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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 蛇足IF第二部その10
Name: ぢくべく◆3115d816 ID:6c9a428b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:02


アリバーシャという国は本来砂に埋もれるような大陸ではなく、千年も前は緑と豊富な水源で知られる自然溢れる大陸であったという。
しかしそれがこのような砂漠の国に変わってしまったのは、商店街でミリルに解説したあの『動力石』による乱獲のせいである。
あの石がどのようにして自然に影響したのかは俺とて分からないが、人の手が入り込んだおかげで自然が消えていく様はこの世界だけの話でもない。つまりは、前世の。
分かることと言えば何処の世界の人間も限度を知らず貪欲であるということだろう。

「まぁ、考えても仕方がないか……」
「? どうしたの?」

エルザークから水の神殿まで続く道をミリルとヂークベックと共に進んでいけば、俺の独り言にミリルが反応していた。
なんでもないと視線を前に戻せば、殺風景な岩場と砂場の中心に蜃気楼を纏いながら浮かびあがる崩壊した遺跡。
今でこそ魔物とはち合わせることなく此処まで辿り着いたが、そろそろ戦闘の準備をしなければならないだろう。

ちなみであるが完全な砂漠大陸のアララトスと違い、未だ水の精霊の力が残っているのか緑の少ないながらも道の途中に木々が生えてあったりと、砂漠と言うよりは荒地と言った方が正しいのがアリバーシャである。
それ故に砂に塗れつつも人の通った道が薄らと残っており、このおかげで大真面目に砂漠を渡るための準備に奔走するようなことはなかった。
今でも水の神殿に向かう誰かが残っているのか。それとも一年も前に滅ぼされたサリュ族の足跡が残っているのか。

「ヂーク、見えるか?」
「ナァンモミエン。スナボコリモウットウシイゾ」
「そうか」

一応は機械、いや、機神ということでその身体のスペックに期待したのだが、彼の眼を以ってしても水の神殿に屯する魔物の姿は見えず。
その報告を聞けばミリルもまたこれから向かう先を考えてか、心配そうな表情を顔に浮かべていた。
あの商人の言っていたことが勘違いのない真実だと仮定すれば、魔物が徒党を組んで水の神殿に侵攻しているということになる。

「水の精霊は大丈夫かな?」
「腐っても五大精霊の一人である存在がそこらの魔物に後れを取ることはないだろう。それに元々水の神殿近くには野生の魔物が入りこんでいる」
「え……トウヴィルみたいに結界が張られてあったりしないの?」
「光の精霊も基本的にそこら辺は放置だったな。まともに結界などを張っているのはラマダ山の土の精霊くらいだろう」
「えぇー……」

唐草色のローブとフードから顔を覗かせ、納得できないとも呆けたとも取れるような声を出したミリル。
砂漠越えを考えるほど厳しくはないと言ってはいるが、それでも日光が降り注ぐ砂の大地で人肌を晒すなど自殺行為。『水の羽衣』を纏っているミリルには、きちんと日光を遮るための外套を着させてある。
まあ、そんなことはともかくミリルの懸念も分からんでも無い。

魔物と言えば、無論人間の敵である。
故にミリルからすれば味方である精霊が自分の住む範囲の魔物を見逃しているのは納得できぬことなのだろう。
だが勘違いしてはいけない。精霊は人の味方であると同時に、世界の在り方に忠実な存在なのだ。
――――魔物とて、この世界に生きる一つの生命には違いない。
そんなことをミリルに言えば、納得できなかったのか口を尖らせた。

「でも今は魔物が世界を壊そうとしてるんでしょ?」
「そうだ。だが今この世界に蔓延るほとんどの魔物は『暴走している』といっても過言ではない」
「暴走?」
「俺たちが倒さねばならない、暗黒の支配者の影響だ」

そこにどのような関連性があるのかは俺にも詳しくは分からない。
そもそもガルアーノの下で長くキメラプロジェクトに関わっていた俺でさえも魔物の在り方を解き明かすことは出来ず、中々謎な部分も多い。
知恵を持ち、明確な目的を以ってロマリアに属するアンデルなどといった魔物は異世界から来た『魔族』であるだとか。今この世界で暴走する『野生の魔物』は、その悪意に影響されただけなのだとか。

様々な予測が立てられるが、すなわち水の精霊にとってこの砂漠を生きる場とし、自然に生きている魔物は『守るべき一つの生命』として数えられるのだろう。
そういえば水の精霊は精霊の中でも最も『命』に関して真摯に付き合い、慈愛の精霊とも呼ばれる存在だった気がする。

「そう考えれば魔物も一つの犠牲者なのかもしれん。暗黒の支配者がいなくとも人間と魔物の関係は殺す殺されのものだろうが…………自然の摂理から外れるものではないだろう」
「でも分かり合える、かな」
「ん?」
「リーザが言ってたの。それにパンディットと一緒に遊んでる姿を見ると、水の精霊の言ってることも分かっちゃうかな」

成程。リーザという例を見れば一つの奇跡もまた見えてくる。
戦い合う。
ただそれだけで考える様な単純な話ではないのだろう。
魔物と人間。そしてこの世界は。

「ハナシ、オワッタカノ?」

――――なら機械はどの立ち位置にいる存在なのだろうか。
彼をただ命令を聞くだけの機械と定義するには無理な話だが。
しかし一つだけ確実に言えることがある。
人と魔物を悪意によって組み合わせたキメラなど、これ以上存在してはいけないのだろう。



水の神殿がくっきりと見えるまでに近づいた俺たちは、近くにあった大きな岩に身を隠しながら先の様子を窺っていた。
砂地の中に無作為に聳え立つ大理石で作られたような柱と、一つのオアシスとも言える水たまりがそこらには広がっている。
今まで見て来た黄土色の風景を考えれば、このような光景がその真ん中にあるのは随分と神秘的なものなのだろう。

そして我が物顔で歩く魔物の姿も確認できた。
だがしかしその様相は商人の言っていた赤い影や土魔人を主としたような統率された集団ではなく、そこらで適当に這いまわるただの魔物だ。
四足で這いまわりながらも俺達人間と同じ目線に立てるほど巨大な、トカゲとも亀とも言えぬ白い身体を持つ『ジャイアントリザード』。近くの水の精霊の神気に当てられたのか、透明なゲル状の物体が人を形作り、屈強なゴーレムとなった『水の魔人』。

互いが干渉することなく自由に水を浴びていたり輪を作っては佇んでいたりと、その様はこの地を住み場としているだけの魔物にしか見えない。
見ようによっては住処を荒らすこちら側が悪党の様な気もするが、人間を見れば即刻襲いかかってくる魔物には違いない。加減する必要は全くない。

「えと、隠れて奥には……」
「無理だな。影になる場所も少なく…………このメンバーでは」
「ハリキッチャルゾ! テキハドコダ?」

ガッシャンガッシャンと煩いヂークベックを見れば、俺もミリルも苦笑いを浮かべるしかなかった。
まぁ、強行突破とは行かないが、全員を相手にしなければいけないのだから彼の言い分も間違いではない。
だがしかしそれぞれの役割を間違えてもらっては困るのだ。

「悪いがミリル。今の自分の力は理解出来ているな?」
「足手纏い、だよね?」
「そうだ。まだお前は守られるだけの存在だ。だがしかし焦るな。この先にいる水の精霊に会うまでは我慢しなければならない」
「うん…………」
「大丈夫だ。このくらいでは手こずりもせん」

顔を暗くしたミリルになるべく心配させないように不敵に笑って見せる。
というか今の今まで基本的には相手を恫喝するような威圧的な笑顔しか作ってきていないような気がして、本当に頼もしく笑えているか自信が無かった。
だが俺の言葉を噛み締めるように何度も頷いて、そして顔を上げたその瞳に恐れはなかった。
俺が心配することなど、何もない。

「ヂーク。お前の役目は護衛だ。死んでもミリルには敵を近づけさせるな」
「ちょ、ちょっとクドー!」
「ミリルは黙っててくれ……いいな? 機械の本分を間違えるな。戦うとなれば、盾となり剣となる。それを忘れるなよ、ヂーク」
「イワレンデモワカットルワ! サッサトイケ」

あまりにも人間味があり過ぎて、そのうちこいつは自分のために機械の本分の忘れているようにも見えてきてしまう。
人に仇名す敵を滅する。人に降りかかる火の粉を払う。迫りくる魔の手より人を守る。
機神ヂークベック。機械として最高の力を誇った彼の力を疑う余地はないのだが……。

「シカシミセバガナクテヒマジャノォ……オイルヲカケテトランプデモスルカ?」
「私オイル持ってないんだけど」

岩場の影を後にして戦場に向かう俺の背後で交わされる会話に、俺はげんなりとしながらため息をついた。





◆◆◆◆◆





気配を消しながら、陰に身を顰めながら。
そんな血溜まりのクドー本来の戦闘を取ることなく、彼は魔物が蔓延る水の神殿の中心へと駆けこんだ。
走る度にズムリと砂の大地に足が沈むが、それを物ともせずに駆け抜けていくクドーに魔物達が気付くのは早かった。

真っ先に飛びかかってきたのはこんな砂地などお構いなくと素早い動きを見せるジャイアントリザード。
前足を振り上げ、そのまま押しかかる様にして真正面からクドーの頭に牙を剥く。
それを確認するなりクドーは手に持っていたナイフを真下から振り上げるようにその先をリザードの顎に突き刺した。

凡そ人間の体重のそれとは比べ物にならないはずのリザードを、顎下から突き上げた右腕のナイフだけで支える。
人を越えた肉体を持つキメラだけが為せる剛力であり――――などとは言うが肉体派であるグルガやイーガなどは飄々とやりそうである。
ナイフを顎下に叩きこまれたリザードの口から真っ赤な血が溢れ、真っ白な体毛のそれを血に染めていく。
そしてそのままクドーは顎元から真下へとリザードの身体を切り裂いた。

「ギィィィィィィィ!!!!」

一体のリザードが粉状に崩れていき、その生命を終わらせれば他のリザードが仲間をやられた怒りで空に雄叫びを上げた。
肌を粟立たせるようなその叫びにクドーはすぐさま反転。背後より突進してきたリザードいなす様にして回避する。
リザード種が得意とするのはその鋭利な牙による噛みつきなどではなく、その巨体を活かした突進。まともにぶつかれば鉄の鎧とて簡単に拉げるであろう。

(だが所詮魔物)

そこに策などあるはずもなく、真正面からぶつかってくるリザード達に囲まれぬよう、クドーは常に動きまわりながら一対一を繰り返していた。
例え巨大なリザードと言えど、戦いに慣れたクドーが手古摺るわけもなし。
しかしそんな戦闘の最中にどこからか急に現れた気配に、クドーはそれを察知してすぐさまその場から飛びあがった。

「…………ッ」

クドーがいた位置に叩き込まれたのは、軟体動物を思わせるゲル状の拳だった。
時間の問題だとクドーは思っていたが、リザードと戦う内に水の魔人までもがこちらを標的に狙っているらしい。
重なる様にして倒壊した柱の上へ飛び移ったクドーは眼下に集まる敵を見下ろし、そして未だにその表情には強張りの欠片ほども存在してはいなかった。

「的だな」

ぼそりと呟き、ギャーギャーと喚き散らすことを止めないリザードの生き残りと人の顔のようなものが浮かびあがっているゲル状の魔人を睨みつける。
数は片方が3で片方が4。多勢に無勢ではあるが、知能の低いその集団は高所に立つクドーを叩き落そうと、足場にしている遺跡に体当たりを仕掛けはじめた。
無論元々崩壊しているそれが何度も耐えきれるわけもなく、リザードの体当たり一発で罅が入り、クドーの足場は如実に揺れ始めた。

「ふん」

一気にそこら中に散らばる倒壊した遺跡を足場に飛び周り、そのまま密集していた魔物たちの背後に回ったクドー。
そしてその場で右手に持っていたナイフを左手でゆっくりとなぞりながら、濃厚な闇の力を込めていった。
銀色に光るナイフの刀身が如実に真っ黒に染め上げられ始め、やがて術式が完成すればその切っ先の周りはそれこそ漆黒の靄が掛かったように胎動していた。

そして投擲の体勢のままぐぐっと右手を引き、引き絞られた弓が矢を放つようにして一直線にナイフを投げつける。
投げられた跡を辿るように空中には黒の線が浮き上がり、そのナイフが魔物達の足場に突き刺されば、黄土色の砂は瞬時にどす黒い血の色に変色した。

「ガ……ギ…………?」

魔物達にとっては何が起こったのか分からない。
自分たちの足元にたった一本のナイフが突き刺さったかと思えば、それを中心に砂が黒へと染まり、そして自分たちの身体は指一本動かすことが出来なくなった。
クドーが放ったのは、魔法『パラライズウィンド』をナイフに凝縮して放つ『影縫』。突き刺さった場所を中心に身体を麻痺させる瘴気を沸かせる闇の魔法である。

眠り、麻痺、毒、石化。
数値化される灰色の画面の向こう側に広がる世界では単なる異常でしか過ぎないその状況も、現実となった世界ではそれイコール死でしかない。
動けなくなった魔物達をまるで作業のように首をどんどん飛ばしていくクドー。
しかし忘れてはいけない。クドーの魔力は低いのである。

「ギャァァァァアァッ!!!」

恐怖と怒りから解き放たれたかのように、最後の最後でリザードの一体が死力で以ってその麻痺から逃れ得た。
そもそも7体も8体も纏めて魔法を効かせられるほどクドーのそれは強くはない。
さっさと全員始末してしまいたいクドーだったが、彼の目の前で咆哮するのは他のそれとは大きさも格段に違うリザード。

(頭か)

あの集団を率いていたであろう一体が残り、そのまま身体を『硬化』させて脇目も振らずクドーに突進を仕掛けていた。
真っ白な体毛はまるで石と化したかのようにリザードの皮膚に張り付き、蹲る様にして一つの岩となったリザードの瞳は血走ったまま狂気に濡れている。
もはやチャチなナイフが通る様な敵ではなくなっていた。

しかし衝突の刹那、クドーは宙を舞う紙切れのようにしてリザードとすれ違い、そのまま遺跡の一部を盛大にブチ壊しながら動きを止めた標的の背後で構えた。
右手のナイフをだらりと下げ、低く体勢を取ったクドーの身体が一瞬にしてぶれ、今度は彼自身が突進するかのようにリザードに接敵する。
砂が舞い上がるほどに強く足を踏み込み、一本の槍となった右腕を影も残さぬ速度でリザードの心臓部分に叩きこむ。

「ッッッッ!!」

悲鳴を上げる暇さえ残さない。
もはや人間の眼では追い切れない速度で放った刺突は、リザードの身体に丸くくり抜いた様な穴を開け、その身体はぐずぐずと崩れていった。
未だその身体は硬化され、岩の如き頑丈さを維持していたというのに。

「ふむ…………」

一息吐いたクドーがナイフを眼の前に掲げれば、先ほどまで傷一つ見えなかった銀のナイフがボロボロに崩れ、刀身の根元には深い罅が入っていた。
『フェイタルダガー』。キメラとしての身体能力を全開まで行使した『単なる突き』。
だがしかし死に物狂いでクドーが身に付けた技術と合わさったそれは、既に前世のまっとうな物理法則など軽々と凌駕していた。

「まともな武器がなくてはな……いや、高望みし過ぎか」

チョンガラの店から盗んだナイフの一本を早くもお釈迦にしたクドーは、外套に付着した砂を払いながらミリルのところへ戻ろうと踵を返した。
しかしその時、彼女らが隠れる向こう側で確かに女の声が誰かを呼ぶ声が響く。

脳裏に浮かぶ嫌な光景。
クドーは即座に走りだした。





◆◆◆◆◆





「ヂークッ!」

機神の名を叫んだのはミリルだった。
その守護神に守られるようにして背後に隠れ、その鉄の背中から前方を覗き見れば、そこには泥の身体をした魔物らしき魔人がいやらしい笑みを浮かべていた。
先ほどクドーが相手をしていた水の魔人と同系統の、しかしその身を泥状に変えた『土の魔人であり――――赤い影が率いていたという魔物だった。

「ホホウ。ワシノマエニタチハダカルトハイイドキョウヂャ」
「くくく。そんな鉄くず風情が何を言っている」

そしてその魔物が口を開きヂークベックの言葉に答えたことに、ミリルは嫌な言葉が頭を過ぎった。
人語を解し、こちらをただの獲物のように舌舐めずりする土の魔人の顔は、まさに悪意に染まった人間のもの。ただの魔物に出せる様な表情ではなかった。
ミリルは恐怖に駆られ、ただ黙ることが出来ず心のままに零した。

「まさか…………キメラ……?」
「ほぅ? よく知っているな小娘。お前の言う通りオレはそこらの魔物とは違う。選ばれた種族なんだよ」

それを誇る様にして魔人は顔を歪め、そして嗤った。

守られる。守られねばならない。足手纏い。迷惑。
様々な現実が浮かび、そしてその認識がミリルの心にブレーキをかけていく。だがしかしその魔人の言ったことは、誰でも無いミリルには許容出来ない言葉だった。
故にヂークベックの後ろより飛び出し、声を大にして叫ぶのは仕方がなかった。道理だった。

「違うッ! そんなものは力でも何でもない! 選ばれたなんて嘘っぱちよ!」
「あぁ?」
「あなたは……あなたはッ……それがどれだけの悲劇をッ……」
「知らねぇよ。俺が強くなれればどうだっていいだろ? そんなこと」

さも、不愉快だと思わんばかりに自分の言葉を理解しようともしない魔人の言葉とその表情にミリルは歯を食いしばり、何故自分はと拳を握り締めた。
そしてこのキメラを前に、今一度ミリルは決意する。決して自分は狂うほどに力に溺れず、誰かのために力を振るいたいと。

だがしかし悲しいかな、今はまだミリルは無力。
これだけの決意を、強い心を胸に宿しても彼女の力は戻らない。もはやそれは心だけの問題ではなく、無理をさせ続けた身体故のことだった。

「まあ、どうだっていい。水の神殿に何の用があるかは知らないが、殺してやるよ」
「ッ!!」

もう飽きたとばかりに土の魔人は砂地を這い、一気にミリルの傍に近寄ったかと思えば固められた拳を彼女の頭へと振り下ろした。
守られなければならないと言われたというのに、前へ出たミリルの心に後悔が浮かび、そして死の予感にぎゅっと瞳を絞る。
だがしかし振り下ろされた拳は空を切り、そして何故かミリルの視界は空にあった。


「マア、ナカナカカッコヨカッタゾ」
「え? あれ……私、何で……」

覚えのない浮遊感に眼を開ければ、いつのまにかヂークベックがミリルの身体を担ぎあげ、背部から蒸気の様なものを噴き出しながら空中に静止していた。
自分を包む鉄の匂いと機械音ながらも優しい声を感じながら、ミリルはヂークベックの中々に愛嬌のある顔を覗き込んだ。

「ごめんね。出しゃばっちゃって」
「カマワンゾ。ワシハサイキョーダカラナ!」

返された言葉は何よりも頼もしく。
そのまま鉄の身体をぎゅっとミリルが抱きしめれば、ヂークベックの動かない口からは「ウへヘ」などという気味の悪い声が漏れ出ていた。
そしてそんな一人と一体の真下では。

「くそっ! 降りてきやがれ!」

忘れ去られた一体の魔人が何やら叫んでいた。

「オット、ソウヂャッタ。ワスレテタ」
「どうするの? 一旦あそこの岩の上まで逃げる?」
「ワシノメモリーニトウソウトイウコトバハナイノヂャ」

何やら胡散臭い言葉を吐くヂークだったが、その細い腕を上に上げたかと思えば、彼の身体が仄かに光を帯びた。
体内に装着させられた一つのユニットが動き始め、その古代の兵器が生み出す力は魔法となって現象を為していく。
そして振り下ろした右腕は、雷光を生みだした。

「サンダーストームヂャ!」

雲一つないこの天候だというのに、どこからともなく稲妻が降り注ぎ、眼下で喚いていた土の魔人諸共大地に大穴を開けていく。
風の音だけが支配するこの砂の大地にけたたましい爆音が響き渡り、もはやその様は爆撃の跡とも言えるほど凄惨なものだった。
だがしかし辛うじて生き残っていたのか土の魔人は、ボロボロになりながら烈火の如き怒りを空中で停止するヂークベックに向けていた。

「許さ、ねぇッ……!! 鉄くずッ……」
「モヒトツ、サンダーストームヂャ」

だがしかし抗議の言葉を最後まで言うことが出来ず、再び降り注ぐ稲妻に魔人の声はかき消されていった。
もはや左手に抱かれているミリルでさえもやりすぎではないかと、少しだけ引いてしまっている。

舞い上がる砂埃と砂煙。
それが風によって払われた後に残っていたのは、表の砂の全てがひっくり返されたような爆心地。
その中心で土の魔人は哀れにも倒れ伏し、ピクリとも動かなくなっていた。

「モウイッカイミタイカノ?」
「え、えっと……多分もういい、かな?」

そして困ったようにして答えるミリルに、愉快な機神は自身満々にこう言うのだ。

「ワシ、カッコイイヂャロ?」

もはやミリルは乾いた笑いで反応するしかなかった。












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