揺れる車両の中で、出発してから確認するようにと渡された資料に目を通す。
帝国陸軍技術廠にて開発中の試製99型電磁投射砲、これの他国への技術流出の阻止及びそれが不可能に陥った場合の機関部の破壊が主任務と記載されていた。
それ以外については、技術廠からの指示に従うよう記載されている。
開発経過の資料については香月夕呼副司令へ報告書を纏めて提出する必要もあるようだ。
(香月副司令との繋がりが無くなったわけではないのか)
それでも、今現在のこの状況に頭がまだ追いついてはいなかった。
自分のようなただの衛士がこのような任務に就くこと事態不思議だ。
専門知識なんて持っているわけでもない。正直、資料を渡されても理解出来る事なんて殆どないだろう。
また、帝国軍の一部には香月夕呼と言う存在はあまりよく思われてはいないはずだ。
そんな中、技術提供をしたのみで開発は日本帝国へ一任させていたところに自分が突然現れれば色々と誤解も生じるのではないだろうか。
何かしらの政治工作も行われているのかもしれないが、自分にそんな価値があるとも思えないし、香月副司令に何のメリットがあるのだろう。
「もうしばらくで到着します、北条中尉」
「ありがとう。そう言えば、帝都に入ってから気付いたんですが、結構民間人がいるんですね」
「一歩戦場を離れれば、そう言う普通の営みを送っているんですよ」
つい先日までBETAの上陸があったのに、今はもう日常が当たり前のように行われているんだ。
今まではつねにを転々としていたから、何もかもが新鮮に感じた。
戦場から離れれば、こんなにも平和な世界が広がっているとは正直、思わなかった。
87式自走整備支援担架がとある建物の駐車場へ停車する。大型車両も停車出来る広さを所有していた。
帝国軍を管理する中枢、帝国国防省その場所である。
「到着です、北条中尉。機体は格納庫へ搬入しておきます」
「よろしくお願いします」
87式自走整備支援担架の助手席を降り、制服の着崩れをしっかりと直す。
ここからは1人で何もかもしていかなければならない。
帝国国防省第壱開発局
「北条直人中尉は本日付をもって、帝国陸軍技術廠第壱開発局への着任を命ぜられました」
着任の報告を行う相手は、この部署の副部長である巌谷榮二(いわやえいじ)中佐である。
初めて会う彼の顔に残る顔の大きな傷痕は、巌谷中佐の精悍な顔立ちに一層の凄みを与えており彼の人柄をも雄弁に語っているようだ。
そして、自分を見る彼の瞳は自分の事を値踏みしているようにも見える。
「……ようこそ、第壱開発局へ。横浜基地第8戦術機甲大隊所属、北条直人中尉」
「よろしくお願いします!」
巌谷中佐は何か資料に目を通しているようだ。その間、彼の前で立たされている状態でいるのだが、周りの視線が自分に集まっているのが感じられる。
すぐに着任式は終わるものだと思っていたのだが、そうではないらしい。
「気になることがいくつかあるのだが、答えてもらえるかね」
「はっ、なんでしょうか」
「ここにあるのは、君の経歴書だ。帝国陸軍入隊後、衛士適性西部方面隊に所属していたか」
自分の経歴を最初から一つ一つ読み上げられていく。
九州防衛線、京都撤退戦支援、横浜ハイヴ間引き作戦、明星作戦参加部隊所属とまで記載されていた。
「君はあの作戦に参加していたのか。明星作戦後に国連軍太平洋方面第17特務大隊へ所属、それ以降から現在まで機密につき詳細無しか」
特務大隊の実情を知っている人物なのだろうか、一瞬顔が曇ったような気がした。
帝国軍から国連軍の懲罰大隊へ異動である。これは経歴の中では確実に引っかかる部分であるだろう。。
経緯は敵前逃亡と言う濡れ衣を着せられ、あのままだと処刑されるのは免れなかった。
それを逃れる為に、唯一の道が懲罰大隊へ行く事だったと説明しても信じてもらう証拠が無い。
「特務大隊、帝国軍からなぜここへ行く事になった?」
「自分の意思で選びました。何も後悔はしておりません」
自分の答えに満足しているわけではないだろうが、一度頷くと資料を閉まった。
そして、自分の事を真っ直ぐ正面から威圧してくる。
「それで?率直に聞こう、君はここへ何をしにきた?」
「任務であります!」
自分の回答に、巌谷中佐はどう思っているのか微動だにしない為、窺い知れない。しかし、快くは思っていないのだろうか。
今まで技術のみ提供していた横浜基地から衛士が1人出向してきた、何を考えているか疑われても仕方ないだろう。
「自分は、与えられた任務を遂行するのみであります。中佐」
「そういう事にしておこう」
彼は席を立つと、かなり分厚いファイルをを差し出してきた。
それを受け取り、最初のページを確認する。
しかし、いくつもの項目が塗り潰されており、内容を確認しようにも出来ない状態であった。
「あの、これは一体……」
「現時点での君の権限で閲覧可能な書類だ。目を通しておいてほしい。それと、IDカードだ」
IDカードを受け取る。ファイルも後ほど確認しなければならないが、大分時間がかかりそうだ。
それでもまずは、しっかり自分が確認出来るだけでもしっかりと把握しないといけないだろう。
その後は、第壱開発局の職員を案内された。今現在この場にいない隊員もいるらしい。
「北条中尉は彼女に寮への案内させる。萩村(はぎむら)少尉」
巌谷中佐に呼ばれて現れたのは、一瞬子供かと思ってしまった程の身長の女性士官だった。
新しい制服を身に纏い、胸元には衛士の証である新品のウイングマークを付けている。
長い頭髪を耳の辺りで二つ結びをしており、その髪の長さは両肩に掛かるまで伸びており、綺麗な黒髪だ。
背筋をしっかり伸ばし、自分へ敬礼する姿はとても気持ちの良いものだった。。
つられて自分も背筋を正し、答礼する。
身体には似合わずハキハキと彼女は自己紹介し始めた。
「萩村咲良(はぎむらさら)少尉であります!よろしくお願いします!!」
「北条直人中尉です、よろしくお願いします」
「ここでは北条中尉は彼女との分隊を組んでもらう。補給科で強化装備を受領するように」
しっかり任務に励んでくれと言う巌谷中佐へ敬礼し、その場を後にした。
ずっと開発局では嫌な視線を感じていた為、緊張し続けていた。
萩村少尉の後に着いて退室した途端に我慢していた冷や汗がドッと出る。
歓迎されていないというのは今まで無かった。この先どうなるのか不安である。
萩村少尉の説明で、このフロア全て第壱開発局の部署が入っている事が分かった。
「私達が入れない場所もいくつかあります」
萩村少尉の話だと、開発局技術部の部屋へは入れないらしく、そこでは兵器の設計を担当している為に一部の人員しか入れないという。
「ロビーや格納庫に設定はありませんが、各階へ移動はエレベーターのみです。各階のボタンの入力が違うので、覚えて下さい」
各階へのボタンを順番どおりに入力しないと、任意の階へはいけない仕組みらしい。
続いて案内してくれたのは、地下の格納庫、武器倉庫とシミュレーター室がある。
自分の機体もここへ運び込まれているはずだ。
ふと、萩村少尉が口を開いた。
「あの、中尉よろしいでしょうか」
「萩村少尉?どうしましたか?」
「中尉は、最前線で戦われていたんですよね?」
少し前からソワソワしているような気がしたが、萩村少尉はそれを気になっていたのか。
それについては何も隠すことはないと考え、答える事にする。
「そうだね」
「私はまだ戦場に出たことがないので……。どうなのでしょうか」
萩原少尉は配属が決まっても実機訓練と、シミュレーターでの訓練を続けていたらしい。
「そうだね、どうなのかと言われても。生き残るのに必死で分からないな」
「生き残る、ですか?BETAを倒すじゃなくてでしょうか?」
「あぁ、もちろんそうだね」
自分が上に立つ存在になるなんて考えてもいなかった。
どう言うべきなのかよく分からないものだ。
「あそこは、地獄だよ……」
「なんでしょうか、中尉。すみません、ボーッとして聞いていませんでした!」
慌てて頭を下げる少尉である。
考えていた事を口に出してしまった。
「何でもない。どんな事があっても大丈夫な様に、しっかり訓練しないといけないね」
「はっ!御指導御鞭撻、宜しくお願いします!!」
しっかりと背筋を伸ばし敬礼する萩村少尉である。
自分も任官したての頃はこうだったのだろうかと、ふと思い出そうとする。
(ん?今自分は何を思い出そうとしたんだ?)
「話がだいぶ逸れてしまいました。補給科で中尉の強化装備を受領しなければいけませんね。こちらです」
「分かった」
彼女に案内され、補給科の倉庫へ向かうとすでに報告がきていたのだろう。
帝国陸軍の強化装備が準備されておりすぐに受領する事が出来た。
「一度、袖を通して下さい。問題なければこちらへサインをお願いします」
久しぶりに帝国軍の強化装備に袖を通した。
腕を動かし、屈伸運動をする。何も問題ないようだ。
後は、シミュレーターや実機を使用して自分の物にする必要がある。空いた時間に使用できるか聞いてみよう。
すぐに制服へ着替えると、書類にサインをし、強化装備を持って萩村少尉に自分のロッカーへ案内を頼む。
「機体は第一格納庫に搬入されているはずです」
そこに一般衛士の機体が搬入されているはずですので、と先を歩く。
自分の機体に到着すると、萩村少尉の機体も自分の機体の隣に配置されており、F-4J撃震と同じ機体である。
自分の機体の整備を担当する整備班へ挨拶を済ませる。
ふと、隣の格納庫に通じる入り口に警備兵がいるのに気が付いた。
「萩村少尉、向こうも格納庫になっているんだよね」
「はい、……ですが私達 は入れません」
「向こう側には何があるんですか?」
「開発中の兵器だとか聞いています。許可された者しか入れません」
ここまで厳重に管理されているとは思ってなかったが、普通はそうなのだろう。
あの向こう側に、試製99型電磁投射砲もあるのだろうか。
「中尉?よろしいでしょうか」
「分かった、行こう」
あの向こう側にも自分は入る権限はないのだろうか、今度IDを使用してみよう。
こんな場所で自分は上手くやっていけるだろうか。
「中尉?行きましょう」
また考え事をしてしまう癖が出てしまった。
駆け足で萩村少尉の隣に並ぶ。
「では、案内をよろしくお願いします」
「はい!!」
こうして、萩村少尉の案内で出向初日が過ぎていくのであった。
帝国陸軍技術廠演習場
技術廠へ出向を命ぜられ、すでに一週間が経っていた。正直に言って、デスクワークは殆どさせられていない。
あの警備の厳重な格納庫の先へ入れるかIDを提示したが、自分のではダメだった。
それからは、やることと言ったら自分の閲覧できる資料を整理したり、試製99型電磁投射砲渡された資料を確認し不明なところを一から調べたりしていた。
専門用語がまったく分からないのだ、それを調べなおすだけで1日が過ぎる事もある。それにずっと時間を取られているのである。
そして、基本自分は殆ど自由時間のようなもので、何も任されていない状態だ。
自分の任務の一つである試製99型電磁投射砲の護衛についても、いまだ現物にも近づく事が出来ない。
ここにいる間は技術廠の命令に従うようにと言われている為、護衛任務はその訓練を受けた者がしている為に抗議する事も出来なかった。
そして、今更気付いた事ではあるが、萩村少尉は自分の事を監視しているようで、よく視線を感じている。
巌谷中佐からも空いた時間は2人は分隊訓練もするようにと言われており、勤務中は一緒に過ごす時間が長い。
今日からは演習場が使用できると言うことだったので、萩村少尉と共に実機を使用した演習を行う予定を組んでいた。
「萩村少尉、今日はJIVESを使用した訓練となる」
「はい!中尉!!」
相変わらず萩村少尉元気の良い。すでに管制室には今回の演習プログラムの設定は伝えてある。
こうやって、誰かを自分の指揮下に入れて何かをするなんて不思議である。つい先日までは考えてもいなかった事だ。
初めての指揮、自分の責任でもしかすると実戦で人が死ぬかもしれない……。
「少尉、作戦内容を伝える」
光線級の出現により、高度制限が設けられCPは通信途絶。友軍による砲爆撃は機能低下しており支援も見込めない。
さらには、進むべき場所へは中隊規模のBETA群の侵攻により後方の友軍との間に展開し孤立していた。
近隣付近の友軍は壊滅し、エレメント単位で戦線を突破し友軍集結地へ向かう。
普通、この状況なら友軍の展開完了までの時間を稼ぐ為に戦闘を続ける状況だとも考えられるが、あえてそう設定してみた。
何とか考え出したまずは生き残る訓練だ。
機体の装備についてだが、萩村少尉の衛士適正が自分よりも高い事に少し驚いていた。機体の制御も中々のものらしく、衛士課程では突撃前衛を勤めていたという。
北条の機体は今までならば強襲掃討だったが、新任である少尉を前に押し出すわけにもいかないと考え同じく突撃前衛の装備を選択していた。
87式突撃砲2つ、74式近接戦闘長刀2つ、92式多目的追加装甲を装備している。
「集結地へ、ですか?」
「その通りだ、少尉。これより、自分がブレイズ01、少尉がブレイズ02だ」
「ブレイズ02了解」
状況開始まで残り1分。機体を通常モードで演習場の開始位置まで移動させたが、違和感がある。
整備主任から機体データに他の使用していた数人分の衛士の蓄積された統計データが残っていると言うことで、その分、乗り手の癖が出ている。
実際、それも感覚的なモノかもしれないが戦闘中何が起こるかも分からない。その誤差は戦術機制御システム上除去する事の出来ない欠陥とも言われている。
こればかりは、どうしようもないと言われてしまった。機体を一定時間使用を続け、機体制御システムに自分のデータを反映させるしかない。
強化装備も今は帝国軍支給になっている為、これもまた自分のデータを蓄積する必要があった。
(自分のモノにする為に実機の方の制御データは動かすしかない、か)
時刻を確認すると状況開始時刻へとなった。今回の目的は指定されたポイントへ到達できるかどうかである。
データの誤差を理由に少尉より先に撃墜される、なんてことにならなければ良いがと、北条は考えていた。
一方、萩村少尉は自分の気持ちが高鳴っている事を心地よく感じていた。今までの実機訓練とは何かが違うなと思う。
未だに実戦に出た事は無いが、ここ陸軍技術廠へ配置換えになった時、前線で戦うという彼女の夢は終わってしまったと考えていた。
自分の親の仇であるBETAを自身の手で復讐するつもりだったのである。
配置されてすぐに、国連軍からの出向である中尉が配属されるという説明を受けた。
北条直人中尉、日本人でありながら米国の手先とも言える国連軍に身を置く衛士。
それを聞いた時、彼女も同じく憎悪が沸いた。同盟を一方的に破棄し、日本を新型爆弾の実験場にしたあの国の手先だったのだから。
しかし、実際に彼が来た当日、巌谷中佐からの経歴を読み上げている時に元々は帝国軍所属であった事にまず驚いた。
あの2年前のBETA上陸、京都陥落、そして横浜ハイヴでの明星作戦への参加。
いくつもの戦場を日本を守る為に戦っていた男は、明星作戦後に突如として国連軍へと移っている。
なぜ、そんな事になったのだろうか興味が沸いた。。
「しょ、ブレイズ02状況開始」
(そもそも、なぜ私が中尉の様な人とエレメントを組む事になったのでしょうか)
「ブレイズ02!聞いていないのか?」
「はっ、すみません。ブレイズ02了解!」
いけない、別の事を考えすぎていた。今、目の前の事に集中しなければいけない。
彼を落胆させたくは無かった――。
第2作戦会議室
「これより、先程の状況についてのログを確認をしていく」
「はい、中尉」
状況が開始され、12分後、中隊規模のBETAを相手に奮闘しており、衛士としてこれから上達していく事は間違いないだろうと北条は素直にそう思った。
しかし、その後BETA群の増援として新たに現れた光線級によるレーザー照射警報に気をとられたため横たわる死骸の影から近づく戦車級の発見が遅れてしまった。
やはり、いくら演習と言えども自分の機体が齧られ、その咀嚼する音が迫れば恐怖を引き出されるのは当たり前だ。
特に、彼女はBETAを倒す事に執着しているようで、この演習ものめり込んでいた。
周りのBETAを排除し、取り付く戦車級を排除しようと近づくが、パニックを起こしてしまった彼女はトリガーを引いてしまい、北条の機体は大破。
その後は、少尉の機体は戦車級から逃れようと高度を取ってしまった。
跳躍ユニットの機能が戦車級によって奪われていれば、その行動は無駄に終わるが今回はそうではなかった。
たまたま取り付いていた戦車級を振り払うまでは良かったかもしれないが、高度を取りすぎた。光線級はその一瞬であっても見逃さなかったのだ。
照射元は3、コックピットを丸々吹き飛ばされこの演習は終了した。
「少尉、今回の目的はなんだった?」
「はい、後方で再度攻勢をかける友軍との合流です」
「そう、集結地へ向かうことだった。しかし、今回の少尉の動きは無駄にBETAとの交戦をしているとは思わないか?」
そこを指摘すると、やはり思い当たる節があるのか気まずそうな顔を一瞬するがなんとかそれを隠し、まっすぐにこちらを見つめている。
戦闘ログには、彼女は進路上に広がるBETA群を片っ端から倒そうと動いている。
「しかし、目の前のBETAを倒さなければいけないのでは?」
「孤立した我々は、補給コンテナも付近には無い。友軍の支援も同じく無いままだ」
その状況で全てのBETAを相手にして生還するなんて出来ると思っているのかと彼女に考えさせる。
「では、この場合は必要以上のBETAの相手をせずに後退しろと言うのですか」
「次はそうしてみようじゃないか。今回の訓練は戦うだけじゃない、生き残る事を目的としている」
「生き残るですか?」
「そうだ」
そう締めくくると、2人部屋を出る。ちょうど別の隊が演習を終えて使用するのだろう。出たところですれ違う。
敬礼し、見送るが相手も同じように答礼を返してくる。斯衛軍の衛士のようだ。強化装備ですぐに分かる。
「斯衛の方たちのようですね、中尉」
「そうみたいだ、どこかで見たことのある顔のような気がする」
お知り合いですか、と尋ねてくる萩村少尉に首を横に振って否定する。
時間的にはもう一度実機訓練を行うことが出来る。まだ自分たちの予約した時間だ。ちょうど機体の方も補給も終わっている頃だろう。
少尉に、駆け足と号令し、すぐさま機体へと走り出した。時間が勿体無い。
――中尉を落胆させてしまった。機体へ向かいながら萩村は落ち込んでいた。たった12分の戦闘で、光線級出現によるレーザー照射警報に気をとられ戦車級に取り付かれてしまった。
あの機体を咀嚼する音で動揺してしまった私はトリガーを引いてしまい……、中尉の機体を撃破してしまうという最低な事をしてしまったのだ。今まではこんな事をした事は無い。
しかし、倒すべきBETAが目の前にいるというのに、それを無視して集結地へ向かえと言う。進路上に無数にいるBETAだ、どれをどう撃破すれば進路上の敵だけを撃破できるんだろう。
そして、あれだけのBETAを野放しにしてしまえば集結する友軍にもどれだけの被害があるか判らない。
それでいいのだろうか、と考えてしまった。しかし、中尉の生き残る為の演習とも言っている。何か考えがあるのだろうとは思っているけれど、それとBETAを倒すのに何が関係しているのだろう。
到着すると、すでに補給は完了していた。中尉もすぐに機体へと乗り込んでいる。
自分も機体へ搭乗しステータスチェックを済ませていく。問題ない、
「ブレイズ02、報告」
「こちらブレイズ02、問題ありません」
「了解、ブレイズ01も異常なし」
出ます、と中尉の機体が先を歩く。その後に続いて自分も機体を前へと進める。
そういえば、先の状況では中尉はあまり前へ出ようとしていなかったような気がする。
指揮官だから、だけではないかもしれない。私の事を見る為、ワザとだろうか。それだと先程の失態では見放されてしまうかもしれない。
「ブレイズ02、状況は先程と同じ。次は自分が前へ出る。その後に着いて来てみてほしい」
「ブレイズ02了解!」
格納庫を出て、状況開始位置へと水平跳躍を使用して向かう。
同じF-4J撃震のはずだが中尉の扱う撃震は何か動きが違うような気がする。
それも、戦場で培った技術なのだろうか。これを私も使えるようになりたい、そう萩村は考えていた。
2人の機体が開始位置へ到着する。網膜へ状況開始までの時間が表示される。
「ブレイズ02、今度は集結地まで無事に到着するぞ」
「ブレイズ02了解、しっかりと着いて行きます!!」
状況開始の合図と共に2機の撃震が飛び出す。
先頭を進むのは、北条の撃震その後ろを萩村が着いて行く。
そして、当初の目的である集結地へと2機とも到着、どちらの機体も撃墜判定を受けても可笑しくない被害状況だったが演習を終える事ができるのだった。