№9「日頃、感じる事」
「アンは弱いんだよな?」
「何よいきなり。大体ね、私は一度たりとも自分を弱いと卑下した事はないわ。」
「なーんでぇ嬢ちゃん弱えのか。俺が鍛えてやろうか?今なら仲間価格で八百万でいいぜ。」
「馬鹿2は黙ってて。」
「馬鹿2…。」
「という訳で!いつもアンにいじら…ゴホッ!お世話になっているので、俺が稽古つけてやるぜ!」
人の話を聞いていないのか、この馬鹿1は。
「何が稽古じゃ、お主が稽古を付けて貰う側じゃろ。」
「確かにそうですね、ナギは未だに六個しか魔法知りませんから。
しかしアンの魔法は私達でも聞いた事のない不思議な物ですし、
我々が教えてあげた魔法はしっかり覚えていても、彼女が使う場面は少ないですからね、
アンは滅多に戦闘は行わないのですから、じっくり観察できる今回のこれは、見物かも知れませんよ?ゼクト。」
「む?うむ、確かにあの魔法には興味はあるのう。」
「やめといた方がいいと思うぞ…ナギ。」
「??詠春はなにかご存知なのですか?」
「ああ一度だけ見てな…。」
はあぁと深い溜息を吐く詠春。まったく失礼な奴ね。
「で、本当にやるのね…」
今、装備は全て着けている。と言うより仮面等、装備は魔法世界に来たときにまた着け直した。
この世界なら顔を隠しても、別段文句は言われないからな。カゲタロウという前例、いや後例がある。
文句を言うのはナギくらいな物だ。
「あたぼうよ!日頃のうら…日頃のお礼をキッチリ晴らしてやるぜ!」
「言葉は変わっても意味は変わっていない…流石馬鹿のなせる業ですね。」
「審判。笑うなら詠春にでも代わりなさい。」
「うおっし!燃えてきたぁ!」
「暑苦しいわナギ、もう少し抑えてくれる?」
「うっせ!行くぜ!」
そう言って、開始の合図もまたず多重分身を嗾ける。
「早い男は嫌われるわよ…。アデアット。」
このお礼参りを承諾したのも、この仮契約カードで戦闘に慣れていたかった為。
勿論仮契約は皆と同じ方法よ?アルやラカンはまるで中学生の妬みのように煽っていたが、誰がキスなどするものか。
そしてこのアーティファクト「八百万の練鉄鋼」
能力は至って簡単、思い描いた、自由自在な形に変化する魔法金属だ。
自由自在に変化する。便利なように聞こえるがこれは魔法による代替品が存在する。
例えば有名な物は影の魔法で、このアーティファクトの攻撃法はまんまそれである。
そして弱点は切り離しはできない事、全て繋がっているため、雷系等の魔法には相性が頗る悪い。
手持ちの武器、盾や剣にする事は、止めておいたほうが良さそうだ。
その他の能力に、練鉄鋼以外の無機物を取り込み質量を増大していくが、
ある程度取り込むと吸収スピードが遅くなるので、吸収限界があるのだろう。
無機物の吸収は必要のある時などそう多くない、戦闘用とは思えない機能だ。
戦闘で使うには、吸収のタイムラグと重量の関係で、吸収能力では高速戦闘ができなくなる。
空中に浮かす事は可能だが、ある程度の重量を超えると沈んでいく。
その為、もっぱら攻撃用でなく捕縛用や、防御用の形ある魔法障壁といったところに収まった。
前面に押し出すと、目視による判断が困難だが、私は魔力感知ができるので、見えなくても関係ないといえばそれまでだが
今は左肩辺りにフヨフヨと浮いている。まるでレナスのヴァルキリーメイルのように、勿論盾の形にしているが片方しかない。
という訳で今回の実験では攻撃は抑えて、防御に専念する。
「おらおら、防いでばかりじゃ勝負になんねーぞ!」
「いつから勝負に発展したのよ。」
回避し続けると、膨大な魔力反応、勿論人からすれば、という注釈が付くが。
来る、これで試すか。
「いくぜー、千の雷!!」
「ふっ!!」
盾を前面に押し出し、其処に自分の魔法障壁をプラス。さらにミスリルプレートの魔法防御力で…。
おおぅ?めちゃ硬いなこの、え~複合魔法障壁とでも名づけるかな。全く壊れる気がしない。
「へへっ、どうだ溜めに溜めた日頃の恨みの威力は!!」
「獲物を仕留めたかも確認せずに高笑い…三流の仕事よ、ナギ。」
「なぁ!何時の間に後ろに!!」
「私が転移できることも忘れてしまったの?あぁ嘆かわしい。」
「くっ、一度距離をとっ…なんだこりゃあ!!足に鉄がくっついて、ってしかも地面に繋がって固定されてるし!!」
「逃がさないわ。」
「ちょ、ちょっと待て話合おう、話せばわかる。」
「あら珍しい。貴方が命乞いとはね。」
「そ、そう、もう終わりだ!稽古終了!」
「そうね、でも私攻撃してないし、稽古なら一回は必要よね。」
「へ?」
「しっかりレジストしなさいよ?」
「ちょ、おま、まって、」
「ストーントウチ。」
「ぐはっ!!
……はあ、はあ、さっき獲物をどうとか言ってた癖に、嬲り殺しか……
っておいぃぃ!!体が固まって、石ぃぃぃ!!石化してるからぁ!いやマジでぇ!」
「ふふふ。」
「ちょ、アンさん?マジゴメン、ゴメンなさい、助け…」
数秒経たず物言わぬ石の彫刻が一つ、出来上がり。流石に落下で粉々は不味いので、落ちないように錬鉄鋼で支える。
ふふ、逆さにはなったが、この絶望に浸った顔…。
日頃の勝気なナギとは違う、いつもと真逆の顔は、中々見てて飽きないわね。
「ちょ!ナギィ!!ア、アン!?治してくれますよね?」
「もうちょっとしたらね~。」
「あ、あはは、そうですか…。」
偶にはいいわよね、こういうのも。
……。
(((アンは怒らせないでおこう。)))
またしても、ナギとアンを除いたあの時の面々は心を一つにした。
だが、この場には。
「おぉ~嬢ちゃん、強えじゃねえか。」
「何か用?伝説の傭兵さん?」
あの時の遣り取りをしていない馬鹿がもう一人いる。
「なぁーに、ちょっとアンタの顔を拝みたくなってね、俺まだ嬢ちゃんの素顔、見てねえんだわ。
…それに、
あれじゃ全然ヤリ足りねえだろ?いっちょ第二ラウンドと行こうぜ!」
そう言って行き成り一気呵成に攻めてくるラカン、ご丁寧に瞬動まで使って距離を縮め、インファイトに持込む。
こいつ、魔法を使わせない算段か。
…小癪な。剣を抜いてもいいが…。どうしようか。
「ちょ!ラカン!まずはナギを治さないと!!」
「そんなモンほっとけ!後で治してもらえば問題ねーって!」
「そんなモン扱いとは、ナギも不憫じゃな。」
「だからやめとけって言ったんだ…。」
それぞれ好き放題言ってくれるじゃない。今はコイツを止める事が先決でしょう。
大体コイツの拳圧オカシイだろ。
拳圧で体が揺らぐではないか…。このままでは事故って拳が当たるかも知れないな。
…決めた。
「アデプト・イリュージョン。」
VP世界特有のスキル、アデプト・イリュージョン。
簡単に言えば、自らの幻影を作り出し、敵の攻撃を空振りさせるもの。
実際に攻撃を避けきれている今、保険程度の能力だが、充分有効のようだ。
「おお?幻術か?うーんと、これか?」
「外れ。次はこれよ、レヴェリー。」
同じくVP世界のスキル、レヴェリー。
これも又、自分の分身を作り出し、追加攻撃できるスキル。
…流石に気づくかしら?
「うーん。中々に巧妙じゃねえか、やるねぇ嬢ちゃん。」
「そんなに余裕でいいのかしら?この状況、覚えがあるんじゃない?」
「何の事だ?」
「…単純馬鹿、行くわよ。」
そう言い残し、私のレヴェリーが姿を消す。
「なっ!これも幻術かよ!」
スキル幻影達はネギま世界の魔法でよりリアル感を強化している、本家本元のスキルや魔法よりも実体に近づいた物が出来上がっただろう。
思いもよらず実験成功だ、試す心算はなかったが。
ラカンが幻影に気を取られている間、
移送方陣による転移で空中に移動している本体は既に呪文を唱えている。
「ライトニング・ボルト」
この呪文は本物の雷と見紛う速度だ、本来、知覚できないんだが…
「むお!早ッ!気合防御!
……、なるほど、ナギのヤローと初めて戦った時と同じ戦法ってわけか。」
「普通、雷は反応できるスピードじゃないのだけれど?貴方の反射神経どうなってるのよ。」
「そこはあれだ、まあ古強者の俺様ならではの戦闘経験の差だな。」
「厭きれて物も言えないわね、流石バグキャラ。」
「ワハハハ!嬢ちゃんも中々だぜ!いつか本気で戦いたいモンだ!」
「…冗談言わないで、これで精一杯よ。」
本気ではない事に気づいているのか?これは失敗だな。
つい調子に乗ってしまった反省しなければ。
しかし、この紅き翼の面々はクセが強すぎる。油断も隙もありゃしない。
無駄に隙を見せるのは避けた方が良いが、余り追求されたくないのは皆同じか。
アル、ゼクト、ラカンは自分の過去を遠ざけているみたいだしな。
「「「……。」」」
(((やっぱりアンは怒らせないでおこう)))
馬鹿二人と本人を除く紅き翼の三人は今、完全に心を一つにした。
あとがき
えーわかっているとは思いますが仮契約アーティファクトはオリジナルです。
そして、掲示板でもちょろっと書いた考察の件ですが、
今週のネギま!にてもう一つの謎にも目処が立ちましたので、
考察で一話書き上げたいと思います。
勿論、話の流れを変えるものではなく補足説明程度の予定です。
ネタバレ?いえいえ、まあ作者の戯言だと思って見てください。
考察に関しては次回予告をしますので、見たくない人は見ないで下さい。
大体三話後くらいです。