「がっ!?」
のど元に深く突き刺さった短剣に声帯を突き潰されたのか、空気が抜けるようなくぐもった声をあげ、大刀を構えていた若きサムライが前のめりに倒れていく。
一瞬の交差でその命を絶った化け物は、すれ違い様に若サムライが差したままの脇差しを拝借する。
「くそっ! またかよ!」
先ほどから繰り返される光景に、巨大な曲刀を持った若者の口から思わず悪態が洩れる。
その声が含む敵意に引き寄せられたのか、それとも元から切りに来るつもりだったのか、化け物が若者を標的と定め、地を強く蹴り跳び上がった
跳んできた化け物を迎撃しようと、若者は巨大な曲刀を振りあげる。
木々が生い茂る林の中では、大きすぎる若者の獲物を横に振り回すのは至難だが、縦ならばその重量と切れ味に任せ、枝諸共切り落とせば問題は無い。
直線的に迫る化け物を、正面から打ち落とす軌道を剣が奔る。
迫り来る曲刀に対し、化け物がつい先ほど奪ったロウガ仕様の古式の脇差し刀をもつ右手で全く見当違いの虚空を突いた瞬間、化け物の身体は不自然に右側に傾き倒れた。
まるで脇差しの重さが急激に増加したかのような不自然な挙動で、化け物は曲刀を舐めるような紙一重で躱す。
右に流れたことでその攻撃可能範囲は大きくずれたが、化け物は曲刀の刀身を軽く蹴り足場とすると、その軌道を一瞬で修正してきた。
上下が逆さまになった体勢の化け物が放つ鋭い突きが、面当ての隙間を通り、若者の視界いっぱいに迫る。
予想外の位置とタイミングからの攻撃を、若者が防ぐ術は無い。
「なっ!? ぎゃぁつ!?!?」
ずぶりと眼球を突き抜け、頭部の中に浸食してくる激痛を伴う冷たい金属の感触に、恐怖と絶望に染まった断末魔の絶叫が、薄暗い林の中に響く。
絶叫をあげた若者の手から曲剣がこぼれ落ちた次の瞬間、若者の身体は光の粒子となり、頭部に刺さった化け物が繰り出した脇差しと共に転送されていく。
一刀のもとに若者を惨殺した化け物は、着地と同時に若者が落とした巨大な曲刀を右手でつかむと即座に次の獲物へと襲いかかる。
「きゃぁっ!? こ、来ないでよ化け物!」
顔をすっぽり覆う覆面と仮面から覗かせる鋭い眼光に怖じ気づいたのか、後詰めに動いていた短槍使いの少女が恐怖の悲鳴をあげながら、なにも考えずに唯々恐怖に駆られ、電光石火で短槍を繰り出した。
どれほどの威力や速度があろうとも、意図も持たず恐怖から繰り出された槍の一刺しなど、化け物にとって餌以外の何物でもない。
槍の穂先に合わせ左手の防御短剣を合わせ、刃先を流しながら踊るようにクルリと回る。
さらに右腕に持った巨大な曲刀を槍の一撃とほぼ同じ速度の”電光石火”で振り回した。
突きを喰らった曲刀が袈裟斬り気味に振り下ろされ、肩当ての一部を軽く砕ききり、さらには短槍使い少女の首元からめり込み、その重量と速度を持って膝さえも叩き折った。
「ひぎゃっ!?」
踏みつぶされたカエルのような苦悶の声をあげ少女が絶命する寸前に、曲刀から手を放した化け物は、少女が振るった槍を右手でもぎ取り己の物とする。
事切れた槍使い少女の身体が先ほどの曲刀使いと同じように、光の粒子となり消えていく。身体にめり込んだ曲刀と共に。
その消え去る姿を一瞥することも無く、化け物は奪い取った槍を構え、自分を包囲する者達へとその穂先を牽制のためか向けた。
「なんなんだよこの化け物は!?」
「知るか! 怖じ気づいてないで次誰かいけよ! 休ませるだけじゃねぇか!」
「あっ!? てめえがいけよ! 俺らももう少しやられたら失格なんだよ!」
先ほどから断続的に続けられる殺戮劇に、恐慌状態に陥ったのか怒声が飛び交う。
覆面で顔を隠しているので種族は判らないが、その体格は小柄で幼い子供ほどしかなく、数多く参加者達の中では一番肉体に恵まれていない。
実際に力や速度もその小さな身体にふさわしい程度なのか、大して早くも無く、力も無い。簡単に弾き飛ばすことができ、逃げる先に回り込むことができる。
もっとも脆弱な肉体を持つ者を、もっと優れた肉体能力を持つ者達が大勢で囲んでいる。
誰がどう考えても勝者が判る状況。
だというのに、そのはずなのに、今この場において、常識は易々と覆される。
斬り殺されたのは今の三人だけでない。既に参加者の半数、少なくとも百人以上がこの化け物によって斬り殺され、
化け物が逃げ込んだ林を包囲する挑戦者は、もはやその所属チームなど関係なく、残った者達が総て協力する形となっていた。
だがいくら数が多くとも、木々が生い茂った林の中では連携は取りにくく、同士討ちの危険もあり、一度に攻撃できる人数は限られる。
広範囲魔術攻撃が可能ならば、林もろとも一気に攻撃魔術で吹き飛ばすという手もあるだろうが、魔術を得意とする者達は、化け物によって既に一人残らず駆逐されていた。
残っているのは、腕は立つが近接戦闘が専門の者ばかりだ。
その腕利きが数人ずつで攻撃を仕掛けるが、その度に化け物によって一刀の下に切り伏せられ、慣れ親しんだ武器を奪われつづけていた。
「当てにならねぇな。他の奴らは」
魔術塔を切り崩し、下級クラスとはいえ現役の探索者パーティを短時間で壊滅させ、さらには大多数に囲まれながらも、未だ寄せ付けない強さをみせる存在を、化け物と呼ばずなんと呼ぶ。
この期に及んで、まだそんな事すら判断できない他の参加者に対する苛立ちを覚えながらも、まだ顔に幼さが残る青年が無言のまま、木々の間を音も無く走り、化け物の背後へと回る。
「雑魚は退いてろ! 俺達”二人”が行く!」
青年が絶好の配置についた瞬間、その機を逃さず、大きな怒声が響き、集団の中から言葉通り二人の若者が1歩前に出ると剣を構えた。
周囲を煽るような大声。だがこれは合図であり牽制。
道場仲間の二人が正面から斬り込み、気を引いている隙に背後から一撃で断つ。
いくら縦横無尽に剣を振るう化け物であろうと、迷宮モンスターのように複数の目や腕がある訳でも無い。
同時に迫る剣は防げないはず。先ほどまでの攻撃は一斉に襲いかかっていただけで、まともな連携にはなっていなかった。
だが自分達は違う。一対一では無く、多対一を得意とする。探索者としての戦術を身につけた自分達は。
力で劣る人間が、化け物に勝つには、数の力を結束して戦しかない。
それが彼の、探索者を目指す者の常識であり、最適解だ。最適解であるべきだ。最適解で無くてはない。
積み重ねてきた数え切れない先人達の屍から導き出された答えが、こんなにあっさりと覆されて良いわけが無い。
これは、これだけは認めてはいけない。こんな戦い方をする者だけは認められるはずが無い。
ただ一人で、数の力を否定する者だけは。
その敵愾心が、彼らから棄権という選択肢を、勝ち目の無い強敵からは逃げるという、探索者としての常識を忘れさせていた。
覆面の下で荒れる息を悟らせないように、浅い呼吸で息を整える。
闘気による強化を失ってからは、初めての長時間戦闘。
本来のケイスの戦い方は、敵の攻撃は可能な限り回避し、敵へと肉薄し、己の最大の攻撃を敵よりも先に当てることを信条としている。
だが闘気強化が出来ず力の大半を失ったケイスには、先の先ができない。
後の先。いわゆるカウンター主体の攻撃法へと変更を余儀なくされている。
攻撃を受け止め流し、己の力と変えることで可能な限りに消耗を抑えてはいるが、逆に言えば攻撃を受け止めなければならない分、それなりの衝撃をもろに喰らっている。
両手首が少し痛み始め、防御短剣にも細かな刃こぼれや歪みが目立ち始めていた。
この痛みや、刀身の損傷はケイスにとって、己の未熟さを痛感する恥だ。これらは相手の力を受け流しきれていないという、何よりの証拠に他ならない。
そしてそれよりも深刻なのは精神の摩耗だ。
天才を自負するケイスを持ってしても、タイミング1つのズレがすぐに負けを呼び込むので、薄氷の上を進むかのように気を張り詰め続けていなければならない。
より高レベルの剣技を使えるならば、完璧に相手の力を受け流すことができるならば、数千、数万と剣戟を交わしても、己の肉体も武器も精神も損耗はしない。
相手の力を全て受け流し己の元とする。これは机上の空論でも、実現不可能な理想でもない。
フォールセンとの稽古で、その剣の極みとも言うべき極地を実際にケイスは目撃して体感している。
だから確実にこの先にあるはず。だが今のケイスでは届かない。見えない。
それは闘気変換ができ無くなり、闘気による肉体強化が出来なくなったからではない。
フォールセンも、また今のケイスと同じように身体の中で暴れ狂う異なる龍種の血により、その力をほぼ失っている。
だがそれでもケイスが理想とし、憧れ続けている剣を振るってみせた。
そこから導き出される結論はただ1つ。純粋に、そうただ純粋に、ケイスの技量が足らない。
フォールセンが到達した次元が遥かに遠く、今のケイスではその世界への扉さえ認識できないのだ。
フォールセンが苦難の果てにたどり着いた領域に、己の才能だけで到達できるとは、唯我独尊で傲慢なケイスとてさすがに思っていない。
たどり着くにはただ1つの道しか無い。鍛錬を重ね、己の剣技を磨き続ける。
そしてケイスにとって、最大効率となる鍛錬とは実戦に他ならない。
だから苦しいのが嬉しい。きついのが楽しい。数多くの敵に囲まれているのが好ましい。
より苦境を。
より難関を。
全ては己が強くなるため。
己が世界最強となるため。
この窮地こそが、ケイスの進むべき道だ。
前方左右からタイミングを合わせて迫る剣士が二人、ケイスは疲れた四肢へと力を入れる。
獲物は揃いの装飾が施された長剣と皮鎧。おそらく同門の仲間か。
その両者が一瞬だけだが、見据えているはずのケイスから目線を外して、後ろへと視線を投げ掛けた。
不自然な行動。それが意味するところは?
激しく回転する戦闘本能が答えを導き出す。
把握していない”敵”がいる。
駆け引きを仕掛けて来る相手をケイスは嫌いではない。
自分の力を正当に評価し、どうにか勝とうとしている。好ましい。実に好ましい。
好ましいからこそ、全力で叩きつぶす。
全力には全力で答える。それが剣士としての礼儀だ。
ケイスは攻撃態勢を整える。
前方二者の目線の角度から、後方の敵位置を推測。
構えから推測が出来る狙いは三方からの同時攻撃。前方からは袈裟斬り、逆袈裟の双方向攻撃により前方、左右への退路を断つ形だ。
後方は推測位置から考え、速度優先で刺突攻撃により急所への一撃。
迫り来る前方両者と、来るであろう後方からの攻撃を前に、ケイスはあえてその場から動かないという選択肢を選ぶ。
前方から迫る両剣、気配さえ感じさせない後方の剣。
ケイスはそれを感覚で捉えながら、グッと身を沈め、足に力を込めた。
そして足の親指の僅かな力のみで地を蹴る。
外套型魔具によって軽量化された身体が、その僅かな力に押されふわりと上昇を始める。
緩やかすぎる上昇速度。通常ならば良い的となる。だがあえて見せた予備動作が襲撃者達の予測を欺き、必殺の一撃を外させる。
「なっ!?」
上方から響くのは第”四”の声。
やはり。
前方二者。そして後方一者。前後左右は塞がれていた。ならば上方は?
檻を完成させるには天井が足りない。
後方へと視線を飛ばした誘いは、確かに上出来だ。だが上出来すぎた。あまりに自然でつい見てしまったという装いが過ぎた。
前方左右から仕掛けて来る者達は、目配せも無く、同一の動きで合わせているというのにだ。
あの練度を出せる者達ならば、見なくとも互いの動きが判る。判るはずだ。
ならばそれこそが誘い。後方にいると読み取らせ、檻を完成させるための誘い。
それを見抜いたが故にケイスは逆に誘った。
己が上方へと強く跳ぶと見せかけて誘い出した。
しかし誘い出したことで、ケイスは既に檻の中にいる。
空中にふわりと浮いたままのケイスへと剣が迫る。
機を外されようとも、斬れば良い。狩人達がそう考えるのは自明の理だ。何せ化け物は既に檻の中にいる。
剣が集結する中心点に。
自分にとって不利な地。四方から迫る死。
常人ならばその地を死地と考える。
だがケイスは考えない。思いつきもしない。力が、剣が集う場所。
剣が己の手が届くところにあるならば、そここそがケイスの間合い。その剣こそがケイスの力。
ケイスは剣を使う者剣士。暴虐で唯我独尊で傲慢な思考が導き出す答えは1つ。
剣が集う場所であるならば、そこは死地にあらず。
ケイスが絶対強者として君臨する世界だ。
覆面の下ケイスは、微かに口元を動かす。
『帝御前我御劔也』
唱えるのは誓いの言葉。己が持つ全ての力を、受け継ぎし技を用いて、勝利するという絶対意思の言葉。
あの幻の中で出会った、曾祖父から受け継いだ技を模倣するには、会得するには今しかない。
四方からの同時攻撃の、どれをみてもケイスが力で勝れる攻撃は無い。
それ故にケイスが勝つ。負けが重なるからこそ、力が重なるからこそ、ケイスが勝る。
左手に構えた防御短剣ソードーブレイカーを頭上に繰り出す。
その櫛刃をもって、頭上から落ちてきた剣士が突き出す剣の切っ先へとかち合わせ絡め取る。
同時に手首を返し、自らの身体を上へと持ち上げ剣の柄を台地に上下逆さまに倒立する。
ケイスが行った動作はそれだけ。それだけだ。しかしたったそれだけで全ての剣はケイスの元へと集う。
ケイスの身体が大きく動いたことで、その命を奪おうとしていた剣達は行く先を失いケイスの身体を掠めながらも外れ、まるで吸い込まれるかのように1カ所に集う。
剣が向かう先はケイスが繰り出したソードブレイカー。
ガチリと甲高い音をたてる金属音が響き、打ち合った金属同士が放つ火花が散る。
火花が産み出しは一瞬の均衡。地に足をつけた三人の剣士が支える剣が、一人の剣士と化け物の身体を空中へと留めるという、奇妙なオブジェを一瞬だけ産み出す。
その中心。ソードブレイカーに集うのは四者から集まり積み上げられた力だ。
神がかり的なバランスで均衡を保った力点に対して、ケイスは魔具に注がれる魔力を切り、足を地面へと向かって強く振り下ろすことで、己の支配下に降す。
軽量のケイスが地面へと降り立つと同時に、ほぼ大人と変わらぬ体格を誇る四人の若者達が高々と空中へと投げ飛ばされ、いや、まるで自らの意思で跳ねたかのように空中へと躍る。
長い流派の歴史でもそこへ到達したのは曾祖父一人のみ。それは死の間際に至った真理。
龍の群れとの戦いで、闘気を使い果たし、死にかけ、もはや剣を振るう力などほぼ失った状態で見た極地。
力では遥かに劣る弱者(人)が、強者(龍)の力を喰らい、己が力と変える為の奥義。
故に途絶え、誰も知らぬ、知るよしもなかった先代邑源宋雪最後の絶技。
「邑源一刀一槍流模倣『龍柱骸四ッ重』」
片膝を突いて体勢を整えたケイスは短槍の柄を地面につけ垂直に立たせる。
「あがぁつ!?」「ぜがっ!」
天に向かって立つ槍の穂先へと投げ飛ばされた者の身体が刺さり、さらにその上に次の者が積み重なり、下の者の胴体の中心を貫通した槍が突き刺さり、さらにその上に次の者が積み重なる。
下の者は背骨を砕かれたのか意識を失っても、まだ絶命できず、ピクピクと手足が動く様を見ながら、ケイスはすぐ近くまで降りてきた一番下の者の手から長剣を奪い取った。
「ゃっざ!?」
人が串団子のように次々と積み重なるという悪夢の光景を産み出したケイスは、最後の四人目の体がその穂先に刺さるその瞬間に合わせ、僅かに槍を揺すり、そのぶれた穂先で四人目の心臓を穿つ。
四人目を殺害すると同時、下の三人も絶命したのか、突き刺さった槍と共に、光の粒子へと変わっていく。
ほのかに照らし出される光の中でケイスはすくりと立ち上がり、深く息を吐く。
やはりまだまだだ。
本来なら槍に刺さった瞬間に身体を真っ二つに両断して絶命させる技なのに、刺すのが精一杯の段階で技が未完成なのは明らか。
一人目が絶命して槍が消えるかと懸念して、刺突剣の柄に乗せていた左手が空しい。
あの幻のロウガで見た曾祖父の技は、投げ飛ばした高さも威力も数も段違いで、ましてや曾祖父が積み上げた骸である龍と比べれば、人が身につける皮鎧など枯れ葉よりもさらに脆い代物だというのに。
力が無くともできる技だが、それ故に高い、それこそ隔絶した技量が必要となる。
曾祖父同様に相手の力を使うことに長けたフォールセンに剣を習ったことで、少しは出来るようになるかと思ったが、及第点にすら届かない。
生命力が強靱な敵ならば、胴体を貫かれたくらいでは、戦闘に支障など無いし、自分だって戦うだろう。
未だ道は遠し。
だがいつまでも気にしていても、強くなれるわけでは無い。
あまりに凄惨な光景にか、それとも信じがたい技にか、声を無くした他の参加者達を見据え、ケイスは深く息を吸い、戦況を整理する。
自分のメイン武器は持ち込んだ刺突剣と、今奪取した長剣。それと数が減った各種短剣類のみ。
他の参加者から奪った武器は、生命保護にかけられた魔具の力が作用して、使い続ける事は出来無い。
本来の使用者が手から落としたときは、対象と接触しておらず生命保護の腕輪魔具の効果範囲から離れているのかまだ戦場に残っているが、その武器を使って他の者を斬り殺すと、その者と接触しているため、効果対象とされるのか、一緒に武器が転送されてしまう。
おそらくこの生命保護魔術と魔具は、街が戦場になった際、一般市民の保護と避難も考えて考案された広域魔術。
迷宮モンスターの中には、デュラハンやオークなどのように武器を使うモンスターも数多い。
そういった武器使いに武器を取られないようにする為の安全策であり、同時に武器を失った仲間への窮余の策。
仲間が使うときはそのまま残り、敵の手に渡ったときは、次に斬られた者と一緒に転送するという効果なのだろう。
一定以上の人数が減った際には、グループ全員が失格となり残っている者も一斉転送されるという仕様も、継続戦闘維持の一環と考えれば納得がいく。
護衛となる衛兵が全滅もしくは人数が少なくなった際に、避難施設で護衛されていた民ごと、より後方の避難所へと転送するためだろう。
ずいぶんと念の入った高位魔術仕様だが、龍に滅ぼされたロウガの過去を考えればこの備えも当然だ。
これだけの備えを有するほどの危険が迷宮には存在する。
ならばその危険よりも強くなる。今より、もっと、もっと強くなる。
類い希なる剣戟の才能。
幼少期より積み上げた戦いの記憶。
大多数に囲まれるという絶好の鍛錬の機会。
久しぶりに多くの者を斬る事が出来る快感。
何より数多くの剣を振るう事が出来る楽しみ。
天才的な技能と、剣術馬鹿の戦闘狂思考に基づき、ケイスは一瞬で状況を判断し、己が取るべき行動を導きだす。
とりあえず斬る。目につく者全てを。斬れば斬るだけ自分は強くなる。
つまりはいつも通りだ。