<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[22833] 蛇足IF第二部その7
Name: ぢくべく◆3115d816 ID:56a92eb1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:01



アララトスのガザリアより少しだけ外れた砂漠にぽつんと建てられた一軒の家があった。
他と変わらぬレンガ造りの家と、露店街に並ぶテントが組み合わさった様な――――つまりは商店と自宅がそのままくっ付けられた様な建物。
勿論テントの表にはどこからか発掘したのか様々な物品が立ち並び、異様に豪華な装飾を施された鎧やら色取り取りの宝石やらと、客の眼を引くには十分だろう。

――――こんな街より離れた所に店を開いても意味はないが。

大商人チョンガラの店にして、今は主人のいないただの倉庫。
無論たくさんの宝物が運び込まれたこの倉庫を守るものがいないわけもなく、昼も夜も入口には『オドン』と呼ばれる剣士の召喚獣が仁王立ちしていた。
見た目は人型であるがやはり完全な人間とは違い、真っ黒な体色をギラギラと照りつける日光に晒されながら呆けたように立ちつくす様はまさに異様。

果たして本当に倉庫番の役に立っているかどうかは微妙な話であるが、チョンガラがアークと共に旅立ち、シルバーノアの艦長を勤め出してから今日と言う日まで侵入者を入れたことはなかった。
実に忠義の召喚獣であり――――やはりそのぼうっとした表情を見やると本当に此処を守っているかどうかが怪しくなる。

どちらにせよ、ヨシュアがアーク所縁の品を見せただけで自分達を入れてくれたとなれば、首を傾げざるを得ない。

随分と手入れの為されていない埃だらけの店内を回り、そこら中に散乱する宝箱を無節操に開けて行く。
出てくるのはガラクタとも何とも言えないものばかりであり、稀に幾分かマシなものをみつけられてもやはり俺の眼を引く様なものではなく。
そんな俺の行動に呆れたのか、部屋中を駆け回る俺をヨシュアは腕組みをしながら眺めていた。

「本当にいいのか?」
「いや、悪いかもしれんが止める理由はない」
「…………開き直られてもな」

額に手を翳しながらため息を吐いたヨシュアに振り向かず、俺はただ無心に宝箱を開けて行く。
部屋に散らばるのは20か、30か。
宝箱だけでもこれだけの数があるというのに、そこらの棚に無造作に並べられた物も『使える』可能性があるから困る。

この地に来た理由とは単純だ。
装備を充実させたい、その一点である。

何せあの白い家の決戦から強引にこの地に飛ばされてきた手前、俺には身を守るためのアクセサリーや武器といったものを失っており、使えるのは誤魔化し程度の魔法と相変わらずの不死能力のみ。
はっきりいって不死さえあればどうにでもなるが、それとて俺には限りがある。
いつもはキメラ研究所で調整を受けていたためにその能力を喪失したり暴走させることがなかったが、もはやロマリアとは袂を別った現状でこの身体だけに頼るわけにもいかない。

不死能力を活かすため、わざと脆い身体を晒すために軽装ではいたが、この不死能力がどこまでもつかも分からない。
ならばソレは切り札として、そしてこれからは人間らしく戦わなければならない。
戦うことを彼らが許してくれるかどうかは微妙な所であるが。

「彼が知ったら怒ると思うのだが……」
「などと言って門番のオドンにアークの鉢巻を見せたのはお前じゃないか。何故彼の鉢巻を持っているかは知らんが――――何にしても共犯だ」
「むぅ」

唸りながら良心の呵責に頭を捻るヨシュアだったが、共に侵入しておいて今更な話だ。
そもそも彼らアークがわざわざこの店に装備品を求めて寄り道する可能性は低く、何より彼らの旅には不要なものだったからこそ、チョンガラはこの店に宝の山を置いていったのだ。
となればここに残るのは価値のない物ばかりとなるのだが…………集められた発掘品の中からさらに発掘品を探すというのは中々皮肉である。

「しかし見て分かるものなのか? 私にはどれがどれだか」
「…………まぁ、それなりにな」

物語を知る俺が、こんな遊戯を介した情報を知るのは今更な話だ。
無論数値によって全て換算されるわけもないが、確かに魔術品として造られたアクセサリーは身体に影響し、身体能力を高めたり生命力を増価させたりとトレジャーハンターが眼の色を変えるには十分な品なのだろう。
といっても俺にとって今求めているのは身体を保護するものというよりかは、使い慣れ親しんだ小剣のようなもの。

「これは……レプリカか? 魔力もない。こちらは……何故市販品をこんなところに入れておくんだ。蒐集家め」
「…………」
「……? 何だ、その眼は」

いきなり黙りこくったヨシュアに気付き、振り返ればどこか苦笑した様な表情で俺の方をみていた。

「もしかして、こういうのは好きだったりするのか?」
「は?」
「いや、宝物を眺める君の様は、なんというか……子供のようだった」

ヨシュアの言葉に手が止まり、しばし沈黙に空気が止まる。
子供と言われればこの世界に生まれたのはおそらく6、7年前の話であるが、いや、俺の本来の精神は既に――――。

まぁ、そういうことではないのだろう。
俺はヨシュアの言葉に応えぬままに装備探しに戻り、彼の視線を背中に受け続けていた。
恥ずかしさは、あったのかもしれない。





◆◆◆◆◆





シャンテに会う、などという目的を掲げたものの、その方法などを考える前にチョンガラの店に寄ったのは理由があった。
勿論装備を整えるという目的もあったにはあったのだが、既にハンターにこの国にいることがばれた俺が街中をうろつくことが出来るわけもなく、自然と行き先はアゼンダ高地に戻るか、それとも此処に身を顰めるか、である。

「既に彼らは動いているか」
「光の精霊とて万能というわけではない。彼らの動向全てを見守ることは出来ないが、それでも勇者達の気配がバラバラに動いているのは感じているそうだ」
「勇者の気配、か。この世界が精霊にとって庭のようなものだとは知っているが、何とも信じがたい話だ」
「そしてその庭も悪しき者共に踏み荒らされようとしている。許されないことだ」

チョンガラの店の一室。
ごちゃごちゃと物が散乱してはいたがテーブルの一角に腰を落ち着かせ、今手にある情報を整理する。
久しぶりに俺が持ち得る情報を基にして現状に当て嵌める作業だったが、やはりそれは難航する。
ジーンとミリルが生き延び、エルクの負傷と言うタイムラグがない現状でどのようにして世界が回るのかはもはや予想不可能だ。

そもそも、俺はシャドウとアヌビスを介して彼らに未来のことをある程度話してしまっている。
もはや物語の知識など意味がない。

「このままトウヴィルまで乗り込んだ方が早いのだろうが……」
「………怖いかね?」
「無論恐怖もある。おめおめと彼らの前に姿を見せることも勇気がいる。だがやらねばならんことだ。所詮早いか遅いかの話だろう」
「そうか」

シャンテに会う、というのは大前提に過ぎない。
願いは腐るほどに在る。いや、エルク達と共にいることを願いとするならば、それと連動してやらなければならないことがあり過ぎる。
相変わらずうろちょろと這いまわるガルアーノは即刻消さねばならないだろうし、そしてそれぞれの思惑はどうであれロマリアと最後まで戦うのは決定だろう。

おそらくであるが。
エルクは、途中で物事を放りだす様な人間でなければ誰かに結末を託すような人間でも無い。
あの焔の瞳を湛えた勇者は、確実に剣を取り戦うことを選ぶ。
ならばそれに追随するのが道理だ。

「ジーンとミリルは…………いや、どうだろうな」
「…………」

様々な未来が頭に浮かび、その可能性を削り取る様にして先を見据えて行く。
考えては消し、考えては消し。
そんなことを幾度も首を振りながら考えていれば、ヨシュアがじっとこちら見つめていた。
今まで彼が見せて来た瞳の中でも、随分とそれは泳いでいた。

そういえば、何故この人は俺についてくるのだろうか。
確かに彼からすれば救ってしまった俺を見る義務があるのかもしれないが、だとしても時を移動して勇者の先導者となる目的にはどうあっても釣り合わない義務だ。
何故彼は――――そうか。俺のせいか。

「役目を奪ったか?」
「喜ぶべきことなのだろう。私よりも未来を知り、そしてその結末を選び取る力が集まることは」

ヨシュア。
彼が定められた役目は、力及ばぬ自分に代わって戦える勇者をアークの下に集わせることであり、その最中に精霊の指示と合わせて動くことも役目としていた。
俺たちの、エルク達の物語が始まるよりももっと前。アーク達が剣を取る理由になった旅の中でヨシュアは常にアークの導き手として動いていた。

しかし今、命を削るほどの代償が必要な時間跳躍により間接的干渉よりもずっと確実な、未来知識そのものを持った俺が現れてしまった。
無論常に変わる未来の知識など安定したメリットにはならないが、殉教者計画の全容、そして四将軍の企むシナリオのほとんどを知ったということは、これ以上ないアドバンテージである。
今更命を削ってまで未来を再確認するにはあまりにも。

「俺の知識通り動くとは限らんだろう。それにもはや違う未来に向かっている」
「だとしても私が出来ることはあまりに少ない…………ポルタは」
「パレンシアタワーに囚われているよ。おそらくお前に対するアンデルの手札だろう」
「…………そうか」

しかし例えメリットとデメリットが釣り合わなくとも時間跳躍は奥の手に他ならない。
何故今になって彼はそのような眼をし、そして何かを諦めた様な――――まさか。
口にするのは憚られたが、これもまた俺が眼を背けてはいけない事実だった。
だから、問う。

「もう、無理なのか?」
「…………やはり、人の手には余る力だ」
「お前ッ……俺一人持ってくる為に力を使い果たしたのかッ!?」

熱くなる頭では怒鳴り散らす口を止める術を知らなかった。
勢いよくテーブルを殴りつけ、その場に立ちあがりヨシュアを見下ろす。
疲れたように笑う彼は、痛々しかった。

「例え君が特別な人間でも、時間干渉の理を無視して力を使ったのは、格別に効いた。勿論後悔はないが」
「ぐっ……そうか。なら、いい」

何故俺のために、などと吐き捨てることなど出来なかった。出来るわけもなかった。
この犠牲を、想いをさせ続けたのが俺の今までであり、この『重み』から逃れることは決して許されないことだった。
これと向き合い、そしてエルク達の隣に並ぶのが俺の戦いだ。俺のこれからだ。

自分に言い聞かせるようにして今一度椅子に腰を下ろし、少しだけ息を吐く。
冷静にならねば。どちらにせよ俺は一人の人間の戦う術を奪い取り、そしてその目的さえも奪い取ってしまった。
ならば――――どうする? この程度乗り越えねば、怨嗟滴る血の過去は乗り越えられない。

「望みは……何だ?」
「何を馬鹿な。対価が欲しくて君を助けたわけじゃない。見くびってくれるな」
「違うッ! お前の望みだ。誰でも無い、アークの父の望みを聞いている」

震えそうな声を叱咤しながらヨシュアに問う。
傍から見れば、俺はどれだけ滑稽なのだろうか。
ヨシュアは俺の言葉にしばし口を閉じ、許しを乞うかのようにして虚空に呟いた。
その声は俺に向けられている様な類のものではなかった。

「息子を、妻を……守ってやりたいとは思っているがね」
「…………」
「自ら争乱の中に送り込んだというのに、巻き込んだというのに……勝手な話だ」

そこにいたのは、精霊の恵みを与えられた時を旅する勇者の父ではなく、一人の息子と妻を思うただの親父だった。
度重なる力の行使で身体は衰え、20前の息子持つような父の年齢には程遠い。見ればテーブルの上に置かれた手も皺が薄く見えていた。

それを見れば、心がこの男を犠牲にすることを拒んだ。
この男の重みを背負わねばならないと心が望んだ。
シャンテの憎しみもまた背負うべき咎。そしてこの男の望みもまた背負うべき咎だ。

「近い未来。アンデルの企みを潰していく中で、お前は命を落とす」
「…………そうか」
「だが最後は、誰も知らぬ戦場で散るわけではない。妻を救い、息子の手を握り、それらを背に剣を掲げた先が、お前の最後だった」
「……そうか。それは、よかった」

そんな俺の言葉を聞いて、この男は、このクソ野郎は本当に満足そうに頷く。
こんな覚悟をさせたかと思うと逃げ出したくなるような想いに囚われ、そしてヨシュアの視線から眼を逸らさない。真正面から見やり、宣言する。
もう一度、心に誓う。

「だがその未来を選び取ることは許さん。俺を勝手に救った人間が、勝手に死ぬなど許さない。いいか? 例え短い命だとしても、誰かの手に掛かって死ぬ結末など望むな」
「君は……」
「これ以上俺に罪を犯させるな。救える流れも、救える場も、全てがうまく行く結末も俺が用意してやる。だからお前は誰かに背負わせるための剣など持つな。直に帰ってくる息子と妻を迎え入れる手を差し出せ」

いいさ、やってるやるさ。
所詮エルク達と共にいるためのついでだが、アークもポルタも、そしてこの男さえも救ってやるさ。

しなければならないことが増えたが、俺が持ち得る情報を考えれば不可能なことではない。
もはやヨシュアは時を越える力を行使できず、そしてエルク達も既に動きだしていると言う。
ならばさっさとアーク達と合流して共に、強引に未来を変えていくしかあるまい。
世界のいたるところへロマリアの魔手が届き、多くの情報を持っているとはいえ後手に回っているこの状況で内側から崩すのは悪手だ。
物語――――いや、これより行われる戦いを加速させ、未来を捻じ曲げるしかあるまい。

「グズグズしてはいられない。いいか? 戦うなとは言わん。だが今はなるべく動くな。お前が生きていればアンデルは必ずポルタを生かしておくだろう。アークも同義だ」
「しかし」
「俺の遣い魔を一体残す。もしも荒事になりそうならこいつを使え。戦力としては保障する」

ヨシュアの返事を聞く前に、俺は自らの影から具現化させたファラオを表に出した。
隣合うようにして俺の脇にミイラ男が立ち、顔も何も見えないその包帯だらけの隙間から眼だけをギョロリとヨシュアに向けた。
当然のごとくヨシュアは眉を顰めた。

「一人が動きやすいというのならそこらに置いていっても構わん。それにお前は俺に言われた程度で歩みを止めるつもりはないだろう? 必ず出来ることはないかと動きだす」
「まだ数日の付き合いだというのに……未来の知識かな?」
「いや、経験上、だ。勇者というのはそんなものだった」

俺の言葉に反論しようとしたが、ヨシュアはぐうの音も出ないのか唸る様にして顔を伏せた。
否定したかったことは自分を勇者と例えられたことか、それとも別か。
考え込む様にして黙ってしまった彼のことなど気にせず、ファラオがヨシュアの影へと滑りこんだ。

「こ、これはっ……」
「俺の遣い魔の特性だ。そもそも肉体を俺が喰ったことで精神しか持たない……言わば亡霊のようなものだからな。邪魔にはならん」
「しかし、いいのか? 君こそこの、ファラオとやらを手放せば……」
「それこそ見くびってくれるな。死なぬことにかけては自負がある――――まぁ、死にかけたがな」

ふっ、自然と笑みが出た。
もはや心の中でざわざわと蠢いていた影の全てはもはやおらず。
あれほど鬱陶しいと思っていた奴らもいなければいないで少し物足りない気もしたが、だとしても手放すことに戸惑いはない。所詮魔物である。

兎に角、まずはこの国から出なければ話は始まらない。
ハンターにこの国に居ることがばれてしまっていると言えども、それがどれほど伝わっているかは微妙なところだ。
だがしかし真正面から空港に向かうというのも――――いや。

「ヨシュア。アゼンダ高地に向かう。ついてきてくれ」
「国外へ向かうのでは? それにあそこには光の精霊が……」
「別にあの精霊を嫌ってはいない。むしろ俺の望みを叶えるためのファクターにすぎん。使える道具ならば使わねばならん」

その不敬を咎めるようにしてヨシュアが睨みつけるような視線を送ってきたが、撤回する気はない。
奴らが世界を救うために勇者を利用するなら、俺は俺のために奴らを利用するだけだ。
といってもこの世界が崩壊の危機に在るのは、元は精霊に対する人間の感謝が薄れたからとかそんな理由だったか?

どうでもいいことだ。
この世界で数千年生き続けて来た人間達のツケを背負うつもりもないし、その先に在る善悪の定義も知ったことではない。
エルク達と共に在る未来を掴むためにはロマリアは邪魔で、精霊たちは利用できる。
ただそれだけだ。





◆◆◆◆◆





「トウヴィルに送ってくれ」
「何だって?」

どことなく浮ついた状態のヨシュアを引き摺る様にしてアゼンダ高地まで連れて来たクドーは、光の精霊を呼びだすなりそう言い放った。
つい先日までは親の敵のような敵意を向けていたクドーがこの地に近寄ったことすら光の精霊にとっては驚くべきことだったのだが、それ以上に彼はクドーの顔つきに魅入っていた。

いや、その瞳に灯る恐ろしいほどに深い漆黒の色にか。

こちら側の都合で死の淵から救いあげられ、それを認識した途端喚いたキメラなどどこにも見当たらない。
光と闇。その絶対的に相反する者でありながらもまっすぐに視線を向け、少なくとも世界を構成する精霊の一人に向かって命令する様は――――確かに傲慢な人間だった。

だが、どこか普通の人間とは違う。
じっと、じいっと光の精霊はクドーを見つめる。
世界が始まってから常に人間と共にいた彼にとってもその瞳は、意思は覚えがあるような気がした。
途端、光の精霊はぶるりと震えた。精霊である彼が、だ。

「…………理由を聞いても良いかい?」
「やるべきことがある。俺の意思を曝けても精霊には理解出来んだろう」
「ふむ」

未だその言葉尻にも敵意の影は残っており、それを感じれば光の精霊は人知れず胸を撫で下ろした。
幼き人間にありがちな感情に引っ張られた言動。先ほどチラリと見せたあの『理解不能な意思』は既にそこになく、さっさとトウヴィルに送れと急かすクドーはただの人だった。
光の精霊が横に立つヨシュアを見やれば、彼もまたクドーに賛同するかのように一つ頷く。
――――何があったというのか。

「何か考えがあるようだけど、決して世界に仇名す企みでもなさそうだね」
「無論だ。そんなことをしても意味はない」
「…………意味があればやるのかい?」
「質問の意図が分からん」

何処か遠く、光の精霊の記憶に存在するその危機感に、余計な質問をクドーにぶつける。
しかし精霊自身とて無茶苦茶だと理解していたその疑問には、ぼかす様にして首を傾げるだけだった。
この危機感は何処か来る? どこで感じたんだ?
光の精霊は一つため息をついてクドーの目の前に力場のようなものを作り始めた。

さすがに全国各地と道を繋げられるほどに力を残しているわけではなかったが、闇の精霊が封じられるトウヴィルと言えばアークと並んで精霊たちには重要な場所。
常に眼を見張るべき地であり、ククルの結界もあってか精霊が道を繋げるにはさほど大変ではないところであった。

兎に角にも勇者として――――犠牲の一つとして見出した一つの命が動き始めたのならば精霊にとってこれほど嬉しいことはない。
孤独な戦いを強いてしまった勇者の仲間となってくれる者がいるのならば歓迎すべきだった。
例えその奥に見えざる不可解なモノがあったとしても。
しかしそのような清濁合わせ飲むことを望んだ光の精霊でさえも、次に発したクドーの言葉には呆気にとられた。

「後一つ。光の精霊よ。『聖櫃』をもう一つ作っておけ。出来るだろう?」
「…………は?」

聖櫃。
この世界が再び闇に覆われる時に、勇者によってその封印を解かれ世界の救いになると謳われるモノであり、暗黒の支配者を封ずるための器。

だがしかし光の精霊は、これがそんな簡単なものではないことを知っていた。
無限にエネルギーを集めることが出来、ありとあらゆる概念を無限に蓄えられるという際限なき器。精霊達の祝福によって作られたそれは、未だ精霊に感謝を忘れずに共存していた人間への贈物であった。
しかし当時人間を束ねていた王が強欲にも独占し、人に栄華を与えるはずだった万能の器は世界を滅ぼす悲劇の原初となった。
そして皮肉にも全てを納められる万能の器が全てを封じる器となり、数千年前にあった悲劇は勇者たちによって救われたのだ。

「き、君はそれが何を意味するのか分かっているのか!?」
「ク、クドー君!? 一体何を……」
「分かっているさ。分かっているから命じている」

さすがの光の精霊もヨシュアも、唐突にクドーが話した内容に冷静さを失い声を荒げた。
確かに聖櫃は暗黒の支配者を封じる器ではあるが、それ以上に人の手には余るパンドラの箱なのだ。
到底二つ目を作る理由にはならず、まだ一つの、現存する聖櫃があるのならばそれで済ます以外に取るべき方法などないのだから。

だがクドーは知っている。
今その聖櫃が何を使われているのかを。
そして聖櫃を所持しているアンデルの狙いを。

「そもそもアンデルにとって聖櫃を残す意味など無い。暗黒の支配者から切り離された闇の精霊の力はトウヴィルに封じられており、既に暗黒の支配者自身は中途半端に封じられつつもロマリアに隠れている」
「それはっ」
「結局奴らにとって重要なのはこの世に負の感情を撒き散らすことが出来るかどうかだ。そのエネルギーによってお前達精霊の力を弱め、操り人形になっているロマリア王の手によって闇の精霊を解放させる。それが主目的だからな」
「それが二つ目の聖櫃と何の関係があるんだい?」

もはや光の精霊の視線に油断はなかった。
どのような理由があれ、強過ぎる力などそう世界に存在してはいけないのだから。
だがしかし全てを知るクドーからすれば、精霊たちの考えは少しばかり遅すぎたものだった。

「所詮アンデル達にとって聖櫃とは手段の一部であって、目的ではない。世界中に散らばる負の感情を聖櫃に納め、それを増幅させる必要はあるが絶対ではない。時間を掛ければ殉教者計画と共にじわじわと増やす方針へと変えるだけだ」
「まさかっ……」
「聖櫃など、自らの主たる暗黒の支配者を封じる手段である聖櫃など邪魔でしかない。どのような結末でもアンデルは最終的に聖櫃を破壊することに終始するぞ」
「…………」
「既に精霊の力もだいぶ弱くなっているのだろう? この段階まで来てアンデルが聖櫃を後生大事にするとは到底思えん。奴らにとっては主を封じる手段さえ消せば、後はどうとでもなるのだろうからな」

ヨシュアも光の精霊も声を失った。
人の、世界の希望である聖櫃が破壊される。
確かに災厄を撒き散らすきっかけとなってしまった万能の器であるが、それでも暗黒の支配者を封じるには絶対に必要なものなのだ。

しかしそこでヨシュアは正気を取り戻し、クドーの言葉を思い出した。
二つ目の聖櫃を作るというそれを。

「クドー君……君は二つ目の聖櫃を作ることが出来ると言ったが、本当なのか?」
「作成そのものであればまだ間に合うと記憶している。どうする? 光の精霊よ。神が齎したと言われる材料を用いて聖櫃を作り、お前たちの祝福を以って二つ目の聖櫃とするか。それとも聖櫃無しの方法で対処するか」

無言のままでいる光の精霊にクドーは結論を急かす様にして言葉を連ねた。
世界という視点で物事を見つめる光の精霊からすればそれは悩むに悩み抜かなければならないことであり、決して安請け合いしていいものでもなかった。
だから――――保留する。

「まだ聖櫃はアンデルの手にある。まだ『在る』んだ。早計な判断は下せない」
「フン……まぁ、いい。まだ先の話であるし、作るとなれば長い時間が必要なものでもあるまい」
「…………」
「では世話になった。ヨシュア、くれぐれも無茶をするなよ? 死んだら俺が殺す」

一つ鼻を鳴らすとクドーは黙りこくる光の精霊を無視するように目の前の力場に足を踏み入れ、そのまま消えて行った。
残されたのはヨシュアと光の精霊だったが、ヨシュアもまた一度頭を下げるとアゼンダ高地から足早に去っていく。
ただ一人この地に佇み、岩と岩の間を通る風切り音が静寂を乱した時、はっとしたように光の精霊は顔を上げ、茫然と呟いた。

「人間王……」

今は暗黒の支配者と名を変え、太古の悲劇を再び起こそうと企む怨敵の名を呼ぶ。
人間王と名乗り聖櫃を暴虐のままに使っていたその影を、光の精霊は確かにクドーの瞳に見た。
あの真っ黒な瞳を見てからの不穏な予感は、全てクドーが人間王のそれと重なっていたからだった。
全てを犠牲にしても自らの欲望を叶えようとする、あまりにも傲慢なその様が。

だがしかし、弱さも見える。
だがしかし、強さも見える。
勇者のように強固な意思もあった。
暗黒のように邪悪な意思もあった。

「彼は一体――――何なんだ」

茫然と光の精霊は呟いた。











前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026276826858521