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No.22701の一覧
[0] (ネタ)ストライクウィッチーズ:R[どろん](2010/11/08 06:15)
[1] ガリア戦線 1話 ウィッチ[どろん](2011/01/03 15:08)
[2] ガリア戦線 2話 トップエースだ[どろん](2010/11/23 20:34)
[3] ガリア戦線 3話 言ってない[どろん](2010/11/07 21:01)
[4] 501 1話 1人じゃないけど3人でもない[どろん](2010/11/23 20:48)
[5] 501 2話 ごめんなさい[どろん](2010/11/03 08:55)
[6] 501 2,5話 ありがとう[どろん](2010/11/02 19:22)
[7] 501 3話 ソルダット・オブリージュ[どろん](2010/11/23 20:38)
[8] 501 3,5話 賭け事[どろん](2010/11/11 22:11)
[9] 501 4話 無茶言うな[どろん](2010/12/29 06:18)
[10] 501 4.5話 後付け[どろん](2010/12/01 06:18)
[11] 501 5話 courage test[どろん](2010/12/29 06:34)
[12] 501 5.5話 人生相談[どろん](2010/12/29 06:16)
[13] 501 6話 らぶれたー秘録[どろん](2011/01/03 15:06)
[14] 501 7話 閃光Ⅰ[どろん](2014/11/29 09:26)
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[22701] 501 3話 ソルダット・オブリージュ
Name: どろん◆8036c206 ID:605b3706 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/23 20:38


「何か寒いですね、今日は」
「いや、十分暑いと思うが。大丈夫か、お前」

バルクホルンさんが私の言葉に応える。
気分は夏真っ盛りで、いつ海での訓練があるのかと心待ちにしているところにも関わらず、少し肌寒く感じる。
気温は低くない、むしろ「これでもか」というくらいには、暑い。
つまり、虫の知らせというかなんというか。
この背筋が凍えるような感触は多分、ネウロイだ。
長い間戦っていると、たまにこういう時がある。
何の前触れも情報もないのに、「あ、今日来る」、と頭にスッと入ってくる。
ヴィオレーヌ・ファルシネリとしては体験した事は無かったけど、前の時には何度かあった。
そして毎回、碌でもない敵ばかりやって来る。

(前にこれを感じた時には、私の部隊が全滅したんだよね)

ガリア戦線の時とは違う、自らの手で鍛え上げた最高の部隊だったが、長時間の戦いを強いられ、敗北した。

(とはいえ、空振り率50%なんだけど)

この感覚に陥ったとしても毎度毎度敵が来るわけでもなかった。
あくまで、経験則の延長線上。
エイラさんみたいに予知能力を根拠としているわけじゃない。
ただ、20年と戦い続けた女の勘は、馬鹿にならない。

予定調和的に、警報が鳴った。

「警報だと?また不規則な出現だな」
「そうですね。取り敢えず作戦室に行きましょう」

いまさらネウロイの突然な出現くらいでは、驚かない。
私は今更だからとして、バルクホルンさんももとは最前線の人だし。
しっかり基地の中で装備が整っている状態なら、取り乱すことは無い。
二人して作戦室へと走る。
石造りの廊下は走るたびに反響音を出していて、ちょっと走るのが楽しい。
普段走ったりしたら坂本さんに怒られるのでできないが、緊急の時は話が別だ。

「なんだ、ネウロイが出たというのにご機嫌だな」
「……すみません」

ちょっと面白がっていた所をバルクホルンさんに諌められる。
バルクホルンさんは少し顔を顰めたが、まぁいい、と流してくれた。
もう少しで、作戦室だというところで、館内放送が入る。

『ヴィオレーヌ・ファルシネリ中尉とシャーロット・イェーガー大尉は直接格納庫へ向かってください!繰り返します――』


私か、と思って足を止める。

「どうやら何かあるようだな。私はこのまま行く。気を付けろよ」

そういうバルホルンさんに礼を返して、ついでに踵も返す。








ハンガーに着くと既に坂本さんが待機していた。

「ファルシネリか、こいつを着けて南へ飛べ! シャーリーはもう出た!」

そう言って坂本さんはインカムを投げる。
説明は空で行う、とにかくブライトンへ向けて全速力を挙げて飛べ。
そんな内容の事を早口で捲し立てながら私をストライカーに乗せる。
冗談じゃない様子なので、素直にストライカーに乗って上空へ飛び上がる。
ある程度高度を上げるとシャーリーさんが作ったであろう噴煙の道が目に映ったので、それに追随するように加速する。

(ブライトン、と言えばブリタニア有数の観光都市でしょ……!?)

今現在、敵と向き合う形になってる為多少人数は減っているはずだが、人口10万超えの大都市に変わりはない。
だが、観光都市という性質上そこに大した武装は無いはず。

(そんなとこに、ネウロイが向かっている?)

今更、前の世界と同じ流れになる事を盲信していた、何て事は無いつもりだったが、ここまで一気に流れが変わるとは思っていなかったのも事実だ。
スフィア状の外部加速4基を周りに展開して、最大速へと身を預ける。

『聞こえるか、ファルシネリ?』
「はい、良好です坂本少佐」
『こっちも大丈夫。でも、説明はしてくれ少佐』

坂本さんからの通信に私とシャーリーさんが返す。
そして問い質す、なぜこれほど大急ぎで私達は飛び出させなければならなかったのかを。

『分かっている。しかしこちらもあまり時間に余裕がない。質問はすべてまとめて最後に頼む』
「了解」
『了解』

時間が無い、という前置き。
そして「こちらも」という表現。
かなり焦っているみたいだ。
背後でバタバタと準備している音が聞こえることからみても、前突発で行ったような実戦訓練、とかではないようだ。

『敵は3機だ。まずウィッチーズ基地に向かっている高速型が一つ、次にブライトンとここの丁度中間地点辺りを抜けようとしている100m級以上のものが一つ、そしてブライトン向かっている魚群のようなネウロイが一つ、だ。基地に近い二つに関してはこちらから対応する。お前らはC部隊として魚群型を足止めしろ!』
『ちょっと待ってくれ!魚群型ってなんだ、それだけじゃ何もわからない!』
『私にもわからん、だが何とかしろ!ウィッチーズの中で敵がブライトンへ辿り着く前に接敵できるのはお前たちだけだ!時間さえ稼げれば最悪それでも構わん!ペリーヌ、宮藤、リーネを増援としてブライトンに送る!お前らは出来るだけ都市から離れたところで接敵し食い止めろ!』

双方から怒鳴り声が鳴り響く。
どちらも焦っているからだ。
シャーリーさんは未知の敵と都市一つの重圧を受けて、坂本さんは100m級や高速型などを前にして、その対応策を必死に頭の中で作り上げているからだ。
生きる為に、生かす為に。
見知らぬ誰かを守る為に、その能力を必死で使い果たそうとしてる。

(私は、見知らぬ誰かの為なんかに、戦えない……)

今、ここでこうしてるのだって、皆の姿に『前の世界の皆』を重ねて、守って、自己満足に浸っているだけだ。

(使命や義務でなければ戦ってはいけない、なんてことは無いと思うけど)

ただ、それを持たずに戦い続けることは難しい。
それを私は、あの戦いで痛感した。
心が折れてしまったのだ。
だからこそ、最後にあの場所で落ちる事になった。
『宮藤芳佳』には、皆の命の詰まっていたというのに。

(……何にせよ、守るんだ)

思考を切り替える。
戦いの為に思考を負の方向へと伸ばすことはウィッチには許されない。
守る、守る、と空っぽの言葉を自分に言い聞かせて、その身を戦いへと捧げるしかない。
何を守るのか、何を守りたいのかも分からぬまま、守れ守れと自分の背中を押しながら戦いの化身へと、戦士へと姿を変えるのだ。

(迷う事なんかない、考える事なんかない)

ただ戦えば、それでいい。
そうすれば、いつかきっと許される。



坂本さんももう出撃という事で、無線を切り、しばらくの間高速飛行を維持していると、シャーリーさんから無線が入った。

『こちらシャーリー、聞こえるかファルシネリ』
「聞こえています。何かありましたか?」

その声は震えていて、どうしても嫌な予感を感じずにはいられなかった。

『ミサイルだ』
「……え?」

思わず聞き返してしまう。
ミサイル、と言えば対象に衝突して爆発するあれだ。
だが、今回の敵は魚群型。
もし敵ネウロイがミサイル型だというのなら、

『100近い数だ! 全部ブライトンに向かっている!!』

どうやって、防げというのか。

『とりあえず片っ端から撃ち落とす! 早く来てくれ!!』
「――っ、はい!」

外部加速の出力を更に上げて、シャーリーさんの噴煙を追っていく。
実際の最高速ではこの時代で既に音速に近いシャーリーさんとはかなり差があるはずだけど、ものの1分と経たずに追いついた。
だが、そこで見たものは予想以上だった。
シャーリーさんが既に何機も落としているはずなのに視界の端から端まで埋める数の一直線に並ぶ全長10m、直径1.5m程のそれは、一発の着弾でも都市の10分の1程は破壊するだろう。

(巡航ミサイル……?)

何で、こんなものが。
それは、もっと先の、そのまた先の、最高水準の技術の1つ。
それが、この数。
この至近距離なら一機でも爆散すれば、周りの物も連鎖的に爆発するだろう。
全部撃ち落とすか、最悪、自分を盾にして全てのミサイルを爆発させるか。
どうやら魔法攻撃でなら爆散はせず、そのまま光の粒子になるようだが、

『何してる!? 撃てっ!』
「っ、はい!」

銃口を向け、引き金を引く。
ただそれだけの作業に時間がかかる事なんかない。
1機ずつ、1機ずつ減らしていけばいい。
ギリギリ、本当にギリギリだが、ここからブライトンまでの距離を考えれば、全て撃ち落せる。

「っ!」

1つ2つ、3つ4つ、二人掛かりでならかなりのスピードでそれは減っていく。
向こうからの反撃は無く、ただ真っ直ぐ飛んでいるだけなのだから落とすの自体は難しい事じゃない。
少しずつ後退しながらも、確実に敵の数を減らしていく。
そして、ブリタニア有数のリゾートシティ、ブライトンが視界に入り始めたころ、

「撃墜数的には、悪くないけどなぁ!」

私は右端から、シャーリーさんが左端から敵を削って遂に生の声の届く距離となっていた。
このままなら、間に合う。
予想より自分の射撃の腕が『戻っている』事もあって、少ないながらも余裕を持って撃退することが出来そうだった。

「このままなら!間に合います!」
「だな!もう少しだ!」

残り少ない銃弾を気にしながら、更に更に撃ち落としていく。
そして、ようやく、最後の1機となった。

「これで、」
「ラスト!」

シャーリーさんの銃声で最後の一発が粒子となり、海に降り注いでいく。
最後の撃墜を確認し、一通り周りを見回して敵が残って居ない事を認めると、シャーリーさんがこちらにやってきた。

「はーっ、きつかったなあ。向こうはどうなった事やら」
「そうですね。怪我してないと良いんですけど」

そう言ってインカムの出力を切り替える。
この時代のウィッチ用無線機は魔力によって出力している為、あまり距離がありすぎる場合はどこか一方に出力先を絞らなければならない。
今までは互いに合わせていたが、今度はミーナさん、というか基地周辺に合わせる。
観測班から最後の確認と、指揮官からの次の司令を貰わなければならないからだ。

「ああ、私がやるよ。一応私の方が階級は上だからな」

ただ、お前の方にも転送するから話は聞いておいてくれ、そう言うとシャーリーさんは私の無線との接続を切り替えて、基地に向かって魔力を飛ばす。

「こちら、C部隊敵を撃墜した。次はどうすればいい?」
『っ――シャーリー!? 繋がって良かった! すぐにさっきの位置に戻って!!』
「は? いやもうあそこには何もない……」
『第2波よ! さっきと同じ魚群型がまたそこに向かってる! ブライトンで弾薬の補充は頼んでおいたわ! 何とか、何とか敵の数を減らして!!』

シャーリーさんは一瞬顔を顰めたが、すぐに切り替えて、ブライトンへと行先を決めた。
ブライトンを良く見てみれば確かに、屋上や海岸線に弾薬と武装を持って、兵隊たちが待機している。

(第2波って……。このまま戦っても)

ストライカーを走らせて建物の屋上にいる兵士から新たな機関銃と弾薬を受け取り、再び上昇する。

『時間が無い。最高速でさっきの地点まで戻る』
「待ってください!」

シャーリーさんの顔からは余裕が消え失せていた。
今の時点でさっきの場所にいるという事は、今度はどう考えても間に合わないという事だ。
顔を青くするシャーリーさんを前に私は、立ち止まった。
一瞬加速しようとしたシャーリーさんはこちらに向かって旋回してくると、私に向けてこう言った。

「気持ちは分かるけど、やってみなきゃわからないだろ……!?」
「わかります! 間に合いません!」

シャーリーさんの言葉に私は事実を返す。
答えを返すとシャーリーさんは私の胸ぐらを掴んで私にそのビンタをお見舞いした。

「私にだってそれはわかってるよ! でも、やるしかないだろ! 少しだって!」

少しだって、そう言いながら拳を解いた。
だって、間に合わない。
そんな事、素人目に見たって明らかなのに、何度も現場を経験した歴戦のウィッチがわからない訳がない。
どうやっても、ミサイルを撃墜するのは不可能だ。

「……少しだって、敵を減らす。お前が行かないなら私ひとりでも、」
「だから、少し待ってください。方法が、あります」

どう考えても殴られ損だけど、作戦を説明する。
このままいっても勝てる気配が微塵もない以上、やるべきことは策を変える事だ。
それを説明しようとしただけなのに、諦めたと勘違いされて叩かれたようだけど、私は普段どんなふうに思われていたのだろう。

「……方法、あるのか? そんなのが?」
「あります。だから、話を聞いてください」

まあ叩くとき胸が揺れるのが見れたからチャラにしとくけど。
そして説明に入るが、作戦という程のものではないのは確かだったのに、シャーリーさんは楽しそうに賛成の意を示してくれた。
その内容とは、子機を倒すことより親機を倒すことに集中するというものだった。






「恐らく、対岸に居るはずです。この近辺であれだけの量の金属を補給できる場所なんてそんなに多くは無いはずですから。後は、ミサイルの弾道を辿ってください」
「了解。手を叩くと消える、で良いんだよな?」
「はい、流石に状況を見せてくれるほど便利なものではないので」

シャーリーさんのストライカーに4つのスフィアが纏わりつく。
私の外部加速だ。
これにシャーリーさんの超加速を合わせて対岸に『居るであろう』ネウロイのコアを破壊する。
コアを破壊すれば、子機のすべては消失する。
ミサイル群が子機であった以上、親機がどこかにいるはずなのだ。

「ペリーヌさん達もこちらに向かっているはずですから、第2波は恐らく防げます」

3人も増えればかなりの短時間で撃墜できるはずだから。
いくらまだこっちの私は練度が低いとはいえ、直線に動く物体に当てられないほどでは無かった筈。
それに、ペリーヌさんはこの時期でもすでに国を代表するウィッチだ。
何とか、間に合う、間に合わせる。

「それじゃ、後は任せた」
「はい、気を付けてください、シャーリーさん」

その言葉と共に、シャーリーさんは上昇し私の外部加速と共に速度を上げる。
超音速へ、向けて。

(さて、)

シャーリーさんが飛び去った方向を見ると、1列に並んだ黒い点、点、点。

(正念場、だ)

今、この戦場に味方はいない。
だったら目に留めったものから撃っていけばいい。

(何も考えなくていい。ただ撃てばそれでいい!)

外部加速に込めた魔力は自身の魔力の半分に迫る。
残る僅かな魔力を総動員させて、昔を思い出す。
味方のいない、最も強かった時の『宮藤芳佳』を、思い出す。











僅かに残る煙の後を追走して、ブライトンまでやっとの思いで辿り着いた。

(思っていたより、離されてますわね……)

C部隊が戦闘開始したとの通信から随分時間がたっているはずなのに、まだ追いつけていない。
それだけ、あの二人は早かったという事になる。
シャーロット・イェーガー大尉。
ストライクウィッチーズ最速の機動力に加えて、更に加速系の固有魔法を持つリベリオンのスピード狂。
ヴィオレーヌ・ファルシネリ中尉。
ガリア東部戦線の奇跡の立役者にして、坂本少佐も認める世界最高峰のウィッチ。
どちらも、世界レベルに名を轟かせるトップエース。
それに比べて私は、『青の一番』、なんて欧州で持て囃されてるだけの、ただのウィッチ。

(別に、最強だとか、最高だとか、そんなものに憧れてるつもりはないんですけど)

それでも、手を伸ばしたくなる。
その輝きが彼女たちには、ある。

(今日は、全力を、尽くす)

今の自分を見せたい。
かって東部戦線で補給係として相対するも、何ら特徴を見つけられなかったのか、再会した際にも何も言われることは無かった。
覚えて貰えているか、もしかしたら、顔の造形ぐらいは覚えて貰えているんじゃないか。
そう思っていたけれど、結局私に向けられたのは、皆と変わらぬ視線。
ストライクウィッチーズは、彼女にとって同列で、それは当然なのだけど、それでも私は悔しかった。

(だから、今日、刻み付けて見せます)

ペリーヌ・クロステルマンという小さくとも確かな輝きを、あの金色の瞳に――。

『ペリーヌさん! もう少し西に進路を向けてください! もうかなり都市に近い場所での戦闘に入っています!』
「わかりましたわ。速度を上げます。宮藤さん、リーネさん、遅れないように」

了解、その言葉が二つ重なって耳に入ると同時にストライカーに込める魔力を増やす。
常に全速力で動いていれば普通のウィッチであれば魔力が足りなくなるからだ。
もっとも、かなり短時間でのブーストが可能なあの二人には関係ないのでしょうけど。
陸地が近づいてくる、雲の流れがグンと早くなる。

(覚悟を決めなさい、私)

憧れているだけでは、駄目だ。
追い縋らなければ、手を伸ばさなければ、気持ちを、強く持たなければ。
仲間として、認めて欲しい。
少佐にも、中尉にも。

『迷ったら、強気で行け』

少佐に言われた言葉を思い出す。
以前、自分の実力について相談した時、中尉への劣等感を露わにしてしまった時、言われた言葉だ。

(あの時、まだ中尉はいらっしゃらなかったけど、)

それでも、劣等感はあったのだ。
ガリア出身のエースという事で、ひたすらに比べられた。
方や南で量を持ってして戦っているのに、あっさりと戦線を下げていく部隊、方や、僅か数人、いや実質的に1人で戦線を支え続けた英雄。
新米の頃、補給部隊として一度だけ東部戦線に参戦した時、養成学校時代からの伝説のウィッチを初めて直接見た。

憧れた。

私もあんな風に飛びたい、可能なら、その横で飛んでみたい。
届かない距離ではないと思う。
『あの時見た』中尉の実力になら何とか僚機を務められる程度には成長したはず。
まして、その後ブランクを挟んだ今なら、仲間として戦えるはず。

(認めて欲しい)

そう頭に浮かぶ、だが、その言葉を頭を振って取り消す。

(馬鹿な)

自分を追い立てていく、最大瞬間速まで。

(認めさせる!)

意気込んで、戦場へと向かう。
全身に力が漲り、魔力の通りがスッと良くなっていく。
体の中を風が駆け巡っていくような感覚を経て、自分が今最高のパフォーマンスが出来ると確信する。
迷ったなら、強気で行く。

(私が、ガリア最強のウィッチ!)

眼を見開いて、戦場に突撃していく。
しかし、戦場には彼女の望む光景は無かった。













目の前の敵をひたすら消化していく。
目の前に現れた敵のシルエットに狙いを定め、キッチリ3発だけ撃つ。
これを100回繰り返すだけの作業だ。
だが、現実はそんな簡単にものではない。
もう町は目の前だというのに、まだ半数近く残って居る。
その上、止まっては加速止まっては加速を繰り返す為魔力消費も激しい。
加速しながら3発も当てながら駆け抜けるのは不可能、とは言えないけどどこかで必ず取りこぼしが出る。
それを後々また反転して倒さなければならない事を考えると、堅実に行った方が良いと判断した。

(何より、爆弾の残りは出来る限り片方に寄せておかないと)

いざという時、町の半分だけでも生き残るように。
そう思いながら、着実に数を減らしていくが、明らかに間に合わない。
1機毎の間が丁度誘爆ギリギリの間を取っている為意外と遠い上、恐らく、さっきよりも速度が上がっている。

(ペリーヌさん達は、まだ?)

このまま来れないようなら、残る全魔力を放出してわざと誘爆させるしかない。
シールドを張ったところで生き残れないとは思うけど、町は助かる。
そんな危ない事を考えていると、待ち望んでいた増援が遂に来た。

『ファルシネリ中尉! これより戦闘区域に入ります、ご指示を!』
「北側からお願いします! 必ず横から銃撃で破壊してください!」

何かに正面から衝突すれば爆発する。
最先端兵器を有するリベリオン出身のシャーリーさんは知っていたが、ガリア出身のペリーヌさんは知らないかもしれない。
もちろん正面からでも衝撃から爆発までの間に完全に向こうの体力を削る事が出来れば爆発は防げるが、それには相当正確な射撃が必要だ。
そもそも線と点ならまだ線の方が狙いやすいに決まっている。
通信が終わるとペリーヌさん達も銃撃戦を開始する。

流石に4人もいればかなりのもので、あっという間にネウロイの姿は消え去った。
それでも、いくらかギリギリなものもあったが。

「ありがとうございます。ペリーヌさん」
「い、いえ、こちらこそ、その、……」

敵の消滅を確認すると、弾薬を補充しつつ礼を言っておく。
もう少しで自殺特攻するところだった事を考えれば、いくら頭を下げても足りない気がする。
本当に、助かった。

「怪我はありませんか?ファルシネリさん」

ペリーヌさんとそんな事を話していると、こっちの私から尋ねられる。
この時期の私は、誰かの為になりたくて仕方がなくって、ずっとこんな風に尋ねて回っていたと思う。
それが可愛らしくて、でもそれが自分だと思うと可笑しかった。
恐らく来るであろう『第3波』に向けてまた高度を上げていく、ある程度海岸線から距離を取ったところで、シャーリーさんから通信が入る。

『こちらシャーリー、敵を発見した! 発見したが……コアが見つからない!』
「っ!相手の形状はどんな形をしていますか」
『まるで機関車を馬鹿でかくしたようなのだ! 何m有るかはわからないが、1000は超えてる! 』

(! また、未知のネウロイ……)

そんなインパクトの大きいネウロイなら忘れるわけがない。
だが、記憶には残って居ない以上、相対した事のないネウロイという事だ。

「待ってください! 本当にそのネウロイがミサイルを!?」
『ああ、間違いない。今、射出口を潰したが、恐らく第3波は……』
「それは大丈夫ですそれより中心部は!?」
『攻撃してみたが反応がない。……いや、動き出したぞコイツ!!』

自分に超加速という魔法が備わっていなかった事に歯噛みする。
いや、それでもジェットストライカーがあれば……。
駄目か、この時期はネウロイ技術が進歩していない以上まともなジェットストライカーは存在しない。
自分では間に合わなかっただろう。

『いや待て、これはまさ――』

何かを言いかけた後、爆発音がして、そして通信が切れた。

「シャーリーさん、シャーリーさん!? 応答してくださいシャーリーさん!!」

必死に呼びかけるも反応がない。
魔力が尽きたか、インカムが壊れたか。
どちらにしても、残る道は死だけだ
今シャリーさんがいる場所はガリアの海岸線のはずだ。
そんな場所で、魔力が尽きでもしたら、

(死ぬしか、ない)

それも、私のせいで?
また、私のせいで。
死んでしまうのか、いや、殺してしまうのか、二度も。
だが、状況は悲観すら許さない。

「ファルシネリ中尉、第3波、来ます!」

リーネちゃんの声が響く、私は半機械的に銃を構えた。
そして、敵に向かって少しでも距離を詰めようとストライカーに魔力を込め、視線をネウロイに向ける。
だが、

「え、?」

足が進まない。
私も、リーネちゃんも、ペリーヌさんも敵に向かって突進していく中、私だけがその場に留まっていた。
魔力はまだ残っているのにもかかわらずストライカーまで届かない、その魔力が行き先を失って体の中を駆け巡る。

(嘘――、)

魔力の暴走。
ウィッチの初歩の中の初歩の技術、それを失敗した。
呼吸も同然に身に着いていたはずの、呪いの様な、それほど深層にまでしっかりと根を張ったその技術。
それが、失敗して体内に滞留していく。

「っ!」

無理やり体内でそれを爆発させる。
魔力の暴走をねじ伏せる時の常套手段だが、今まで使ったことは、無かった。
ネウロイ化装備を使う時に、念のためと訓練していたものが初めて役立った。
何とか捻じ伏せて体制を取り戻し、ネウロイへと迫ろうかという所で、通信が入った。

『ネウロイは電波を通さないみたいだな』
「シャーリーさん! 無事だったんですか!?」
『ああ、コアの破壊を確認した。もう休んでていいぞ』

その言葉と同時に目の前に会った一列のネウロイが光となって地に落ちていく。
その姿はまるで

「すごーい! 光のカーテンみたい!」
「うん! 綺麗だね芳佳ちゃん」

私の言いたい事は、こっちの私が言ってくれた。
このまま行けば、あなた達は光の城を見ることになります。
そう言ってあげたい。
にしても、疲れた。
ずっと不安定だった気がする。
最近懐かしい事が多くて、何かおかしくなっているのかもしれない。

(でも魔力の暴走は、びっくりした)

まさか、自分があんなことをやらかすとは思っていなかった。

(初心に帰って1から訓練しなおそうかな……)

仲間が『やられたかもしれない』で諦めて、私らしくもない。
前の世界の経験で少し臆病になっているのかもしれない。
いや、多分トラウマになっているんだろう。

(向き合わなきゃ、かな)

こんなものを残したまま、戦い続けるわけにはいかない。
それこそ、仲間を殺してしまうかもしれないし、あるいは、自分を殺してしまうだろう。
過去は、認めている。
私が多くの過ちを犯したことも、その責任からいまだ逃げきれてない事も。
背負えるほど軽いものでは、ないから。

『おい、今なんかそっちに飛んでったぞ!』

シャーリーさんから通信が入る。
慌てたような声で、いや、信じられない物を見たかのような声で。

(いったい何が?)

そしたら、今度は基地から連絡が入る。

『ファルシネリさん! 気を付けてください!! 超音速でそちらに飛行する10m級ネウロイがいます!! こちらもできる限りの戦力を集めてそちらに向かいます、持ちこたえてください!』

超音速型。
それは今の所僅かしか確認されていない。
いや、10m級ならば、1機しか確認されていない。
あの『巨人型』だけだ。

(今から、は、無理だ)

身体が強張る。
もう既に魔力は空に近い。
直線飛行する物体を撃ち抜くぐらいの魔力なら残っていても、あの巨人型とまともに戦えるほどの魔力は、無い。
まして、今回はペリーヌさんや私、リーネちゃんまでいる。
標的が複数いれば、私だけに集中して攻撃を仕掛けてきてくれるなんて、有りえない。
あの時は、魔力が今よりはまだ残っていたし、何より周りに味方がいなかったのが大きいだろう。
自分に向かってくると分かっている攻撃の対処なんて、そう難しいものではない。
だけど、今は――、

「っ!ペリーヌさん、宮藤さん、リネットさん、ブライトンへ帰還してください」

少しでも、確率を上げるしかない。
私の仲間を、守る為の。










「ペリーヌさん、宮藤さん、リネットさん、ブライトンへ帰還してください」

そう告げられた時、きっと私はひどい顔をしていた。
眼を剥いて、そして叫んでやりたかった。
貴女のより私の方が役に立つ、と。
さっき魔力を暴走をさせていたのに気付いてないとでも思っているのか、と。
シャーリー大尉と何かあったとしても、仮に、今どこかにいる大尉が倒れたとしても、私なら魔力を暴走させたりはしない。
呼吸より前提に来るほどにそれは脳に刻まれている事だ。
失敗なんか、何があったとしても、する訳はない。
そう言いたかった、食って掛かりたかった、このペリーヌ・クロステルマンの方が上だと、勢いに任せて。
確かに、通常の技術では及ぶべくもない。
それは誰よりわかっているつもりだ。
けれど、今の傷だらけの貴女よりは、私は戦えるつもりです。
そう、言おうとした。
彼女のその金色の眼を見るまでは。
そこには、何もかもがあった。
全ての感情を内包しているのに、研ぎ澄まされている。
覚悟の決まった眼、というのはこういうものを言うのかもしれない。
ペリーヌは、指示通りに2人を連れて都市へ向かった。
仕方がないから、付き合ってやるか、というくらいの気持ちで。






都市に着くと、いつも少佐に付きまとっている野暮ったい新人が話しかけてきた。

「本当に、良いんですか? その、ファルシネリさん一人で」
「……」

私は、答えなかった
良いわけない、駄目に決まっている。
どうしたら、勝てるというのだ、相手はカールスラントの魔女たちを一蹴するような相手なのに。

「! 中尉が敵と戦闘を開始しました」

リーネさんは相変わらず視力が良い。
これだけの索敵能力に加え(訓練では)精密な射撃技術、恐るべき素質の持ち主だ、と思う。
今は、本や資料を参考に練習しているらしいがこれで師が付いたら、きっと化けるだろう。
そう言われてから向こうを見ると、確かに戦闘が始まっているようだ。

「行きますわよ」
「え?でも命令……」
「私とファルシネリ中尉は同じ階級です。……それに、見殺しになんて出来ませんわ」

そう言うと、豆狸が微笑みを浮かべた。

「……なんですの?」
「いえ、やっぱりペリーヌさんは良い人だったんだなぁと思って」

ここでこうするのは当然だと思いますけど。
あそこで揉めているのは確かに危険だし、1度戦場から距離を取れば奇襲を仕掛ける事もできる。
中尉を騙すような形にはなるが、それは仕方がないだろう。

(本当に、戦う力なんて残っていないくせに)

そんな風に考えて空へと飛びだす。
ペリーヌはさっきの魔力暴走の件で完全にヴィオレーヌの評価を落としきっていた。
今の彼女が戦える相手なら、自分でも十分に戦える。
坂本美緒の言葉も相俟って、彼女はこの上なく強気だった。

だからこそ、心は折れる。

初めは、リネット・ビショップの顔が少しづつ青ざめていくのを見て、敵の戦闘力を少し高く修正した。
そして次に、空に放たれた6本のビームの威力を見て、敵の戦闘能力を自分と互角と設定した。
最後に、自分の視力で問題なく視認できる距離に来て、敵と戦う心を失った。

(――なんですの、これは!)

段階が、違う。
単騎で、軽装備で、その微量の魔力で敵を圧倒している。
『守る対象』の見つかった『宮藤芳佳』は他にペリーヌ・クロステルマンの知る全てのウィッチのその遥か上に居た。

「すご、い」

ウィッチの戦闘なんてまだ1度や2度しか見たことのない宮藤芳佳でさえ、その凄さを知れるほど、その動きは凶悪だった。
全てを躱し、全てを当てる。
最小限の魔力で最大限の成果を挙げ続ける。
一歩間違えば即座に奈落に落ちる事になるような動きを続けていた。

(エイラさんでも、あんな動きは、しませんわよ……)

普段は外部加速という優秀な固有魔法をもって想像できないような動きを構築していたが、今はそれもなしで、それ以上の動きを成し遂げている。
ペリーヌには分からないが20年の染みついた動きと、ここ2,3年で培った未熟な技術が拮抗するわけも無いので、当然のことだ。
だが、そうやって立ち止まっていると当然、敵の索敵に引っかかる。

「ペリーヌさん! 危ない!!」

巨人型の右手のライフルから放たれるペリーヌへの光線を宮藤芳佳が防ぐ。
だが、防がれた事実を認識した巨人型は背中に積まれた6門の翼のような武装の照準をこちらに向けた。
先程空に放たれたであろうそれは、ライフル1つを防ぐ為に作られたシールドなど容易に貫通するだろう。

「あっ!」

それに気づいた宮藤さんはシールドに更に魔力を込めようとするが、間に合わない。

「くっ!」

私は咄嗟に宮藤さんの手を掴んで横に抜けようとするものの、敵ネウロイはそれに合わせて照準を修正する。
しかし、それの発射は中尉によって阻止される。
手持ちの機関銃を撃ちながら敵の胸部へと接近していくと、敵ネウロイは突然後方に加速して距離を取った。

「……」

中尉は1度私達の横に来ると複雑そうな視線を寄越した後、先程よりも更に速いスピードでの戦闘を開始した。
私は、その複雑な視線、に戸惑った。

(今のは、帰れ、って意味じゃ無かった……!)

よく内容こそわからなかったものの、それでも、邪魔だという気持ちは無かった、と思う。
だからこそ、どうしたらいいのか分からなかった。
自分で勝負にならない相手だって言うのは、見ただけで理解した。
あの時の中尉の指示は何一つとして間違っていなかったのに、けれど、今の視線は……。

『迷ったら、強気で行け』

もう一度少佐の言葉を思い出す。
そうだ、何を迷う必要があるのか、前に出ればいい。
私がガリア最高のウィッチだ。
そうだ、何を躊躇っているのか、少なくともボロボロの『アイツ』より、私の方が戦える。

「そうですわ。このピエレッテ・H・クロステルマンが足手纏いなんてそんなの、」

身体に電撃を通す。
相手はたった一機だ、温存する必要なんてない。
最初に決めたとおり、全力で、仲間として戦う。

「有りえませんわ!」

















やっぱり来ちゃったか。
まあ来るんじゃないかなとは思ってた。
ペリーヌさん私の事かなり不審がってたみたいだし、やけにあっさり引き下がったし。
それに、やっぱりペリーヌさんは優しいから。

「行きますわよ、ファルシネリさん」
「はい、ペリーヌさん」

敵の巨人型は応戦するが、まるで当たらない。
当然だ、ガリア最強のウィッチに、そんなものが当たるわけがない。
ましてや、今は私もいるのにそんな簡単にいくものか。
今回、ペリーヌさんの所業は無茶としか言いようがない。
もう少し先ならともかく、今のペリーヌさんではこの相手は分が悪い。
でも、分が悪いはずなのに敵の攻撃を軽々と躱していく。
恐らく私の動きを真似ているんだろう。
あの短時間でよくもあそこまで吸収したものだ、と思う。
もちろん見よう見まねでは粗があるから、そこは忘れないようにフォローを入れていく。
何時だったか、誰かに言われた言葉を思い出す。
勝利の女神は気まぐれで、誰に微笑むかなんてわからない。けれど、勝利の悪魔は前に出る者にしか微笑まない。
その後に、君は悪魔に取りつかれている、などと言わなければ素直に感心したものを。
けど、今ペリーヌさんは悪魔を味方に付けた。
自分の身体が、理想通りの姿を描いて動き回るその感触を、今感じているだろう。
あるいは、現実が理想を超えていくその感触を、体験しているに違いない。

(わくわくする)

自分ではない。
自分ではないのに、その成長を見て興奮が止まらなくなる。

(これが、私のしたいこと?)

もっと見たい、もっと上へ連れて行きたい、もっともっともっと。
そうこう考えてるうちにペリーヌさんがバリアを破ってその巨人型の背後に取りついた。

「ト、ネール!!!」

その雷撃は間違いなく、その巨人型のコアを破壊した。
















言い訳
・小説で水着会とか()
 ・とか思って好き勝手詰め込んだならとんでもないことに。全力で見逃せ。
・犬さん動かし辛い
 ・ついでに宮藤さん喋らねえ
・次話と次々話は思いっきり遊ぶ
 ・だってあの三人の邪魔してもしょうがないしね
 ・その上この話すでに複数視点だし
・速度の計算禁止
・色々禁止
・何かちょっと位不都合あるけどそれネウロイだから


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