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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 蛇足IF第二部その12
Name: ぢくべく◆3115d816 ID:265dcdd8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:03

露わになった胸の傷跡や右腕に包帯を巻き直しながら水の神殿最奥で待つミリル達の下に戻れば、返ってくるのは様々な色をした視線だった。
たかが三人六対の瞳だけが向けられているだけだというのに、そこの込められた感情はあまりにも多く、それだけでも彼女らが戸惑っているのが理解出来た。
そしてその感情には多くの不安と恐れが溢れていたこともまた。

一歩、一歩近づくたびに彼らの表情が露わになっていき、その視線だけでなく表情すらも俺の視界は捉え始める。
わざとらしいほどに感情を抑えた機械のように佇むヂークベック。なるべく感情を見せぬように眼を閉じ口を真一文字にしたままの水の精霊。
そして、痛ましいような眼を伏せながら祈る様に重ねられた両手が震えていたミリル。

どいつもこいつも、優しい奴だった。

いっそのこと化け物と罵られる方が楽だというのに、誰も彼もが殺戮の意味を測ろうと悩み、苦しみ、そして理解しようとしてくれている。
ミリルなど未だ本格的に戦ったこともない様な生娘で、血がぶちまけられる様すら見たこともないような人間だろうに。
それでも必死に、必死に震えを抑えてこちらを心配そうに見つめる様に、真正面からこちらを見据えてくれる彼女の強さに救われた。

「…………」

こつり、と足を鳴らしながらその場でじっと腕を組み、黙りこんだ水の精霊を見やる。
沈黙、静寂。何一つ言葉を連ねようとしない水の精霊の心中など俺には分からない。
そう。分かるわけもないのだ。

3000年。人と精霊の関係。『今』の世界。
そのどれもこれもが俺の両手が届く範囲にある問題ではなく、そして手を伸ばすつもりもない問題である。
そもそも高次元の存在が胸に秘める感情など、思考など、たかが30年も生きていない中身ただの人間が理解出来るわけもない。

俺達人間は、俺は――――いつだって自分の在り方を押し付けることしか出来ない。
それが歯痒くもあり、そして誇るべき意地だった。
力そのものに善悪などあるわけもなく、そしてそれを行使する人間でさえも善悪で分けられる存在ではない。
俺は、静かに口を開いた。

「水の精霊よ」
「…………何だい?」
「淀みで塗りつぶされた眼では、黒か白かも見切れんだろう。綺麗な眼では白の影しか映らんだろう」

はっとしたかのように顔を上げた水の精霊の瞳を捉え、じっと、見る。
その瞳は悲しみにくれており、それだけでも自分の考えがどこか腐っているような気がして嫌な感情に囚われた。
だがしかしそんなもの、俺には何の関係もないものだった。

「長くを生きた精霊に言葉を連ねようとは思わん。だからこそ俺は戦う。戦って証明し続ける。それを見て後は貴方が決めればいい」
「…………」
「キメラを望んだ者も、勇者となって世界を救う者も、誰かのために涙を流す者も、俺も、人間だろう」

ぐっと拳を握り、もはや人間の力を超越した感覚を思いながら、それきり俺は口を閉じた。
後は言った通りだ。精霊自身が勝手に悩み、勝手に覚悟し、勝手に決めればいい。
人間と精霊が共に生きた歴史もあっただろうが、だとしても同じ領域に生きる存在ではない。
彼らには彼らの考えがあり、人間には人間の考えがある。

ごぼりと水泡に包まれていたミリルの周りに泡が浮き、そのままゆっくりと地に落ちたかと思えば、彼女の周りから水泡が消えていった。
突然下ろされたことに驚いていたミリルだったが、その後に手を開閉させていたりぺたぺたと自分の身体を触っているあたり、おそらく治癒が終わったのだろう。
生気、ということではないが、なんとなく彼女の身体から力強い気配がしているような気がした。

「あ、あの……」
「大丈夫。ちゃんと力が使えるようになっているはずさ」
「あ、有難うございます……って、そういうことじゃなくて」
「クドー」

礼を言いつつも話の焦点はそこではないと言わんがばかりに喰ってかかったミリルを無視するようにして、水の精霊はこちら側に眼を向けた。
そうすればミリルもまた戸惑った様にこちらを向き、そして悲しそうな顔をしたまま俺と水の精霊を見比べた。

「少しだけ、君のことを見守らせてもらってもいいだろうか」
「好きにしろ。だが聖櫃の作成は押し通らせてもらうぞ」
「ふふふ……まぁ、もう少し悩ませてくれ」
「…………好きにしろ」

苦笑するかのように一つ頷いた水の精霊を一瞥し、そして戸惑っていたミリルと視線を合わせる。
もはやこの地に残る意味もないだろう。
先ほど追い払ったキメラ達が余計な援軍を率いてやってくるとも限らない。無論リーダー格を殺したから問題はないと思うのだが。

「行くぞ、ミリル」
「えっ……ちょ、っと……あ、あの」
「ヂーク。お前もだ」
「オォ」

ぞろぞろと逃げ去る様にして水の神殿を後にする俺達を、水の精霊はずっと見ていた様な気がした。





◆◆◆◆◆





水の神殿からエルザークへと戻る帰り道。
三人が一列に並んでずんずん進むその道程において、誰ひとり言葉を発しようとはしなかった。
先頭のクドーは周りを警戒しながら黙って歩き、その後ろに続くミリルは何かを考えているのかしきりに首を振ったり息を吐いたりして離れないようにクドーを追う。
ヂークベックは後方で時折周りの景色を眺めながらぽつぽつとツマランと零していた。

行きの時とはあまりにも雰囲気の違うその三人。
水の神殿に向かう時はミリルが周りの景色に一喜一憂してみたり、軽口をヂークベックと叩きあっていたりと随分騒がしいはずだったというのに。
無論その状況の原因が自分にあるのだということをクドーは理解していた。

だがしかしあれは早いうちに誰かの眼に知られなければならないことだったのだ。
自分が戦う方法は決してまっとうなものではなく、そしてそれを行使することに自分は何一つ躊躇しないのだと。
共に闘うことになれば遅かれ早かれ『血溜まりのクドー』の戦い方は眼についてしまう。
そしてクドーが考える限りでは、ミリルは最も仲間の中で戦いに程遠い人間であり――――。

(早まったか)

ちらりとクドーが後ろを見やれば、ミリルは彼の視線に気付くことなくあれこれと頭を回して考え事ばかりに耽っていた。
それを見たクドーのため息にすら気付かず、ずっと彼女はこの調子なのである。
そしてそんな彼女以上に、クドーは不安に駆られて心臓をバクバクと鳴らし続けていた。

あんな様を見せて、拒絶されたらどうするべきだろうか。
彼女は自分を認めてくれるのだろうか。
自分を化け物と罵るのだろうか――――。

ミリルという人間の性格を知り、そんな暴言を吐くわけがないと確信していながらも、クドーの胸中からそんな不安は消えない。
何せ彼が生きる理由は何よりもエルクやジーンといった人間と繋いだそれ。もしもそれが崩れ去るようなことになれば、眼もあてられないことになる。
だがそれを恐れて自分の醜悪なものを隠し続けるのはこれ以上ない友への裏切りだった。

故に、クドーは晒した。



と、聞こえは覚悟を示した勇士のようにも見えるのだが。



最後方でそんな二人の様子を見ていたヂークベックからすればため息を――――息を吐くことは出来ずとも呆れの音色を残した反応を示していた。
彼にしたら鼻があればほじりたかったし、口があったのなら唾を吐きたかった。

何せ先頭を歩くクドーの反応があまりにも情けない。

ミリルがため息を吐けばびくりと肩を震わせて歩みが淀み、ちらちらと後ろを確認しようとする動きは無言の行軍が続けば続くほど頻度が増えている。
しまいには敵も出ていないのに胸元のナイフを慌ただしくいじり始め、今までそれを武器に戦ってきた彼がそれをお手玉して砂地に落した時は酷いものだった。
もう、ビビりっぱなしである。

ヂークベックは自分の身体の中に入れられたメモリーの中に、彼に対する多くの情報を持ち得ていた。
勿論彼が未来を知り、これからの自分達の行動に大きくその知識が左右されることを考えてのヴィルマーの調整だったのだが、それ以上に彼を語る人間が多かった。

トウヴィルにヴィルマーと共に移動し、そしてその地の守りとして神殿の中にいたヂークベックであるが、そんな彼に頻りに話しかける者がいた。
それはジーンであり、そしてミリルであり――――。
当時は戦いの中に入れなかったミリルが話を合わせられるのはヂークベックだけであったし、エルクやアーク達が各国に散らばった後も話し相手として幾度も言葉を交わしている。
ジーンにとっては親が直したロボットであったし、彼の性格に合うような人間も中々に少ない。自然と話を合わせるのは時間の問題だった。

そして、誰か大切な者を失ったものは、往々にして失った人間のことを話す。

そうやって積み重なった『クドー』という個体に関する情報は、そのままヂークベックの興味へと繋がっていった。
例えその人格はヴィルマーを基にしたものであったとしても、きちんと学習し記憶できる人格AIである。
もはやオーバーテクノロジー染みたものだったが、基が古代の機械神ジークベックとなればどうとでもなる。

そしてそんなヂークベックから見れば、このクドーという男の不安定さは見たこともないものであり。
この世の根源を形成する水の精霊に不遜な物言いを向けたと思えば、ただ一人の少女に肩を竦めて怯え始め、しまいにはそれを後悔したような様子さえ見せる。
――――一体何がしたいのか。
良くも悪くもその時その時の即物的な欲求に忠実な機械らしくない性格のヂークベックからすれば、違う意味で謎の人物に見えているのだった。



そしてビクビクする先頭のミイラ男と、考え込む踊り子美少女と、呆れたポンコツロボットが為した列は既にエルザークに眼と鼻の位置まで辿りついていた。
相変わらず最低限の会話を交わして歩き続けたままで。



足を取られる砂場と相まって重くなる一方だったクドーの歩みがようやく止まり、眼の前にあるエルザークの街を視界に入れて彼はため息をついた。
彼にとってはこの行軍が何よりも、今までの戦いの時すらふっ飛ばすほどに長く感じられ、もはやミイラだというのに喉の渇きを感じて止まなかった。
無意識に胃の辺りを撫で始め、「着いたぞ」の四文字を言うために覚悟を決めようと大きく息を吐く。

クドーの脳裏に浮かぶのは東アルディアの地でエルクとジーンと敵対した光景。
あの時はありったけの殺意と敵意を向けられたと言うのに、今この瞬間は、その敵意に似た失意を向けられることをこんなにも恐れている。
死ぬことを望んでいた者と、今生きることを望んでいるものが感じる心がこれほども違うものかと彼は内心で驚いていた。

だがしかし言わねばならぬ。
今世紀最大の覚悟を示して後ろを振り向いたクドーだったのだが、その先で考え事をしているだろうと当たりをつけていたミリルが、まっすぐな瞳でクドーを見ていた。
どこか、何かを決意したようにぎゅっと拳を握り、そのまま羽織っていた外套を脱ぎ飛ばすと、意気揚々とした表情で呪文を唱え始めた。

「凍てつく氷牙よ! 全てを穿てっ!」

エルクやジーンの呪と似通った詠唱を紡ぎ、その両手を誰もいない砂漠の中心に向けてみれば、乾いた砂の大地に透明な氷霧が現れ始めた。
そして次の瞬間、砂地から巨大な氷塊が槍となって次々に天を穿ち始め、家一軒ほどを飲み込むほどの巨大な氷の針地獄のオブジェがそこには出来あがっていた。
放った当人も、それをぽかんと見ていたクドー達も知らぬことなのだが、『クリスタルダスト』と呼ばれるそれは彼女の異能しか扱えぬ力の一端だった。

「ふぅ……疲れるなぁ」

氷の槍が飛び出た衝撃で水の羽衣を靡かせ、その場で膝に手を突きながら呟いたミリルは、苦笑いをしながらクドーを見つめた。
対してクドーは何が起こったのか、何をしたいのかがさっぱり理解出来ず、頭の上に疑問符を浮かべたまま固まっていた。

「あのね、クドー」
「え、あ、ああ……」

そんなクドーなどお構いなしに話しかけるミリルの声に意識を引き戻され、彼らしくないしどろもどろな返事をするクドー。
しかしミリルはマイペースに自分の決意を言葉にしていた。

「私、強くなるから」

それは、今一度心に決めたミリルの願いを叶えるために。
クドーからすればその言葉もまた動きが固まるには十分な宣言であり、その言葉の先に込められたミリルの願いを理解出来なかった。
氷の針地獄が残した氷霧が風に流れ、砂漠の真ん中で立ちつくす彼らを囲むようにしてキラキラと日光を反射させながら降り続いていた。

「クドーは、ああやって戦ってきたんでしょ?」
「…………ああ」
「だったら、あんなことをしないで済むよう、私も強くなるから」
「……ッ」

そう言って、ミリルは満面の笑顔をクドーに向けた。
その誓いは何よりも貴いもので、常に守り、奪う側にいたクドーにとってはあまりに不慣れな言葉であり、ひょっとしたらどこかで願っていたものだった。
クドーはその響きに少しだけ揺らぎ、無意識に歯を食いしばった。何かを耐えていた。

「でもね、今の私は全然弱くて、皆の足手纏いで」
「あぁ……」
「それで、多分私だけでも足りないかもしれない」

その笑顔を曇らせ、少しだけ言葉を詰まらせたミリルがその戸惑いを振り落とすように首を振る。
金糸の髪は程良く揺れ、そして再び浮かべた表情は守られる少女のそれではなく、決意によって変わった勇者のそれで――――クドーの友だった。

「皆で、あなたの隣に立つから。一緒に立ち向かうから」
「…………」
「友達だもんね」

言外にエルクとジーンのことも表し、それが揺るぎない友情が為せるものだと確信させるミリルの言葉は、もはやクドーの理性の外にあるものだった。
震える様にして眼を、水の神殿で吹き飛ばし再生した右の手で隠し、そのまま肩を震わせる。
心配したミリルが顔を覗きこもうとしたが、それを制止し、しばしクドーはその感情に浸っていた。

泣くのか。
嗚咽を上げるのか。
みっともなく泣き喚くのか。

ぼそり。クドーは呟く。
聞こえないように小さな小さな声で。

「ありがとう」

そう呟いて手を眼から離したクドーの顔に、既に影は残っていなかった。
きょとんとしたミリルに、心の底から笑顔を向ける。
そして万感の思いを込めて口を開けば。

「お前に会えて、よかった」

その声が風の吹く砂の大地にぽとりと落とされ、ミリルとクドーの間では間抜けな間が空き、そして次の瞬間にミリルの顔がトマトのように真っ赤に変わっていく。
例え友達の境界を知っていても、その中に自分達がいるのだと分かっていても、少々その言葉は刺激的過ぎた。

そしてそんな二人の様子を見ながら、蚊帳の外にされていたヂークベックはつまらなそうに吐き捨てる。

「ヘンナヤツヂャノォ」

それでも、その声の中に薄らと含まれた嬉々とした感情は隠せていなかった。





◆◆◆◆◆





所変わって再びエルザークの街にある商店街。
初めて此処に来た時と同じようにして物品を見て回る三人だったが、その表情に浮かべるものは来た当初とは比べ物にならないほどに明るい物だった。
無論クドーなどは常に無表情を心がけてはいたのだが、時おりだらしなく弧を描く口元を隠すことは出来ずにいた。

「しかし、本当にいいのか?」
「もー、何回も言わせないでってば」
「だが……おい、ヂーク……お前も」
「カホゴハキラワレルゾ」
「ぐっ」

にべもないヂークの物言いに論破されたクドーは、武具屋の前で新品の短剣を手に持ったミリルを見ながら唸っていた。
対してミリルは不格好ながらも一度二度短剣を振ったりして、武具屋の店主であろう男に慌てて止められている。
えへへと頭を掻くミリルだったが、店主の顔は本気で青ざめていた。

というのも結局彼らがやっているのは武器選びである。
そもそもこの地に来た目的がミリルの力を手に入れるための旅ならば、手に持つ武器を決めるのも当たり前だと主張するのはミリル。
勿論その主張も正しいと言えば正しいのだが、クドーがそれに二つ返事で答えるわけもなく、うだうだと理由を付けては眉を顰めていた。

「戦うのはいいが、何も刃物など」
「ダメ! 隣で戦いたいって言ったでしょ?」
「いや、前衛なら俺達が務めるからお前は……」
「強くなるから!」

懇願するかのようにクドーの外套を握りしめ、上目使いでそう乞われればクドーは困ったように言葉を呑み、そして隣のヂークに助けを求める。
そしてヂークは人間味のある反応で両手をあげながら諦めろと言った風に首を振っていた。

しかしミリルとて考えなしに短剣などを選んだわけではない。
そもそも氷の異能を使った魔法ならば感覚的にどうにかできるが、身体を使って戦うのならば話は別。
それを習う必要があり、そうなれば彼女が実際に見たことがあるのはクドーの戦い方だけだった。
無論相討ち覚悟の戦い方ではなく、ナイフを自由自在に使うその戦い方である。

「それにリーザも短剣を投げたりして戦うんでしょ? 努力したって言ってたよ?」
「いやな、ミリル。それには時間がだな……」
「ナントカナルゾ」
「何っ!?」

圧倒的にその戦い方を習得できる時間が足りない、などともっともらしいこと言って諦めさせようとしたクドーだったのだが、思わぬ敵の増援に声を荒げた。
何でもない風に言うヂークベックだったのだが、そんなことが出来るなどと――――そこまで喉に出かかってクドーはその言葉を飲み込んだ。
まさか、そんな、卑怯な。唖然とした表情のままヂークベックを指差せば、無敵のロボットはボディの部分をパカリと開けながら何かを取り出した。

「『ガクシュウソウチ』ヂャ!」
「学習装置?」

ミリルがヂークベックの取り出した腕輪のようなものを手に取りながら聞き返したが、クドーはその効果をなんとなく予想出来ていた。
そんな予想など外れてほしいと思っていたのだが。

「コレガアレバスグツヨクナレルゾ?」
「ホントに!? どうやって?」
「シラン。ヴィルマーニキケ」

肝心な所を説明しようとしないヂークベックにクドーはついこめかみに青筋を立てたが、そんなものはどうでもいいと言わんばかりに彼はミリルの手首にそれを装着させる。
見た目は銀色で青色の線が入っただけの腕輪だったが、その腕輪の一部にはどう考えても不釣り合いなチューリップの絵が描かれていた。
そこまで見れば、さすがにクドーと言えども天を仰ぐしかない。

「あれ? このチューリップの絵って」
「リアガカイタンヂャ。ナカナカカッコイイノォ」
「ふふふ。こういう時は可愛いって言うんだよ。でもなんだかやれる気がしてきた。頭も冴えてる気がする!」
「ソウヂャロウソウヂャロウ」

二人で盛り上がるミリルとヂークベックを余所に、クドーは記憶の中にある知識を掘り出しながら恨みがましい眼でその腕輪をじっと見ていた。
本来の――――灰色の画面の世界では、あの学習装置と言われるそれは他者にあの機神が蓄積した経験を与えるもので。
あれがあると戦闘に不慣れな者でも経験を瞬時に積ませられるヴィルマー特製の機械であり。



――――まぁ、簡単に言ってしまえば経験知配分システムであり――――。



本来の流れであればヤゴス島に設置されたあの機械はもっと大きくて持ち運びできるものではなかったのだが、何の因果か腕輪までも小型化され、唯一クドーがミリルの反論出来た時間的問題が解消されてしまったわけで。
腕輪を付けた手を陽光に翳し、それを眺めていたミリルはクドーの方を向き、胸を張りながら宣言した。

「お願いしますっ! 師匠!」
「…………あぁ……はい……うん」

およそこのアリバーシャに滞在することが出来る時間は最高でも二週間。
これだけでは基礎程度しかできないと考えていたクドーだったが、さすがにあんな訳の分からないアイテムを出されては力なくミリルに返事するだけが精いっぱいだった。
そしてその後にはっと気付く。

(経験値配分……ならヂークにも教えなければならんのか……!?)

ガルアーノとの決戦まであと僅か。

水の神殿近くにはキャンプが張られ、昼夜問わず特訓する三人組の姿が見られたと言う。
ちなみにその三人組は毎日特訓が終わると水の神殿の奥地に赴き、そして再び特訓に励むのだとか。
まるで疲れ知らずの馬車馬の如くといった風なのだが――――。

水の精霊の癒しの力は、随分と安っぽいことに使われていた。













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