身体が熱い。いや、別に発情してるだとか興奮してるだとか妄想しているわけではなくて、風邪で。ハブアコールドで。
一昨日こっちの私の為に一頑張りして雲文字なんてやってみたのが、効いたらしく(その時寝不足だったこともあって)見事に風邪にやられてしまった。あるいは魔法で強引に治すという処置もありなのだけど。そうやって無理を続ければいつか崩れるのはガリアの時に身をもって知った。そもそも治癒魔法は風邪に対しては特効は無いし。
サーニャちゃんとこっちの私の誕生日会には何とか参加してみたもののその後ミーナさんに気づかれたため、そのまま強引にベッドイン。
まるで少し前の病院生活を思い出すところだけど、あくまでここは自室のベッドで、窓は狭いし窮屈だし、トイレ遠いし自動でお茶も出てこない。つまりはあんまり楽じゃないし楽しくない。
「暇だなあ……」
と呟いてしまうのも仕方がないだろう。と思う。
こんなことならもう少し私物を持ち込んでおけばよかったか。とはいえ殆どの事物は先生が持ってるだろうし、それ以外のごくわずかの物はオートクレール基地で消失している。
実はこの部屋には備え付けてあったベッドとクローゼットしかない。こんな装備でどうやって一日過ごせばいいんだ。大丈夫じゃない。
(誰かお見舞いにでも来てくれないもんかな……)
どうせしばらくネウロイは来ないんだし……。
そんな事を考えていたからか、ようやく待ち人がやってきた。
1. obstinate woman
一番最初にやってきたのはミーナさんだった。
どうやら襲い来る仕事の嵐の間隙を突いてやってきたようで、その顔は幾分実年齢より老け――いや、大人びて見えた。
「調子はどう? ファルシネリさん」
「大丈夫です。もう暇を持て余しているくらいで」
「暇は大事よ。あなたもそう思う事になると思うわ」
ミーナさんは少し眉根を引き締めて苦い顔で言った。その顔が少しも笑っていないのが、怖いところだ。
私は前世でもミーナさんのような管理職というか、司令職に就くことは無かった。一生を通して飛び続ける肉体を生まれ持ったこともあって基本的にはずっと空を飛んでいた。もちろん空の上での指揮を執る事はあったけど、ミーナさんの様に部隊の管理をしたりはしなかった。
とはいえ、私は空を飛べなくなったら軍から離れて魔法を使わない方の医療を学ぼうとでも思っているんだけど。
「まあ、簡単に言えば昇進の話が来てるわ。中尉から大尉にって話だけど、どうする?」
ああ、そういうことか。
そういえば確かに戦績だけなら大尉クラスにはあるのかもしれない。聞く話によれば、ガリアの人達からは救国の英雄と呼ばれているらしいし。私が居ても居なくても、どうせあのくらいの時分に負けちゃうんだけどね、ガリア。
私はそのごくごく短い猶予を作っただけ。あるいは、
(そのガリアを解放する、だけ)
私、じゃなくて皆でだけど。とりあえず、今は階級なんて必要ない。空の上では階級も年齢もないし、501で階級を気にしてる人なんてそうそういない。
「今はまだ、いいです」
私がそう言うと、ミーナさんはさして驚いた風もなく、答えた。
「そう。それで、理由は?」
無ければ無いでも構わないけど。そう続けた。
別に理由は無くはないけど、いやまあやっぱ普通にないや。断るほどの理由は。
そう考えているとそれを察したのかミーナさんは、それじゃ適当に考えておくわね、と言ってその話を終わらせた。私は後々これを後悔することになる。
『ガリアを解放するまで、その話は受けられません』
そんな風にガリアのヴィオレーヌ・ファルシネリが答えたという話はかなり広い範囲で浸透する事になるからだ。恐るべきはミーナさんの手腕というか、悪戯心というか。丁度その報告書を書いた時煮詰まっていたんだろう。そしてそ理由が、今からの話でもある。
その話が終わった後、ミーナさんは少しの間黙り込んでしまった。
「……」
「……? まだ何かあるんですか、ミーナさん」
「あ、いえ、……そういわけじゃないわ」
そう言って部屋を後にしようとするが、しかし、ドアノブに手を掛けたところで何かを決心したかのように唇を結び、引き返してまたベッドの横に腰かけた。
「ごめんなさい。実は今日はそれだけじゃないの」
そう言いながらミーナさんは眼を伏せた。
……何だか良い予感がしない。どうやらあんまり嬉しい話ではないようだ。少なくとも、一度は言うのを躊躇うほどには、深刻な話の様だ。
それを肯定するようにミーナさんの両目には影が差していた。
「実は……」
そこまで言って、またしてもミーナさんは躊躇う素振りを見せた。こんなミーナさんは前世含めて殆ど見たことがないような気がする。何度か見たとしても、それは毎回、本当に深刻な出来事を話すときだった。
身体に力が入るのが分かる。少なくとも501のメンバーに何かあったとは考えにくい(朝皆の姿を一度見ているし)。ならば、ガリアに関する事だろうか。でも先生たちはきちんとエスパニアに辿り着いたようだし、結局クロードは兵隊に志願したそうだけど、覚悟を決めてその道を選んだというなら私は、もし、万が一があっても気にしないつもりだし。
ミーナさんは自分に何かを言い聞かせるように二、三度頷いた後、次の言葉を絞り出した。
「実は、もうすぐ美緒、あ、坂本少佐の誕生日なのよ……」
「……………………はい?」
「それで、何かプレゼントを用意しようと思うんだけど、何が良いか迷っていて……」
……。その後1時間程坂本さんへのプレゼントについて語った後、結局最初に自分が決めていたプレゼントを持っていくことに決めたらしい。
正直他所でやってほしい。
2. speedster,trickster
2番手は意外な組み合わせだった。こんこんというノックの後、入ってきたのはシャーリーさんとハルトマンさんの二人だ。
「おっじゃま~!」
「おはよう。大丈夫か?」
まさしく元気いっぱいという感じに入ってきたのはハルトマンさん。それに続いて入ってきたのはシャーリーさんだ。どちらも心配してきた、というよりは面白がってきた感じのようだ。まあ風邪くらいでいちいち心配されてもそれはそれだけど。
部屋に入った後、シャーリーさんが眉根を寄せながら周りを見渡して言った。
「……しかし見事に何もない部屋だな」
「病院からそのまま来ましたから」
「ああ、そういえばそうか。買い物に行くときは言ってくれれば付き合うよ」
ありがたいですが、結構です。本当に申し訳ない話だけど、私はシャーリーさんの助手席は座りたくない。というか、死にたくない。
(車、か。運転できなくはないけど)
基本的には苦手だ。というより空を飛ばない乗り物は動かせる気がしない。車の運転に関しても「非常時以外は絶対に運転しない」という約束を付けてようやく合格にしてもらった程だ。普段から乗れないならあんまり意味がないと思うんだけど。
「むー、ここまでいじりがいが無い部屋だとは思わなかった……」
ハルトマンさんが呟く。この人は私の部屋に何を期待していたんだろう。私が周りからどう思われているかは知らないけど、少なくともそんな異様なものが置いてあるように見えてるとは思わないんだけど。
「普段見えないからこそ、何があるか楽しみだったのに~。これじゃイメージ通り過ぎるよ」
「私は流石にもう少し何かあると思ってたんだけどな」
とはいえ、私は皆から部屋に物を置かない人として見られていたのか。そういえば、こっちに来てからももう一人の私とか、前との違いとか、そんな事ばかり考えていてあんまり気にしたことなかったな。ここにいるシャーリーさんもハルトマンさんも似て非なる別人には変わりないのに。
「そうですね。次があれば、その時はもう少し面白い部屋にします」
「本当? 楽しみしてる!」
おかしな会話だ。隣で聞いていたシャーリーさんも苦笑しているし。本来私は文句をつける立場のはずなんだけど、それでもこんな事言っちゃうのはハルトマンさんの性格故だろうか。何となく、この人を落ち込ませちゃいけないって気になるんだよね。不思議な魅力というか、なんかそういうのがあるよね、ハルトマンさん。
そのまま少し話した後、シャーリーさんが輝かしい目で私を見た。またしても嫌な予感。今日は少し運が悪いかもしれない。
「実は、」
「はい、なんですか?」
しかしここで落胆したような口調になることは避けなければなるまい。あくまでこの呆れはミーナさんに向けたものなのだから。だってプレゼントを選ぶ(それも自分を納得させるだけ)に1時間も使うとか、失礼な話、女の子みたいだ。……いや、女の子か、ミーナさん。
「実は、お前の魔法をもう一回私に使ってほしいんだ」
「いいですよ」
断る理由もないし。別にそんなに疲れるわけ、あるけど。でも一日寝れば回復する程度の消費でしかない事は変わらないし、それに、少し訓練してみたくもあるし。あの魔法。3地作戦の時思ったけど、まだまだ深く潜れる魔法のような気がする。
「い、いいのか!? 私、あんなことやこんなことするつもりだぞ!」
「何でそこで脅しにかかるんですか!?」
一瞬で答えられたのが悔しかったのか、シャーリーさんが意味の分からない脅迫をし始めた。しかし、単にふざけているだけなので少しばかりそこ勢いで話し続けた後、どちらからともなく笑い出してしまった。
「意外だ」
ハルトマンさんがボソっとそう言った。私もシャーリーさんにも思い当たる節が無かったので、顔を見合わせているとハルトマンさんが理由を話してくれた。
「だって、キャラ違うじゃん」
ハルトマンさんが言うにはガリアに居た頃の私に比べて随分丸くなったように見える、とのことだ。確かにあの時期は色々詰め込んだ予定だったし、多少は余裕の差というか、なんというのかがあるとは思うけど。
「へぇ、ファルシネリってガリア戦線ではどんな奴だったんだ?」
「そりゃ格好良かったよ。何ていうか大人~な雰囲気出しててさ。トゥルーデも「あいつは出来る」みたいな事言ってたしさ」
その後もガリア時代の私の話をつらつらと話した後、最後に、でも私は今の方が好きかな、と締めくくった。二人はその後、昼食と水筒を運んでくれた。実は喉がカラカラで腹がスカスカだった私から見れば、まさしく天使と女神だった。
3. diamond ace
3番目の来客。つまりは午後一番の来客。それは、エイラさんだった。控えめなノックの後、返答をすると邪魔するぞーと言いながら部屋に入ってきた。
「本当に何もないんだな……」
どうやらシャーリーさんかハルトマンさんから話を聞いてきたようで、この簡素な部屋での驚きは発見の驚愕ではなく再確認の驚愕だったようだ。っていってもエイラさんもも大概質素な部屋だと思うけど。まあ私だってバルクホルンさんの部屋に入ったら「うわぁ」くらいは思う。本当に何もないから、あの部屋。
エイラさんは私の方を見ると、一度身じろぎした後、座ってもいいかと尋ねた。なんだか、長い話になるようだ。
しかし、相変わらずエイラさんは自分から話をするのが苦手、というかある一定の方向性に関して自分から話をするのが苦手だというのは分かっているので、こちらから促す。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「あぁ、うん。いや、その……………………――さ」
「はい?」
何か言ったようだが、それは私に聞こえる声量では無かった。というか、殆どの人間は感知できないだろう。一部の感覚系のウィッチであれば聞き取れるのかもしれないけど、ここにそんな人物はいないし、わざわざ聞き取りをさせるためだけに他国から(ブリタニアにも居たような気がするけど)呼び寄せるわけにもいかない。
本人も声の大きさについては自覚しているのかどもりながらももう一度言い直した。
「だから、その……お礼を言おうと思ってさ」
お礼、というとサーニャちゃんの事だろうか。あの時、サーニャちゃんとこっちの私の誕生日を祝って、そのままネウロイと戦ってというのは前と同じだったんだけど、最後に、片方のストライカーをネウロイに破壊されていたサーニャちゃんは魔力が尽きたのもあって墜落した。もちろん、ちゃんと海に落ちる前に受け止めたけど、割とギリギリだったこともあってエイラさんは自分が助けられなかった事を気にしているようだ。でも多分、私が居なかったら基地まで飛んでいられたような気がするけど。後からサーニャちゃんから聞いたけど、私が居ることで緊張してしまったらしい。本当に、私は皆からどう思われているんだろう。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
なんやかんや理由があるとしても、ここで礼を受け取らない必要もないので、私は確かにお礼を言われました、という意味で返事をする。
言い訳
・過去一番短い
・CODゾンビが面白すぎるんだもん
・今日モンハンの発売日だもん
・第3巻届いたもん
・メガネエイラぱねえ
・さりげなく動かしにくいのは坂本さん
・普通にやりづらいのはリーネちゃん
・あとペリ様
関係ないけどバトル漫画は順当な結果の方が面白いよね。そして時々どんでん返しするのが良い。