私の名前はセレイン・イクスペリ。今の立場はジオン軍、親衛第二軍団を率いるガラハウ少将の妹、16歳だ。
妹なのに姓が違う、というのもおかしいと思うのだが、兄は其処の所を突っ込むと笑っていた。なんでも、下手に変えると訳がわからなくなるらしい。それはそうだ。私の下には12人も妹がいる。区別を呼びかけ方でしているから、名前まで同じにしたら訳がわからなくなる。
けれど、少し寂しくもある。姉さん二人はガラハウだ。一番上の姉さんは違うらしいのだが、免許証や認識票にはそう書いてある。不思議だ。上のソフィー姉さんは名前をいくつか持っているらしい。
まぁ、いいか。
けど、うらやましい。
今日はお買い物。兄は戦争が始まってから忙しいらしく、月の家にはほとんど顔を見せない。親戚らしい(ハマーンはそう主張していた。今でなくとも未来はそうなるらしい。まったくわからない)カーンさん家からハマーンやマレーネお姉さん、セラーナが遊びに来て、なぜかハマーンが私たちを連れ歩くようになった。ハマーンいわく、「トールは若い子に甘いから、じんかいせんじゅつだ!」という。
カーティスのおじさんが「その若いというところが問題だろうに……」とかつぶやいていたような気がするが気にしない。私はもう、大人なのだ。ただ、じんかいせんじゅつなるものが何か、私は知らない。けど、メイド長をしているロベルタが言うには、「ひっしょうの戦い方ですのよ」との事。
ロベルタは強い。だから正しいと思う。妹たちはロベルタの前ではおとなしい。悪いことをした時の事を夢に見るらしく、夢に見たときは12枚のお布団に12枚の世界地図が出来る。何処の世界かわからないが、世界地図と言わなくてはいけないらしい。
兄に話したところ、口元が引きつっていた。
いい顔だ。もっと見たいと思った。
あ、話がずれた。で、今日はお買い物、ということなのでロベルタの部下メイド、アンヌとマリーと一緒に買い物。ハマーンが前の方を歩いている。「白でだめなら黒でのうさつだ。ふっふっふ、ぞくぶつめみているがいい」とか言っている。ハマーンは変だ。時折、意味が全くわからない。
そんなハマーンの観察も、流石に最初に会ってから数年経つと飽きてくる。あらあらまぁまぁ、とハマーンを抑えてくれるマレーネお姉さんがいないから、相手をするのは面倒くさい。ん?そういえば、最初にプルたちが「おb……」あぶないあぶない。禁句なのだ。これを言ったらマレーネお姉さんが怖くなる。
そういえば、兄はカーン三姉妹のことを「姉がコナンで妹少佐って、どんなロリババ一族だyo!?」とか頭を抱えていたのをみたことがある。うん、ああいう兄の姿も良い。
そんな風に思っていたら、ビルとビルの間の路地、その奥に、ゴミにまぎれて倒れこんでいる男を見つけた。なんでこんなところにいるんだろう?
第14話
「おい、お前、ここで何をしている?」
何人もの追っ手を撒いて、やっと身を落ち着けたかと思ったら誰かに見つかったらしい。
孤児だった俺は、当然のように孤児院に引き取られ、その中で何の疑問も持たずに生活していた。それが変だと、自分でも思うようになったのがいつだったかは覚えていない。けれど、自分の回りに普通にいたはずの仲間たちの数が減りだしたあたりからだったと思う。
昨日まで普通に過ごしていた仲間が、翌朝、隣のベッドから消えている。
それが何回か続くうちに、自分でも不思議だが共通点とやらに気づくようになった。
年齢が、18なのだ。18の誕生日を祝ってから1週間。1週間経つといなくなる。
「おい、答えろ。そこでなにをしている?」
なぜか、それに恐怖を覚えた。怖くなった。園長先生は笑ったまま答えてくれず、最後には困ったように、「お国のために働いているのよ」、とだけ伝えてくれた。本当にそうなら、もっと話してくれてもいいはずだ。
自分が孤児で、恐らくここの孤児院が国営かそれに近いもので、戦争のための人間を育てている。不思議じゃない。普通の事だ。行く当てもない子供を数年、十数年養ってきたんだから、それぐらいの働きを期待しても良いだろう。
けれども、だったら何故、友人たちは何も言わずにいなくなるのだろう?
俺の疑問は、園長室で語られた言葉で解決した。
ウェドナーが疑問を持っている。キシリア様からもっとモルモットをよこすように命令が来ている。
敵対する組織に襲撃を受けて、子供たちが解放されたらしい。月の極冠にいるらしいが、手が出せない。
恐ろしい女に率いられたパワードスーツの集団が、20mm弾と5.45mm弾を撒き散らして子供を奪っていく。
だめだ、やっぱり、年齢を落して送るしかない。どうせ、手を他のサイドに伸ばせば、子供なんて簡単に手に入る。
聞いた瞬間、駆け出した。そのまま孤児院を出ると港湾ブロックを目指す。少ししてから、話しを聞かれた事に気づいたらしい大人たちが追い始め、港湾ブロックに着く辺りになって声ではなくて銃弾が来た。
港湾係官の目を盗んで荷物に紛れ込み、「To Moon N1」と書かれた、工業用品らしいコンテナに身を潜める。一つ一つコンテナを開けていく追っ手に小便を洩らしそうになりながら、なんとか発進の時間になったらしく、何とか月に来れたのだ。
「答えろ。ああ、私はセレインだ。セレイン・イクスペリ。お前は?」
それが、ここまで来て何で、と思った瞬間、脳天に激痛が走った。
「んで、つれてきたと」
私は心底、このご都合主義全開な展開に頭を悩ませ始めた。ロベルタから、セレインが男を連れ込んだと聞き、まぁ、何かあればあいつのことだから言うだろう、と放っておいたら何も言ってこない。だんだんやきもきしながら待っていると、ようやくの事で連れ込んだ男が話があるそうだった。そして、事情を聞いたのである。
「そうだ。兄ならなんとかできるだろう」
「現在進行形で何とかしてるよ。ただ、全員の後追いは難しいぞ」
私、トール・ガラハウはそう言って燃える様な赤毛の、目つきの鋭い若者、シグ・ウェドナーを見た。キシリア機関の孤児院なんて調べられるか。こりゃ、姉さんにまた襲撃活動再開してもらうしかないかもしれない。フラナガン機関の監視も続けたいんだけどなぁ。ボリス軍曹に指揮を御願いして、二つに分けてみるか。
「お前さんがいた孤児院なぁ、キシリア・ザビ。学名ムラサキマスク・ババアニクスが経営していて、人体実験用の人間を確保するための施設だったらしい。すぐに調査させたが、建物を残してすべて消えてた。地下にもぐったらしいから、さらに調査を続ける必要がある」
そういうとシグの顔は沈んだ。自分だけが助かったと思いこんでいるらしい。
「まぁ、そう沈むな。まずは自分の命が助かった事を喜びなさい、と言っても無理か。……建設的な話をしようか。これからどうするね?」
「俺は……行くあてがありません」
ため息と共にうなずいた。
「どうする?仕事をするなら、幾つか紹介してもいい。キシリアの孤児院の下にいたなら、恐らく宇宙関係で何かやらされているだろう?」
シグはうなずいた。話によると、孤児院の院生は、10代前半から義務教育の他に、宙間作業機械の運転免許を取る事が義務だったらしい。用意の良いことこの上ないロベルタが書類を差し出す。うわぁ、エースパイロットぉ。なんとこの男、モビルワーカー、MS-05のデチューン・バージョンの運用実績のところにAがついている。未来のパイロット候補生と言うわけだ。まぁ、当然と言えば当然だが。
「この成績なら、作業員としても軍人としても食っていけるぞ。どちらでも紹介できるが?」
「ここは、その紫ババアとはどんな関係ですか?」
またもやため息を吐く。予想通りの展開すぎる。
「不倶戴天の敵。見敵必殺が合い言葉、共に相手の事を蛇蝎だと思うぐらいの仲の良さだ」
セレインが不満そうに口を挟んだ。
「兄。相変わらずわかりにくいことを言うな。「あの顔でアラフォーとか嘘だろ、最低でもアラフィフだクソ」とか、「何がキャサリンだバーカ、鏡見ろ、な?」とかなんとか言っていたではないか。結構仲が良いな」
ロベルタが冷や汗と共に口を挟んだ。
「セラお嬢様、それで仲が良いと言うのは……」
「軍人にしてくれ。……機会がほしい」
シグの言葉にまぁ、そうなるわな、と今日何度目になるかわからないため息を吐き、私は先日、ケルゲレンの艦長として招聘した軍人を呼び出した。こんなところでモノアイが勢揃いか……絶対にどこかで痛い子送ってくるぞ、あの紫。それでどこかでフラグを立てて、ゲルググJに乗ってシグを痛めつけヒャッハーするわけか。
「ブラード・ファーレン中佐、参りました」
「中佐、ご苦労。MS隊はまだ未編成だったな」
ファーレン中佐はうなずいた。
「はい。艦をお預かりしたばかりで、これから編成について御相談申し上げようと思っておりました」
「貴官のケルゲレンにはビーダーシュタット大尉のレッドチームを配備の予定だったが、一名加える。このシグ・ウェドナー軍曹だ。全くの新人だが、ワーカーの成績は良い。ビーダーシュタット大尉に厳しく鍛えるよう言っておいてくれ」
ファーレン中佐は敬礼した。
「拝命致しました!ガラハウ少将!」
少将と言う言葉に若いとは言えそこまでの階級だったのか、とシグはトールの方を見る。しかし、其処にいたのは何故ハマーンが黒系の下着を買うのを阻止しなかったのかを妹に問い詰める兄の姿だった。
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ちゃんにいさんのおゆうぎきょうしつ
「いいかい、みんな。良い子なんだから張兄さんの言う事を聞いてくれるよね?」
「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」
元気に響く12人の声にサングラス越しに笑みを浮かべた張維新は微笑みながら言葉をつなげた。
「僕が香港で法の番人だったころ……一生懸命学んだことがみんなの役に立ってとてもうれしいんだ。どうだい?トールおにいちゃんがみんなの言う事を結構聞いてくれるようになったろう?」
「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」
「さて、そんなみんなに次のミッションだ。今は12人の妹に代わって20人の娘がブームらしくってね~。0歳から19歳までなんでもござれだってさぁ。本当に日本人と言うのはどこか頭がおかしいよね?」
「「「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」」」
絶対に嬢ちゃんたち意味わかってねぇぞ(アルネ)……張の背後に立つシェンホアと彪は背筋に冷や汗が流れるのを感じていた。
「みんな、もっと家族がほしいよねぇ?そこでどうだい?こいつも実現してみちゃあ?一年一人、20回!」
「「「「「「「「「「「「いちねんひとり、にじゅっかい!」」」」」」」」」」」」
「チョといいアルか?張サン?」
シェンホアが声をかけると張は振り向いた。何か、異様な雰囲気がある。
「ナゼ、そこまでトールにスルか?」
張は勢いよくうなずいた。
「ある日いきなり12人の妹に囲まれて生活し始めた人間に対するささやかな贈り物だよ」
「……姐さんにヤラれないようニ気をツケテね」
「世の中にゃぁ、最大で556人家族もいるらしい。単純計算で妹277人だな。それに比べりゃ、12×19で、たったの228人だ。楽なもんだろ?」