№27「アナタの青写真」
我が家に帰ると、そこには行儀良く座っている一匹の黒猫。
準備が良いのね。予めこうなる事は想定していたという訳か。
「貴方の言った事、私達の成すべき事、忘れていないわよね?」
「勿論です。貴女の怒りもご尤もですが、一先ず私の話を聞いてからでも遅くないと思いますが?」
「言ってみなさい。」
貴方の答えによっては、私も考えを改めなければならない……。
そんな雰囲気を醸し出し、ジッと黒猫を見つめる。
「まず、彼等に関しては仕方の無い事だったのです。
彼等幹部のコアや身体の損傷はそれは酷い物で、中には全損している物も在りました。
貴方達による過剰殺傷のお陰で、修復する為の諸々の材料が短期間では揃わなかったのです。
修復するにも圧倒的に人手が足りていないですからね。状況は八方塞がり、成す術がありませんでした。
――そこで私が手を貸したのです。
貸したと言っても、数多の制約や幾つかの条件を満たしてもらう必要がありましたが、
それも概ね問題無く、私の手で完璧な人形を作成する事が可能となった。
コレに関しては喜ぶべき状況でしょう?思いがけない好運を得ることで、労せず思い通りに事が運んだのですから。
そして名目上、破棄した身体と同じ体格では問題があります。表向きの理由は材料が足りない、という事になっていますからね。
怪しまれないように前期の身体よりも小型化、さらには性能の向上、それらの成果として完全なる世界での幹部の位置までも手に入れた。
全てを成し遂げましたよ?貴女のご注文通りに。……何か質問はありますか?」
……話が進んだ?ハハッ、まさか。貴方がそういう方向に扇動したのでしょう?
まぁ推測で物を語るのは良くないけどね。まずは当り障りのない質問でもしましょうか。
「材料は何を……って聞く必要は無いわね。きっと貴方の事だから、そこらの行方不明の落し物を使ったって事?」
「落し物……ふむ、落し物ですか、中々良い表現です。
彼等の使う材料は希少価値が高く、中々集まりませんので。
その分、私の場合はタダで材料が揃いましたよ。やはり戦争は良い、新鮮な落し物が手に入る。」
「やっぱりね……それで?命令には完璧に従がうようにできてるの?」
「えぇ、彼等が人形である限り、まず逆らえないでしょう。」
「そう、ならもう一つ。」
「どうぞ、何なりと。」
「……貴方は言った、“戦力の偏りは出ぬように”と。これについてはどう説明するつもり?」
「あぁ、その事ですか。
良いではないですか、そちらの陣営には貴女という女王がいる。最強の駒である女王が王を担う。
貴女という反則がそちらにいるのですから、多めに見て頂きたいですね。私は影ゆえ、劇の舞台には上がらないのですから。」
「王を担う女王ね、一人二役では駒が足りなくなるわ。」
「駒が足りないなら募ればいいのです。女王として。
そうですね、いっその事、何処かに国でも建立してみては?
貴女には正統な資格があるはずです。そうですよね?王女殿下?」
レザードは何がそんなに可笑しいのか、クック、と笑いを堪えられず、黒猫はニヤリと笑う。
「遠い祖国を思い、感傷にひたり、望郷を願い、それが叶えられぬならと、自ら故郷を造る。
それを成す富も力も充分過ぎる程で、持て余していると言っても過言ではない。
……いいですね。実にいい。死者が生き返り、願いを叶える。クク、まるで神の御業のようです。」
―――ッ!こいつ!
いや、わかるはずがない、現にその目は私に向いておらず、何処か遠い目をしている。
彼の言う神とは恐らくレナスの事。今は、彼女との思い出に浸っているのだと思う。
……私の秘密を知られれば、こいつは何と言うのだろう。
まず良い事は何一つ無い。それは確かね。
「はいはい。貴方の身勝手な青写真に付き合う気は無いわ。
それで、ちょっと話が変わるのだけれど、」
「おや、お気に召しませんでしたか。残念です。」
「それはもういいから、私が聞きたいのはコレの事よ。」
私が取り出した、見た目は何の変哲も無い物に、黒猫の目がスッと細まる。
――何だ?
「賢者の石がどうかしたのですか?」
「あのね?私のこれも複製による物。完全ではないでしょう?今の内に完璧な物にしておきたくてね。
悪いんだけど、頼めるかしら?ダイオラマ魔法球があれば時間は取らないでしょう?」
この作業の大変さは身をもって知っている。幾分気が引けるが、これは今回の件に対する慰謝料みたいな物だ。
完全版の賢者の石を要求して、今回の件を水に流す。有り体に言ってしまえば黙っていた事に対する落とし前。
今回の件はいつもの笑って済ませる冗談とは訳が違う、流石に一線を越えている。
完全なる世界の情報の提供――生死に関る事や、秘密にされていては困る事は随時報告する契約のはずだ。
普段なら通らない要求。だが今このタイミングで切り出したなら、勘の鋭いレザードは理解するはず。
勝算のあるお願い。
暫く考えを巡らしたであろう彼の答えに、私は久々の勝利を確信した。
「お断りします。」
――確信していた。が……どうやら、そう思っていたのは私だけらしい。
「何故?意味が解らない訳ではないでしょう?」
「わかっています。今回の件は借りにしておいて下さい。」
「私は何故とも聞いている。それでは説明の半分も満たしていないわ。」
「……貴女も良く物を考えて発言して下さい。」
「何ですって?」
「……いいですか?ダイオラマ魔法球とは一見便利な物のように見えますが、あれには外に対する警戒が皆無です。
我々のような腹に何かを抱えた者にとっては、無防備程怖い物は無いでしょう?
そうですね、例えば……私が中で作業している途中、魔法球ごと何処かに運ばれたら?私が不在の間に誰かが魔法球その物や、その中の情報を盗み出したら?
魔法球の中は時間の流れを変えられます。たとえ短い時間でも、不在にする訳にはいかない。そんな爆弾を抱えて過ごせと言うのですか?」
「それは……。」
「私達はこの計画を成功しなければならない。その為に不安材料は排除します。」
「自分の事を棚に上げて、よく言う……。それは遠まわしに賢者の石を使うな、いえ、知られるなと言っているの?」
「そうです。できれば絶対に。
私と貴女が同じ物を持っていれば、勘繰る者も出て来るでしょう。たとえ見た目が只の石だとしてもです。
それは私達にとって不利益でしかない。私達に繋がる情報は全て極秘扱いと考えて下さい。外部には絶対に漏らしてはならない。」
「……そうね。」
何だ、この違和感……。
少し、警戒し過ぎではないか?
「貴女が望む物は私が用意します。どうかそれで納得してください。」
「……今後は契約を遵守する事、それで納得してあげる。後、貸し一つも忘れない事ね。」
「感謝します。」
……やはり、変だ。
こいつが、人に感謝を述べるなんて。
「……何事もなかったように帰ったわね。」
説明を済ませたらすぐに帰宅の途についた黒猫使い魔。
それにしても、今回の一件は何時ものレザードの愉快犯的犯行とは少し違うようだ。
ハッキリ言えば意外だった。
我が家に帰ってきたら彼が居て、私の事を嘲笑う準備に明け暮れていると思った。
どうやら、そうではなかったようだ。
あいつは話相手――という名の生贄を欲していた、それこそ、私が何かミスを……ミスでなくとも何か切り口があれば、
そこに塩を塗るように執拗に責め立てる。
それを好んで行なっている変態だし、レナスの居ないこの世界では数少ない生き甲斐の一つだったはずだ。
それをを疎かにするほど、何かに打ち込んでいた?
考えられるのは……
“他の”神に対抗する策でも思いついたのか、
それとも、あの世界に帰る手段が見つかったのか。
他のといえば、あいつは喜劇と表現していたが、それも随分無茶な話だと思う。
あの世界に帰る手段よりも先に、神を倒す方法を模索し、それを実行に移す為、
この世界を巻き込もうとしているのだから。
あとがき
短えぇぇぇ!!
こんな小説に期待している方がいるか解りませんが、
作者の生産力はゴミ屑です。
現にこの小説の全てのKB数は此処のとある人気長文小説の二話分くらいです。
本当申し訳ない。
謝りついでに言うとエヴァ番外と順序が変わってしまいました。
年表順に行けばコレを先に乗せるべきでした。
重ねて謝ります。申し訳ありませんでした。
番外はその人物の起きた原作との乖離点、と考えていただければいけるかも?
今後は年表を見合わせ、重ねるようにもっと努力します。