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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 蛇足IF第二部その16
Name: ぢくべく◆63129ae9 ID:265dcdd8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:04




さすがに十人もの数の人間がキメラ蠢く研究所の中心部を目指し進む様は壮観だった。
時折彼らを排しようとキメラ兵の群れが現れるが、斬り込み隊長と化したエルクとトッシュとジーンの刃だけでも十二分に切り捨てられていく。
背後を詰めるイーガとグルガ、シュウの殿部も心強く、奇襲を受ける可能性をことごとく叩きつぶし、後顧の憂いなど欠片も感じさせない。
繰り返し重ねる戦闘の疲れもシャンテやリーザ、そしてポコの癒しの力で解消されていく。
そこへ砲台となったゴーゲンの大魔法が援護として降り注ぐのであればもはやこのチームは――――。

さすがに狭苦しい通路で10人前後の人間が戦列を作るのは難しいところであったが、もはや彼らを止めることのできる存在などいるわけもなかった。
道中に現れる敵の中にも制御装置が壊され暴走状態となったコピーキメラの姿があるが、他よりも格段に強化されたものでもまるで足止めにさえならない。
トッシュやエルクなどは出来の悪い自分のコピーを見る度に、眉を顰めながら我先にと剣を振り上げていた。
挑発ということであればコピーキメラも役立っているとは言えるのだろう。

「おい、魔物」
『何だ?』
『何かね?』

そんな、ただでさえ数の多く連携が取れなくなる恐れがあるためにリーザとシャンテの影に潜んでいたシャドウとアヌビスに、先頭を歩いていたトッシュは振り向くことなく話しかけた。
幾分魔物が仲間ということで不機嫌な表情を隠すことなくいたトッシュだったのだが、リーザの剣幕に引いて渋々了解している。
さすがに自分を長く守ってくれているパンディットでさえもそういった扱いを受けるのであれば、リーザの語気にも力が入るというものだった。

「てめぇんとこの未来ってのはどこまで信用出来るんだ?」
『あんまでっけぇ声出すなよ。ガルアーノ当たりにばれたら事だぜ』
「あ?」
『気付きたまえよ、猪侍。そこら中に設置された監視カメラがこちらを向いている。無論話し声の全てが聞こえるわけではないだろうが』

気だるげにぐるりと首を回したトッシュの視界に映るのは、道の途中やら部屋の中まで鼠一匹見逃さないと設置された小型カメラ。壁に埋め込まれた様にして丸型のレンズがこちら側を向いていた。
無論そんなことにトッシュが気付かないわけもなかったが、こんなカメラなどここに突入した時からわかっている。今更な話なのである。

「ゴーゲンさん、気付いてた?」
「フォッフォッ。気付いておったぞ? プライバシーの侵害というやつじゃのう」

慌てたように隣を歩くゴーゲンの耳に声を掛けたリーザだったが、何でも無いように答える彼の呑気な声が響けば、誰もが何とも言えない脱力感に包まれた。
人の家に押し入ってプライバシーも何もないだろうに。そんなことを片眉を上げながら内心で呟いたシャンテだったが、そこでこの現状のおかしさに気が付いた。
しばし顎の下に手を置き、その違和感に答えを見つけるために思案する。案外答えは早く見つかった。

「シャンテ?」
「…………毎回懲りないやつね、ガルアーノは」

その様子をグルガがいぶかしめば、シャンテは怒りを通り越した呆れ顔のままため息を吐いた。
幾度もガルアーノの手に弄ばれ、彼の本質をこの中でも最も理解出来る彼女にとってはこの現状にも合点がいくものだった。
自分に剣を向ける者全てが集まりぞろぞろと移動しているというのに、一向にキメラは大勢力を向けてこないという現状に。
そして、そんなことにシュウは既に気が付いていた。

「遊ぶつもりなのだろう、ガルアーノは」
「…………懲りねーやつ」
「ホントに噂通りの男なんだね、ガルアーノって」

シュウの呟きにげんなりと首の後ろに両手をやって半眼を浮かべたジーンがぼそりと零し、話だけにしかガルアーノのことを聞いていなかったポコもまた顔を顰めた。
集団が向かう通路の先には相変わらずキメラ兵の気配はなく、何とはなしに後ろを振り向いたイーガの感覚にも、追撃を仕掛けようと追ってくる敵の気配はなかった。
そしてそれを認めれば、アヌビスとシャドウは違った方向に懸念を抱いた。未来という不確定要素を知らされている彼らだからこそのそれ。

『此処までは予定通りだ。面白くねェほどにな』
「どういうことだ?」

エルクの問いに答えたのはアヌビスだった。

『確かに此処の戦力は大したものがあるが、それでも今ここにいる我らを踏みつぶせるほどかと問われれば首を傾げざるを得ない質だ。既にコピーキメラも使い物にはならん』
「白い家でもそんな感じだったじゃない。ガルアーノってのは馬鹿なのよ」
『だが引き際を知らぬ馬鹿ではない。ここまで中心部に近づき、一人も失くさず我らは辿りついている』
『なのに奴からは余裕が消えてねェようにも思える。この期に及んで戦力を出し惜しみして、俺達を奥に誘い込んでいやがる』
「罠……ってこと?」
『…………わりィが先を無闇に知ってる俺らだと考えが鈍る。なんとも言えねェ』

どう考えてもシャドウとアヌビスが知る未来の知識の中のガルアーノには、今の自分達を排除できるカードなど持ってはいないのだ。
確かに機械キメラという誰にも知らされないはずの新戦力を有しているという事実もある。だがしかしクドーの遣い魔としてその計画に多かれ少なかれ触れていた彼らには、アレらがそこまで使えるものかと問われれば微妙な所だ。
確かに機械によって統率された兵は厄介だ、だが――――。

そんな考えを影に潜みながら頭に浮かべるシャドウとアヌビスだったが、どうあっても未来の知識が今となって邪魔になる。
そもそももはや敵する側となって側面からでしか現状を理解できないというのに、未来の知識などというあやふやなモノを使うにはあまりに無意味なものだった。
こういったものは敵側にクドーが所属していたから、魔手を伸ばす側にいたからこそ流れをコントロール出来た。
それでもクドーは幾度も流れが狂うことに恐れを抱き、勇者達の動きをコントロールするには細心の注意を払っていたが。

「おい……なんか開けたとこに着いたぞ」

それぞれが先のことを考えながら進めば、先頭のエルクが剣を引き抜きながら他の仲間に伝える。
彼らの先にあったのは全員が散らばっても十全に戦えるほど巨大な大広間。
もはやアリーナと言っても差し支えないほど広いその鉄の広場に、誰もが周りを警戒するように眺め回しながらその中心へと歩いていく。
光源は少なく、死角こそ少ないが暗がりの中はあまりに危険。シュウは即座に最後方に周り、当たりを隙なく警戒していた。

そして、大広間の中心に辿り着いたエルク達を照らす様にして一筋のスポットライトの光が降ってくる。
唐突な光に多くがまぶしさに視界を覆い、何事が起ったのだと戦闘の気配に晒された。
だが、光と共に降ってきたのは悪魔染みたような笑い声が混じった怨敵の声だった。

『久しいな、エルク。元気でいてくれて儂も嬉しいぞ』
「……ガルアーノ!」

沸騰したかのようにエルクの顔が怒りに染まり、その声の先を睨みつけるように叫んだ。
声が降ってくる先は、何もない天井。
またもや自分はどこかに隠れて嗤うつもりかとジーンは白い家での光景を浮かべながら歯を食いしばった。分かっていたと言うのに、この憎しみは消せない。
だが隣にいたシャンテに肩を叩かれ、ジーンは眼を丸くしてから浅く息を吐いた。自分は一人ではない。

「また後ろでこそこそと動くつもりか? ガルアーノ。随分とせせこましい男だな」
『クク……そう邪検にしてくれるな、シュウよ。本当は私自ら持て成してやりたいが、君らは儂の城に暴力で以って入りこんだ侵入者。いや、ネズミか』
「相変わらずべらべらと口だけ達者なのは変わらない様ね」
『それは君も一緒だろう? 条件次第ではもう一度儂の下で動くことも許されるぞ? シャンテ』
「お生憎様。器の小さい男の下で働くなんてまっぴらよ」

唾を吐き捨てる様な痛烈なシャンテの言葉に、スピーカーの向こう側にいたガルアーノの声がくぐもった。
器がどうだのと痛いところを突かれたのか、それでも次の瞬間には平静を装ったガルアーノの声は嘲るようなものに戻っていた。その取り繕うとする様も、随分と愚かなことであるとは気付かず。
グルガは初めて声を聞く敵ではあったが、因縁のある仲間達の言葉と合わさってガルアーノの本質を見抜き始めていた。

『まぁ、そんなことはどうでもいい。だが儂は君達の粗暴な侵入を許す。しかしある程度の代価は払ってもらいたいのだ』
「なんだ、面白くもなく命だとかほざきやがるのか? そりゃお前が払う代価だ」
『全く……エルク達だけならばもう少し面白いことにも出来たが、君達アーク一味の者が来るものだから急に予定を変えねばならぬことになったのだ。だが、その分VIP待遇を用意してある』

トッシュの悪態を気にせず、ガルアーノはスピーカー越しの向こう側で誰かに命令すると、その大広間の一角にまたしてもスポットライトの光が降り注いだ。
そしてそこの床が開き、ぞろぞろと出て来たのは揃えも揃えたり。

「コピー!?」

声を上げたのはリーザ。
構えを取った彼女らの前に戦列を組んで現れたのはイーガによって制御装置が壊され暴走したはずのコピーキメラであり、遭遇したことのあるコピーと比べるとその瞳に色は映っていなかった。
そして、魔物使いであり、心を交わすことの出来るリーザであるために気付くその異様な雰囲気。違和感。

「あ、れ……心が……え、何で……?」
「リーザ?」
『ははは。ホルンの魔女には気付けたのかな? これもまたキメラプロジェクトの一環だ』

一人残らずこの場にいる本物をコピーした数十体のコピーキメラは、声を発することなく本物達を即座に囲み始めた。
その動きには何一つ迷いがなく、まるでルーチンとして組み込まれた様に気味の悪い動きをしていた。
背中合わせになりその静かすぎる鏡合わせの敵に構えを取ったエルク達であったが、嫌な予感にその表情は聊か強張っていた。

「何かが、おかしい……」
「ポコ?」
「命の気配が……でも……」

ポコの呟きにジーンが問いかければ、そこでゲラゲラとノイズの入った笑い声を上げたのはガルアーノだった。
緊張した面持ちを浮かべる勇者たちの様子に、悪戯が成功したとはしゃぐような醜い笑い声。
今すぐ向かって打ち倒してやりたい感情に苛まれる勇者たちだったが、目の前に不気味なほど静かに佇むコピーキメラたちがそれを許さなかった。

『殺しはせん。所詮データを取らせてもらうだけだ。死兵どものな』
「死兵だと……!?」
『ククッ……まあ、じっくりと味わってくれたまえ!』

ガルアーノの弾けたような声に、一斉に数十体の物言わぬ道具たちは襲いかかった。





◆◆◆◆◆





ミリルとヂークベックと共に長い通路を駆け抜ける。その最中にソレは俺の覚えのない感覚に引っ掛かった。
その場に急停止し、頭の隅、その奥の奥に薄らと感じさせる違和感に視線を彷徨わせる。
そうすれば先へ行きかけていた二人も何事かと俺の方を振り向いた。

「クドー?」
「ナニヲヤットルンヂャ」

二人の声もどこか遠く、全ての感覚が違和感の正体を捉えようと研ぎ澄まされていく。
この感覚に俺はまるで覚えがない。だがしかし常に俺と共にあったような記憶を捏造するほどに、この気配は程良く濃い。
なんだ、これは。こんな感覚など俺は知らない。なのに何故これほど――――。
頭を強く振ってその違和感を消そうとする。しかし不思議そうに俺を見つめる二人を視界に入れて尚、その気配は俺に取りつこうとする。

――――同調している?

覚えのない気配を、俺はそんな風に理解した。理解させられていた。
俺の知らない研究所のどこかで、俺と同調するようなナニカが蠢いている様な気がする。
俺の不死能力にガルアーノが眼を付けた――――細胞? コピー? 血を分けた兄弟?
まさか、そんな馬鹿なと自分の頭に過った言葉の羅列を消していく。だがこの気配はあまりにも異常過ぎる。

「ねぇ! クドー!」
「…………すまん。少し静かにしてくれ」
「えっ、あ……うん」

顔を顰めたミリルを手だけで制止し、通路の横の壁、その向こう側から這い寄る気配を透視するかのように睨みつける。
脳髄の、血の、細胞の、身体全体を粟立たせる様なその感覚に耐えながら、それの正体を見破ろうとする。
出来ぬわけがない。この気配があちらから漂うものであれば、俺がそれを出来ぬ道理などないのだ。

もしもこれが俺の予想通りなのならば。

俺の知識の外で、ガルアーノが持ち得る戦力の可能性とはどこまでいく?
機械? 一つの可能性に最も近いもの。だがしかしその可能性を匂わせていたのならば勇者たちが躓くことはなく、そしてここまでの気配になるわけもない。
俺のコピー? まさか。こんな素体のコピーを作っても出来あがるのはさらに弱くなったただのサンドバックだ。壁にはなれど牙にはならない。
俺の能力を何かに移した? もっとも現実的だ。不死能力だけを考えるのならば、これほど有用なものはない。だがそう簡単なものでは――――。

そこまで思考を巡らせて、通路の途中で止まった俺たちの向こう側から、見た様な姿をした影が走り込んできた。
それは俺の懸念していた一つの、つまりは勇者たちのコピーであり、その姿は炎の子のものであり。そして何だか制御を失ったかのように奔り方も歪だ。
しかしそんな姿を俺の瞳が捉えれば、先ほどの思考など蹴り飛ばして心のままに手に持ったナイフを振り上げた。

「おおおッ!!」

咆哮と共にエルクの姿をしたそいつの首元に深くナイフを突き刺す。
噴水のようにして血を通路中の壁にブチまけながら、糸が切れた人形のようにしてがくりと項垂れ倒れ込んだ。
驚いたようにして声を失っているミリルと、変わらないヂークベック。
誰が何と言おうとも、この存在は許さない。恐らくはガルアーノ以上に。

「それ……」
「偽物だ」
「やっ、ぱり、だよね……うん、偽物」

例え偽物だとしても見てくれがエルクだったために多少なりともショックを受けたのか、ミリルがそれから眼を逸らす様にして呟いた。
俺は、本物と偽物を間違えない。決して何が起ころうとも、全ての要素を以って真と偽を判断出来る。

しかし、勇者たちのコピー。
今でこそ簡単に殺すことが出来たが、確かコピーが持つ問題とはオリジナルよりも幾分か劣化する、ただそれだけだった気がする。
ならば例え劣化したとしても、その基がアークやトッシュといった強者であれば。
そうなるとこの嫌な気配はこのコピー達のことを言っているのだろうか。

「…………そんな単純な話では」
「もうっ! 何があったのかは分かんないけど急がなくちゃ!」
「……そうだな」

急かすミリルの言は正論であり、ここで悩んでも仕方がない。
どうも俺達は他の皆よりも大分遅れているらしく、幾分ガルアーノに見つからないルートを通りながらカメラを処理して動かざるを得ないと言えども、この遅れは致命的になる。
ならば急がねばと走りかければ、今度は通路の横の部屋から恐る恐る出てくるような、研究員の姿。

「きっ、貴様は!」

俺達と眼が合い、そのまま逃げるのか戦うのか迷うようにして声を上げた研究員に、隣のミリルが油断なく短剣を投げようとしていた。
だがしかし、俺はその動きを手で止め、静かに決意する。
悪いがどこの誰かは知らんが、その命を――――情報を貰うぞ。

この意味不明な感覚に関する情報を、もしかしたら研究員に属するキメラであればある程度持ち合わせているかもしれない。
ミリルの前でそれを見せるのは少々心地の良いものではないが、それをしなければならないほど俺はこの感覚に危機感を抱いている。

何故この気配は、感覚は、これほど俺の心の中に『憎しみ』を流しこんでくるのだ?
この憎しみは一体、誰のものなのだ?
ならば何故、俺とこんなに――――。

「ミリル、ヂーク……先に行ってくれ。やることが出来た」

この感覚は、危険すぎる。





◆◆◆◆◆





「はははは!! 見ろ、あの勇者どもの顔が苦痛に歪む様をッ! うん? そうか、やはりそれでも力が足りないか……だがいい、実に良いぞ!」

作戦室の椅子に座りながら手をバチバチと叩いて喜ぶ男を、ハンターは茫然としたまま見ていた。
そして無意識にその様子から眼を逸らす様にモニターへ顔を向ければ、そこには死兵と戦う勇者の姿があった。
一人一人囲まれないように互いにフォローし合いながらも上手く戦えているが、それ以上に相手が悪すぎた。

斬り飛ばされ、燃やされ、氷塊で貫かれてもなお立ち上がるコピーキメラ達。
千切れかけたところから、斬り飛ばされた所から、まるでスライムの様にして傷口が再生し、ゾンビのようにまた立ち上がる。
今モニターに映った忍び装束の男がその崩れかけたコピーキメラと接敵すれば、コピーが選んだのは防御でも何でもなく、そのグズグズの身体で攻撃を選んだ。
死兵。ガルアーノはそう言った。

「あれは……」
「ガハハハハハッ!! うん? ……なんだ、詳しい話を聞きたいのか?」
「出来れば」

今にも自慢したいのだと、胸を張りたいのだと醜悪な笑みを浮かべたサングラスの男はその声に嬉々としたものを乗せていた。
見た目中年のそれにも見える姿の男が、子供のようにはしゃぎ笑う様子にハンターは一歩後ずさったが、ここでモニターの先で起こっていることを流すことは出来ない。
勇者達が戦うその光景に、ハンターは人知れず拳を強く握りしめていた。

「憎い、実に憎いゴミが残していった結果だよ、あれは」
「…………ゴミ?」
「キメラプロジェクトにおいて儂は常に力を求めてきた。配合胎児。異能合体。そして最終的には機械魔獣へと。それもある目的への足がかりにすぎんが」
「…………」

詳細を問い質したい言葉は幾つもあったが、ハンターは敢えてそれには触れずガルアーノに言葉の先を促した。

「だが早々にこのプロジェクトに儂は見切りを付けていたのだ。確かにキメラは強くあるが……少々貪欲過ぎた」
「…………」
「力を持ち増長するキメラ。自己を抑制出来ず暴走するモノ。人間の欲によって強化されたのは実に有用な発見だったが、やはりそれでも安定性には欠ける」

懐にあった葉巻を取り出し、火を付けたガルアーノは懐かしそうにその歴史を語っていく。
まるでそれは自分に酔っているようで――――真実ハンターの眼にはガルアーノが酔っているようにも思えた。

「儂の命令が聞けん兵などいらん。故に儂は機械という命令しか受け付けない方向へと手を出していたのだが……一つの可能性を見出した」
「可能性?」
「愚かなゴミが示した可能性、だ。奴の愚かさが儂の目的に光明を見出せさせたのはこれ以上ない屈辱だったが」

そこでようやくガルアーノは顔を憎々しげに歪め、虚空を睨みつけたまま咥えている葉巻を噛み潰した。
果たしてそこに込められた憎しみはどれほどのものか。
ゴツゴツとした悪趣味な指輪がはめられた手は固く拳を形作り、やがて落ち着きを取り戻したガルアーノは――――狂ったように肩を震えさせ始めた。



――――クドーの裏切りは、ガルアーノにとっての転機であった。



果たしてクドーとガルアーノの関係とはいかなるものだったのろうか。
クドーが心の奥で裏切りを画策し、常にガルアーノに侮蔑の眼を向けていたことはその裏切りの瞬間までガルアーノは気付かなかった。
周りの兵達もクドーが見せる完璧な忠誠は疑うところもなく、たかがプロトタイプのキメラが向けられる期待を考えれば嫉妬を向けられるのも道理だろう。

それほどに、ガルアーノにとってクドーとは信用出来る駒で、道具だったのだ。

故にクドーを通して見られる『力の一端』は、実に本来の流れを変えながらガルアーノの理解を捻じ曲げていく。
キメラ兵の貪欲過ぎるその不安定な有様から命令に忠実な機械キメラへと方向転換しようとしたプロジェクトも、クドーという存在がそれを押しとどめる。
例えキメラであっても、真に忠実を向ける存在があるのだと。

「キ、キハハハハハァ……ッ!!」
「…………?」

元々のスペックが低いながらも不死能力だけでありとあらゆる任務達成して信頼を勝ち取るクドーの存在は、ガルアーノの意識を改革させるには十分だった。
調整が難しく他から供給する手間があり、さらに言えばそれは量産することも難しく、とどめに元々のスペックを高めることも容易ではない。
だがしかし、死なないということはそれ以上の有用性がある。

それは当然の話であり、そうともなればプロジェクトの方向もとうとう全く別の方向へ向かいだした。
不死能力と機械キメラを共用することはほぼ不可能であり、魔の込められた肉体ならばともかく、機械を再生させるような技術はない。
――――機神とも呼ばれる存在を分析出来ればまた可能性もあるのだが、その時点でロマリアがそれを知るわけもなく。

「ゲギャギャギャギャギャ!!!!」
「…………」

だんだんと不死能力を突きつめることにシフトし始めたキメラプロジェクト。
その闇の研究はどこまでも残酷に進み続け、貪欲に力を求め続ける。
命令に忠実で、無限に再生出来、そしてスペックも高い一級品。全ての優良な要素を金揃えた最強のキメラ兵。
クドーという存在が齎したその流れは、最悪の形となって実現していき――――そして、その全てがクドーの裏切りという行いでひっくり返された。

ガルアーノとクドーの間にお涙頂戴の友情などあるわけもない。
例えその間にガルアーノから一方的な信頼と信用があったにせよ、それでも根底にあるのは道具と主の関係だ。
だがしかし権力を求め、力を求め、貪欲に全てを求めたガルアーノをクドーが裏切るそれは、ナニカを狂わせるには十分だった。



今、ガルアーノは死んだはずのクドーに復讐する為に動いている。



そのサングラス奥の濁った眼が見ているのはクドーの残滓だった。
モニターの先にはエルクが、ジーンが、そしてクドーが望みを託したその仲間たちがいる。
その者達をクドーが齎したキメラによって痛めつける。それこそがガルアーノの前で消えていったクドーへの復讐。いかにも満足げに全てを成し遂げ勝ち逃げしていったクドーへの復讐。

「ク、ククク……見ているか、クドー……」
「ッ……!」

虚空に手を伸ばし、見えない人影を握りつぶすようにしてガルアーノは笑う。
彼の目的の最終段階。それはクドーが守った全てを彼と同じ不死の人形として自らの道具とすること。
小物故に、囚われる。器が小さいからこそ、過ぎ去った裏切りに囚われガルアーノはそれに執着する。

「おい……次だ。やれ」
「ハッ」

勇者達をコピーすることによって本来のスペックを高め、其処に不死能力を加え『心を完全に殺す』ことで実験段階ながらも完成した不死キメラだったが、それでも本物たちの攻勢には耐えきれない。
未だ不死能力が完璧でないために、一人、また一人と不死キメラは消えていき、モニターには既に少なくなったキメラが本物の勇者達によって切り捨てられている。

そしてガルアーノは復讐に色をつけるために、傍にいた研究員に一つの命令を下した。
それは先ほどのコピーと比べればあまりにもお粗末で、戦力としてはもはや期待できないただの使い捨ての駒に過ぎない。
だがしかしガルアーノが愉悦を――――いや、復讐心を滾らせるには重要なことだった。

「あれは…………っ」

ハンターの視線の先に映る惨劇は、勇者達とってあってはならないことだった。
大広間に現れ再び彼らを囲むのは、包帯に包まれた――――。

「まだだッ……まだだぞクドー! 貴様の守った全てを儂は奪い取るぞッ!!!」

ガルアーノは、正しく狂気に濡れていた。







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