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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] ニ十
Name: ぢくべく◆63129ae9 ID:cea8e1d8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/17 18:53




未開拓大陸であるはずの西アルディアにはまるで似つかわしくない、真っ白に塗装された人口建築物。
帰らずの森の奥地にひっそりと佇むその『白い家』は、その名に似合わずどこか邪悪な雰囲気を感じさせる建物であった。
入口に黒服を着こんだ屈強な人間らしき人影が立ち、その視線が向けるものは随分と物々しい。
しかし人の手が入らぬ大陸、と言うのならばこの建物とて不自然ではない。
何故ならここは魔物の巣窟に他ならないのだから。

「よく考えれば、外からこの建物見るのも初めてかもしれねぇな」
「……脱出した時に見なかったのか?」
「振りかえる暇なんかあるかよ」

そんな白い家に辿り着いたエルク達は、入口で見張る番人に見つからぬよう森の影に身を顰めて小さく声を漏らしていた。
隠密として行動出来るエルクとシュウに白い家の周りを見て周らせても、白い家に入ることが出来る場所はこの入口と裏手にあった大きな搬入口くらいなもの。
裏手の方にいたっては大きなハッチのようなものも見られ、さらに入口よりも多くの警備兵がうろついていた。

「歓迎されているって言ってもな」
「真正面から入る馬鹿はいるまい」

隣で侵入方法を考え込むシュウの言葉に、エルクは最近の自分の行動を思い出しては頬を掻いた。
シャンテという人質がいたとしても、さすがにガルアーノの屋敷に真正面から殴り込んだのは論外であったらしい。
しかしシュウの言うように侵入事にはお約束の裏手の方も守りは固い。
森の手前で遭遇したクドーの手駒の言う事を信じるのならば、既にここまで自分達が近づいていることはガルアーノにもばれているのだろう。

しばし侵入方法について考え込み、やがて名案としてエルクの脳裏に浮かんだのは、ミリルと共にここを脱出した時の記憶だった。
下水道にも似た地下通路を駆け抜け、建物の横にあるマンホールから這い出たあの記憶。
今度は逆にそのマンホールから地下通路を抜け、やがて内部の中心近くまでも。

キメラ研究の最たるものとして重要な場所故に、この白い家は隅から隅まで探索するにはあまりに広い。
もしもミリルが、そしてクドーが建物の中心部にも近い研究施設に居るというならば、この侵入ルートはうってつけの道であった。
未だ五年前のエルクの記憶と白い家の内部が変わっていないというのならば、迷うという可能性も少なくなる。

「ま、ばれてたって構わないさ。やることは同じだ」
「…………」

ここまで色々とは考えてみるものの、結局最後は力押しに任せてしまうエルクの思考。
すぐ隣で息巻くそんなエルクの様子にため息を落しつつも、シュウもまた不安とは遠いものを感じていた。
迷いなく進むのであれば、眼の前に立ちふさがる全てを喰い破って見せよう、と。



地下通路からの侵入ということで大多数の戦力を真正面から受け止めることはなくなったといっても、やはりそこらを徘徊するモンスターはいる。
一体この下水道にも似た区画が何のために存在しているのか。
白い家の現状を考えれば、どことなくエルクの脳裏には時折道中に現れるゾンビ型やスライム型のモンスターに嫌な予感を重ねざるを得なかった。

日々積み重ねられる実験の果てに増え続ける『失敗作』の影。
プロディアスやインディゴスの地下下水路にも稀に腐敗したモンスターが現れることがあるが、所詮それは都市の汚物が引き寄せた力の弱いものだ。
だがしかし、地下通路を進んでいく中で現れる『廃棄物』たちは、そんなゴミ漁りにやってくるような連中とはまるで違う。

両手を大きく振り上げて襲いかかるゾンビ共。
ボロボロの衣服も纏わず、身体中は膿で爛れ、ほぼ完全に五体を保っているゾンビなど一体もいない。
それらを槍、炎、そして剣で振り払いながらエルク達は前に進む。

ただのモンスターだというのに、ただのゾンビだというのに。
キメラプロジェクトの果てに打ち捨てられた『元人間』かもしれないという予感が、じわりじわりとエルクの手先を蝕んでいく。
そして、その過程で浮かんでしまう一つの予感。確信。

「…………」

声に出して、仲間に聞いて。
そんなことが一体何の意味があるものか。
言葉を飲むようにして頭を振りながら、エルクはその苛立ちを襲いかかってくるモンスターへとぶつけていた。

全身を包帯で覆ったあの姿。
いくら攻撃を加えても瞬時に再生し、腕一本断ち切ったくらいでは意味も無い。
さらにはまるで召喚獣のようにその身に魔物を宿す異能。

――――おそらくは、そこらの魔物以上に。

それ以上の言葉を喉まで出しかかり、エルクは唇を強く噛んだ。
もはや否定できない現実に膝が折れそうになり、リーザの言葉を思い出しては再び強く一歩を踏み出す。
まだやり直せる。まだ救える。諦めてなるものか。

「炎の嵐よ! 全てを飲み込めっ!」

地下通路から研究施設に繋がる最後の区画。
上へと伸びる梯子を守るかのように群れを為す『間に合わなかった者たち』に向けて、エルクはただその不屈の炎を以って応えるのだった。





◆◆◆◆◆





駆け抜ける。ただひたすら記憶の叫びに従って廊下を駆け抜ける。
視界を流れていくその光景は、幾分エルクの記憶とはまるで視点が高すぎる。
五年前のあの時。あの白い部屋で共に遊んでいた子供の一人が見たことも無い様な化け物に変えられていたことを知ったあの時。
ミリルの手を引き、ただ息を切らせながら走った道を逆に行く。

研究区画ということでかそのまま魔物の形態でうろつくものをおらず、非戦闘員が集まるということで巡回兵らしきものも存在しない。
まるでこの広大な白い家に自分達以外の誰も存在しないような違和感。
ただ自分達の足音だけが遠く続く廊下に響いていく現状に、徐々にエルク達は罠の予感を感じ始めていた。

「今更だな」

しかしその可能性を一息吐いて切り捨てる。
シュウの言う通りもはやその懸念は切り捨てるべきものにすぎなかった。
左右に等間隔に並ぶ扉の向こうからも誰かが潜んでいる気配はなく、目的地である白い部屋に向かう過程で出くわす研究者すらいない。
誘われている。それこそがエルク達の前提であったはずだ。

「鬼が出るか、蛇が出るか」
「その程度で済めばいいんだけどね」
「つーかなげーよ、この廊下。合ってんのか、本当に」

走りっぱなしの現状に愚痴を零したジーンが胡散臭いものを見る様な眼でエルクを見れば、当人は迷いなく前方を見据えるだけだった。
ここまで来て過去の記憶があやふやでした、などといったことはあり得ないらしいが、それでもやはりうんざりせざるを得ない。
ふとジーンが後ろを振り返れば、パンディットに押されるようにしてリーザが息を切らせながら顔を歪めていた。

「エルク。ちょっと休憩」
「あ? 何で……」
「女の子には優しくするべきよね」

焦る気持ちは誰もが一緒で、その理由も分かっている。
だがしかしエルクは振りかえった先で膝に手を付くリーザを視界に収め、ばつが悪そうに頭を掻くだけで足を止めた。
一刻も早く。
しかしその一刻のために切り捨てるなど馬鹿な考えに過ぎないのだ。

「はぁ、けほっ……ご、ごめんね」
「いや、こっちこそすまん」

ぺたりと地べたに腰を下ろしてしまったリーザと眼を合わせる様にしゃがみ込んだエルクが頭を下げた。
その横では恨みがましそうな視線をエルクに向けるだけのパンディット。
さすがに自分達が焦ってしまう状況を理解しているのか、唸り声を上げる様な露骨すぎる敵意は向けていなかった。
魔狼パンディット。
ホルンの魔女としての力に呼応出来るその知能と意思は、そこらの魔物とは一線を画するものらしい。

「…………」
「シュウ?」
「B-2棟。042号室」
「?」

やがてシュウが廊下の途中に並ぶ扉をじっと見つめていることにシャンテが気付いた。
ぼそりと呟いた彼の言葉に首を傾げながらもシャンテもまたその視線を辿れば、扉の上部にはその入口を区別する部屋番号のようなプレート掛けられていた。
掛けられていた番号は『C-1-003』。
部屋番号ということはひょっとすれば研究施設というよりかは、研究員たちの住居区画などを予想させるものだった。

「……どう思う?」
「さあな。お前が彼を信じるかどうかだ、エルク」

クドーがシュウに伝えた言葉は一体何を意味するのか。
ただ一度の邂逅でついでのようにその言葉を漏らし、その後も別に念を押したようなことがなかった故に、それほど重要な言葉ではないのかもしれない。
それともただあの廃墟の街で偶然にも遭遇した瞬間こそが、その暗号めいた言葉を伝えるチャンスだったのか。

シュウがあの廃墟の街で行ったことはただ力比べにも似た戦闘を、ほんの少しだけ交わしたぐらい。
ただそれだけで血溜まりのクドーを推し量ることはいくら何でもシュウには不可能だ。
だが彼の心の深奥まで触れかけ、それを望みにここまで来たエルクならば。
考え込むようにその扉に掛かったプレートをじっと見つめ、やがてエルクは口を開いた。

「寄り道になるかもしんねーけど」
「別れて動くのは……愚策だな」
「行ってみよう」





◆◆◆◆◆





道中に見られる案内板のようなものを頼りに、クドーの指した場所を目指す。
その数字と英字の並びからすれば、おそらく先ほど見掛けた居住区の部屋番号を指すものであるというのは間違いない。
灰色のタイルと殺風景な白い壁がどこまでも続く居住区の廊下を走るが、あまりにどこまでも変わり映えしない光景に自分の現在位置があやふやになる。
魔物が造った研究施設ということでか、さすがに『飾り付ける』といった概念のものなど一つも存在しない。

そんなつまらない道中をクドーの言葉を探していけば、やがてエルク達はその言葉の指し示す場所へと辿り着いた。
C棟からB棟へ。

少しくらいは研究区画の方へ近づくかとも思えば、結局のところA~Cまでの区画はほぼ全てこの白い家に住み込む研究員やら戦闘員やらの個室だったらしい。
途中途中で覗き見たその部屋の全てに、エルクが昔見てしまったキメラ合成機械に似たタンクやコンピューターが設置されていた事実が、やけにあるべきはずの生活感を薄れさせる。
魔物でも人間の生活に近いことをするのかとも思い掛けたエルク達であったが、そのおぞましい機械を眼の前にしてしまえばその気まぐれな親近感も即座に消え失せる。

そんな部屋が続く区画を探索すれば、やがてエルクたちの探していた『B-2-042』のプレートが掛けられた部屋に辿り着いた。
等間隔で扉が並ぶこの区画にしてはやけに他の部屋よりも広い間隔を取られた、どこか特別な様子が窺える一室。
よく見てみれば他の部屋と違って入口の扉にはパスコード認証のようなモニターが表示されていた。

「此処、だよな?」
「クドーの言葉が本当だった、ってんならな」
「疑ってんのか? ジーン」
「勘弁してくれエルク。お前だって万が一の可能性はって思ってんだろ」

目的の扉を前にして、ジーンがエルクの咎めるような視線に首を振って答えた。
クドーに近づけるかもしれないという焦りからなる少しばかりの苛立ち。
エルクはすぐさまジーンに軽く謝罪の言葉を零すと、そのモニターへと顔を近づけた。

「これは……」
「クドーの言ってた『アークザラッド』ってパスワードじゃねーの?」
「アークって……前にハンターギルドで見たような」
「賞金額に0が六つあったわね」
「極悪人じゃねーか」

後ろでガヤガヤと騒ぐ連中を尻目にエルクはそのモニターに件のパスワードを入力すべく手を伸ばした。
そこでふと気が付く、モニターの中に表示された文字。
それは既にこの扉には鍵が掛けられていないUNLOCKの文字列であった。
ならばと特にパスワードを入力せずにそのモニターに触れれば、呆気なくその自動ドアは開いた。

「あれ? パスワードは?」
「いや、元々開いてたらしいな」
「…………クドーの奴、何考えてんだ?」

ジーンの最もな疑問に「さあな」と返せば、少しばかり警戒を強めながらエルクは仄暗い部屋の中へと足を踏み入れていった。
棚に幾重にも重ねられた書類の束、床に広がっている複数のコードを辿れば何やら高性能らしきパソコンとデスク、そして他の部屋と同じくキメラ調整機のようなタンク。
もしもこの部屋をクドーの部屋だと仮定すれば、ガルアーノの右腕ということで単純な戦闘行為以上に研究に携わることもあるのかもしれない。
ただの私室以上のものがこの部屋には散らばっていた。

「来たはいいが、何をすりゃいいんだ?」
「エルク、あれ」

クドーを信じて来てみたはいいものの、結局のところそれ以降のことをよく考えていなかったエルク。
確かに重要そうな書類やら何やらが散らばるこの部屋で見つける物も多いかもしれないが、片っぱしから探している暇は彼らにはない。
首を捻るようにしてエルクがもう一度周りを見回せば、その肩を叩きながらリーザが部屋にあるパソコンデスクの脇を指差していた。

「金庫?」
「さっきのモニターみたいなものもある。パスワードってそれじゃないかな?」

リーザの指差した通り、デスクの脇には真っ黒に彩られた金庫がパソコンから垂れ下がるコードの束に隠されるように置いてあった。
隠しているつもりなのか、それとも別にそういった意図などないのか。
どうにも曖昧なものであったが、その金庫以外にモニター入力できそうなものはない。
これでなければあとはパソコンの中身くらいしか調べるものはないのだろう。

部屋の中をいろいろと探しまわっていたシャンテやジーンもその金庫を囲むようにして集まり、それが開く様子を固唾を飲んで見守っていた。
ただシュウだけが、部屋の片隅に配置されたタンクをじっと眺めて動かない。
兎にも角にもあまりのんびりしていられるというわけでもなく、エルクは特にためらうことなく金庫のモニターにパスワードを入力した。

「おっ、正解みたいだな」
「……ファイル?」
「しかも……何書かれてのかわかんねーし」

何かしらクドーやミリルと繋がる手掛かりでもあるのかと期待してみれば、中から出てきたのは紙媒体の書類の束を綴じられたファイルだった。
しかもそこに書かれている内容はその場の誰にも解読できないような文字の羅列。
中にはグラフの様なものも散見され、どこか研究報告書のようであった。

「慎重すぎだろ……」
「まぁ、組織とかそういうモノなんざこんなもんだろ。それよりもクドーがこれをどうして俺らにってことだが」
「あら……?」

パスワードの入力を経て、中から出てきたのは暗号の羅列する理解不能なファイル。
まるで終わらない宝探しと化している現状にため息をついたジーンの横で、シャンテがとあることに気が付いた。

「エルク……ミリル、ジーン……で、こっちがクドーかしら?」
「お、こっちにはシャンテとシュウの名前も……ヴィルマー? なんで爺さんの名前が」

何一つ解読できない文字列が並んでいるはずだというのに、何故かエルク達に関わっている人物の名前だけが解読できる文字で書かれていた。
暗号化されている書類だというのに、およそ一番重要であるはずの人物名を暗号化するでもなく羅列される違和感。
まるでこれらの名前に聞き覚えのある人間に注意を向けるように仕組まれていた。

「クドーはこれを渡したかったってわけなの?」
「でも名前だけわかっても他の文字が全部意味不明なんだけど。紙切れだけ渡されてもなー」
「キメラプロジェクトに関係する書類だったらお前んとこの爺さんなら分かるんじゃねぇか?」
「どうだろ。爺さんは俺らの担当ってわけじゃないって言ってたじゃん。たまたまクドーが俺を爺さんに預けたくらいの関係だって」
「じゃあ何で同じ書類上に並んで名前があるんだ? そもそもシュウとシャンテなんかまるっきり関係ねぇし」
「知るかよ…………これ、クドーが書いたのか?」

疑問は尽きない。
エルク達にしてみればもう少し手掛かり的なものを期待していのだが、結局は余計な謎を抱え込んだだけ。
考えても考えても答えなど出るわけも無く、ただ一つの紙の束を眼の前にして唸るだけになってしまった。

「考えても仕方あるまい」
「シュウ」

ひんやりとした床に胡坐をかいて腕を組むエルクの後ろには、いつのまにかシュウが立っていた。

「ただ一つ言えるのは、この書類を奴はガルアーノにも秘密で俺達に託したということだろう」
「託した後のことを知りたいんだがな、俺は」
「知りたければ」

先に進むこと。
シュウの言葉を追うようにして、エルクが誰に言うでもなく呟いた。





◆◆◆◆◆





クドーの指し示した部屋にて書類を手に入れたエルク達。
気がかりになっていた案件を処理し、そして新たな謎を抱え込んでしまったが、ようやくにして彼らの目的は一つに固まった。
ただミリルとクドーを救うためにあの『白い部屋』から繋がる区画へと。

キメラプロジェクトによって拉致された者が集まるその区画に足を運ぶには、あのエルク達が一日の大半を過ごしていた白い部屋を通らなければならなかった。
元々実験材料として集められた子供たちが施設内を自由に行き来できるわけも無く。
まるで保育所の遊戯室のように造られたその白い部屋と、それぞれに宛がわれる保育室くらいが子供達の行き来出来る区画であった。

エルクはただ一度だけミリルとともに脱出した記憶に沿って、その道筋を辿っていく。
ぼやけていたその行程が輪郭を帯び始め、自分の記憶と寸分も間違っていないという確信がエルク達の足を逸らせる。
何かしらを運搬するベルトコンベアが立ち並ぶ搬出部屋。キメラ研究のデータを集める様な総合情報室。警備員が詰めているだろう警備室。

その全てを脇に見ながら、ただひたすらにエルク達は白い部屋を目指す。
そうして目的地に近づいていけば、やがてジーンすらもこの道行く光景に覚えがあることを認識し始めた。
どこか見覚えのある壮年の男性に抱えられ、この道を走り去っていく懐かしい感覚。
大切なものをこの地に残し、一人安全な地に向かうことに心を痛めたような、そんな記憶。

胸の鼓動が速くなる。
人の住んでいる雰囲気すら感じさせぬこの空気に、どこか懐かしさを感じてしまう。
置いてきてしまった大切なモノに、想いを馳せる。

「エルク」
「ああ」

勘だったのか、記憶にあるものだったのか。
長い長い廊下を駆け抜ければ、彼らの眼の前には大きな鉄の扉があった。
ただ子供のために用意された玩具の集まる遊戯室と、おぞましい研究を隔絶する大きな機械の扉。
白い部屋へと繋がる扉。

「ロックは……へっ、あるわけもねぇか」
「油断するなよ」

シュウの言葉に警戒を強め、エルクがその扉脇にあるスイッチへ手を伸ばし掛けた時、眼の前の扉はひとりでに開き始めた。
今まで研究施設として造られた機械作りの内装とはまるで違い、壁から床までを真っ白に塗りつぶされた純白の部屋。
多くの子供達を入れるためか、天井を見上げればインディゴスのアパート群を見上げるかのごとく高く、広さは都市部の公園を模したかように広い。
滑り台や砂場のような遊び場があり、絵本や積み木のような玩具の収められた区画があり、360度見回してみても、この部屋は子供のために造られた部屋だと理解出来る。
そしてその光景は、エルクとジーンの記憶と何一つ変わらぬ閉じられた世界だった。

――――そして。





「クドー」






まるで、この空間とは似合わない、全身に血の匂いを纏った包帯男。
その痛ましい身体を外套で隠し、その包帯に覆われた顔から覗き出る瞳は灰色に濡れ。
それでも、エルク達はこの白い部屋にいることも相まってか、その異形の奥に黒い髪を伴って共に遊んだ少年の姿を垣間見た。

求めて。
ここまで来た。

一つ、一つと部屋の中心にてエルク達を待ちうけていた彼の元へと足を進める。
やがてエルク達の後ろで入ってきた扉が音を立てて閉まり、もはや逃げ場などなくなったということを知らせる。
しかしそんなこと、エルク達にとってはもはや関係のないことだった。

「止まれ」

扉が閉まってしまったことに振り返るでもなく真正面に捉えるエルク達を制したのは、クドーの砂を噛んだようなしわがれた声だった。
エルク達と、クドー以外には誰もいない広い部屋に響き渡るその声。
無論、エルクはその声に足を止めた。

「誘われた、という立場であることは理解しているな?」
「関係ねぇ。俺は、お前らを連れて帰る」
「結構」

どこか機械的な響きを持ったクドーの問いに、エルクは迷うことなく応えた。
その震えることなき真っすぐな声に驚くことなく一歩、二歩後ろに退いたクドーがゆっくりと右手を上げた。
その手の先をエルク達が辿れば、その先にあった白い部屋上部のガラス窓の向こう側にガルアーノがいた。
こちら側全てをあざ笑うかのような笑みを浮かべ、後ろに何人かの研究員を従える諸悪の根源が。

『元気そうで何よりだよ。エルク』
「黙っていろ。クドーとミリルと助けたら、てめぇは灰も残らず燃やしてやる」

叫ぶことはない。
マイクを通して聞こえるガルアーノの尊大な言葉に、エルクは静かな怒りを見せた。
ぎちりと拳を握りしめ、避けられぬ戦闘の気配にすらりと腰に下げたソードを抜き放つ。
ジーン達もまたそれに連なるように構えて見せた。

『まあそう怒らないでくれ。今日はとっておきのゲストを呼んでいるのだからな』

ガルアーノ声に呼応して、クドーとエルク達の間に開けた床が部屋全体を揺らしながら開き始めていた。
真っ白の床の奥、鉄臭い匂いを漂わせながら真っ暗な空間から現れる鉄塊。
卵のような曲線を帯びた人間大の頭部、鉄の装甲で盛り上がった肩部とその後ろに備え付けられた巨大な砲台。
肩から伸びる大きな両手は、所々関節部に無数のコードを晒しながらも、それは人間らしいまっとうな『掌』を模している。

『拠点防衛型兵器・ガルムヘッド。まぁ、結局は不良品であり重要なものではないのだが』
「はっ。こんな鉄くずがゲストなんて笑わせるぜ」
『クククッ。だと思って、少し趣向を凝らしてみたのだよ』

勇み、鼻で笑って見せたエルクに、ガルアーノはマイク越しに指を鳴らしてみせた。
ガルムヘッドの頭部から蒸気が上がり、その灰色の装甲が徐々に開き始めれば、その奥に鎮座しているのは一つのタンク。
水色のガラスに遮られた向こう側では、一人の少女が眠る様に瞳を閉じていた。

「ガルアーノ……お前……まさか」
『感動の再会だな? エルク』

もはやガルアーノの声すらエルクには届いていない。
眼を伏せたまま肩を怒りに震わせ、部屋中に木霊するガルアーノの下卑た笑い声にしばし唇を噛む。
しかし、もう一度その顔を上げた時、其処には悲壮感など欠片さえ存在しなかった。

「王子の前に眠り姫をわざわざ寄こすなんて馬鹿な奴だなぁ」
「クドーにミリル。手っ取り早くて丁度いいわ」
「ふん。三流が」
「エルク。やろう」

誰ひとり。

「ミリル、クドー。今行く」

起動音のようなものを響かせ、ゆっくりとその鉄塊が顔を擡げた。
徐々にその機械仕掛けの上半身を躍動させ、けたたましい警報を鳴らしながら頭部に備え付けられた双眸を赤く光らせる。

「侵入者ハ排除スル」

響いた声は無機質な電子音。
しかしそのあまりにも巨大な兵器を前にして、エルクが臆する理由は何一つ存在しなかった。

「来やがれっ!!」

剣を振るい、吼える。
長い戦いが幕を開けた。





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