「シャア大佐!戦争は終結した!連邦の艦隊も後退している!何故今尚戦闘を続けるか!?」
出撃し、連邦とジオンが停戦の区域DMZほぼ中央でシャアのグレート・ジオングを捕まえた私は言った。背後にはハマーンが付き、海兵隊は周囲を回って連邦に停戦を呼びかけている。連邦側もジオン側が協定を守るようだと納得すると、監視の部隊を残して退き始めた。
「トール・ガラハウ、いやトール・ミューゼルか!?ふふ、連邦とジオンを飛びまわる変節漢よ!まさか貴様ごときにことごとく邪魔されようとは考えてもいなかったな!月の穴熊は実は蝙蝠と!はははは、お笑い種だ!」
シャアのジオングがこちらを向く。周囲を見渡すとかなりの数のジムとボール、コア・ブースターを撃墜し、かなりのデプリが流れている。ミノフスキー粒子も濃い。見ると、ジオングの肩部バインダーが少し開き、中からミノフスキー粒子の散布が行われているらしい。
なるほど、ジオングを効率的に運用しようと思ったら、完全に敵のレーダーを潰す必要がある。ジオングを拠点防御用としてだけではなく、侵攻強襲用として考えたのか、艦隊泊地攻撃みたいな。一体、どこの伊400だ。よく見ると、背部にドムに似た形状が見える。脚のブースターと言い、おそらく、背中にはプロペラントタンクでもつけるのだろう。
「血縁で世界を語る時代錯誤男が何を。さっきは連邦の若い奴にまで言い負かされていたじゃないか、ニュータイプのなりそこない。第一、宇宙世紀に世襲とか、いつの時代の人間だよ」
通信チャンネルの先から押し殺した舌打ちが聞こえる。おっ、かなりトラウマをえぐったらしい。いけないいけない。ハマーンと接触ばかりしているから、影響されているのかもしれない。あっ、いけね。ブチっていったらしい。
「貴様!」
ジオングの両腕が伸び、両側から迫るように移動する。同時に胴体から拡散メガ粒子砲。しかし、前に来たハマーンのプルサモールのIフィールドですべて拡散しすぎてしまったらしい。ビームの残りかすのような粉光がゲルググの頭部の両側を流れていく。
「ほぅ、女に守られて良い御身分だ、少将。さすがキシリア様を使っていただけのことはある」
なんか、だんだんとシャアの台詞回しが哀れになってきた。一体どんな言葉遣いだ、これ。言った人間の知性を疑ってしまう。しかし、手を出されたからにはやるしかない。ハマーンの背後からジオングの下へと回る。当然ジオングはそれを追おうとするが、プルサモールの拡散メガ粒子砲がそれを許さない。砲数を減らした分出力が高まっており、ジオングのそれ以上だ。
その間にゲルググはジオングの真下のアステロイドベルトに入る。追ってハマーンも移動した。どうやら、戦場を移すつもりのようだ。ア・バオア・クーにも近い。面白い、乗ってやる。……ハマーン、これ以上手を出すなよ、場所が悪い。もう少し、アステロイドの中に入ってから。
「精鋭部隊を率いた少将殿の実力!拝見させてもらうぞ、幼女のお守りで腑抜けていないかをな!」
第35話
アステロイドベルトに入ったトールは連邦艦隊、ア・バオア・クーおよびジオングとの距離を確認する。停戦監視の為にDMZの中央部分に艦艇が前進してきているが……よし、ビュコックの爺さんとヤン少将に感謝だ。ホワイトベースとトロッターが来ている。連邦の艦隊も退き始めている。……そろそ、
!?
何かを感じた瞬間に影にしていた小惑星から離れ、移動を開始する。瞬間、小惑星がメガ粒子砲の直撃を受けて破砕された。
「よく動く!ニュータイプとでも言うつもりか!?」
「ジオンの子供だからニュータイプなんだろう、大佐!?お前がニュータイプだと言うなら、俺を撃墜して見せろ、このマザコン!」
そういうとフォトン・ライフルを放つ。メガ粒子砲よりも充填速度が速く、隕石やデプリによる減衰がビーム、メガ粒子よりも少ない光子を使う―――レーザーライフル。当然、ビームライフルなどとは違い掃射が可能。但しライフル形態のため、掃射は5度が限度だ。
しかし、それでも有線サイコミュのケーブルを切断する役には立つ。
「なんだと!?」
左腕の感覚が一瞬喪失感に置き換わり、復活すると同時に今度は右手でそれが起きた。これがサイコミュか!自分の延長線上にMSが来ている訳だが、逆にMSのダメージを精神的にもらうと言うことか!む?……試してみる価値はあるか。
シャアは予備の腕に切り替える。同時に対艦ミサイルを周囲に放った。別に命中は期待していない。爆発にあぶりだされてくればよい。確認。メガ粒子砲を放つが、ちいっ!あのゲルググにもIフィールド!?……いや、違うか?緑色の結晶体のようなものが一瞬……固形だった!?フィールドではない、なんだ?
しまった!
突き刺すような視線を感じた瞬間、上からの攻撃が右肩のバインダーに着弾。いや、レーザーでバインダーの先が切り取られた!ミノフスキー粒子散布装置が破損。ええい、対艦ミサイルを打たなければやられていた!あのライフルは厄介だ!
「貴様、ララァ少尉が撃墜されてもガンダムに勝つことしか考えられなかったろう!?それがニュータイプでないという証拠だ!お前がニュータイプだと言うなら、人の心の悲しさを感じ取り、その強さに押しつぶされそうになった経験があるか!?」
しかけるか、このMAは量を相手にするならまだしも、1機の高性能機相手のものではない!む……しかし、あの機体、まだ動きが目で追える。……ふふ、機体に不慣れは貴様も同じか、トール・ガラハウ!
「私の強い精神はそんな戯言など、効かぬ様だ!」
また喪失感。左腕に喪失感。クソ、腕も残り少ない……うむ、かけるか。
「効いていないんじゃない、聞こえていないんだよ!」
シャアは笑い声を上げた。良し、狙い通りのところに来てくれた!将軍だけあって、殺し合いの経験は少ないと見える!
「しかし、しかしだ!トール・ガラハウ!私はこれほどまでにサイコミュを扱える!見ろ!貴様のMSは既にケーブルの網の中、上手く引っかかってくれたな!戦いとは常に二手三手先を考えて行うものだ!」
「しまっ!?」
シャアはレーザーで切断された、使い物にならないサイコミュのケーブルそのものでゲルググを捕らえていた。ケーブルは幾つかの小惑星を伝う形でゲルググに接触している。コンソールにアラーム。サイコミュのケーブルから伝わってくるシャアの思念で、サイトロンが混線を起こしてOSに負荷を与えている。処理能力が低下し、機能が落ちていく。
やはり、シャア・アズナブルか!意志のやり取りが出来るほど覚醒はしていないが、それでも有線サイコミュ程度は扱えるか!
「ララァの苦しみを思い出させてやる!まずは一発目だ!」
その言葉と共に対艦ミサイルが発射。身動きが取れないので直撃を覚悟した。だから機体を引き離そうとラースエイレムを使うが反応がない。すぐにオルゴン・クラウドでのポーテーションも試みるが、こちらも反応がない。シャアのサイコミュとの物理的接触が、コントロールシステムのサイトロンを侵している為にラースエイレムやオルゴン・クラウドが使えないのだ。抜かった!
左脚に激突した対艦ミサイルは破壊力を遺憾なく発揮し、膝下から脚をもぎ取る。
「ほほぅ、やはりそのゲルググ、私がもらったようなジオニックの製品ではないな!外観はよく似せてある、ふふ、よく騙しおおせたものだ!しかし、良い機体だ、対艦ミサイルを喰らって膝下破壊のみとは!」
「トール!」
「来るな!ハマーン!」
「待っていたぞ、お嬢さん!」
シャアはジオングの拡散メガ粒子砲を放った。すぐにIフィールドを展開させるハマーン。しかし、拡散メガ粒子砲の目標はハマーンではない。最初からそう来ることは予想できたが、ハマーンの方は無理だ。クソ、気づけ気づけ気づけ!
「避けろ!ハマーン、狙いはお前の機体じゃ……」
「えっ!?きゃあああああっ!?」
メガ粒子砲の目標は小惑星。爆発で細かく砕かれた小惑星の玉突き事故だ。Iフィールドを貫けないなら、貫けるようなものをぶつければよい。それに、Iフィールドの正体はミノフスキー粒子の立方体。そんなところに細かい隕石などぶつけようものなら!ハマーンが落される!クソ、隕石にさえぎられてハマーンが見えない!爆発!?シャアの対艦ミサイル!?
背中に対艦ミサイルの直撃を受けたらしい。プルサモールの背面部スラスター類が無残に壊されている。
「ふふ、貴様の持っている技術とやらはなかなかのものだな!対艦ミサイルの直撃をエンジン部に受けて誘爆しないとは!君と友人になれたなら、私の理想もより簡単に実現出来たものを!」
「手前ぇ!」
「シャア!」
その叫びと共に拘束がなくなった。見ると、ビームサーベルで腕を捕らえていたケーブルが切られている。誰だ!?ハマーンか!?いや、違う。まだなんの反応もない。
違った。迫ってきたのはガンダムNT-1。通信が入っているのでモニタに出す。
「こちらは連邦軍より停戦監視任務に入った戦闘空母トロッター、艦長のエイパー・シナプスである。前方で戦闘を行っているジオン軍MSに告ぐ。ア・バオア・クー要塞との交渉により、既に各フィールドでの戦闘は停止している。MSはすぐに要塞に帰還し、連邦軍の進駐を待て!」
「うるさい!」
シャアのジオングはガンダムに向けて次々と対艦ミサイルを放つ。流石に私のゲルググを拘束したままでは無理だ。ケーブルを切り離し、新たな有線式アームを取り出し、ガンダムに向けて放つ。
「白い奴!ガンダム、貴様よくもララァを!ガラハウ、貴様もだ!」
そう来るか、もう、見境が付いていない。脇の通信装置を操作してガンダムが使用しているだろう、連邦の回線に割り込む。
「其処の白いMS!あのデカイのを落せば終わる!ジオンと一緒に戦うのが嫌なら退け!」
「あわせます!シャアは倒さなくちゃいけない敵だ!」
ガンダムと共にジオングに迫る。片足がやられているからバランスが取りにくいが、調整をしている暇はない。操縦桿の位置を不安定な位置に押さえ、正面へ向かうコースを取る。ジオングが拡散メガ粒子砲を放つが、その光を小刻みに機体を動かしながら回避する。しかし、流石に何発かもらってしまった。
「ララァを殺した男たちか!よくもララァを!彼女は、私の母となってくれる人かもしれなかったのに!」
「お母さん!?ララァが!?」
その発言にイラっと来たので、とりあえず肩バインダーに蹴りつけた。蹴りつけると同時に下に回り、ビームサーベルでブースターを切る。どうやら、アムロの方に有線サイコミュにすべて使い切っているらしく、胴体の拡散メガ粒子砲と、幾つかの単装メガ粒子砲、背部バインダー内にある対艦ミサイルだけ。まだ避けられる。
「取って付けた様にララァの死を語るな!死を心で感じていないことがお前がニュータイプでない証拠だと気づき、今から死を悼もうと考え、思い込むつもりか!?」
「私はニュータイプだ!」
シャアのジオングが拡散メガ粒子砲を放つ。左右に分かれるガンダムとゲルググ。何かを確認しあうように心を触る感触。あ、アムロくん、リアル生活充実中?セイラさんに恋しているわけね。あ、ライラさんヤザンとくっつくんだ。勿論そんなことはどうでも良い。
「違う、お前はただの人間だ!ジオンの子だと言うだけのな!自分の望む母親を、あの子に押し付けるな!」
そういうとビームサーベルを振るうゲルググ。しかし、シャアも巨大な機体を上手く動かし、回避させる。Iフィールドこそついていないが、機体のほぼすべてのパーツにビームコーティングが施されているため、ビームも接触時間を多くしないと効き目がないらしい。サーベルをまた当てるが、はじかれてしまった。
「貴様は如何だ!?トール・ガラハウ!退廃したオールドタイプを、我々スペースノイドが凌駕する日!それこそが父ジオンの唱えた!スペースノイドが切り開くべき!オールドタイプには決して不可能な新時代なのだ!我々スペースノイドから出たニュータイプにこそそれが出来ると、何故わからん!」
流石に片足ではバランスが取りにくい。スラスターの数が異なるから、姿勢制御のときにどうしても左回転が入ってしまう。クソ!一撃もらった。衝撃でジオングから離されるゲルググ。肩アーマが破損か!かまわん!フットレバーを踏み込み、ジオングの懐に再び入る。
「ならば聞く!シャア・アズナブル、いやさキャスバル・レム・ダイクン!貴様の愛した、貴様のニュータイプであるララァ・スンは……」
私は言った。年来の疑問を。
「ララァ・スンはスペースノイドか!?」
「貴様あっ!」
シャアは宇宙に咆哮した。それは、彼にとって決定的な指摘だった。宇宙世紀に宇宙の生活で生まれるニュータイプ。しかし、彼の知る最も優れたニュータイプは、地上インド出身の少女だ。地上で見せた彼女の力にシャアは歓喜した。これこそがジオニズムの結晶であると。期待の新人類、ニュータイプだと。
しかし同時に気づいてもいた。自分が出会ったこの少女が、宇宙に住むものではなく、地球に住むものだと。
怒りに任せてガンダムを無視し、トールのゲルググにサイコミュを向ける。トールのゲルググに気づいた様子はない。何の防御も機動も行わず、ビームサーベルを仕舞って腰からあのビームセイバーを取り出す。樺太で見たものと同じタイプだ。
「私の理想を否定した報いを受け取ってもらう!」
取り囲むように機体の拡散メガ粒子砲と有線ビーム砲を放つ。直撃するかに思われた瞬間、緑色の結晶に包まれて消えた。やはり!先ほどの緑色は見間違いではない!……何処へ行った!?
「シャア!」
「ガンダム!」
背後から迫ったガンダムが左肩を切り裂き、続いてサーベルを脚のブースターに突き刺す。爆発。吹き飛ばされ、また左脚のブースターが破壊されたことで機体のバランスを崩し、激しく回転するジオング。しかしシャアも去るものだ。右ブースターに装備されているメガ粒子砲をガンダムに。メインカメラが吹き飛ばされるだけでなく、そのまま横にずらして左腕をもぎ取る。
押されたガンダムが離れて体勢を立て直したところに緑色の光があふれたと思った次の瞬間。
「もらった!」
「ガラハウ!?」
オルゴン・クラウドが晴れると同時に現れたトールのゲルググがビームセイバーを振るい、ジオングの右肩を切り落とす。しかし、ジオングの方も口の部分から放たれるビーム砲をゲルググの右肩に命中させた。融解が始まり肩背部のスラスターが推進剤ごと爆発。その衝撃で左手のビームセイバーが離れる。
しかし、トールはそのままジオングに機体をぶつけると、腹部の拡散メガ粒子砲に拳を突き立てた。
「人間なんてものはなぁ、明日の心配なしに生きていければ満足だ!一日の終わりにちょっとした酒が飲めればそれで良し!昼日中にタバコが吸えればなお良し!惚れた女を抱ければ更に良し!時代や思想を弄び、人を先導することが許されている人間はなぁ、そうした人間たちの生を守るからこそ弄ぶのを許されている!貴様はなんだ!?親父とは違って思想を弄んでやることが人殺しか、ええ!?」
そう言って突き立てたこぶしを引き抜くと、残った右足でジオングを蹴る。後方にあった小惑星に激突して激しく揺さぶられる。シャアは衝撃を必死に耐えた。そこに、ゲルググは追撃をかける。
「人は革新するんだろうさ!貴様なんぞに手助けをされなくともな!」
破壊されたメガ粒子砲の発射口に両手を突っ込み、内部の配線やパイプ類を引きちぎっていく。
「人は解りあえるんだろうさ!貴様なんぞに先導されなくともな!」
ジオングの左側に回り、残った左肩をマニピュレーターでつかみ、ジェネレーターの出力に物を言わせて引きちぎり始める。本来なら機体を分解させるように独立した攻撃モジュールになるはずだが、まだ実装されていないのだ。
「そもそも、初めから人なんてものは、理解し合えなくて当然なんだよ!だから理解しあおうとするんだろうが!誰かに理解させてもらおうなんて思うほうが如何にかしているんだよ!」
「そうだ、シャア!」
頭と片腕を失ったNT-1が迫る。残った腕にはビームライフル。
「人は、理解しあおうとするから尊いんだ!理解しようとするから、誰かと思い合えるんだ!それを、誰か他の人の手でなんて、そんなの出来ないひとの妄想だ!」
アムロがビームライフルを放つ。シャアもスラスターでこれを回避する。回避するだけなく、アステロイドにゲルググを激突させ、機体から振り落とす。しかしシャアはそれを無視してガンダムに向かった。
「アムロ・レイ!」
「だからあなたはララァを殺した!あの人は戦場に来るべき人ではなかった!」
アムロはビームライフルを放つが、弾切れのようだ、捨ててそのままビームサーベルを引き抜くとジオングに迫る。ジオングも口部ビーム砲で迎撃するが、先ほどと同じく、ビームサーベルをビーム砲の軌道とあわせ、出力が強くはじけないのを見ると、軌道を逸らしにかかった。ジェダイすぎる。
「ララァが望んだことだ!」
「愛しているなら、止めるべきだ!シャア!あなたは結局、自分ひとりか愛せない男だ!」
そのまま接近したガンダムは、叫ぶと同時にジオングの腹部にビームサーベルを突き立てた。トールも同時にビームサーベルを胸部につきたてた。
「「キャスバル・レム・ダイクン!」」
「アムロ・レイ!トール・ガラハウ!」
シャアは叫ぶと同時にジオングの頭部を離脱させ、ジェネレーターに向けて口部ビーム砲を放つ。機体を爆発させて巻き込む事を悟ったガンダムとゲルググはビームサーベルを捨てて離脱に入る。
そして、次の瞬間、グレート・ジオングは爆発した。