№11「孤児、意地、師事、誇示」
各々の思いが交錯する中でも、非情にも戦争は続く。
私の役割は後方支援なので、戦闘に参加しない日もしばしばある。
小さな小競り合いなど、この戦争では日常茶飯事だ。中には味方同士の意見の食い違いから端を発したいざこざにも、
私達が借り出された事例がある。そんな犬も食わない喧嘩に、私は必要ない。
精々、紅き翼のメンバーの力仕事担当が二、三人出張すれば事は収まる。
ご想像の通り、その大抵が力業による解決だが。
さてこれで暇になる。と思う事なかれ、こういう時も待機組には仕事があるのだ。
それがこの戦争の最たる被害者、戦争孤児の世話である。
私達、紅き翼は戦争に赴くとき、戦地の生存者の捜索や保護も視野に入れ、味方拠点を確保している。
味方が手の施し様もなくなる程の戦火が拡大した戦争区域に行くまで、いや呼ばれるまで、私達はその拠点に滞在する事も少なくない。
味方の拠点に滞在している間の活動は、保護した戦争孤児達に重点を置く事になる、
衣食住の確保、安全を出来る限り保障し、これからの進路についての相談、そして、亡き家族の弔いなどが殆どである。
何処に行っても、どれだけこの子達を癒しても、私達が離れ、またもその地が戦火に包まれた際には、その度に顔に覚えのない子が増え、
やっと笑顔を取り戻した子供達が、物言わぬ肉塊になっている事もざらにある。
堂々巡り、終わらない負の連鎖。いくら花を植えても、人はまた吹き飛ばすとは誰の言だったか、
もう忘れてしまったが、大方、人気の出ない主人公で、何時の間にか第一期の主人公に主役を奪われ、
最後には敵役として無残に散って行く、そんな人物だった気がする。
はて誰だったか?思い出せない。
まあ気にする程でもないのだろう、忘れるくらいだからな。
私の話が反れるのは最早当たり前の事象のようになっているが、今回の争点はいつもの堂々巡りとは一味違う。
タカミチとクルトという少年達の事だ。
この二人は紅き翼の身内という事で話が決まっており、これからの旅にも着いて来る。
タカミチはガトウに師匠になってもらい、クルトは詠春の神鳴流に興味を持ち、師事を願うはずだ。
今現在もその一環として、ガトウや詠春に引っ付いている、詠春は嫌がっているが。
そのはずなのだが、
「「アンジェラさん魔法教えて下さい!!」」
何故こうなった?
「どうして?貴方達はそれぞれ師事をする人間がいるはずよね?
タカミチはガトウの無音拳、クルトは詠春の神鳴流、それぞれを片手間にして、更に私に師事を仰ごうというの?」
「片手間じゃありません!師匠は今仕事に出ていて、僕一人じゃ修行ができないんです。」
「詠春さんにはまだ正式に弟子にしてもらっていません。
それに戦場に出ていて、技を盗めません。それで今この場所で暇そうなアンジェラさんに魔法教えてもらおうかと。」
二人同時に話すな、私は複数思考などできないぞ。大体それを片手間と言うのだ。
「タカミチは自主練、クルトはイメージトレーニング。以上。」
「「えぇ~~~~。」」
「私に師事しても私の魔法は貴方達には使えないわ、諦めなさい。」
「やってみなければわかりません!」
「わかるのよ、駄々を捏ねないでクルト。
それにタカミチは魔法を使えないでしょう?」
「…アルビレオさんが言っていました。
アンジェラさんの魔法は私達の物とは系等が違うって、だから―」
「だから、それなら僕でも使えるんじゃないかって?
…片腹痛いわね、アル達が使えない物を貴方が習得しようと言うの?」
「……それでも、僕なら使えるかも知れません。」
頑固かこいつは…なら一度見せて差し上げようかね。
「なら見ておきなさい。貴方達では到底辿り着けない境地を。」
(アン、仕事です。)
「「??」」
「――ちょうどいいわ、着いて来なさい。」
今、丁度いい所に念話で連絡が来た、アルからの応援要請だ。
此処に少年二人を置いて行けないから断ろうかと思ったが、連れて行けば問題ない。
「見せてあげる、貴方達がどれだけ幸運で、貴方達がどんな人達を師事しているのか。」
「す、すごい……。」
「あ、あれが本気の詠春さんの剣……」
彼らの師匠の本気は修行の身である弟子達には見る機会が殆どない。
これで、他の物の手を出す前に、まずは彼らに追いつく事に重きを置き、修行に全力を注ぐだろう。
そして今、ガトウ達を含めた紅き翼全員で戦いに出て全力を注いでいる。
今回の相手は少々骨が折れるようだ、数が多いのか質が良いのかそこまでは此処では判断し難いが。
私達は今、遠見の魔法球で、戦場の様相を見学している。
今回の戦争は拠点から離れており、こちら側から敵地に侵攻するものなので私は前線には出ていない。
私に与えられた役割、基仕事とは、敵の奇襲に備えて拠点に戦力を残しておく、という単純な物だった。
今現在に関しては魔力反応に引っ掛かる人や生物はいない様なので奇襲の線は薄いが、万全を期しての判断だ。
…と思っていたら、誰か抜けて来た!
…この反応は味方じゃないな、安全地帯である此処まで来るのに、この速度で移動する理由が味方にはない。
誰か怪我をしていてその人を抱えているにしても、速過ぎる、これでは怪我人が死人に早代わりだ。
伝令にしても念話がある、自ら足を運んでまで伝えるよりそちらの方が早い。
故に戦場判断としては、敵、しかもあの包囲網を潜り抜けて来た敵で、警戒が必要な程の兵…。
これは久々に気を引き締めなければならないようだ。
「貴方達、見学はそこまで、これから此処は戦場になるわ。」
「ッ!!どう言う事ですか!?」
「簡単よ、お客さんが来たのよ。」
「敵ですか!?」
「そうよ、貴方達は此処にいる人達と一緒に後退、私は殿に出るわ。」
「無茶です!一人で殿だなんて!」
「私を治癒しかできない女とでも?これでも貴方達の偉大な師匠と同じ、紅き翼の一員なのよ?」
「アンジェラさん…。」
「簡潔に述べると、邪魔になるの。
貴方達はまだ少ししか力を持っていない、微力は強大な力の前では無力と同じだという事を理解しなさい。」
「でも!」
「クルト、もういいだろ、これ以上は取り返しの付かない事になる。」
「そうね、いい子だから先に帰っていなさい。」
「…くそッ!」
「すいません、お願いします。アンジェラさん。」
そう言い残し、去って行く二人の少年。
一人は自身の無力さに悪態を吐いて、
一人は仲間に全てを任せ頭を下げる。
「ええ、お行きなさい。」
さて、敵は一人か、複数か、歓迎しようじゃないか。
だが此処から先は、一歩も通さないよ。
……皆居なくなったわね、此処にはもう私しか残っていない。
肝心のお客さんは…、
かなりの速さだが、捕らえ切れない程ではない、ならば久しぶりの広域殲滅と参りますか。
その前に、一応戦の礼儀を守ってやろう。
「そこにいる者達!此処から先に一歩でも歩を進めた場合、それ相応の報いを受ける事となる!
直ちに引き返しなさい!!」
一時、襲撃者達は硬直したが、その停止も又一時のモノだった、その為警告を無視したものと判断。
「知らないわよ。人の親切を無視するなんて。」
なら、逃がさず、殺さず…いや、こちらが勝つと思うなど傲慢だ、死ぬ気の一撃は時に、素人が達人にも一太刀浴びせる事がある。
油断は捨てろ、慢心するな、集中しろ、本気ではないが手を抜くなど以ての外。
捕縛と攻撃の複数攻撃、ならばこれ一択に限る。
膨大な魔力反応が私の元から発せられ、襲撃者達が瞬時に判断、蜘蛛の子を散らすように逃げるが、遅い。
「我焦がれ、誘うは焦熱への儀式、其に捧げるは、炎帝の抱擁!!……イフリートキャレス!!」
襲撃者達を円を描き、囲うように展開される炎の壁、
その炎の壁は灼熱の熱風と、立ち塞がる炎を以て、襲撃者達を襲う。
誰もがその惨劇を見た瞬間に、死を連想するほどの光景だが、
彼らも歴戦の勇士、すぐさま魔法障壁を全力展開し、この炎を飛び超え回避しようとするが、
甘い。
更に炎が四方から立ち上り、円の中心に向かってアーチを架ける。
一番被害の少ない、円の中心に集まっていた者、炎を飛び越えようとした者、
全てを巻き込んで―大爆発。
熱風が此処まで届くほどの熱量、
辺り一帯の酸素は枯渇し、数分程して空気が吸い込まれていく。
まず間違いなく人が生きてはいられない惨状。
魔力反応もない。大丈夫か…!?
まだある!!
消えた魔力反応が再び感じられる、しかも……これは不死者の気配?
馬鹿な!死んだ肉体を使っての召喚か!?帝国が死霊術を使うなど聞いていない!
完全なる世界に悪魔はいた筈だが、死霊術を使う術者が居たなんて…
という事は元から生贄の予定だったのか?死ぬ事も計算に入れての特攻…。
いや、そんな事今は重要ではない。この反応は余り強くはないが…、
確かめなければ、何を召喚したのかを。
焼け野原に変わった戦場に赴くと、
そこには複数の、翼と角が生えた異形の怪物、体の色は濃い茶色のような色をしている。
何も知識のない者がみれば、これを悪魔と呼ぶだろう。
だが、これは…。
おそらく、“グール”だ。
ジェラードに使われたあの薬。グールパウダーは服用した者を異形の化け物に変貌させる魔の薬。
死の間際に呑んだのか…?
何としても生き延びたかったのか、それとも何も知らされずに、死を回避できる秘薬として渡されていたのか。
この世界に同じ物があったとしても不思議ではないが、此処まで似る物だろうか?
気になるが、この人達からもう話は聞けない、
こうなっては最早、人の言葉など理解の範囲外にある。
……こうなる切欠を作ったのは私だが、
彼らはあの包囲網を潜り抜けて来る程の強き兵だ、
彼らのあの迅速な行動も、彼らの今までの道程を際立たせる。
その歴戦の兵に敬意を表して、今直ぐ浄化してあげよう。
「霊柩無き者はただ滅するのみ、か。」
終焉しか齎さない私は、確かに死神だ。
強き者達の魂を導けない事が、道を作ってやれない事が、唯一の後悔だよ。
良い駒は替えが利かないからな。
あとがき
最近モチベーションが上がらないですが
なんとか、完結まで頑張ります。
…プロット見たらまだまだですね、ははは。