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No.22526の一覧
[0] マブラヴオルタネイティヴ『掴み取る未来』[ファントム](2013/02/19 21:25)
[1] 第1話[ファントム](2013/11/03 21:04)
[2] 第2話[ファントム](2011/08/03 13:10)
[3] 第3話[ファントム](2011/08/03 13:11)
[4] 第4話[ファントム](2011/08/03 13:12)
[5] 第5話[ファントム](2011/08/03 13:12)
[6] 第6話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[7] 第7話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[8] 第8話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[9] 第9話[ファントム](2011/08/03 13:14)
[10] 第10話[ファントム](2011/08/03 13:14)
[11] 第11話[ファントム](2011/08/03 13:15)
[12] 第12話[ファントム](2011/08/03 13:15)
[13] 第13話[ファントム](2011/08/03 13:16)
[14] 第14話[ファントム](2011/08/03 13:16)
[15] 第15話[ファントム](2011/08/03 13:17)
[16] 第16話[ファントム](2011/08/03 13:17)
[17] 第17話[ファントム](2011/08/16 12:31)
[18] 第18話[ファントム](2011/08/24 03:07)
[19] 第19話[ファントム](2011/10/14 18:34)
[20] 第20話[ファントム](2011/10/17 05:08)
[21] 第21話[ファントム](2011/10/27 16:01)
[22] 第22話[ファントム](2011/11/05 17:15)
[23] 第23話[ファントム](2011/11/17 04:24)
[24] 第24話[ファントム](2011/12/20 15:17)
[25] 第25話[ファントム](2012/02/20 15:35)
[26] 第26話[ファントム](2012/04/08 23:38)
[27] 第27話[ファントム](2012/04/28 14:27)
[28] 第28話[ファントム](2012/05/25 02:23)
[29] 第29話[ファントム](2012/07/15 11:04)
[30] 第30話[ファントム](2012/08/14 23:56)
[31] 第31話[ファントム](2012/09/18 15:27)
[32] 第32話[ファントム](2012/10/21 11:24)
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[22526] 第30話
Name: ファントム◆cd09d37e ID:db366f07 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/14 23:56
 九州北部へと上陸したBETAは突出して進んだ一部であり、洋上へと展開した帝国海軍の奮戦虚しく勢いを止める事は出来てはいなかった。
 未だ、偵察衛星からは絶望的な 映像が絶え間なく送り出されており、朝鮮半島南部はBETAによって埋め尽くされている。
 時折、火の手が上がるのは海軍による砲撃が今も継続されている証であった。
 それでも、圧倒的なBETAを押し 留めることなどは不可能に近く、また本土防衛のために全ての艦艇を終結させることなどは不可能に近かった。
 一方の九州地方、第一波の上陸を退けた西部方面隊だったが、湧いて出るかのようなBETAの物量によって次第に押され始めていた。
 すでに埋設してあった地雷は何体ものBETAを屠り残っておらず、対突撃級壕も消耗し力と力のぶつかり合いとなる。

 『――くっそぉぉ!支援は!援軍はまだかぁぁあ』
 『――支援砲撃をまわしてくれ!』

 1機の撃震が戦車級に取り付かれ、それに気を取られた僚機が要撃級の主腕によってコックピットごと押し潰された。
 90式戦車は効果が薄いと知っていても、砲撃を止める事は出来ない。BETAを止めようと射撃を続ける。
 いくつもの歩兵陣地ではすでに小型種が浸透し始め、白兵戦へと推移していた。
 BETAの第3波上陸が確認されて6時間が経っていた。戦線は大きく伸びきり、九州北部を守る隊は全ての力を出し切っていた。
 それでも、圧倒的に足りない。陸海空全ての火砲は台風の暴風雨により効果は出ておらず機甲科や歩兵、戦術機が正面切っての戦闘となっている。
 広く伸びきった戦線が、綻びはじめるのも時間の問題だった。

熊本県北熊本駐屯地

 九州中央に位置する熊本県。ここには九州南部からの部隊が終結している。ユーラシア東部戦線の状況から本土、九州への上陸を危惧した日本帝国が九州の要塞化を計画。また帝都である京都を守護する為に琵琶湖を運河とし、大型艦船が入れるようにしているなど着々と準備を進めていた。
 しかし、全土を要塞化させることは難しく、ここ九州でも北部の筑紫山地を最前線と想定して司令部を熊本市へと設置していた。
 BETAの上陸に対して、迅速にこれを撃破し日本の盾となる。その想定だったが、それも異常気象によって発生した巨大な台風の上陸と共に破綻してしまう。
 北条たち小隊が接敵したのは、その中でもさらに運が無かったという事でもあった。小隊長始め、新任の衛士たちで構成された隊である。
 前線を突破してきたBETAの波に飲み込まれたというだけの事である。最前線となれば、それが当たり前のことだった。そんな壊滅した部隊の衛士が『生きていた』と言うのは奇跡に近かった。
 一人の整備士が、異音に気付く。跳躍ユニットへ過負荷が掛かっているという、整備士ならば誰でも気付く異音だった。

 「おいおいおい!!あの機体やばいぞ!滑走路を開けろ!」

 左腕と跳躍ユニットの片方を失った北条の機体は、いつバランスを崩してもおかしくない状態であった。
 滑走路はさらに慌しくなり、万が一墜落しても良いように緊急車両や消火班が待機して万が一に備える。
 周りの心配もどこ吹く風かとでも言うように北条は無事に機体を滑走路へと着陸させた。

 『――良くその状態で付いてこれたな』
 「運が良かっただけです。こいつの頑丈さに助けられました」

 『――こちらへお願いしまーす!』

 誘導する地上班の指示に従って機体を移動させる。機体に何が起こるか分からない状態からか、滑走路の脇へと移動させられた。
 コックピットから降り立った北条は、胸いっぱいに空気を吸い込んで吐き出した。

 (やっぱり戻ってきたんだな……)

 「あまり時間は無いぞ、少尉」
 「佐藤中尉!……ありがとうございます」
 「礼を言われる事は何もしていない。どこか痛むところはあるか?まずは、一度診てもらえ」

 北条の機体、やられてしまった機体の使える部品を集めて修理する状況である。
 元々、第一世代の頑丈な機体設計だったからこそ、使える様なものだった。
 分解して修理して付ける、くらいの事をしなければいけないのだろう。
 しかし、自分の機体が無いのは不安の方が大きい。
 医務室へと向かう通路には傷病兵が溢れており、看護師や衛生兵がその中を見て周っている。
 比較的軽症な者がここへと運ばれているようだ。
 北条が呼ばれるまでの間、通路の壁へもたれ掛かると、二人とも沈黙したままである。

 (なんで、またここから始まったんだ?自分は死んだのか)

 夢か何かかと思って、頬を抓ったり叩いてみたが痛かった。

 「中尉、変な話なんですが、自分を殴ってくれませんか?」
 「突然何を言い出すんだ、お前は」

 生きているのが夢のようで、と言ったら中尉は何も言わずに殴ってくれる。
 やはり、自分でやるよりも痛い。痛みを感じるという事は、夢ではないのだろう。

 「痛いです……」
 「生きている証拠だ。お前は初陣を生き残った。良くやったよ」

 衛生兵に呼ばれ、医師の前へと座り、一通りの診察を受ける。
 医師は、寝ずに何人もの傷病兵を見てきたのだろうか、目の下には酷いクマが出来ている。
 それもすぐに終わり、一言二言と会話を交わす。

 「うん、身体には異常の無い。頭痛や吐き気は無いかね?」

 ありがとうございました、と礼を言って医務室を出ると、佐藤中尉が声をかけてきた。

 「少尉、どうだった?」
 「何の問題もありません。戦線にすぐにでも復帰出来ます」

 そう医者に言われたと伝えるとホッとしたのか、現在の状況を教えてくれた。
 長崎から福岡に掛けて、戦線は広く伸びてしまっているものの、制空権はまだこちらにあるようだった。
 未だに光線級の上陸は確認されていない為だが、万が一高地を抑えられたら最悪である。そう言う場所にはすでに部隊が展開しているが、戦車級や小型種が浸透して白兵戦を行っているという。
 BETAの侵攻を遮ること平野部の各要所には陸軍が展開しているが、消耗は大きく、すでに長崎西部が陥落したと言う報告もあったと言う。

 「隊はいま小休止を許されている。機体の修理、補給が完了するまではゆっくり休め」
 「了解。佐藤中尉は、大丈夫ですか?」
 「ん?そんなヤワな鍛え方してないぞ」

 隊に与えられた一室で、生き残った第31戦術機連隊と西部方面戦術機連隊と合流していた。
 西部方面戦術機連隊、九州を守護する西部方面隊の中でも精強を謳う隊であり、94式不知火で構成された部隊である。
 しかし、設立した当初2個大隊いた彼らも戦場を転戦し、BETAに言葉通り喰われていた。

 「この台風の影響で支援砲撃の効力があまりにも薄い。海軍の支援もほとんど受けれず、正面火力でのBETAを防いでいる状況だ」
 「次第にその攻撃も圧力が高まっているようです。筑紫防衛線も薄くなったところからBETA侵入を許してしまっています」

 戦術画面に表示された戦力分布図は九州の筑紫防衛線より北側の長崎、佐賀はすでにBETA支配地域として判断されているようだ。
 孤立した部隊も多数あるようだったが、それも今まさに次第に数を減らしている。

 「発言よろしいでしょうか」
 「君の隊はたしか……。なんだね、少尉?」
 「山陰地方へとBETA上陸が高いと思われるのですが?」
 「我々として、現在下された命令を遂行するのが先決である。目の前のBETAに集中してほしい」

 北条は、了解しましたと席に着く。今更の発言だったらしい。確か、記憶に間違いが無ければ、光線級の上陸が確認されてすぐに山陰地方へとBETA上陸があったはず。
 それを示唆するべきだったか、と唸っていると視線を感じて顔をあげる。
 佐藤中尉が、何か言いたそうな顔をしているのが北条の目に映った。
 何か、というように首を傾げると中尉は首を小さく横に振る。

 「なお九州南部は暴風圏内を抜けたと報告が入った。いくらか海上はマシになった為、南部から民間人を避難させる為に部隊を二つに分けて行動する事になる」

 福岡でのBETA迎撃と、避難の支援と分かれる事になった。福岡へと向かうのなら西部方面隊戦術機連隊と共同しての作戦になる。
 北条は、迷わず福岡への方へと志願していた。それを見てか、佐藤中尉も同じように志願していた。続く小隊のメンバーである。
 これで、シールド隊の1個小隊すべてがそちらへと向かうことになった。

福岡県北九州市

 北条は、佐藤中尉、そして中隊と共に、北九州市へと配置されていた。
 日は沈み、さらに暗くなった市街地は軍とBETAが入り乱れており、歩兵隊が一つ角を曲がれば小型種と遭遇し交戦している所もあれば、広い道路を進む突撃級の通過を見計らって戦車隊がその柔らかい後方へと砲撃を加えていた。
 泥沼と化した戦場である。前回は、熊本で南部の民間人の避難任務に従事していたが今回は福岡で北条は戦っていた。
 廃墟と化したビル郡を2機の撃震が進んでいく。北条達は、BETAを退けた僅かな時間を衛士救出に奔走していた。
 自分で志願したことでもあり、何か出来る事は無いかと模索していた結果でもある。前回は、流されるままではあったから選べる選択肢は自分で考えて選ぼうと考えていた。
 今の時点では、この時期にどこにいて、どうやったら会えるのか、、どうせ香月夕呼とも会えないのである。
 除隊も一瞬頭を過ぎったが、すでにBETAは上陸していて、今戦術機を降りて本州へと渡れるはずも無く、途中で死んでしまう可能性も十分にある。

 「――レーダーに感あり!戦車級多数です」
 「――了解、先にそちらを片付ける」

 破壊された撃震にまとわり付いていた戦車級がこちらへと気付いたようで、こちらを新たな獲物と決めたようだ。レーダーにはこちらへと迫る戦車級の群れが映し出される。
 飛び掛る戦車級を36mm砲弾でなぎ払う。壁を伝ってくる個体も多い為、お互いでカバーしながら進んでいく。戦車級は壁でも伝って飛び掛ってくるからタチが悪い。

 「――佐藤中尉、ここも生存者はいないようです」
 「――他の隊も同じようだ。一人でも多く、とは考えていたんだが……」

 しかし、救難信号は出ているものの、到着してみれば戦車級の歯の隙間から腕が出ているだけだったり、電気系統が無事で信号は発信されていても、管制ブロックが潰されていたりと散々な結果であった。
 歩兵陣地や、各座した戦車、全てを見て周れたわけではないが与えられた範囲の捜索を続けるが生存者に出会えていなかった。

 「――まて、新たな救難信号を捉えた。我々が近いようだ」
 「――了解です」

 新たに受信した救難信号を発する機体は、要撃級と崩れたビルとの間に押さえ込まれるような形だった。米軍所属のF-15Cイーグルである。
 お互い相討ちとなったのだろうか、周囲を警戒しながら、機体へと近づく。佐藤中尉が、無線で呼びかける。
 すぐに返答が返ってこなかった、またダメだったかと戻ろうとした時だった。
 返答があった。もう一度、呼びかけると今度はすぐに返事がある。
 
 「――こちら、帝国陸軍第31戦術機甲連隊。無事か?」
 『――助かった、電気系統がイカれてる。外に出ようにも何かに押さえつけられて外骨格でも打ち破れんのだ』
 「――要撃級の死骸で塞がっているな、待っていろ。今どける。CPへ、要救助者を確保」
 『――マイク、マイク・ハリガンだ。階級は中尉。あんたたちは命の恩人だ』
 「――生きて戻れたらにしましょう、ハリガン中尉」

 CPからもすぐに回収車を回すと、返答があった。今まで生存者を見つけることが出来なかったが、一人でも見つかって良かった、とそう思う。
 北条は、92式多目的追加装甲で要撃級の死骸を押しのけると、米国衛士が脱出するまでの間、周囲の警戒を続ける。
 米軍の回収部隊が、来るまでの間、彼はずっと礼を言い続けていた。

 『――この礼は必ず、必ず返す』
 「――えぇ、楽しみにしています」

 隊の臨時集結地へと引き返す。稀に遭遇する小型種の群れを掃討しながら進んでいく。
 戻ったら補給も済ませなければと考えていると、佐藤中尉がふと話しかけてきた。

 「――少尉、変に思うかもしれないが……、聞いていいか?」
 「――はっ、何なりと」
 「――君が、山陰地方にBETAが上陸する話をした時に、自分もそうなると思ったんだ」

 それだけではない、と佐藤中尉は続ける。帝都へとBETA侵攻、さらにはハイヴの建設まで行われるのではないかと言う。
 なぜ、こんな先の話を彼女はしてくるのだろうか。それを知っているのは自分だけのはずである。もう一人、いるとすれば白銀武のはずだ。

 「――佐藤中尉?なぜそう思ったのですか?」

 額を汗が流れる。本当になぜ彼女はそう思ったのだろうか。
 突然の事で、混乱する北条を尻目に彼女は話を続ける。
 
 「――いや、分からないんだ。君の発言を聞いて、なんだかそうなるようだと思い出したかのようで……」
 「――そうならないように、自分たちに出来る事をしましょう」
 「――そうだな」

 何か、彼女にそうなる事が分かっているのか、それとも軍人として危惧しているからなのかは分からない。
 想定していない状況に、北条もどうするべきか悩んでいた。
 そうこうしているうちに、集結地が見えてくる。 集結地にはすでに他の隊が到着しているようだ。補給を行っているらしい。
 12機欠ける事なく戻ってこれていた事が喜ばしいことである。

 『――CPより各隊へ。旧芦屋地区へ新たにBETA上陸が確認された。突撃級を最前衛に数は――』

 補給を済ませ、東進し北九州市へと進むBETA群に対して攻撃命令が下った。
 南下する一群もあるようだが、そちらへは他の隊が担当する。

 『――了解!聞いたな、新しいお客様だ。これ以上、奴らの好きにさせるな!』

 芦屋へと到着すると、すでに上陸を終えた突撃級が最前衛を進む突撃級は、進むのを邪魔するモノを破壊しながら進んでいる。
 やはり、特科による支援砲撃は効果が薄いようだった。殆どの個体が無傷のままである。
 その正面に北条の隊が横一列に機体を着地させ、87式突撃砲の照準を合わせる。

 『――いいな、正面の突撃級へ攻撃を集中する!時間あわせ!3,2,……いま!!』

 先頭を進む突撃級の脚部へと向かって12機の撃震が120mm砲弾を一斉射を浴びせる。
 数発は突撃級の硬い甲殻に弾かれたが、上手く脚部を破壊した事で前のめりになって急停止となった。
 そこへ後続が衝突し、動きを止める事に成功する。これを失敗してしまえば、突撃級に潰されていただろう。

 『――各機、兵器使用自由!いいな、これ以上は進ませるな!』

 中隊長の号令と共に、12機の撃震がBETAへと切り込んでいく。
 要撃級の主腕による殴打を92式多目的追加装甲で受け流す。
 上手くいった、耳障りな金属音が響き渡る。正面で受け止めてしまえば、こちらの腕ごと粉砕される可能性もある。
 間髪いれずに、36mm砲弾を叩き込んでいく。爆ぜていく要撃級の返り血を浴びる。

 「――北条!左に戦車級!!」

 短距離跳躍を迷わず選択し、後退する。今にも飛び掛ろうとする戦車級から距離を取ってこれを撃破する。
 隣に並ぶ佐藤中尉と共に、周囲へと迫る戦車級へと射撃を続ける。
 「――無事だな?一瞬でも気を緩めるなよ」
 「――助かりました、中尉。戦車級、多いですね」

 会話しながら、しかし迫るBETAからは視線を外さない。
 中隊は未だ健在なものの、BETAの数が多くこのままでは孤立しかねない。
 付近に展開していたのだろうか87式自走高射砲も攻撃へと加わってはいるが、数は多くジリジリと後退を余儀なくされていた。
 87式自走高射砲の方も補給が追いついていないのか、弾薬が尽きたとの無線と共に、陣地の方へと引き返していった。

 『――数が多いな!新手も上陸していると報告があった。ここが踏ん張りどころだ』
 『――ちゅ、中隊長!後方にBETA!数は測定不能!!』
 『――なんで東側から?!CPからの報告はどうした!』

 情報が錯綜しているとの事です、と中隊副官が声を荒げる。
 北条もまたレーダーを広域に変更して確認する。前回よりも早いBETA上陸ではないだろうか。

 『――第3小隊は物資をかき集めろ。今ある分は先にシールド隊で補給を。貴様らの消費が激しいようだ。消費した弾薬、推進剤を補給後に……』

 中隊長の無線に割り込むように、司令部からの切迫した通信が入った。

 『――HQより作戦中の部隊へ。山陰地方へのBETA上陸が確認された。数は不明、すでに交戦状態。繰り返すーー』
 『――くそったれBETAめっ!上陸地点が東へと移っているのか』
 『――そんな……』

 しかし、それだけでは終わらずBETA上陸は、熊本の西部へも迂回したかのような出現によって長崎、佐賀を陥落させたBETAが合流し、九州が南北に両断されてしまった。
 先のことが分かるといっても、たかだか衛士一人と戦術機一機では何の力もないのだと改めて実感させられてしまう。
 筑紫山地に展開していた特科から支援砲撃を開始すると無線が入る。全周波数に向けているらしく、こちらも切迫した状況のようだ。
 放たれた各種砲弾は、BETA頭上へと降り注ぐ……、はずであった。
 空に伸びる幾つもの光の筋があれらが日本に上陸した事を知らしめていた。
 未だ暴風圏内であり、雨も降っている中でも威力を衰えない光線は、砲弾を次々に焼き尽くしていく。

 『――れ、光線級です!!』
 『――新たな命令が下達された。我々中隊は補給後岩国基地へと移動する』
 『――南部の部隊との合流は出来ないのですか?』

 中隊長は首を横に振る。先に、西部方面戦術機連隊にその命令が下されたとの事だった。BETAの海を突破しようとしたが、光線級に頭を押さえつけられてしまった中では高度を取る事は出来ずに突破に失敗してしまったという。
 福岡に展開していた部隊は佐賀、熊本と大分北部、山口のBETAによって事実上、全方位を光線級を含むBETAによって包囲されてしまっていた。
 筑紫山地の陣地は未だに抵抗を続けているが、それもいつまで持つか分からない。

 『――熊本の司令部は、鹿児島へと後退するとのことだ。しかし、鹿児島もすでに一部BETAの侵攻を受けている』

 ただの撤退ではなく、山口に上陸した光線級を福岡から光線級吶喊を行う命令だという。
 その後は、岩国基地で残存する戦術機部隊と合流し、京都へと侵攻するBETA側面へ攻撃をしかけると説明された。
 現在、福岡へと展開していた戦術機部隊は1個大隊強ほどの数である。
 そのうちの二個中隊が福岡市へ展開していた為、いま動けるのは北条の隊と側面に展開していた一個中隊のようだった。
 
 『――時間は無い。第1小隊から順にに補給を済ませる』

 

岩国基地

 福岡を出た北条は、山口県南部を岩国に向かった。途中で、撃破された機体から弾薬を回収し、使われる事の無く運よく残っていた補給コンテナから推進剤を補給し、丸1日を岩国へと向けて移動していた。
 その間、山口県北部から島根にかけて構築された防衛戦はBETA進軍速度と物量によって突破され、各部隊は孤立している。ここでも、脱出が可能な隊以外は絶望の中戦いを継続しているようだった。
 岩国基地へと急いでいた北条達だったが、光線級の上陸が確認されたいま、少しでも友軍の負担を減らそうと、全てではないが、移動ルート上の光線級を排除する為に吶喊を二度行い、その際に2個中隊だった隊は半数まで落ち込み今では18機、一個中隊半だ。
 中隊長は、戦死し副官であった後藤中尉が指揮を執っている。
 また、今まで一番の障害であった台風が、熱帯低気圧へと変わったことで、陸海からの支援砲撃がこれでもかと始まる。
 それによって、一部地域ではあるが人類側で盛り返す事に成功していた。

 『――CP応答せよ、こちら西武方面隊第31戦術機甲連隊第2中隊、許可願う』
 『――ようこそ、地獄の岩国へ!7番滑走路が空いている、そちらへどうぞ!!』

 無線が切れる前に、向こうから銃撃音と何かが倒れる音が響く。ここもすでに攻撃されているようだ。
 
 「――中尉、今のは?」
 『――すでに、ここも戦場と言うわけだ』

 指定された第7滑走路へと進路を変える。岩国基地をカメラが捉えたが、そこは予想した通り煙が上がっていた。戦闘が始まっている。

 『――こちら第7滑走路、こちらへお願いします!』

 基地東側に位置する滑走路だったからかBETAの侵入を防いでおり、ここを集積所代わりにでもしているようだった。

 『――各隊、損害報告』
 「――第2小隊異常無し」
 『――こちら第3小隊、主機出力が上がらない機体がある。整備に見せたい』

 基地の西側ゲートにはバリケードが作られており、前線を突破し正面に迫った中型BETAを基地所属の戦術機部隊が攻撃し、戦車級以下の小型種には87式自走高射砲改と歩兵隊が迎撃しているようだ。
 隊は、管制ユニット内ではあるが一時的に小休止を取れることになった。
 戦況はやはり良くは無く、兵庫県までBETAは進んでいるらしい。帝都の目の前なのである。
 現在の部隊は、九州からの撤退できた一部の部隊である。これから、どこかの戦域もしくは、京都防衛にあてがわれる事になるだろう。

 「――北条です。佐藤中尉、今いいですか?」
 「――なんだ?」
 「――こんな事言うと、気分を害されると思うのですが……」

 思い切って、このまま京都が陥落し、関東圏までBETAは侵攻さらには佐渡島、横浜の二箇所にハイヴが建設されます。
 そう、佐藤中尉に説明する。これが、どう転ぶのかは分からないが、福岡にいた時に彼女がおかしかったような気がした。
 沈黙が2人の間に流れる。やはり、彼女の軍人としての直感が自分のBETA上陸について肯定しただけだったかと北条は今の話を誤魔化そうとした。

 「――今はこの話は止めておこう。少し、整理させてくれないか?」
 「――い、いえ。自分こそ、混乱させるような話をしてしまってすみません」
 「――まず、今、この防衛線に集中しよう、北条、それからいくらでも話を聞いてやる」

 彼女も何かしら覚えているという事なのだろうか。
 それとも、これからBETAの侵攻が止まらないと判断して、戸惑っているという事なのだろうか。
 もし、何かが原因で前回の中尉の記憶があるのだとしたら、協力すれば一人より二人で上手くいくんじゃないかと考える北条。
 ただ、これから先も生き残れればの話なのだ。今は、中尉の言うように余計な事は考えない方が良いのかもしれない。
 そんな風に自問自答している北条を現実へと引き戻したのは、自分の機体を見てくれていた整備員の一言だった。

 『――少尉は、岩国への援軍なのでしょうか』

 まだ、お顔に幼い印象の残った眼鏡を掛けた女性整備士が不安そうに北条へと訪ねてくる。
 肩には彼女には似つかわしく無い小銃を下げている。

 「――いや、自分たちはまだ新たな命令を待っている状態だ。これから移動することになるかもしれない」

 そうですか、と落胆する少女に掛ける言葉は出てこなかった。
 俯いていた彼女は、顔を上げると笑顔を作っていた。少し強張った表情は、無理して作っているのかもしれない。
 それでも、彼女は敬礼すると一言、頑張ってくださいと言って次の機体へと向かう。
 分かった、としか言えない自分の無力さを改めて実感させられる。

 『――全員聞いてくれ、新たな命令が下達された。我々の任務は……』

 帝都へと進むBETAに対しての側面からの攻撃任務に参加し、日本帝国軍、在日米軍、国連軍による舞鶴・神戸間の防衛線へと配置されたのだった。

 


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