№15「召喚魔」
外にいる敵戦力を無視。目標に向かって一転突破。
我々紅き翼を支援する形で、連合艦隊が道を開けてくれた。
「やあ、「千の呪文の男」また会ったね。これで何度目だい?
僕達もこの半年で―」
こいつの話など興味がない。
此処に着いてまずやるべき事は魔力探知。
…目の前の敵5つ、奥に2つ、その他は私達のみか…。
奥は黄昏の姫御子と造物主が有力、という事は…あの男はこの戦闘に参加していない?
ここまであの男はまるで尻尾を見せなかった。では完全なる世界の幹部でもなく只の構成員だった?
……私のように後方支援か、この戦いの前に死んだか、警戒して出てこないか、はたまた…。
私としては三番目が一番ありがたいのだが…
グールもあれから戦場で中々見かけない。あれは一体、何の為のグールパウダーだったんだ?
…今、考えても仕方ない、居ないのであればプラン変更。
デュナミスは将来的にも邪魔な存在だ。今此処で潰す。
では、早速―
(アル、貴方の所に助太刀するわ。)
(アン?私ではなくナギの増援に…)
(ナギは大丈夫でしょう、それより回復役の私達がやられる方が問題よ。
二人の内一人が生き残れば、最悪全滅は免れる。)
(なるほど、互いにやられないようにカバーし合う訳ですね。わかりました。)
「相談は済んだか?」
私達の目の前には、腕を組み、極端に肌の露出が無い服装の色黒イケメン人形、デュミナスが語りかけてきた。
「えぇ、わざわざ待ってくれてありがとう。」
「よい、…アンジェラと言ったな?貴様に聞きたい事がある。」
「私に?何か用かしら。」
「貴様が力を隠している、ある情報でそう聞いた。」
「…誰から、いえ。聞いても答えないわね。」
(アン?どういう事です?)
「別に声に出して構わないわアル。…ふふ、知られていたのなら、私も隠す必要が無くなった。」
「アン?」
「…本当に情報通りなのか?」
「どこまで聞いたか知らないけど…そんなに見たいなら見せてあげる。」
私に対して、もう二度と戦うとか、勝負するなんて考えが起こらないように。
「アン!どういう事ですか!?先程から話が見えません!」
「あら、貴方が焦るなんて…珍しいわね。」
「話を逸らさないで…なんですかこれは?」
アルの足元には移送方陣の魔方陣。勿論私の展開した物だ。
「先程のプランは変更よ、貴方はナギの元に行って。」
「アン!話は―」
転移完了、また後でね、アル。
「良いのか?私は二人でも構わんが。」
「貴方一人で私の相手が務まるとでも?」
「…よかろう、曲り形にも紅き翼のメンバー、相手をしよう。」
「そう。でも私を侮らない方が身の為よ?」
…ここからは只の、
只の虐殺だ。
でも、それじゃあ面白くない。
「貴方に最初で最後のチャンスをあげましょう。」
「? チャンスだと。」
「一手目は譲ってあげる。お好きにしなさいな。」
私は構えを解き、警戒もせずデュナミスを見据える。
「正気か?死ぬやも知れんのだぞ?」
「ハンデよ。」
「侮るなよ小娘…。」
デュナミスの足元から広がる影から、巨大な召喚魔の姿が這い出でる。
宛ら、黒き沼より湧き出た怪物か?その腕は4つ、その背後に控える触手は数え切れない。
その化物が巨大な腕を振り被り、此方に拳を放つが、速度はお世辞にも早いとは言えない。
此方が避けるとでも思っているのだろうか。
でもまあ一応、受け止める素振りでも見せておこうか。
「ふっ。」
「なっ!?」
驚愕するのも無理は無い、私は魔力も気も展開せず、
私に向かって来る矮小な物を抑えるように、只、片手で受け止めたのだから。
だが、
私が身に着けていた、プロテクト・チャームは粉々に砕け散った。
ははは…、25%でもダメか。破壊条件の有るアーティファクトは全て壊れる呪いでも私に掛かっているのだろうか?
まあいいか、この程度、いくらでも“複成”できる。
現に装備している数は5。そう、複数装備できる利点を活用した結果、私に純粋物理攻撃は最早通用しない。
勿論全て破壊されればそれまでだが、まだまだストックは在るし、これは大量に用意してある。
…この事がバレても一大事だ、考えてみれば解るが、ラカンの全力パンチやガトウの豪殺居合い拳を最低一度でも無効化する。
それもたった一つのアーティファクトで、しかも大量に生産できる消耗品。
それが知れ渡れば、私は全世界の魔法関係者からの羨望や慈悲を求められ、欲望にその身を任せる者達も出てくる。その結果、追われる、狙われる。
安全は金で買える物ではないからな。上層部の人間程それは如実に現れる。
これまでの戦いでどれまでが使っても良いボーダーラインか、計るのも随分ストレスが溜まったよ。
でももうその事で悩む必要もない。此処で私の目的は達成される。
「……受け止めた、だと?」
「はい残念。宣言通り譲ったわよ、先手。」
私は今までの鬱憤を晴らすかのように全身に魔力を込める。
「!! この魔力!貴様、本当に…」
「避けたほうがいいわよ?」
「むッ!」
ほう、此方の突きに反応したか。この剣、グラムも久しぶりに解禁だ。
「貴様その剣は……なんだ?」
「この剣?この剣はね、貴方のような人達には天敵のような物、よッ!」
私の剣を避け続けるデュナミス。当たれば不味いと理解しているのか?
グラムはその威力に隠れているが、ある特殊能力が一つ備わっている。
それが、闇属性の即死だ。
その所為あってか…。
「召喚は無駄、と気づいてくれたかしら?」
「一撃…か。」
デュナミスは私の攻撃に飽きたのか、先程召喚した巨大な召喚魔での戦闘に切り替え、それは再度私に襲い掛かる、
だが、
召喚魔はたったの一振り、私の剣で滅せられた。
神楽坂もハマノツルギで鬼達に無双した時、同じような気持ちだったのだろうか。
自分の手に負えないと思っていた化物をたったの一撃で送還する、滅する。確かに爽快だ。
更に術者の唖然とした態度や落胆ぶりを見るのは中々楽しく、
もっと出してくれても構わないが、そんな事をいつまでやっていれば時間が無くなる。
前座に時間を掛けていては成すべき事もまま成らない。
まあ最後に、ここで人形風情に本当の召喚魔とはどういう物か教えてやるのも一興か。
「そろそろ終わらせるわよ?最後に私の力の片鱗を魅せてあげる。」
「……来るか。」
「バーン・ストーム!」
「ぐッ……無詠唱で任意の空間爆破だと?只の無詠唱魔法とは違う…。」
魔法の爆発により上空に打ち上げられるデュナミス、しかし大量に展開された障壁で受けた為かダメージは無いようだ、
だがな、愚策だよそれは。
「バーン・ストーム、バーン・ストーム、ついでにバーン・ストーム。」
「!! 障壁が―」
上空にて次々と起こる爆発に防御で精一杯のようで、その為か体の制御が疎かになっている。
正面、背部、右脚、予想の付かない箇所の爆風に、文字通りその身を踊らせる。
二度、三度、それは回数を増しても一向に終わりを見せず、花火は打ち上げを続ける。
息もつかせぬ怒涛の攻撃により次第に障壁は剥がれていき、数えるのも面倒な程有った障壁はその数を減らしていく。
大体これぐらいで良いか。
「イグニート・ジャベリン」
デュナミスの華麗なる舞の終極は、五本の魔槍による高高度から地面への磔で幕を閉じた。
翡翠輝石のような輝きを持つその槍は、正確にデュナミスの四肢と胴体に突き刺さっている。
ふふ、身動き取れないでしょ?少なくとも私が呪文の詠唱を完成させる分には。
さて本当のフィナーレと行こうか?冥土の土産だ、しかとその目に焼きつけるが良い。
「我は命ず、汝、悠久の時、
呪文が完成するよりも前に、その怪物は当たり前のように其処にいた。
一言で言えば骸骨。ただ、その大きさは骨の自重で潰れるはずの巨大さだ。
その骨でできたその体は所々が赤く染まり、錆びが生じているようにも見えるが戦場を生きる者ならそれが…
それが長年に渡って染み付いた血だと気づくだろう。
何時の間にか床には夥しい量の沼が広がっており、そこで佇む存在は正しく悪魔か。
その未だ動く気配のない怪物に、
妖教の賛歌を混濁たる瞳で見続けよ。」
呪文は続く、次の節に入った時だろうか、その虚ろな眼に光が灯る。
首を上に廻し、まるで天を仰ぎ見るかのように、自身の体の調子を確認している。
準備は整ったと言わんばかりに、その体の背中、脊椎や背骨、肩甲骨の部分にて蒸気が噴出する。
蒸気…いやそんな生易しい物ではない、少しでもそれを吸えば、忽ち死に到る毒が全身を廻るだろう。
「ペドロディスラプション!!」
悪魔が口を開ける、その冥府への誘いは先の背中から噴出した量の比ではない。
デュナミスが辛うじて壁として召喚魔を呼び出すが、無駄だ。
放射線状にいたデュナミスと召喚魔全てを巻き込み、
その空間は灰色の毒霧に包まれた。
あとがき
でました大呪文ペドロディスラプション、
その姿を表現した“その体に染み付いた血~”とか全て想像です。
というか公式設定でもわからんのです。
ですので捏造しました。これ等の情報を知っている人はご一報下さい。
後最近、pvを始めて見ました。いつの間にか8万超えててビックリです。
たくさんの方が見ていてくれているようですね。感謝です。