№14「準備」
隠れ家に帰るも、既に原作の見せ場は終了していたようだ、
見なくてもわかるから、あのシーンは無視した訳だが…。アリカ姫の印象は悪い、最悪と言ってもいい。
口には出さないが、こちらの挙動を伺っている素振りだ。
帝国の、いや完全なる世界のスパイとでも思っているのか?…丁度良い、意図せず物事が良い方向に傾いた。
これから最後の戦いに向けて、完全なる世界の戦力を削ぎ落とす訳だが、
その前に下準備は必要。あの戦いに行く前に万全を期すのは当然で、用意しなくてはならない物もある。
まずは―
「アル、貴方に一つ尋ねたい事があるのだけど…」
「私に、ですか?アンが私に質問なんて珍しいですね。
! ついに私の用意したネコミミスクール水着に興味が…」
「そんな物、貴方と一緒に滅してあげるわ。」
「…ハハハ、いえいえ何でもありません。
コホンッ!話を戻しましょう。何か問題でもありましたか?」
…まあいいか些細な事だ。
「聞きたい事は一つよ、転移魔法符の類似品として、追跡の魔法符とか無いの?」
「有りますよ?只の転移魔法符よりも高値ですが。」
普通に有るのね。好都合だが…。
「それに対抗呪紋処理を行なった物を数枚用意して貰える?」
「対抗呪紋処理ですか、更に高くなりますが…でもどうしてそんな物を?」
「必要だからよ、何か文句でもあるの?」
「……いえ、何も。」
「そう、お願いね?アル。」
アルの訝しげな視線を我が身に受けるが、
この先、私達は袂を別つ。私の一方的な物ではあるが、この馴れ合いも、もうお仕舞い。
アル達から何を思われようと、最早私には関係の無い話だ。
紅き翼や。
偽りの世界など。
次に―
「じゃじゃ馬姫。じゃなかった、テオドラ第三皇女殿下。」
「誰がじゃじゃ馬姫じゃ!」
これで頭脳労働担当のだから可笑しな世の中だな。こんな性格と態度で交渉や調査に臨むと言うのだから。
そこまで帝国第三皇女の王位継承権は高いのか?周りの人間が媚び諂う程の階級だと言う事は理解したが。
そしてその隣には―
「妾に挨拶は無いのか?アンジェラ殿。」
「これはこれは、申し訳ありません。アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下。」
「良い、だがお主、妾に何か申す事が有るのでは無いか?」
「申す事?…すいません。何も。」
「何も、じゃと?」
「ええ、それに貴女の会話には主語も無ければ話の流れも無い。
大体、抽象的すぎるでしょう?もっと具体的に聞いたらどうなのですか?
例えば…。
私を放って何処に行っていたのか?…違いますね。何故、私の事を助けに来なかったか。ですか?
他には…あぁ!すいません失念していました。殿下の御前、失礼は承知ですがこの仮面は外せませんよ?幾ら殿下の命令でも。」
「お主…何が言いたい。」
この程度で怒るのか?この程度の皮肉は血生臭い王宮では日常茶飯事だったはず、
だからそんな笑いもしない鉄面皮になった。
「違うのですか?貴女の心を代弁したつもりだったのですが…。」
「ッッ!!」
パンッ!
アリカ姫が私の頬に平手打ちを打ち込む。そこに躊躇や戸惑いと言った類の物は無い。
…ふむ。本気だと思って間違い無いな。
魔力無効化能力の確認終了。完全ではないが只の平手打ちで此処までの威力か、
想定すると無効化能力による攻撃はかなり厄介だな、障壁さえ無視するのだから。
それはこの世界で、防御を無効化されるに等しい。
できるだけ本気で打ち込んで欲しかったから、まだまだ蔑む材料は用意していたが…。
ここまで簡単に激怒してくれるとは思わなかった、助かったよ。アリカ姫。
「貴様!その無礼な発言、恥を知れ!」
「なるほど図星でしたか、それは申し訳ありません。」
「お主!まだ言うか!」
「ちょ、待て、待つのじゃアリカ!」
テオドラがあたふたしてる。しかも涙目になって。
いきなりの険悪な雰囲気にも健気に耐えていたが、アリカが手を出した事で耐え切れ無くなったな。
「も、もう良いじゃろアリカ。アンジェラ、お主は下がっておれ!」
「わかりました、テオドラ殿下。」
…そして貴女は高い確率でこの喧嘩を止めに入るでしょう。御免なさいね?貴女の事利用させてもらったわ。
まあ私から始めた事で貴女を巻き込んだのだけど、不幸な事故だったと思って諦めて。
それじゃあねテオドラ殿下、アリカ殿下。
さて、次は…ガトウに忠告でもしようかと思ったが…。
どうしようか?あれは彼の弱みであり、私に対する利点でも有る。
あれを利用すれば、私は彼に対して絶対のアドバンテージを得る。
それに付け込んで契約でも交せば、ガトウは私の為に働いてくれるだろうか?
……舌噛んで死にそうだな。却下。
うーん、まだまだ考える時間はあるか。保留で。
これで大体の下準備は完了かな?
まだ何か忘れている気がするが、ここから映画三部作程の戦い続きらしいし、
その内に死霊術氏や完全なる世界についての情報も集まるだろう。
…そう思っていたのが間違いだったと、後で気づかされたのだが。
原作同様、反撃開始!と行きたい所だが、私は頭脳担当に分類される為、
肉体労働中心の奴らには付いて行けない。
…お陰で今まで、死霊術士に対面する事も、そいつの情報もうまく得られなかった。
私しか知らないグールの存在と謎の男。その情報は集めようとしなければ勝手に集まる物ではない。
そもそも敵の殆どは戦で儲けを狙った武装マフィアに武器商人や私腹を肥やした役人共だ。
完全なる世界での下っ端の構成員共では、生憎、あれ以上の有益な情報を持ち合わせていなかった。
やはり根幹に迫るには、奴らの幹部に会う必要がある。
最後の戦いであの男が出てくるかわからないが…、
まあ大丈夫か。
問題ない、デュナミス以外は全て紅き翼が倒すのだから。
その後ろについて行けば良いし。誰か一人捕まえて、死ぬ前にあの男の情報も吐いてもらう。
アルも一人で戦うから、そこに助太刀して、デュナミスを倒すのも悪くは無い。
全ては目の前の「墓守り人の宮殿」に行けばわかる事だ。
「不気味なくらい静かだな、奴ら。」
「なめてんだろ、悪の組織なんてそんなもんだ。」
「ナギ殿!帝国・連合アリアドネー連合部隊、準備完了しました。」
「おう、あんたらが外の自動人形や召喚魔を抑えてくれりゃ俺達が本丸に突入できる。頼んだぜ。」
「ハッ!それであの…ナギ殿。」
「ん?」
「ササ、サインをお願いできないでしょうか。」
「おあ?ああいいぜそれくらい。」
まったく死ぬかもしれないというのに、暢気な物ね。
…この先に造物主がいる。
まずは造物主だ、この際、死霊術士の男は放っておいて構わない。
本当は生きていてほしい所だが、この戦争でもう死んでいるかも知れない。
あまり他の事に気にかけていれば、今度は私が戦場の屍に仲間入りだ、最優先にすべきはやはり造物主。
ここで失敗しては、こいつ等に付き合っていた意味がない。
…もう能書きはいいだろう。此処まで来たらやるだけだ。
――さあ始めようじゃないか。
「よぉし野郎共、」
「行くぜっ!!」
――偽りの戦争に終止符を。
あとがき
難産でした。所々意味不明な所があるかも知れません。
ちょっと更新ペースが落ちてますが頑張っていますので
これからもよろしくお願いします。