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No.22507の一覧
[0] 機動戦士がんだむちーと【多重クロス】[Graf](2014/07/27 19:00)
[1] 第02話[Graf](2010/11/08 12:16)
[2] 第03話[Graf](2010/10/18 06:59)
[3] 第04話[Graf](2010/11/08 12:16)
[4] 第05話[Graf](2010/11/21 08:24)
[5] 第06話[Graf](2010/10/21 09:52)
[6] 第07話[Graf](2010/10/23 23:30)
[7] 第08話[Graf](2010/11/08 12:17)
[8] 第09話[Graf](2010/10/23 08:33)
[9] 第10話[Graf](2010/10/23 17:06)
[10] 設定集など(00-10話まで)[Graf](2010/11/06 11:04)
[11] 第11話[Graf](2010/10/27 05:15)
[12] 第12話[R15?][Graf](2010/10/27 05:16)
[13] 第13話[Graf](2010/10/25 21:22)
[14] 第14話[ネタ][Graf](2010/11/08 12:17)
[15] 第15話[Graf](2010/11/08 12:17)
[16] 第16話[Graf](2010/10/30 21:19)
[17] 第17話[Graf](2010/10/30 15:05)
[18] 第18話[R15][Graf](2010/10/30 21:24)
[19] 第19話[Graf](2010/10/30 21:21)
[20] 第20話[Graf](2010/10/31 14:30)
[21] 設定集など(11-20話まで)[Graf](2010/11/06 11:04)
[22] 第21話[Graf](2010/10/31 14:31)
[23] 第22話[R15][Graf](2010/11/12 11:21)
[24] 第23話[Graf](2010/11/12 11:21)
[25] 第24話[R15?][Graf](2010/11/08 12:18)
[26] 第25話[Graf](2010/11/02 16:55)
[27] 第26話[Graf](2010/11/06 10:59)
[28] 第27話[Graf](2010/11/08 12:18)
[29] 第28話[Graf](2010/11/06 11:01)
[30] 第29話[R15?][Graf](2010/11/03 12:00)
[31] 第30話[Graf](2010/11/08 12:19)
[32] 設定集など(21-30話まで)[Graf](2014/07/27 07:34)
[33] 第31話[Graf](2010/11/06 11:08)
[34] 第32話[Graf](2010/11/06 21:39)
[35] 第33話[Graf](2010/11/07 16:59)
[36] 第34話[Graf](2010/11/08 02:01)
[37] 第35話[Graf](2010/11/09 05:33)
[38] 第36話[Graf](2010/11/09 05:32)
[39] 第37話(R15 一年戦争終了)[Graf](2010/11/10 21:11)
[40] 設定集など(31-37話まで)[Graf](2014/07/27 07:34)
[41] 第38話(R15 戦間期前半)[Graf](2010/11/12 11:25)
[42] 第39話(R15)[Graf](2010/11/11 10:20)
[43] 第40話[Graf](2010/11/11 23:02)
[44] 第41話[Graf](2010/11/12 11:41)
[45] 第42話[Graf](2010/11/15 04:51)
[46] 第43話[Graf](2010/11/14 12:40)
[47] 第44話[Graf](2010/11/15 04:52)
[48] 第45話[Graf](2014/07/29 19:39)
[49] 第46話[Graf](2010/11/15 04:53)
[50] 第47話[Graf](2010/11/14 12:44)
[51] 第48話[Graf](2010/11/15 21:23)
[52] 第49話[Graf](2010/11/17 12:03)
[53] 第50話[Graf](2014/07/29 19:39)
[54] 設定集など(38-50話まで)[Graf](2014/07/27 07:35)
[55] 第51話[Graf](2010/11/20 12:13)
[56] 第52話[Graf](2010/11/19 21:13)
[57] 第53話[Graf](2010/11/20 12:18)
[58] 第54話[Graf](2010/11/20 18:20)
[59] 第55話[Graf](2010/11/23 16:11)
[60] 第56話[Graf](2014/07/29 19:39)
[61] 第57話[Graf](2010/11/23 16:12)
[62] 第58話[Graf](2010/11/25 23:37)
[63] 第59話[Graf](2010/11/27 14:09)
[64] 第60話[Graf](2010/12/02 03:42)
[65] 第61話[Graf](2010/12/05 19:08)
[66] 第62話[Graf](2010/12/05 20:11)
[67] 第63話[Graf](2010/12/09 23:45)
[68] 第64話[Graf](2010/12/20 04:54)
[69] 第65話[Graf](2010/12/20 06:47)
[70] 第66話[Graf](2011/02/09 20:31)
[71] 第67話[Graf](2011/02/24 22:50)
[87] 第68話[Graf](2014/07/27 03:12)
[88] 第69話[Graf](2014/07/27 07:31)
[89] 第70話[Graf](2014/07/27 07:31)
[90] 第71話[Graf](2014/07/27 07:32)
[91] 第72話[Graf](2014/07/27 07:32)
[92] 第73話[Graf](2014/07/27 07:33)
[93] 第74話[Graf](2014/07/27 18:50)
[94] 第75話[Graf](2014/07/27 18:51)
[95] 第76話[Graf](2014/07/27 18:52)
[96] 第77話[Graf](2014/07/29 19:40)
[97] 第78話[Graf](2014/07/29 19:40)
[98] 第79話[Graf](2014/07/27 18:53)
[99] 第80話[Graf](2014/07/27 19:00)
[100] 設定集(51-80話)[Graf](2014/07/27 07:36)
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[22507] 第66話
Name: Graf◆36dfa97e ID:00f883d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/09 20:31
 一日が変わったが、まだ日が昇っていない0083年11月12日午前2時12分(コロニー落着まで1402分)。トール・ミューゼル率いるMS隊はNシスターズへの帰還を果たした。現在、グラナダ市郊外のマスドライバー施設では施設に立てこもりを続けるジオン残党軍の残存戦力とNシスターズ特務陸戦隊との間で歩兵戦が続けられているが、戦闘自体は収束の方向に向かっている。

 マスドライバー施設には月面の各恒久都市を結ぶ連絡ポートも併設されているため、人質になりかねない旅行客の安全確保が最優先だったが、こちらにも問題が無いという報告が戻ったトールに届けられた。同時に連絡ポート待合室にてシャア・アズナブルを含むエゥーゴ御一行の姿が確認されている、という報告もあったが、何を考えているのかが気になって仕方が無いけど後回しにすると決めた。

 色々と出来事が起こり始めているが、まず何よりも休息と次の出撃に備えること、と判断したトールは疲れた体を格納庫に併設されているパイロット用の仮眠室に入った。

 格納庫ではヴァイサーガを初めとする出撃機体の整備が急ピッチで進められている。その間、戦闘の疲れを癒すために眠っておく、と言うのはパイロットとして当然の行為だった。Tシャツに半ズボン姿というラフな格好で、仮眠室と言うよりはほとんど寝室に近い設備が整えられている部屋のベッドに身を横たえ、彼は眠りについていた。もはや当然のごとく、シャツ姿のハマーンも寄り添うように体を横たえている。

 寄り添う二人の寝顔に微笑ましさと少しの嫉妬を感じながら、ミツコ・ミューゼル、GP社専務取締役は仮眠室を出た。新型量産MS、及び新型機開発計画の書類を手渡すことを口実に、コロニー落着阻止に何とかして関ろうとするだろうトールを放っておけなかったことがここに来た理由だが、流石に疲れきって眠る二人を起こすような真似は出来ない。廊下に出ると、奥にわざとらしく口元に手を当てているセニアが見えた。

「なによ、もう」

「トーラスにエアリーズ、量産型ゲシュペンストMKⅡの書類。それに"可変MS開発計画"!今日必要な書類じゃないでしょ。素直じゃないんだから」

 セニアの言い様に少しカチンと来る。確かに素直すぎる、と言うかそれこそ犬のように傍から離れないハマーンが羨ましくなる事はある。でも、それは……

「それはあなたもね、特機系の機体はテューディが専門でしょ?何でここに残っているのよ」

「……トールはさ、あたしがもう一度設計しよう、って思えた切っ掛けだからさ」

 照れたように語り出すセニアにミツコは面食らった。この天邪鬼がここまで赤くなるとは。ハマーンの件で解っていたことだけど、あの男は、まったく。これだから油断が出来ない。その癖、無自覚に他の女に粉をかけるし。あの金髪、絶対に近づけないわ。

「あたしは戦い上手くないからさ。整備した機体を完璧に仕上げて送り出すだけ。でも、それだけじゃ我慢できないんだよね。設計して、充分安心できる状態で戦ってもらいたい、って思う。けど、そんなの無理よね。アンタもでしょ?」

 セニアが続けた内容にミツコは頷いた。自分に出来ることは政治と経済。金と物と人を動かして、トールが動きやすい環境を作ること。でも、動きやすい環境を作ったとは言っても戦場での戦いまで補えるわけではない。高性能な機体を作れる環境を整えても、作れて整備できる人間がいなければ意味は無い。タダの金持ちとして生きるならばともかく。

「……言い始めたら止まらないからやめておくわ。セニア、間に合いそう?」

 セニアは頷いた。彼女曰く、機体の使い方が荒いところはトールとハマーンはそっくりだから、出撃ごとに関節とスラスター類のチェックが欠かせない。それに、今回はファンネルに光刃閃と、機体と肉体双方に負担がかかる装備を使用している。ハマーンのニュータイプ能力の向上が著しいせいもあってか、現状の(世界の)技術段階で実現可能な装備ではパイロットに機体が追いつかないくらいだ。

「ま、チェックはほとんど終わったから、これから交換作業ね。8時くらいには出撃できるわ。私が出るのはパーツの搬入が終わってからだから、あと30分ぐらい余裕あるけど、お茶でもする?」

 つまり、今は彼女は手が出せない、と。ミツコは嫣然と微笑んだ。

「ごめん、私も寝るわ。フォン・ブラウンから戻ったばかりだから。あ、セニア。可変機の書類には目を通しておいて頂戴。去年アナハイムに合併されたハービック社だけど、技術陣の一部が連邦軍の研究本部に移ってるの。ギャプランやアッシマーに発展すると思うし、対抗する機体必要だしね」

 ずるい、と言いたげに見つめるセニアを尻目に、ミツコはまずはシャワーと歩みを速めた。




 第66話



「水天の涙は失敗したか」

「攻撃を行ったのは月第一艦隊。……連邦軍への陽動作戦が上手く行かなかった事といい、茨の園の襲撃といい、月の動きは妙だな」

 アクシズ先遣艦隊との通信、モニターに映る旧友にデラーズは鼻で笑い返した。

「今更、よ。連邦軍の部隊の中では最精鋭にして最高の装備を誇る月第一艦隊、その戦力をコンペイトウ鎮守府艦隊と共に拘束し続けただけでも良しとせねばならぬ。元々、キシリアの開発したアレは、生物兵器として使用した場合には毒の面が強すぎる。連邦を必要以上に追い込むことは得策ではない。で、あろう?」

「……別の狙いもあったのではないか?」

 モニターに映るハスラーにデラーズは笑い返した。ハスラーの旗艦、グワジン改級"グワンザン"の艦橋に、アクシズで勢力を増している強硬派のシンパが少ないことはガトーが確認している。当然、デラーズのグワデンの艦橋にもそういった人種はいない。親衛隊第一艦隊を構成していたころ以来の信頼のおけるスタッフだ。

「ハスラー、貴公だからこそ、そして今だからこそ言うがな。月第一艦隊の攻撃とキシリアの遺産。双方共に出すことで、ガラハウが出てくる事を狙っていた。あの男が噂どおり生きているはずなら、顔を出さないはずは無いだろう。しかし、存外に奴も我慢強いらしい。いや、してみると本当に死んでいるのかもしれん。……まさか、出てきたのが全く別のものども、とはな」

「私は、あれを"ア・バオア・クーの騎士"一味の者と思っている。それはともかく、ガラハウ閣下が戦死なされていたとしてもキシリアの遺産となれば姉のシーマ大佐が出てくるはずだろう。結局、キシリア配下のシャアによって閣下は討たれたようなものだからな。"キシリア"と聞けばシーマ大佐が出て来ないはずが無い。……本当に戦死されているのであれば」

「まだお前はトールが生きている方に賭けているのか」

 デラーズの問にハスラーは笑った。二人の間には友人関係があるが、アクシズに赴任して久しく、一年戦争時に昇進の機会が無かったユーリ・ハスラーは先任順位でいえばトールの下になる。故に敬語がその表現に混ざるが、デラーズはトールよりも上だからこそこんな変な言葉遣いになる。

 そして、アクシズで一年戦争を黙って見ているしかなかった部隊に取り、トール・ガラハウやエギーユ・デラーズ、"ソロモンの悪夢"アナベル・ガトーや"白狼"シン・マツナガといったものたちが所属する親衛隊は、ギレン派及びドズルの宇宙攻撃軍にとっては羨望の的だった。そしてジオン残党軍に取り、在りし日の親衛隊は、高機動型ザク、後には新型ゲルググを駆ってルナツー攻撃やア・バオア・クー撤退戦を戦った勇者なのだ。

「ドズル閣下の行動を見ていると、どうも、な。強硬派を押さえつけることは閣下でも難しいだろう。しかし、閣下ならば抑えきることも潰すことも出来るはずだ。それなのに閣下の動きを見ていると強硬派を抑える潰すのではなく、動きをコントロールして地球圏に帰還する時期を勘案しているとしか考えられん。マハラジャ閣下が火星に移られて以来、そうした動きがアクシズでは顕著でな。どうにも勘ぐってしまう」

「確かに、な。しかし、それはこちらとて同じことだ。地球圏に残ったジオン残党は、キシリア派、ギレン派の寄り合い所帯だ。戦力として、軍隊としての体裁を保った部隊はほとんどアクシズに脱出した。結果、残ったのは良くて宇宙海賊、悪くてならず者よ。この艦隊にしても、半分は信用できるか」

 デラーズは眉をしかめた。地球と地球圏から根こそぎかき集めた戦力で頼りになったのはインビジブル・ナイツとヘルシング艦隊のみ。それ以外は総じて3年にわたる海賊行為と先の見えない戦闘で心をすり減らしたものたちばかり。明日の命の心配を三年続けることは、人を変えるには充分だ。

「もし不測の事態あらば、作戦を中止してアクシズに撤退する案もある」

 ハスラーは目を細めた。この男が撤退を口に出すのであれば、余程の事だ。しかも当然のごとく、撤退の際には連邦軍をひきつけて自らを囮にする覚悟もあるのだろう。"星の屑"作戦は、地球圏に残るほとんどの、それこそ宇宙に関しては残らずといってよいほど戦力をかき集めて行われた。そのため、この作戦が成功するしないにかかわらず、地球圏のジオン残党軍の戦力は払拭する。

 勿論、それも"星の屑"作戦の狙いだ。

 デラーズが立案した"星の屑"作戦は史実とは開始の時点から、経過はそのままだが"最終目的"が違っている。より詳しく言うならば、作戦自体の推移については史実どおりの経過をたどっているが、作戦全体が"地球の穀倉地帯壊滅により食糧難を到来"させ、"宇宙に対する食糧依存"を作り出すことを主目的とするのではなく"目的の一つ"とし、地球圏に残存するジオン残党軍のアクシズへの脱出を目的として含んでいた。

 これには、いくつかの理由がある。
 
 まず、戦後の地球における残党軍の活動が、GP社の新型空中用MS、"リオン"の投入によって壊滅状態になったことだ。北欧の森林・山岳地帯と東南アジア・ニューギニアの密林地帯を除いてほとんどのジオン残党は2年ほどの間に駆逐され(その点で、アフリカのキンバライト基地は例外的な存在だった)、地上での活動がほとんど不可能となった。特に、81年初頭、ギニア湾沿岸での戦闘でジオン残党軍のアフリカ残存勢力のうち、最大の規模を誇ったロンメル戦闘団が壊滅したことは痛恨の極みだった。

 ジオン残党地上軍に残された戦力は、地下化された要塞陣地に篭る北欧か、視界を遮るジャングルかのどれかしか生きる道は無かった。そしてアフリカの砂漠が一段落した結果、今度はジャングルがその標的とされはじめた。これでは、とてもアクシズの帰還までに地上部隊の維持・活動の余地は無い。北欧・コラ半島からのHLVによる脱出にしても、戦力を完全に休眠させる前の最後の処置だった。

 そして宇宙。地上での残党軍殲滅に比類ない成果を上げたジャミトフ少将率いるアフリカ軍が、今度は活動の場を宇宙に移してジオン残党軍の殲滅に入るという情報が連邦軍内部のスパイから寄せられると、ジオン残党軍の活動の余地は更に狭められることとなった。更に、宇宙での支持をだんだんと失いつつあることもこれに拍車をかけている。特に、マーズィムが実現可能だと思い知らされた、火星のテラフォーミングに関するニュースが大ダメージの元だ。スペースノイドを二派に分ける思想的な流れの一つが、ジオンの思想よりも強さを持ってしまった(それ以外にも戦後復興の物流を邪魔しているのがジオン残党艦隊だという側面もある)。

 これにより、親ジオンの勢力は地球圏で更に縮小することとなり、活動の範囲が狭められていく。スペースノイドの独立にしても、月とサイド1が独立してしまった現在では効果が薄い。それに、独立が出来なくても火星に移住すればよい、という手段が出来てしまったこともだ。地球圏でもっともジオン残党に好意的なのが、一年戦争で殆ど戦闘にかかわらなかったサイド4と言うのを聞けばそれが解る。

 本国であるはずのサイド3には見放され、ブリティッシュ作戦で攻撃を仕掛けたサイド2、ルウム戦役で戦場となったサイド5にも当然見放され、サイド6とグラナダ―――ひいては月面については監視が厳しくほとんど何も出来なくなってしまった。"仕切りなおし"。それを強く意識するジオン残党軍が、地球圏撤退前の最後の作戦として立案したそれが、この歴史における"星の屑"作戦だった。

「アンブロシアへの地球圏の残存部隊の集結は順調だ。既に巡洋艦6隻、輸送艦20隻以上が集まっている。海賊に零落れたものもかなり多い。中には連邦軍の拿捕船舶を使っているものもいて、危うく撃沈されかけた。ヘルシング大佐はよく取りまとめてくれている」

「寒い時代だ、我々にとってはな。ジオンにはもはや、ドズル閣下の帰還による春を待つ他はあるまい。以後数年は地球圏に対する政治工作を重ねる他は無いだろう。連邦政府内の分裂工作が欠かせぬ。マハラジャ閣下からは何か?」

 ハスラーは頭を振った。火星にジオン残党の拠点を作る、と移った筈のマハラジャ・カーン中将からは連絡が途絶えて久しい。火星の衛星軌道上、LM-1に設置中のサイド・マーズ1に入ってから火星への降下を予定していた筈が、マーズ1、1バンチに入ってから連絡が無いのだ。既にハスラーは半ば以上諦めている。息女三人のうち、二人をザビ家に危うくされそうになったことはジオンから離れるのに充分な理由だからだ。

「火星については入植が本格化する予定もあって連邦の監視がある。ルナツーの艦隊から一部を割き、火星駐留艦隊として再編する動きも。既にコロニーも四基設置されて開発関係者の入植が始まっている。現段階で20万ほどだ」

「構想は」

「中立化する、もしもの時の逃げ込み先の一つとして確保しておく分にはちょうど良い、という意見がある。入植が本格化すれば移民などで入り込める口も増えるだろう。……結果として我々も人類の生活圏を広げた、か。ジオニズムではなくマーズィムだな、これでは」

 ハスラーは其処まで言って口を閉じた。話が関係ない方向に進んでいる。そして関係ない話をした理由は一つだ。

「死ぬなよ、デラーズ」

「……」

 デラーズはハスラーをじっと見つめた。次に瞑目し、ため息を吐く。コロニー落しによる北米の穀倉地帯への攻撃。妻が農業関係者だったことで、コロニーの農業力だけではなく地球の農業力についても知る機会があったからこそ立案できた計画だ。そして同時に、それが今の地球圏にどれほどの食糧危機をもたらすのかも承知していた。

 地球圏の総人口は0083年現在113億人を数える。一年戦争での被害は52億減少した。それは良い。しかし、ここにコロニー落としによる北米の穀倉地帯の消滅が重なると、事態は史実よりも激化する側面を見せる。現在、地球に残る人口は28億ほどだが、未登録人口もあわせると容易に30億を突破する。未登録人口のほとんどが貧民階層である事を考えると、地球に流通する食糧量の減少は簡単に飢餓に、それも、異常なほどのそれになるだろう。

 そして、それによって引起される宇宙への食糧依存もまた激しくなる。飢餓の波は地球と宇宙に広がり、地球連邦の内政は破綻するだろう。ジオンへの支持は確かに獲得できるかもしれないが、それはもはや外道の所業だ。強硬派の強い意見に同調する形となってしまったことが悔やまれる。被害を受ける人口がせめて予測の半分以下であれば、デラーズは喜んで賛成しただろう。しかし、あまりに多い被害はジオン残党にとっては逆効果になる。

「もしもの際の回収は宜しく願う。外道の手法ではある、今となってはそう実感できる。……北米の穀倉地帯か」

 デラーズは自嘲するようにもう一度ため息を吐いた。



 一年を通じて肌寒い宇宙空間の生活ではなかなか味わえない暖かさを感じながら、鼻に入った何かのせいで目が覚めた。髪の毛?……なるほど。っていうか、いつの間に。目の前につむじを押し付けているピンク色をそっとつつくと息を吸った。良い匂いだ。安心できる。……ああ、もうこんな時間か。まだ少し余裕はある、寝かせておこう。

 風変わりな"布団"をそっとはいで外に出ると、備え付けの洗面所では起こしかねないと思い、少し離れたトイレのそれを使う。気分爽快とはいかないが、ずいぶんとさっぱりした。時間は午前7時42分(コロニー落着まで残り1172分)。あと2時間もすれば、GP03がノイエ・ジールと接触する時刻だ。

 洗面所から更衣室に戻り、ノーマルスーツ用のインナーを身につける。ズボン代わりにノーマルスーツの下半身部分を身につけ、上半身部分をジャケットのように着込む。すぐ出撃の予定だ。阻止限界点まで300分。コロニー地球落着まで600分の地点でやることがある。そしてそれは、地球圏に飢餓の波を広げないためにはどうしても必要なことだった。

 北米の穀倉地帯の収穫量は、地球の人口のうち、10億近くの腹を満たすに足る量だ。そしてそれが無くなり、その不足分を補おうとすれば無理が出る。乱暴な話、10億人分の食料を補おうために20億人分の食料が必要になる。何故?物流が混乱するからだ。火星への植民を間近に抱えた地球圏に、其処までの物流の余裕は無い。

「起きたの?お楽しみだった?」

「……性質の悪い冗談はやめてくれ」

 更衣室を出た早々に軽口を仕掛けてきたセニアにやり返す。作業着が機械油で汚れているから、おそらく今までずっと整備をしていたのだろう。それにこの軽口。どうやら、ミツコさん突撃の場にはいたらしい。鼻で笑ってからこちらに書類を回してくる。GP社のファイルだ。どうやら、ミツコさんの持ち込んだものらしい。

「連邦軍の可変機開発計画。意外に進んでいるみたいよ」

 言われて何で今頃と思いつつ冊子を開いてみると、MSに対応しきれない一年戦争時の航空機パイロットを対象に、戦闘機の延長線上に可変MSを設定する動きが生じていると書いてある。

 可変MSを導入する際の、特に戦闘機型として用いる場合の最大の難点は、機体の大型化によるGの増大――特に格闘戦のそれ――だ。人間型であるMSはそれをAMBACでかなり打ち消しているため、高速で戦闘してもそれほどGを感じることは無い(それでも程度問題だが)。しかし、高速による一撃離脱戦法をとるならばともかく、対MS戦闘を考えた場合、これまでGの増大で等閑に付されてきた格闘戦能力が必要になる。

 これまではその問題が解決できなかったからこそ連邦軍も一年戦争以来MSを投入してきたわけだが、一部エースパイロットを対象として導入が計画された背景には、耐Gスーツの大幅な改良が契機となっているらしい。高いGのもとで戦闘を行うためには、プラスG状態で発生するブラックアウトを防止する技術が必要だが、これまでは圧力によって下半身を圧迫することで、ブラックアウト時の虚血状態を防止する対策が採られていた。しかし、この対策は下肢からの静脈環流が増加し、心臓に対する負荷が増して心不全を助長する可能性が指摘されている。

 其処まで読んで、そういえばガンダム・ユニコーン用のノーマルスーツはそれらを防止するために特殊な薬剤を投与していた形態になっていたな、と思い出したが、どうやらこれはそれを更に推し進めた形らしく、外見からしてノーマルスーツというより甲冑のような形態となっている。どうやら、この甲冑の裏側に対策が施されているらしいが、細かいところまでは不明のようだ。

 戦闘機型をとることの出来るMS。その最大の利点は速度の向上と航続距離の拡大にある。これまでのMSとは違い、空力的に優れた形状を持つ航空機型の機体は、背面部スラスターによる加速を機体全体にスムーズに行き渡らせる事が出来る(だからこそGの問題が発生しやすいのだが)。これまではGの問題が解決できなかったが、解決さえされてしまえば、一年戦争時の技術段階であっても、性能面では第二次ネオジオン抗争時のMSクラスの性能を実現できる。

 可変MS用の装備を見ると、出力を絞った代わりに速射性を持たせたビームライフル(キャノン。当然溜め撃ちも出来るようだ)、近接戦闘時には機体の前半部分が胴体に、後半部分のブースター下部が脚部に変形し、AMBACを動作させる。MS形態時の運用は宙間戦のみを基本としているため、MSのように歩行などを考えなくて良い分、運用のほとんどが航空機と同じになる、と言うことらしい。

「厄介よねー。ねぇ、マクロスとかいう作品に似ているけど、入れるの?」

 この機体を最初に見たときに考えた疑問がそれだ。この機体が運用され始めた場合、Z計画を先行実施して可変MS群に対応するか、それともマクロスを導入するかをまず考えた。しかし、マクロスを導入することは技術流出を考えると難しいし、アナハイムの動きが見えない以上、下手にZ計画を如何こうするわけにもいかない。まだグリプスではないのだ。

「とりあえず、こちらでもビルトラプターなどの開発は進めておこう。R-1のように可変可能な形でエルシュナイデを考える必要があるだろうな。Z計画に参入してZ+だとかを考えるのもありだが、それはグリプス期に回したい。……どちらにせよ、コロニー落しにはもう、間に合わん」


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