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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 蛇足IF第二部その19
Name: ぢくべく◆63129ae9 ID:265dcdd8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:04




身に滾る想いは、力は、既に頂点を越えていた。
ただ並びそして剣を握り込むだけで目の前で憤怒の表情を浮かべる化け物がただの木偶に見え、恐れも不安もどこか遠くへ飛んで行ってしまう。
適当な『台詞』を吐いてみれば、俺の背後からは咎めるとも呆れるとも言えない微妙な視線が飛んで来て、何だか恥ずかしくなって肩を顰めた。

『…………クドー……クドーオオオオオォ!!』

そんな感傷に浸った俺を、ただ醜くなった木偶の声が引き戻す。
さも望んでいた展開かのようにくぐもった声に憎しみと怒りと喜びを混ぜ、身体全体で複雑な感情を表すようにして腕を振るう。
攻撃というわけではなかったのか木偶の腕は天井にブチ当たり、元々足場もないほどに荒れた部屋に瓦礫をぶちまける。
こんな巨体が暴れたとなればこの崩壊した部屋の荒れようも分からんではないが、ひょっとしたらエルク達がそうしたのではないかという可能性がありそうで怖い。

エルク。
ミリル。
ジーン。

隣をちらりと横目で見れば、彼らは俺が隣にいるのが当然とばかりに胸を張ってくれていた。
誰ひとり俺の帰還を疑わず、拒まず、そしてそれを喜んでくれた。
最初に決めた目的が揺らいで俺は頭を強く降る。そのまま振り向かず口を開き、まずは彼女に断りを入れた。

「シャンテ。後で話がしたい。だから今は――――共に戦うことを許してくれ」
「バカ言ってないでさっさとアレを倒す方法を教えなさい。そのために来たんでしょ?」
「…………感謝する」

ああ。嗚呼。甘えてしまう。
その強く、優しい心に甘えそうになる。
何が正しくて何が間違っているのかがあやふやになる。
だからこそ早くこの戦いを終わらせ、そして話をすべきだと思った。

「とにかくアレを攻撃し続け、限りなくその再生スピードを弱まらせてくれ。そうすれば俺がなんとかする」

そんなことを皆に伝えれば、一言も返事は返ってこなかった。
崩壊の轟音が響く中で続いた沈黙はあまりにもこの場に似つかわしくなく、俺に突き刺さる視線の群れはあまり優しい類のものではなかった。
ブリキの玩具のようにギリギリと首を回し背後を見やれば、誰もが猜疑に満ちた瞳を浮かべていた。
どういうことだと隣のジーンに助けを乞う。彼はため息を突きながらこの扱いの真意を教えてくれた。

「お前、また相討ちとかそんな感じで死にそうだもの。ホント、それあり得ねーから」
「…………それは、悪かった」

しどろもどろになりながら返した言葉は、あまりにも情けなかった。
だがしかしそれほどまでに俺の死を拒んでくれるのであれば、拒んでくれる絆を感じさせてくれるのであれば、こちらこそが疑うべくもない。
その絆に従い、この身に猛る欲望に従い、何が何でも生き延びる。
どこかこの場に来るまで心の片隅に残していた可能性が、今この瞬間、影も形もなくなった。

「あのような木偶に命などやれん…………もう、命は棄てないさ」

出来るだけ、出来るだけの誠意を以って笑う。
歪んではいなかっただろうか。上手く笑えていただろうか、通じただろうか。
様々な不安を胸に抱きながら彼らの反応を待てば、返ってきたのは言葉でも視線でもなく行動。
その場に俺を取り残す形で、皆がガルアーノに向けて駆けだした。

――――信頼。これ以上ないほどの昂り。

確かに、俺はトドメを名乗り出た。
だがしかし耐えられそうもない。

「俺も混ざるぞッ!!」

共に闘いたい。
心のままに吼え、そして奔りだした。



目の前で戦いを繰り広げる勇者達の背中を見ながら、俺も可能な限りの援護を挟んでいく。
そう、どれだけ吼えて見せても俺の力はもはやあれに混ざる領域にはない。
あの巨体から繰り出される攻撃を、鋼の肉体を誇るイーガやグルガが力だけで押し返し、ただの剣と刀一本でトッシュやアークが両断していく。
知識の中にしかない、噂だけしか知らないその力の一端を垣間見れば、そこに俺が押し入ることなど出来ないと判断した。
だからといって後ろから何かが出来るのかとチマチマ魔法を唱えていたが、それもまた微妙な所。

「そりゃ! お嬢ちゃん、合わせるぞいッ!」
「任せて!」
「それじゃ、私も行くわよ!」

ゴーゲン、ミリル、そしてシャンテが唱えた氷の槍は、もはや津波と見紛うほどの透明な波濤となってガルアーノを飲み込んでいく。
全身をハリネズミのようにして無数の槍に串刺しになったその身体を、何処からともなく取り出したポコの大太鼓から発射されたレーザーが貫いた。
もはや意味が分からん。分からんが――――頼もしい。
そして連携が終わればミリルはすぐさま暴風雨のような戦いが繰り広げられる前へと飛び込んでいった。もはや隣で戦うことができなくなっているのは俺の様な気がする。

『クドオオオオオオオォォォォォォ!!!』

そんな攻撃を受けても尚、奴の目は俺を捉えていた。
度重なる勇者たちの攻撃によってその身体は再生と破壊を繰り返すだけの肉袋になっており、攻撃の手をだすことすら出来てはいない。
怒涛の攻撃の間に奴は負け犬の遠吠えのように声を上げ、そして俺を睨みつける。
そんなにも俺が憎いのか。

既に狙いを付けることすら出来ずにいたガルアーノの放った肉片の様なモノが、一つ、二つ、前衛の攻勢から漏れてこちらまで届いてくる。
ならば俺の役目は後衛を守るための刃。シャンテに当たりそうだったその闇を纏う肉片をナイフで切り飛ばし、そのまま彼女の目の前に躍り出た。
ひょっとしたら後ろから刺されるのでは、などと彼女の想いを無駄にした恐れを抱いたのは此処だけの話。相変わらず俺は――――。

「ありがとう」

ぶるりと震えた。

すぐさま頭を切り替え、目の前で両断され地に落ちた肉片に眼を向ける。
そこには未だ脈打つガルアーノの欠片がもぞもぞと蠢いており、それに手を付ければ身もだえするほど濃厚な闇の気配が手を伝って俺の全身へと行き渡る。
それは確かな感覚。この部屋に入るまでに感じていた違和感の正体。

「だっ、大丈夫!?」
「問題ない」

一度跳ねるようにしてビクリと震えた俺を心配したリーザが声を掛けてくれたが、この感覚こそが全ての逆転に、いや、トドメに繋がる感覚なのだ。
まったくもって自分が齎したツケの大きさにため息が出る。本来であればガルアーノなど歯牙にも掛けぬただの雑魚だったであろうに。

「アースクエイク! …………で、そろそろお主の作戦とやらも聞きたいところじゃが」

詠唱の隙間。絶え間なく前衛を援護しながらゴーゲンが目を向けずに声だけで聞いてくる。
そうすればポコもまたトランペットに口を付けたまま興味深そうにちらりと此方を窺ってくる。
その様はやはり違和感だらけのものであり――――俺は眼を逸らすことで耐えた。
この戦闘が始まってから何度「どうなっているのだ」と聞きたいと思ったことか。

「そもそもありとあらゆる存在をそのまま取り込むということは、だ」

答えると共に手にあったナイフをガルアーノに向けて投げつければ、それは前で戦うエルク達の合間を縫うようにしてグズグズの身体へと突き刺さった。
勿論あんな刃の浅いものでは攻撃とすら言えない行動だったが、そのナイフを良く見ればガルアーノの弱点も良く見える。

「あれは……」

シャンテが声をあげた先では、相変わらずガルアーノが袋叩きにされながらも先ほど突き刺さったナイフを肉の中に取り込んでいく。
それは何もかもを貪欲に吸収する故の能力。この期に及んで自分を守るための鎧を求める行為。あいつは、あらゆるものを貪欲に求め過ぎた。
そして一番重要な部分。

「奴の力の基となったのは俺の細胞だ」
「それは……なんとなく分かるけど」
「……お主、まさか」
「オ? ドウイウコトヂャ?」

事の真相に至ったのか、ゴーゲンはその萎まれた瞳を大きく見開きながら俺を見た。
彼の言いたいことは分かる。だがしかし先ほど言った通りに俺は死ぬつもりなど欠片もないのだ。
隣で喚くヂークベックのことを放っておいて、俺は覚悟を決めて一歩前へ出た。

「シャドウ。アヌビス。終わらせるぞ」
『待ってました!』
『御意』

俺はゴーゲンの二の句を言わせぬようにリーザとシャンテの足元より遣い魔を呼び出し、出て来た影をこの身に纏わせた。
久々に心の中に俺以外のナニカが混ざっているのが感じられ、それが懐かしくも鬱陶しくも思い眉を顰めた。
何よりも癪なのは、この魔物たちが嬉しくて仕方がないと思っていることだ。

こんな感情を押し付けられるとやはり俺は思う。
これ以上の誰かの心などいらないと。
つまりは――――ガルアーノの心などまっぴら御免だということだ。





◆◆◆◆◆





「おらぁ!!」

背後から放たれた無数の氷の槍によって棘だらけになったガルアーノに接敵し、エルクはその中の一本を蹴り飛ばしてより奥へと槍を突き刺した。
さらにそれを足場に空中に跳びあがり呪文を唱え、自ら炎を纏った剣を叩きつける。浅く入っただけの斬撃だったが、確かにそれは幾らかのガルアーノの命を奪い取った。
繊細さがない、少しばかり強引なエルクらしい攻撃にトッシュはヒュウ、と口笛を吹いて刀を抜いた。

「風も使わずに、よくやるよッ……!」

剣豪が放つ斬撃はもはや目に見えるようなものでもなく、ガルアーノが破れかぶれに放った触手ごと身体を切り裂いていく。
そんな芸当に魔法を使うことでしか追随出来ないジーンは悔しそうにぼやくが、彼もまた風を生みだしてガルアーノを八つ裂きにする。

もはやそこに苦戦の影はなく、少々喧嘩っ早い者達は互いが競うように我先へとガルアーノに攻撃を仕掛ける。
それもまた仲間が揃い、それを指揮するアークがいて、倒すことの出来る策を手に入れた空に他ならない。
いや――――もっと言えば失ったはずのものを取り戻したから。心の有り様一つで強くなれる人間だからのこと。

ジーンとエルクの動きは今までの絶望的な戦いを感じさせないほどに素早く、そして表情は嬉々としたものを浮かべていた。
目の前にいるのはこれほどに憎んだ宿敵であるというのに、その怨敵が目の前で生きていると言うのに、心を埋めるのは僅かな使命感と限りない喜び。
この存在を倒さなければ数多くの悲劇が広がってしまうと理解しているのに、心のどこかではこのまま戦っていたいという願いがあった。

「へっ……俺は欲張りなんだ」

そんな心の弱さに付け込んだ様な自らの願いに、ジーンは鼻で笑うようにしてチラリと後ろを見た。
そこには取り戻したクドーの姿があり、そしてこの戦いが終わればいくらでも――――。
しかしジーンの視界に映っていたのは、後衛に徹していたはずのクドーが触れるほどの距離にいた光景だった。

「うおっ……てめー脅かすな!」
「ガキのように助平なことばかり考えているからだ」

ただ自分だけミリルの姿に関して問い詰めたのがいけなかったのか、不敵な笑みを浮かべたクドーの表情にジーンは口ごもった。
あの服着せたのはお前だろ、とは言わなかった。

「つか、いいのかよっ!」
「ミリルも前に出ているんだ。引っ込んでられるか」

クドーの言葉にはね返る様にして前を見れば、エルクがミリルと連携を取りながら攻撃を仕掛け続けていた。
その様子は彼女がつい最近まで戦うことを拒んでいたようなものではなく、既に自分たちと肩を並べられるほどに戦えている。
炎と氷が踊る様にして戦場で渦を巻く。どこか神秘的な光景。誰よりもクドーが望んだ景色。

「いや、そういうことじゃなくてな」
「お前ももう飽きただろう? だからそろそろ終わらせようと、な」
「…………そんなに簡単なわけ?」
「驚くほどにな」

気軽に言い放つクドーにさすがのジーンも言い返せば、返ってきたのは不安を感じさせぬ――――久々に見るクドーの心の底からの笑顔だった。
そんな顔を見せられればジーンとて納得する他ない。そのままクドーの背中を右手で思いっきり叩けば、笑顔を返す様にしてジーンは叫んだ。

「そんじゃ行って来い! 前衛のみなさーんッ! 秘密兵器のご入場ですよぉッ!!!」

その声に勇者たちの攻撃はさらに苛烈さを増した。
真正面から駆け抜けるクドーの道を開ける様にしてガルアーノの苦し紛れの攻撃が次々に切りはらわれていく。
そして自分の横をクドーが通れば、その背中を見ながら想いを託す。この戦いを終わらせろと。

「任せたよ、クドー!」

氷の刃で触手を切り払いながら、ミリルは笑顔を差し向けた。

「少年ッ! 立ち止まるな!」

飛ばされた瓦礫を蹴り飛ばしながら、グルガは厳しい眼ながらも声を上げた。

「……行け」

ガルアーノの身体をマシンガンで穴だらけにしながら、シュウは言葉少なげにそこに強い意思を込めた。

「援護するぞ、クドー」

拳から放たれた気功波は道を作り、イーガは揺れぬ声でその背中を押した。

「うるぁッ! しくじるんじゃねぇぞ!」

遠くガルアーノから離れた間合いから斬撃を放ち、トッシュは荒々しい声を投げ掛けた。

奔る。一直線にガルアーノに向けてクドーは走り抜く。
目の前を阻む全てのものが仲間達によって取り除かれ、託された意思を背負いながらただ奔る。
もう目の前には背中を見せ、剣をガルアーノに振り上げたアークとエルクしかいない。

「クドー! 君にこの決着を託すッ!」
「やれるだろ!? お前ならッ!」

咆哮と共に二本の剣はガルアーノの頭部へと叩きこまれ、如実にその動きを鈍らせたガルアーノにクドーが右手を伸ばした。
アークとエルクの間に飛び込み、そのままの勢いで真っ黒の靄を纏った右手を奥まで突き刺した。
ずぐりと、鈍い音を立て、そしてガルアーノは狂ったようにして全身を走る衝撃に叫び声を上げた。

『ギ、ァ、グド、オォォォォォォ!!!!!!』

その咆哮を、暴れようと揺さぶる身体を、その怨嗟を受けながらクドーはただ決意のままにその手を今一度奥へとめり込ませる。
気味の悪い感覚と確かな決着の気配を感じ、クドーの口元に弧が描かれ、そしてどす黒い闇がガルアーノとクドーを巻き込んでいく。
それはアークが吹き飛ばされ、そして開戦の狼煙となったあの時と同じもの。

「クドー!」

その光景に誰もが叫び、そして息を呑んだ。
その黒の闇の先に薄らと見えたのは、まるでクドーとガルアーノが解け合うような――――。





◆◆◆◆◆





心の中にじわじわと何か拒絶すべきモノが侵食してくるような君の悪い不快感。
堰を切ったかのように数えきれない命の波がこの小さな身体に流れ込んでくるのはやはり許容量の限界に近いような危ない状況であり、これだけでガルアーノがどれほどの命を吸ったのかが理解出来、そして呆れた。
死ぬことを恐れて命を吸うのは俺もまだ同じだが、これと同等の量の魂を、力を求めるほどに俺は愚かではない。

黒一色で彩られたはず精神世界。
隣には俺と似た様な輪郭を持つアヌビスとシャドウが佇み、いつも通りだとも思えたが俺たちの足元には灰色の靄のようなものが漂っていた。
徐々に色が褪せていくようにも濃くなっているようにも見える灰色が示すのは、あまりに多くの命を吸い過ぎているために不安定になっていく俺の精神世界の表れか。
命だけでもこれほどに俺の心に影響するのだから、もしもガルアーノの溜めこんだ力や魂を取り込めば一瞬で心など壊れるだろう。

『なっ……何だ此処はッ……き、貴様は!?』

そしてそんな馬鹿な選択肢を選び、くだらない弱点を残した愚者が俺の目の前に唐突に人型のまま現れ、そして狼狽していた。
その弱い心を隠す様な強面の出で立ちと赤いサングラス。それを身に纏っても、既に目の前で慌てる男はただピエロにしか見えなかった。
隣で佇んでいたシャドウとアヌビスが堪え切れないと言わんばかりにクスクスと笑いだす。そこに含まれていたのは侮蔑と嘲笑に他ならなかった。

『な、何を笑っている! 貴様は、儂がッ……』
「知っているとも。ガルアーノ」

俺の口から出た声に、狼狽し続けていたガルアーノの動きが止まり、右往左往していた瞳がぎょろりと此方を捉えた。
憎しみと、驚きと、恐れと――――目で見えるものには限界がある。だがしかしこの世界で繋がる俺とガルアーノのソレのせいで、守るものを失くした奴の心なお見通しだった。
これほど望まれない心はないだろう。何が悲しくてこんな阿呆の心など。

『クドー……クドーだなッ!?』
「そう喚くな……鬱陶しい」

一歩、こちらを指出して喚き散らす髭面の方へ踏み込み、そのままこめかみを蹴り飛ばす。
赤いサングラスが砕けながらも宙を舞い、ガルアーノはぐるりと半回転した後に地面に叩きつけられた。
俺の蹴りに欠片も反応しなかったそれにも驚いたが、顔を歪めさせながらも向けて来た瞳が揺れに揺れていたことは俺の心に――――醜いモノ淀ませる。

『グ、ァ……何を、なに、を……』

この男は、最初から最後までどうしようもない存在だった。
目の前で這いつくばり、血ヘドを撒き散らしながらこちらを睨みつける男を見下ろす。
時期に口からは俺を罵倒するような口汚い言葉が漏れ始めたが、その中でもずっと瞳だけは震えていた。何一つ覚悟もない、意思なき瞳。

『儂の、究極の力はッ……』
「心を拒絶しながらその全てを取り込む様な真似が、罷り通るわけもないだろう」
『違う……儂の理論は、儂の真理はッ……』
「そうだな。確かにお前だけの真理だよ、それは」

心を消した存在と無機質なものばかりを食いつくして得た強大な力など、所詮ははりぼて。現実世界では無敵の力を得ても、心の中はスカスカのままだ。
故にこそガルアーノの吸収の中に強引に割り込んだ俺とガルアーノの間にこのような歪な空間が現れた。
どこまでも続く黒の世界は俺の。足元で淀む灰色はガルアーノの。もはやこの時点でどちらが優れているかなどと――――。

強烈な、どこまでも醜い感情にあてられた様な気がして、口元が弧を描いた。

俺とガルアーノの戦いなど、所詮野良犬の喧嘩に過ぎない。
弱い存在ともっと弱い存在が罵り合いながら噛みついているだけ。
外で行われた勇者達の戦いと比べれば、なんと低俗で、救い難い。

「どうだ? 見えるだろう? 心を拒絶したお前にも」
『何だ……ぁ……あ?』

口元を腕で拭ったガルアーノが唐突に崩れ落ち、焦点の合わない瞳で俺を見ていた。
説明を、求めていた。

「俺の心にお前が喰われているだけだ」

端的に真実に近いことを言ってやれば、ガルアーノは這いずりながら俺の方へと近寄ってくる。
もはやその様は長年因縁の敵として存在した気配など欠片もない。ただ命を求めて、死ぬことを恐れて縋る愚かな男。
もはや醜悪を通り越して無様とまで落ちたガルアーノの胸倉を掴み上げ、目の前にぶらさげればそれでも奴は俺の腕を掴んだ。

『ほ、欲しいものは何だッ……いいぞ、クドー。貴様の裏切りを許してやる。だ、だからッ』
「……………………」
『そうだ、更なる力が欲しいか!? いいぞ、先ほどのコピーキメラを使えばお前とて最強になれる! ふ、ふふふ……お前は優秀だからな……だから』

誰だこいつは。いや、これこそがガルアーノの本質なのか。
心だけが力となって存在するこの空間では、どのような究極の肉体も意味を為さない。
そんなことが分かっていたとはいえ、これほどの変容を目の前にされるとさすがに俺も苛立った。

あれほど俺に貴様は憎しみを向けていたのではないのか。
同調し、その感情が俺に流れ込むほどに復讐の刃を研いでいたのではないのか。
そんな失望に近い考えが頭を過れば、その考えを俺は自分自身で否定した。



この男は、どこまでいって『己』しか見ていない。
俺への復讐も地に堕ちた自分の価値観を取り戻すための言い訳にしか過ぎない。
俺から全てを取り上げられた故に恐れを為した自分の弱い心を隠しただけ。



それに気付けば――――頬が凶悪なまでに釣り上がる。
そうすれば隣の二人もゲラゲラと狂ったように笑い始めた。黒の空間にその下卑た笑い声を響かせ続けた。
ああ、なんともこの光景は甘美にして、そして何よりも唾棄すべき下らぬもの。ならガルアーノと俺の感情が細胞というファクターがありつつもあれほどリンクしたのは道理なのだろう。

俺は、この男を、エルク達を苦しめ続けたこの男を――――いたぶり続けてやりたい。
これ以上ない苦痛の中で殺してやりたい。
その全てを奪い、そして捨て去ってやりたい。

「お前が溜めこんだ命を僅かでも頂こうか。今日でキメラプロジェクトは潰える。だがしかしキメラである俺には少々難しいものがあるからな」
『つ、潰える!? だ、駄目だ……いや……儂が、儂がいれば……』
「儂が……?」

下手に出ていた気持ちの悪い表情が一変し、顔を青くさせながらパクパクと金魚のように言葉を残すガルアーノ。
だがしかしこの期に及んで自らの存在を優先させるその弱い心に苛立ち、俺は躊躇することなく――――。

『グァッ……!!』

腹部を貫いた俺の手にはガルアーノのどす黒い血が伝わり、ピチャリピチャリと音を立てながら黒の世界に波紋を広げて行く。もはや先ほどの灰色の靄など影も形もない。
じわりと赤が濃くなったガルアーノのスーツと、苦しそうに息を吐くことすら出来なくなったガルアーノの不規則な呼吸がいやに響く。
ピチャリ、ピチャリ。また俺の足元にはこの世で最も愚かな男の血溜まりを作っていく。
笑みが、漏れた。

「キメラ…………魔物、魔族…………ロマリア…………暗黒の支配者ぁ…………?」
『ゲ、ふッ……た、ズけ……あ、が…………』
「ハハハ……ハハハハハハハハハッ!!」

魔物風情が命をねだり、図々しくもエルク達の前に立ちはだかる。
この世を覆う悪は絶対の敵? 勇者達の宿敵であり世界に仇名す者? 罪なき人を傷つける諸悪の根源?
愚か、愚か、愚かなり。その認識が、真理が、全てが間違っている。

振って湧いて出た勝手な不幸に泣き喚いたこともあった。
俺をあの白い家に閉じ込めたキメラプロジェクトを憎んだこともあった。
ガルアーノをこの手で殺してやりたいと思ったことは数えきれない。
だがしかし、この愚かな存在がなければ俺はエルクたちに出会えなかった。

「ハハハハハッ……聞こえるかガルアーノッ!!」
『ァ、ゲ……グド、ォ……死に、ダクな、い、イィぃ……』
「貴様らは、貴様らは……」

ならばこの終焉の時であっても、この崩れた木偶には言わなければならない!
始まりの悲劇を起こした愚かな存在に言わなければならない!
今エルクと共に戦うことの出来る時間を作りだしてくれる全ての存在に叩きつけてやらねばならない!





「貴様らは、実に、実に都合のいい――――玩具であったッ!!!」





身体中を駆け抜ける高揚感がさらに沸騰し、ドロドロのマグマとなったように熱を持つ。
その衝撃に耐えきれず天高く叫べば、それと同調したかのようにして俺の餌二つも狂ったように嗤い続けた。
この世に蔓延る魔物達は、巨悪と謳われる存在は、俺にとっての嗜好品と変わらない。

「勇者達と出会い、関わり、戦い、そして共にいる。その全てに貴様らが単なる付属品として蠢くだけで、俺は実に良き縁を紡ぐことが出来た……感謝するッ!」
『…………ァ…………』
「だがしかし悲しいかな。俺と勇者たちが生きるこの世界に、もはや彼らと共に戦うと誓った俺に貴様らのような出来の悪い嗜好品など必要ない」

ガクンガクンと人形のように反応の無くなったガルアーノを揺らし、その都度吹き出る血が黒の世界を彩る。
もはやこの男の表情が何を映しているのかも分からない。いや、理解する必要もないか。こいつら魔物は、人間を愉しませるだけの存在でいい。そして愉しめなくなれば、死ねばいい。
さあ、ゴミのように棄ててやろう。無残に踏みつぶしてやろう。

『……………………グ、ドォ……………………』

最後の言葉だ。最後まで実に精いっぱい遊んでくれた玩具への命令。
ゴボゴボと血を吐きだしながら絶望の表情に彩られた魔物を真正面から睨みつける。自然と手に入る力は強まった。
万感の思いを込めて口を開けば、俺の顔は壮絶な笑みに満たされていた。
――――ただ一つ。お前達の役目など、存在意義など、その宿命など!









「俺のために死ねッ!!!!!」










玩具の残滓すらなく完全に消え去り、俺と俺にひれ伏す存在しかいなくなった世界。
血溜まりの中心でずっと嗤い続けた。








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