノとの決戦に比べれば、あまりにも温い。
今、20にも満たない勇者達と、1000の魔物たちは正面からぶつかった。





◆◆◆◆◆





果たして、勇者とはどういった者のことを言うのだろうか。
精霊に選ばれ世界のために戦う者が勇者というのであれば、それもまた然りなのだろう。
伝説の武器を振るい、人間の限界を越えて化け物を打倒する者もそうなのだろう。
ひょっとしたら数は少なくとも周りの大切な人間を守る人間も同じなのかもしれない。

「20、21、22……まだだ、まだそんなんじゃ俺には届かねぇぞッ!」

一列になって1000もの魔物達を押し込める勇者たちの一角。他より飛び出たところを、切り捨てた数を数えながら突き進むトッシュを視界の横に映す。
あのような一歩戦闘狂に踏み込んでいる人間を勇者と呼ぶのは少し憚られる気がしたが、そう考えれば先に上げたどれもが俺の思う勇者の定義からは外れていることに気が付いた。
いや、元々俺が呼ぶ勇者というのはあやふやなものだった。

そのどれもこれもが俺には眩しすぎて、そしてその中で罪を重ねる俺は惨めで。

だからこそ彼らを勇者と呼んで俺と皆の間に線を引こうとした。
そうすればいくら醜く化け物になっても『彼らは違う』のだと折り合いを付けることが出来る。
平凡な人間の処世術。自分と彼らが生きる世界は違うのだと諦め、違う領域に引き籠ろうとした。

「怒りの炎よ……全てを薙ぎ払えッ!!」

俺の隣で剣を振るっていたエルクの詠唱が響き渡り、目の前で固まっていた魔物の群れが虚空から発生した爆発によって塵と化した。
ああ、確かにこんな圧倒的な力を見せつけられればただの人間が卑屈になるのは無理もない話だ。
だがしかし彼らはその力を以って勇者となったのか? その力こそが俺と彼らの間に身勝手な線引きを引くことになったのか?

真にその差を思い知らされたのは、どのような状況でも希望を捨てず、何度も立ち上がり戦うその意思。

10にも満たない子供が自分の状況を理解し、それでも周りを励まそうとする光景に出会ったあの白い家の日々。
どれだけ不幸な身の上でも中身は大人であるはずだったというのに、ミリルは、エルクは、ジーンは、俺と違って笑顔を絶やさずに生きていた。それを他者に与えることを無意識ながらに理解していた。
あれこそが全ての『間違い』の始まりだったのだろう。

「あああああーーーーーー!! 全っ然減らねー!!!」

倒しても倒しても出てくる魔物にうんざりとしたのか、ジーンが踊るように剣舞を披露しながら吐き捨てた。
この圧倒的な戦力差の戦場においても彼の軽口は衰えを見せず、その表情には不適な笑みを浮かべている。
果たして彼は、元々このような剛胆さを身に付けるほどに強い人間だったろうか。
そんな彼の人生を測る知識などずっと離れていた俺が知るよしもないが、なんとなく彼らと俺の違いは理解出来た。

――――勇気がなかったのだろう。俺は。

たったそれだけが勇者と化け物の違いを作りだした。
故に俺は死を選び、彼らの心も知らず、自分の望みに蓋をして。
覚悟とも言い変えるそれは、果たして現実世界の、此処とは違うあの世界でこうも簡単に見つけられるものだっただろうか。
今やそれを比べられる記憶は薄れ、微かな感傷が前世は優しかったのだと覚えている。

「ガルアーノと比べてどっちがマシかしらね!」

今まで後衛の一人に過ぎなかったシャンテが、いつのまにかミリルと同じように氷の刃を自由自在に振るい、前衛と同じように戦えている。
あのようにその手に剣を持って戦うまで俺はどれほどの時間を擁したのだろうか。しかも俺が選んだのは忘却。欺瞞。
終点を死ぬことに定めることで、刃を持つ意味と重さを知らぬままに罪を積み重ねた。それに向かい合う覚悟が俺にあれば――――。

――――ならば、今は?

少しだけ、ほんの少しだけ俺は胸を張れるのかもしれない。
相変わらず魔物を殺すことでしか、誰かとの絆に固執することでしか刃は振るえないが、それの重みは理解できている。その鋭さを理解出来ている。
そのどれもが、生きることを決意したから。ただ生きるために勇気がいるなどと、思いもしなかったことだ。

「もう少しだ。遅れるなよ、皆!」

まだアークの叫ぶ『もう少し』は遠い。視界の奥に映る空港は小さいままだ。
だが彼の言葉に呼応するかのようにして皆は気勢を上げ、腰が引けつつあった魔物たちを掃討していく。
誰かの言葉が、意思が、人を強くする。それを人は依存と呼ぶのかもしれないし、真の強さではないと笑い飛ばすかもしれない。

だがこれこそが俺に生きる勇気をくれた。

エルク達と繋いだ絆が。あの死の淵で交わした言葉が。俺を望んでくれた彼らの心が。
あれに、応えたいと思った。俺もまた自分の意思を誰かに伝えたいと。
ただ寂しかっただけなのかもしれない。本当は死ぬのが嫌なだけだったのかもしれない。そのどれもが真実で、そして――――。
咎を背負う覚悟を決め、今、俺はエルク達の隣でナイフを振るっている。共に戦っている。

『あー……マイクテスト……マイクテストー。アークー! 今から爆撃するんで頑張って避けるんじゃぞ』

唐突に頭上からマイクのスピーカーらしきものを通したようなノイズ混じりの男の声が響く――――その声の主はチョンガラ。
戦闘に夢中になっていたせいで気付かなかったのか、ふと声に釣られて上を見上げればそこには日光を遮って巨大な姿を晒したシルバーノアの姿。
それを視界に入れれば、徐々に先ほどから鳴り続けていたけたたましいエンジン音の存在に気が付いた。
なんとも調子の良い、そして願ってもない展開。だがしかしチョンガラが言った爆撃という言葉に首を傾げ、そして。

頭上に停止したシルバーノアのハッチのようなものが開いたかと思うと、そこから降り注ぐのは人間大程の大きさの真っ黒な球体。
誰かが隣で茫然とその馬鹿げた光景に反応した様な気がしたが、そんなことを気にしている暇もなかった。
いくらなんでもやりすぎだろう。まだ戦っている俺達ごと爆撃するなどと。

「死んでも避けろッ!」

聞いたこともない様なシュウの必死な声が響き渡り、俺たちはそれぞれ全力を以って爆撃を回避するなり防御するなりで対応する。
耳が潰れんばかりの爆音が戦場には響き渡り、一歩先の目の前にいた魔物が粉々に吹っ飛んでいく。運が悪ければこのミンチも自分自身。
確かにこの窮地をこじ開けるには強引な方法が必要かも知れないが、それでも一歩間違えれば言葉通り死だ。

鳴り止まない爆音とその度に舞い上がる土埃に耐えること数十秒。おそらくシルバーノアも大量の爆弾を吐きだして大分軽くなったであろう。
先ほどよりも微妙に軽くなったエンジン音を響かせながら銀の飛行船は俺達の傍に高度を下げ始めた。
そして乱暴に落とされるタラップに我先にと駆けだしていく仲間たち。この好機を逃せば、飛行船ごと撃ち落とされる。

「ほうれ、こっちじゃ、早くこんか! って、ぶべッ!!」
「入口にいたら邪魔だろうがッ! さっさと引っ込んでろ!」

相変わらずの切り込み隊長ぶりに飛行船の中へと飛び込んだトッシュが、呑気にタラップの入口から顔を出していたチョンガラを蹴り飛ばしていた。
正直なところこっちはヘトヘトだというのに、あの余裕そうな髭面を見せるのは結構クルものがある。簡単にいうとムカつく。
だがしかしそのまま蹴り落とされてヒキガエルの様に大地で大の字を作ったチョンガラは、ポコに肩を貸してもらいながら顔を抑えて飛行船の中へ入っていく。

「ほれ、次はお主らじゃ」

顎で中に入れとチョンガラに催促されれば、残っていたのは俺とエルクとミリルとジーン。
当然の如くミリルを先に押し込み、後は俺だとジーンがそそくさと乗り込んだ。
あとは俺とエルク。

「……行くぞ」
「……ああ」

短い、たった一言だったけれども、その中に込められたモノを俺は忘れはしない。
入口から俺に向けてくれたエルクの手をぎゅっと力強く握りしめ、そのまま彼らの下へと、シルバーノアへと乗り込んだ。
それと同時に浮上し、間抜けながらも嬉々とした声で上がるのはアークの言葉。

「逃げるぞッ!」

生き残りの魔物を眼下に納めつつ、徐々に高くなる目線を感じながら俺は生き延びたと実感した。
これから何をしようか。まずはシャンテに話をしなければ。エルクにもいろいろ弁明しなければならない。でも、これから時間はたっぷりある。
そんなことを死屍累々と皆が倒れ伏す作戦の会議室の一角で考える。

皆が笑顔のままに寝転がり、息を荒くしながらも完全な勝利に息を吐く。
俺も、同じように。
そしてよろける様に立ち上がり後ろを振り向けば、それはやってきた。



跳びあがる様にして立ち上がり俺の下へ走り寄ってくる二つの影。



片方は風の子。もう片方は炎の子。



そのやんちゃそうな顔は白い家で手を取り合った時と変わらず、そして無邪気で。



だがしかし少しだけ乱暴を覚えた彼らが差しだしたのは拳と足の裏だった。



徐々に俺の視界で大きくなる彼らの手と足。



なんだかよく見ればその間にも青のハイヒールが混ざっている。



そんな優しさの欠片もない様な、いや――――。



とにかく俺はくしゃくしゃに顔を歪めて笑う二人の想いの丈を受けて、盛大に吹き飛んだ。



確かな浮遊感の中で感じる実感。別に俺は被虐趣味でも何でもないのに。



遠くなる皆の笑い声を聞きながら、俺はなんとなく――――。



これもまた罰であり――――――――幸せでもあるのだと思いこむことにした。










「ただいま」










上手く言えただろうか?
言えたよな、多分。








                                                                              【end】



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