「この機体、連邦の新型か、やる!」
デラーズ・フリート脱出の時間を稼ぐために連邦軍追撃部隊に接触したガトーのノイエ・ジールは追撃部隊の先鋒と接触していた。戦闘相手はトレーズ率いるOZ。ジムとさほど性能が変わらないリーオーだが、武装のバリエーションが多い点が対応に手間取らせている。基本、宇宙軍のジムはビームガンが主流だが、リーオー部隊はその他にマシンガンとドーバーガン、そしてバズーカを用いるため武装を確認してからでないと思わぬ反撃をもらう可能性がある。
「もとはガンダムとでも言うつもりか!」
「ふ、ソロモンの悪夢。お手並み拝見といこうか」
先ほどからガトーを手間取らせているのは新型MS部隊を率いている隊長機のMS、トレーズのトールギスだ。両肩背面部に装備されたブースターポッドの生み出す高推力を上手く使い、こちらの動きにMSサイズであるにもかかわらず追随してくる。
撤退を始めたデラーズ・フリートの艦列を追う第11任務部隊にガトーが突進をかけて出鼻をくじいたのは良いが、その間に反対翼側から追撃を行っていた第9艦隊が前進している。その第9艦隊を阻止するためにガトーが移動を始めたときに接触したのがトレーズだ。接触はちょうど東方不敗マスターアジアがウィザード隊と戦闘を開始した時である。
「MAの弱点、ということか……!ソロモンのビグ・ザムと同じ跌を踏むことになろうとは!」
MAは基本的に強襲用に類別される。量産型艦艇・MSによって構成された大軍との戦闘を前提にしているため、高性能MSと単機での戦闘を前提にしていない。単機を相手にするには小回りが効かないし、武装も大火力過ぎるのだ。それでもノイエ・ジールには近接戦闘用の武装としてクロー及びビームサーベルが装備されているが、ガトーの腕前を以てしても決着がつかないでいる。
そして交錯。二機はビームサーベルを交差させて火花を散らす。
「腐った連邦に属させておくには惜しいパイロットだ!」
「礼節を失った戦争、ただの殺戮を行おうとしたものにしては言うな。それがまた、悲しくもある」
その言葉にガトーは過敏に反応した。この作戦が地球に住む連邦の政治とはなんら関係のない人々にとってはただの殺戮である事を思い知らされたばかりだからだ。トレーズの言葉はそんなガトーの内心をえぐり、焦りを生ませる。
「美しく思われる人々の感情は常に悲しい。戦いにおける勝者は歴史の中で衰退という終止符を打たねばならず、若き息吹は敗者の中から培われる……。連邦もまた、一時代の勝者として、歴史の中で定められた役割を果たしているに過ぎない。君もそうではないのか、アナベル・ガトー?」
「よくも言う!腐った連邦こそ、その衰退に宇宙の民を巻き込もうとしているではないか!スペースノイドの完全なる自治権確立のために戦うことこそ我らが使命!……そのためにこそ、私は刃を振るうのだ!」
ガトーは問いかけに鼻を鳴らしつつ答えるとメガ粒子砲の一斉射撃を行う。それに対してトレーズは距離を離さないために旋回半径を極小にとっての回避を行った。ガトーは思わず吐息をはく。素晴しい機動、なんと見事な動きだ。
「……敵にしておくには惜しい男」
「律儀な男だな、君は」
ガトーは思わず苦笑する。二人の一騎打ちには先ほどから誰の邪魔も入っていない。戦闘に入る前、トレーズはオープンチャンネルで部下に戦闘に介入を禁ずる旨を伝えているし、ガトーの部下―――カリウス小隊にも同様の申し入れをしている。面くらい、必ず裏切ると見たガトーだが、目の前の男の部下は、隊長がが危機に陥っても援護を行おうとはしなかった。よほどの信頼を受けているらしい。
「貴官の名を、聞いておこうか」
「トレーズ・クシュリナーダ。連邦軍中佐、特殊治安憲兵隊OZ司令だ」
ガトーは大きく頷いた。
「アナベル・ガトー。ジオン公国軍、公国親衛隊少佐。かつてはジオンの……今はスペースノイドの独立のために。そして私の生きていく道を探すために戦う男だ!」
二人が名乗りを上げ、刃を交えようとした瞬間――――
その間を巨大なMAが通過、二人及びトレーズ指揮下部隊の戦場をかき乱した。
第77話
今何かぶつかったような音がしたが……まぁ、いい。デブリか何かだろう。そう考える私、トール・ミューゼルは現在、ゼーゴック・フライトサポートユニットの中を移動している。フライトサポートユニットとは、東方先生が乗り、そして戦場に向かう対艦ミサイルを吐き出したゼーゴックの装備の一つだ。
ゼーゴックは合計9機制作されたことになっており、その多くは宇宙攻撃軍に所属して地球軌道上に対する連邦軍艦艇の増援を阻む作戦に従事するはずだったが、一年戦争の際、ドズル閣下に「それよりMAとして運用した方が良くないですか?」と打診して6機もらったのが改造のきっかけである。武装コンテナのバリエーションを増やせば、ビグロなんかよりもよほど使い勝手が良くないか、と思って色々と手を加えていたらおかしなことになってしまった。
さて、ゼーゴック・フライトサポートユニットは、コントロール下におくL.W.C(大量兵器輸送用コンテナ)の部分を簡単な輸送用コンテナ(それでもサイズは全長80mに及ぶが)に変え、その中に様々な設備を搭載しているタイプだ。たとえば長距離輸送用にラウンジなどの居住スペースを設けることも出来るし、爆弾倉を設けてミサイルなどの火器を搭載することも出来る。うん、解ってるよ。そんなものを作るより正直にシャトル作れ、テンプテーションがあるじゃないかとか言うつもりだろう。でも、それじゃあ面白くなかった。そしてそれが今回、生きているわけだから、作ったものと言うのは如何役に立つか解らないものである。
そして今回は東方先生の乗った対艦ミサイル、そして外側に増設されたMS用固定ラッチに加えて一機、MSが搭載されている。
「接続OKです!データコピー始めます!」
「まさか、デュラクシールまで持ち出してきたなんて……」
そう、目の前の格納スペースには20mサイズにダウンサイジングされた、将来の愛機(予定)であるはずのデュラクシールが格納されていた。勿論今行っているデータのコピーは、キットのAIをデュラクシール側のコンピューターに移植しているわけである。整備員が駆け寄り、報告を始めた。シーマ姉さんは先ほど飛び出していった。何か見つけたのだろうか。まぁ、キットのデータをコピーして行ったから、何かあってもキットが助けてくれるだろうけど。ドルメルとられてしまった。
「終わり次第出せます」
「……アレから色々といじくったようだけど」
そういうと整備員は淡々と説明を始めた。通常型バイオロイド兵の整備員だから、こちらの言った冗談めかした言い方が伝わらないのは悲しい。勿論潜入工作の際にはそうした感情表現をやらせてはいるが、流石に相手がバイオロイドで実は何も感じていないというのにそうした行為をとらせることは何か、気に入らなかったのである。
「セニア技師長によりますと、頭部を連邦軍公式呼称"騎士"に合わせてデザインし、タオーステイルを増設・大型化、背面部にHi-νガンダムと同様のスラスター兼用のラックを搭載し、推進剤補給及び充電を行います。他の詳しい仕様はこちらのマニュアルを」
そういって渡されたのはセニア印のデュラクシール操作マニュアルである。最初のページを開いて、少し、悲しいため息が出た。そこには、こう書かれていたからである。
『デュラクシールという名前で兄貴思い出すから、この改造機、好きに名前をつけてねっ!』
もう一度ため息を吐き、続くページの解説に目を通して頭が痛くなった。スパロボEXで"歴代最弱のラスボス"と呼ばれたあの時代が懐かしい。射程6で8とか10とかのマサキ隊に突っ込んできた面影は何処に……
なにこの、"ボクノカンガエタサイキョウノガンダム"。……あー、もう。名前これで良いかなー。
「プラズマ・レーザー発射準備に入りました。中佐、出られますか?」
ムサイ級巡洋艦"キンメル"のMSデッキに僚機から通信が入る。モニターには射殺され浮遊する整備員の姿。この艦は先ほど、我々に乗っ取られたばかりだ。アントン・カプチェンコは自分の機体である金色のドム―――OMS-09RFG、リファイン・ドム改のコクピットから周囲を見回した。虫型の機械が周囲を徘徊し、同じ機械で色違いのものが機体の最終チェックを行っている。
「全機良いか」
次々と入る了解の音声。この艦にいる人間が既に自分たちだけになっていることは全員が了解している。流石に、どこか落ち着かない様子だ。それはそうだろう。1995年から宇宙世紀に送り込まれたのはまだ良いとして、自分たちを使っている"誰か"は目的のためならば機械による無差別の殺人すらいとわないからだ。
アンソニー・パーマーやジョシュア・ブリストーとは違い、アントン・カプチェンコがこちらに送り込まれたのは一年戦争が終了してからになる。スペースノイド過激派の親ジオン派閥、という経歴でジオン残党にもぐりこみ、この"キンメル"配属となってから2年。自分たちを"支援"しているらしい企業から部隊が黄金色に塗装されたドムを受け取り、ゴルト隊が再結成されたのが2ヶ月前だ。
そこからはあれよあれよという間に話が進んでいった。デラーズ・フリートの決起に合わせて参加し、星の屑作戦の情報を得た段階で連邦軍に投降し、第9艦隊の管理下に移され、不足する戦力の穴埋めとしてコロニー迎撃に参加させられ、ソーラ・システムの前に陣取ることになった。勿論その行動にカプチェンコは関わっていない。彼が乗り組んでいるこの艦の艦長とやらが勝手にしたことだ。その艦長は先ほど艦橋に入っていった虫型機械のレーザーであの世に旅立ったらしいが、あの男が何故そうした行動をとったかについては最後までわからなかった。
カプチェンコはため息をつくと今現在の自分の機体であるリファイン・ドム改の最終チェックに入った。この機体が搬入されたのは先ほどの話―――しかも、何かの光がムサイの格納庫とカーゴを満たすと其処にいきなり現れたと言う無茶振りだ。整備を始めたアンドロイドの解説によると 現行の、これまで自分たちが使ってきたザクや、部下たちの使うドムとは全く違う機体との話だ。そしてそれはコクピットに入った瞬間に解った。全天球モニターシステムのコクピット、装備のバズーカは実弾・ビーム兼用で実弾装備にはチタン合金製ベアリングによる散弾まである。ジェネレーター及びスラスター出力もそれまでのザクなどの比ではない。
虫型機械からの音声解説によれば、これでも敵である"候補者"とやらの一般兵装備であるらしく、候補者の機体との交戦は避けて作戦目標であるプラズマ・レーザー砲艦の撃沈もしくは撃破に全力を注げと伝えられた。作戦が成功すれば、自分たちは命令を下したものが回収し、次の任務に回されるとのこと。
しかしそれがカプチェンコには気に入らなかった。既に候補者の部隊と戦闘に入ったらしいブリストーやパーマーと違い、カプチェンコは確かに"国境なき世界"の設立に関与し、クーデター軍を率いて全国家に対する戦争を仕掛けた男だが、彼には明確な展望が存在してあの戦争を起こし戦った存在であり、この戦争のように目的が不明瞭なまま闘争を行うような趣味は持ち合わせていなかった。カプチェンコの目的は国境をなくす―――大戦争の勃発による世界政府の実現こそが最終目的であり、既に世界政府である連邦政府が出来ているこの世界においては戦争の意味がない。
彼は、自分がジオンとか言う現在の立ち位置にいるよりは、連邦政府の側に立ってジオンなどの造反勢力を叩き潰し、同時に連邦政府の内部浄化を進めるべきだという考えを、この世界に来、この世界の情勢を知るにつれて持つようになっていった。ところが自分をコントロールしているらしい存在は、そうしたカプチェンコの考えを組む事無く、今、彼をこの戦場に立たせている。
「これも来るべき国境なき世界のため、とは思いたいが……ままならんな」
地球に向けて突撃を開始したコロニーを迎撃するべく出撃した地球連邦軍、第一軌道艦隊、及び作戦に参加している第9艦隊、第11任務部隊所属艦艇にとって、敵は既にコロニーの残骸だけになっているはずだった。勿論その残骸はいまだ発生しつづけている重力波によって密度を増しており、撃破するには難しい存在だが、反撃を考える必要のない存在であった。
既にジオン残党―――デラーズ・フリートは撤退に入っており、第9艦隊が追撃に向かい、そして先鋒MS部隊との間では交戦が始まっている。大多数の部隊にとってそれはどこか関係のない空域での出来事であり、大半はコロニーへの砲撃準備、及び戦線を突破してくる可能性のあるジオン残党部隊を警戒しつつ、コロニー撃破の主力であるプラズマ・レーザー砲艦とソーラ・システムの警護を行うということもあってか、どちらかと言えば楽な任務、命の危険はない。そうした認識だった。
先ほどまでは。
「急速接近する反応あり、直上!」
「どんな速度だこれは!?報告にあったMAか!?迎撃!」
第9艦隊に所属するサラミス級"アイオーン"のブリッジに怒声が響く。コロニーを射程距離に捉え、これから砲撃を始めて質量の減衰をかけようとしたときにこれだ。警戒網をジオン残党が抜けてきたと判断した艦長は即座に迎撃を命令した。
「……間に合いません!敵機、来ます!」
「あれは……ズゴック!?」
艦長はモニターに投影された敵の姿に驚く。無理もない。本来なら地上用であるはずのズゴックが、巨大な円筒形の物体の上に鎮座してこちらに向かってくる。驚きの原因となった速度は、脚部に換装されたスラスターと円筒形の物体の背面に装備された大型ブースターのおかげらしい。
「所属を調べろ!ジオンの改造機なら、連邦の実験部隊の可能性がある!IFF照会!」
「反応なし!……!?敵MA、コンテナ開きます!」
「一体何を……!?」
艦長、いや艦橋の全員が目を見開いた。其処には、記録でしか目にしたことの無かった機体が固定されていた。
"ア・バオア・クーの騎士"。一年戦争最終局面、ア・バオア・クー攻防戦の最終段階で現れ、連邦軍との休戦協定を成立させる立役者となったトール・ガラハウ少将のゲルググと連邦軍の精鋭部隊を撃破した謎の機体だ。
「……月に現れたとは聞いていたが、何故?それに、形状が記録の映像と……」
「頭部は"騎士"の形状そのままですが、胴体以下の構成に差異が見られます!……殆どはマントらしき装備に隠されて見えませんが……ジェネレーターを起動!動きます!」
「砲撃開始!沈めろ!」
その言葉と共に主砲である単装メガ粒子砲塔が旋回、砲撃を開始する。同時にミサイルランチャーがMAに向けて放たれた。発進準備をしているらしい今ならば、反撃は出来ないはず。
「後続艦艇にもデータリンク!一斉射で沈めろ!」
「了解……来ました!」
艦長は声を張り上げ、高く上げた腕を下ろした。
「撃て!」
「敵サラミス級4隻より集中砲火、来ます」
「タオーステイル、シールドモード起動。フォーメーション、2-2-1-1」
「了解、フォーメーション2-2-1-1で起動します」
キットの報告にタオーステイル―――デュラクシール装備のシールド形状のファンネルに命令を下す。フォーメーション2-2-1-1とは、2枚組みで2つ、1枚のみで2つ、合計6枚を使用を意味する。起動したタオーステイルは2枚組み2つがゼーゴックの前に展開すると回転を始めた。同時に中央部の発光体に光が走り、シールド形状の縁の部分から光波を出し始めた。
「ビーム、来ます!」
ビームが直撃するがシールドに激突しかけたところで霧散した。それだけではない。続いて発射されたミサイルランチャーの直撃も殆ど何の効果も及ぼしていない。爆発や激突の衝撃による反発すら生じていないのだ。爆発による火球は、なんとシールドを避けて反対方向に向かって広がっている。タオーステイルによるシールドサークルだ。1枚、2枚、4枚組みで発生させることが出来、1枚のみの場合はMS装備火器程度、2枚の場合は相乗効果でマゼラン級の主砲出力を遮ることが出来る。4枚組みの場合はそれ以上―――対"整合"を考えての機能だ。勿論、フィン・ファンネルのように4枚以上でIフィールド・バリヤーを発生させる能力も持っている。
「0083段階で完全なオーバーテクノロジーの塊かよ……」
マニュアルを流し読みして頭に叩き込んだが、目の前で巡洋艦の砲撃が霧散する光景を見るとやはり技術のチートさ加減を改めて感じずにはおれない。今の光景で異常なのは、巡洋艦とはいえ主砲が直撃したにもかかわらず、そして実弾兵器が直撃したにもかかわらず、反発すら生じなかったことだ。
セニアから渡されたマニュアルには、Iフィールドを採用しただけではビームにのみシールド効果が生じるため不採用とし、斥力場発生装置を備えた偏向シールド技術を採用したたのことだ。これにより、実弾及びエネルギー兵器のジェネレーターが起動し続ける限りの排除が可能になった、とは彼女のマニュアルの言である。先ほどの火球が反対方向にのみ広がったのは斥力場のおかげだ。
「顔だけがガンダム、と」
「もう顔すらガンダムじゃないだろ」
キットの発言に突っ込んでおく。デュラクシールといえば、射程は短い、装甲は薄い(魔装機神では背後必殺→再攻撃→終了)と、完全なかませ犬機だったはずだ。確かにセニアの思い入れも良くわかるのだが、選択理由が「とりあえずグリプスと第一次ネオジオン抗争ならこれでいけるんじゃね?」だった事を思えば、隔世の感が強すぎる。なんでこうなった。
「発進準備完了しました」
通信に準備完了の報告が入った。それに頷くと、通信回線をゼーゴック側に向ける。
「ホルバイン、この後の任務はわかっているな?」
「了解です、若。シーマ様、シーマ様の連れてくる残党を回収します。本当ならこのまま地球軌道にエントリーしたいんですがね」
苦笑する。史実ならば一年戦争のときにサラミス4隻を道連れに戦死しているはずのホルバインだが、この世界では技術試験隊に出向することも無く、海兵隊員としての任務を果たし続けてシーマ姉さんの部下だ。海兵隊でのあだ名は"ほら吹き"ホルバイン。祖父が漁師で地球で海に潜り続けているという法螺を初対面の人間には必ず言う。
「そういうな、"素潜り"。出番は考えてある。勿論今じゃないが」
「楽しみにしてますぜ、射出します!」
リニアカタパルトが動き、デュラクシールが射出される。"素潜り"とはホルバイン自身が名乗りたいあだ名だ。祖父が漁師ですもぐりが上手かった、と言うのがホルバインの主張だが、真実はともかくとしてゲルググ、そしてゼーゴックを用いての敵への突進の上手さを否定するものはいない。"素潜り"の由来は敵の直上から真逆さまに接近する様子を海にもぐる自分にたとえた、というが、言うだけはある。そしてその名に違わぬ動きで連邦艦隊の陣形内部にゼーゴックを侵入させてくれた。
トールはため息を吐くと人差し指と中指を額に当てて敬礼の真似事をする。そして意識を戦場に向けた。
この機体は外見こそデュラクシールだが中身は完全に別物だ。スパロボやOGシリーズ、宇宙世紀他、呼び出した世界諸々の技術が融合してまさに化物を構成している。それでも東方先生に勝てるかどうかわからないところがあの人の恐ろしさだが、これだけは言える。東方不敗以外ならば勝てる、と。……まぁ、νガンダムやサザビーがあの二人で出てこない限りは大丈夫だろう、うん。
第9艦隊所属艦艇との距離を斥力場で、後方への推進をイオン・エンジンで行う。双方共に推進剤を必要としない、エネルギーのみによる推進機関だ。これにより、デュラクシールに搭載されている推進機関から"燃料"の概念が無くなり、ほぼ無限に近い航続距離を得ることとなった。積載している推進剤は、緊急の際のアポジモーター用かタオーステイル用のものだけだ。
「トール、この機体の名前は決まりましたか?」
「……むぅ」
発進の段階まで良いたくは無かったし、言わずに済ませておければそのままデュラクシールで通せたのになぁ、と思っていたがそうも行かなくなってしまったようだ。まぁ、勿論月に帰ればセニアになんと名前をつけたのか言わなくてはならないわけで、問題を先送りしているだけに過ぎないわけだが。
しかたない。なるようになるだろう。型式番号どうしよう。ああ、もう。
「機動戦士ガンダム・チート、出撃する!」
気合ではなく恥ずかしさと共に叫ばれたそれは、とりあえず聞こえていたらしいものたちを苦笑させた。