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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] ニ十一
Name: ぢくべく◆63129ae9 ID:cea8e1d8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/20 17:58





「威勢はいいが」
「……させんッ!」

ミリルの眠る棺桶と化している鉄塊に向け武器を構えたエルク達の背後、ガルムヘッドの機械的な咆哮に紛れる様にしてクドーが周りこんでいた。
影に、闇に隠れる様にして放たれた凶刃。
しかしクドーが狙い、振り上げられた二刀は即座に反応していたシュウの手甲によって甲高い金属音を鳴らして遮られた。

「ふん。甘くはないか」
「エルク! そちらは任せるぞ」
「くっ……ああ!」

クドーの言葉に応えることなく、シュウは背後で奇襲に眼を開かせていたエルク達に役を課した。
クドーを救うにしてもミリルを救うにしても、今は兎に角あの鉄くずが邪魔だった。
同時にシュウに課せられるのは一人受け持つクドーの相手。
倒してはならない救うべき者。

「チィッ……」

ギャリギャリと削るような音を立てるナイフと手甲。
どこかデジャヴにも似たこの光景に、シュウの脳裏に浮かんだのは廃墟の街で行った戦闘とも言えない両者の激突だった。
しかし今彼の眼の前で刃を突きたてるクドーの動きは、過去のものとはまるで違う。
突き合わせていた二刀の内の一刀からバランスを崩す様にして力を抜き、シュウの身体を一瞬揺るがせてみれば、驚くべき速さでクドーは残った刃で切りつけてきた。

もはや手加減というものなど一つもない。
一撃一撃に必殺の意思が込められ、過去に相対していた時の違和感が欠片も存在しない。
クドーとは親友でもまして知り合いですらなかったシュウが、唯一、クドーが自分達に味方していると考えるに値する事実が消え失せた。

「やはりっ……」
「不要な考えだ。シュウ」

速さを増し、狂気を乗せてやってくる刃に苦悶の表情を浮かべながらそれらを掻い潜るシュウ。
あの時見せたクドーの実力は本当の物ではないと正しく理解しておきながらも、これほどまでに動ける輩だとは思いもよらなかった。
キメラだという事実を差し引いてみても、シュウの眼に映るクドーの力は苛烈を過ぎてどこか狂気的なものまで見えていた。

袈裟斬りに繰り出したクドーのナイフに自らの拳を合わせ跳ね上げる。
その反撃によって隙だらけになったクドーに回し蹴りを繰り出せば、そのシュウの足が顔に近づく寸前で彼がにたりと笑う。
クドーが選んだのは防御でも回避でもなく、攻撃。
迫りくるシュウの蹴りなどお構いなしと言わんばかりに強引に手に持ったナイフをシュウに向かって投げつけた。

「ガァッ!」

痛みに声を漏らしたのはどちらか。
鈍い打撃音が響き、跳ね飛ばされるようにして宙に舞ったクドーは顔に張り付いていた包帯を靡かせながら受け身を取る。
それに対し万全の状態で攻撃したはずのシュウの肩口に深々とクドーの真っ黒なナイフが突き刺さり、シュウの黒装束に赤黒い染みを広げていた。

蹴られた衝撃で少しだけ歪み、巻かれていた包帯に視界を遮られながら犬歯を剥き出しにして笑うクドー。
それを見やるシュウの視線には、ナイフによる痛みで少々苦痛に歪みながらも、どこか先ほどまで持っていた甘さが消えかけていた。
不死という能力を活かし、『相討ち』などという馬鹿げた戦法で襲いかかる一体のキメラ。

そう、もはやキメラ。
クドーの行動にはこちらを生かそうだとか、助けようだとかそういった狙いは何一つ見られない。
廃墟の街、ガルアーノ屋敷と会った時に見せた知性の欠片も、何かを企む様な匂いすら感じさせない。
ここまでくればもはやシュウの頭に相手を助けるなどというたわけた考えは浮かばない。
しかし。

「俺は、お前を殺さない」
「何を馬鹿な。あの名高きハンターシュウといえども、所詮は人か」
「そうだ。人だ」

互いに傷を負い、少し離れた所で轟音を響かせるエルク達とガルムヘッドの戦いを耳にしながら言葉を交わす。
部屋全体を揺らすほどの音に包まれながらも、寡黙な男と狂気の男は向かい合った。
言葉という物を扱うには、あまりに似つかわしくない二人。
ただ、シュウの瞳には冷酷なものだけではない。

「人はやり直せるものだと知っている」
「何を」
「血に塗れ、硝煙の匂いを漂わせ、その身に狂気を宿していても」
「…………」

肩の傷口を抑えつけていた血で真っ赤に染まった右手に拳を作り、構えを取る。
どこか悟ったようなものを感じさせるシュウの静かな声が、クドーにただ沈黙を促した。
徒手空拳の構え。
銃器などという相手を攻撃する為の武器は一切使わず、迫りくる刃全てを受け止める覚悟がその構え。
そして息を合わせたように二人は真っ向からぶつかった。

爆音、破砕音が響く部屋の中で静かに響く手甲とナイフのぶつかる音。
戦いの傾向が似通っているのか、身軽さを活かしての高速戦闘や手数による連打の戦いは接近戦と間合いを取る行動を繰り返しながら続いていく。
そしてその過程の中で再確認していくシュウのクドーに対する認識。

果たして血溜まりという所以は一体どこから来たのだろうか。
この戦い方の様に相討ちを狙って両者共に傷を負い続けるのならば、成程、それはこの床一面に血をぶちまける要因にはなり得る。
しかしプロディアスやインディゴスの街でクドーが手を掛けた人間の死に様はそのようなものではなかった。

まるで体内に仕掛けた爆弾を起動させたように四肢が飛散したあの殺し方。
およそ今クドーが使っている小さな刃物では、例えそれを以って切断したとしてもあのような殺し方にはならない。
だがしかし、シュウにはあの殺し方に覚えがあったことを思い出していた。

「クドー」
「何だ」

戦いをしているというのに、拳と刃を突き合わせているというのに、互いの言葉は緩やかでそっけない。
それが出来るくらいには双方共に血みどろの戦いに慣れていた。
そう、二人は、その戦闘方法から雰囲気までが似ている。

「風か」
「何がだ」

言うが早いか、それこそニンジャが行う様な印をシュウが胸の前で結び始めた。
それにすぐさま気付き、自らも口元から呪を結ぶクドー。
そんな溜めの時間は一秒か、二秒か。
双方の目前には風の刃が舞い上がり、風切音を鳴らしながら互いの術とぶつかった。

「やはりな」
「…………」
「未だケツの青さが取れんガキの頃。そんな殺し方をしていた」
「何だと?」
「お互い、魔の才はないらしい」

シュウの言葉の通り、互いに放った風はそれこそ魔法として成立しつつも、同じ風系統の魔法を使うジーンからすればあまりにお粗末な出来だった。
掠り傷つけば御の字というレベルで放たれた風の刃は、ぶつかった先に広がる床にすら傷を負わせない。
それそのものを攻撃手段とするにはあまりに貧弱すぎた。

「相手の体内から風圧で四肢を吹き飛ばす。接近して魔法を仕込む時間さえあれば一撃で仕留められる。そうしなければ仕留められないという前提があるからこそだが」
「…………先達者がいたか」
「そんな非効率なものより時限爆弾の方がいくらか楽ではあるがな」

相殺され、クドーの外套とシュウの真っ赤なマフラーを靡かせるほどに弱まった魔法を受け、再び双方は接近戦に戻っていく。
ただ先ほどまでとは違うところを挙げるとするならば、クドーの刃が鈍り、シュウの拳には迷いなきはっきりとしたものが浮かんでいる。
当人達でしか知り得ぬ、しかしそれははっきりとした変化だった。

「やはり手加減をしている」
「…………」

それはシュウの確信だった。
クドーの操るナイフも、そしてその動きも傍から見えるものはどれも『全力』そのものであれ、効率を突き詰めるならあまりにお粗末だ。
しかも彼の放った風はシュウのそれとは違い、どこか邪悪なものを含んだ闇の魔法。
毒か、石化か、それとも睡魔か。何にしてもクドーの操る魔法はただ風ではない、身体に状態変化を来す魔法だった。

そして、彼はそれを使わない。
奇襲を行うというのなら、本当にこちらを仕留めたいというのならば、そんなチャチなナイフよりもそちらの絡め手の方がより有効である。
さらにこちら側が多人数であれば――――。

シュウの長年の経験に渡る知識と、徐々に明らかになるクドーの動きの違和感から答えを探し当てていく。
エルク達の望む友との想いによるものではなく、その場の状況から『クドーが未だこちら側にいる』という事実を浮かびあがらせていく。

「ガルアーノが狙うのはエルクか、それともジーンか。いや、始まりこそリーザだったか」
「…………」
「奴の下卑た欲望の中に俺もシャンテも含まれてはいない」

拳を交わしながら、絶え間なく動きながらシュウの言葉は止まるところを知らない。
本来のシュウと言う男を知る者からすれば、お喋りとも言える無用な行いに終始する姿はあまりに似つかわしくない。
ただ言葉など要らず、行動で示すのがシュウという男だった。

「ガルアーノの屋敷。廃墟の街。そのどちらでもお前はシャンテか俺を間引くことができたはずだ」
「ガルアーノ様が貴様らの絶望を見たいと仰っただけだ」
「にしてはガルアーノが俺やシャンテを見ることはない」
「…………」

シュウの言葉に反論する声をクドーは持ち合わせていなかった。
暴論を並べ立てる者へ呆れから来る沈黙ではなく、真実へと順調に近づく輩に出来るものはそれしかないのだから。
ただクドーは眉を顰め、刃を以って応えるだけだった。

「俺がお前を信じることはない」
「…………」
「エルクの想いに従うだけだ」

その言葉に違いはあったのか。
シュウの行動に迷いなど無く、その動きはただ時間を稼ぐためだけのものと化している。
ただクドーの攻撃を受け続け、こちらからはまるで攻撃を仕掛けようとはしないシュウが、その無表情だった鉄仮面の上でほんの一瞬だけ笑みを浮かべた。

もはやそこに敵に対する時の非情な男の姿などどこにもなく。
シュウがクドーの望み全てを見透かしていることなどあり得ない。
だがしかし、既にシュウはクドーを敵としては認識していない。
そしてそれ以上に問いかけ、クドーを揺さぶってみてもただ沈黙が返ってくるだけだろうと理解していた。

故にシュウは、エルクの想いに。
クドーを信じるという想いに順じるのだ。





◆◆◆◆◆





「風よ! 全てを遮る盾となれっ!」

ガルムヘッドがエルク達に向けて差し出した掌から銃口が覗き、数えきれぬほどの銃弾が放たれた時、ジーンの魔法によって造られた風の壁がその銃弾の勢いを削ぎ落していく。
ガルムヘッドという兵器がたかだか数人を相手にするには、その全ての攻撃は一発一発が致命傷である。
人を相手にするよりも同等の規模の兵器を相手にすることを前提に設計されているガルムヘッドに、エルクは脅威的なものを感じざるを得なかった。

しかしそれに故に動きは鈍重。速さを以って相対すればどこかに隙は見つかるはず。
ガルムヘッドの背部に見える大口径の大砲や、どこか広域兵器のようなものを感じさせるその見てくれに、エルク達が取ったのは即座に散開することだった。
鈍重であればこそ四方からかき乱すことが一番有効であるのは当然。
痛烈なガトリング銃の対応も、リーザ、シャンテ、そしてエルク自身ともにそれぞれが有した魔法の盾によって可能であった。

「しっかしエルクさんよぉ! 手を出すにはミリルをまず助けださねーと」
「分かってる! まずは手とか砲台とかぶった切っていきゃなんとかなるだろ」
「…………誰がやるのよ」

動きこそ緩慢であるものの、一度振り下ろされれば部屋が揺らぎ煙を巻き上げる鉄の拳を避けながらシャンテは呆れたように呟いた。
誰も彼も余裕を見せつつも、一度当たれば五体満足で居られそうもない破壊力を見せつけられ冷や汗を浮かべる。
特攻染みた攻撃の果てに人間よりも大きな拳にクロスカウンターをくらうのは誰であれ御免であった。

「パンディットッ!」

地面に埋もれるほどに拳をめり込ませたガルムヘッドの腕に、リーザの指示によってパンディットの口から吐かれた冷気が降りかかる。
青白い靄は即座にガルムヘッドの拳を覆うが、表面上は凍らせた様子を見せつつもガルムヘッドがその拳を開閉させればすぐにその氷は剥がれ落ちてしまう。
グルルとその結果に唸り声を鳴らしたパンディットにガルムヘッドは銃弾を見舞わせるため、その手の銃口を向けた。

「させない!」

リーザは叫ぶとともに両手を人工物であるはずの床へと叩きつけた。
奔る魔力。
パンディットに襲いかかる多数の弾丸を遮ったのは、地面から盛り上がる様に突起した黄土色の大地であった。
グランドシールド。大地の加護によって対象を守るリーザの魔法は室内でも健在らしい。

『もっと踊ってくれたまえ。ミリルもお前と会えて嬉しいのかもしれんな』
「何? ……どういうことだ」
『ガルムヘッドを動かしているのは他でもないミリルなのだよ。彼女の力によってその兵器は動かされているにすぎん』

轟音鳴り響く戦闘の中、唐突に天井のスピーカーから降ってきたガルアーノの声に、エルクは視線をガラス窓の向こう側にさえ向けず、耳だけで聞いた。

『確かにガルムヘッドは未だ完成形に満たぬ兵器であるが、ミリルの力を用いることによってそれだけの反応を見せている』
「てめぇッ……」
『ともすれば……ミリルの意思がその動きに反映されているのかもしれんなぁ、エルク』

キメラ改造などという見た目さえ変えてしまう実験に使われなかったとはいえ、ミリルをまるで機械の部品のように扱うガルアーノの所業にエルクは歯を食いしばることで耐えた。
いますぐあの男を屠ってやりたい。
全ての悲しみの連鎖を生みだしたあの男を打ち倒してやりたい。

しかしその燃え上がるような瞳をガルアーノに向けるには、眼の前で拳を振り上げる鉄の棺桶は、ミリルを救うという目的にとってもあまりに邪魔なものであった。
その兵器故の脅威よりも、ミリルをコアにし叩きようによっては彼女にまで被害が及ぶという事実がエルク達の手を鈍らせる。
動きを止めようにも生半可な手段ではまるで意味がないのだ。

――――ミリルが俺たちに敵意を向ける。

そんなはずはないと叫ぼうと口を開き、エルクは舌打ち一つ打つだけで顔を歪めた。
もしもミリルが自分達に敵意を、恨みを抱いているのならば、それは否定できないものなのかもしれないという考えがエルクの脳裏を過る。
ふとシュウの方をちらりと見ればクドーは手加減などと言う陰りなど欠片も見せず、シュウに猛攻の限りを尽くしていた。

――――俺は、二人を、見捨てた。

数ある理由を述べてそれを否定するには、あまりにエルクは優し過ぎた。
ならばミリルが自分達を襲う理由も分からなくはない。
だとするのならば、自分達はどうするのか。
このままミリルの、クドーの殺意に従い首を差し出すのか。

「そんなことないっ!!」

幼さが残り透き通ったような声が叫ばれた。
度重なるガルムヘッドの攻撃によって土埃が舞い、その合間より姿を覗かせるリーザがガルムヘッドを前にして立っていた。
前に出るべきではない少女が、震える足を抑え叫んでいた。

「ミリルさんっ! 聞こえますか!」

リーザの声にガルムヘッドは胸部に見える緑色の部分を点滅させて応える
話すことなどないと機械という存在にとって何一つ間違いのない対応。
徐々にその胸部前の空間が歪み始め、空間さえねじ曲がって見えるような熱量が収束し始める。
殲滅兵器『ツォルンブリッツ』。
未だ絞り出す様にして叫ぶリーザに向けて、あまりにも無慈悲な一撃が放たれた。

「リーザッ!?」

シャンテの声はガルムヘッドが放った大口径のレーザー砲によって掻き消された。
耳の奥が掻き回されるような轟音を上げ、その発射された後に残ったのは部屋の地下まで貫通した真っ黒な傷跡。
ツォルンブリッツが発射された跡にはそれだけが残されていた。

「あっぶねっ……無茶すんなよ。リーザ」
「ご、ごめん」

白煙の中、ガルムヘッドの裏に周る様にしてリーザを腰に抱えたジーンが冷や汗を額に浮かべていた。
無事に助け出すことには成功していたらしいが、よく見ればジーンの銀色の長髪の一部が焼け焦げている。
どうやら間一髪だったらしい。

そんな二人の光景に一つ安堵の息を吐き、再びエルクはその視線をガルムヘッドの頭部――その先で眠るミリルへと向ける。
ミリルが自分を憎んでいるかもしれない。自分は逃げ出した卑怯者なのかもしれない。逃げ出した時に誓った想いを忘れた罪があるのかもしれない。
しかしそんなことはどうだって構わないのだ。
今、生きて、ここに集う事が出来た。

「ミリルッ! 聞こえるか! 俺だ、エルクだ!」

声を大にして叫ぶ。
返ってきたのはエルクの背丈以上もの大きさを誇る鉄拳。
当たる義理など無く、当たってやれる弱さなど無く。
ひらりとそれを避ければ、エルクは再び口を開く。

「俺たちが望んだのはこんなことじゃないっ! お前が願ったのはこんな結末じゃない!」

人目など憚らず、部屋の上部で邪悪な笑みを浮かべるガルアーノの視線など気に留めず、叫ぶ。
人の声などすぐに小さくなってしまう戦闘の中でも、エルクの言葉は、声は、確かに届いていた。
それでも止まらぬガルムヘッドの攻撃。
しかし無防備を晒すエルクへの銃弾は風の盾によって阻まれた。

「へへへ。エルク。言ってやれよ。俺達のお姫様に言ってやれっ!!」

戦闘の場には相応しくない、ジーンの清々しい笑顔がエルクの心を押していく。
もう少し、あと少し。
ギチギチと鉄の擦れるような音を出しながら動くガルムヘッドが、しばし揺らいだ。

「記憶をなくし、誓いを忘れ、迷い、それでも俺はここに来た」

誰もエルクの言葉を咎めはしない。
シャンテも、リーザも、ジーンも、その誰もがエルクの言葉に胸を張っていた。

「まだ間に合うと言ってくれるなら、まだ手を繋げると言ってくれるなら、ミリルッ! 眼を覚ましてくれ!」

剣もいらない。
炎もいらない。
ただこの心だけが通じてくれれば――――。

「ミリルッ! 俺は、お前を、助けに来たんだっ!!」

響き渡るエルクの声。
鉄塊と炎の子が相対するその間。
誰かの声が聞こえた気がした。

それは希望を望む都合のいい幻聴か。
それとも度重なる金切り声に紛れた少女の声か。
ただ一つ分かっているのは、ガルムヘッドの動きがピクリとも動かなくなったという事。
それを眼の前にして、ジーンとエルクは示し合わせたかのように剣を振り上げ、ガルムヘッドの頭部へと跳び付いた。

「援護するわよぉ……凍てつけっ!」

援護する為に詠唱へと入ったシャンテの周りに、人の丈もある氷の槍が次々に具現する。
シャンテの踊る様に振るわれる腕に従うように空間を走り、勢いよくガルムヘッドへと降り注ぐ氷結魔法『ダイヤモンドダスト』。
その氷の群れはシャンテの狙い通りに、装甲が薄く、赤白のコードを晒す関節の隙間へと吸い込まれていった。

「お願い! パンディット!」

氷の槍を杭のようにして地面に打ち付け、動けなくなったガルムヘッドをさらにパンディットの吐いた冷気が襲う。
今度こそはとひと際大きな咆哮を以って吐かれたコールドブレスは、ガルムヘッドの胸部までを瞬く間に青白い氷の塊へと変えていく。
もはや指一本まで動かせなくなったガルムヘッドの頭部では、エルクとジーンがほぼ同時に鉄の頭部へと剣を振り下ろしていた。

「「うおおおおおおっ!!」

気合一閃。
共に砕け散らんばかりの力を以って叩きつけられた剣によって、やがてミリルの眠るカプセルを守っていた装甲に罅が入り始めた。
まるで獣のように低く唸った様な音がガルムヘッドの口部から漏れ始め、それと同時にボロボロと鉄の仮面が零れ落ちていく。
エルクとジーンはすぐさまその先のカプセルを強引に開き、そこで眠る入院服のような衣服に身を包んだ少女を眼に映した。

リーザと同じく金糸のような髪を腰辺りまで伸ばし、その眼をつぶった顔はどこまでも戦闘の気配とは似つかわしくない穏やかな表情を見せる。
しかし長くガルムヘッドのコアとされていたのか、どことなくぐったりとした様子を感じさせる有様はエルクを焦らせた。
すぐさまミリルを抱き寄せ、ジーンと共にガルムヘッドから飛び下りれば、もはや収めるものを失くしたはずの鉄の棺桶がギシギシと上半身を震えさせていた。

「こいつ……」

宿主を失くしたガルムヘッドが、あるべきコアを取り戻す様にして氷漬けの手をエルクに、ミリルに伸ばす。
もはや兵器としてはほぼ完全に破壊されている状態でありながらも、未だガルムヘッドにその機能を停止させる気配は感じられない。
やがてエルクが右手に抱いたミリルをジーンに預けると、徐にその両手をガルムヘッドに向けた。

「もう、ミリルを縛るものはいらない」

エルクが呟くと共に膨大な魔力がエルクの周りに渦を巻き、意思を持ったようにしてとぐろを巻いていく。
そのあまりの力に唖然としながら見つめてくるジーンを尻目に、エルクはその魔力の渦を両手に集め、一気に解放した。

「怒りの炎よ……敵を薙ぎ払えっ!」

崩壊しかけた白い部屋が、瞬く間に紅に染まる。
まるで太陽かと見紛うばかりの光がガルムヘッドを中心に広がり、やがて全てを吹き飛ばすほどの力が爆炎を以ってガルムヘッドを包み込んだ。
その力は一瞬。
眩いばかりの光と巻き起る風が止んだ時、ガルムヘッドがあった場所には何一つ、灰すら残ってはいなかった。





◆◆◆◆◆





遠く、見つめる。
シュウと拳を合わせ、すでに見切られた時間稼ぎを行う事数分。
エルクの叫びに頬が緩んでしまう感情に耐え続け、その有様を見守る。

見守る。

あれだけの言葉を吐けば、ミリルは俺の声に応えてくれたのだろうか。
ミリルが瞳を閉じるより前。
閉じたはずの心に光を灯すほどの約束を結べば、ミリルはその眼を覚ましてくれたのだろうか。

――――何が、違う。

こちらまで及ぶほどの爆風に外套をはためかせ、シュウとの戦闘を中断せざるを得ないほどの光景を眼にし、しばし立ち尽くす。
シュウは、勿論無防備なはずの俺に攻撃は仕掛けてこない。
そもそもここまで来れば何をしようがガルアーノには興味を持たれないだろう。

ガルムヘッドを塵一つ残さず消し去り、助け出されたミリルを囲むようにして集まるエルク達を見下ろすガルアーノを――――見やる。
マイクを切ってあるのか、肩を揺らし、狂ったように笑う男がそこにいた。
望みに望んだ玩具に、狂笑するガルアーノ。
全てはシナリオ通りであった。

――――ガルアーノのシナリオでもあり、そして俺の望んだシナリオの。

やがてシュウが本当に何もしてこない俺の様子に奇妙なものを感じたらしい。
構えていた腕を下ろし、油断なき瞳を細くして俺を見やる。
俺はただ、シュウに対して短く言葉を投げ掛けた。

「行け」
「何?」
「…………彼らの元へ行け」

俺が彼らを攻撃しないということを見切っているシュウからすれば、俺の言葉に対する迷いはほん一瞬で十分だった。
見切れるかどうかという程の影を残し、すぐさまエルクの元へと駆け寄るシュウ。
それを追うようにしてエルク達の方を見れば、どうやらミリルが意識を取り戻したらしく、ジーンとエルクが何やら声を上げていた。

――――そうか。意識が戻ったのか。

血溜まりのクドーとして生き、幾度も願っては実現し得なかった状況に、心が歪む。
しかしそれも今更な話だ。
ガルアーノが言っていた嫉妬染みた感情など折り合いは付けているし、何してもミリルが眼を覚ましてくれたのは嬉しい。

むしろこれからが全て。
そしてこれが最後。
俺は外套に隠していたトランシーバーにも似た機械に話しかけた。

「ガルアーノ様」
『ハハハハハハッ!! 見ろ、全てが、全てが儂の手の上だ!』

マイクの向こう側で狂乱するガルアーノ。
まぁ、確かにガルムヘッドを一撃で葬ったエルクの力を見れば、ミリルの力も推して計れるというもの。
そうでなくてもジーンや、ともすればシュウやシャンテといった戦力さえもガルアーノの手札に加えられるのだ。

「ご命令を」
『クッ……クククッ。ああ、クドー。貴様の望んだ結末だ』
「では」
『ミリルの中に渦巻くキメラエネルギーを解放させ、こちらの制御化におく。戦闘が始まればすぐさま貴様はミリルと協力し、エルク達を無力化しろ』

始まる。

『といってもミリルの強化もまだ実験段階だ。手綱は貴様が取れ』
「御意」
『締めくくりに失敗など犯すなよ? クドー』

マイクのスイッチを切り、一歩、一歩、エルク達の元へと近づいていく。
やがて俺に気付いたエルク達が一人一人と俺に視線を向けてくる。

敵ではない。
彼が、彼女が、英雄たちが向ける瞳に敵意はない。
俺達の間に、既に憎しみ合うものなど何一つ存在しない。

このまま俺が頭の一つでも下げて、エルクの服にしっかりとしがみついたミリルと共に笑い合えば、最高の終わりが待っている。
しかしそれは叶わない。叶えるためには、もう一度だけ俺は、彼らに刃を向ける。
それでもミリルが偽りとはいえエルクの腕の中にいるという事実に顔が綻んでしまう。
よく見れば意識を覚醒し始めているらしいミリルが身を捩りながらも小さく小さく声を漏らしていた。

零れてしまう笑みを隠す様にして手で顔を覆う。
そして瞳を閉じてみれば、今までの経験全てがまるで走馬灯のように脳裏を駆け廻っていく。
そのどれもが血生臭いものであったのが残念だが――――。

『諸君ッ。貴様らは本当によくやってくれた!』

もはや三下風情の声など遠く、俺の耳には届かない。
さっさと始めてしまおう。





あるべき世界を。

物語の結末を。

全ての運命を。





――――――捩じ伏せてやる。







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