№29「色々」
繁盛している街を歩いていると、あの戦争の日々も随分過去の事と感じられるようになり、時間が着実に経過しているのだと、見せ付けられている気分になる。
この街は、戦争被害が一等大きかった街だ。それが今では、戦争の痕を感じさせない程活気に満ち溢れ、道行く人々は皆、互いに競う合うかのように働いている。
こんな街並みを見ているといつも思う。
私がこんな命を狙われる立場でなければ、原作では語られなかった魔法世界を堪能する為に、旅行何ぞにでも繰り出していて、
もしそれが叶わぬならば、次善案として、地球の歴史的場面に立ち会うという事も又一興と考えていただろう。
たとえ私の知る世界の歴史とは違うとしても。
――トン。
歩きながら考え事をしていたからか、前方からの柔らかい衝撃によって、初めて私が通行人とぶつかったという事実に気がついた。
これだけの通行人がいるのだから、こうやってぶつかる事など日常茶飯事だろうが、それに関しては何も問題は無い。
問題があるとすればそれは、その衝撃が私の頭よりも低い所から来たからだ。
その証拠に、私の目の前には通路に仰向けの状態で倒れ、空を見上げる少女の姿がある。
そしてそれを踏まないように気をつけて歩く通行人達には、怪訝な表情で見守られている。
「大丈夫?」
声を掛けながら少女の顔を覗きこむ。そうすると、太陽に照らされていた少女の顔に、私の影が重なった。
魔法障壁を常時発動している私にとっては、衝撃など殆ど感じられなかったが、ぶつかった少女はそうではなかったようだ。
よく前も見ずに走っていた所為か、自分の走る勢いがそのまま跳ね返ってきた少女は、その結果を認識できずに戸惑っているように見えた。
――そして、私に視線を向けた時だった。
その反応は顕著で、すぐさま地面から跳ね起き、私との距離をとる。
離れた場所で私の顔を凝視した後――まるで居もしない者が、在る筈の無い物がそこにある事に、目を見開き驚愕を現にし、次第に恐怖が身体を支配していく。
カタカタと身体は震えて、唇も共振するかのように震え出す。歯は身体の震えに共鳴するかのように、カチカチと音を立てている。
少女は左目を手で押さえ、残った右目は私を捉えて離さない。左目が見えない分、右目には多分な感情が渦を巻いて混ざり合っているようだ。
困惑、敵意、渇望、恐怖、そして……憎悪と歓喜?
激情の坩堝を必死に隠そうとする少女と私には面識など全く無く、それ故にこんな怯えられるようなマネをした記憶は存在しない。
テオドラ達のような帝国の亜人に良く見られる黒い肌に黒く真っ直ぐな髪。顔は端整に整えられ、つり上がった鋭い目付きは、幼いながらも他を威圧する気配を感じさせる。
このまま育てば、将来はさぞ見目麗しい美人になるだろうな、という場違いな妄想の裏で、いつまでも成長しない私の身体を見て、
少なくない嫉妬の炎を感じつつ、未だ離れて動かない少女に声を掛ける。
「怪我は、無さそうね?」
「……。」
一言も発さない少女は、左手で左目を押さえ、右手を懐に入れたまま、こちらを睨んでいる。
……まさかこの子、こんな街中でドンパチするつもりなのかしら?
このご時勢で此処は魔法世界だ、子供と言えど、懐には何か武器になる物が入っていると考えて間違い無い。
隙あらばいつでも此方に弓を引く事だろう。
正直、それは勘弁して欲しい。あまり騒ぎを起こしたくない。
私が何の用事も無く、こんな辺鄙な街まで訪れると思ったら大間違いだ。私にも予定があり、これから其処に向かうついでに、この街に立ち寄ったまでだ。
騒ぎを大きくして、警備の者に事情聴取や何やらに時間を取られる訳にはいかない。待ち合わせに遅れるのは別にどうでもいいが、
それだけ厄介事の終わる時間が遅くなる。さっさと終わらせて、早く帰りたい。
「お~い、どこに行ったんだ~?」
互いに固まる事数分。いつまでこんな事を続けるのか、流石に飽きてきたな、と思い始めたそんな頃、
この場の雰囲気にそぐわない、ほのぼのとした声が聞こえてきた。
声の内容からして、誰か人を探しているのだろう。只今絶賛取り込み中の私は、助けになってやれそうにも無い。
――だが、
少女がこの声を聞いた瞬間、今まで張り詰めていた空気が跡形も無く消えた。
そして少女は前後左右に、ついでに上に目を走らすと、人混みに紛れそのまま消え去ってしまった。
「何だったのかしら?あの子。」
変な少女との奇妙な出会いを果たした後、私は喫茶店で寛ぎ、休息を楽しんでいた。
この喫茶店を選んだ理由は特に無い。しかし、あえて理由を挙げるとしたら……。
カウンター席は満席で、いつまでも席が空く気配は無く、客はマスターとの会話に花を咲かせている。
団体席では店員がオーダーを聞いて回り、あちこちから声を掛けられ、引く手数多の店員は忙しそうに店内を駆け回っている。
……理由を上げるとしたら、そうね、普通だと感じたから。私にとって。
この風景は、何か私を懐かしい気分にさせてくれた……だからかもしれない、この店に入ったのは。
――いや、嘘だ、実はそんな雰囲気なだけだ。実際の店内は色取り取りの髪の色で溢れ、中には角の生えた亜人や、どこからどう見ても骨だけの魔族もいるし、
ローブを被った怪しい集団がたむろしている席まである。
こんな風景が懐かしいと感じるならば、私は過去の記憶を遠いどこかに置いてきた事になる。
……でもまぁ私も、毛色の事で、他人をとやかく言える立場ではない。
私の銀髪も、その色々の中の一つを担っており、華やかさに弾みをつけているのだから。
これでは此処は、あの子供先生のクラスのような色合いだ。若干黒が足りていないが、国際色溢れているのは変わらない。
銀髪なんていたかどうか忘れてしまったが、白っぽい色なら思いだせる……。
彼女は長年そこに住んで、学校周辺しか移動できない可哀相な子。
そんな身体になってまでこの世に囚われ続けるのは何かと不便だろうし、浄化してあげるのがせめてもの手向けだが、
マホラに行く予定はない。行く必要が現状では全く無いのだ。逆に行けば面倒に巻き込まれる事間違いない。
……しかし、彼女は昔からあの色だったのだろうか?
多分、純日本人だろう、あの子は。詳しい設定など知らないし、覚えていない。
尤も、個人個人の個性を出す為に、黒髪にすると色々と被るから、色を変えたと言われても驚きはしないが、
それでは何故あんな色を選択したのか?とも思うし、セーラー服とでは違和感がありすぎる。
――そう、まるで色が、
「相席しても構わないか?」
思考に結論が出そうな所で、声を掛けられた。
私が答えを返す前に席に着くそれは、包み隠さず敵意を撒き散らしている。
「……ええ、でも、直ぐに此処を出た方が、迷惑は掛からないと思うわ。」
先程から此方に視線を向けていたから、いつ話しかけるのか待っていた。
さっきの少女とは比べ物にならない、圧倒的で、純粋な殺意。
視線で背中に穴でも開けられそうだったから、早く来いと思っていた程だ。
「関係ないだろう?どうせ消え行く、哀れな子羊がどうなろうと。」
「何それ、もしかして人質のつもり?」
「さぁな。世界を見捨てるお前に、どんなモノが人質になるのか聞いてみたい物だな。
だが、店を変えるというのなら、いい場所がある。」
「へぇ、何処かしら?豪華なお墓にでも招待してくれるの?」
「フッ、招待する前にその唇、焼き付けておいてやろうか?」
瞳の奥に炎が灯り、敵意が一段と増した。
……やり過ぎたかも知れない。火に油を注いだ感じ?
「まぁいいじゃない。場所を変える事には賛成なんでしょう?」
「別に?此方としては、ここで始めても構わないが?」
貴方はそうだとしても、私と、貴方を造った人物は確実に困る。
だって死んだ事になっているもの。貴方達。
彼はそれを、クルト達のような敵対勢力には知られたくないでしょう。
知られてしまったら、主力だった紅き翼も黙っていないはずだから。
紅き翼が再集結するとか、どんな悪夢だそれは……計画丸つぶれもいい所ね。
完全なる世界の残党狩りなどでも言える事だが、
魔法世界に戦力が増え過ぎると、再び戦争が起きてしまうかも知れない。
――それは困る。
だからレザードも、人気のない場所を指定するのだろうし、アーウェルンクス達も、下手に魔法世界に干渉していない。
今やっと魔法世界は穏やかな世界を形成し始めたのだ、これからはその束の間の平穏を味わい、噛み締める為だけの時間。
世間には“平和”という皮を被っていてもらわないと。
「ククッやっとだ、やっと貴様と戦える。我が主の悲願を成就する瞬間が、漸く訪れる。」
「……もう勝った気でいるのね。四番目さん?もしくは七番目さんかしら?」
勿論こいつが四番目だとは知っている。五番と六番が来たからな。
だが、私は知りえないのだ、そんな情報。内通者でも居ない限り。
「そうか、自己紹介が遅れたな。火のアーウェルンクス、クゥァルトゥム……四番目だ。」
「四番目ね。全く、一体全体何体いるの?貴方達?」
「答える必要は無い。行くぞ。」
手早く自分の分を払うついでに、私の分の会計も済ましてくれたが、
会計を済ます時、店員に『釣りはいらない』と言い、ツカツカと足早に出口に向かう辺り、
親切ではなく待ち切れないといった感じだ。そんなに待ち望んでいるとは思わなかった。
「せっかちね。人形の癖に。」
店を後にし、表に出る。お茶を奢ってくれた変わりに、一緒に転移させてあげようか?と四番目に提案しようとしたが、
お互い何も言わずに、同じ方向に向かって黙って歩き出す。それは、指定された場所とは正反対の方向。
何故私達がこんな行動に移すのか。理由は簡単。
視線を感じるからだ。遠く離れているが、確実に此方を見ている。
……まぁ予想は付いているのよね。この視線の主は多分、あの時ぶつかった子供。
距離は大分離れているが、まず間違い無いだろう。
「知り合いか?」
知り合いか?そう聞かれても返答に悩む。確かに、あの子の顔や特徴は知っている。
けれど私は彼女の名前さえ知らない。そうなるとやっぱり、知り合いと呼べる段階では無いように思える。
「いえ、知り合いでは無いわね。」
「そうか、それは良かったな。」
「? それって、どういう――」
私が四番目に、その言葉の意味を確認するよりも前に、後方から爆発音が鳴り響き、次いで空気が震えた。
周囲の音が止まり、道行く人々の時が止まる。だがそれは皆が現実を認識するまでの僅かな時間。
誰が示し合わせたのか、突如聞こえてくる悲鳴の歌に、私が唖然としていると、
――これから、と四番目は演説で雄弁に語りだす政治家のように、こう言った。
「他人に水を注されては、興醒めだろう?」
あとがき
まず、
>テオドラ達のような帝国の亜人に良く見られる黒い肌
は嘘です。妄想です。原作にはそんな表記はどこにも無いはずです。
えーそして、突然ですがアンケートちっくな物を一つ開催します。
それは……
“これ以上ネギまの原作に対して独自解釈?原作予想?をこのSSに反映してもいいモノか?”
という「ちょっとこの作者何言ってるのか解らない」アンケートです。
説明すると、今までこの「ヴァルキュリアなオリ主」では過去二回程、上記のような事がございました。
一回目は「考察」にて。造物主の掟に関して。
二回目は「高慢な神、優しい人」でゼクトや魔法無効化能力について。
えぇ、感の良い方なら気づいたでしょう。今回もまたやる、かも。
しかし、最近ネギま見て思うのです。
……あれ?もしかして?と。
正直、考察に関しては語る気は無かったけれど、原作でも餌がちらほらと撒かれていたから大丈夫だろう。
ゼクトに関しては、当たってる訳ないし大丈夫だよな~あはははは。……え、まさか、
といった感じです。正直ゼクトに関しては、アンジェラ使用のアーティファクト並の確率だと思っていました。
そこで、アンケートです。
簡単に言うと、
1、これ以上はやりすぎ、隠すなり伏字するなりして。
2、別に?伏字しなくてもいいんじゃない。お好きなように。
の二つです。感想に書き込んでもらうとありがたいです。
やらないという類の物は無しで。もうベクトルは変えられない。
ちなみに、解りにくいかもしれませんが伏線張ってます。