№22「凶兆」
長い戦争を終え、久しぶりの勉学に気力を振り絞る毎日、少なくとも今日もそうなるはずだった。
だが招かれざる訪問者…レザードは憎たらしい笑みをその顔に貼り付け、自身の変態気質に拍車を掛けている。
この男がこんな顔をして私の元を訪ねて来る…それは私にとって凶兆であり、
私自身の記憶と照らし合わせても、まともな事などあった試しが無い、そして―
「貴女も隅に置けませんね…ククク。」
いきなりこんな気持ち悪い発言を聞かされて連想する情事など、勿論私の記憶に存在しない。
神が来る――
来たるその日までに私は世界を超える失伝魔法を習得しなければならない。
まず最初に成すべき事として失伝魔法の習得を優先したものの、それを成す為には誰にも邪魔されない、静かに習得できる住居の確保が必要。
しかもそれは神にさえ見つける事の無い、完璧な隠蔽を施した物となる。
だがそれはもう済んだ話であり、無論抜かりは無い。
そういった技術に関しては最早何でもアリのレザード・ヴァレスが私の手札に存在するのだから。
現にこの家の随所に刻まれたルーン文字の魔力により、現存世界とは存在次元がずれている。その為、この家は他者には認識できていない。
この世界に、単独でこの家を補足できる存在は今の所いないだろう。
そんな誰も訪ねて来ない静かな家。その家主となった私にとって、この男だけがたった一人の客であり、
同時に私にとって、招かれざる客でもある。
…こいつは私の不幸を糧に生きている。
そう思わずにはいられない程、サドで天才な変態魔法使い様は私が苦しむ様子を見て、
自身のストレスに溜飲を落とすのだ。
その証拠に、
その時だけはこんな気持ちの悪い笑顔で、毎回私の前に現れる。
(治療魔法使い達による国の垣根を超えた援助機関…白天使機関、通称ヴァルキュリア機関…ね。
…創始者の名は伏せられ、現代表はガトウ?)
そしてこの件について私が知ったのは今日の朝に遡り、レザードが持ってきた情報による物だ。
今まで家造りや魔法の習得と、やる事が多かったゆえ、私は現の世事に疎くなっていた。
そんな事より…
何の嫌がらせだ?これは。
これでは完全なる世界のあの人にとって、
私がこの機関を創始者に発足してくれと頼んだようにも思える。
しかも私の暗躍を示唆するような物がふんだんに盛り込まれて…
ご丁寧に創始者の名も伏せられており…事情を知る者なら深読みする事間違いないだろう。
実際私はまったく関っていないのだが…。
些細な問題と一笑に付す事ではない。
問題は私の本性を知っている完全なる世界だ、彼はこの機関をどう思うだろうか?
戦争の被害者を癒し、戦死者を弔う…戦後復興には必要で素晴らしい活動だ、それが幻影でなければ。
彼はこう思うのではないか?
何故そんな無意味な事をする、何故私の誘いを断り、こんな無駄な活動をする?
何故何故何故…不効率極まる…あの時の言葉は嘘だったのか?
お前は真の救いとは何かと知っている…ならば一時の癒しなど、何の意味を持つのだ?と。
癒し…。
戦争中は力を隠す為に前線には出なかった、その為“癒しの童子”など
欲しくもない二つ名を頂戴したが、ここで足を引っ張るとは夢にも思わなかった。
確かにこれは英雄に相応しい行動だろう、英雄というものにはピッタリの仕事だ。
だが私は違う、そんな事をしている暇は無い。
現にこんな機関、設立自体考えもしなかった。
まあ今更此処で言い訳をしても仕方無いか…。
謂れの無いことで恨まれても面倒だな
これは早急に誤解を解いてもらう必要がある。
…完全なる世界との繋がりはあの変態しかパイプが存在しない。
協力体制であるとは言え、又あいつの顔が笑顔に歪むのを見るハメになるとは…
あいつの笑顔には、本当に碌な事が無い。
「…貴女は私の言葉を真に受けたのですか?」
「貴方の言葉?朝の事なら真っ先に記憶から抹消したわ。」
「…まったく、貴女なら気づくでしょう、と思ったのですが。」
「何よ皮肉なら間に合ってるわ。私も暇ではないの、ささっと弁解して来てよ。」
「私が知っているのなら、勿論彼も知っています。大体考えればわかる事でしょう?
アリカ女王を逮捕したのも、完全なる世界の息が掛かった者達…安心して下さい事実は全て把握していますよ。」
「ん?というと朝の発言は…」
「貴女が動かないのでおかしいと思ったのです。貴女なら知っていて無視をするのではなく、
何かしら行動に移し、自身が有利になるように動くはず…
ならば貴女はこの事を知らない。そう結論付けて貴女に会いに来て、その情報を渡した…という事です。」
「つまる所?」
「貴女の慌てふためく姿が見れて、私は満足です。」
「……最低。いえごめんなさい、貴方のその性格を褒めているのよ?」
「流石に無理があるでしょう…そう言っておけばどうとでもなると思っていませんか?貴女。」
「え?違うの?…まあいいか、杞憂は砂塵に帰した。貴方の方はどうなの?」
「私ですか?あんな質の悪い人形に時間を掛けるわけがないでしょう?
もう既に彼等のボディは完成しています。ですが…」
「体に問題無ければ…後は魂の方?」
「そうですね、まぁ後は待つだけです…要となる彼がまだ動けませんから。」
「そう、彼の調子は?」
「貴女の槍で貫かれた頃に比べて、比較的良好ですよ。」
「悪い事したわ…謝っておいてくれる?」
「貴女が直接謝りに行ったらどうですか?ご案内しますよ。」
「冗談…」
ゼクト…いや彼は既に造物主に成り代わったのか?
どちらでも構わないが、何と呼べばいいのか。
まあ造物主でいいか。
彼はあの時、最後のニーベルンヴァレスティを避けきれず重傷を負い、今も起き上がれない状態らしい。
お陰で完全なる世界は半ば壊滅状態、建て直しに動こうにも、指示を出すはずの全ての幹部が戦争で行動不能。
そんな壊滅間近の組織であった完全なる世界。その窮地を救ったのがこの男、レザード。
ボスである造物主が重傷を負った今、動けるメンバーで建て直しを計るしかない。その中枢として動いたのがレザードだ。
時間は掛かった物の、レザードは完全なる世界を運営可能まで建て直し、同時に信用も得た。
そして今、幹部である人形達の体の生成も行なえる立場となり、人形がその心身を再生するのも時間の問題。
これで手駒が増える…造物主と戦い、重傷を負わせたのは無駄では無かったという事だ。
「人形も総勢六体用意しました。一番目はナギ・スプリングフィールドにやられましたから。二番目からですね。」
「ふーん、二番目が地のアーウェルンクスでしょ?後はどうなっているの?」
「正確にはリーダー格の地のアーウェルンクスにスペアがもう一つ、これが三番目、
その他にクゥァルトゥム、火の四番目とクゥィントゥム、風の五番目とセクストゥム、水の六番目ですね。
デュナミスに変わりありません。
そうそう、人形の役割は既に決まっています。地のアーウェルンクスはナギ・スプリングフィールドを追い、その他は貴女に充てるそうです。」
「は?その他って、火、風、水?と後はデュナミス?これ全部?」
「そうですね。主に貴女の捜索と交戦くらいでしょうか?」
…何だそれは!
それこそ冗談ではない!!何であんな面倒な奴等が私の元に集うのよ!ナギの方にもっと回しなさいよ!
大体何の為にレザードを幹部に仕立て上げたと思っている!こういう事に陥らない為じゃないの!?
「な、何故?私達は完全なる世界に構っている暇はない筈よ?貴方は止めなかったの?」
「止めるも何も…貴女には強くなって貰わなければなりません。何の為の成長する体なのです?
敵は此方で用意しますよ。私の為に、存分に戦い、そして強くなって下さい。ククク…私からのささやかなプレゼントですよ。」
ニタニタと擬音が付きそうな顔で笑顔を振りまく変態魔法使い。
こいつ、私が聞くまでこの事を黙っているつもりだったな?
そして準備が整い次第私に伝え、私の慌てる姿を堪能する予定だった…
はあ…朝に続き、又もその顔を拝む事となろうとは…
厄日だよ本当、今からでも契約破棄したい…。
あとがき
なんという駄文…
次回からは戦闘や番外が増えるかも?まあまだ未定です。
すいません…年末は大忙しですね。
忙しいのが終われば、又更新スピードも上がると思います。どうかご容赦を。