<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[22833] 蛇足IF第二部その4
Name: ぢくべく◆3115d816 ID:6ae3bd43 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/11 17:00
小国ながらも格式ある文化と歴史を誇る王国スメリアが治める大陸の北部。
山々に囲まれた山岳地帯の奥にあり、その有様は文化の波に呑まれず独自の歴史を築く民族のようでもある。
アルディアやロマリアで見られるような科学の匂いが一切せず、ただ背の高い稲穂が広がる田畑と古い遺跡を祭壇として迎えたその村は誰にも知られぬ秘境であった。

トウヴィル。

といっても今はたださえ人の少ないトウヴィルの村も、村中を走る子供の姿も農業に勤しむ大人の姿も存在しない。
まるで棄てられた村とさえ思わせる寂れ具合に、その村の一角、藁が積み重なった所に寝転がっていた男はただ空を見上げていた。

「…………」

鬱陶しいくらいに伸びきった銀の髪を緩やかな風に靡かせながらぼんやりと空を見上げるのはジーン。
ヤゴス島という似た様な文化が形成された場所に住んでいた彼であっても、この人の生きている匂いがしないトウヴィルでは郷愁の念に抱かれることすらない。
むしろ彼の心中は――――不安と、怒りと。

「…………どうなるんだろうねぇ」

誰に言うでもなくぼそりと空に呟く。
ただジーンは、雲の流れる様を見ているだけだった。



そんなトウヴィルの奥地にある古の神殿。
数年前はモンスターの蔓延るただの石造りの遺跡としてあったこの場所も、今となってはアーク達の最後の防衛線であり心休まる止まり木の地。
少数でロマリアという大国、そして闇につき従う魔物達と戦うアークにとってはその真実異常に大事な場所である。

ククル――――聖母の力を受け継いだ仲間が、自分たちの帰る場所を守ってくれている。

兎にも角にも白い家から脱出した彼らが此処に帰還するのは道理だった。
このまま戦い続けるにもあまりに多くの情報が錯綜し、そして一人の犠牲者がまた増えた。
果たしてその犠牲を『犠牲』と称していいかは彼らの中でも定義しきれない話だったが。

未来を知るクドーと言う名の存在。
匿っているエルク達の今後。
ミリルの処置。
――――これから。

どれを取っても軽々しく動くには難しい問題だった。
古の神殿内の大広間、まるで作戦会議室のようにして運び込まれた大きなテーブルと椅子を囲んで、背もたれに背を預けたチョンガラが唸る。
シルバーノアの艦長にして自称アララトス王族の末裔で、商人で――――まあ、アークの仲間である。

「未来をどうのこうのという話は置いておいても、彼の情報が無駄とは思えんじゃろ」
「…………死を賭して伝えられた情報なんだ。信じてやりたい」
「情報元はそこにいる……あー……何なんじゃ? お前さん」
「知らねェよ。キメラと言いたきゃ言えばいいし、魔物と呼びたきゃ呼べばいい」

チョンガラがパイプを吹かしながら連ねた言葉にアークが神妙な顔つきで続き、そして器用に椅子に座ったままだらけていたシャドウがどうでもよさそうに答えた。
クドーの死に様を間近で見届けたアーク自身がその情報を信じ、どこか客観的に見定める様にしてチョンガラがシャドウの眼をじっと見つめる。
どこからどう見ても魔物のそれ。魔物と戦うことがその全てだったアークたちからすれば、シャドウの情報の全てを信じるには半信半疑が正直なところだった。
アークがそれを信じる、否、信じたい理由は、クドー。

「坊主たちはどうしとる?」
「あの少女の、ミリルの身体を見てもらっている頃だろう。もうしばらくすればヤゴス島のヴィルマー博士も此処に来るそうだ」
「全く……ワシは艦長なんじゃぞ? 博士だかなんだか知らんがおっさん一人迎えるのにシルバーノアを持ちだしおって」
「それも…………クドーの言葉だ」

結局か。チョンガラはどこか疲れたようにして白煙を吐いた。
白い家から戻った自分達の状況が一転したのは言うまでもない。

一気に匿う事になったエルク達6人の今後。
ロマリア四将軍による企み全ての急所を掴むまでに至る情報。
そして、俄かには信じがたい世界の結末。

自分達のことでありながらその結末はどこか別の世界の物語の様でもあり、そして実感が沸くにはそう遅くはなかった。
ならばこれからどうするのか、どうやって戦っていくのか。
答えをただ単に投げつけられたとしても、その答えを一気に書き込むのはあまりに手間で、そして戦力も足りない。

「シャドウ、だったか? あの坊主らは本当にワシらに協力してくれるのか?」
「ミリル次第だろうがな。つっても俺が見た限りククルの力だけでなんとかなるんじゃねェのか? 見た感じほとんど闇の力は浄化されてるみてーだし。旦那が残したのは、まァ…………所詮保険程度のことだ」
「彼らを…………戦わせるのか」
「知らねェよ。ま、恨みはあんだろ。たァっぷりとな」

苦悶の表情を浮かべたアークの問いかけに、シャドウは皮肉を添えてニヤニヤと笑う。
はっきり言えばクドーの――――シャドウの齎した情報に沿って動こうとするのはもはや規定事項だった。
各地のキメラ研究所を襲い、その中で着実に積み重ねていった情報とシャドウによって齎されていた情報は驚くほどに合致していた。

元々アーク達が今後取る活動として挙げられていた作戦。
フォーレス国のキメラ研究所の破壊。
スメリア国パレンシアタワー内に捕らわれているトウヴィル村民の救出。
大国ロマリアの膝元、クズ鉄の街にて行われるレジスタンス一斉蜂起への協力。
そして――――キメラ研究所破壊によって手足の捥がれたガルアーノを今こそ。

果たしてこれだけのことをたかが10人にも満たぬ勇者たちが遂行しきれるのか。
無論自分達ならばという自信こそアーク達にはあったが、だからといって不安が残らないわけではない。
逆に言えばこれほどのことを行わねば四将軍の一角は斬り落とせない。
そうなればエルク達の協力は――――アークの中でしばしの葛藤が渦巻く。時間もそう多くない。

「ん……シルバーノアが帰ってきたみたいじゃな」

しばらく沈黙が続いた中、どこか遠くからけたたましくプロペラを回しエンジンを唸らせる音が響いてきた。
議論を一旦中断させるには渡りに船であった。

「兎に角、今はまず様子見じゃな。情報が集まり過ぎててんやわんやじゃが……」
「無駄ではない。無駄にはしない」
「…………そうじゃな」

椅子から立ち上がり、脇に置いていた剣を腰に刺す。
既にアークの瞳に迷いはなかった。





◆◆◆◆◆





科学の波に飲み込まれずに、などと言ったものの、シルバーノアがトウヴィルに到着してからすぐに古の神殿内部には簡易式ながらもパソコンやケーブルといった文明の利器が持ち込まれた。
果たしてヤゴス島という孤島に住んでいたヴィルマーがそのようなものをどこから持ち出してきたかは不明だが。

そんな計測機械が置かれた神殿内部の寝室区画にて、ベッドに横たわるミリルをエルク達が囲んでいた。
忙しなくキーボードを叩くのは急にやってきたシルバーノアから半ば拉致されるようにして連れてこられたヴィルマー。
一緒についてきたリアは珍しい光景に一喜一憂しながら神殿の内部を走り回っていた。

「なあ、博士」
「黙っとれ。今急ピッチでやっとる」

例えククルの癒しの力で大部分を問題無しと判断されたとはいえ、その手の科学者に『良し』と診断されなくては心休まらない。
つい先ほど大事な友を失ったとなれば――――エルクの表情に張り付くのは焦燥だった。
寝かされたミリルを心配そうにリーザとエルクが見つめ、その一歩後ろでは腕を組んだシュウとシャンテがその様子を見ている。
そして巫女服に身を包んでいるこの神殿の主――――ククルもまたその様子を見に来ていた。

「科学、か」
「見るのは初めてかしら?」
「ずっとこの地にいるわけではないわ。昔はアークと一緒に世界中を回ったし、ね」
「そう」

ククルが抱いたのは闇の力に準ずるキメラの力さえもこうして機械によって検査――――しまいには操作することの出来ることへの危機感であった。
文明の利器が闇の力を加速させる。ククルは遠くない未来『科学』が牙を剥くのではないかと理由もない予感に囚われていた。

そんな彼女の心中に気にせず問いかけたのはシャンテ。
どことなく似た様な雰囲気を漂わせる二人だったが、それが気を紛らわせる会話だったのか、そうでなかったのか。
ツカツカと履いているヒールを鳴らしながらシャンテは踵を返した。

「どこに?」
「ちょっと、息抜きにね。どちらにしても今私が何かをしてやれることは少ないわ」
「…………」

そのシャンテの後姿をじっと見やるククルの視線には、少しばかり複雑なものが混じっていた。
エルク達と自分達の間に漂う生温く、そして時に居心地の悪さを感じる様な空気。
100万ゴッズの賞金首として一般に知られるアークの仲間たちとなれば、そのような空気も聊か仕方がないものだとククルはため息を吐いた。
誰かに認めてもらうために、褒めてもらうためにしていることではないと言えども、誤解でアークの心が摩耗するのは『待つ女』にとっては微妙な事実だった。

「別に、信じてないわけじゃないわ」

そんなククルのため息を聞いてか、振り返らずにシャンテは呟く。
見せた背中は子供の様で、どこか疲れているようにも見えた。

「受け入れる余裕がないだけよ」

その会話を聞いていたシュウもまた、壁に背を預けながら眼を閉じた。



どこか心此処に非ず、といったようにシャンテはふらふらとトウヴィルの中を歩いていた。
古と名付けられたからか神殿の中は石壁が崩れていたり隙間風がある場所があったりと散々だったが、村の中はアルディアでは見られない様々な物で溢れていた。
一体この村がどのような歴史を辿ったのかは不明だったが、歌姫として各地を転々としてきたシャンテにもこのような風情ある光景は見たこともない。
今はただゆったりと肌を撫でる風が心地よく、ともすればアークやククルといった勇者が現れる下地もある土地なのかもしれないとシャンテはどことなく思った。

シャンテは、既にアーク達のことを勇者であると認めている節があった。
しかしそれは彼らの行動や心の有り様を見たからではなく、続けざまに語られる真実に心が追いつかないだけだった。
だから、自分と関係のない事実に関しては、そういうものだと折り合いを付けて放棄した。

アルフレッド。

彼女が人生において何より優先したただ唯一の人間であり、かけがえのない家族だった男。
孤児となって各地を彷徨い、様々な街の酒場で歌う事を仕事としてからは常に一緒だった。
その道中、荒くれ者の集まる酒場に姉さん一人で行かせられないとボディーガードを言いだしたのも彼女の弟だった。

少しばかり魔法に教養のある、いや、素質のある自分達。
そこらの暴漢を追っ払う程度は問題なく、そんな物騒なものを行使しなくともシャンテが踵の細いハイヒールで蹴り上げれば、にやついた男たちは揃って泣いた。

厳しくも、楽しい毎日。

そんな魔法の才に眼を付けられたのだろうと、トウヴィルの村の端にあった切り株に腰を下ろしたシャンテは気付く。
弟が攫われたその時は何故こうなったかなど知らなかったが、今思えば自分より誰かを傷つける魔法を得手としていたアルフレッドがキメラプロジェクトの眼に止まったのは当然だったのだろう。
自分は癒すことに長けていて、弟は守ることに秀でていた。

マニキュアの塗られた、女の手で眼を隠す。
隠された表情には自嘲めいたものが浮かび、やがて口紅の塗られた唇を強く噛む。
何度も何度も記憶の底からわき上がっては心を痛めつける、弟との思い出。

裏切り、許し、戦いに明け暮れて。
その果てで見た物は、悲しみの連鎖だった。

エルク。ジーン。ミリル。
そして弟をその手で殺した――――。

果たしてその未来は必要だったのだろうか?
一緒に助けてはもらえなかったのだろうか?

クドーは未来を知ると言う。
黒い身体をして、ニヒル気な表情『のようなもの』を張りつけたあの魔物がそう言った。
ならば何故――――。

何を馬鹿な。
自分とてエルクたちを騙した。
他人の命を自分勝手に捧げようとした。

「あれ? おねーさんじゃない」

そう、自分を呼ぶ声にはっとし、顔を上げる。
そうすれば太陽を背負うようにしてジーンがシャンテを見下ろしていた。
今はそう呼んでほしくなかったのに。シャンテはそれを表情に出さず内心で呟いた。

「ジーン。アンタいいの? あの子の傍にいなくて」
「うーん……まあ、大丈夫でしょ」
「あのねぇ……」
「ほら、爺さんも来たし。それにククルさんだっけ? あの人、勇者だか聖母だかですげーらしいし」

エルクとミリルのことも。アークとククルのことも。果てには育ての親のヴィルマーのことでさえもジーンは他人事のように答えるだけだった。
へらへらと笑っては興味なさ気に頬を掻き、一人黄昏ていたシャンテの顔を心配そうに覗きこむ。

「大丈夫? 色々あったんだし休んだ方がいーよ」
「心配ないわ。どっちにしろ今は休み時だしね。アンタこそいいの?」
「何が?」

意地汚い奴だ、とシャンテは思った。
今までの付き合いでジーンがエルクやリーザほど子供ではないと感じていたのに、自分の問いに真正面から『何が』と問うのは卑怯以外の何物でもない。
そしてそれ以上に迂闊なことを聞いた自分を責めた。
クドーの最後は、死は、到底彼らには許容出来ないことだろうに。

「…………」
「ごめんごめん」

気まずそうに眉を潜めたシャンテに、ジーンは慌てて両手を振りながら一歩後ずさった。
白い家から脱出してしばらく、いやずっとジーンはこの調子である。
エルクやアークといった集団の中にもおらず、軽薄な表情を浮かべては思案するようにしてふらっと何処かへ消える。
――――気まぐれな風のようだった。

「あー……皆、どんな感じ?」
「自分で見てくればいいじゃない」
「そんなこと言わないでくれよ。拗ねちまうぞ?」
「……やっぱアンタ卑怯だわ。その顔で」
「へへ」

それでも今はジーンの軽薄さがシャンテには嬉しかった。

「エルク達はずっとミリルに付きっきり。アーク達は……言ってることが本当ならロマリアに喧嘩を売るんでしょうね。あのシャドウって奴から色々聞きだしてるし」
「ふーん……俺たちも戦いに参加するの?」
「そういうつもりはあっちにはないみたいだけど、本音を言えば私たちに協力して貰いたいんでしょうね。正直、あんな少数で国に喧嘩売るだなんて正気じゃないわ」
「そっかー」

シャンテやジーンも、アーク達の詳しい戦いを聞いているわけでもない。
詳しく聞きだすということはそれすなわち戻ることが出来ない戦いに身を投げ入れると同義であるし、何しろそれよりも色々と今は考えねばならない。
自分達を取り巻く様々な因縁は、即決即断していいほど軽くはない。

それを理解しているのか、アーク達も押し付ける様に自分達の活動を話すことはなかった。
それでもガルアーノという怨敵と戦い、そしてその背後に蠢く闇の影を感じ取れば、アークが賞金首として知られるような極悪非道な輩ではないと確信できる。
敵の敵は味方というには、その敵はあまりに巨大で醜悪だった。

ひとしきり神殿内の様子を聞いてジーンは決心したかのように口に弧を描いた。
唐突だった。

「じゃ、俺はあの勇者さん達に付いていこっかなー」
「は?」
「駄目?」
「…………いや、でも……」

何でもないかのように、まるで遠足に行くかのように言い放つジーンにシャンテは狼狽した。
何故ならば目の前で頭の後ろに両手を組んだジーンにエルクの様な悲惨な表情もなく、アーク達が浮かべるような決意のそれも無かったから。
本当に、本当に何でもないかのように吐いたのだ。
だから恐る恐るシャンテは問いかけた。

「アンタ、いいの?」
「何が?」
「いや、だって、無理に戦わなくてもミリルって子は……」

そこまで言いかけて、シャンテは言葉を失う。
既にそこにいたのは能天気な風の子ではなく、その心の内に嵐を秘めた鬼だった。

「なあ、ねーさん。俺駄目なんだ。誰も彼ももう終わったみたいな、立ち止まるみたいな顔してるけどよ。駄目なんだ。あのアークとか言う奴らは世界を救うみたいなことを言うけどさ。駄目なんだって」
「…………」
「だってさ、ガルアーノ。あいつ生きてるらしいんだぜ? おかしいだろ。あいつ何で生きてんだよ――――あいつは、生きてちゃ駄目だろ」

彼の心の中に渦巻くのは、使命に捧げる正義の心でも無く。
彼の顔に浮かぶのは、哀しみにくれる悲壮ではなく。
ただひたすらに――――憤怒。復讐の、それ。

「それに、まぁ、ついでだけどさ。あいつを殺せばまずエルク達も無事だろ? 爺さんもリアも無事だし。つまるところ、あいつは生きてちゃ駄目なんだよ。つーかさ……」





「あいつが、生きてるってのが、許せねぇんだよッ!!!」





肩で息をし、真っ白に染まるまでに固く拳を握る。
眼は血走り、もはやそこに人のそれを残してはいなかった。
瞳は、濁っていた。

「そう思うよな、アンタも」

ふと、シャンテの背後にジーンが声を掛ける。

「シュウ……」

マフラーを風に靡かせ、鷹のような瞳をした男が、そこにも一人。
誰も彼もが、そよ風ではいられなかった。





◆◆◆◆◆





カタカタと絶え間なくキーボードを叩く音が寝室には響き、相も変わらずベッドの上で眠るミリルの手を握って放さないエルク。
同じようにして横たわる彼女を心配そうにして見つめるリーザだったが、彼女もまたシャンテと同じように自らの無力を嘆き手持無沙汰となっている者だった。

「エルク……休んでた方がいいよ。傷も治ってないし」
「いや、いい」

白い家での激戦に次ぐ激戦。その最中で操られたミリルが放った攻撃はエルクに重傷を負わせているはずだった。
あの氷の刃がエルクの背中から抜き出た光景。それを見たリーザがエルクの自分の身を省みない検診に眉を潜めるのは道理である。
彼だけではない。ジーンも、シュウも、シャンテも、皆傷ついている。

素っ気なくリーザの言葉に返すエルクを前に、リーザは口ごもる。
無力だった。

そんな想いに表情を曇らせたリーザの背後で、手を休ませる暇なくミリルの検査に没頭していたヴィルマーの手が止まった。
脇に重ねられたファイル――――クドーの残したそれと比べる様にして簡易モニターを交互に見やり、やがて一息ついたと言わんばかりに視線をエルク達の方に向ける。

「ま、問題ないじゃろう」
「本当かっ!?」
「お前らの話だと、クドーはミリルの身体の中に渦巻くキメラのエネルギーを無理やり吸い取ったのじゃろう。それが少しばかり強引だったせいかミリルの生命力も一緒に持っていってしまっただけで、一週間は安静にしておけば直に元気になる」
「そうか! …………そうか」

ふう、と息を吐きつつ説明するヴィルマーの言に、エルクはやおら顔を輝かせるとすぐにそれを曇らせた。
元気に生き残ってくれたミリルへの歓喜と、それを命と引き換えに成し遂げたクドーの犠牲。
今のエルクの頭を占めるのはそれだけで、それ故に不安定だった。

「…………あいつとは、話せたのか」
「…………」
「五年前は一方的じゃったからな。儂も……礼の一つは言ってやりたかったわい」

問いかけに応えないエルクを無視するかのように、ヴィルマーは遠くに聞こえるリアの声を耳にしながら一人ごちた。
ジーンを半ば押し付けられるようにして預けられ、キメラプロジェクトからの脱走という危険な状況の中背負った荷物。
しかし、ひょっとしたら彼がいなければリアという孤児を引き取るという気概すらヴィルマーには沸かなかったのかもしれない。
堕ちた科学の中で足掻き、そして苦しんだ一人の科学者に無邪気で悪ガキ然りといった笑顔を見せたジーン。

重たい沈黙が続く中、ヴィルマーは検査のためにミリルの腕や足に取り付けたケーブルのようなものを取り外していく。
もはやこの少女はこんな闇の科学に晒されながら生きるようなことはなくなった。
幾度もその身体を弄くられながら、ようやく自由を手に入れたのだ。

「お前は、これからどうするつもりじゃ?」
「…………これから、って……?」

腕組みをし、ズレ掛けた眼鏡を上げながらヴィルマーはエルクに問いかけた。
エルクはただ茫然とその言葉を繰り返し、やがて無気力な瞳を伏せる。

当然の迷いだろう。
確かに彼らは犠牲を出した。4人揃って笑いあうあの約束を果たすことは出来なかった。
だがしかし残り3人はこうして無事に、一緒にいることが出来ているのだ。

――――ガルアーノへの反撃、復讐。
――――安寧へ手を伸ばす。
――――ロマリアの。

今、エルクは戦うことが怖かった。自分が傷つき、そして倒れてしまう事などはまるで問題ではない。
彼が真実恐れたのは、その戦いの中で自分の大切な誰かが居なくなってしまう事への恐怖だった。
ハンターとして生きた年月が残酷な戦いの現実を頭の中に湧きあがらせる。
自分の背を守り死んでいく親友、手が届かず倒れ伏す大切な人、自分はあまりにも無力で。

そんな想いに囚われた時、彼らがいる部屋に何者かが慌ただしく飛びこんできた。
敵襲かとも身構えたエルクとリーザだったが、肩で息をしながら顔を歪めているのは他でも無いシャンテだった。

「シャンテ!? 何やってんだ?」
「表であいつらが争ってんのよっ!!」
「あいつら?」

鬼気迫るシャンテの言葉に首を傾げるエルク一同だったが、その反応に苛立ったシャンテが告げた二の句に彼らもまた表情を強張らせた。

「シュウとジーンよ!!」





◆◆◆◆◆





もはやトウヴィルを包む様な暖かい風はこの二人の間には流れていない。
片方からは憤怒の嵐が、片方からは冷血な風が。
肩を怒らせたままのジーンとそれを無表情で見つめるシュウの間には闘争の影がちらつき、すでに一触即発寸前の雰囲気までもが漂っていた。

「引っ込んでろ……ってのはどういうことだい?」
「そのままの意味だ。もうこれは子供が出る様な戦いではない」

なるべく、なるべく、表情だけは柔らかく作ろうとジーンはシュウに向かってゆっくりと言葉を連ねる。
だがしかし返って来たのは辛辣すぎるシュウの返答で、復讐に眼を曇らせたジーンがその意味を許容出来たのはほんの一瞬だけだった。

「おいおいおいおい。おかしい話だろ。何で関係のないアンタからそんなこと言われなくちゃならないんだよ。アンタはエルクのただの子守りだろ」
「フッ……牙を剥くだけの獣がガルアーノに勝てるとでも思っているのか?」
「勝てるかじゃねぇんだよッ!! 殺さなきゃならねぇんだ!」

ギチリと歯を食いしばったジーンに、さもそれがおかしいことだと言わんばかりにシュウは告げる。
お前は力不足なのだと。お前如きではただ無駄に命を散らすだけなのだと。

無論シュウの心中にあったのはそんな嘲りから出た言葉ではなかった。
もはやエルクら子供達に戦いを押し付けるなど、暗い過去を積み重ねて来たシュウにとても許される事ではない。
そして、ジーンもエルクも優しい言葉で理解出来るような賢い人間ではなく、否、賢しく考えられるような余裕など彼らにはなかった。

故に、拒絶する。否定する。
シュウの予想通り、ジーンはその言葉に軽々と怒りで目を曇らせた。

「殺す? ならばはっきりと言ってやろう。お前には無理だ」
「あぁ?」
「クッ……まるでチンピラだな、小僧」

その言葉が引き金となった。

額に青筋を浮かばせたジーンが、腰元からナイフを引き抜いて一気にシュウへと肉薄する。
未だ隙だらけに腕を組んだまま立ち尽くすシュウへの、完全な不意打ちによる攻撃。
ジーンとて直接怪我をさせるようなつもりなどさらさらなかったとはいえ――――今の彼がそのような器用な真似が出来るほどに冷静かどうか。
シュウもまたそんな危ういジーンの攻撃を馬鹿正直に受けるわけもなく、そのまま大きく袈裟切りを繰り出してきたナイフに右手の甲を重ねた。

長閑な村の中に響く鉄と鉄が賦使いり合う甲高い激突音。
そのままギリギリと押し合ったシュウとジーンの顔が近づき――――そして浮かべる表情は対照的だった。

「なぁ、シュウ。邪魔すんなよ……アンタなら分かるだろ?」
「ガキの言うことなど知らん」
「ッ…………ああ、そうかよッ!」

にべもなく言い返すシュウの無表情に僅かに気圧され、それを誤魔化す様にしてジーンは回し蹴りを放つ。
といってももはやそれは何時も見せる様な軽やかなそれではなく、シュウから見ればそれはあまりにも無様な攻撃だった。
飛んできた右足をそのままおざなりに掴み上げ、力任せに放り投げる。
呻くような声を上げて投げ飛ばされたジーンは、余裕綽々とその場からさえ動かないシュウを見やり――――再び血が上る。

「おおおおおおおッッ!!!!」

無理やりに掴みかかる。
もはやシュウはそれに付き合う故もなく、影のようにしてジーンの懐に入り込むと勢いのままにその鳩尾に膝をめり込ませる。
どぼりと鈍い音が響き、そのままつんのめる様にしてジーンはうつ伏せに倒れ動かなくなった。

「…………チッ」

果たしてその舌打ちは誰に向けられたものか。
自分か。それとも目の前で無残に倒れ伏す一人の少年か。
自分たちの背後で、茫然と戦う様を見ていたエルク達か。

「シュウ……何で」

シュウの記憶の中で見た最も幼いエルクが見せた時のような、縋るような深紅の瞳。
震え、怯え、そして僅かな怒りを灯らせたそれ。
ああ――――引き返すつもりもない。
シュウは静かに決意した。

「もはやお前達の出番はない。この地で――――いや、もう戦いに関わるな」

此方を呆けたように見つめるエルクの肩に手を置こうとして、止めた。
そしてそのままシュウは神殿の奥へと消えていく。
エルクと同じように突っ立ったまま事の様相を理解出来ないシャンテやリーザを置き去りにして。





足元から全てが崩れ落ちて行く様な感覚。
倒れ伏すジーンを見ながら、エルクはそんな感覚を覚えていた。













前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026710033416748