UC0080年1月1日。月面恒久都市アンマンにて正式にジオン、連邦間の休戦協定が成立。ここに、一年戦争、別名をジオン独立戦争は終了した。
カラマ・ポイントに集結した艦隊はドズルの待つアクシズに大半が移動したが、ギレン派であるデラーズはこれを拒否し、サイド5のあるL1ポイントにある重力溜、暗礁宙域に身を潜める事を決定した。デラーズ・フリートの結成である。
シーマ艦隊も勧誘を受けたが、水面下でのジオン残党の支援を行うため、と称して月面とゼブラ・ゾーンに潜伏する事をデラーズに伝え、Nシスターズにその本拠をおいた。以後数年間、完全に活動を潜める事を連絡し、潜伏することとしている。また同じ月に太洋重工はこれまでグラン・パシフィック社とダブルネームを使用していたが、以後が社名をグラン・パシフィック社で統一する事を発表。以後、GP社として軍需産業の一角を占めることになる。
同年6月。アフリカで反抗を続けていた公国軍のうち、降伏に応じた部隊の武装解除がエジプト、および南アフリカで行われたが、公式発表とは異なり、アフリカ各地にいまだ多数の残党が潜伏している状態が変わらず、これら残党に対処するため、連邦軍治安部隊は以後、アフリカ・キリマンジャロ基地を本部としてアフリカ大陸の残党制圧に乗り出していくこととなる。
第38話
戦争が終わって半年、再度月面に、トール・ガラハウとしてではなくトール・ミューゼルとして居を落ち着けた私は今、修羅場の真っ最中にいる。目の前ではようやく面と向かって向き合ったハマーンとミツコさんが火花を散らしているのだ。話の内容も黒い黒い。一年戦争も数えて一年半で知性と美貌を遺憾なく成長させたハマーンは、『エロスは程ほどにな』事件以来、少女から大人になる直前の姿を惜しげもなく使ってアプローチを仕掛けてくる。ミツコさんにはそれが我慢ならないらしい。
いつか、その点について年齢変更できるんだからミツコさんやってみたら、といったら涙を流して怒られた挙句、ロリババァ形態に変身して三時間ほど説教を受けた。どうやら、自分自身で今の自分が最盛期だと思っており、それに自信も持っているが、やはり隣の田んぼが青く見えてしまうのが自分でも気に食わないらしい。……いや、その後で勿論おいしくいただきましたよ?……もう知るか自重しない。というか、賢者モードを維持しておかないと……
話がそれたが、肉体関係こそ結んでいるのにスキンシップなどの接触の総量はハマーンが優位を維持している状態が彼女には―――というか、一年戦争中以来の張り付き癖がエスカレートしているのだが―――気に食わないらしく、公式なパーティでもなければ二人きりになれないことが嫌なのだそうだ。近頃ではどのようにしてハマーンを排除するかに頭を悩ませている。こういう時は黒さよりも可愛さの方が立つんだからなぁ。
「……あれ?これいい傾向じゃないの?」
「……その発言の真意は色々気に食いませんが、まぁ、トール。これで我が社の看板商品が売りに出せますわ」
ため息を吐いてそう言ったミツコさんの言う看板商品とは言わずもがな、OGシリーズの敵ロボで大多数を占める、リオンのことである。OGシリーズの「The 雑魚」とくればリオンというぐらいにメジャーなアーマードモジュールだ。
アフリカの奥地にひっそりと暮らすジオン・ゲリラの燻り出しには流石の連邦の大兵力もてこずっているようで、AE社とGP社に地上で用いられる空中運用可能なMSの開発を持ち込んできた。確かに、歩いてのこのこ移動するのにアフリカは広すぎるし、気候も辛い。敵を見つけても戦力を集中させている間に逃げられてしまうし、来年中に汎用MSとして採用が決まるだろうGMⅡを機動的に運用するための環境を整えるなど、お金がかかりすぎるのだ。
だから、空を飛べるMSでレッツ・ゴーという訳なのだが、早速AE社がこけてくれたのには大爆笑した。アッシマーの原型らしい機体を出してきたが、大型過ぎて取り回しが難しく、また変形して飛行する段階で盛大にこけた。そのビデオをどこからか入手してきたミツコさんが、このたびめでたくゴップ大将の退任準備の一環で兵站総監部総監となったマネキン少将に、
「なにこれ?出来の悪いコントですわね。我が社の製品を信頼しないからこうなるのですわ、少将。いい加減、あのバカどもとは手を切ったらいかが?」
と嫌味を炸裂させていた。勿論マネキン少将も手を切りたいが、手段を選ばぬロビー活動と箱の存在が、まずAE社を選択させているらしい。しかし、今年からは移民問題評議会にカナーバ下院議員とグリーンヒル上院議員が入るのが決まったこともあり、公正なトライアルが始まりそうなことも確かだ。
そして、このアッシマーの原型に対してミツコさんが売り出したのが、リオンなのである。飛行可能な段階まで極端に軽量化を推し進め、33tまで軽くした機体に90mmマシンガンとグレネード、オプション装備でレールライフルまでつけられる。ジェネレーターも小型化する必要があるため、ビームライフルこそ運用できないが、性能的には「空飛ぶ陸ジム」である。こんな商品が売れないはずが無い。
また、投入される戦場を共通規格のバリエーション機によって選択できることも評価された。またそのバリエーションも豊富で、砲撃戦用のバレリオン、海中用のシーリオン、指揮官用のガーリオンと仕様の変更で多様な重力下環境に対応でき、しかも整備部品が完全規格化されている点は買う側としてもお得だった。市場の会社別需給バランスを考えて宇宙用のコスモリオンは出さなかったが、それでも、地球上に展開する連邦軍では貴重な機動戦力としての位置を占めるだろう。
目の前で、モニター時代から考えれば何度目になるか解らない喧嘩(本人たちによればじゃれあい)を尻目に部屋を出ると、格納庫に足を向けた。恐らく、この時期の目的はデラーズ・フリートのコロニー落としによる北米への被害軽減だ。アレで北米の穀倉地帯が全滅し、地球全体規模での食糧難が発生、治安状態は一気に悪化し、連邦政府への反感が高まるからだ。
それを阻止するためには色々準備をしなければならない。
まずはリオンの完成にミツコさんが喜んでいるのはわかるが、地上用のMSを開発し、それが連邦軍に採用されると言うことは、間接的にジャミトフの戦力をアップさせることになる。となると、OG世界でリオン系アーマードモジュールが世界を席巻した最大の理由、テスラ・ドライブが問題になる。使い安すぎ、応用が利きすぎるのだ。さすがビアン・ゾルダークというべきか。
そのため、テスラ・ドライブはまだブラック・ボックスにしたい、だからミノフスキー・クラフト技術で代用することとし、代わりにミノフスキー関連技術発展を加速させたが、無計画な転用を防止するため、それなりのジェネレーター出力を必要とすることとさせた。この難しいにも程がある要求を叶えてくれた人間にはぜひとも礼を言わなくてはならない。
「あら、何しに来たのよ、トール」
「いや、お礼を言いにね、セニア」
セニアにはこの半年、本当にお世話になった。勿論テューディもそうなのだが、ワンオフ機体専用のメカニックと順調にマッドになりつつある彼女はやはり怖い。また、年齢も私のこちらに来た年齢と同じくらいの27歳のため、あっちの願望が強く、会った際には必ず退路を確保しておかなくてはならないのだ。結婚を前提としたお付き合いではなく、結婚を確定させるための襲撃とかないだろ。……胃が痛い。まぁ、いい。いや、良くないがいいのだ。
それに、セニアには趣味的にも一致したところがある。メカ論議だ。
だって、ミツコさんは売れるか売れないかでしか話にならないし、ハマーンはそもそも話がわからない。話していて面白くないのだ。メカ好きとしては。誰しも茶のみ話で考えないだろうか?「ボクノカンガエタサイキョウノガンダム」とか。実際、セニアのそうした面は、能力の面ではともかく思想的に問題がありすぎるような気がしてならないビアン博士と比べても遜色ない。彼女とテューディのおかげで、バンプレスト・オリジナル系機体のマッチング問題が一気に解決したのだ。そして、今回のリオンの件もそうである。
え、テューディ?話した途端に話した内容の機体の作成を始めるから2,3度話した後は回避回避。
「ふっふーん、どうよリオンは!?アンタの無茶な要求、全部通してあげたんだからね!感謝しなさい!」
「ミツコさんも大喜びです。ありがとうございます……」
時代が平穏となったことで暇になったおかげか、ミツコさんが、ただでさえ様々な制限をかけたものだから、それを理由に色々とちょっかいを出してくるようになったのだ。今回も、あんまりテスラ・ドライブを公開したくないといったら「飛べないリオンは鉄くずですわ!……年100回+で手を打ちましょうか?」とかいって来た。そんな条件飲みたくない。
それを如何にかしてくれたのが目の前のセニアだ。本当に感謝感謝。確かにリオンは優秀で、テスラ・ドライブが不可欠なのもわかる。しかし、重力を軽減して浮遊するって言うところがヤバいんだよ、ミツコさん。格子状態に粒子を並べてその上に「乗る」形になるミノフスキークラフトと、重力そのものを軽減させてしまうテスラ・ドライブは流石に……
「まぁ、ねぇ。一歩間違えたらブラックホール・クラスターだもんねぇ」
思わず内心が漏れていたようだ。そう、この以心伝心の発想がメカ好きでないものにはないのだ。うれしくなった私は思わずセニアを抱きしめてしまった。ミスマッチング問題を解決してくれたことといい、テスラ・ドライブの問題を如何にかしてくれたことと言い、そしてこの考えの合うことと言ったら!料理の腕さえ見なければ、性格の合うこと最高の女性である。
……そして、抱きしめた後で思い出したが、こういう行為が地雷を自分で埋設して自分で踏み抜いていることに気がついて蒼くなった。ここら辺、ハマーンとのスキンシップが多すぎるので基準がいい加減になっている。反省だ。
などと思っていたらセニアの力が抜けてくたっとなってしまった。いかん、力を入れすぎたらしい。顔を真っ赤にしてのぼせたような感じになっている。むぅ、脇を強く締めすぎたか?……背筋に走る感覚。前に何度か感じた感覚だ。……まさかなぁ、ミツコさんやハマーン、テューディはそれなりに重い理由あったけど、セニアにはなぁ……。
まぁ、いい。深く考えたくない。システムにまで胃潰瘍になれとか言われるとか、呼んだのお前だろとか突っ込みたくなった。開き直れとか言われたが、それをすると攻撃してきそうだ。男だから心が動かされたのは私だけの秘密……だったが即座にバレた。
倒れたセニアを胸に、廊下の奥からかけてくる二人をNT能力で捉えた私は、静かに覚悟を決めた。
さて。格納庫に来た本当の理由は別にある。……と言ってももう皆さん信じてくれないでしょうね。ええ、僕の責任ですよ。格納庫を開けたらセニアを抱いた私の姿。これ以上ないくらいに浮気現場を押さえられた亭主って感じですね。ハマーンは人の心を読んで真実知っているくせに黙り込んでミツコさんの誤解を誘発させるわ……微妙に黒くなっている今日この頃です。
それはともかく……頬が痛いのは無視しますが、別の理由を見てみます。……さ、気を取り直して。
ア・バオア・クーで専用機を失ってしまった私とハマーンの新しい機体、そして新しい量産機の相談がここに来た目的。ジャミトフ一派がEXAM搭載機を運用し、一部機能がファーヴニルを再現までしている事を考えると、強化人間の投入とその使用するMSの能力は原作以上と見なくてはならない。
それに、セニアやテューディだけがマッチング可能な現在の状況も如何にかしなくてはならない。二人にはリオンの整備マニュアルもまとめてもらわなければならないのだ。実際、セニアいわく、ポイントで機体を生成しても、実機のすり合わせを行わないと性能が発揮しにくいらしい。そもそもが色々な系統の技術を混ぜ込んだため、調整しない限り実戦には耐えないと言うわけだ。やはり、専門家の協力って必要だなぁ、と再認識させられてしまった。
テューディはテューディで初めて得た自分の体に精神的にまっすぐな人に更正してしまった。どうやら、自分の体を手に入れることが第一のようで、イスマイルにしても体の所有権をウェンディ嬢に主張するためのものだったらしい、曰く「私はサイバスターより強いのが作れる」のだそうだ。マサキのことも、あんだけ執着していたのに「ウェンディのだからいらない」とか言ってますよこの人。
けれども、流石に妹を恨み続けるなんてバカらしい、という事を体を手に入れたことで気づいてくれたのは良かった。それに、開発環境を整えて力を発揮できるようにしたことで逆に感謝されてしまった。別個の人格となったことで、ウェンディに申し訳ないなんて言葉まで出てきたときには耳を疑ったのは内緒だ。
というか、ミスマッチング問題が一気に解決したのはとてもうれしかった。これならさっさと呼んでおくべきだと思ったが、まぁ、今は仕方がない。しかし、やっぱり後方支援体制の完備が戦争には絶対必要だと改めて思いました。え、機体の話?如何話しても修羅場にしかならないからさっさと逃げてきたよ!何が悲しくて自分の基地でスニーキングしながら逃げなきゃならんのだ!?
さて、何とか部屋に逃げ込んで新聞をめくると回顧記事のオンパレード。連邦軍もイメージ回復に躍起である。今日はア・バオア・クー戦が特集され、「連邦軍と戦闘を続けるジオン軍を鎮めた、"最後の勇将"ガラハウ少将」とか、「ジオン軍最後の切り札――"キケロガ"」とかいう見出しが躍っている。あんまり人目につかないようにしていたんだが、と思いながら紙面を置いた。何でグレートジオングの名前がキケロガになっているんだよ、と考えつつ、このところ買い集めている軍事雑誌を手に取る。
結構な目撃者はいたようで、ミリタリー・マガジンなどを見てみると、「トール・ガラハウ少将専用ゲルググ」として巻頭カラー掲載されていたり、「ア・バオア・クーの白い妖精」などとハマーンのプルサモールがセンセーショナルな記事で踊っている。ジオン系MSについてはミリタリーファンには垂涎の的らしく、あまりにも出所を知られてしまったので、使いどころがなくなってしまった。ドズル閣下に協力する時ぐらいにしか使えない。
そしてEXAM機との決戦に使ったヴァイサーガもそうだ。EXAM機を運用するだろうティターンズに敵だと思われているから、戦間期には使えない。使えてもグリプスまで待たなくてはならないので、Zガンダムのアムロがディジェを使っていたように、中継ぎの機体が必要なのだ。せっかく高いポイントを使って作ったのに。
さて、そろそろ二人もどこかへ行ったはず……ハマーンの探知を避けるためにダンボールを装備していこう。
ダンボール効果か、格納庫隣の技術関連施設に二人の姿はない。セニアかテューディの姿を探しつつ移動すると、設計机にセニアがいた。片づけをしている様子。話しかけてみる。話題には気をつけないとな。
なぜかと言うと、私の場合ごてごて飾りがついた系列のロボットは好きではないのだが、それを言うとセニアとミツコさん双方に怒られたことがあるのだ。ミツコさん曰く「機能的な美も重要ですが、男性が使うことの多いロボットは、見た目が重要ですわ!売り上げが数%違いますのよ!」だし、セニア曰く、「格好良いは正義!見た目で大義が決まるのよ!」とのこと。ジム顔=正義側量産機というイメージもあるし確かに納得したが、だからと言って無理やり突起を多くしたような魔装機のデザインをされるとちょっと……とかいうと殴られた。言ってはいけないことだったらしい。
「トールは丸っこい機体がすきなの?」
セニアは設計図が散乱した机を片付けながら言った。
「んー、いや、別に。実用性ある機体が好きかな。マオ社製にしても、ミツコさんの所にしても、試作機って色々設計的に無駄な部分あるじゃない。量産や整備性を考えるとそういうのは消えてくけどさ。試行錯誤の結晶としてはアリなんだけど、実際に使う番になると、あの突起って正直邪魔なような気がして。私の操縦下手のためかもしれないけど」
「あたしのデュラクシールはどうよ!?」
「グリプスあたりじゃ乗りたいな。……素直にガンダム作れば?」
セニアはあちゃーという顔になる。やっぱ言われたか、誰かに。
「だってさぁ、アレ、兄さんのために作ったんだよね。でさ、兄さんに乗ってもらうんだから強いのに乗ってほしいじゃない?だから、地上人の乗ってた最強のガンダムに似せたし、色々くっつけたんだけどね……結局さ、あんなことなっちゃったじゃない」
ふむ、と考える。セニアの兄、フェイルロードはデュラクシールの力に魅せられ、自分の短い生涯で地中世界ラ・ギアスを纏め上げようとした。本人としては出来ようが出来まいが命を燃やし尽くせればそれでよかったのだろうけど、残される人間、特に、自分の作った機体が引き金を引いたのではないかと考える人間はたまったものではないだろう。原作でもマサキ・アンドーにそれを否定されているが、こういうのは親しい人間、事情を知っている人間ほどやりにくい。
「デュラクシールの外見が問題だったな」
「へっ?」
セニアは顔を上げた。今まで考えていたのはデュラクシールの性能のことばかりで、まさか外見なんてところに突っ込んでくるとは思ってもいなかったのだ。
「ガンダムに似てるだろ?ガンダムは俺も見てきた、というか死に掛けたとおり、良くも悪くも一年戦争を変えちまったほどのMSだよ。そんなものと同じ顔が、しかも他のどの機体よりも強いって触れ込みで前に出てきてみろ。気の迷いも出ると思う。男の子なら考えないほうが如何にかしているさ」
「でもさ……」
「残酷な事言う様だけどさ、お前さんが作んなくても、誰かが作ってたぞ。あの時代のラングラン王国には、カークス将軍の作ったエウリードやらゼツ博士の作った名前忘れた奴……ああ、ガッツォーとか、似たような性能のがあるからな。テューディのイスマイルとかもそうだ。どれかに当たれば同じ結果だよ」
「でもさ……だったらなんであたしの?」
「むしろそれでよかったんじゃないか?」
トールは言った。セニアが心配になり、頭に手を置いてがしがし撫でてやる。
「妹が、自分の為に作ったマシンで死ねるんだぞ。他の誰かがバカな考えで作った代物じゃなくて。だからこそ、フェイルロードもそうしたんじゃないか?まぁ、ただの勝手な推測だけどな。辛気臭い顔すんなよ。なんなら呼んでみるか?」
セニアがハッとした顔になった。そうだったのだ。この男のシステムを使う能力があれば、呼び出せるじゃない。ポイント制チートシステム使うんなら、体だって治せる。悩んでいた自分がばかばかしくなった。気が付くと、苦笑しているトールがこちらを見ている。
「なによ」
「いやぁ、まぁ、なぁ。かわいいと思ってさ」
セニアの顔が赤くなる。まぁ解りやすい。しかし、好感は持てるんだよなぁ、こういう性格。それに、話していて楽しいし、メカ談義を心置きなく出来るって素晴しいぞ?
「ど、どうしてよ?みんなモニカの方が……トールもミツコやハマーンがいるじゃない」
「まず、俺は天然は趣味じゃない、疲れる、アンネ姉さんだけで御免。それからミツコさんは真面目モードの時は考えていることがわからなさ過ぎるから、相手にすると疲れて仕様がない。心地よくはあるし、解り安過ぎる時もあるけど、疲れる方が多いな、ハマーンがいるし。逆にハマーンはダダ漏れすぎて仕様がない。プライバシーもクソもない生活って、結構辛いぞ?もう開き直って、嫌われようがどうなろうが知ったこっちゃないぐらいに思うしかなくなる」
ふんふん、と頷きながらこちらの話を聞いてくれるセニア。また其処が良い。ハマーンは言葉を交わすより直接意志の疎通を図りたがるし、ミツコさんは聞いてくれない。いや聞かせられるようにすることは出来るんですけどそのためには心と別な部屋と防音設備の準備が必要で……まぁ、そういうときのミツコさんも可愛いんだけど。ロベルタのところからメイド服借りてきた日になんかはもう……おっとっと。
「けど、こっちとしては生まれてこの方、そんな苦労はあまりせずに、他人と言葉を交わして生活してきたわけじゃないか。そうした生活だと、相手が相手の考えを読み解いたり読ませたり、または読んでくれること前提の掛け合いってのがあるよな?そういうの、あの二人とはほとんど無理だもの。ジオンや連邦にいたときは部下とかの付き合いで補完出来てたけど、月にこもってからだと久しぶりだぞ?」
「なるほどねぇ、今昔を時めくトール・なんとか少将さんも苦労しているのね」
トールは頷いた。なんとかは酷いと思ったが、ガラハウとミューゼルを使い分けていた身からすると何もいえない。
「だったら……酒よ。テューディ呼んで一緒に飲む!あの二人、飲めないでしょ!?」
むぅ。ため息を吐くとトールは言った。
「ミツコさんは飲めるけど酒の趣味が合わない。私は飲めるけど、味があんまり好みじゃないからビールに日本酒とワインは避けたいのに、基本会食じゃワインだしな。味わからん。ハマーンは飲ませたらいけません」
セニアはうんうん頷き始めた。後ろからハイヒールの音。こんな場所でハイヒールを履いて作業するなんて一人しかいない。
「あら、テューディ良いところいるじゃない。酒よ酒!トールのおごりだってさ!」
「……ふうん。トール、あんた飲めるの?」
私は頷いた。どちらかと言うと強いほうが好きなので、あの二人と一緒だと飲めないのだ。おごりがいつの間にか決定しているところがどうかと思ったが、別に女性二人におごるくらいはなんでもないだろう。セニアとかそんなに飲めそうにもないし。
「……ふうん。セニア、前の話、乗るかい?」
セニアは頷いた。後になって、ここで何を飲もうかなどと考えていた自分が恨めしい。ミツコさん相手で飲めない酒種で苦労していたから、やっと自分の好きなのが飲めるのだ。うきうきしていても罪ではないでしょう?
翌朝。色々と難しい状態になっている部屋と、入り口でにらむハマーンを前に戦慄の朝を迎えることになる。
てへ。