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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] ニ十ニ
Name: ぢくべく◆63129ae9 ID:cea8e1d8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/23 18:09




「え」

ガルアーノの意味不明な言葉を聞き、その狂い嗤う様子に呆けていたエルクの口から乾いた声が漏れた。
部屋の上部、ガラス窓の向こう側に向け見上げていた視線をゆっくりと下ろす。
自らの胸元に眠るミリルをしっかりと確認し、長く伸びた金の髪に隠れて見えない彼女の顔に不安を覚えつつも、ようやくにしてエルクの意識は彼女ではなく自分の身体へと届いた。

唐突に腹部に走る激痛に気付き、ミリルを抱いていたはずの右手からどんどん力が抜けていく。
震える左手で唐草色の外套の下を弄れば、あるはずのない水気がその左手を濡らす。
どろりと纏わり付くような、赤いモノ。
やがてその赤に隠れた透明な何かに視線を落とし辿れば、それはミリルがそっとエルクの下腹部に当てた手から出た氷の刃だった。

「ミ、リル…………?」
「……ふふふ」

茫然と彼女の名を呼んだエルクの耳に、あまりにその人と似つかわしくない邪悪な声が遠く聞こえる。
もはや意識すらおぼろげで、救ったはずのミリルの表情さえぼやけて見える。
ただそんな中、自分と同じくシュウやジーンまでもが息を飲んでいる様子を感じ取れたのが、これは夢ではないのだと認識させた。

やがて薄れていく意識。
エルクが身体を支える力さえなくその身を地面に横たえた時、手から自分の流した血を滴らせて見下ろすミリルの顔が一瞬はっきりとした輪郭を帯びた。
人形のような可憐さをそのままに、少しだけ大人びた陰りを見せる顔。
三日月を描き、本当に心の底から嬉々とした感情を見せている様な口元。
そして……嫌悪感を抱かせるほどに濁ったサファイアの瞳。

「フフ……あははははははは!!」

それはエルクの望んだ音色ではなかった。
共に笑えることを目指し、今この手にミリルを抱いていたはずだったのに、その彼女の口から漏れる嗤い声は、エルクの望んだものではなかった。
部屋中に響き渡るミリルの狂笑と、その中に混じって響くガルアーノの者が同じ物だと理解した時、エルクは絶望のままにその瞳をゆっくりと閉じていった。

「エ、エルク…………エルクッ!」

即座にこの混乱した状況に声を上げたのはリーザだった。
うつ伏せに伏したままピクリとも動かなくなったエルクに駆け寄りその身を抱き起こせば、既にエルクの倒れた床には血の跡がべったりとこびりついていた。
リーザの表情から血の気が失せ、それでも、パニックに陥りながらも治癒魔法を唱えようとエルクの腹に手を翳す。

「おおおおおッ!」

すればそんな様を見下ろして嗤うミリルにシュウが咆哮と共に回し蹴りを放つ。
今の今まで繰り返したような蹴りとはまるで違う、とても人間の身体とは思えない唸りを上げて空を切るその蹴りは、残像すら残さない。
しかしその大樹さえへし折ってしまいそうな蹴りは、ミリルの前面で見えない壁に阻まれたかのように止まった。
眼を凝らしてみれば見える、氷の壁。
シュウの蹴りもまた人外染みた威力を以って放たれたものであるが、それは氷の壁の中ほどまで足をめり込ませただけで止まっていた。

「エルクがっ、エルクが!」
「落ち着きなさい! 急所には入っていないわっ」

ただエルクの名を叫び、矢鱈目ったら治癒魔法をかけようとするリーザを叱咤するかのようにシャンテが声を上げる。
しかしシャンテもまた最悪の状況に陥った状況から表情に余裕など残らず、エルクの腰にぶら下げたポシェットから医薬品を引っ張り出していた。
そして、そんなそれぞれの様子を茫然と見つめたまま立ち尽くすジーン。

「…………」

彼の視界に広がる光景は、まるで予想だにしなかったものであった。
ミリルを助けて、そして次にクドーを。
次だけが彼には見えていたはずだった。
忌々しいガルアーノの声を聞きながらミリルを縛る鉄塊を叩き伏せ、そして次は、クドーの、親友の。

茫然と口を半開きにし、瞳に灰色を混ぜながらそのクドーを見やる。
ジーンの視界に映る彼は、ただ腕を組んだままこちらの状況を無表情で眺め、やがてその隣には計画通りと言わんばかりにシュウの攻撃を受け止めたミリルが立つ。
そこでようやくミリルの表情を見れば、その美貌には不自然なほどちぐはぐな印象を受ける邪悪な笑みが浮かんでいた。

ジーンの頭で、心の中で急加速する混乱。
何が起こった。何故こうなった。どこで、間違えた。
やがて音すら無くなってしまった中で唐突にジーンの耳に届いたのは、マイクから流されるガルアーノの声だった。

『ハハハハッ! 傑作だ……これを喜劇と呼ばずに何と言う!?』

瞬間、ジーンの視界が真っ白に染まり、気付けば練ったことも無い様な強大な魔力をその手に具現させていた。
美女と見紛うばかりのジーンの表情がどす黒い怒りで塗りつぶされ、一挙手一投足が限界を振り切ったように狂い奔る。
薙ぎ払うかのようにしてその魔力の籠った右腕をガルアーノへ振るえば、軋んだ音を響かせながら一閃のかまいたちが一直線に飛んでいく。

「うおおおおおおあああああッッ!!!」

叫びにならぬ叫びだった。
ただジーンが理解出来たのは、ガルアーノに向ける純粋な怒り、憎しみ。
それに従うようにして爆発した彼の力は、それこそ先ほど見せたエルクの力に抗するほどに巨大なものであった。
しかし彼の刃は届かない。
轟音を上げ、白煙に塗れたガルアーノを守る強化ガラスは、それでも傷一つ付かないものであった。

『ほぅ……孤島でぬるま湯のまま生きてきた素材と言えど、やはり風使いのジーンか。安心しろ、貴様もエルクともどもキメラとして使ってやろう』
「テメェはっ…………テメェだけはああああ!!」

もう一度腕を振るう。
しかしその都度巻き起るかまいたちもガルアーノに届くものではなかった。
次第に息が切れ、それでも憤怒の表情を緩めないジーン。
銀髪を振り乱しながら悪鬼のごとく怒り狂う彼ではあったが、それは救いを閉じられたことに絶望したジーンの最後の手段であった。
エルクが沈み、ミリルが嗤うその中で、ただ唯一ジーンが縋れる感情であった。

「ジーン」

ふと、どこまでも通るような凛とした少女の声が響いた。
残酷なことに、声だけはジーンの記憶にあるそれと似通っていた。
成長してもなお、声の奥にある優しげな響き。そして尚も意思の強さを感じさせる透き通った声。
ゆっくり、ゆっくりとジーンが声のした方を振り向けばそこにはミリルがいた。

「ジーン」
「……ち、違う」
「ジーン? 私だよ? ほら」
「あ、ああ……」

優しい。
それなのに、ミリルは氷の刃を右手に携えながら嗤っている。
望んだ姿が。
それなのに、瞳に映す黒はミリルではない他のナニカ。

「ジーン! しっかりしろ!」
「違う、違う、違う。お、お前は、ミリルじゃ……」
「酷いよ。ジーン」

本当に悲しそうな貌と声でミリルは儚げに俯く。
そのあまりにもミリルに似通いながらかけ離れた様子に、ジーンはわけのわからない存在に怯える様にして剣を突きだした。
戦う構えではない。
腰が引け、足は一歩一歩と後退し、シュウの掛ける声など聞こえていないかのように一人否定の言葉を繰り返す。
蒼白な顔を浮かべたまま、ガチガチと歯を震わせて剣を振りまわしていた。

舌打ちを一つ。
今までにない危険な状態に顔を歪めて零したシュウの舌打ちなど、何の意味も齎さなかった。
倒れ伏したエルクの治癒に慌てふためくリーザとシャンテ。友が倒れ、友が牙剥き、友が見つめるその中で恐慌状態に陥るジーン。
未だ自分達は虎穴の中。

目まぐるしく回転する頭の中に一つたりとも現状を打破する作戦が思いつかない。
ふと一つの可能性に行きつき、シュウははっとしてピクリとも動かないクドーに視線を向ける。
辿り着いた可能性は、あまりに残酷な事実だった。

「このために俺達を、エルクを」
「そうだ。不良品のまま動かないミリルを覚醒させるため、貴様らをここへ招いた。どうも俺の狙いを貴様らは勘違いしていたようだが」
「エルクは貴様を信じていたッ!」
「信じたかっただけだろう。本当に甘いのだな。シュウ」

あまりに無慈悲で残酷なクドーの言葉。
まるで機械のように並べたてられるクドーの真実に、シュウは砕け散るほどの力で拳を握りしめた。
果たして攻められるのは愚かにもクドーを信じたエルクか。それともそれを裏切ったクドーか。全ての元凶であるガルアーノか。
――――甘きに身を委ね、この現状を創り出したシュウか。

「もう、躊躇はせんぞッ!」
「もう一度だ、シュウ。今更だ、と」

吼えるシュウを嘲笑うかのようにクドーは徐に自ら包帯塗れの胸元に勢いよく右手をねじ込ませた。
自ら心臓の部分に抜き手を入れる行動に眼を大きく開いたシュウを尻目に、血を巻き散らせながらどんどん奥までめり込んでいくクドーの手。
やがてその胸の中から何かを引っ張り出す様に腕を振るえば、クドーの手には背丈ほどもある巨大な赤黒い大鎌が握られていた。
武器として存在する一般の大鎌とは違い、先端や柄が奇妙に捻じれ曲がったそれは、クドーの血を滴らせながらもどこか生きているかのように脈を打っている。

「同じ殺し方? 魔の才はない? キメラである俺と人間を比べるなどあまりに愚か」
「クドーッ……」
「そう縋るような眼で見るなよ、ジーン。直に共にいられる。キメラとなって」
「私はそれが望みなの。大丈夫。ちゃんとエルクも一緒になれるから」

一人、クドーとミリルの前に立ちはだかるようにして構えを取るシュウ。
その背後で剣をただ持っているだけと化したジーン。
望まれない戦いが、始まってしまった。





◆◆◆◆◆





「あはははは! 誰かは知らないけど、私達の邪魔をしないでよっ!」

死闘。しかしそれは対等なものではない。
ただ一人ミリルとクドーの攻撃を避けながら耐え続けるシュウを甚振る、ただの殺戮ショーであった。
異能の才がないとはいえ、それでもエルクの戦いの師であり、未だ現役を誇るシュウの力はこのメンバーの中でも最も高いものである。

それでも、その差はあまりにも強過ぎるミリルの異能とクドーの不死能力の前にあまりに無意味。
まるで天候を操るかのように部屋には猛吹雪が吹き始め、ミリルが操る氷の力はガルムヘッドを足止めしたシャンテとは天と地ほどの差がある。
ただ手を翳せば、壊死してしまうほどのブリザードがシュウを襲い、腕を振るえば人間大の氷塊が数えきれないほどの群れをなして飛んでいく。

そんなミリルの雑な援護を背中から受けつつ、それでもまるで止まらないクドーの大鎌は幾度もシュウの身体に赤の跡を付けていった。
時折ミリルの放つ氷の槍がクドーの背を貫いても、彼はまるで気にした風もなくシュウに襲いかかる。
痛みに耐える表情など浮かぶわけも無く、ただただ笑みもなくシュウを圧倒するのみだった。

「ガッ! ……ゲホ」
「もはや万策尽きたか。さっさと沈め」
「ねぇ、早くエルクとジーンと一緒になりたいの。だから早く死んで?」

ぎしりと歯を食いしばれば、シュウの口元からは血が流れ落ちた。
せき込むごとに大量の血が吐き出され、それでもまるでクドーとミリルは手を休めることも無く、銃を抜く暇すら与えない。
ただ一人戦力として数えられるシュウの立場からは後退という選択など無く、彼の後ろでは未だジーンが方を震わせているだけだった。

いや、違う。確かにジーンは震えていた。
それでも彼はその震える右手を握りしめ、その手に持ったソードを徐々に持ち上げ始めた。
おぼつかない足取りで立ち上がり、瞳を絞ったまままっすぐクドーとミリルの方を睨みつける。
もはや友ではなくなってしまった者を、まっすぐ見つめる。

「オオオオオオオオッ!!!」

ただ吼えただけだったのかもしれない。
未だ剣を振り上げる気力も無く、天に叫んでみればそれだけでジーンが幾度も肩を上下させてその銀髪が垂れ落ちる前髪に表情を隠した。
だが、確かにその咆哮はミリルとクドーの動きを止めた。
そしてその瞬間を見逃さなかったシュウが拳をクドーの胸にめり込ませながら吹き飛ばし、それに反応したミリルの氷塊は後ろから飛び出したジーンの剣に叩き斬られた。

「ジーン? 私達を傷つけるの?」
「…………」
「私たちは、友達じゃないの?」
「友達だったら、こんな真似するわけねーだろーがっ!」

その手に握った剣をジーンは今にも放してしまいそうになる。
その逆、その手の剣を今にも眼の前のナニカに振り下ろしてしまいそうにもなる。
これがミリルだというのなら、剣を握る意味はない。
これがミリルでないのなら、振り下ろさない理由はない。
しかしそのどちらを選ぶことも出来ず、ただ喚く様にしてジーンはミリルの言葉を否定した。

「頼む。やめてくれ……なぁ、ミリル。俺たちはっ」
「フフフ……おかしなジーン。どっちも友達って言ってるのにちぐはぐなんだもの」
「くそっ、ちくしょうッ……」

勇んで前に出た。シュウを助けるために剣を抜いた。
しかしジーンがミリルを斬れるわけなどなかった。
どんなにその心を闇に染めても、邪悪に顔を歪めても、嘲笑っても、ジーンの眼の前にいる少女の姿はどこまでもミリルだったから。

「足掻くな、ジーン。そう苦しむこともないだろうに」
「こんなのおかしいだろっ! 何で俺達が……お前らと……」
「嘆くばかりだな……そんなザマだからエルクはああなったのではないのか?」
「ふざけんなよ! あいつがどれほどお前らのことを考えてたのかわかんねーのかよっ!!」

声を張り上げ、クドーの言葉に噛みつく。
しかしクドーはただ一つ呆れたようにため息を吐いただけで、シュウの攻撃など歯牙にも掛けぬまま震えるジーンの首元にその大鎌を貼り付けた。
有無を言わさずジーンの開きかけた口が閉じ、それを防ごうとするシュウもまたミリルの攻撃によって動けない。
カラカラになったジーンの喉から出るのは、ただ何故と問う言葉だけだった。

「クドーッ……」
「おかしな奴だ。キメラとなった人間を、自分を騙した化け物を、刃を突きつける敵を友と呼ぶなどと」

懇願するようにクドーの名を呼ぶジーンに、もはや興味は失せたと言わんばかりにその鎌を振り下ろすクドー。
ただコマ送りのように捻じれ曲がった大鎌がジーンの首元に吸い込まれていく中、ただリーザもシャンテも、そしてシュウも茫然と見ているしかなかった。
声を上げ、それを制止する余裕すらなかった。

静寂が。
もう数瞬後には起こってしまう凄惨な結末に誰もが口を紡ぐしかなかった。
故に何一つ音の残さない静寂が彼らを包む。
そんな中で誰かの耳に届いた、誰かのか細い声は確かにクドーの手を止めた。

「―――――――――」

ゆらりと、立ちあがる者がいた。
動きを止め、一つの絵画のようにして動向を見守るだけとなった者達の中、足を引きずってクドーとミリルに近づく者がいた。
血を流し、治癒しかけた腹の傷跡を抑えながらも、その足を止めぬ者がいた。

「ガキだった頃」

ふらりとおぼつかない足取りでジーンの隣に立ち、彼の首元に赤筋の薄い線を作った大鎌を血だらけの右手で握りしめる。
その蚊ほどの力も無い腕で握られた大鎌を、クドーは不自然なくらい簡単に地面に下ろす。
素直に、従順に、クドーはその手から力を抜いた。

「俺たちは何度も約束を交わしていた」

ポタリ、ポタリ。
足を進める度に血が流れる。

「ずっと一緒に。誰かを守る。生き延びる……助けに、行く」

徐々に広がっていく声。
死闘を繰り広げていたはずの中で、どこまでも遠く響き渡るような震える声。
そこに絶望は欠片ほども存在していなかった。

「それは嘘でもなく、本当に心の底から交わした約束だった」

違和感。
ミリルがそれを感じたのは、その者の声をしっかりと聞いてしまってからだった。
痛いほどに胸が締め付けられ、身体を覆う何かが苦しむようにして心の底を這いまわる。
ただ暴力に酔いしれた身体には、どこか懐かしい感覚。
ミリルは、無意識に胸を強く握りしめていた。

「でもそれは、大切じゃ、ない」

まるで自分の身体も心も全てが裏返ってしまう感覚。
茫然と立ち尽くし、ただその声に聞き入るミリルの心に、ナニカが溢れ返る。
ようやくにしてミリルは、自分が自分ではないことに気付いた。

「約束とかじゃなくて」

炎は、炎を湛えた瞳は、笑っていた。
ごく自然に優しくクドーの肩に手を置き、瀕死の顔で笑っていた。

「友達だったら、助けるだろ?」

その言葉が響いた時、ミリルの頭に激痛が走った。

「あああああああああっ!!」

まるで金切り声のように響くミリルの悲鳴に、誰もがはっとして彼女の方に眼を向けた。そこには弄る様にして身体を両手で抱きしめ、頭を振るうようにして苦しむミリルがいた。
顔は苦痛にゆがみ、まるで自分自身を縛り付ける様にして自分の肌に爪を食い込ませるほど抱きしめる。
あまりに唐突な異変だった。

「ミリル!?」
「あ、ああああ……うああああああッ!」

ジーンの声に反応するかのように、ミリルの身体からは今まで以上もの吹雪が渦を巻く様にして漏れ出ている。
有象無象区別なく氷の彫刻に変えていく極寒のブリザード。
しかしそれはまるでエルク達を避ける様にして部屋中を蹂躙するばかり。
やがてその様子に誰よりも早く声を上げたのは、強化ガラスの先から眼下の様子を見続けていたガルアーノだった。

『なッ、何だと!?』

今の今まで一度も聞くことがなかった、珍しくもガルアーノの焦ったような声。
そちらの方を見上げたエルク達の視界に映ったのは、ガルアーノのいる部屋奥から炎のような赤い揺らめきだった。
そしてそれに続く様にして聞こえる部屋を揺らしながら響く爆発音。

「に、げてっ……」

そして聞こえたのは、苦しむままに絞り出す様に聞こえたミリルの声だった。
吹雪に包まれながらも、必死に途切れ途切れの言葉を送ろうと絞り出されるその声に、エルク達は大きく眼を見開いた。
涙を流し、身の内に潜む何かに苦しむようにして地面に這いつくばる彼女の姿に、クドーがいち早く声を漏らした。

「洗脳が解けかけている」
「ど、どういうことだよ!」
「俺達の知るミリルがこんな馬鹿げたことをするわけがないだろう? お前の言う通りだよ、ジーン」

ジーンの質問に応えるクドーの声は、どこか満足げなものだった。





◆◆◆◆◆





誇りだ。

未だ望まれた結末には足りない段階でありながらも、俺の身にはこれ以上ないほどの充足感が満ち溢れる。
干からびた肌が粟立つほどに震え、眼に映る視界はどこまでも透き通って見える。
耳に通るジーンの声は、何よりも欲した響きだったような気もする。

少々やり過ぎたか、などと考えながらシュウやエルクの傷跡を眺めれば、少しだけあるかどうかも分からない心が痛んだ気がした。
誰かを傷つけることに関してはそんなことなど随分久しい感覚だというのに。
眼の前で苦しむミリルの姿を見れば、果てしなくガルアーノが憎くなり、そして彼女の苦しみをなんとしてでも取り除きたいと心が逸る気がした。

色を取り戻していく心。
ただ一つ求め続けた『証』を元に、都合のいいまでに変わっていく灰色の心。
目まぐるしく変化していく記憶全てに感情を塗りつけたくなり、そして感傷に浸りたいとも思い始めた。

「……クドー?」
「もう少しだ、エルク。ミリルにもう一度声を掛けてあげてくれ」

先ほど見せてくれた、どこまでも俺を信じてくれたエルクの笑みには到底敵わないようなぎこちなさで俺も笑う。
ただ包帯に塗れた男の顔が見せる笑顔は醜いものかもしれないが、エルク達は何かおかしいものを見た時のように唖然と俺を見つめるだけだった。
そして、シュウの向けるあまりに厳しい敵意に心が痛んだ。

そう、今更に俺は心を、被害者気取りのように痛めた。
ならばやはり、俺は――――。

徐々にミリルの支配すら効かなくなっていた猛吹雪の中に混じる氷塊がエルクを目がけて飛んでくる。
無論それを通す理由などなく、持っていた大鎌で弾き返す。
今まで敵対していた者をかばった形になった事実は、やがてジーンやリーザ達にも事態を飲み込もうとする冷静さが生まれ始めてきた。
ミリルの抵抗によってパニックに陥っているガルアーノの眼が届かない今こそが好機。

「ジーン。俺たちは露払い役だ。気張るぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! な、何が……」

見た感じでは一番冷静になれそうな男だと思っていたというのに、案外誰よりも状況を理解していないのはジーンだった。
その様子にちょっとだけため息を付きつつも、共に言葉が交わせることにこれ以上の無いほどの至福を感じる。
そんな感情にほんの少しだけ呆ければ、エルクの凛とした瞳が俺を射抜いていることに気付いた。

「…………」
「やれるさ。みんないるんだ」
「……ああ!」

――――。
誰ひとり、俺に勝てる者など存在しないなどという傲慢にも似た自信が膨れ上がる。
俺はこの世で最も幸せな『人間』ではないのかと心が高鳴る。
俺は間違っていなかったと全てが肯定された気分に酔いしれる。

気付けばエルクだけでなく、リーザも、シャンテも、シュウも、パンディットも、エルクを後押しするかのように俺の隣に並んでくれた。
ようやくにしてなんとなく流れを理解したジーンに吹きだすものを堪えながら、真っ先に吹雪の中心で苦しむミリルへの道を切り開く。

身体中を蝕む吹雪が、徐々にエルクの放つ熱風によって色を失っていく。
それでも止まない氷塊の雨はシュウの銃弾に、ジーンの放つ風に、リーザの唱えた魔法で、相殺されるシャンテの魔法で、パンディットの拳で砕いてゆく。
専ら俺は、ただ愚直にミリルへと走り抜けるエルクの盾となるべく、彼の隣を疾走する。

『クドーッ!? 貴様何をしている!!』

何やら聞こえた気もするが、すぐにその声は頭に入るでもなく右から左へ聞き流す。
一歩、一歩、すでにミリルはエルクの手の届く場所で蹲っている。
一人、内に潜む魔と戦いながら、それでも助けを待っている。
やがてエルクの方に真っすぐ飛んできた氷塊をその身で受け、咄嗟にこちらに駆け寄ろうとしたエルクを咎める様にして先を促す。
俺など構わず先に行け。心躍るような情景に氷塊によって吹き飛ばされたまま笑みを浮かべてしまった。
これは気持ち悪い。

「――――――」

残念ながら、ミリルの下に辿り着いたエルクが何と声を掛けたのかは部屋中で巻き起る吹雪のせいで聞こえなかった。
それでも、ぐったりとして動かないミリルを抱きしめ、やがて白に埋め尽くされる景色の中でエルクがその顔をミリルの顔に重ねた絵が見えた気がした。
このマセガキめ。本当にこれじゃあお姫様と王子様じゃないか。
でも祝福する。





――――ああ。
こんなにも晴れ晴れとしたのはいつぶりなのだろうか。
エルクによって、いや、皆の力によってミリルの暴走が収まった部屋で俺は大の字のまま天を見上げた。
あれほど忌まわしく、何もかも全てを破壊したくなった白の部屋から見えるライトの並んだ天井が、今は青空よりも貴く思える。

ちらりとジーン達の方を見れば、シュウなどは重傷を負いつつもどうやら皆無事でいるらしい。
諸手を上げながら抱きしめあうミリルとエルクに駆け寄るジーンが見えた。
そして照らされるライトの光を遮る様にして俺を見下ろすシュウ。
光に遮られて黒く影を残す彼を見ても、俺が付けてしまった赤い傷跡は生々しい。

「……これが、お前の望んだことか?」
「ああ」
「なら、いい」

それきりシュウはこちらを見下ろしていた視線をエルクの方に向け、それをただじっと見つめていた。
いつものような鉄仮面の、俺にも出来ないような無表情。
だがしかし、その奥に隠された嬉々とした感情を俺は知っている。
この人は、そう言う人だ。

やがてエルク達が俺の方にも寄ってくる。
何だかミリルと比べると優先度が低い様な気がして悲しくもなったが、まあ、俺たちにとってミリルとはそういう人間だ。
彼女こそが俺達の支えであり、彼女の言葉に幾度も救われてきた。
幼き日に受けた恩はこの救出劇を以ってしても返せないだろう。

「クドー!」

ミリルの、聞かなくなって随分と久しい俺の名を呼ぶ声。
少女であった時のたどたどしい喋り方は消え、天真爛漫なものを残しつつも凛とした声は変わらない。
――――満足だ。

「だ、大丈夫か?」
「……問題ないさ」
「でも……」
「それよりも」

こちらを心配そうに見つめる面々を尻目に、ゆっくりとこの身を起こして部屋の上部、強化ガラスの向こうを見やる。
見なくても分かるほどの怒りがひしひしと感じられるが、顔の形が歪む歩に怒りを滲ませられても今となっては間抜けな面ににしか見えん。
ガルアーノという小物が、肩を震わせながらこちらを見下ろしていた。

『クドー、貴様が何をしたか分かっているんだろうな?』
「いちいち問うな、面倒くさい。お前が阿呆だった。それだけのことだろう?」
『貴様ァ!!』

ちらりとエルクの隣で縮こまるミリルを見る。
未だ彼女がその身に抱えるものは除かれず、それこそが悲劇の象徴たる忌まわしき物。
ガルアーノが密かに埋め込んだ自爆装置。
だがしかし『不死身』という力をどこまでも突き詰めたクドーという存在こそが、その可能性を捻じ曲げた。

「もはやここにいる意味などない。ミリルの救出はつつがなく完了。それで貴様ともおさらばだ」
『……儂がこのままみすみす逃すと思っているのか?』
「殺さずに撤退するだけでもありがたいと思え。俗物が」

簡単な爆発物によるものではなく、身体に残った魔の力を暴走させることによって発動する自壊。
それこそがミリルの中に埋め込まれたもの。
単なる爆発では死なない俺という存在がいたからこそ、変更されたもの。
どちらにせよ、命を奪うという点では変わらないが。

『ク……ククッ……ゲギャギャギャギャギャギャギャ!!!』

唐突に、壊れたように響き渡るガルアーノの声なのかもわからぬ音に、誰もがその目を疑った。
腹を抱え、眼の前のガラス窓を絶え間なく叩きながら唾を吐き散らすガルアーノ。
しかし俺はその一挙手一投足を注意深く見つめ、その時を見逃さぬように構える。
準備完了。せいぜい吼え面掻くがいい。

『貴様には何も渡さんよ、クドー』
「つまらん」
『くふっ……うふうふううううふふふ………………やれ』

短いガルアーノの合図と共に、俺の近く、エルクの隣にいたミリルから尋常でないほどの魔の気配が膨れ上がった。
同時に跳ね上がる様にしてその身を逸らせ、口をパクパクとさせるミリルに眼を見開くエルク。
だがさせない。
これだけが、俺の仕事だ。

「ミリル!?」
「どいてろ」

慌ててミリルの身体を抱きしめるエルクをどかし、右手をミリルの心臓の部分へと押し当てた。
一気にその手からどす黒い液体のような影を滲みだし、ミリルの身体を侵食するように一点に染み込んでいく。
そして、俺の身体には煮えたぎったマグマが流し込まれたような激痛が走った。

「ぐ、う、おおおおお……」

痛みを感じるはずの無いこの身体が悲鳴を上げる。
ミリルという優秀な素体故に用意された自壊装置は、俺のようなものにといっては許容範囲以上の膨大な魔の……キメラの力だった。
しかし、歯を食いしばり、震える右手を抑えながらも耐える。
気がつけば唇からは血が流れ、突きつけた右腕からはまるで噴水のような血が噴き出していた。

「あ……あ、あ、あ……」

苦しいのはミリルも同じ。
まるで気が触れてしまったように口を大きく開けたまま痙攣するミリルに、嫌な光景を重ねてしまう。
遠い日、遠い記憶。
誰ひとり助からずエルクだけが残ってしまうその結末を。

「おおおおおおおおっ!!」

大きく吼えると共に、ミリルを侵食していた影をこの身に戻す。
相変わらず身を焦がすような激痛は収まらないが、それでもすっかり死相など消え去り、少しだけ苦しそうに眼を瞑ったままなミリルを視界にいれれば自然とその痛みを耐えられた。
どうやら――――全てがうまくいったらしい。
ミリルの身体に渦巻くどす黒い力のほとんどを、この身に移し替えた。

『なっ……』

耳鳴りがするほどの激痛の中、ガルアーノの驚くような間抜けな声が聞こえた。
今まで幾度も傲慢に悲劇を重ねては、友を苦しめ、悦に至り、運命を弄んできた男の情けない声。
眩暈がする。息が苦しい。身体が痛い。
だが、叫ばずにはいられなかった。

「……貴様に! 何一つ渡してやるものかっ!!」

響き渡る一つの足掻き。
俺の言葉の意味を理解したガルアーノが拳を振り上げた時、この白い家そのものを揺るがすような振動が俺達を襲った。
鉄が悲鳴を上げる様な音を上げ、警報が鳴り響き、エルクもガルアーノもふと天を見上げた。

そう、全ては俺の計画通りに動き、そして結末に至る全てが俺の勝利で幕を閉じる。
ミリルの身体から取り除いた魔も大きくはあるものの、俺そのものを暴走させるにはまだ足りない。
未だミリルの身体には少しばかり魔の残滓があるものの、それに関する対策も用意してある。

『…………』

地面に手を付きながらも、慌てふためくガルアーノを睨みつけ、嗤う。
すれば奴もまたこちらに気付き、轟音の上がる真っ最中だというのに、奴は無表情のままこちらを見やり、何やら後ろの研究員に向けて何かを告げた。








ただ一つ。

ただ一つどうにもならなかったものと言えば。





奴が俺に仕掛けた自壊装置を、どうにもできないのだということだ。
















<あとがき>

次回更新でその他版に移しますので更新確認の際はご注意を。



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