№16「手加減」
大魔法。
その威力は他の追随を許さず、魔法使い最高峰の業であり、
その高みに到達していない者達にとって、憧れと言っても過言ではない物。
それは世界を変えても同じ事で、魔法使いの一つの到達点であり、終着点である事に変化は無い。
さっきからグダグダと何が言いたいのかと言えば只一言、やり過ぎた。
ペドロディスラプションの毒霧で覆った空間が今まさに晴れるが、
そこに存在する全てのモノは、その形を維持する為に構成されるモノが圧倒的に足りていない。
召喚魔やデュナミスの体は所々が焼け爛れ、異臭が辺りに経ち込める。
これがやりすぎでないと言うのなら、この惨状を何と言えばいい。
そしてこれで死んでいない筈が無い。
記憶を見る予定だったのだが、これでは期待した結果は得られない。
そうなれば尚の事、他の奴らから記憶を見なければ…。
――魔力探知!
どこだ…どこかに生きている敵はいないのか?
まさか……全滅?
いやまだある!
これはナギとアル二人の魔力と一番目の物か?しかし不味いな…これはもう終わる。
とりあえずデュナミスは倒す事に成功した、これ以上欲張る必要は無いのか?
むう…、ここは造物主に集中した方が良さそうだ。
しかし…失敗したわ。こんな事なら手加減しておけば良かった。
「見事…理不尽なまでの強さだ…。」
「黄昏の姫御子はどこだ?消える前に吐け」
「フ…フフフ、君はいまだに僕がすべての黒幕だと思っているのかい?」
「なん…だと…?」
「これで終わりか。…ここまで長かったな。」
「おう中々楽しめたが、もう仕舞いにしようや戦争なんてモンはよ。」
「ふむ、そうじゃの。」
「…アン、聞かせて頂きますよ、先程の件について。」
こいつら、もう気が抜けている…これで勝ったつもりか?
しかしゼクト、貴方も抜かり無いわね、全く怪我を負っていないじゃない。
ラカン達でさえ怪我や服がボロボロなのに、私達だけよ?無傷なの。
「何を言っているの貴方達?まだこれからよ。」
「アン?一体何を―」
ここからが本番、そうでしょ?ゼクト。
彼の方を向くと自然に私と彼の眼が合った、その眼は何の感慨も持たぬような空ろな瞳で、
それは人形のような眼差しに見えた。
―バスッ。
突如響いたその音は、気の抜けた彼らの意識を再び活性化させるには充分な音量であり、
目の前で倒れ行くナギの姿は彼らの警鐘を鳴らすにも充分だったようだ。
ナギと一番目は漆黒の魔法によって敵味方共々貫かれる。
…来た。
始まる、私にとって本当の戦争が。
「ナギィッ!!」
突然の奇襲に崩れ行くナギと一番目。一番目は腹を貫かれる重傷…本当に使い捨て扱いね。
詠春は真っ先にナギの元へ駆けつけるが、他の紅き翼のメンバー達は魔法の発生源に視線を向け、
遥か先、遠方の影に気がつく。
「誰だ!?」
「いかん!! 最強防護!!」
誰よりも先に、ゼクトが多重障壁を展開。
反射的にラカンも自らの気を高め、己が両手で全力の防御を行なうが…、
儚くもその防壁は軽々と破かれた。
やはり、これは…勝てない。
幾ら皆が傷ついていなくとも、例え全員で全力の紅き翼でも、戦力差は歴然。
一撃でコレなのだから。
私の眼前は死屍累々。天下の紅き翼がこのザマだ。
私は転移して避けた。来るのがわかっている攻撃など、回避するに越した事は無い。
「ぐっ、バカな…。」
ラカンが信じられないのも無理は無い。アレはバグキャラ所の騒ぎではない。
勝てない。と今この瞬間思っているのかしら。
「まさか…アレは…。」
アル、貴方はどこまで知っているの?私はイノチノシヘンで貴方の過去を見てみたいわ。
さあ、物語も終盤と言った所か?
だが私はこれからが本番だ。
ラスボスはさっさと倒して、次に行くとしよう。
それぞれの思いを胸に秘めたるその間に、影は消える。…追撃も無し。舐めているのか?
「待てコラ!てめえ!」
「任せな、ジャック。」
俺がやる。と立ち上がるナギだが…右肩付近を貫かれて血で真っ赤だ。
…利き腕、出血多量、致命傷では無い、だが戦闘には支障がでる。
見事な手加減だな…奇襲したのだから一思いに心臓を貫く事もできたはず。
造物主ほどの魔法使いが狙いを外すとも思えない。
「い、いけませんナギ!その身体では…。」
「そうよ。ナギ、貴方フラフラじゃない。」
私の口から思ってもない事がスラスラと出る。
まあ悪いようにはしない、貴方は最高の状態で戦いに臨めば良い。
「だからまずは治癒してからよ。キュア・プラムス。」
「おおサンキュ!アン。助かるぜ。」
「私達の傷まで癒してくれたのですか?…そんなことに魔力を使うよりもナギの傷を完治させて―」
「別に構わないわ、微々たる物だし。」
「アン、貴女は一体…。」
「……ワシも行くぞ、ナギ。」
貴方だけ傷が浅くなくてごめんなさいね。悪い事したわ。
わざわざそ頑張って仕上げたのにね。本当、無駄な努力ご苦労様。
「私も行くわ。」
「無茶です!それにたった三人では無理です!」
「ここで奴を止めなければ世界が滅びる。なら行くしか無いでしょう?」
「ナギ待て!奴はマズイ!奴は別物だ!
死ぬぞ!!ここは体制を立て直してだな…。」
「バーカ、んなコトしてたら間にあわねぇよ。
らしくねえなジャック。」
「俺は無敵の千の呪文の男だぜ?俺は勝つ!!任せとけ!!」
「貴方達は詠春の方をお願い、アル貴方が癒しておいて。」
わざと全員癒さず、数人残す。これでアル達に此処に残ってもらう理由ができた。
さあ、行こうか。
あとがき
リアルに忙しい。12月入ってもっと急がし忙しい。
更新はちゃんとやるように努力します。
正月は休みがあるのでその時にでもストックを増やすとします。