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No.22526の一覧
[0] マブラヴオルタネイティヴ『掴み取る未来』[ファントム](2013/02/19 21:25)
[1] 第1話[ファントム](2013/11/03 21:04)
[2] 第2話[ファントム](2011/08/03 13:10)
[3] 第3話[ファントム](2011/08/03 13:11)
[4] 第4話[ファントム](2011/08/03 13:12)
[5] 第5話[ファントム](2011/08/03 13:12)
[6] 第6話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[7] 第7話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[8] 第8話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[9] 第9話[ファントム](2011/08/03 13:14)
[10] 第10話[ファントム](2011/08/03 13:14)
[11] 第11話[ファントム](2011/08/03 13:15)
[12] 第12話[ファントム](2011/08/03 13:15)
[13] 第13話[ファントム](2011/08/03 13:16)
[14] 第14話[ファントム](2011/08/03 13:16)
[15] 第15話[ファントム](2011/08/03 13:17)
[16] 第16話[ファントム](2011/08/03 13:17)
[17] 第17話[ファントム](2011/08/16 12:31)
[18] 第18話[ファントム](2011/08/24 03:07)
[19] 第19話[ファントム](2011/10/14 18:34)
[20] 第20話[ファントム](2011/10/17 05:08)
[21] 第21話[ファントム](2011/10/27 16:01)
[22] 第22話[ファントム](2011/11/05 17:15)
[23] 第23話[ファントム](2011/11/17 04:24)
[24] 第24話[ファントム](2011/12/20 15:17)
[25] 第25話[ファントム](2012/02/20 15:35)
[26] 第26話[ファントム](2012/04/08 23:38)
[27] 第27話[ファントム](2012/04/28 14:27)
[28] 第28話[ファントム](2012/05/25 02:23)
[29] 第29話[ファントム](2012/07/15 11:04)
[30] 第30話[ファントム](2012/08/14 23:56)
[31] 第31話[ファントム](2012/09/18 15:27)
[32] 第32話[ファントム](2012/10/21 11:24)
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[22526] 第32話
Name: ファントム◆cd09d37e ID:db366f07 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/21 11:24
 京都駅前を離れてすぐ、先頭を進んでいた米国海軍所属のジャーリーロジャース隊と随伴機であるF-15Cイーグルは新たな任務があると機体を転進、京都市内へと引き返していく。
 残されたのは、F-4J撃震が2機と瑞鶴5機だ。米軍によって示された集結地の岐阜県一宮への道のりはいまだ遠く、推進剤、弾薬ともに残されてはいない。
 僅かに残っている推進剤は、万が一BETAと遭遇した時の最後の頼みの綱だった。
 北条と佐藤、生き残った嵐山中隊の5人は主脚による移動をしていた。

 『――佐藤中尉、篁少尉です。先程から無線を送っていますが、絶えず示された地点へと移動せよ、と返ってくるのみです』
 「――わかった。引き続き呼びかけてくれ。各自、周囲警戒を怠るな」

 了解、と北条は短く返答する。主脚でのBETA勢力圏内を移動するのは精神が酷く削られていくようだ。
 必要以上に誰も口を開く事は無く、静けさがかえって不安を煽るようだ。
 重金属雲影響下を今だ出ておらず、濃度も濃いままのためか通信障害も続いている。
 指揮所も、自動音声が集結地点へ移動せよと続けるだけ、周囲の友軍とも連絡は取れないままであった。


 「――北条、無事か?」
 「――この撃震、よくやってくれてます。良い機体ですよ」
 「――……貴様自身はどうだ?」
 「――問題ありません」

 この世界に来てから、この機体にはずっと助けられてきた。
 相棒と呼べる存在であり、自分の戦う為の力だった。
 時折、北条は後方の京都をカメラに映し出す。
 赤く染まった空、人類による砲爆撃によって火事が起きているのだろう。
 空に幾筋もの光が走っているのが、見えた。数が先に確認した時よりも増えている。
 日本海と琵琶湖運河に展開した帝国、米国海軍による艦砲射撃が行われておりそれを光線級のレーザーが焼き払う。
 BETAに対して、どれだけの有効打が出ているだろうか。

 『――中尉!新たな無線を傍受しました!集結地点ではなく、西へ4kmほど離れた地点からです。港から脱出している非戦闘員の支援要請です』
 「――どこからの指令だ?」
 『――民間で使用されている周波数ですので……。雑音も酷く、こちらからの呼びかけには答えません』

 集結地点とは違い、ここからは目と鼻の先になる。しかし機体の状態を見る限りでは自分たちが向かったとしても何も出来ない可能性のほうが大きい。
 しかも、脱出する民間人や非戦闘員は国連軍が支援、避難誘導を行っていた。その国連軍はどうしたのだろうか。
 
 「――どう思う少尉?」

 佐藤中尉が秘匿回線を繋いでくる。弾薬、推進剤共にこちらには残されていない。
 さらには、示された地点へと全軍終結せよとの指示も出ている。

 「――我々には、弾薬も推進剤も残されてはいませんが……」

 しかし、どれだけの民間人がBETAから逃れてきているのかも分からない。
 それを放っておくことは出来なかった。

 「――ですが、戦えない人たちに迫るBETAがいるのです。我々はただ戦ってはいません。どこかの誰かの為に戦っています」
 「――決まりだな」

 佐藤中尉は、一度頷く。
 「各員聞け!我々はこれより脱出する民間人の救助へと向かう。CP、HQともに連絡がつかない為に私の独断である」

 後退中、BETA一群と遭遇し戦闘になったのだという佐藤中尉の言葉に、それを聞いた斯衛の五人の顔色が変わる。

 「――ここで部隊をわけ……」
 『――我々、嵐山中隊5名は改めて佐藤中尉の指揮下へ入ります。ご命令を』

 佐藤中尉の言葉を遮るように、篁少尉は答えた。その言葉に全員が頷く。
 みな、疲れているはずなのに、良い顔をしている。
 佐藤中尉の判断が間違いではないと思えた。

 「――貴様ら……」

 しかし、甲斐少尉の顔色が変わった。引きつっている。

 『――こちら甲斐少尉です!ふ、要塞級を確認、数は2!進路はこのままだと……、この先の港へと向かっているようです!!』

 餌場を見つけたかのように巨大な体躯を揺らし進む要塞級、その下にはおびただしい数の小型種を引き連れているだろう。
 それらが港に到着すれば地獄がそこには広がるだろう。

 「――中尉!」
 「――各機、アローヘッド1!篁少尉を戦闘に港へと向かう!今、アレを止めるのは無理だ。篁少尉は呼びかけ続けろ!」
 『――了解!!』

 嵐山中隊の五人の顔色に生気が宿る。それを見た北条は笑ってしまった。

 「――これから行くのは地獄だって言うのに嬉しそうじゃないか?」
 『――それもそのはず。私たちは、民を守る盾であり剣です!その本懐を遂げられるのですから』

 呟きにも等しかった北条の独り言だったのだが、それを北条に聞かれてしまったようだ。
 彼女もまた、北条のように笑っていた。

 「――楽しそうなおしゃべりもいいがな、北条?貴様が最後尾を守れ」
 「――了解!」


津松阪港


 津市の東に位置する津松阪港へ迫るBETAを迂回し、港湾施設が見えてきた。北条は自分の目を疑う。それもそのはずである。
 脱出する船へ乗ろうとしている難民の数がとても多く、いまだにこれだけの数の人がそこにはいたのだった。

 「――こんなにまだいたのか……」
 『――こちら帝国陸軍中部方面第14普通科連隊第2中隊ガゼル01だ!救援か?!』
 「――こちら、京都防衛第301戦術機甲連隊シールド01。軍の周波数で初めてやっと友軍と繋がった。残念ながら連隊は7機のみ、弾薬、推進剤共に尽きている」
 『――301……、臨時編成の連隊か。あんたらは運がいい。輸送隊が1個中隊分の補給物資を確保してある』
 「――使用は可能か?」
 『――こちら中部方面後方支援隊、撤退しながら掻き集めたんだが、役に立ちそうだ。是非、使ってくれ』

 どうせ、脱出する船は人を乗せるので精一杯だからな、と支援隊を率いる無精ひげを生やした少佐が答える。
 助かった、満身創痍のままBETAと戦闘だけは避けたかったのだ。それが叶うのが純粋に嬉しい。
 これには、斯衛の五人もホッとしたようである。
 船舶を陸へとあげて整備する場所に物資を集積したようだ。

 『――こっちへ機体を寄せてくれ!』
 「――補給を急いでくれ!補給が済み次第にすぐに出る!」
 『――補給の事はこっちに任せなさんな!少しでもあんたたちゃあ、休んでな』

 戦術機の整備班がいてくれたのも幸いだった。彼らもまた京都防衛線から後退していたという。
 途中、難民とそれらを護衛していた帝国陸軍の歩兵連隊と運よく合流してきたという。

 『――能登少尉です。わたしの機体が戦闘機動を取るのは難しいほど消耗しているとのことです』
 「――石見少尉、島少尉は万が一に我々が撃ち漏らした場合の最後の防衛線だ。絶対に中にいれるな」
 『――了解!』

 北条は、脱出船を待つ難民へとカメラを向けていた。誰もが酷くくたびれた服を着て、着の身着のまま逃げてきたのだろう事が伺える。
 しかも、ここにいる民間人は日本国民ではないことまで気がついてしまった。殆どが、海外からの難民、逃げ遅れたのかはたまた逃げる事が出来なかったのか。

 「――佐藤中尉、これだけの数の避難が遅れているとは……」

 想定外の数です、と続ける。彼女もまた、ここにいるのは難民なのだと気がついたのだろう。
 それについては、彼女も何も言わなかった。

 「――半島が陥落してすぐにあったBETA上陸、通常ならばまだ掛かるだろう侵攻だったはず。対岸の火事とは言ったものだな」
 『――こちらガゼル01、あんたらがここに来る前に国連軍の中隊も展開していなかったか?』
 「――いや、確認していないが。どこで展開していた?」
 『――最後に更新された場所だが、いいか?』

 頼む、と佐藤中尉が言うとデータリンクを更新し、彼らの展開している地点が表示された。
 要塞級の予測される進路から外れてはいるが、このままだと回り込まれてしまう可能性がある場所だった。

 「――このままだとまずい、補給を急いでくれ。要塞級が迫っている」

 要塞級という言葉を聞いて青ざめる整備兵だったが、それでも作業の手を止めず動いていた。
 北条の機体を整備していた整備兵から無線が入る。親指を立てて作業が完了した、と合図も出た。
 度重なる戦闘だったが、前回身に付けた操縦技術のおかげか、損耗を僅かに抑え続けた事が幸いだった。

 「――機体を出す。離れてください!」

 87式自走整備支援担架がここにある装備を運んでくる。突撃砲と92式多目的追加装甲を装備する。
 そして、持てるだけの弾薬を持った。
 
 「――部隊内呼称を変更する。私がアルファ01、北条が02となる。篁少尉、山城少尉をブラボー01、02。志摩少尉はチャーリー01とし甲斐はチャーリー02、石見少尉を03とする」
 「なお、チャーリーはこのガゼル01と共にここの守備。アルファを前衛、ブラボーは後衛で行く。何か質問はあるか?」

 機体の準備が完了したものから順に主機に火を点す。いつでも出れる状態だ。
 誰も質問は無い。北条も佐藤中尉をまっすぐ見ていた。

 「――アルファ02、いつでも行けます」
 「――了解。国連軍がまだ生き残ってくれていれば、そのまま合流、もしくは入れ替わってBETAを押しとどめる」

 佐藤中尉が先頭になり、続いて北条、篁、山城が続く。

 『――ここはお任せ下さい。御武運を……』

 残る甲斐少尉が呟いた。北条は、一度頷くと機体を前へと進めた。


 国連軍所属を示す青く塗装された4機のF-4J撃震の1個小隊が港へと迫るBETAを前にして一歩も引かず戦い続けていた。
 周囲にはBETAと大破した機体が散乱している。残された4機もまた無傷と呼べる機体はいなかった。

 『――中隊長代理も人が悪いよなぁ。ここを死守しろとよ』
 『――はんっ、言われんでもここに残っているのは誰も逃げやしないさ』
 『――言えてるわ』
 『――帰ったら、上手い酒が呑みたいぜ』

 笑う4人衛士は、大陸でも戦い続けてきた猛者である。
 全員は日本人ではないが、この国を守ろうと戦い続けてる。
 小さな頃に故郷を脱出し、還る場所を失った。国を亡くした衛士達だった。
 そして今は京都防衛線を戦い、京都陥落と共に壊走した部隊の残存機を寄せ集めた中隊である。
 集結した段階では、12機1個中隊がおり、国連軍の集結地点へと後退中、避難中の民間人や非戦闘員が護衛する日本帝国軍の機械化歩兵中隊とそれを追うBETA集団を捕捉した。
 それを見捨てられる状況ではなく、臨時で指揮していた東南アジア出身の中隊長代理は一言、『支援に入る』と言うとそれに全員が従っていたのだ。
 次々と友軍はBETAに喰われ、潰された。中隊長代理もまた先程の戦闘で戦死していた。

 『――戦車級2000、なおも増大中。ふざけた数だ』
 『――なんだ、ひとり頭500ぽっちか、弾薬だけは腐るほどあるんだ。たらふく喰わせてやろう』
 『――震音だと戦車級だけじゃないね。個体照合……、要撃級もいるようだ』
 『――BETA別集団か?今までとは違う方向からじゃねぇか』

 BETAの迫る方向には、先程撤退してきた歩兵小隊が展開している場所だ。小型種を食い止めようと展開しており、さらにその後方には民間人がいる。
 全てを救う事は出来なくても、稼いだ時間の分だけ助かる命は増える。
 ここで戦う事は、その価値は十分にあった。

 『――キャニスターは残ってるか?』
 『――いや、あとは36だけだ。120mm砲弾も残弾なし』
 『――なんだ、いつものことじゃねぇか。いいな、まずは、歩兵の奴らを援護するぞ』

 了解、というと同時に期待は跳躍する。光線級に頭を抑えられているため、匍匐飛行、それも地上スレスレで進んだ。
 歩兵の展開しているのは、その地域ではいくらか頑丈な役所を拠点にしてた。そこを目指して進む。


 北条達もまた要塞級とBETA集団を迎え撃とうとその役所を目指していた。
 尾根を越えたところで、戦闘が行われているのを確認する。

 「――正面で戦闘を確認した。国連軍機か?」
 「――可能性は無いとは言い切れませんが、ここに展開しているという事は……」
 「――どうせ、ここで要塞級を食い止める手筈だった。あちらの支援に入るぞ!」

 篁、山城少尉の了解の返事と共に、機体をさらに加速させる。
 
「――役所で歩兵が展開しているようだ。ブラボーは右翼へ、アルファ02は付いて来い」
 「――了解!隣は任せてください」
 「――なんだ、大口叩くようになったじゃないか」

 ニヤリとする佐藤中尉は、道路を埋め尽くした戦車級へ突撃砲を浴びせていく。
 空いた足場へと機体を滑り込ませる。戦車級の死骸で横滑りしながらも飛び掛ろうとする戦車級に応射し続けている。
 横目で、篁、山城少尉の瑞鶴もまた同じように役所向こうへと着地したのを見届け、北条もまた自分の地点を確保していた。

 『――戦車級2000、まだ増加中です!』
 『――こちらブラボー02!要撃級接敵!撃破1!』
 「――要塞級も来る!120mmは温存してくれ」

 北条は咄嗟に返す。佐藤中尉も同じように考えているようだ。
 こちらへと進むBETAの数も確認できていないのだ、弾薬を補給したとしても、一発たりとも無駄にするわけにはいかない。

 『――戦術機か!助かった、こっちも負傷者が多くてもうダメだと思っていたよ』
 「――第301戦術機甲連隊、佐藤だ。そちらは?」
 『――国連軍第11歩兵連隊だが、今となっては2個小隊まで減らされたがな』

 負傷者が多くなってしまって、身動きが取れなくなっていたという。
 脱出を続ける港の存在を知って、そのままここを守備していたのだ。

 『――国連軍のF-4J撃震が近くで中型以上のBETAを阻止しているんだが……』

 彼が言い終わらないうちに、聞きなれた跳躍ユニットが聞こえてくると4機の撃震が現れた。
 戦車級を排除しながら、こちらへと向かってくる。

 『――帝国軍のF-4Jじゃないか、そっちは?』
 「――こちらは301連隊、佐藤だ」
 『――失礼しました、中尉殿。我々は国連軍の寄せ集めです。中隊長代理が戦死し、我々は残るところ4機のみです』

 港の方で、中隊と聞いていたのだがすでに1個小隊となっていたとは。
 むしろ、4機も残っていた事が幸いだったのかもしれない。

 「――要塞級が接近している、戦えるか?」
 『――弾薬はまだあります、戦えますよ』

 佐藤中尉は、下がるように伝えた。このままここにいても、こちらも支援するのがかなり難しい。
 それよりかは、港の方で民間人を護衛してほしい、と伝えている。
 周囲の戦車級を国連軍と協力し排除、篁と山城を呼び出す。

 「――ブラボー01、02、そちらの状況は?」
 『――こちらブラボー01、問題ありません。排除しました』
 「――了解、こちらへ合流してくれ。国連軍と合流した」

 BETAの体液を浴びて汚れた、山吹色と白の瑞鶴を見て、国連軍衛士が驚いた声を上げる。

 『――ロイヤルガード?なぜここに?』
 「――彼女たちも、ここで残って戦っている。何かあったか?」
 『――全滅したと聞いてました。16大隊が京都に最後まで残っていたと……』
 「――ここに全滅した、とされててもおかしくない部隊が集まっているんだ」

 それもそうだ、と肌の黒い国連軍衛士が笑う。笑うと白い歯が目立っている。
 歩兵小隊が後方へと下がり始めたのだが、間に合わなかった。多数の戦車級と要撃級、小型種を引き連れて、要塞級が現れた。

 「――急げ!ここは我々が引き受けた!」
 『――頼む、可能な限り急いでいる』

 言われる前に弾種を120mm砲弾へと切り替えると、北条は照準を要塞級へと合わせる。
 アレの硬さは、120mmを集中砲火しなければ、止める事は出来ない。
 白銀武みたいに機動でかく乱しながら、要塞級を仕留めるなんてのは到底無理だった。

 『――こっちは120mmは残弾が無いんだ。中型の方は任せてくれ』

 そう言いながら、青い撃震が前へと飛び出すと、間髪いれずに佐藤中尉が指示を出す
 
 「――右の要塞級に照準あわせ、撃て!!」

 一発、二発と次々に着弾すると、要塞級に赤黒い液体が噴出している。
 それでも、動きは止まらない。

 「――撃ち続けろ!まずは一体仕留める!!」

 いい加減に倒れろ、倒れろ、と北条は思いながら打ち続ける。
 弾倉に入った6発の120mm砲弾を撃ち尽くし、弾倉を交換してもう一度打ち込む。
 それでも、要塞級は止まらない。

 『――がぁあっ!?』

 1機の撃震が要撃級に取り付かれ、管制ユニットごと叩き潰されていた。
 それに気をとられた一瞬の隙を付かれ、もう1機の撃震に戦車級が群がる。

 『――この、離れ、ろ!』

 振り払おうと、短距離噴射跳躍を行うが数体がそれでもなお張り付いている。
 その判断が間違いだったと気付いたのは、要塞級の正面へと飛び出てしまってからだった。
 短い悲鳴と共に、彼の乗っていた機体は触角で貫かれていた。

 『――まだですの!?』

 すでに、二つ目の弾倉を撃ち尽くそうとしたところで、やっと要塞級が崩れ落ちる。
 2体目の要塞級へと照準を合わせる。

 『――新手!要撃級13、戦車級多数!』

 篁の悲鳴に近い報告が入る。CPともHQともデータリンクされていない今は、目の前にBETAが現れないと分からないまでになっていた。
 
 「――ブラボー、行けるな?」
 『――ブラボー01了解!』
 『――ブラボー02、足止めして見せますわ!』

 2機の瑞鶴が新手のBETA一団が現れた地点へと向かう。
 要撃級の数も多く、たった2機では時間稼ぎにもならないだろう。

 「――アルファ02!もう一体も潰すぞ!」
 「――了解です。急がないと!あっちも2機も危険です」

 要塞級を警戒し、思ったように動けないのか戦車級に囲まれていた。
 それでも、そうとうの経験もあるのか、要撃級を全て片付け、こちらが要塞級に対処出来るように、BETAを誘引していた。

 『――もう、持たない!急いでくれ!』
 『――頼んだ!』
 「――アルファ01、距離を取りすぎていたかもしれません。危険ですが、突っ込みます!」

 辞めろ、と言う佐藤中尉の制止を振り切り北条は機体の跳躍ユニットに火を点す。
 多目的装甲を破棄、要塞級へと迫る。むさぼり続ける戦車級を排除し、撃破された撃震の腕から突撃砲をもぎ取ると、残された36mm砲弾

を牽制にしながら、120mm砲弾を要塞級に叩き込んでいく。
 気がつかないうちに、北条は叫んでいた。何かを言っているワケではなく、ただがむしゃらに声を出している。
 触角が目の前に迫り、それを鈍重な撃震で何とか躱す。一歩遅ければ、自分もあの触角で貫かれるか、溶かされるかだ。

 「――北条!北条!!落ち着け!」
 「――はぁ、はぁ、はぁ……」

 近距離からの120mmを応射し続けたからだろうか、1体目を倒すより早く撃破することに成功していた。
 周囲を、見渡すと動くBETAは残っておらず、国連軍の撃震も周囲を固めてくれていた。

 「――北条、もう大丈夫だな?」
 『――あんた、クレイジーだが、お陰で助かった、かな』
 「――いや、その、取り乱してすみません」

 礼を言われるようなことは何もしていない。
 むしろ、無茶な事をしてしまったと、頭を垂れる。

 『――アルファ01、すみません。これ以上は……』

 瑞鶴が2機こちらへと合流した。BETAを多数引き連れている。幾分かは討ち減らしているが、それでも数は多い。
 突撃砲を構え、対峙する。

 『――まだ戦う友軍がいてくれたようだ』

 こちらへと迫る要撃級にその後方から切り込む、青い瑞鶴と山吹色の瑞鶴が現れた。
 
 『――おいおい、またロイヤルガードじゃねぇか!』

 いくら減らしたとは言え、要撃級が十数体とそれに戦車級のBETA群を彼女たちはまるで、物ともせずに蹴散らしていく。

 『――こちら、斯衛第3大隊ハイドラ01崇宰 (たかつかさ)。そちらは?』
 「――京都防衛第301戦術機甲連隊シールド隊と、嵐山中隊です」
 『――国連軍第11軍、寄せ集めの生き残りです』

 斯衛もまた救援要請を請けて来たのだといい。こちらへ移動していたBETA一群を排除してきたという。

 『――帝国軍の司令部は防衛線構築に躍起になっていて、すでに長野、山梨に広がる防衛線を構築しているそうだ』
 「――では、我々も本来ならそこへ行くべきだったのでは?」
 『――いや、集結地に指定されていた場所は、BETAをおびき寄せる為の誘引地だよ。そこでもすでに戦闘が行われているようだ』
 「――なぜ、あなたがご存知なのですか?」
 『――部下を向かわせて知ったよ。誰も戻らなかったがね』

 すでに集結地での戦闘が行われているのであれば、重金属雲の濃度も濃くなっており通信が阻害されていたのかもしれない。

 「――ハイドラ01、あなたがこの中では一番階級も高く、我々もあなたの指揮に入りたいのですが」
 『――それは、機体の制御もかな?』

 機体の制御を渡すという事は、こちらの生死を彼女に託すという事である。
 よほどの事が無い限りは渡す事は無い。

 『――いいのかな?』
 「――依存はあいません。今はこちらにはいませんが、あと3名の斯衛の衛士がいます」
 『――分かった。では、君たちも私の指揮下へと入ってもらう。我々はこのまま民間人の脱出する時間を稼ぐ

 弾薬と推進剤を消耗しているという、崇宰少佐とその小隊、そして国連軍の撃震2機を港の方へと補給の為、後退することになった。
 その間、ここは佐藤、北条、篁、山城の4人が残って警戒する事になった。
 主戦場が、一宮方面へと移ったとしても、先程のようにBETA群がこちらへと向かってくる可能性はいまだ残っている。
 避難が終わるまでは、離れるわけにはいかなかった。

 『――異常なし』
 「――了解、引き続き警戒を続けてほしい」

 はぐれた小型種との小競り合いが起きていたが、戦車級や要撃級が現れることが無いのが幸いだった。
 第3大隊、チャーリー、甲斐、石見、能登少尉もこちらに合流し、さらに厚い防衛線を構築していた。
 今現在、避難状況は芳しくない。脱出に使える船舶数が圧倒的に足りていない。
 
 「――チャーリー02、機体はどうだ?」
 『――整備の方たちが、なんとか修復を行ってくれました。無茶な機動はやはりダメですが、支援くらいはこなして見せます!』
 
 補給のために分散していた整備班が、能登少尉の機体を優先的に修復してくれていたという。
 万が一でもBETAを討ち漏らしていたら、修復が終わるまで新任の2人と数両の87式自走高射砲が矢面に立って戦うところだった。
 そして、現在は、国連軍の77式撃震2機が待機している。修復しようにも、機材が足りず戦闘に能登少尉の時のように、戦闘機動が取れないことが原因だった。

 「――ブラボー01、先程の青い瑞鶴は」
 『――あの御方は、崇宰恭子(たかつかさきょうこ)様です。五摂家の1人です』
 「――なんだ、アルファ02、知らなかったのか?」
 「――すみません、その方面は詳しくなくて……」

 絶句する篁少尉と山城少尉、佐藤中尉も同じようだった。
 そう言われても、五摂家なんていわれても馴染みの無い話だし、知ってるのが当たり前のような顔をされてしまってもしょうがない。
 
 『――ハイドラ01より、各機へ。新たなお客様だ。気を引き締めてかかれ』
 「――了解!アルファ、ブラボー、展開します」
 『――一匹たりとも港へは近づけるな!!』

 斯衛の瑞鶴4機は突進する突撃級を交わすと、その背部へと36mm砲弾を叩き込む。
 飛び掛る戦車級は、片手に持った長刀で叩ききり、まるで殺陣を見ているかのようだった。

 「――そう言えば、斯衛の戦いを目の前で見ることは無かったな。あれが、本物か」

 言い方は悪いかもしれないが、自分の今まで見てきた斯衛の衛士は、一緒に戦う事になった嵐山中隊や、前の時に救援に来てくれた黒い瑞鶴だけだ。
 本来の強さは崇宰少佐のような洗練された動きなのかもしれない。

 『――アルファ02だったか?何をボサッとしている?そっちにも行ったぞ』

 佐藤中尉も同じように、見とれていたのかはっとすると迫る突撃級に対して応射している。
 北条もそれに続いた。脚部へ36mmを浴びせ動きを止める。

 やるじゃないかと言う、ハイドラ03の顔に見覚えがあった。なぜ、彼女がここにいるのだろうか。

 「――なっ!?片桐中佐?」
 『――中佐?何を言っているんだ、貴様は。確かに私は片桐だが、誰と勘違いしている?』

 山吹色の瑞鶴に乗っていた衛士の1人が、懲罰大隊の指揮官だと思うわけが無い。
 あの頃よりかは、少し若く見える。それでも、彼女の面影が残っていた。

 「――北条!まずは、目の前の敵に集中するんだ!」

 そうだった、次の突撃級に照準を合わせる。目の前の脅威を排除するのが先決だ。

 「――すみません、ハイドラ03。任務に戻りま……」

 後続に続く要撃級、戦車級が左右に割れる。
 管制ユニット内部にけたたましく、レーザー照射警報が鳴り響く。
 それが鳴るか鳴らないかのタイミングだった。射線上にいた北条、佐藤が機体を短距離噴射跳躍で左右に避ける。
 単に本能が察知して避けさせてくれだけだった。本当に運がいいと、北条は考える。
 着地した北条にさらに追撃をかけようと要撃級が腕を振り上げている。
 山吹色の瑞鶴が、それを撃ち抜いた。ハイドラ03だ。
 
 「――ちぃ!アルファ02!光線級吶喊!いけるか!」
 「――やらなきゃ、こっちがやられます。付いていきます!」


 北条たち脱出がする民間人を守っていたその時、一宮方面では新たな局面を迎えていた。
 京都を蹂躙したBETA群は北陸へと侵攻を開始、必死に抵抗した帝国軍の防衛線を突破し、日本海へと抜ける。
 その後、佐渡島へと再上陸を果たす。同日、ハイヴの建設が確認され甲21号目標と認定された。
 三軍合同による艦隊及び海神、海軍所属の77式撃震1個連隊がコレの破壊を行うものの、失敗する。
 近畿、東海地方に避難命令が出され、2500万人の帝国臣民、さらには難民の移動が始まる。
 この時点で帝国国民の3600万人の行方不明者が出ており、難民の数を入れるとさらに膨れ上がるだろう事が予測されていた。
 佐渡島ハイヴ、甲21号目標建設による影響からか、BETAの東進が一時停滞、この機を逃すまいと帝国軍は残された兵力を投入してBETAを駆逐するべきだと主張。
 しかし、前線では異常事態が起きていた。米軍の撤退である。
 停滞しているとは言うものの、BETAは新たな個体群が上陸をすると押し出されでもするかのようにBETAは侵攻を行い、各戦線では戦闘が起きている。
 米軍の撤退による空いた穴が重なり、防衛線の奥へと侵攻を許してしまう形となってしまっていた。
 残された帝国軍、国連軍は静岡から山梨、埼玉にかけて新たに防衛ラインを構築し、さらなるBETAとの戦い、地獄へと突き進んでいた。


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