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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 蛇足IF第二部その5
Name: ぢくべく◆3115d816 ID:f6a3a744 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:01


「歯車一つ、か」

シャドウは神殿の表で繰り広げられている闘争にも満たない喧嘩をその黒い肌で感じながら呟いた。
自らの主が死んでからのことなどにまるで興味も沸かなかった彼ではあるが、その主の遺言として協力することを命じられたのならば、それに全身全霊で取り組むことについては疑問を挟む余地もなかった。

相変わらずぐったりと神殿の大広間でくつろいでいる彼ではあったが、これからの活動に支障が出ない程度の情報を既にアーク達には伝えており、あとは彼らの行動次第ということになる。
一体自分にどのような役割が回ってくるかは知らぬ話だったが、クドーと共に動いていた時のあの胸の躍動とは程遠い。
シャドウは、少年達の心の葛藤をもつまらなそうに眺めるだけだった。

そんな彼の下へ近づくもう一匹の魔物。ウルフアンデッドであるアヌビスだった。

「今までどこにいってやがったァ?」
「なに、闇の精霊が封じられているという最奥にな。聖母の眼は厳しかったが……まぁ、問題あるまい」
「ケケケ。まさか魔物がのんびりとこの神殿に入り込んで見物たァ誰にも予想出来ねェだろうよ。リーザの犬っころは別としてな」

瞳を絞り、キシシとひとしきり笑ったシャドウに、アヌビスはやれやれといった感じに腕を組む。
邪教を模した髪飾りと仮面が揺れ、細身ながらも身体中のあちらこちらに入れ墨が彫られていたアヌビスの身体が揺れていたところを見れば、彼もまた笑っていた。
しかしそこに込められた感情は、薄い。

「シュウはぶれぬか」
「そりゃあなァ……あれじゃ本来の流れ通りロマリア密入コースだ。シャンテが続くかは微妙だが」
「どちらにせよ、アークの作戦と主の齎した情報を考えればそれは道理だろう」
「元々シュウはアークに歩幅合わせる気もねェだろ。いやァ、勇ましいこって」

ふざけ混じりで言ってはみたものの、もはや『本来の流れ』などというものが信用出来るような情報であることなどありえない。
それぞれの目的として各人が散らばって活動するのは推奨される話だが、その後に全てがうまくいくとは限らない。
シュウの後に続いたシャンテが飛行艇から落ちて無事にあるかなど天文学的な確率であるし、フォーレス国に戻ったリーザがとある少年との間に友好を交わすことが出来るかどうかも未知数。

そんな話をつとつとと話していれば、魔物二人の下へ神殿の入口から早足で近づく男が一人。
仲間に手を出した後だと言うのに、まるで気にしたそぶりもないシュウだった。

「よォ。どうだったあいつらは?」
「…………これも未来で読んだ流れか?」
「既に未来など外れている。奴らが生き、主が死したことがその証明であろう。何せ主はそれを変えるために動いていたのだからな」

楽しそうに問いかけるシャドウへ殺気を叩きつけ、それに答えることもなく睨みつければ、アヌビスが心外だと言わんばかりに鼻を鳴らした。

「主が見ていたのは誰も彼も救われぬ未来よ。あの氷の女子も風の子も散り、炎の子までもが傷を負った。それを考えればなんと貴様らは幸福なことか。我が主は安寧などというものとは程遠い存在であったからな」
「だからシュウ、てめェの判断は間違いねェ。あんな小僧どもどっかに引き籠ってりゃいいんだ。その分勇者様達が辛くなるがな。ギャハハハハ」

これが魔物であった。
人の心を踏みにじり、喰いつくし、ただ暴力を以って人に仇名す者。
クドーの使い魔として、情報を持ち得たものとして今はこの場所にいる彼らではあるが、シュウを前にしてどこまでの傲岸不遜に嘲る様は確かに魔物だった。

それを考えると、シュウは眉を顰めざるを得なかった。
こんなどす黒い意思をその身の内に飼いならしていたなどと。
クドーという存在は何を差し出して、こんな力を得たのだろうか。

「だが安心するがいい。貴様はぶれてはいない。おそらくどの結末でも同じ選択を取るだろう。すなわちガルアーノの打倒というそれをな」
「てめェは旦那に似てるようで似てねェ。殺意を、憎しみを、どす黒い怒りをその心に湛えている癖に、その奥底にあるのは揺れない意思だ」
「知った口を利く」
「これでも『人間』に関しては真摯に接してきた口でなァ……いや、接せられた、か? まァどちらでもいいが、てめェに協力してやるのはやぶさかじゃねェ」

ぐだぐだと言葉を連ねていたシャドウは立ち上がり、仁王立ちするシュウを前にして値踏みするような視線で舐めまわす。
例え無表情を貫くシュウであっても、どこか嫌悪感のようなものを隠さずには居られなかった。
そんなシュウを気にすることもなくじろじろと見つめていたシャドウが口を開いた。

「さすがにロマリアまで直ではアーク達のシルバーノアでも近づけねェ。まずはトウヴィルの麓にあるパレンシアにでもククルに下ろしてもらえ。で、そこからダウンタウンに行けば『何でも屋のペペ』ってやつがいる」
「…………それで?」
「何でも屋っつーんだから何でも出来るだろ。例えばスメリア空港に寄っているロマリア戦艦への侵入方法とか、な」

ニヤリと笑うシャドウと、それをつまらなさそうに眺めるアヌビス。
その二体の魔物に何ら思うところがないわけではないシュウだったが、その情報は確かに必要なものだった。
それが『未来』などという要素から取り上げられた情報だと思うと、何故か苛立つものがあったが。

「どうせ白い家をぶっ潰されたガルアーノはロマリアのキメラ研究所にでも逃げ込んでんだろ。あいつを殺すならロマリア、だぜ?」
「…………気に喰わん」

それだけ言うとシュウは神殿の奥へと――――ククルがいる場所へと歩いていくのだった。
拒否感があったとしてもシャドウの齎すそれは有用であり、馬鹿正直に否定するのも所詮自分の『気に入らない』という心に頼る行為だろう。
心を律する術など、シュウは知り得ている。

そんなシュウの後姿を見ながら、シャドウはけらけらといつまでも笑っていた。
隣で呆れ顔をするアヌビスなど放っておいて。

「頭が良過ぎるというのも考え過ぎだが、ああして静を保つとなれば脅威よな」
「だがやっぱり旦那とは全然違ェ。どいつもこいつも闇を善の心で打ち倒す勇者ばかりだ」
「主のような化け物など、いや、人間などそうそういても困るだろう。さらなる闇を以って打倒し、それでいて純粋な願いを心に宿すちぐはぐな人間など」
「だァい好きだがな。まァ、中々暇つぶしにはなりそうだ。こう考えるよく旦那は溺れなかったもんだよ」
「何がだ?」

ありったけの賞賛を以ってクドーの話を続けるアヌビスに、シャドウは腹を抱えながら嗤う。
先ほどまで見せていた気だるげな雰囲気など消え去ってはいたが、やはり薄かった。

「世界を回すってことにだよ。頭がいい奴ほどちっと煽れば最適解に辿り着く。ケケケケケ。掌の上で格上達が動いて回るってのは爽快だぜ?」
「ふん。くだらん」

心底呆れたと視線を逸らしたアヌビスだったが、彼もまた何かを求める魔物だった。
クドーという娯楽を埋め合わせる何かを。

その日、シュウはひっそりとトウヴィルより姿を消した。





◆◆◆◆◆





まどろみの中から眼を覚ませば、少女の視界にぼんやりと広がるのはどこかの遺跡を思わせる石壁に囲まれた寝室だった。
柱に立て掛けられた蝋台が火を灯しており、それに照らされた寝室を眺めればそれなりに造りの良いベッドやテーブルなどが配置されていて、なんだか遺跡の様相には不具合な感覚を覚える。

ギシリとベッドから起き上がり、そのまま立とうと腰を上げればくらりと眩暈がして足元が覚束なくなる。
少しバランスを崩して近くにあった台のようなものに手をつけば、そこにあったのは何処かで見た様なパソコンと、束ねられたカラフルなケーブル。

少女――――ミリルの心に沸き上がったのは嫌悪感と恐怖。

ひっ、と声を漏らして一歩二歩と後ずされば、そこでようやく自分の寝ていたベッドの隣から寝息のようなものが聞こえてくるのに気付いた。
並んで置かれたもう一つベッドの頭の位置から見えたのは、銀髪。
ゆっくりとそれを覗いてみれば、それは人形のように整えられた美少年の――――ジーンの顔。

そこまで気付いて、ようやくミリルの意識と記憶が覚醒し始めて来た。
白い家。シルバーノア。トウヴィル。自分の身体に関する検査。
半ば有無を言わさず寝かせられたベッドの上で、エルクともう一人の少女から見つめられながら瞳を閉じ――――涙が零れた。

確かな『自由』という感覚。
誰かに見張られることなくこうしてゆっくりと眠ることが出来た安寧の空気。
そして、犠牲という確かな真実。

様々な想いが混じり合って涙となって溢れ出る。
しかしそれはすぐに頭を振って止めさせた。

「ミリル? 起きたのか?」

そんな彼女に恐る恐るといった風に話しかけて来たのは、いつのまにか寝室の入り口に立って此方を見ていたエルクだった。
疲れた様な表情をしてはいるが、きちんとその両足で達、いつもの民族衣装を着ていた彼には自らが負わせた怪我の影響を感じさせない。

朧気ながらミリルには白い家の記憶が残っていた。
救いあげられ、操られ、傷つき、傷つけられ、立ち向かい――――そして。
ミリルは我慢できなくなって、ふらふらとエルクの下に駆け寄ってそのまま抱きついた。

「お、おいっ……」
「ごめん、ごめんね……私の、私のせいで……」

自分が何も出来ないばかりか、誰かの犠牲を以って救われた身ならば、とてもそれは我慢出来る様な話ではなかった。
そればかりか自分は救いに来た者をこの手で、忌むべき魔法の才で傷つけてしまったのだから。

しかし抱きつかれたエルクもまた掛けるべき言葉を必死に探していた。
無論可憐な少女に抱きつかれたことなどではなく、同じく悲劇の渦中にいた者として、だ。
優しい言葉を掛けるには自らもまた不安定で、そして不器用で。

「ミリル……色々と話したいことがあるんだ」
「うん……?」

ぐちゃぐちゃだった。
エルクは迷いに迷い、アークやリーザ達が集まる大広間へとミリルの手を引いていくのだった。



アークやシャンテといった人が集まる大広間では、その中心にいたチョンガラがとにかく唸っていた。

「やはり戦力が足りんのぉ」

そのようにぼやくチョンガラの言葉にさしもアークでさえ表情を曇らせ、横で首を振るククルと共にため息をつく。
話として上がるのはやはりこれからのことであり、ミリルの安全が確保されたのならばいよいよもってそろそろ動かねばならない時だった。

白い家の崩壊によってガルアーノの重要拠点が瓦礫の山と消え、唯一残るフォーレス国のキメラ研究所にも仲間である大魔法使い『ゴーゲン』を送りこんでいる。
それだけではなく、並行して準備しているトウヴィルの民救出には『ポコ』を、ロマリア国のレジスタンスには剣客『トッシュ』を送りこんでいる。

ふとチョンガラが広間の一角に眼をやれば、そこには武道着に身を包んだ拳法家の男が佇んでおり、彼はヴィルマー護送のためにシルバーノアに乗っていた『イーガ』だった。
シュウとはまた違ったベクトルで物静かな男であり、暇さえあれば座禅を組んで瞑想していたりと、どのような時でも後ろから見守るその有様はまるで山のようであった。
そしてその山は、あまり作戦会議では声を挟むような男ではなかった。

アーク一味、シルバーノア艦長にしてダンディなおじ様チョンガラ。
大抵にして頭脳担当はアークか彼である。
であれば少ない仲間の数でありながら多方向に戦力を裂かねばならないのは悩みの種であった。

「おっ、呼んできたか小僧」
「小僧じゃねぇ」
「あの、私が何か……?」

並んで大広間に足を踏み入れたエルクとミリルの二人に、チョンガラは胡散臭そうな笑みを向けていた。
そんな顔を浮かべられてはミリルでなくとも身構える。
彼女は不安そうな顔でエルクの影に隠れたまま、恐る恐る問いかけた。

「いや、何、これからのことじゃよ」
「これから?」
「俺たちは、ガルアーノを倒しに行く」

首を傾げたミリルに、アークが一歩前に踏み出し揺るぎない瞳で答えた。
その場にいる誰もが口を噤み、勇者の次の句を待つ。
もはや足踏みしている暇などなかった。

「悪いが君たちのためにもうここに留まる事は出来ない。シルバーノアを使っていろいろと動かなきゃならないし、それに此処は僕らにとっての最後の防衛線だ」
「別に俺達のことを頼んだわけじゃ……」
「それでもいい。だけど君たちの選択次第では此方も覚悟を決めなくてはいけない」

心の弱さからつい出てしまった反抗の言葉を気にするわけでもなく、アークはまっすぐな視線をエルクに向けて問いかけた。
迷いは許さぬ視線だった。

「アルディアに戻り、ハンター生活を続ける。ヤゴス島へ戻り、日常に戻る。どのような選択肢を取るのかは君たちに任せるが、もしもロマリアを打ち倒すまで安全にいたいなら此処に居てもいい」
「…………何だと?」
「戦いを拒み、拒否するのも当然の選択だ。それに勝手ながら僕らは君らと関わってしまった。助けてしまった。だからこの地で静かに暮らすのであれば――――全力を掛けて守る」

勇者は、悠然としていた。
幾度の戦いを乗り越え、折れず進み続けて来たアークの意思はもはや少年のそれなど影も形もなく。
震えることなくまっすぐに叩きつけられたアークの声に、エルクは茫然と聞き入るだけだった。

「リーザ。君もだ」
「えっ……私、もですか?」
「今フォーレス国に僕らの仲間が向かっている通り、あの地は未だキメラプロジェクトの影が濃い。だからガルアーノを倒すまでは、いや、最後の時までエルク達と同じように此処にいてもいい」

不安そうにエルクとアークの会話を見ていたリーザが、唐突に話を振られて狼狽する。
あたふたと返答に困ってしまったリーザだったが、そこでようやくアークは頬笑み、エルクやミリルを一瞥すると声を大きくした。

「これが僕らの意向だ。どのような選択を取るのであれ、責任は取る。急にこんなことを言われても困るだろうし、もう数日は僕らも此処に残ろう。その間に出来ればこれからのことを決めてほしい」
「…………」
「何か聞きたいことがあれば聞いてくれ。それじゃ、今日は解散だ」

どうすればいいのか。
エルクも、ミリルも、リーザも、ただ押し黙ったまま立ち尽くしていた。





◆◆◆◆◆





あまりに唐突な選択の強制であったが、それでもガルアーノに大勢を整えさせる前に動くためにはこの日が限界であった。
既に自分たちの向かうべき道に迷いのないアーク、イーガ、ククルとチョンガラと、今は亡き主に命じられたシャドウとアヌビスは神殿内のまた違う別室に集まっていた。
そしてそこに加わるシャンテと、ヴィルマー。

「本当にいいのか?」
「構わん。もはや隠れていた島もばれてしまっておるし、それにこれが儂の戦いじゃ」
「ならいいんだが……」
「確かにリアを連れて回るのはお前たちにとっても難しいだろうが、離れておくより傍にいた方が守りやすい」
「親バカめが」
「うっさいわ、老いぼれめが」

ギリギリと睨みあってメンチを切るヴィルマーとチョンガラにげんなりとしながらも、とりあえずは彼の申し出をアークは受け取ることにしていた。
そもそも戦闘班にはなりえそうもないヴィルマーであるが、シルバーノアに住み込む様にしていてくれれば元科学者としての知識はこれ以上ない貴重な力であるし、それに彼が連れて来た『あるモノ』も無視できない。
それに、『リアに世界を見せてあげたい』と願うのもヴィルマーの偽りのない本音だった。

「リアねー、お料理するのー。けっこう得意なんだよ? お兄ちゃんから習ったの。おじいちゃんはあんまり得意じゃないし」
「なんぞ! お主まさかこんな子供に料理を作らせていたのか? これだから研究者という輩は……」
「な、なんじゃと!? よく見ておれば貴様とてパイプを吹かせているだけのお荷物ではないか! 口だけは達者なようだな!」
「何を!?」
「文句があるのか!?」

しかし何が悪いのかヴィルマーとチョンガラの相性は最悪。
歳が近いのが原因か元々の性格が合わないかが原因かは不明だが、こうして口を開くたびにギャーギャーと罵り合う始末。
その傍らでは冷や汗を垂らしながら力コブを作ったイーガの腕に、リアが嬉しそうにぶら下がっていた。

「悪逆非道のアーク一味、ねぇ。これにもあの剣豪トッシュも含まれているんでしょ? それと、音楽家だっけ? そのポコっていう人」
「えぇ、まぁ」
「何だか大道芸一味よね」

濁す様に答えたククルに、シャンテが口元を抑えながら本当に楽しそうに笑った。
彼女もまた共闘を申し出た人間であり、心の内に戸惑いを抱きながらもまず動かなければいけないと理解していた。
こんな所で腐っていても誰かが蘇るわけでもないし、誰かが助かるわけでもない。
このまま全てをアークに任せるのもまた道の一つだったが、それもまた彼女の矜持に関わった。

「それでも、いいの?」
「戦う女は嫌いかしら?」
「…………いいえ。どちらかというと賛成だわ」
「あら、気が合うわね。私達」

まあ、なんにせよシャンテとしても思うところがあるようで、戦うことを決めたわけである。
そんな集団を眺めながら、シャドウは何とも言えない気持ちになっていた。
先ほどまで鳥肌が立つような勇者の器を見せてみれば、今この場に広がるのは和気藹藹としたそれ。

そういえば、とシャドウは思い出す。
仲間など主にはいなかった。自分たちはただの下僕だった。
そんなどうしようもない、魔物らしくない想いに駆られたシャドウは一度頭を振り、軽薄な表情を張りつけて口を開く。

「あー…………盛り上がってるところ悪ィが、ちと予定が変わったな」
「何だ?」
「攻撃目標一つ追加ってやつと、作戦変更のお知らせってやつだ」

適当に未来の知識を与えた後は流れに任せながら、その最中に雲隠れするなりどっかの野良魔物に殺されるなりと、碌でもない自分の最後を予想していたシャドウだったのが、ほんの少しだけ気まぐれが疼いた。
何に感化されたのかは彼自身も分からない。だがしかしこのままガルアーノ側に流れが傾くのは不愉快だった。

「クレニア島ってところで武闘大会が開かれてるんだが、そこに集まった奴らをキメラの素体にするって話がプロジェクトでは上がってた」
「なんじゃと? 何でその話を先にせんのだ」
「大会で優勝するような輩が誰かの補助なきゃロマリアの尖兵に負けるとも思わなかったからな。グルガ・ヴェイド・ブラキール――――ブラキア戦争の英雄にして、光の戦士だったか」

何でもないようにしてその情報を明かすシャドウだったが、ブラキア戦争の話を聞いてチョンガラとヴィルマーは眉を顰めた。
10年以上前にニーデルとブラキアの間で起こった植民地からの独立戦争であり、その戦いでは多くの血が流れながらもブラキアが独立を勝ち取ったという結末で幕が閉じた戦争だった。
何にせよそんな戦争で活躍した人物が狙われているというのであれば、それは阻止すべき要素だろう。

「精霊の導きが仲間を集わせるのかどうかは知らんが、うまく接触すれば仲間に引き込めるんじゃねェのか? 殉教者計画の中にブラキアのことも入ってるって言ったよな?」
「…………ふむ」
「まァ、そこらはてめェらの良心の話だ、好きにしろ。俺としてはシャンテあたりを推薦したいところだがね」

ケケケッ、と暗く笑いながら怪しい光を湛えた眼をシャンテに向けるシャドウ。
無論、良い気はしない。

「なんで私なのよ」
「裏で情報を握りながら先導するのは得意だろう? 見た目は柔な女だしな」
「……皮肉のつもりかしら?」
「さァね」

エルクを騙し続けた経験を暗に指摘され、空気が冷たくなる。
不機嫌な顔してシャドウの言葉を受け止めたシャンテは、自分の落ち着かせるようにして大きく息を吐くと、決心したかのように申し出た。
罪悪感はある。だがそれ以上に棄てなければならない良心というものも彼女は熟知していた。

「いいわ、やってやるわよ。魔性の女でも何でもなってあげる」

何だか違う方向に決心してしまったようだが、そんな彼女の言葉を聞きながらシャドウはほくそ笑んだ。
確かな手ごたえ。物語が回る高揚感。
勿論そんな気配を漂わせたシャドウにアークもククルも歯を一文字に閉じたまま睨みつけた。
光の勇者と聖母による睨みつけなど、シャドウを強張らせるのに十分だった。

「あ、あー……あとあれだ。トウヴィルの奴ら、もうキメラ改造されてんぞ、多分」
「何だと!?」
「何ですって!?」

しかし話題を変えようとして口走ったその事実に、はね返る様にしてアークとククルがシャドウに詰め寄った。
もはやシャドウの真っ黒な身体など、端から粉のように崩れかけているようにも輪の外から眺めていたアヌビスには見えていた。
恐るべきは光と闇の関係。そして勇者の力と我らの惰弱さか。表情に出さずともアヌビスは心に汗を掻いた。

「落ちッ、落ち着けって! まだ微妙な所なんだが、中身だけ弄くって遠隔装置っぽく変化するキメラ兵に変えられたかもしれねェってだけでな……おいッ、ヴィルマー、ちょっと説明してやれ」
「遠隔操作……もしかして中身だけ変えて表の心だけは維持された状態のことを言っておるのか?」
「あァ、なんかそんな感じだ……って旦那の残したファイルになんか残って無かったのかよ! 旦那が残したのは今プロジェクトで行われている実験の結果と過程が全部記されてんだぞ!?」

しばし顎に手を当てて考え込んでいたヴィルマーに、今度はアークとククルも心配そうに助けを求める様な視線を向ける。
さすがに彼らとて、自らが長く共にいた人間がキメラに変えられ襲ってくるなど――――歯を食いしばり乗り越えて行かねばならない試練だとしても出来るなら変えたい事実だった。

「無駄、だったのか……?」
「いや、しかし、むぅ…………」
「救出すること自体は無駄ではないかもしれねェぞ。おそらくアンデル辺りが仕込んだんだろうが、即刻キメラに変えて此処を襲わせるつもりはねェだろうよ。少なくともヴィルマーが研究する時間があるんじゃねェのか?」
「もし、どうにもならなかったら……」
「ケケケ。俺が殺してやってもいいゼ」

隙あらばシャドウは嘲るように嗤う。
最も弱き力を持ちながらあらゆる存在の上にたち、掌で転がし、そして騙すのはクドーの常であり彼らの常であった。
ならばそうやって愉悦を貪るのは当然なのだろう。

悩み、顔を顰め、作戦を練り直していくアークたちを見ながら、心底楽しそうにシャドウは肩を揺らす。
そしてそんな光景を眺めていたアヌビスは、天井を見上げながら呟いた。

「虚しい」

呟きはアーク達の話声に紛れて消えていった。

















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