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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 蛇足IF第二部その11
Name: ぢくべく◆3115d816 ID:265dcdd8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:03



水の神殿最奥。
表には大理石で作られたいかにも荘厳といった遺跡の名残が散らばってはいたが、実のところ水の精霊が身を顰めるこの最奥はそのような分かりやすい祭壇ではない。
ひと際大きな岩をくりぬかれた様に空洞が続き、そこを歩いていけばひんやりとした水の気配を感じさせている。
そして遠く聞こえる水流の音と眼に映える青色の光景が三人の視界に映った時、クドー達の眼の前には水の精霊が顕現していた。

まるで水晶の中に入り込んだかのように360°全てが透明な水に支配され、青色の水晶で作り上げられた足場や壁などには緊張の面持ちのミリルの姿やいつも通りのヂークベックの姿が鏡のように映し出される。
無論クドーも変わらず映しだされるが、やはり彼にとってはこういった神気の漂う空間は好めないものだった。

「お初にお目に掛かる、か?」
「噂は聞いているよ。クドー。そしてミリルにジークベック。よく来たね」

腕組みをしたままクドーがぶっきら棒に言い放てば、これまた光の精霊とは別ベクトルで高次元の存在を思わせる透き通った様な声が返ってくる。
光の精霊が跪きたくなるような荘厳な意思を感じさせるとなれば、この水の精霊は心の奥底に水滴が垂らされた様に静謐を感じさせる意思。
じっさいに話しているのに心の芯にテレパシーを使った様に届かせる優しげな声は、クドーの贔屓無しの眼で見ても『慈愛の精霊』と見られるに値する存在だった。

まるで水滴のような形にそのまま足と手を生やし、右手には曲がりくねった枯れ木の杖を持ち、首元にはサファイアの首飾りを掛けた水の精霊の姿。
光の精霊とは違い人型らしき影を全く思わせない、異形とも見えるだろうその姿にミリルは驚き、ヂークベックは興味無さそうにその声を聞いていた。
そんなヂークベックの様子を眺めながらクドーは少しばかり機神と精霊の過去に思いを馳せた。本来の人格を考えれば二人は顔見知りであるはずだったから。

「私たちのことを?」
「精霊なら何でも知ってる、って言いたいところだけどね。この世界を救うために動いている勇者たちのことは、私たちもきちんと見守っているよ」
「…………」
「クドー。分かってくれとは言わないけど、私たちにも定められたモノがある…………すまないね」
「いや、いい」

精霊の物言いにピクリと眉を動かしたクドーは、窘める様な声が水の精霊から飛ぶや否やため息をついて首を振った。
どこか光の精霊とのファーストコンタクトから神経質になり過ぎていたきらいがあったクドーだったが、ここではそれも奴当たりに過ぎない。
自分の短慮を咎めるようにしてそのまま一歩引き、もはや自分の口を挟む必要はないのだとミリルを先へ促した。

「精霊様、お願いがあります」
「力が欲しいんだね?」
「…………はい」

決意を秘めた瞳で真正面から水の精霊を見据えるミリル。
対して水の精霊もまた全てを悟っているかのように声質を落とし、その決意を問い質した。
クドーから見たその光景はとても自分では再現できそうもない尊い眺めで――――内心で揺るぎないミリルの意思を羨んだ。

「何のために、と聞いていいかい?」
「大切な人を守るために。これ以上悲劇を起こさせないために。私は…………皆の傍で戦いたい」

今一度、クドーとの出会いによって、友との縁によって固まった意思をミリルは取り繕うことなく打ち明けた。
ひょっとしたら最後に戸惑う様に付け足した理由こそがミリルの最も重い理由かもしれない。
独りでいることは、ミリルにはとても耐えきれることではなかったから。

「今更君の決意を疑うつもりはない。それでも力というのは本当に危険なものなんだ」
「はい……」
「誰かを生かし、誰かを殺し、誰かを守り、誰かを傷つける。水面に落された波紋は様々な事象を起こし、多くの咎を作り上げていく」
「…………」
「溺れてはいけない」

張り詰めた空気の中で落される水の精霊の言葉は何よりも現実味に満ちており、ずっと人の営みを見て来たそれの言葉は重かった。
だがそれでもミリルは視線を逸らすことなくまっすぐと水の精霊の言葉を受け入れ、一歩も引くことはない。
それほどの決意が彼女にはある。それを覚悟する縁がある。

「溺れそうになったら手を伸ばしなさい。救ってくれる人がいる。間違えそうになったら周りを見なさい――――今の君は、誰よりも幸福に満ちている」
「……はいっ!」
「うん。いい返事だ」

その会話を、やりとりをクドーは少しばかり呆けたように眺めていた。
満面の笑みで返事をするミリルと、それに慈愛の表情を浮かべる水の精霊はまるで親子のようで――――そこで無理やりにクドーは思考を閉じた。

兎にも角にも話は決まったようで、水の精霊は一度大きく手に持った杖を振るうと、ミリルの身体は徐々に水泡のようなものに包まれ始めた。
何をするものかとクドーが一歩踏み出すが、水の精霊に安心させる様な視線を投げ掛けられて足を止めた。
水泡に包まれて宙を漂うミリルはその蒼の巫女服と相まってか幻想的な姿になっており、水の中にいるというのに苦しそうにすることなく両手を上下させてはその感覚に感じ入っているようだった。

「ミリル? 大丈夫か?」
「うん……何だか、優しい感じ」
「心配しなくても大丈夫だよ。少しだけ私の力で彼女の身体を癒すだけさ――――それにしても」

どうやらこの水泡がミリルの身体を癒してくれるらしく、それに包まれたミリルも怯えているわけでもなく自然とこの神秘を受け入れていた。
そして、それを心配そうに見守るクドーに向けて、唐突に水の精霊が視線を向け。

「よく……彼女を救ってくれたね、クドー」
「…………勝手にやったことだ」

あまりに唐突に向けられた感謝の念にクドーは返すべき言葉を失い、悪態をつく以外に自分の動揺を隠す方法が思いつかなかった。





◆◆◆◆◆





取り合えず本来の目的は達成できたとクドーが咳払いをすれば、やがて伏せていた視線を上げて水の精霊と向き合った。
確かにこの旅の目的はミリルの身体の治癒ではあったが、クドー本人としては精霊の一人として話しておきたいことも少なかれ胸に秘めていた。
つまりは聖櫃に関することのような。

「水の精霊よ」
「聖櫃、だね?」
「理解していただきたい。そもそも俺はこの世に聖櫃を二つ残せと言っているわけではない。いずれ壊れるために二つ目を作ってくれということに他ならない」
「…………」

この世の結末すらも自らのために変えようとするクドーからすれば、二つ目の聖櫃の製作はどうあっても精霊達に認めてもらわなければならない要素だった。
先のことを持ち得ている未来の知識で見据えることなどもはや不可能ではあるが、それでも彼はアンデルが聖櫃を壊すことを確信していた。
光の精霊に説明した通り、それを残すメリットなどロマリアにとっては多くないのだ。

そんなクドーの考えなど知らずにいたミリルはただ二人の会話に首を傾げ、それでもその間に漂う真剣な雰囲気は理解出来ていた。
そしてその会話にピクリと誰にも気付かれない程度に反応を示したのはヂークベック。しかしその反応などすぐに消え失せ、あとはただの物置のようにそこに立っていた。

「君はもう一つの封印の方法も知っているんだね?」
「ヨシュアとの約束を破りたくはない」
「……そうか」

すなわちそれは聖母と勇者の命を代償に為される封印術。
後の世界に聖櫃という劇薬にも良薬にも成り得るものを残すことなく、人間二人という少ない犠牲でなされる封印は精霊から見れば――――。
どちらが正しいのかなど簡単に定義出来るものではないが、クドーからすればそれは回避しなくてはならない方法だった。

「ねぇ、クドー。私達がどのような想いであの聖櫃を作り上げたのか分かるかい?」
「憧れ、いや好意か? …………俺からすれば、よくお前らは人を見限らずにこの世に残っていると感心するよ」
「そうだ。この地は荒れ果て、もはや私のことなど民達は忘れてしまったが、それでも私は人間を愛していた。人という存在が、好きだった」

3000年よりもっと長く。
精霊という存在からすれば人間のそれよりは短く感じる時間であっても、彼らは人間を好いていたに違いなかった。
だからこそさらなる発展を願い聖櫃を齎し、そして人間の欲望を見誤った。一人の強欲な人間の王を見誤ってしまった。

「最初は、我々の短慮だったのかもしれない。世界を見守る立場でありながら人を愛し、渡してはならない物を作り上げてしまった。だからこそ私たちは今回の争乱の中で動こうとしている」
「前提にはお前達がこの世界に顕現出来なくなるからという事実もあるだろうに」
「それは否定しない。これ以上暗黒の支配者に世界を壊されては私達も生きていけなくなる。でもね、それは今に始まったことじゃない」
「…………」
「君なら分かるはずだ。人間達がもはや精霊の恵みなど忘れかけ、その感謝と共存を捨て去り、その心は負の感情に塗れていると」

水の精霊の身体が揺れ、優しげだったその声に少しだけ熱が籠った。
確かな怒りにして、どこかやるせなせを感じさせる精霊の疲れたような声。それを聞けば、話の大本を知らないミリルでさえもその意味を理解出来た。
二人の会話の間に混ざろうと口を開きかけ、何をどう言っていいのか分からず再び口を噤む。

この世界の現状を見れば精霊達が人間を信用しきれないのも道理だった。
機械という精霊の力に囚われない科学が波及し始め、これからどんどん精霊は人々に忘れ去られているだろう。
暗黒の支配者という要素はそれを加速させただけであり、この争乱がなくとも人々は欲に塗れることは変わらない。むしろ今この世に生きる人間の欲望が、魔族達に隙を見せたと言っても過言ではない。

「果たして3000年前の聖櫃が始まりだったのか、我々の一度の間違いが引き金だったのか私は図りかねている。本当にそれが無ければ精霊と人は共に生きることができたのかと」
「…………」
「今の人は――――救うに値するのかと」

そしてゆっくりと、残酷に、精霊の言葉が紡がれた。
まるで金槌で頭を殴られたような衝撃がミリルに奔り、それに反論すらせず黙りこくったクドーを彼女は縋るようにして見やる。
苦しくなる様な静寂が神殿の中に行きわたり、やがて耐えきれなくなったミリルが弾かれた様に口を開いた。

「そ、そんなっ……私たちは……」
「ミリル。君は見たはずだ、あのキメラを。欲に駆られ悪意に堕ちたあの『人間』を」
「あの人はロマリアによって無理やりにッ……」
「君は知らないだけだ。確かに君のように望まれず攫われた人もいるだろう。でもね、それ以上に多いんだよ。自分から新たな力を、地位を得ようとする人間が」

窘める様に、優しげに。それでも水の精霊の口から語られた真実はミリルにとってこれ以上ない厳しい現実だった。
良くも悪くも世界を知らず、狭い視野でいる彼女にとってそれはあまりに許容できることではなく、自分に降りかかった不幸を思えば何故そんなことをと認めることが出来なかった。

「この世界は、負の力が溢れすぎている」 

そんな有様をクドーは腕を組んだままじっと聞いていただけだった。
水の精霊の言い分は難しい所で理解出来、そして簡単な所で理解出来ない話であった。
人間の愚かさはミリルより少しばかり長く生きている彼にとっては反論出来ない事であったが、この世界で元々生きていたわけではない彼にとっては、精霊がさもこの世界が自分達の物であるかのように話すのも気に入らなかった。
それが嘘だとしても、真実だとしても。

「…………」
「クドー。君の考えを聞かせてもらいたい」

そしてそんな感情を表に出さずして心に秘めたクドーに、水の精霊は問いかけた。
この世で最も人間の真理に近いかもしれない可能性を秘め、光の精霊にもう一人の人間王と呼ばれたこのちぐはぐな男に。
しかししばしの沈黙が続いた後に、クドーが口を開くよりも先にこの場の4人が感付いたのは外からにじり寄る魔物の気配だった。

「精霊様っ……もしかしてこれ」
「また懲りずに来たようだね」
「…………赤い影。それにミリルが戦ったというキメラ兵。この地はまだロマリアに狙われているのか?」
「サリュ族を失った私にロマリアが眼を付けるのは道理だろう。といっても毎回追い返しているのに毎度飽きない連中だけどね」

慌てたように声を荒げたミリルに水の精霊は心底呆れたようにしてため息をついた。
クドーの言うように商人が零した情報は真実であったが、果たしてどのような命令を受けてこのような僻地まで敵わない攻勢をかけているのかはさすがに不明である。
いくら力の弱まった精霊とはいえ、たかがキメラ兵がここに攻め込めるはずもない。
そんな疑問に駆られたクドーは、先ほどの水の精霊の質問に答えることなく黙って踵を返した。

「クドー?」
「戦ってくる」
「え……一人じゃ無理だよ!」
「アレ、ワシ、ワスレラレトル?」

必死にクドーの歩みを止めようと叫ぶミリルに、クドーは一度その足を止め、濁りも透き通りもしない漆黒の瞳でミリルの向こう側にいる水の精霊を見つめた。
その隣で可哀そうなことに忘れられたヂークベックを視界に入れることなく口を開く。

「精霊よ、戦いを見ておけ。出来れば、ミリルも」
「…………?」
「ヂークベック。お前は此処に残り、ミリルを守れ。いいな?」
「ヂャヨネ。ワスレラレテナイヨネ? デモミセバガヤッパリナイノォ」

そのままヂークベックの愚痴を耳に入れることもなく外套を翻しながらクドーは一人慌てることなく戦場へと戻っていく。
未だ水泡の中で癒しの途中であったミリルのその背中を見送ることしかできず、ただただ祈る様にして両手を握りしめるだけだった。
だがしかしミリルの感じる恐怖は、クドーが再び失われることへの恐怖ではなかった。

忘れてはいけない。
彼は、キメラであり、不死の化け物であり――――そして。

血溜まりと呼ばれた悪鬼なのだ。





◆◆◆◆◆





静謐な雰囲気漂う水の神殿を後にすれば、まずは眩いばかりの日光と暑さが肌を焼き、そして第六感とも言える感覚が魔物の下卑た気配を捉えていた。
這い出て来た神殿の入口を囲むようにして魔物達が群れを為し、ひと際大きい気配を辿る様にそちらを向けば、赤い影があった。

背中には身を覆うほど大きい漆黒の翼を持ち、その出で立ちは魔物というよりは前世で知り得る東洋の鬼を思わせる異形のそれ。
勿論前世などでそういった類が存在するわけもなく、ただ空想の中にあるだけのものだったが、この世界ではそれが現実だ。
本当に今更の話である。

「ほゥ……どうやら偵察兵の一体が仕留められたとあって部下を連れて来たが、倒したのはお前か?」
「自分で判断すればいい」
「ククッ。そのはねっ返り……調子に乗った人間にはありがちな反応だ。だがしかしおかしいな……貴様、本当に人間か?」
「二度も繰り返すつもりはない」

そんな言葉を吐いてみれば、周りにいる魔物達もゲラゲラと癇に障るような笑い声を上げ始めた。
一体どこからかき集めたというのか。
商人の情報通りというわけではなく土の魔人に剣を持ったファイターやニンジャ系列の魔物など、どう考えても野生の魔物が群れを為した集団ではなく、何かしらの目的のために集められた様相である。

しかもその『命の影』をよく見てみれば、どれもこれも混じり物。ただ一人俺に声を掛けた赤い鬼――――すなわちアークデーモンは混じりっ気なしの魔物だったが、ひと際強いというものではない。
アークデーモンと言えば魔物の中でも地位の高い、ともすれば魔族と捉えられる類の上級魔物であるが、そうなればこんな僻地で無意味に水の精霊に喧嘩を売るのは何故か。

――――左遷か?
適当に言葉を連ねて釣ってみる

「出来そこないか」
「…………何だと?」
「もはやサリュ族のいなくなったこの地にわざわざロマリアの尖兵が無意味な増援を送るわけもあるまい。よく見れば統率も取れていないキメラの群れ」
「……貴様」
「何だ、お前。もしや水の精霊討伐の恩賞でロマリアに食い込もうとする落ちこぼれか?」

口元に拳を置き、罵倒するようにして軽く、ほんの軽く笑って見せる。
そうした瞬間に四方八方から殺意が飛んでくるのは同時だった。
何とも分かりやすい奴らであり、所詮キメラに身を堕とした愚図共である。

「ああ、いい、いい。どうせ俺の障害にもならない敗残兵など相手にもならん。見逃してやるから砂漠の奥地ででもひっそりと生きろ」
「き、貴様ッ……」
「金が必要か? なら、ほら」

そういって懐にあった宝石の一つを山なりに投げれば、綺麗な放物線を描きながら陽光に照らされた宝石はアークデーモンの阿修羅の如く歪んだ顔へとぶつかった。
満ちる怒りに避けることすらしなかったのか、コツンと小気味良い音を立てて砂地に落ちたその宝石を、奴は怒りのままに踏みつけた。
チョンガラの店でちょろまかした宝石だと言うのに。後で彼に謝っておこう。

兎にも角にも、まるで抑えの効かなくなった猿の様にしてキメラの群れは飛びかかってきた。
それぞれ手に持った斧を、剣を、拳を掲げ、殺す以外の選択肢を考えることなく一斉に襲いかかってくるその光景を、俺はなんとも高揚した感情のまま眺めていた。

「オオオオオォァアアアァッ!!!」

キメラ合体のお陰で言語を操ることに不具合はないはずだというのに、先ほどゲラゲラ笑っていたはずのファイターが意味不明な雄叫びと共に手斧を振り下ろした。
その背後にはまだニンジャやら土の魔人やらが続いており、先ほどの魔物と比べれば腐っても強化されたキメラだということを思わせる。
例え怒りに身を任せていても人間の知恵が混ざった魔物。野生のそれと比べれば一段も二段も違う存在。

俺も、また。

「ゲッ……」

その場で独楽のように回転しながら袈裟切りに繰り出してきた斬撃をかわし、そのまま回転の要領でファイターの側頭部に抜き放っていたナイフを叩きこむ。
衝撃にブンと揺れた頭にぐるりと濁った眼が白を剥き、ごぼごぼと血と泡を倒れ伏すファイターの身体を蹴り飛ばしながら次に備える。
真正面、土の魔人。そしていつのまにか移動していたニンジャの一人が、右方上空。

「死ねええぇぇぇッ!!!」

咆哮と共にニンジャは小刀を振りかざし俺の背中目がけて切っ先を突き立ててくる。
だがしかしそれは無視。
眼の前から泥の拳を放ってくる土の魔人へ一歩近づき、その腕と交差するように拳からナイフを入れ、そのまま魔人の顔まで切り裂いていく。
徐々に近づく魔人の顔が怒りから唖然に変わり、そしてピリピリと身体が裂けていくに連れて恐怖に変わる様――――傑作だった。

ジワリと口元が弧を描き、大きく眼を剥いて嗤いそうになるを堪えながらそのまま土の魔人の命を終わらせる。
そうすればニンジャの剣閃は揺れることなく俺の背中を捉え、そのまま深々と胸まで貫いた。

「ギャハハハハッ!! 調子にっ……あ?」

駄目だ、嗤うな、嗤ってはいけない。
俺の身体におぶさったまま狂気に嗤い続けた背後のニンジャを、首だけをぐるりと回して視界に入れる。
忍び装束に覆われた故に眼だけが開けたその顔が恐怖に染まり、濁った眼と俺の眼が合っていた。
もはや関節など関係ないというかのように無理やりにニンジャの顔を鷲掴みにし、刺さったままの小刀など気にするわけもなくこの獲物を引っぺがした。

「なっ……おま、お前……な」
「…………」

無理くりに剥がしたためか、刺さったままの小刀が肉を抉り、包帯がパラパラと切られながら盛大に血をぶちまけた。
だがしかし何の問題もない。何一つ問題はない。
恐慌状態に陥ったニンジャを眼の前に吊り上げ、そのまま素手で頭をねじり切りながら分解する。
まだ足りない。もっと凄惨に、もっと残酷に。まだ、獲物は残っている。

先ほどまで烈火のごとく怒り狂っていたキメラ達の足がぴたりと止まり、何か化け物を見たかのようにその顔を青ざめさせていた。
何を今更。俺とお前らは同じではないかと言ってやりたかった。
だがしかしそんな自己満足の言葉よりも今は殺戮を――――力を。

「ヒッ……」

見るからに腰が引けていたフルメイルのキメラ、バーバリアンに駆け寄れば、まるで命乞いをするかのようにその両手を前に出すのが見えた。
阿呆か、こいつは。『何かを殺すために、支配する為だけに生まれた存在』が、それ以外の道を選ぶことなど許されない。
フルメイルのために表情など分かるわけもないが、先ほど殺したニンジャの血がべっとりとついた右腕で顔面を突けば、兜がバラバラになりながらもその先が見えた。
実にキメラな、醜悪な顔だ。

そこでようやく背中の小刀を抜き放ち、もはや言葉さえ失ったアークデーモンにその切っ先を向ける。
他のキメラなどもはや戦意が喪失したのか散り散りになりながら逃げ惑い、残ったのは俺とこの赤い影だけだった。

無言で近寄る。
言葉を使うことなくキメラがただ歩く。
そうすれば口を開くのは魔物だった。

「お、す、凄いな貴様は! どうだ? こちら側に来ないか? そうすればっ」
「…………」
「クソッ、何だ貴様は!? 話しを……くっ」

刃が届くか否かの距離。
言葉を連ねる意味の無さを理解したのか、アークデーモンは一気にその翼を羽ばたかせて空へと上がろうとした。
だがしかしそんなもの俺が逃す理があるわけもなく。
持っていた小刀を投げつけ、奴の漆黒の翼に大きな穴を開けてやれば、叩き落された蠅のようにして砂の大地に落ちていった。

「ギッ……グ、ァ……」

踏みつぶされた人間のような苦悶の声を上げながら這いつくばるアークデーモンを蹴り上げ、そのまま先ほどのニンジャのようにして眼の前に吊り上げる。
もはやアークデーモンの顔に浮かぶのは恐怖でも何でもなく、ただ懇願するかのようにしてへりくだる弱者そのものだった。
そして――――それを見ると――――魔物という存在ががこうも――――。

「た、のむ……た、すけ、て……」
「ククッ…………ハハハハハハハッッ!!!」

嗤う。嗤う。嗤う。腹の底からこらえることなく全力で嗤う。
そしてそのまま犠牲者となった者を持つ手に命の力を凝縮させていく。
喰らいに喰らった、闇の光も混じり合った命の力。
そしてようやく恐怖に染め上げられた鬼の顔に獰猛な笑みを見せつけながら、俺は呪を呟いた。

「リベレイション」

その瞬間、俺の右腕がけたたましい爆音を鳴らしながらどす黒い半球体を作り上げていき、その中心にいた俺とアークデーモンは命の奔流に包まれていく。
もはや悲鳴にならない叫び声と俺の嗤い声が混ざり合い、この地に響くのは趣味の悪い――――歌? さあ、何だろうか。

そして作り上げられた半球体が飛び散ると同時にアークデーモンの身体は弾け飛び、俺の右腕もまた肘から先が粉々になり、そして血が吹き出始めた。
しかし俺の身体にとっては何の心配もない常のこと。
グネグネと傷口が蠢きながら再生を開始し、背中から胸を貫いたその傷ごと既に治癒を終わらせていた。

『リベレイション』などと大仰な名を付けては見たが、ただの自爆に過ぎない。
自らの、いや、喰らい続けた命を代価に与えられる威力は推して測るべし。
まぁ、これもまた血溜まりの所以か?

兎にも角にもとうに慣れてしまった血溜まりの中心で俺は虚空に眼をやった。





見ているか、水の精霊。





俺はこの力でもののついでに世界を救うぞ。
大切な誰かを守るぞ。
敵を殺すぞ。





忌避された闇の力で、光の世界を取り戻すぞ。






















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