ネギの周りにはもう誰もいなくなっていた。
初めのうちは彼を哀れみ、手助けをしようとしたものもいた。
だが、すべてネギは拒絶したのだ。
大切であった少女も拒絶し、誰も信用できず、二度と大切な存在を作ることが出来ない。
それは孤独という地獄。
しかし、それでもよかった。
それくらいのことで、自分が少しでも苦しむことが出来るのならば、少しでも償いが出来るのならば孤独にも耐えられる。
どうせ石化の解除さえ終わればなくなる命なのだから。
今の彼はそう思っていた。
―――――世界が彼に終わりを許すはずなどないというのに。
まだ何も知らない少年はこの程度が地獄であると思い込んでいた。
ネギは人生のすべてを魔法の研究に費やしていた。
すでに読破した魔法書は千を超えている。
それでも、悪魔の残した石化を解く良い方法は見つからない。
治癒、解呪、薬の調合。
主に手を出した研究はこの三つになるが、結果は得られていない。
「だめだ……。
何かが足りないんだ」
以前に石化の解呪薬を試した見たことがあったが、それはまったく効果がなかったわけではなく、言うなれば出力が足りないということがなんとなくだが彼には理解できていた。
簡単に言えば薬としての効能はあるが、耐性が強すぎて効力を示さないようなものなのである。
「足りないのはなんだ……」
魔力?
調合比?
それとも……。
考えても答えは出ない。
すでに研究を始めてから2年もの時が経過しているというのに一向に結果を示せないことが彼を焦らす。
「もっと時間があれば……」
悔しげに歯を強くかみ鳴らす。
すべてのしがらみを捨てて研究に打ち込めればいいのにと、心のそこから思う。
今の彼は時間のすべてを研究に費やすことが出来ない。
そう、彼にとってはくだらないこととこの上ないが、ネギは魔法学校に通わされていた。
彼の祖父による進めであり、初めのうちは行く気はないと言っていたが、次第に研究が滞り始めたとき、ネギは魔法学校にある禁書図書に目をつけたである。
当然のことながら、禁書図書の閲覧は普通は許されるものではない。
ネギは辺り一帯の権力者である祖父に頼み込み、閲覧を許可してもらうが、その条件こそが魔法学校の通学であった。
言い分としては魔法学校の関係者でもない人間に閲覧を許すわけにはいかないからということであったが、それが建前で祖父が彼を心配しての言葉だったのは間違いなかった。
ネギはそれに気づかぬ振りをして条件を飲み、禁書図書の入室を可能にするのだった。
「……試薬Aの改良版。
これでいい結果が出ればいいんだけど……」
フラスコに入った魔法薬を明かりに透かし、ため息をつき、かごの中で眠っている実験用のラットに目を向ける。
「プラクテビギナル……、小さき王 八つ足の蜥蜴邪眼の主よ。
時を奪う毒の吐息を……。
“石の息吹”」
感情のこもらない声でかごの中にいるラットだけに狙いをつけて小規模な石化の煙を作り出す。
ラットは突然動かなくなっていく体にきいきい鳴きながら石化する。
これも彼が禁書図書によって得た魔法であった。
石化解除の実験をするならばその実験体がなくてはならない。
当然、石化した村の人たちを利用できるはずもなく、苦肉の策として努力の果てに石化呪文という高等魔法を覚えたのだ。
「実験開始」
石化したラットの上からどろどろとした透明な試薬をたらすと、ラットの体から煙が立ち込め、石化が解除されていく。
「成功した……?
いや……、違う!?」
喜んだのも束の間。
石化が解けた箇所が時間差で体が溶け出しているのだ。
どろどろと溶け出し、石化解除がすべて終わったころにはラットは骨や内臓を露出させた見るに絶えない姿になっていた。
「出力が高すぎたということか……」
またも悔しさに歯をかみ鳴らす。
自分程度が作り出した石化程度でここまで苦戦しては、もっと強力な悪魔の石化など解けるはずがない。
「くっ……!!」
あまりの不甲斐なさに手にしたフラスコを地面にたたきつけ、自室の研究室から出て行く。
「資料が足りない」
呟いたネギは再び魔法学校の禁書図書室へと向かうのであった。
あとがき
若干時間をすっ飛ばす。