UC0079年11月7日。オデッサ作戦開始の日である。オデッサ作戦では地上に残ったマ・クベが最終的に核ミサイル発射を命令するが、エルランから偽情報として、ジオン側が再度の核攻撃を行った際に備え、連邦軍が核ミサイル攻撃の準備を行っている可能性が高いことを伝えるとその可能性はなくなった。既に連邦製MSの登場により、戦場での絶対的有利を確保できなくなっていたジオン軍に、自ら核を使用して南極条約を破ることが出来なくなっていた。
実際、マ・クベはそれでも核ミサイルの使用を考えたが、この世界での彼はジオン地球攻撃軍司令ではなく、その下の欧州方面軍の総司令であり、核ミサイルの発射権を握っているキシリアがそれを却下した。キシリアにしてみれば、ジオン軍の地球撤退が避け得ないものであることは明白であり、その敗北が決定的な戦局において更なる不利を呼び込むことはできなかったのである。
それはともかく、11月6日にワルシャワに総司令部を構えた連邦欧州軍は旧世紀、20世紀の最初の半世紀中に「カーゾン線」と呼ばれた地域を最初の戦場として激突していた。特に、戦線北部からジオン軍支配下のサンクト・ペテルブルクに向けて進撃を開始した欧州軍第1MS師団の進撃は快調で、先頭を勤める第101MS連隊および後続の第102MS連隊は、最新鋭機ジム・コマンド寒冷地仕様を装備して戦局を有利に進めていた。
これに対し、東部戦線(シベリア)を担当するグエン=バオ=ハイ中将率いるアジア方面軍の攻撃は低調だった。当然、戦力に不足があるわけではなく、既にシベリアを覆っていた寒波の影響が強い。また、アジア方面軍は欧州方面軍に比べ、寒冷地仕様のジムが数少なく、また、最新鋭機のジム・コマンドではなくザニー、ジム初期型を主力としていた。
まぁ、実際ジム・コマンドを現在装備しているのは第1MS師団の2個連隊と他に戦闘団規模で1つ、アジア方面軍には合計3個連隊しかなかったのであるが。ただし、欧州方面軍は後期生産型ジム(ジム改)を主力として投入しており、余剰のジム、ザニーを北米方面軍、アジア方面軍に回すという主旨で戦力配置を行っていたため、アジア方面軍は補給を樺太および日本に頼るしかない現状で、しかも自軍の装備する機体に部品の互換性が少なく、正面戦力ではなく稼動戦力に問題を残していた。しかも、樺太は1日の襲撃で基地機能を低下させており、
それが、結局は整備に負担を強いる寒冷地で暴露された格好になり、進撃速度が低下している。但し、それは戦力自体が付きかけているジオン地上軍も同様で、既に一部基地では軌道上への脱出も開始されているなど、戦線の整理縮小が始まっていた。
11月4日、シベリア戦線を突破したグエン少将肝いりの第33独立混成MS旅団が天山山脈戦線を突破。指揮官に抜擢されたコジマ中佐(オデッサ戦後に大佐)率いる部隊は地球戦劈頭に占領されたバイコヌール基地の攻撃に成功。HLV発射システムを破壊したため、この地域の全ジオン軍が残るHLV基地であるセヴァストポリ、ボルゴグラード、カザン、オデッサを目指して退却を開始したため、一週間の苦戦が報われた格好となった。しかし、やはり兵站にかけた無理が戦力の前進を妨げていた。
11月5日。イラン方面からコーカサス山脈を抜けて黒海東岸部に進撃を開始した新設インド方面軍(旧インド方面軍はトライデント・ジャベリン作戦で壊滅していた)はコーカサス山脈北麓に展開するジオン第9MS旅団第1大隊を撃破し北上。黒海沿岸、旧グルジア地方に前線基地を設営し、黒海上を渡ってきたビッグ・トレー級陸上戦艦「アレクサンダー」、および「モントゴメリー」と合流し、戦力集中に入った。
そして11月7日。全戦線がオデッサを総司令部とするジオン地球攻撃軍に向けての一斉攻撃に入ったのである。
第23話
作戦が始まってしまえば、それからはその流れに身を任せる他はない。現状、改めて感じたことだ。
私が属するインド方面軍はコーカサス山脈南部から進撃を開始してグルジアにいたり、要衝セヴァストポリを迂回して、オデッサの後方を突く任務を与えられている。キエフからドニエプル川に沿って南下するレビル大将の部隊とは、オデッサ東方ザポリージヤでの合流を予定している。
原作どおりなら、恐らくグルジアから北上してコーカサス山脈の麓に広がる森林地帯に入ったあたりで、黒い三連星の迎撃を受けることになるだろう。ジオン側で得た情報によると、本国防衛隊勤務からグラナダ防衛隊に異動していた黒い三連星が、第三次地球補給にあわせて降下したことを確認している。
黒海およびアゾフ海には、進撃する連邦軍に海側から攻撃を仕掛けるため、多くの艦船―――ほとんどが連邦からの鹵獲品だったが―――が配備されているが、水上ホバー走行が可能なビッグ・トレーの砲撃や、ボスポラス、ダーダネルス海峡を扼するイスタンブールの陥落で黒海に連邦軍の艦船が多数侵入を始めており、数日とかからず押しつぶされるだろう。
しかし、樺太基地でも出くわしたアッザムが既に4機確認され、水上に陸上に迎撃を開始している。恐らく、こちら側の戦線でもコーカサス山脈を越えたあたりで出くわすことになるだろう。
インド方面軍はカスピ海沿岸部からの北上を開始しており、現在、旧ダゲスタン地域のマハチカラで激戦が展開されている。実際、ここを抜かれてしまえば連邦軍の大兵力がカスピ海を越えることになるため、ジオン軍の抵抗も熾烈だ。しかし、既に連邦軍は浸透突破用の部隊をコーカサス山脈南麓のブラジカフカスおよびミズルに展開させており、明日には北上を開始する予定だ。
そして私たち、インド方面軍所属第13独立部隊は、もっとも危険な黒海沿岸部の北上任務を課せられている。保養地ソチから沿岸伝いに北上。ケルチ地峡部への部隊展開を支援した後さらに北上し、オデッサ・ボルゴグラード間の連絡を絶つ。ウクライナ北部から南下するレビル将軍の部隊と合流することで、オデッサを包囲する予定だ。
宇宙港を備える各基地間の連絡を絶てば、ジオン軍は撤退を開始すると見ているためだ。現実に、バイコヌール宇宙港が陥落するとジオン軍は次なる宇宙港を求め、ボルゴグラードへの撤退を開始している。恐らく、撤退したジオン軍が宇宙攻撃軍に回収される段階を狙って軌道上に艦隊を投入し、手も足も出せないジオン軍を殲滅するつもりなのだろう。
それは正しい。虐殺に近いかもしれないが、連邦よりも優勢なMS戦力を有するジオン軍相手に、下手な損害は出せない。地上での戦闘が終了しても、ソロモン、ア・バオア・クー、月面で構成される本国防衛ラインを突破しなければならないからだ。
ジオン軍に残された宇宙港は合計5つ。オデッサ、ボルゴグラード、セヴァストポリ、カザン、リャザン。このうち、黒海からの攻撃を受けるセヴァストポリは打ち上げ途中での攻撃を受けかねないため早々に放棄されたが、既にアジア、シベリア方面から撤退した部隊がボルゴグラード、カザンから脱出を開始しており、軌道上はHLVの打ち上げカプセルで彩られ始めている。
宇宙攻撃軍およびグラナダ艦隊、そしてシーマ艦隊が回収任務に当たっているが、連邦軍が散発的に艦隊とMSを投入して攻撃を仕掛けてきており、回収は難航しているとのことだ。また、軌道上での戦闘で私が開発に関係していなかったがボールの投入が大々的にコリニー提督によって行われ、大戦果を挙げている旨が伝わってきている。被害を受けにくい戦場で大戦果を挙げることについては流石ジャミトフと感心したが、どうにもいい気分はしない。
旗艦とした「トロッター」艦長、シナプス大佐がこちらへ来た。
「少将、攻撃開始命令が下りました。我が部隊にも北上命令が来ています。どうやら、戦線全体を北上させるようです」
私は頷いた。
「独立第13部隊、前進を開始せよ。G-1部隊各隊は散兵線を前に押し出せ。第1小隊は先行してソチに。本部小隊は援護を行うように。艦隊にはトロッター所属隊を護衛につけ、前進を開始せよ」
「機関一杯!発進する!命令復唱!」
「機関一杯、前進を開始します!」
命令が出され、部隊の前進が開始されたことで司令官は暇になる。いい機会だから、これからのことを少し考えておこう。
オデッサ作戦のスケジュールはかなり異常だ。11月7日に黒海沿岸で開始された作戦が9日にはオデッサの完全占領で終わり、掃討戦に入っている。確かに、降下したジオン軍の戦力は20万ほどで、過去ここで行われたドイツ軍とソ連軍の戦いほど、人員面で大規模なものではない。しかし、作戦発動から2日で目標達成などありえないから、進行はかなり時間を要するものと考えて無理はないだろう。
恐らく、ジャブロー侵攻作戦が中止になったことでそのスケジュール分も合わせ、今月一杯は戦闘が続くに違いない。オデッサが陥落すれば、現在優勢に追撃戦を進めているアジア戦線の整理がつく。今月末には北米での攻撃も予定されているから、ジオン軍は歴史どおり、アフリカに潜伏してネオジオンの襲来を待つことになるだろう。
……年内に終わるのか、この戦争。一年戦争ではなくて、「ジオン独立戦争」とか名づけられたらまんまギレンの野望じゃないか。
まぁ、いい。キシリアが早速敵前逃亡をかましてくれるだろうから、ジオン軍の指揮システムがおかしなことになるだろう。実際、歴史でもマ・クベがいなくなったから降伏したとも取れる。けれど、ルートがどちらを通るかだ。マ・クベが逃げればTV版準拠で進むだろうし、逃げなければORIGIN版でルートが進むだろう。ORIGINルートで死んでくれれば問題ないが、宇宙に逃げれば今度はTV版かコミック版か小説版かの違いが出る。
マ・クベの死亡時期が作品によって違い、またキシリア同様の底の浅い策士であるため、キレると何をするかわからない。TV版のように自分を追いやった組織や敵を狙うならどこかで何かを仕掛けてくる可能性がある。コミック版のようにそれなりの誠実さを持つのならザビ家に対する忠誠心の発露もあるだろう。一番良いのは小説版のように何もしないで乗艦を撃沈され、ア・バオア・クーから撤退する中で戦死してくれることだが、これを前提に話を進めるわけにも行くまい。
ゲルググの投入が早まっている分、連邦軍は宇宙で苦戦を余儀なくされるから何がはじまるかはわからないが、連邦軍のMS開発も前倒しでジム・コマンドやジム改が投入されるようになってきている。ビームスプレーガンに頼る時間も短縮できるだろうし、そもそも数が違うから戦争の趨勢自体は歴史どおりに進むだろう。
というか、ジャブローはどれだけの生産能力を持っているんだ。オデッサ作戦に投入されたジムが各型合計で800を超えている。第1MS師団以外は大隊単位での投入になっているが、それにしても数が多すぎだ。まだ生産を開始してから3ヶ月あまりで、しかも生産ラインが整い始めているから今月だけで1000機近くは生産されそうな勢いだ。もっとも、ジム改はジェネレーターについてはジムとほぼ同型のため、こちらにはビームスプレーガンに代えてビームガンの配備が進んでいる。
前線に多数のMSが集結するのは良いが、オデッサにはいまだに800機近いジオンMSが展開している。これを1日かそこらでどうにかするのは難しいぞ。
しかし、トールの懸念は杞憂に終わった。既に補給の面で大きく負担を強いられつつあったジオン欧州軍は、そのMs稼動数を大きく減らしており、また、キシリア、マ・クベが鉱物資源の軌道上への打ち上げを優先させたため兵員の脱出も満足に終了していないのが実情だ。オデッサ鉱山基地以外の宇宙港からは続々と兵員が武器、MSを放棄して軌道上へ脱出していたが、こちらも残った武器をオデッサや他の交戦を続ける部隊にまわすほどの余裕がなかった。
かくして、一時期は2000機近いMSを30個のMS師団に編成していたジオン地球攻撃軍という大部隊は影すら残さず消え去ろうとしていた。残った影も、軌道上のポッドが連邦軍に破壊されるか拿捕されるか、もしくは最後の抵抗によって潰えることとなるだろう。だが、オデッサが陥落すればジオン軍はセヴァストポリへ向かい、セヴァストポリが陥落すれば、戦線を突破して、まだ確保しているアフリカへ向かうだろう。アフリカを舞台にした、ジオン軍残党との激戦は戦後も続くことになる。これもまた、歴史どおりだ。
オデッサ作戦の推移は大体は歴史どおりに、そして細部は歴史とは違った様相を見せ進行した。11月12日、歴史よりも遅れて黒い三連星と第13部隊左翼に位置していたホワイトベース隊が接触したが、G-1部隊第5小隊の援護を受け、また「トロッター」よりウィスキー小隊が援護に間に合ったことで、黒い三連星は全機撃破され、死ぬはずのマチルダ中尉は当然死なず、第13部隊を先頭にザポリージヤまでの北上に成功、レビル将軍の部隊と合流してオデッサ包囲網が完成した。
翌13日より、包囲網全戦線からオデッサへの攻撃が開始された。ゲルググの投入も確認されたがやはり数は少なく、エルランの内通が見破られていたため、ジオン軍が偽情報に踊らされて部隊を配置する。この間隙を突く様に、ロシア北部戦線から第1MS師団が南下してキエフにいたり、主力の2個連隊がオデッサへの南下を開始して戦線の薄い部分が突破された。するとまず13日夜にザンジバル級ベンハを使い、キシリア・ザビ地球攻撃軍司令が撤退。翌14日午後にはザンジバル級マダガスカルを使って欧州方面軍司令のマ・クベも脱出したため戦線が崩壊。15日払暁、オデッサは陥落した。
オデッサ陥落を受けた残存ジオン軍は残る基地であるカザン、セヴァストポリ(リャザンは14日夜に陥落)を目指し撤退を開始し、カザンは陥落する11月26日まで脱出を継続させた後、力尽きて降伏。連邦艦隊の攻撃によって被害を受けていたセヴァストポリは損傷した基地機能の許す限りの脱出を継続させた後、オデッサからの撤退戦力と共に戦線の突破を企図。ケルチ地峡部を突破しての長い撤退戦に入った。この撤退戦は12月初頭まで続き、少なからぬ数の戦力がトルコを突破してアフリカに逃げ込むことに成功したが、カスピ海東岸に位置するインド方面軍の攻撃を側背に受け続けること隣、多くの戦力が喪失を余儀なくされた。
12月2日。連邦軍はユーラシア大陸からジオン軍を駆逐したと発表。連邦地上軍は残るジオンの占領地である、北米およびアフリカへの攻撃を強めていくこととなる。
11月28日、無事に第13独立戦隊の指揮を頼れる兄貴ヤン少将に引き継いでもらう。この後はジオン側での行動が多くなるので、宇宙に上がってからの行動については任せることにしたのだ。ここまで来てしまえば、連邦の勝利はもう動かない。ビグザムの投入にしろ、ソーラ・レイの使用にしろ、介入を行うのであればジオン側のほうが有利だと判断したためでもある。それに、ヤン少将なら、反則武器でも使用しない限り、部隊に損耗を強いることも無い、という判断もあった。
11月30日に引継ぎをまとめて樺太基地に帰還する。ミツコさんはそのまま札幌の太洋重工へ戻り、連邦軍へのジム・コマンドの安定供給を担当してもらった。これからは宇宙戦が基本となるため、ジム・コマンドの宇宙仕様を頼むためだ。また、第13独立部隊宛にジム・カスタムの投入を御願いし、宙ぶらりんになっていたガンダム開発計画も、操作性向上型のNT-1を、コア・ブロックシステム式に改変の上で、アムロ少尉に回すよう、御願いした。
ゲルググの投入が早まり、史実では試作機で開始された戦闘が試作機特有の問題の洗い直しが終わっているため、シャアのゲルググの性能が向上している可能性を考えなくてはならない。ORIGINでもシャアのゲルググはマグネット・コーティングなしのガンダムに優越していた。それが更に広がっている可能性がある以上、対策は講じなくてはならない。
また、明確に「戦後」を意識して行動を行う必要性が出てきたため、戦後の連邦政界の動きをある程度掣肘できる人材配置を考える必要も出てきた。
戦後、連邦政府は各サイドの被害が抑えられていることもあり、各サイドへ連邦政府が持つ債権と、この戦争の復興費用を相殺する形で、各サイドの主権国家化を進めていく方針のようだ。しかし、移民問題評議会がマーズィムを盾にこれに対して懸念を表明しており、各サイドの反連邦政府運動を押さえるための戦力を準備すべき、との論調も出てきている。
移民問題評議会にも意見が通せるようになってきたグリーンヒル上院議員が妥協案として、もっとも被害が少ないL5ポイントのサイド1、サイド4を、コロニー内武装のみを許す自治共和国化する方針を打ち出すと、サイド6という前例もあり評議会も妥協。現在、その方針で話が進められている。L4共和国とするか、サイド1,4を分割するかで話がまとまっていないが、ブライアン・ミットグリッド自治区選出議員が、出身選挙区であるサイド1区の首相となる可能性が大きい。
史実であれば連邦政府は、一年戦争で地球が大打撃を受けたのに加え、大きな被害を受けたコロニーの復興計画をも行う必要に迫られたため、強権的な治安政策を取らざるを得なかったが、被害が局限されている本戦争では、其処までの必要性を見出していないし、また、見出す必要性も無かったことは幸いだ。
この政策決定に伴い、第二の戦時条約として月条約が月面およびコロニー群とジオン間で締結。事前通告無しのコロニー近辺での戦闘行為を禁ずることや、月面の中立化(グラナダ除く)などが結ばれた。この条約は月面の恒久都市連合が主導していたが、目的はジオン軍の地球よりの戦力撤退で戦争の趨勢がある程度見えた以上、戦争の被害を局限し、戦後復興を考える段階に来たこと、および、ジオン側にとっても戦線の整理という要求が強かったことを示す。また、ジオン側も地球から撤退したことで不足する資源を、一定量、サイドからの交易で入手することが可能となった。義勇兵や農産物も同様である。
結果、ジオン軍の月面駐留戦力が大幅に撤退し再編を開始され、連邦軍もルナツーに集結した艦隊戦力の集中が行え、戦争は一気に終結に向けて加速することとなる。
12月1日、生き残りにポイントを使用してから、樺太基地より月面Nシスターズに帰還する。何か、決意したような表情になったハマーンが印象的だった。