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No.22833の一覧
[0] 血溜まりのクドー(アークザラッド2二次創作・転生オリ主)[ぢくべく](2013/08/27 08:51)
[1] [ぢくべく](2010/11/02 04:34)
[2] [ぢくべく](2010/11/23 05:09)
[3] [ぢくべく](2010/11/06 17:39)
[4] [ぢくべく](2010/11/16 20:24)
[5] [ぢくべく](2010/11/09 17:04)
[6] [ぢくべく](2010/11/16 20:22)
[7] [ぢくべく](2010/11/18 16:04)
[8] [ぢくべく](2010/11/21 16:55)
[9] [ぢくべく](2010/11/26 23:11)
[10] [ぢくべく](2010/11/29 19:10)
[11] 十一[ぢくべく](2010/12/07 23:43)
[12] 十二[ぢくべく](2010/12/04 17:31)
[13] 十三[ぢくべく](2010/12/07 23:48)
[14] 十四[ぢくべく](2011/01/14 19:15)
[15] 十五[ぢくべく](2011/01/18 20:00)
[16] 十六[ぢくべく](2011/01/22 17:45)
[17] 十七[ぢくべく](2011/01/26 17:35)
[18] 十八[ぢくべく](2011/01/29 19:19)
[19] 十九[ぢくべく](2011/02/05 17:16)
[20] ニ十[ぢくべく](2011/02/17 18:53)
[21] ニ十一[ぢくべく](2011/02/20 17:58)
[22] ニ十ニ[ぢくべく](2011/02/23 18:09)
[23] 最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:09)
[24] あとがき[ぢくべく](2011/02/24 19:50)
[25] 後日談設定集[ぢくべく](2011/03/02 10:50)
[27] 蛇足IF第二部その1[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[28] 蛇足IF第二部その2[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[29] 蛇足IF第二部その3[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[30] 蛇足IF第二部その4[ぢくべく](2011/09/11 17:00)
[31] 蛇足IF第二部その5[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[32] 蛇足IF第二部その6[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[33] 蛇足IF第二部その7[ぢくべく](2011/09/11 17:01)
[34] 蛇足IF第二部その8[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[35] 蛇足IF第二部その9[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[36] 蛇足IF第二部その10[ぢくべく](2011/09/11 17:02)
[37] 蛇足IF第二部その11[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[38] 蛇足IF第二部その12[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[39] 蛇足IF第二部その13[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[40] 蛇足IF第二部その14[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[41] 蛇足IF第二部その15[ぢくべく](2011/09/11 17:03)
[42] 蛇足IF第二部その16[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[43] 蛇足IF第二部その17[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[44] 蛇足IF第二部その18・前編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[45] 蛇足IF第二部その18・後編[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[46] 蛇足IF第二部その19[ぢくべく](2011/09/11 17:04)
[47] 蛇足IF第二部最終話[ぢくべく](2011/09/11 17:20)
[48] 蛇足IF第二部あとがき[ぢくべく](2011/09/11 17:12)
[49] 番外編[ぢくべく](2013/08/27 08:08)
[50] 蛇足編第三部『嘘予告』[ぢくべく](2013/08/27 10:40)
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[22833] 十七
Name: ぢくべく◆63129ae9 ID:cea8e1d8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/26 17:35




迂闊であった。
何やらそわそわと落ち着かない様を見せるシャンテを対面に挟んで、煌びやかな装飾に施された応接間で俺は項垂れていた。
VIPへの対応も考慮されているからか、多種多様な調度品と大きめのテーブルが鎮座する応接間。
俺とシャンテという二人だけがくつろぐには少々広すぎる部屋だろう。

「ねぇ」
「…………何だ」
「……いえ。何でもないわ」

そんな俺の様子をいぶかしんだのか、シャンテはチラチラとこちらを見ながら恐る恐るといった風に声を掛けてくる。
無論俺は分かりやすいように地面に両手を付けて肩を落としているようなことはない。
ただ自分でもわかる位に今の俺は傍から見れば酷く落ち込んでいるように見えるかもしれない。

エルクとの邂逅から既に3日。
ようやくにして舞台を白い家へと移すことが出来る今日という日なのだから、多少は気も引き締まるはずだった。
しかし俺の脳裏に浮かぶのはあの廃墟の街で心の赴くままに行動してしまったことばかり。
いくら何でも気持ち悪い様を見せすぎだろう、クドー。

「…………」
「…………」

部屋の中央にぶら下がった大きなシャンデリアを仰ぎ、一つ息を吐く。
シャンテと俺は元々敵同士。
そもそもシャンテからすれば俺は弟を縛り付ける悪党であるし、彼女が親しげに会話することなどあり得ない。
その上今にもエルク達がシャンテを救いにやってくるはずなのだ。
当人からすれば、彼らへの罪悪感やら何やらで落ち着いていられるはずはないだろう。

その証拠に大テーブルを囲む椅子の一つに座った彼女はしきりに足を組んだり解いてみせたり、静寂の中で鳴る時計に眼を向けてみたり。
彼女の立場を考えればそうもなるだろうとは思うが、今の俺にはまるで関係の無い話。
シュウの乱入でエルクとシャンテの関係は適当に丸く収まるのだろうし、もしそうでなくてもこちらから適当に誘導すればそれでいい。
所詮その程度の懸念だ。

そもそもこの場で行われることもガルアーノによる悪趣味な茶番のようなものである。
部屋の隅々に配置された監視カメラから送られるであろう、俺とエルク達の戦闘を眼にし、今一度彼らの力に心躍らせるつもりなのだろう。
実際に踊るのは俺とエルク達であるが。

消化試合でしかないことに一抹の憂鬱を感じてみれば、天井からはこちらをねめつける様な低い男の声が響いてきた。
すなわち今頃は白い家に移動するべくアルディア空港付近で待機しているガルアーノの声。
さっさとあちらへ移動すればいいだろうに、わざわざご苦労なことだ。

『さて、そろそろか』
「おそらくは。先ほど屋敷の入口方面より爆発音が聞こえました」
『ふん……部下共など足止めにも準備運動にもならんか?』
「はい」

スピーカーを通して聞こえるガルアーノの声は、ノイズ混じりのせいで余計に醜く聞こえる。
眼の前にいるシャンテもその声を聞けば聞くほどに不機嫌に、いや、憎しみを募らせるように表情を歪めていった。

ガルアーノからすればシャンテなどただのゲストに過ぎないのだろう。
弟の無事を信じ、そのためにエルクを裏切りながらも無駄な希望に縋る一人の女。
エルクと繋がりながらもこちらに情報を流していたことを対価に臨んだ弟の返却は、為されない。
何しろ既にそのアルフレッドという弟は誰でもない俺の手によって殺されているのだから。

『ご機嫌は如何かな? シャンテ嬢』
「…………最低ね。アンタの声を聞いたら余計にそう思うわ」
『クハハハッ! 貴様も似たようなものだろう? まぁ、弟との再会には祝福させてもらうよ』
「…………」

スピーカーによって多少エコーの掛かったガルアーノの笑い声に、シャンテは白くなるほどにその拳を握りしめた。
憎しみだけで人をも殺せそうな雰囲気に、俺はしばしその様を観察する。
…………ガルアーノにその様では、実際に殺した俺へはどれほどのものか。
無用な思考だ。

どちらにせよまずは主賓を待たねばならないのが億劫である。
エルクを此処に呼び、シャンテの裏切りを目の当たりにさせ、ガルアーノのご高説から俺との戦闘に移り、適当にエルク達の力をモニター越しにガルアーノに見せる。
どこまでも、どこまでも茶番に過ぎない舞台。
ガルアーノの眼があるせいで多少は力を入れて戦わねばならないとはいえ、こんな茶番に俺の憂鬱が吹き飛ぶわけもない。

『クドーよ。適当に間引いても構わんぞ? リーザ辺りの魔狼など邪魔なだけだろう』
「…………出来るかどうか。ただ踊るだけならば彼らは一筋縄ではいかないでしょう」
『ほう! 既に貴様の力をも凌駕するか?』
「踊るだけならば、です。殺すつもりで刃を向けるならば劣りはしません」
『ハハハハ……クハハハハハッ! そうむきになるな。お前の有用性は知っている』

そんなにも俺の返答は負けず嫌いなものを含んでいたのだろうか。
ガルアーノの弾けたような笑い声を耳にしながら、やれやれと首を振って見せる。
エルクとの邂逅で感情の抑え方が歪になっているのかもしれない。
気を付けねばな。





◆◆◆◆◆





いくらプロディアス市長という表向きの顔を持っているとはいえ、エルク達が入り込んだ館は念入りに探索せねばならないほどに広かった。

そもそもエルク達からすれば元々の誘いが罠有りきのような胡散臭いもの。
いつも以上に周りからの奇襲や罠に注意しなければならない事態に、彼らの足は思ったよりも遅かった。

「エルク。どうだ?」
「…………休む暇もねぇな。そこら中から嫌な気配がしやがる」
「パンディットも……うん。やっぱり魔物の気配はあるみたい」

ハンターの勘か。魔物としての感覚か。
二つの意見を聞いたジーンは手に持ったソードをそのままに、うんざりとため息をついてみせた。

「しかしおかしな話だな。いや、裏口とかそういう考えがなかった俺らが言うのもなんだけど」
「こっちはシャンテを盾にされているんだ。真正面から打ち破るしかねぇだろ」
「それがおかしいんだけどな。罠っつっても奥まで誘い込むわけでもねーし、普通に巡回兵っぽいのが襲いかかってくるし」
「……確かにちょっとおかしいかも。ホントにあの人、ガルアーノの部下だったのかな?」
「リーザ。その発想はなかったわ」

敵地のど真ん中と言う割にはそれなりにジーンとリーザは余裕があるように声を交わしてみせた。
既に彼らがいるのは部屋に隠れていた魔物を倒した後の小さな小部屋。
休憩の意味も兼ねて少しばかりその歩を止めてはみたが、彼らの抱く疑念はそう少ないものでもなかった。

エルクもまた、周りへの警戒を解くことなく顎に手を当てて思考に沈む。
確かにジーンの言う通り、名指しの誘いがあった割には此処の守りや歓迎の仕方は杜撰なものがある。
てっきりシャンテの無事と引き換えに無理難題を突き付ける交渉でもするのかと思いきや、門番並びに巡回兵は普通にこちらを襲ってくる。
……の割には敵の攻勢が苛烈というわけもない。

むしろこんな場所で休憩を取れるくらいに安全なことに気が抜けるといった所だった。
自分の想定していた多くの不利な状況に陥ることなく進むことのできることに、エルクは首を傾げざるを得ない。
室内の戦いということで今日は彼も槍ではなく剣を持ってはいるが、それすらもあまり血を吸うことなくここまで辿りついてしまっている。

――――敵の目的が読めねぇ。

どこか苛立ちを隠さずに頭をガリガリと掻けば、リーザが心配そうにエルクのことを見つめていた。
霧の中を彷徨うような手ごたえの無さと、純粋にシャンテを思うが故の不安。
余裕を見せてはいるものの、ジーンもまたどことなくいつも以上の緊張感というものを感じていた。

「大丈夫だ……これ以上誰かが犠牲になってたまるかよ」
「うん……うん! 頑張らなくちゃ」
「…………」

力拳を作り、お互いに気合いを入れるリーザとエルク。
しかしその光景をジーンはどことなく微妙な気持ちで眺めていた。
黙って見つめる先はエルク。
自分達を率いて先頭を進んでくれる頼もしきリーダーのはずなのに、ジーンが抱くのはどうしようもない違和感だった。

「ジーン?」
「……いや、そろそろ敵の親玉さんに登場してくれないとな。もうこの屋敷も見飽きたぜ」

条件反射のようにリーザの自分の名を呼ぶ声に出たのは軽口だった。
自らの内に燻る疑問を無理やり消すかのような出来の悪い言葉。
もうちょっとマシなことは言えないのかと苦笑するジーンであったが、その感覚こそがエルクに抱いている疑問。

どこか不安を、疑問を無理やり消すような迷い。

確実にその迷いをエルクは持っている。
あの包帯男との邂逅からエルクの様子がおかしくなっていることにジーンは気付いていた。
薄らと、こちらに気取らせない程度の違和感。
リーザもまたそれに気付いている節があるが、シャンテが攫われたという事実にそれを問い質す余裕を喰われた。
シャンテとそれなりに仲が良かったリーザからすれば当然の反応である。

(何があった? ……エルク)

しかし、言い方が悪くとも昨日今日の付き合いでしかないジーンにとっては、シャンテの誘拐という現状に少なかれ余裕のようなものを持つことが出来ている。
シャンテの救出。ガルアーノとの接触。ミリルとクドーの救出。
そのどれもに迷いなく邁進する中で不自然に浮かぶエルクの迷い。

(迷う理由は、何なんだ)

ジーンが胸中で問う言葉に無論エルクは答えない。
仲間を信じないことは何よりの裏切りであると理解しつつも、ジーンはどこかやせ我慢のように振る舞うエルクに危機感のを抱かずにはいられなかった。
ただの迷いならば問題はない。

ジーンは見た。

エルクのその渋るような表情の奥に、途方もない悲しみがあったことを。





◆◆◆◆◆





あまりにも広大な館に似合わず、奇襲から始まる戦闘が行われない限りガルアーノの屋敷は不気味なまでに静寂が支配していた。
大理石の床を歩いていくエルク達の足音と、時折響くパンディットの唸り声だけが続く中、彼らはただ黙々とシャンテの居場所を探す。

あっちから誘っておきながら何のために誘ったのかがまるで分からない状況に、エルク辺りは次第に苛立ちを覚え始めていた。
こちらを小突くように現れるキメラ兵。
物量で押しつぶす気配もなく、ポツポツと表れては使い捨てのゴミのように屠られていくそれらを尻目に、エルクはやがてリーザの言葉を真剣に考え始めていた。

血溜まりは、本当にガルアーノの手下なのか。

此処まで来ておきながら、そんな馬鹿げた可能性を頭に浮かべるのは一つの逃避。
三日前からエルクの心を蝕む『予想』を必死に否定しようとする弱さの表れだった。

しかし悩むばかりで一向に答えは出ず。
迷いを抱いたままに屋敷の中を突き進めば、とうとう探索すべき大部屋一つを残すだけとなってしまった。
大きな扉の前に並ぶ一行は同時に息を飲み、その先におそらくはいるだろう『何者か』に注意を向ける。

「開けるぞ」

エルクの声に黙って頷く二人は、既に戦闘の用意を完了させている。
無論エルクとて右手に持ったジーンと同じ型のソードを力強く握りしめたまま、警戒を緩めることはない。
ただゆっくりと押された扉の先に広がっていたのは、大人数が詰められても余裕のあるだろう大広間だった。

「…………誰もいねぇな」

少しばかり動きの固いジーンが誰に言うでもなく呟き、エルクとリーザもそれに応えぬままに同意してみせた。
彼らの入った大広間には様々な調度品やら部屋の真ん中に鎮座する大テーブルなど、豪華な様は見せても血生臭いキメラの姿は見て取れない。

どこか拍子ぬけたようなものをエルク達が感じたその瞬間。
ただ一人エルクだけが顔を驚愕に変えたまま勢いよく後ろを振り向いた。

「ッ……お前っ!」

その先、自分達が入ってきた大きな扉に寄り掛かったまま腕組みをする男の姿が一つ。
全身を薄汚れた包帯で包み、それ全体を大きめの灰色の外套で覆った奇妙な男。
その顔も表情も包帯で覆った男は、ただ黙ってこちらを注視したまま動かない。
血溜まりと噂されるガルアーノの手下の一人だった。

エルクにつられるようにして同じく血溜まりの方を振り向いたジーンとリーザ。
そこまでいけば互いに戦闘態勢を整えるのは早かった。
廃墟の街で出会った時のように、互いの素性を探るようなやり取りなど必要ない。
既に敵と味方だとはっきりしている限り、ジーンとリーザが油断なく武器を構えるのは当然の話だった。

「シャンテさんはどこ!?」
「あんな美人を攫うなんて随分下衆なことをやるもんだね、あんたら」

リーザとジーンの言葉に血溜まりは未だ腕を組んだままじっと動かない。
ただこちらの動きを見定める様にその灰色の瞳を向けてくるだけだった。
その瞳の先は、エルク。
ソードをだらりとぶら下げ、無防備な様を見せる彼を、血溜まりは眺めていた。

「エルク?」
「…………おい」

敵と味方。
そんなものは疑いなくはっきりとしているというのに、互いの纏う空気はそんなに剣呑なものではなかった。
やがて、リーザとジーンの呼びかけに呼応するかのようにゆっくりと口を開くエルク。
しかしエルクが何かを言いかけた時、広間の天井に備え付けられたスピーカーから男の声が響いた。

『感動の再会、というわけか? 炎使い』
「っ!?」

突然広間に響いた声に辺りを見回したのはエルク一行。
どこまでもこちらを小馬鹿にし、面白くて仕方がないと言わんばかりに笑いをこらえる声。
ノイズまみれで聞こえるその声を聞けば、それは半月前の式典会場にて聞いたあのガルアーノの声だった。

「ガルアーノっ! どこに居やがる!」
『そう慌ててくれるな、エルク。主賓は儂ではない。そこの男と……』

どこまでもこちらの感情を煽り、それを笑うガルアーノの声。
それを受けて大広間の一角の壁が動き、そこに隠されていた扉がゆっくりと開き始めた。
やはり罠か。
今更感も漂う判断であったが、その先から出てくるかもしれない敵の影にエルク達は警戒せざるを得ない。
しかし。

「シャンテ!?」
「シャンテさん! 無事で…」

その奥から出てきたのは誘拐されたはずのシャンテ本人であった。
彼女の周りには見張りのキメラ兵がいるわけでもなく、当然のようにあっさりとエルク達の方へ近づいてくるシャンテ。
いつも通りの衣服と怪我ひとつ負っていない無事な様子にほっと胸を撫で下ろすリーザとエルクだったが、ジーンはただ一人眉を顰めた。

「……どういうつもりだ?」
『ほう! 風使いよ、気付いたか?』
「別にあんたに褒められても嬉しくはないがね……」

冷め切った視線をシャンテに向けたまま、その痛烈な言葉を向けるジーンに、やがてガルアーノは噛み締めるような笑いを上げた。

『そうだとも! 元からシャンテは此方側の人間だったのだよ。貴様たちの情報をこちらに流し、今日もまた貴様らはここに誘われたに過ぎん』
「何だと……?」





◆◆◆◆◆





茶番。
つまらないやり取り。
意味もない遊び。

俺は目の前で繰り広げられる言葉の数々と話の流れを、ただ黙ったままに聞いていた。
シャンテの登場とその真実に揺れるエルク達と、唇を噛み締めたままその非難を受けるシャンテ。
そして三流役者に過ぎないガルアーノ歪んだ声。
どれもこれもが予定調和にすぎないつまらないやり取りだった。

「ガルアーノ! もういいでしょ!? 弟を、アルを返してよ!」
『ククク……弟、か。おい、教えてやれ』

そんなやり取りの果てに弾けたように叫ぶシャンテと、それこそ茶番だと言わんばかりに嗤うガルアーノ。
スピーカー越しに促されたのは俺であり、それはこの広間にいる人間の視線が俺に集まる瞬間でもあった。
縋るようなシャンテの視線と、弟という人質を取る所業に眼を顰めるリーザとジーン。
そして微妙な顔のエルク。

俺は広間の扉から背を放すと、ゆっくりとシャンテの目の前まで近づいていった。
今にも泣きそうなほどに顔を歪めているのは、今まで耐えに耐えてきた苦渋で限界に近いからか。
うっすらと瞳に涙を浮かべるシャンテに真実を言うのは、やはり億劫なものであった。

しかし、告げねばならない。
この俺が。
例え下したのはガルアーノであれ、この刃を振るったのはこの俺だ。

「既に死んでいる」
「…………え?」

ごくあっさりと。
まるで何でもないことのように告げた声は、存外、人の少ない大広間にはよく響いた。

「嘘でしょ? 何で……嘘よ……」
『クククッ……ハハハハ……ハハハハハハハ!!』

消え入るような声と共にこちらに弱弱しく掴みかかってきたシャンテをそのままに、頭上から振る雑音に顔を歪める。
こちらを必死に揺さぶり、幾度もそれが嘘だと問い続けるシャンテを振り払うつもりなど、俺にはなかった。
そして、慰めの言葉をかけてやるつもりもない。

ただ横目に見えたエルク達が茫然と立ち尽くす姿を見て、俺はほんの少しだけ心を痛め。
――――その一行のただ一人がこちらに突撃してくるのを捉えた。
銀色の髪を振りまき、何一つ迷いなく刃を振り下ろすその男。

「うおおォッ!!!」
「ジーン!?」

意外、というべきか。
未だ再会してから交わした言葉は少なく、彼の性格をはっきり理解しているわけでもないのだが、そう言う他ない。
未だ縋る様に掴みかかるシャンテをどかし、怒りのままにソードで切りかかってきたのはジーンだった。

無論真っ向から受けてやる道理もなく、新調したばかりのナイフで重心をずらすようにして受け止める。
怒りに任せた攻撃だからか、受けるのは容易い。
だがそれでも尚、その激昂した剣閃は俺の手を痺れさせた。

「甘かった……ッ」
「…………」
「あの島から出て、エルクの話を聞いてッ……聞いていただけだった!」

その美系の顔を怒りに歪め、顔と顔がぶつかってしまいそうなほどの距離で叫ぶ様に、俺はしばし呆然としてしまった。
あの子供の頃に見ていた彼とは違う、風などでは収まらない嵐のような心。

「ガァァルアァノッ!!」
『ふん。生かされている身で生意気な……遊んでやれ』

本当に、ただシャンテに絶望を見せる舞台のためだけにこのやり取りを仕組んだのか。
ジーンの言葉に興を殺がれたのか、ガルアーノはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、そのまま俺に対応を丸投げしてきた。
小悪党であることには相変わらず変わりないが、それでもいくらなんでもお粗末過ぎやしないだろうか。

「待て! ガルアーノ!」
『まだ此処は貴様らと儂が相見える舞台ではない。始まりの場所、白い家で待っているぞ、諸君』
「チッ……」

それきりスピーカーからはノイズすら流れなくなり、本当に通信を切ってしまったようだ。
それはそれでこちらには都合がよいが……まぁ、いい。
どちらにせよ、兎にも角にもまずはこの戦力差をどうにかせねば始まらない。

刃と刃を弾き、即座にジーンとの間合いを取った俺は、先と同じように足元からシャドウたちを生み出すべく影を溢れさせた。
今回ばかりはもう一体を温存するわけにもいかない。
エルクたちも一度見たこちらの力に驚くこともなく、むしろ新たな敵の増援にすぐさま陣形を整えて見せた。
放心としたまま動かないシャンテを守る様にして武器を構える彼らだが、無論こちらに手加減をしてくれるわけもないだろう。

「ファラオ、お前も出ろ」
≪…………≫

シャドウ、アヌビス、そして続く様に無言で現れたのは俺と似たような姿……全身を包帯で包んだミイラの姿。
キングマミィ――――すなわち俺の不死能力の元にもなっているアンデッドの魔物。
相も変わらず何を考えているのか分からない無言のままだが、戦力にはなる。

「まぁ、消化試合にすぎねェなァ」
「必要なことなのだろう……少々ガルアーノの手際には愕然としたがな」

好き勝手言ってくれるシャドウとアヌビスをまずは黙らせ、こちらも密集して彼らに相対する。
流れ通り――――いや、部下からの情報通りであるならば、ここら辺で奴が来るはずだ。
などと思っていれば、唐突に閉めたはずの広間の扉が吹き飛んだ。

「……いやァ、期待に応える男だねェ」

シャドウの軽口にその場の全員が白い煙の上がる方を向けば、その先から現れたのはシュウ。
こちらにとっては予定通りの流れに戸惑うことなどないのだが、エルク達にすれば目まぐるしく変わっていく状況についていけているかどうか。
ちらりとエルク達の方を向けば、嬉々とした表情でエルクは乱入者の名を呼んだ。

「シュウ!? 無事だったのか?」
「話は後だ! まずは奴らを蹴散らすぞっ!」

この状況をどこかで見ていたのか、シュウの表情に焦りのようなものは一つもない。
即座にエルク達と合流したシュウは、シャンテの守りを一手に引き受けるかのように彼女を庇うように俺の前に立ちはだかった。
前に接触した時と変わらない、いつも通りの黒装束。
見てくれは忍者そのものだというのに、登場の仕方はまるで忍んでいなかったな。

「キヒヒ……忍ばれたら困るのはこっちだろ?」
「主よ、これだけ相手が揃っているのだ。多少はやる気をみせてはどうだ」
「無情」

…………そんなことを言われても、茶番に過ぎない戦闘に力を入れる道理など無い。
そもそもガルアーノによる出来の悪い芝居など既に終わっている。
白い家の場所を事細かに教えてやらなくてもシュウが既に調べ上げているはずだろう。

「ウィンドスラッシャーッ!」

どうにもやる気のおきないままにその場で佇んでいれば、そんなこちらの隙を突くように放たれたのは烈風。
そこらのテーブルやら何やらを切り裂きながら襲いかかる風の刃に、俺たちは散開せざるを得なかった。
そして、一人シャドウたちより離れた俺を追撃してきたのは、風と炎。

咄嗟に繰り出したナイフとあちらの剣が火花を散らし、ギリギリと押し合いながら膠着した俺達の向こう側ではシャドウ達がリーザやシュウと戦っている。
どう考えても戦力の分散がおかしいこの状況ではあるが、この面子で戦い合うことになったのは幸か不幸か。

「逃がすと思っているのか?」
「…………」

歯をむき出しにしてその鉄の刃に力を込めるのはジーン。
反してエルクは無言のままで剣を押し付けるだけ。

――――ドクン。

心臓が高らかに鼓動したような気がした。





◆◆◆◆◆





いくら大立ち回りが可能な大広間とはいえ、この人数がそこらで風やら炎を巻き起こすのはあまりに窮屈だった。
確かにエルクとジーンの眼はこちらに向き、リーザやシュウの方をシャドウ達が抑えているとはいえ、いつ乱戦に陥るか分からない。
シュウ辺りならばシャンテをかばいながらもこちらを横合いから殴りつけてきそうな気がして恐ろしい。

「おおおっっ!!」
「はぁっ!」

ジーンとエルクによる歪な連携による攻勢を往なしながら、俺は徐々に戦闘の場をシャンテが出てきた隠し扉の向こう側へと移していく。
無論無傷ではない。
身体を翻す度に彼らの斬撃が俺を襲い、既に様々な部分の包帯が千切れ千切れになりつつある。

「ハッ……逃げてばかりだな!」

というかジーンの攻勢があまりにも苛烈すぎる。
シャンテに対するガルアーノの所業がそれほどまでに彼の心に触れたのか、斬撃そのものよりもそれに乗せた怒りの方が俺には染みる。
対してエルクはどこか迷いを残したような終始無言のまま。
廃墟の街で遠巻きに見ていたあの完成された連携が歪になっている理由は、おそらく彼の精神状態にあるのだろう。

剣閃の中に混じるあやふやな迷い。
ジーンの烈火の如き攻撃とはまるで正反対の揺れる剣。
そこにあの炎のような煌きは一つもない。

思い当たる所がないわけでもないが、その迷いは必要でない。
お前は、お前達には、その迷いは要らないモノなんだ。

逃げる様にして後退していったシャンテの隠し部屋――――つまりはガルアーノの私室。
今となっては重要な資料やらガルアーノ私物は持ち運ばれており、どこか殺風景な様と豪華な装飾が合わさって何とも気味の悪い部屋になっている。
が、ある程度の戦闘ならば十分に可能な広さだ。

ここからが本番。
彼らになら適度にやられても問題はないが、ガルアーノの要望をこなすにはそれなりの戦闘を経て此処から脱出せねばならない。
足止めの意味でシャドウたちを動かすことも出来る。
ようやくにして準備が整ったと体勢を立て直せば、俺の前に立ちはだかる二人の内一人が、だらりとその剣を下げた。

「…………」
「エルク……何やってやがる」

無論それに異を唱えたのは、徐々にその怒りを収め冷静さを取り戻してきたジーンだった。
隣り合わせに並ぶ二人の少年。
剣の切っ先をこちらに向ける風の少年と、その悲しげな眼をこちらに向ける炎の少年。
なんとなくではあるが――――ばれてはいるのか、などとお気楽な思考を俺は頭の片隅に浮かべていた。

「お前は、聞いたな……元気か、って」
「おい? 何の話を……」

ぽつりと零した言葉。
遠くに聞こえるシュウたちによる戦闘の騒音がありながら、その言葉はどこまでも俺の心に響いていく。
ああ……気付くのか。思い出したのか。認識してくれるのか。
様々な想いが胸の内に浮かび上がる。

ぞわりと体中に鳥肌が立つようなおぞましさと、どうにも止められない高揚感に手先が震える。
果たして俺の取るべき選択はどれだ?
一番俺の結末に近い返答はどれだ?
用意していたはずの反応は何だった?

予期していた。
この瞬間を。

シュウによる情報によって。
戦いの中で俺を呼ぶ名によって。
もしくはこの小さな英雄達と繋げた絆が為せる業か。

俺の珍しい名が齎す秘匿性など、あまりに脆い。
故にいつかはエルク達に俺の正体がばれるのだと。
俺は――――ただ一人ではいられないのだと。

じっと待つ。
唇が震え、手も震え、瞳に悲しみを浮かべたエルクの言葉を。
唇が震え、手も震え、瞳に感動を浮かべたままに。





「お前は、元気なのか……? ――――クドー」





聞いたか?
おい、今の言葉を、聞いたか?

心が粟立つ。
転げ回りたくなる激情に駆られる。
声を上げて笑いたくなる。

ああ、多分。
俺は、幸せだ。

だがしかし廃墟の街で犯したような失態を繰り返すわけにはいかない。
ガルアーノによって引き裂かれた4人の子供たちが織りなす物語は、ハッピーエンドではいられない。
大団円で居られる可能性など既に潰えている。
故に俺がソレを受け持つだけ。
簡単な話だ。

「…………冗談じゃ、ないんだな?」

思いもよらない事実のはずだというのに、ジーンのエルクに問い質す声はただ震えるだけだった。
どこかエルクの様子に考えるところがあったのか、それとも彼もまた俺の正体を予期していたのか。
おそらくは先ほどまで掛けていた迷いのない攻撃を考えれば、前者。
エルクとジーンが、友としてきちんと思いを通じ合わせていることに歓喜する。

「なぁ、答えてくれよ。俺は答えただろ?」

縋るような、それでも俺がクドーであることは確信しているエルクの声。
もはや互いの間に闘争の空気など存在せず、ただ互いの視線を合わせて俺の返答を待つだけだった。
どう答えてやればよいものか。
そんなことを考えていれば、俺の口は勝手にべらべらと喋り出した。

「…………ああ。死んでいない程度には元気だよ、エルク」

多分、これでいい。
言葉を選ぶ必要など無いのだろう。





◆◆◆◆◆





しわがれた声。
人ならざる身を得た代償か、既にクドーの声はエルク達と同年代の若々しいそれからは離れ、どこか血生臭いものすらも感じさせる。
エルクの問いかけに天を仰ぎ、噛み締めるようにその灰色の瞳を向ける様は、どう言い繕っても化け物のそれ。

エルクは悲しかった。

だがその声の調子だけは、敵と味方に分かれたものが出せるものではなかった。
そこらに蔓延るキメラが出せるものではなかった。
少なくともエルクとジーンの記憶を呼び起こすには相応しい、懐かしき声。
敵と味方ではない。
人間と化け物ではない。
――――友と友のそれ。

ジーンは悔しかった。

ジーンとエルクが互いに視線を落としたのは、怒りか、悲哀か、無念か。
クドーと彼らの心は交わらない。
クドーが歓喜を覚えれば覚えるほどに、エルクとジーンはその心を痛めた。
絶望的なまで、双方の立場は交わらない。

「俺たちは、俺は……遅かったのか?」
「互いに元気であれば十分だろう」
「そんなわけあるかよっ! お前は、お前はっ」

おどけたようなクドーの口調。
今まで沈黙や静観を続ける様を見せる彼からすれば、どこかあやふやなものを感じさせる声。
ただ彼はエルク達と話せて嬉しいだけ。
だがそうであればあるほどに、エルク達は唇を噛み締めた。

「クドー……俺を、お前は」
「気にするな。気にしなくていいんだ。ジーン」
「は、ははは…………無理に、決まってんだろ」

クドーは笑う。
ジーンも笑う。
ただ笑い合った。

そこで途切れてしまった互いの言葉。
もはや掛ける言葉を失くしてしまったエルク達を前に、先に狂気を取り戻したのはクドーだった。
犬歯をむき出しにして造り物の笑みを浮かべ、十分に受け止められる余地のある速さを以って双方に切りかかった。

「ぐッ、クドーっ!」
「ハハハ。過去がどうであれ、今は敵と味方だろう? 呆けられては困る」
「おっ、れたちが戦う意味なんてないだろうが!」
「敵と味方。それ以上のモノが必要か?」

エルクとジーンは既に戦意すら喪失していた。
だというのにクドーはその隙を突く様にしてナイフを振るう。
その武器による機動力を活かして、部屋の中を跳び回るようにしてエルク達を切りつけていく。

「俺たちの敵はガルアーノだろ!?」
「何を寝ぼけたことを」
「何だとっ?」
「俺が……この血溜まりが……貴様らを殺さない理由があるものかっ!」

一気に距離を詰めたクドーが放った回し蹴りに、エルクは為す術なく跳ね飛ばされた。
そのまま壁に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべたエルクの前に立っていたのは、どこまでも狂気に浸された親友であった者の姿だった。

「エルクッ! クドー、お前っ!」
「ハハハハッ! 既に人としての感情などあるものか! 私はガルアーノ様の右腕として、貴様らを屠るのみ」
「ク、ドー……」
「だがガルアーノ様が望むのは貴様らの力だ。どうだ? こちらに来てみないか?」
「お前……」

人としての心など持ち合わせてはいないのだと高笑うクドーを前にして、エルクとジーンは茫然とするしかなかった。
あれだけ仲が良かった親友が。
あれだけ救いを決意した仲間が。
既にクドーは彼らの手の届かない遠い何処かにいた。

絶望とも言える状況。
だが入口の方から弱弱しく漂う影が入り込み、それがクドーの足元に這いまわると、その扉の先からはシュウたちが続々と入り込んできた。

「エルクッ、無事か!?」
「ジーン、大丈夫!?」

既にシャドウ達は情けなくも退けられ、多少は戦闘の疲れを見せつつもシュウたちは健在な様を見せている。
だが、その声を聞いても尚、エルクは立ちあがることが出来なかった。
ただつまらなそうに、悪党のように鼻を鳴らすクドーを見上げるのみ。

「まぁ、舞台はここじゃあない。シュウよ。白い家の場所は分かっているな?」
「何?」
「其処で待っているということだ。では、な」
「クッ……逃がすか!」

徐々にクドーの足元に漂う影が濃さを増し、やがて部屋中を覆う黒い霧のように変わっていく。
だがそれを黙ってシュウが見過ごすわけもなく、背に背負ったマシンガンを取り出そうとしたその時、その手を遮ったのはエルクだった。

「エルク、何故……」
「…………」
「エルク? ジーンも……どうしたの?」

霧が晴れた時には既にクドーの姿などそこにはなく。
ただ今にも壊れそうな表情を浮かべて地面に手をついたエルクと、どこか茫然と虚空を見上げるジーンに掛ける言葉など、リーザ達は持ち合わせてはいなかった。






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