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No.22526の一覧
[0] マブラヴオルタネイティヴ『掴み取る未来』[ファントム](2013/02/19 21:25)
[1] 第1話[ファントム](2013/11/03 21:04)
[2] 第2話[ファントム](2011/08/03 13:10)
[3] 第3話[ファントム](2011/08/03 13:11)
[4] 第4話[ファントム](2011/08/03 13:12)
[5] 第5話[ファントム](2011/08/03 13:12)
[6] 第6話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[7] 第7話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[8] 第8話[ファントム](2011/08/03 13:13)
[9] 第9話[ファントム](2011/08/03 13:14)
[10] 第10話[ファントム](2011/08/03 13:14)
[11] 第11話[ファントム](2011/08/03 13:15)
[12] 第12話[ファントム](2011/08/03 13:15)
[13] 第13話[ファントム](2011/08/03 13:16)
[14] 第14話[ファントム](2011/08/03 13:16)
[15] 第15話[ファントム](2011/08/03 13:17)
[16] 第16話[ファントム](2011/08/03 13:17)
[17] 第17話[ファントム](2011/08/16 12:31)
[18] 第18話[ファントム](2011/08/24 03:07)
[19] 第19話[ファントム](2011/10/14 18:34)
[20] 第20話[ファントム](2011/10/17 05:08)
[21] 第21話[ファントム](2011/10/27 16:01)
[22] 第22話[ファントム](2011/11/05 17:15)
[23] 第23話[ファントム](2011/11/17 04:24)
[24] 第24話[ファントム](2011/12/20 15:17)
[25] 第25話[ファントム](2012/02/20 15:35)
[26] 第26話[ファントム](2012/04/08 23:38)
[27] 第27話[ファントム](2012/04/28 14:27)
[28] 第28話[ファントム](2012/05/25 02:23)
[29] 第29話[ファントム](2012/07/15 11:04)
[30] 第30話[ファントム](2012/08/14 23:56)
[31] 第31話[ファントム](2012/09/18 15:27)
[32] 第32話[ファントム](2012/10/21 11:24)
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[22526] 第1話
Name: ファントム◆cd09d37e ID:413669cb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/11/03 21:04
 そこは地獄だった。人と人との戦いではなく、人と人以外の戦いである。
 人以外の何かは、作業でもするかの様に瞬く間に人類を絶望へと陥れた。
初めての接触は探査機の映像を通して、次の接触は月だった。月面にあったいくつもの基地はそれらに飲み込まれる。
地球外起源種との戦闘は月面各地で勃発。この人類に敵対的な異星起源種は、

【Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race】

その生物は頭文字を取り、通称【BETA】と命名される。
月面戦争では人類側の不利が続いており、ついには地球へBETAの着陸ユニットが落着する事態へなる。
地球侵攻を受け、人類は月面からの全面撤退を決定し、月はBETAの完全支配圏となってしまう。
BETAの圧倒的物量、そして制空権を失った人類は後退に後退を重ねていた。
いくつもの作戦が承認、実行されてはBETAの物量の前に押し潰され失敗する、その悪循環が続く。
人類の存亡をかけた作戦が、ついに実行され成功。
オリジナルハイヴの攻略である。いくつもの奇跡が重なって掴み取った勝利だった。
しかし……。

????年??月??日最終防衛ライン

地平線の彼方まで異形の化け物が埋め尽くしていた。
この大規模侵攻は、前にも一度あった。その時はいくつもの好条件が揃っており、撃退する事が出来た。
しかし、今現在は各部隊共に支援砲撃は満足には無く、数と数が正面からぶつかり合う。
結果は、数が多いほうが勝つ……。

『HQより各部隊へ通達。防衛線の維持は困難と判断、当基地の放棄を決定。各戦術機甲大隊は遅滞戦闘を行い時間を稼げ。繰り返す……』
(やはり、今回は退ける事は出来なかった)
「大隊各機聞いたな!ここが正念場になる。死ねとは言わん。腕が無くなろうが、足が吹っ飛ぼうが這ってでも生きて戦いぬけ!!」
「了解!!」

これで何度目の撤退戦だろうか。とうとうこの場所も奪い返されてしまった。
当初上手くいっていたはずの作戦が、どこで破綻してしまっていたのだろうか。
最初からなのか、それとも『あの日』からなのか……。
自分に何が出来るかなんて考えきれず、ただ死にたくないと考え戦ってきた。何も考えずにいた、その罰なのだろうかと男は考えていた。

『だ、誰か!!弾を!弾をくれ!!!』
『クソ、死骸が邪魔だ、射線が確保できん!!そいつをどかせろ!』
『イテェェ、イ――』

無線からは友軍の悲痛な無線が絶えず入ってくる。
助けを、補給を、いくつもの絶望がこの場所には渦巻いていた。

「倒してもキリが無いぞ、ヤツら沸いて出てきやがる!」
「なっ?!要塞級を確認!!ダメだ、支えきっ――」

男の目にステータス画面が立ち上がり、エラーが表示される。

(弾切れ……)

自分は元々はこの世界の人間ではなかった。
自分のよく知っている、それでいて違うこの世界で戦う事を余儀なくされてしまった。
何もかもが絶望視され、放棄の決まったこの星で……。
突如、耳障りな警報が鳴り響く。
無線は絶えず、効果範囲外へ全力で後退せよと訴えている。
もう後がないのである、これ以上の侵攻を阻止するためのほんの僅かな時間を稼ぐしか事しか出来ないとしてもこの兵器に頼るしかなかった。

「もはや、これまでか……」

空へいくつもの光の筋が走るが、【それ】を止めるには至らない。
何もかもを飲み込んでしまうであろう【それ】は、次第に高度を下げている。
こういう風に願うのは変なのだろうか、元の世界では無くやり直せるのならこの世界をやり直したい。
そう彼が願っていたように……。

そして男のの意識はそこで途切れた。


????年??月?日


「ここは……」

暗闇の中で1人呟く男性。男の名前は北条直人(ほうじょうなおと)。
歳は二十歳、ミリタリー関係に夢中になり自衛隊へと進むが今年度で任期も終わる。
それについて、継続するか否かを悩んでいた。確かに、この仕事はやりがいがあると感じてはいるが、何かが違うとも思っていた。
そんな毎日を淡々と過ごしている頃、同期の1人にとあるPCソフトを薦められる。
元々そういう物にも興味があった。プレイするには十分興味を引いたのだった。
それが見事に夢中になり、二次創作サイトも聞き出し読み漁る毎日を過ごしている。
文才も無いのも知りつつも、自身の妄想をSSへと書いていたが行き詰まりベッドへと入ったのは覚えてた。
覚えてはいるのだが、今自分は何も見えない暗闇の中にいた。
手を前に出し、何かあるか探ってみるが何も感触は得られず、まるで宙にでも浮いているかのようだ。足元は確認しながら前へ進んでみる。

「おーい、誰かいるかー?」

声を出すが、自分の声でもあるし別人の声のようにも聞こえる。
もう一度北条は思い出していた。確かに部屋の自分のベッドで寝たはずである。
大声を出せば同室の先任や同期も起こしてしまうがこの際寝ぼけていた事にすればいい。
そう考えていたが、声を出したのだがそれは杞憂に終わったようだ。

(……夢?)

夢と言えば起きて初めて夢を見たのか、と思うはずだ。それが自分が経験した夢である。
それにしても、はっきり意識があると思っていた。
もう一度辺りを見回すが、ここは何も見えず誰かいる気配もしない。
部屋でもなく何にも見えない暗闇である。
自分は何か病気なのか、それでおかしくなってしまったのではないのだろうか。

「なんでこんなところに人が……」
「っう!?」

考え込んでいて、気がつけば周り事が頭に入ってこなくなっていた。突然声をかけられて驚く。
変な声まで出てしまった。これは恥ずかしい、と北条はいたって冷静なフリをして、声のした方へ振り返る。
暗く何も見えなかったはずのこの場所で、唯一彼女はよく見えた。
赤い髪を黄色いリボンで束ねて、あほ毛が飛び出ている少女だった。

(あぁ、やっぱり夢なんだ)

と北条は納得していた。
何故って、目の前にいる少女は今まさに夢中になっているゲームのヒロインであるからだ。
しかし、ここ最近は徹夜してでもSS読んでいたせいだろうか。こんな夢を見るなんて、良いことなのか悪い事なのか。
きっと話したら馬鹿にされてしまうなんて考えていた。
北条が考え込んでいる為、相手も北条を警戒しているようだ。
夢だ、こっちから話しかけてみるかと考えるが、何を話せばいいのだろうか。
取りあえずここは自己紹介だろうか。

「こっ、こんにちは。自分は北条直人と言います」

自分の夢の中のはずなのに、年下の少女相手でもどう話せばいいのか分からない。
いきなり噛んでしまった、恥ずかしいがここは冷静なフリで突き通す。

「あっ、私の名前は……」

つられて、少女も自分の名前を教えてくれた。
予想したとおりの名前だった。何度もこの名前は耳にし、目にしている。
なんだか、感動してしまっている自分が恥ずかしいと北条は考えていた。

「……、そういう訳なんです。○○ちゃんらしいって言えばそうなんですけれど……」

気がつけば、意中の相手の事を不満のように語る少女だった。
しかし、顔は笑顔である。説得力が無い顔とはこの顔の事を言うのだろう。
自分の夢でこういう風に惚気られるのはあまりいい気がしないのだが、そう考えると彼女と反対に北条はしかめ面になってしまっているようだ。
幸い、それには気付いていないらしい。

「○○ちゃん、頑張ったんですよ。もう自分の幸せの為に生きてもいいのに……」

ふと、今まで笑顔だった彼女が悲しそうで、それでいてちょっと嬉しそうな顔になっていた。
自分の為に命を掛けて戦っていたのだ、大好きな人がである。自分が女性だったら嬉しいだろう。
それから、すぐにまた少女は悲しそうな顔になっていた。

「どうして、あなたがここに来たのか。そして、繰り返しているのか……。私にも正直分からないんです」
「……え?何の話、ですか?」

年下の少女に敬語になってしまう。来たとか繰り返しているとか、まるでループでもしている様な言い方だ。
北条は夢だから、自分が主人公になっているわけかと1人納得することにした。

「きっと、あなたが思う様な事ではないと思います。そして、これから起こる事も現実なんです」

数ある世界の1つ、そしてその世界でも○○ちゃんは戦う事を選んだのだと少女は言う。
救いたい、守りたいモノがある。彼は救えたはずの人たちのいない未来を拒絶したのだ。
もう一度やり直すために、あの絶望の世界へ還ったと続ける。
そして、自分もその世界にいると言う。

「あなたは、現実ではないと思っているんですか?」
「現実……?」

そう言われても、自分はあんな化け物のいる世界はゲームや物語の中でしか知らない。
今この瞬間だって、夢のはずなのである。
北条は少女の顔を直視している事が出来ずに、ふと周りを見渡すと明るくなってきていた。
それでも周りに何かあるようには見えない。そして、身体も重く感じていた。

目が覚めるのだろうか?すごい夢だった。
夢を夢と意識して、それでいて今夢中になっている物語の話までしていた。
起きたら、忘れているのだろう。なんだか勿体無いと考えていた。
眩しくなり、目を開けていられない。

「君は、君はこれからどうなるんだ?」

ふと、彼女の事が気になる。
何か、微笑みを浮かべ口が動くのが微かに見えたが何を伝えたかったのかは分からなかった。



????年??月??日


遠くで声が聞こえる。何を話しているかはまったく聞き取れない。
段々とその声は近づいてきているようだ、一体休日に自分を起こすのは誰だ。
今日は休日である、もう少し寝ていたいと北条は考えていた。

「北条!!」

そんな耳元で大きな声を出さないでほしい、そう返事をしようと口を開くが上手く声が出ない。
口の中は独特な血の味が広がっており、身体中が痛みを訴えていた。
寝ぼけてベッドから落ちてしまったのだろうか、目を開くと焦点がすぐには合わずボンヤリとしか見えなかった。

「シールド05、無事だったか!!」

シールド05?何を言っているんだ?
北条は何度か頭を振って意識を正常にしようとする。
段々と焦点の合ってきた視界には、いつもの見慣れた部屋と天井、そして同期や先任の姿が見えると思った。
しかし、北条の目には信じられないモノが映し出されていた。
レーダーに高度計、速度計といったどこかで見たことのある映像。
そして、機体に異常が出ていると警告が出ていた。

(もっ、網膜投影システム?!コントロールスティック?いやいやいや、そんな馬鹿な話があるもんか?!)

これも夢の続きだ、そう思い直し寝るために目をつぶる。
しかし、忘れていた痛みを思い出してしまった。

「つうっ……」

頭の中は疑問だらけになってしまっていた。

「シールド05、北条!!無事なのか?機体の損傷も激しいようだが……」

先程から、無線の相手は自分へ呼びかけているらしい。
左腕が吹き飛ばされているとも言っているが……、確かに今見ている機体のステータス値とも言うのだろうか、左腕は真っ赤に染まっている。
それ以外にも頭部や胸部も損傷を示しているようだ。そちらは深刻なダメージでは無いようだ。
しかしカメラが一部が機能していないようで、確認出来る範囲だと自分の機体はどこかのビルに激突しているようだった。
まず、機体を立たせなければいけないと考えるが、そもそもこんなもの操縦なんてした事がない。
もういい、夢なら覚めてくれ。しかし、頭に激痛が走りそんな事も考えられなくなった。

「ぐぁぁあ!!!」
「北条!!」

頭が割れるような痛みがはしる。何かが思い出せそうな気がしたが、それもつかの間の事で頭痛はすぐに引きその何かも一緒にわからなくなってしまった。

「い、今のは……」
「北条!!無線機も壊れているのか?応答しろ!」

先程とは違い、機体を立たせる方法が自然と分かっていた。
知らないはずなのに、知っているのだ。
身体がこう動かせなんて言っているかの様に思えた。

「シールド05より、えー……」
「シールド05、北条無事か!?」

北条が気が付いて何度目の無事の確認だろうか。レーダーを確認するとマーカーには03の文字が確認できた。
この相手の機体のコールサインはシールド03のようだ。

「こちらシールド05です。身体中に痛みはあるようですが、それ以外は大丈夫なようですが……」
「了解、よくぞ生き残った。一度下がるぞ、機体を起こす」
(なるほど、見たい方向を感知しカメラを向けるのか)

改めて機体ステータスを見てみるとシールド03の機体は撃震だった。機体色は帝国軍のカラーである。
自分自身も改めて見ると強化装備は帝国軍の物だ、間違いない、帝国軍所属だ。

「予備の隊にここは引き継いだ。まず我々は補給に整備に戻る」
「了解です」

瓦礫も邪魔していたためシールド03が除去、左腕を失っているので制御が上手くいかない。
機体を起こすのを手伝ってもらい立たせる事が出来た。
機体の制御方法がなぜか身体が覚えているようである。先程の頭痛からなんだか変だ。
操縦できるのが当たり前だなんて変だ。
視界が開けたために、周りが見える様になり、自然と見渡してしまう。
天候が悪いのか遠くまでは見渡せないが突撃級、要撃級の死骸や戦車級と言ったBETAの死骸が散乱し、破壊された戦術機や町並みが見えた。
シールド03から機体の異常の報告を促されチェックしてみる。跳躍ユニットが未だに健在のようで、跳躍も可能の様である。

「我々の力が足りなかったばかりに……。これ以上やつらの好き勝手にはさせない」

北条はシールド03とは違う事を考えていた。
ここはあの物語の世界であるとは間違いないが、なぜこんな世界がまるで現実のように感じるのだろうかと考えていた。
夢ではないと言うのは、正直まだわかってはいない。現実にしか思えないのはなぜだろう。

(どうしろって言うんだ……)

気付いたら、いつものあの部屋で普通に今にも目が覚めるかもしれない。
しかし、何かがここでやり遂げなくてはいけないそんな気がしているのも事実。
現実なのか夢かも判断できぬまま、シールド03の後を追いかける。

「忌々しい化け物め、台風上陸に併せたかのように上陸をしてくるとは……」

考え込む癖が出てしまった。
今、シールド03はなんと言った?台風、BETA上陸?
まさか、今はBETAの日本上陸の真っ只中なのか?!

「し、シールド03!?現状はどうなっているのでしょうか?」
「今我々はな……」

北条の思ったとおりだった。1998年のBETAが上陸、進行真っ只中の日本帝国である。
横浜、佐渡島へハイヴが建設され、確か日本の人口の30パーセントが犠牲になった最悪の出来事の真っ只中にいるようだ。
そして、説明だと自分はこの西部方面隊所属で部隊に配属されてすぐの戦闘。
死の8分を生き残ったとシールド03は説明してくれていた。
帝国軍は台風で進まない民間人の避難の時間を稼ぐ為に各地で戦線を構築している状態だと言う。
一部のBETAの浸透を許してしまった戦線の穴埋めの為に、後方警戒中だった自分たち隊が急行し交戦。
損害はまだ教育を終え、配置されたばかりの新兵1個小隊。
その中の唯一の生存者が、北条直人であった。

(このまま史実通りに進めばどうなる……。確か、時間が経てばBETAは中国地方へ上陸し九州を挟撃する形になり文字通りの全滅……)
「まだBETAの規模はこの天候で情報が錯綜していて、規模は不明だ」

最後に、機体の修理と補給を済ませる、そう言うとシールド03は通信を切る。
帰還中に出撃していく部隊ともすれ違う。この中で一体何人が生き残る事が出来るんだろうか、もう見ることも無いのかもしれないと北条は考えていた。

『CPより、シールド03へ。誘導員の指示に従い3番滑走路へ。繰り返す、3番滑走路へ』
「シールド03了解、先程報告通り、シールド05の機体を格納庫へ向かわせたい」
『整備チームが待機中、そちらへ』


北熊本駐屯地


「この損傷ならなんとかなるぞ、なんとかするとも」

北条の機体が指示された滑走路へ到着すると、すでに整備チームが待機している。
機体を降りると、整備班の班長だろうか彼にそう言われた。
邪魔にならないように、格納庫の隅に腰を下ろし周りを見渡していた。
キョロキョロとする自分を整備員が視線を向けるが忙しいために相手にはされなかった。
色んな匂いが混じっていて不思議な感じがした。懐かしいとさえ感じている。
遠くにはF-15J陽炎の姿も確認出来る。補給中のようだ。
未だに目の前に、戦術機がある事がおかしいはずなのに受け入れている自分に戸惑っていた。
頭はおかしいと思っているのに、心が喜んでいる、そんなうまく表現できない不思議な感じだ。

「まだこんなところにいたのか」

不意に後ろから声がかけられ、北条は振り返る。
そこには、帝国軍強化装備の長身の女性が現れた。
歳はいくつくらいだろう、自分よりは年上だろう、大人の女性の雰囲気とでも言うのだろう。
日頃からしているおかげか、敬礼を自然にする事が出来た。

「身体の調子はどうか?医務室へ行く必要があるだろう」
「身体は……」

言われてみれば、気付いた時にあった身体の痛みは感じない。
ありのままに伝えると、彼女は頷いた。
しかし、相手が誰か分からないままだ。探してみると、階級章とネームプレートを見つけることが出来た。
そして、肩の部隊章には盾のマークに03の文字。彼女が先程一緒だったシールド03なのだろう。

「佐藤中尉……」
「胸を張れ、彼らの分まで精一杯戦うんだ」

急にそう言われても、ぴんとこない。
顔も名前も知らない同期がすでに戦場で死んでしまっている、そう言われても実感がわかなかった。
握り飯を渡された。今のうちに食べておけ、との事だった。
一口頬張るが、なんだか不思議な味がした。

「糧食班が空いた時間に食べれるだろうと作っていたらしい」

そのまま食べやすく握っただけではあるがなと笑う佐藤中尉だった。
食べ終わると、佐藤中尉が今の状況を説明してくれた。

未だにBETA侵攻の数が少ないのも、断続的に沿岸部へ上陸している。上陸地点へ各部隊の精鋭を順次出撃、交戦。
悪天候の為地上、海上からの支援砲撃はほぼ絶望的であり面制圧をすることが出来ていない。
無理に砲撃を開始した部隊もいたようだが、期待の出来る結果には至らないようであると説明を受ける。

「さぁ、そろそろ行くぞ。中隊長が指揮所から戻る頃だ。今後の作戦が付与される、行くぞ」

まずは、一度医務室によって診てもらうかと先立って歩く佐藤中尉の後を北条は追った。


1998年7月11日


BETA侵攻によって地形の変わった地球では時に巨大台風が発生する、雪が降るなどの天候の変化が起きていた。
1998年7月9日、台風に併せたかのように上陸したBETAは北九州沿岸部へ上陸。帝国海軍は海上に展開する事も出来ず、ただ勢力圏外で展開するのみとなっていた。
台風の影響で身動きの出来ない民間人もまた続々とBETAの犠牲者が出ている。
帝国、国連、在日米軍もこれを撃退する為に各部隊が戦線を構築しようと展開するが天候の影響を受け、足の遅い戦車や野戦砲などの装甲車両の移動が困難で機動力のある戦術機甲部隊が先遣隊として展開していた。
BETA侵攻先は未だ不明だが展開の間に合った部隊の奮戦するも各個撃破され損害は増え続ける。
これ以上は損害が増えると上層部は判断し、戦線構築を後退させる事を決定。上陸地点に近い地域の民間人の救助を断念。
上陸の確認されていない九州中南部より臨時戦闘団とし戦術機甲部隊が熊本へ集結、国連、在日米軍両軍は本州侵攻を警戒し防ごうと北九州市へ展開していた。


北熊本駐屯地シールド隊詰所


「佐藤、北条入ります」
「2人のみか……」

詰所に北条が入ると、すでに所属する中隊長以下第3中隊が揃っていた。この場にいる人数は7名。中隊は確か12名構成ではなかっただろうか、そう北条は思い出していた。
中隊の員数に足りていない。半数にまで減ってしまったのだろう。

「たった、たった2日だぞ!それだけでここまで減らされるとは……」
「支援砲撃もままならないのです、第16戦闘団も多数の被害が出ているようです」
「しかし!我々はこうならない様に訓練もしていた!!」
「台風で機体の機動力も制限されている。対処していなかったわけではありませんが、こうも一方的にとは……」

思い思い口に出すのは、やはり現状に絶望している。

「師団からの命令を下達するぞ、我々はこれよ――」


その時だった、警報が鳴り響き中隊長の言葉が遮られる。
一斉に中隊はスピーカーへ注目していた。

『師団司令部より、通達。九州南部への旅団規模のBETA群の上陸が確認された。繰り返す――!?天草諸島観測所より緊急入電!BETA群上陸を確認!』

この詰所の中だけではなく、基地全体が騒がしくなった。

「BETAが、BETAが迂回したとでも言うのか……」
「中隊各員は搭乗していつでも出れるようにな!」

命令すると中隊長は副官を連れ司令部へと向かう。残った隊の間で動揺が広まるが佐藤中尉の激が飛ぶと、機体へ走り出した。
出遅れてしまったが、北条も遅れまいと佐藤中尉の後を追う。
今まさにゲームと同じ状況なのではないか、ここで自分がこれからの起こることを伝えれば何か変わるのだろうか。
格納庫へ到着すると、佐藤中尉以外は機体に搭乗を済ませているようだった。
佐藤中尉は自分が考え事をしているのに気付いたようだった。

「これからは貴様が私の後ろを守る事になるんだがな……、その調子では任せる事は出来んぞ」

そう言われても、北条はなんと言えばいいかわからいでいた。
自分はこの先の出来事を知っています、このままでは全滅です逃げましょう?戦いましょう?なんとか出来るはずです?
そんな事言えるはずがない、何を言っているで聞いてももらえないだろう。
敵前逃亡だとかで、殺されるかもしれないじゃないかと考えていた。

「今は、自分の出来る事をすればいい」
「え?」
「今貴様が出来るのは、戦えない人を守ることだろう」

その為に、仲間を守れと佐藤中尉は微笑んだ。

「仲間を守れば、戦ってBETAを防げる。戦えない人たちを守ることが出来る」
「さ、佐藤中尉!!これからBETAは中国地方へ侵攻するんです!」

つい、北条は我慢が出来ずに言ってしまった。

「何を言う?今すべき事をするんだ。万が一そこに上陸を許してもすでに後詰めとして友軍が終結している」

易々とヤツらの好きにはさせんさ、とも言い切った。
そして真顔になって見つめてきた。

「考えるのは大事だか、考えすぎるな」

今出来ることをしろ、ともう一度言うと佐藤中尉も自分の機体へ向かった。
北条は自身の機体の前に立つ。整備チームがすでに必要な修理も終わらせているようだった。
コックピットへ乗り込むと、さっきまで考えていた不安が和らぐようだった。

「落ち着いたようだな、シールド05」

すぐに佐藤中尉、シールド03がウインドウに現れる。先程はこの機能も壊れていたのだろう。表示されていなかった。
おかげで、少し安心する事が出来た。不思議な人で、とても強い人だなと北条は思った。

「シールド01より中隊各機へ、師団司令部の命令を下達する」

シールド隊は熊本県南部に位置する人吉市へ展開、鹿児島県からの避難民をBETA上陸の確認されていない宮崎県へ移動するのを援護する。
避難が完了後、後退する鹿児島県の部隊と合流、戦線を再構築し本土からの援軍を待ってBETAを押し戻す、という内容だった。
援軍についても展開を終えているとの事で、今ここを乗り切る為に生きて戦いぬけと締めくくった。

「第3中隊、出るぞ!!」
「了解!!」

跳躍ユニット、主機がうなり声をあげる。各部隊が戦線に向かうのだ。
ふと、周りが気になってカメラを向けると非戦闘員などは続々と避難を始めているようだ。
天草へのBETA上陸が確認され、この駐屯地も危険地域になってしまった為だろう。
機体を整備してくれた整備員もここより後方へ展開すると話していた。この後も生き残る事が出来るのだろうか。
少しでも、本州へ渡る事が出来ればいいのだがと考えていた。

『シールド03、シールド05は滑走路へ』
「了解」


熊本県人吉市


中隊が人吉市へ到着する。シールド隊のみがこの戦域に展開するものだと北条は思っていたのだが、宮崎に配備されていた戦術機甲小隊、その支援部隊として車両部が随伴し警戒任務に付いている。
元々そうする指示が出ていたのだろう、臨時戦闘団として各隊をシールド隊指揮下に編入し部隊の再展開していた。
カメラを市内に向けると主要道路は避難民の車両が列を作っており、宮崎へと向かっている。
ここへBETAに進入されれば大惨事になるだろうと予測できた。時折、子供たちが声援を送ってくれる。
パフォーマンスではないがこちらも戦術機の腕を上げてそれに答える。誰も咎めたりしなかった。

ローテーションを組み、北条と佐藤中尉は水俣地区方面の警戒を続けていた。
人吉市に展開し2時間あまり経った頃だろうか、時折、遠く、天草地区の方に見える閃光が少しずつ不安を募らせていた。



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