№23「問題」
“此度の戦争の重戦争犯罪者と見られるアリカ女王の死刑は二年後、と判決が下り―”
私が大通りを歩いていると、何処からともなく聞こえる声。
今や魔法世界はこの情報で持ち切りで、この話しか聞こえてこない。
聞き飽きた情報ではあるが、何か進展があったのかと思うと極自然に耳を傾ける。
アリカ女王…いや最早女王ではなく、今や戦争犯罪人。か
「災厄の女王」「災厄の魔女」
本来は称えられ、歴史に名を残す英雄となっているはずの彼女は正当な評価を受けられず、
メガロメセンブリア元老院に情報操作された、偽りの肩書きをその肩に背負っている。
それがこの世界では“正しい”のだから皮肉なものね。
メガロの陰謀により、彼女は囚われたと同時にその罪状を突きつけられた。
曰く、完全なる世界の黒幕だと。
曰く、賢王と呼ばれた父王を惨殺し、クーデターを企て、そして実行。
自らの父である王を殺し、国を混乱に陥れた。
曰く、戦時中に職務を放棄したのも、自らが率いる完全なる世界の消滅を防ぐ為。
それが彼女を黒幕と決定付ける何よりの証拠だと。
ふふ、何これ…とんだ言掛かりね。どこの喜劇作家が構成した猿芝居なのか個人的に興味がある。
確かに当て事も無い言掛りだが、アリカがこの茶番劇を否定できない状況にあったのも事実なのだろう。
元老院議事堂…あの場にアリカの味方は殆どおらず、言わば敵地のど真ん中。
その状況ではアリカの言論その物を封殺され、反論の余地も無かったはず。
結局アリカは何の対策も取らず、もしくは取れず、加速する時代の流れに巻き込まれ、己を激流に晒した。
私はアリカが何を考え、何を思い、この二ヶ月行動していたのか知る由もない
ならばこれがアリカの望んだ未来なのだろう。
アリカ自ら積極的に動いて、その手で掴んだ物があんな慈善事業とは思いもよらなかったが。
まあどうせ二年後の死刑も紅き翼の…その中の極一部が血眼になって助けに来るから
アリカはもう一度囚われのお姫様を経験すれば事は済む。二年間という長期のお勤めになるけどね。
色々と曖昧な変化はあったものの、戦後は私の予想通り…いや史実通りと成った。
運命とはそれだけ保守的なのだろう。
ちょっとやそっとじゃ、その形を失わない。
これは私を安心させる。今まで無駄に気を揉んでいたがその必要はないらしい。
…うんもういいでしょう。これで彼女達に対する情報収集は終了。
これからは彼と彼女の問題だ。私の出る幕ではない。
そんな事よりも此処最近、私を悩ましている問題がある。
「ねえ君!迷子かい?だったらぼ、僕が道案内してあげようか?」
「いいえ結構です……移送方陣。」
「って、え?あれ?」
(はぁ、これ以上変態はいらないわよ…。)
そう年上の少女趣味共に声を掛けられる事が多々あるのだ。
それは前まで偶にだったのが数日で多々に昇格している事から、その変化が如実に現れているのが伺えるだろうか。
その原因があの仮面を撤廃した事による物だ。
そう私は今、素顔で街を練り歩いている。麻帆良学園以来まともに外していなかったあれである。
私のあの仮面の姿は多くの者に知られているが、意外と素顔は知られていない。
初めは皆私の素顔が気にはなるものの、その内見るのを諦めるのが通例だった。
それでも素顔を見ようとするファンクラブの人間やパパラッチが執念深かったが、一人、また一人と少しずつ脱落し最後には皆諦めた。
…ああ忘れていた。一人の筋骨隆々の馬鹿を除いて
尤も、彼は私と戦う為の口実にしていただけのようだけど。
まあその他例外を除いて、概ね世間一般にはあれが私の顔だと認知されていた。
だから、外す羽目になってしまった。
私としては自分の顔を晒すのは勘弁してほしいのだが、
これからの魔法世界では、あの仮面は目立ちすぎる。
うーん…代わりが必要なのかしら?でも…
素顔を知られているのは詠春とナギくらいだし、
ナギはそのうち行方不明、詠春は二年後に京都に帰還してそのまま引き篭もり、偶々しか外に出ない。
魔法世界など以ての外、良くて関東に出張するくらいか?
ならば別に…いや待て、奴を忘れている。変態の中の変態と定評のあるレザード・ヴァレス、あいつだ…。
私が又違う仮面を着けようと素顔のままで生きようと、あいつなら勝手に私の情報をリークするに違いない。
その情報の中に、他者を認識するのに最も重要な“顔”という情報が含まれない筈がない。
いや…もう既にあちら側に知られていると思っておいた方がいいだろう。
でなければ人形に捜索を命じる訳が無い。人形達のマスターとして最低限の情報を与えるのは至極当然の事だ。
つまり…
仮面は…その意味を成さない。
素顔に関しては…親しかった者達、紅き翼のメンバーに会わなければ問題ないわね。
という事は…変態共に対して根本的解決は先送り、我慢するしかないのか…。
はあぁ…最近ついてないな、私…。
ふう…気をとり直して。
後は槍の扱いに慣れるのと消費した閃槍クリムゾン・エッジの複製か。
複製には材料が必要だから材料を探しに行かないと…
材料探しに複製と忙しいわね…
複製はこうなった原因のレザードに任せよう。折れた槍なんて何の役にも立たないアイテム、大量にあっても誰も怪しまないだろうし
じゃあ材料は…とりあえず龍樹の角とかどうだろう?
……戦ったら絶対目立つわよね。
あとがき
お待たせしました。
相変わらず短いですね、申し訳ありません。
次回は番外かも知れません。
まだ未定なので、あしからず。