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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 蛇足IF第二部その9
Name: ぢくべく◆3115d816 ID:bacddc3f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:02
シルバーノアに乗り込んだ俺たちは、少しばかりの空の旅を堪能した後にアリバーシャへと降り立った。
快適な飛行艇から一歩足を踏み出してみれば、俺の外套を靡かせるのはつい先日に味わったアララトスのそれと同じく乾いた風。
空を見上げれば変わらぬ太陽と、少々うんざりしてしまうのは仕方がないことなのだろう。
実のところこの世界には砂漠大陸がことの他多い。アララトス。アリバーシャ。そしてもう一つはバルバラード。

しかしそんな俺の個人的な反応に気付くことなく、ミリルはシルバーノアが飛び立っていく時の風に煽られながらも、眼の前に広がるだだっぴろい砂の大地に眼を輝かせていた。
そしてもう一方のヂークベックは風の中に混じった砂が関節部に入り込んだだのどうだのと騒いでおり、時折頭のてっぺんから蒸気を拭きだしては不満気な機械音を鳴らしていた。
古代の機械がどのようにして動き、それに合わせてヴィルマーがどのように改造したかは不明だが、何とも謎なロボットである。

ちなみにこの国もアララトスのそれと同じくフードとローブを身に付けた人が多い。下手を打たねばなんとか俺の様相も人々の意識には残らないだろう。
といってもハンターギルドがあるために油断できるわけでもないのだが。そもそも俺たちはフードと外套で身を隠した包帯男と奇妙なロボットに一人の少女。
――――大丈夫なのだろうか、これは。

「何やってるの! 早く街に行こうよ!」
「ニッシャビョウカ? ヤワヂャノォ」

気楽に言ってくれる一人と一体に苦笑しながらも、俺は引き摺られるようにして彼女らの後についていくのだった。



アリバーシャ空港に一番近い、国の玄関口とも言われるエルザークの街。
勿論砂漠の街はどこも同じなのかガザリアのそれとそっくりではあるが、怪しげな露店街がないおかげで比べればこちらの方が実にまともな街である。
酒場にギルドに商店街に――――街の中心にある井戸の周りに世間話をする街の人が集まるのは砂漠の国故か。
見渡す限り砂に塗れた街ではあるが、水が通っていないわけなどなかった。

「うわぁ…………人がいっぱい……」
「オノボリサンハカッコワルイゾ」
「わ、分かってるってば」

きょろきょろと視線を右往左往させていたミリルにヂークベックが口を挟んだが、良く考えればミリルの好奇心も当たり前のことなのだろう。
何せ記憶に消されたからはずっと白い家に閉じ込められ、その後も5年間意識を閉じていたのだ。
そして表に助け出されたのがつい前の話であれば、世間のことを何も知らないのは仕方がない。
これで先進国の街であるアルディアのプロディアスになど連れて行ったらどうなることやら。時間があればエルクにでもエスコートして貰いたいものである。

とりあえず宿でも取るかと宿屋の扉を潜ったのだが、この旅、というかこのメンバーで動くことになったことの厄介さを随分と思い知らされた。
何せ一人は全身を外套で隠した妙な男。もう一人は好奇心に溢れながらも世間の道理を何一つ知らない少女。そしてもう一体は言わずもがな。
俺が纏め役を買って出ることは消去法からして当然だが、街中の対応まで俺がしなければならないとなると面倒極まりない。
宿屋の店主にいぶかしむような視線を向けられ、それに気付かぬ呑気な二人。

(不死で、身体が頑丈でよかったというか……)

見当違いの方向に胸を撫で下ろしたが、もしかすれば胃痛で苦しむ日が来るのかもしれない。
ちなみに宿屋の店主には必要以上の金を渡しておいた。口を挟むな、他言不要ということである。

さて。
まずは何をしようか、などと考えることもなくさっさと水の神殿に行って精霊に会ってくるのが自分達の目的である。
やりようによって一、二日程度で目的を果たせるかもしれんが、だからといってロマリアに入国する日が早ければ早いほどいいというわけではない。

「うーん……砂ばっかりだけどやっぱり広いなぁ」
「ワシノココロホドデハナイガナ!」
「心あるの?」
「シラン」

ベッドの上で話しこむお気楽者二人を眺めながらどう動けばよいかを考える。
そもそも俺たちがアリバーシャに向かったのはエルク達が各地に散らばってからそう経っていない時期だ。
エルク達とてトウヴィルの民の救出には時間がかかるだろうし、リーザもまた面倒に巻き込まれているのは間違いない。シャンテに至ってはグルガを連れてくるために闘技大会の予定に合わせなくてはならないだろう。
そしてシュウとトッシュによるレジスタンス活動が、全ての合図となる。

「買い物とかしてみたいなぁ……服とか買いたいかも」
「オサガリモラッタンジャナイノカ?」
「えへへ……嬉しかったんだけど、ククルさんのは、ちょっと、その、胸が」
「ジーンニオシエチャロ!」
「だ、駄目だってばっ!」

シュウとトッシュがロマリアのキメラ研究所に突入する為に、都市の中心を通る列車を暴走させ、その騒動の最中に侵入する。
シャドウが率先して知識を披露したのが幸いして、既にそれは作戦としてアーク達に伝わっているらしい。
そういえば本来の物語であればレジスタンスは壊滅の憂き目にあうのだったが――――知識を与えられたシュウがヘマをするわけもないか?

「そういえばヂークはどうやって戦うの?」
「スタイリッシュニヂャ!」
「えと、武器とかの話なんだけど」
「ブンシンサッポウモツカエルゾ」
「本当!?」

まあ兎にも角にも俺たちが気を付けなければならないことは、シュウ達の作戦に間に合わせなければならないということだ。
いくら彼らとはいえ、ロマリアの中心に侵入を仕掛けるのであれば昨日今日で出来るわけもない。
となれば最後に動き始めた俺達と言えども、ある程度の余裕はある。

――――全く。最初から作戦会議に俺がいればもう少しタイミングを示し合わせることが出来ただろうに。
俺がアークと接触を試みた時点ですでにトッシュはレジスタンスに参加していたというのだから運が悪いと言わざるを得ない。
ロマリアの近くに潜んでいる輩に、そう綿密な情報を伝えることも出来ないか。

「水の精霊ってどんな人かな? ちょっと怖いかも」
「セイレイナンゾ『ヒカガクテキ』ヂャ!」
「うーん……うーん? ……何かおかしいような」

さっさとロマリアに入ってシュウと合流するのも手だが――――。

「あれ? 考え事終わった?」
「ジカンヲムダヅカイスルナイ」

この二人を潜入などが主なレジスタンスに合流させても足手纏いにしかならん。
となれば適度にこの国で時間を潰し、それなりのタイミングであちらに向かう事になるのだろう。
骨休めするには悪くない。例えこの二人がちょっと抜けていても、俺がきちんと現状を認識していれば問題はないのだから。

それに――――。

「少しくらいなら街を回る時間も取れそうだ」
「本当!?」

自由を手に入れた彼女の笑顔を見られるのであれば、多少の寄り道もかまわんだろう。
それに最も重要な話として、ミリルには戦闘に慣れさせる時間が必要である。
個人的には彼女に戦ってほしくはないが、まぁ、今更の話だ。





◆◆◆◆◆





「ねぇねぇ、あれって何売ってるの? ただの石ころにしか見えないけど」
「……おそらく動力石の一種だろう。元々この国は地下資源として取れる動力石で栄えた国だ。まぁ、それを乱獲したせいで自然が崩れ砂漠化したのだが」
「…………それっていつごろの話?」
「1000年前にロマリアから来た男がこの商売を始めたと言うが…………それからずっと採掘を続けているのだろう。砂漠化しても懲りないことだ」
「アンナモノナクテモワシハウゴクゾ」
「じゃあ燃料は何なんだ?」
「シラン」

鬱陶しいと思いながらも問いかけてやればこの始末である。
ヴィルマーの人格をコピーしたのが今のヂークベックではあるのだが、本当にこんな性格がヴィルマーのそれと同じなのだろうか。
言葉を交わした回数が少ないためにヴィルマーの本性など知らないが、この歯に衣着せぬ物言いは、そう、イラッと来る。

まぁ、そんなくだらないことを話ながら俺たちはエルザークの大通りを歩いていた。
商店街の一角であるこの大通りにはガザリアのそれと比べれば、小規模ながら様々な店が立ち並んでおり、武器屋に道具屋に少ない掘り出し物屋などが多く見られる。
この暑さの中でも商人たちの客引きの声はよく通り、よく喉が乾かないものだと感心すらさせられる。
先頭を行くミリルも相当なものなのだが。

街を見て回ってもいいと言ってしまった直後にこの観光ツアーはミリルの一存によって決まってしまった。
覚悟はしていたというか、俺自身彼女にも世界を見て回って欲しかったとは思っていたが、この好奇心の高さはさすがに舌を巻く。
キラキラと瞳を輝かせ、事あるごとに俺に質問する彼女は実に、実に健康的で、その姿に少しだけ泣きそうにもなった――――二重の意味で、であるが。

「ミリル。楽しそうなのは結構だがな……」
「分かってるって! まずは水の神殿に行くための買い出しでしょ?」
「買い出しというか装備を整えたいな。ククルのおさがりといってもただの布だ。それに武器も欲しい」

まったく。ミリルと共に動くと知っていたならば何かしら仕える武器やらアクセサリーをチョンガラの店から多く取っておいたというのに。
そんな後悔先にも立たず。幾らかチョンガラの店から換金用の宝石を取って置いたために軍資金の心配はないが――――兎に角ミリルの装備を充実させてやりたい。
過保護かもしれんが、まだ戦える状態ではない彼女には必要な措置だ。

「ワシニハナニカナイノカ?」
「後でオイルでも買ってきておいてやる」
「イッキュウヒンノヤツヲナ!」

蹴り飛ばしたくなる感情に囚われながらも、眼を少しでも離せば遠くに行ってしまいそうなミリルの後をついていく。
さすがに手を繋ごうなどとミリルが言いだした時は顔を顰めたが、あのはしゃぎっぷりを見るとそうしなければすぐに人ゴミの中で逸れそうで怖い。

そんなこんなで少しばかり歩いてみれば、ミリルが立ち止まり眼を向けたのは一軒の防具店。
防具専用店と書かれているが、勿論冒険者用の防具だけが売られているはずもなく、日用品の衣服も表の棚には重ねられて展示されていた。
俺の記憶を辿れば、こういった国にはアラビア衣装などに似たものが多く、女性が着るものは露出が激しかったりと中々に眼のやりどころに困る衣服である。

「ね、ね、あれってどう?」
「どうって……どういうことだ?」

ミリルが俺の外套を引っ張りながら指差した先には、その防具店の一押し商品と言わんばかりに目立つ所に展示された衣服。
先ほど言った通りに随分と露出度が高く、腹部と肩の部分は肌を晒し、まるで羽衣のような装飾も施されたそれはもはや踊り子の服。
水色を基としているおかげでこの国ではかなり涼しげな印象を抱かせるが、あんなものは防具以前の問題である。

ああいった美しい物に女性が興味を引くのは仕方がない所だったが、さすがに俺たちの立場を考えれば能天気過ぎるのも考えものである。
楽しそうに街を練り歩く彼女を叱るのはこちらも心が痛む所業だったが、さすがに見逃せない。
などと思って剣呑な視線を向けたのだが、ミリルもまた頬を膨らませてさも心外だと口を開いた。

「私だってちゃんと考えてるってば。ほら、あの服、魔法品らしいよ」
「何?」
「『古に滅びた、水の神に祝福された一族の巫女服』だって。水の神って多分精霊のことだよね?」
「…………胡散臭いな。そもそもこの国に水の精霊の事を知る者など」

違和感。そう、ほんの僅かに俺の知識に掠る違和感に俺は口を噤んだ。
もしかしたらあの踊り子の服にしか見えぬものもかなりの『お宝』、すなわち防具品としては使える代物かもしれないなどという考えが頭を過った。
後ろでピーピー五月蠅いヂークベックと首を傾げているミリルを連れてその防具店に足を踏み入れる。
ターバンを頭に乗せた何とも胡散臭そうな笑みを浮かべた商人が手を擦りながら近寄ってきた。

「おや…………なんとも奇妙なお客様ですが、我が店で何かお探しで?」
「ああ、少しばかり探し物をな。二人とも、適当に見ておいていいぞ」
「え? でも」
「いい機会だからな。気にいったものがあったら買ってもいいぞ?」
「ホント!? 行こ、ヂーク!」
「ムゥ……ワシノセンスニアウフクナンゾアルカノォ」

ガシャガシャと音を立てながら店の中を見始めた二人を俺と店主の周りから離し、相変わらずその笑みを絶やさない商人を見据える。
相手も何やら商売の匂いを嗅ぎつけたのか、瞳の奥には何とも油断ならない光を湛えていた。
まぁ、こちらから話さねば始まらん。

「店主よ。あの表に飾られてあった巫女服とやらなのだが……」
「ほう! あれに眼を付けるとはお客様もお眼が高い。札に書かれたものは見られましたかな?」
「水の神に祝福されたと書かれていたが……」
「その通りでございます。あれは私だけが知るルートより仕入れました紛うこと無き伝説の一品。あれを身に纏った者はその通りに水の神の祝福を受け、常にその恩恵を授かることになるでしょう」

宣伝文句としては申し分ない。

「具体的には?」
「ほほほ、疑っておりますな? あれを纏えば即座にその身は癒しの水に覆われ、この乾いた大地にありながらも常に潤いに困らぬことになるでしょう。吹きすさぶ砂の風は全て弾かれ、暑さを感じることもない!」
「ほぅ」
「さらに神すらも魅了させられたあの巫女服となれば、そこらの男共などあっという間にその眼を奪われることになるでしょう。これこそ水も滴る良い女ということでしょうか」

さも、どうだ、と言わんばかりの態度を重ねながら口のあたりのいい言葉を連ねる商人。
彼の言葉が真実であれ嘘であれ、物の売るためならば多少の誇張表現が使われるのは当たり前だ。
そして――――確かに俺の眼はあの服に薄らと魔力の残滓が残っていたことを見抜いていた。成程、ミリルもひょっとしたら感覚でそれを見抜いていたのかもしれない。

この商人の言葉全てが嘘というわけではないのは分かっていた。
そして胸を張るこの店主が言葉を重ねれば重ねるほどに俺の中にある違和感は大きくなり、それが一つの答えへと辿り着く。
ガルアーノの下に居た頃は真っ当な交渉などあるわけもなかったが、『脅しにほとんど近い交渉』ならば幾度も繰り返してきた。

「しかしお客様。これだけの品であれば値段が張るというのもご勘弁いただきたい。それでも我がドルーレの防具店は良心的であるお自負しております! この神の祝福を受けた巫女服がなんと、十万ゴッズ! お安い……」
「店主よ。一つ聞きたいのだが」
「……なんなりと」
「水の神から祝福されたなどという言い伝え、どこから知ったのだ?」

ピシリと店主の表情が強張り、俺は口元が弧を描くのを止められなかった。
しかしそれだけで商人である人間が狼狽するわけもなく、言葉を取りつくろうようにゆっくりと口を開く。

「言ったでしょう? 我が店は良心的であるが故に偽物などを掴まぬようこの国の歴史にまでもきちんと眼を通してですね……」
「ほぉ……ならばこの巫女服がその一族にとってどれほど大事なものなのかも理解出来るだろう? その名の如く神を魅了する服なのだ」
「…………しかしその一族は既に滅んでいるのですよ? 砂の下に埋もれさせるくらいであれば善意あるお客様に」
「滅んだ? 随分と昔のように言う」

あくまでもこちらを立てる様な店主の物言いを一笑に付しながら、俺は一つの確信を言葉にする。
恐らくであればこの商人は正式なルートで手に入れたのではなく――――。

「水の神から祝福された、否。水の精霊を守護する『サリュ族』が滅んだのは僅か一年も経たぬ前のことだ。それを行ったのが当時アリバーシャの将軍であったカサドールであったが故に、民には届かぬ真実だが」
「っ……な、何を」
「ああ。店主の眼を疑っているわけではない。確かにこれは貴方が自慢するように魔法品であることは確実だ。故にこのような品がこんな市井の一角に店を並べるような場所で売りに出されるとはとてもとても……」
「わ、私の店を侮辱するつもりか!」

くすりと口元に手をやり、肩を揺らしながら口に出せば驚くほど簡単に店主は顔を赤くしてくれた。
もうほとんど確信に近いと言っていいだろう。

ミリルとヂークベックの方をみれば眼の前に衣服を広げては何やら楽しげに話していたが、見るべきは広げたその衣服。
ぐるりと周りを見回せば防具品も日用品もどれもが一級品とは言えない二流三流の物ばかり。ただあの巫女服だけが飛び抜けている。
それは実におかしい。実にちぐはぐである。

あれほどの一品であり、なお且つ店主の言うように遥か太古の品であれば多くの有力者の手を回り、このような普通過ぎる店には出回らない。
それに何よりも店主は水の神に祝福された、などと嘘の中に微妙な真実を混ぜてしまった。
嘘をつくための常套手段ではあるが、これが俺に違和感を抱かせるきっかけになってしまった。
多少売り文句は寂しくなるが、『一級の魔法品』とだけでも書けば俺も気付かなかったのに。

「貴様……あの廃墟にあれを盗みに入った賊か」
「し、失敬な! あ、あれは……」
「我ら一族が滅んだなどと嘯き、あまつさえ同胞の怨嗟が未だに残る地へ盗みに入るなど」
「わ、我ら!? まさか、アンタ…………でも、も、もう誰もいなかったじゃないかッ!」

無論俺がサリュ族なわけがなく、だが俺の言葉に大層店主は顔面を蒼くさせた。
おそらくこの店主、先の騒動にて廃墟にさせられたサリュ族の村の跡地に入り、墓泥棒に似た様な感じであの巫女服を盗み出してきたのだろう。
先の騒動――――アークが未だ世界の危機を知らぬ時に旅した道中で起こった悲劇。
確かに滅んだと言えば滅んだのだろうが、こういうものは嘘を貫き通した者勝ちである。

「あれはせめて敵の手に渡らぬように我らが決死の覚悟で村の奥に隠したものよ。幾人もの同胞が精霊と我らを繋ぐ証を守るために死んでいった」
「あ、あぁ…………」
「それに、我らを襲ったのはカサドールなどではなく――――魔物の一派よ」
「な、何だって!?」

こうなると演じるのが楽しくなってきて困る。
どうにもガルアーノの下に居た時からこうなのだが、物語通りに進めようと演じることが多くなってきたせいで癖になってしまったようである。
そういえばエルクと敵対していた時は随分と恥ずかしいことをしてきた様な気がする。

「知らなかったのか? それに魔物が欲したのは我らの命とあの宝。直にお前の下にもかの悪鬼の配下がやってくるだろう」
「そ、そ…………」

口をぱくぱくとさせながらまるで金魚のようになってしまった店主を睨みつけながら、内心ではほくそ笑む。
そして、トドメと行こう。

「私も、奴らの襲撃によって……」
「ヒ、ヒィ!!」

フードから顔を覗かせ、さも全身火傷を負った人間かの様に包帯の隙間から肌を曝け出す。
そうなれば後は――――楽なものだ





◆◆◆◆◆





「本当にありがとうございます……九死に一生を得ました」
「気にするな」

店の前で深々と頭を下げる店主に大仰な言葉を連ねながら苦笑する。
俺の隣では不思議そうに首を傾げたミリルが大きめの買い物袋を抱えており、無論その中には十万ゴッズという高値から下げに下げた五千ゴッズで買った巫女服が入れられていた。
ヂークベックが機械の癖に胡散臭そうな人間味のある視線を向けて来たが、ここは徹底無視。ミリルの装備品として手に入れられるのであれば手をこまねく意味はない。

「しかし盗人である私を許し、尚も五千もの金で私の平穏を買って下さるなどと」
「盗人であったとしても、貴方がこの店でこの宝を守ってくれたのは事実だ。それにいくら何でもただで貰っては貴方が苦しむ」
「ありがとうッ……ありがとうございます」

まぁ、飴と鞭は使い様である。
しかしサリュ族の残した巫女服となれば、なんとも微妙な気持ちに陥ってしまう。
確かにアークが旅した中でサリュ族の村は多大な打撃を受け、多くの人間が死ぬことになってしまったが、その生き残りは南に位置するバルバラードへと移住しているのだ。

しかも後に殉教者計画に関係する勢力として関わることになる。
その時にこの巫女服だか踊り子の服だか知らんが、魔力の籠った服を着たミリルを見てどう思うのだろうか?
というかただの出まかせのつもりだったのだが、本当に精霊から祝福を受けた貴重な物なのだろうか。
どちらにしても俺達の目的が水の精霊に会うことならば、その時に聞きだしてもいいだろう。

兎に角これ以上ここに留まってミリルやヂークベックが余計なことを口走っても困る。
そんな不安に駆られてさっさと踵を返そうとすれば、店主が強張った顔をしながら俺に重要な情報を零した。

「しかし私が村に行った時は魔物の影など何もなかったのです。その代わり魔物の一団らしき集団があるところへ向かっていたのが見えましたが」
「魔物の集団?」
「真っ赤な体色と漆黒の羽を生やした悪魔のような姿の魔物を戦闘に、土魔人のような集団です。確か奴らが向かった先は……水の神殿、でしたでしょうか」
「何?」

その話を聞けば、隣のミリルもまた緊張した面持ちでごくりと喉を鳴らした。
どうやら面倒なことになっているらしい。












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