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No.21942の一覧
[1] 第一話 会議は踊り・・・・[凡人001](2010/09/16 19:24)
[2] 第二話 帝国の事情、共和国の策略[凡人001](2010/09/27 22:59)
[3] 第三話 アスターテ前編[凡人001](2010/09/17 17:07)
[4] 第四話 アスターテ後編[凡人001](2010/09/17 21:14)
[5] 第五話 分岐点[凡人001](2010/09/18 20:34)
[6] 第六話 出会いと決断[凡人001](2010/09/19 07:25)
[7] 第七話 密約[凡人001](2010/09/26 18:21)
[8] 第八話 昇進[凡人001](2010/09/26 18:18)
[9] 第九話 愚行[凡人001](2010/09/26 19:10)
[10] 第十話 協定[凡人001](2010/09/26 17:57)
[11] 第十一話 敗退への道[凡人001](2010/09/26 18:01)
[12] 第十二話 大会戦前夜[凡人001](2010/09/26 23:45)
[13] 第十三話 大会戦前編[凡人001](2010/09/26 18:11)
[14] 第十四話 大会戦中編[凡人001](2010/09/26 19:08)
[15] 第十五話 大会戦後編[凡人001](2010/09/28 06:24)
[16] 第十六話 英雄の決断[凡人001](2010/09/28 20:58)
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[21942] 第九話 愚行
Name: 凡人001◆f6d9349e ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/26 19:10
『選抜徴兵制度 宇宙暦776年3月 中央議会

近年の帝国軍侵攻により、我が国のフロンティア・サイド開拓は大きく停滞している。また、現在の志願制では必要絶対数の兵士の確保が難しいのが現実である。そこで私は以下の法案を提出するものである。

1 軍人家庭の子供の職業の継承

2 孤児の軍人家庭への引き取りとその後の士官学校への入校義務の付与

そうすることで、我々は俗に言う予備役を確保し、また、幼い頃から軍人教育を施すことで優秀な軍人を手に入れられるだろう。この議案は兵士の絶対数不足に歯止めをかけ、尚且つ孤児の養育費を軍事費に回せるという利点がある。その結果、軍も強化され国庫への負担も減らせられ、増税による市民の反発をもさけらる事であろう。以上の点から、私は本議案を中央議会に提出する』



『帝国領土深遠部分について 宇宙暦774年

帝国は我が国の詳細な航路図を知っている。当然である、ルドルフは帝国を築くために共和国全土を利用したのだから。代わって我らにはそれはない。ハイネセン大統領時代の帝国との交易・貿易のデータはフェザーンに移ってしまい、それから100年余り。誰も帝国領土奥深くへと進発したものはいない。また、その必要性も薄かった。その為、帝国領土の地形を知るにはフェザーン経由の情報と数度にわたる威力偵察で分かった辺境の辺境部分しかない。また、オーディンの位置も捕虜交換時の情報や帝国軍艦艇へのデータベースをサルベージした情報しかないため、大雑把にしか分かっておらず、どこにどんな恒星系が存在するのかが不明瞭であり、ここ100年の間にどのような航路が開拓されたのかが分かっていない。下手をすれば挟撃をうける恐れのある。艦隊の侵攻は危険が大きい。よって帝国領土深遠部分への軍事侵攻は控えるべきであると私は判断する』byアルフレッド・ローザス大将



『共和国侵攻作戦 帝国暦 781
共和国へ侵攻を決定する。参加兵力は2000隻の一個分艦隊。目標はエル・ファシル恒星系。そこに住む共和国を僭称する反逆者をひっとらえる事だ。また、共和国軍正規艦隊の目を掻い潜る為、別方面で大規模な陽動をかける。なんとしても共和国から人的資源を手に入れるのだ』



『職業選択の自由を奪われるとは、共和国も落ちたものだ。だってそうだろう?選抜徴兵制度と言えば聞こえがいいが、やってることは帝国と同じさ。軍人って言う名前の農奴階級を作ろうって魂胆さ』by ボリス・コーネフ



『A100シリーズ
銀河共和国大統領府が軍部に動員令をしく際に発令される命令。主にイゼルローン攻略作戦といった大規模な出兵に際して発令される。A101からA109まで存在し、番号が大きいほど大規模な動員命令となる。最高評議会が二度否決すれば効力を発しないが一度可決すると効力を発生させる・・・・そのたびに膨大な物資を用意するんだ。後方担当者の現場の身にもなってみろ、冗談抜きに過労死する命令だ・・・・もっともこんな命令に付き合わされて最前線に送られるよりはマシだがね』by アレックス・キャゼルヌ



第九話 愚行


side 宇宙艦隊司令部


宇宙艦隊司令部にはそうそうたるメンバーが揃っていた。

統合作戦本部本部長、シドニー・シトレ元帥

総参謀長、ドワイト・グリーンヒル大将

第1艦隊司令官、フォード・クルブスリー大将

第2艦隊司令官、ロード・パエッタ中将

第3艦隊司令官、レイク・ルフェーブル中将 

第4艦隊司令官、ムーリ・ムーア中将

第5艦隊司令官、アレクサンドル・ビュコック中将

第6艦隊司令官、パトリオット・パストーレ中将

第7艦隊司令官、アレキサンダー・ホーウッド中将

第8艦隊司令官、アルビオン・アップルトン中将

第9艦隊司令官、アル・サレム中将

第10艦隊司令官、ウランフ中将

第11艦隊司令官、ウィレム・ホーランド中将

第12艦隊司令官、シグ・ボロディン中将

第14艦隊司令官、ラルフ・カールセン中将

第15艦隊司令官、ライオネル・モートン中将

そして、第13艦隊司令官にして宇宙艦隊副司令官、ヤン・ウェンリー元帥

以上、編成途上にある第16から18までの艦隊司令官(未定)を除いた15名の宇宙艦隊司令官とその副官が勢揃いした。
これほどまでの作戦会議は50年ほど前の第二次ティアマト会戦以来なく、軍の高官たちも緊張の色を隠せないのか、私語や水を飲む音がしきりに聞こえる。
そこへこの会議の主催者がアンドリュー・フォーク准将と共に入ってきた。
一斉に椅子を立ち敬礼する将官とその副官。
身振りで座るよう指示するロボス元帥。シトレのみ座ったままでいたが。

「よく集まってくれた諸君」

それに対してヤン元帥は心の中で思う。

(よく言うよ、命令の拒否権なんて軍隊にはないじゃないか)

そんなことを知らずに続けるロボス元帥。

「今回の遠征は大統領令A108を使って行われている。よって軍部に拒否権はない」

(もっとも拒否するつもりもないがな)

ロボスが腹の内で打算をしているころ、幾人かの提督たちが頷いた。
そこでウランフ中将が発言を求めた。

「そもそも今回の遠征目的を伺いたい」

ボロディン中将も続ける。

「我々は軍人であり文民統制だ。だが、今回の出兵の目的すらはっきりしていない」

ボロディンは過去に参加した作戦を引き合いにだして疑問を投げかける。

「前回のような通商破壊戦術で帝国経済を圧迫させるには、A108、あまりにも動員する艦艇が多すぎるのではないか?」

ここでもっとも老練なビュコック中将も続けて発言した。
もっとも、発言というよりは皮肉に近かったが。

「中央議会の選挙が近いからではないかね?」

それを無視し、話を始めるよう命令するロボス。

「その点についてはフォーク准将から説明がある。説明を」

「ハッ、この度の大規模な攻勢に参加できるのは武人の名誉と心得ます。ですから小官としては帝国領土へと奥深く侵攻する先達方に畏敬の念を禁じえません。」

ウランフが横槍を入れた
演説を中断され不機嫌になるフォーク。
だが、彼の自制心を必死に働かせ抑える。

「能書きは良い、我々は軍人だ。行けと言われればどこにでも行く」

盟友のボロディン提督も続ける。

「まして、それがかつての同胞にして現在の悪の帝国の首都なら、な」

だが、毒を含むのを忘れない。

「今回の出兵は基本計画が定まっていない」

突如、シトレが発言した。

おもわず唸る数名の提督。
ヤン元帥にいたっては露骨に頭を抱えている

「それを決める為の作戦会議だ。不要な発言は双方とも慎みたまえ」

そこでヤン元帥が発言する。
注目が集まった。

(当然だな。フォーク准将や副官たちを除けば誰よりも若いのに、誰よりも階級が高い元帥閣下だからな)

「では遠征の目的をお聞きしたい」

「帝国軍の震撼を脅えさせる事にあります」

(はぁ?)

(あの准将は何を言っているんだ?)

(いくら大規模な出兵とはいえ・・・・脅かす?)

(おいおい、今日は4月1日だったのか?)

フォーク准将にあきれ返った視線が行くが・・・・全く気づいていない。

フォークの独演は続き、ますます混乱する。

「ようするに、行き当たりばったりという事ではないのかな?」

ビュコック中将に続けてパエッタ中将も言う。

「そんな無計画な作戦で小官は部下を死地にやれません」

反論するフォーク。身振り手振りで俳優のように。

「そんなことはありません。共和国が民主共和政治の大儀の下、一致団結し侵攻すれば民衆は挙って我らを迎え入れます」

「また、帝国を支える腐敗した大貴族たちも我が軍の軍門に戦わずして下るに違いありません」

エスカレートする演説に反論する提督たち。
だが、彼らには権限がなかった。出兵計画を変える権限も、やめさせる権限も。

誰もが諦めたその時、ヤンが動いた。

「具体的に何個艦隊動員するのですか?」

それに同格者となってしまったロボスが答える。

「第2艦隊から第9艦隊、そして第11艦隊だ」

((((9個艦隊))))

ざわめきが大きくなる。
当初の予定では五個艦隊と聞いていたのだから突然の変更に驚くのは当然だろう。

「ヤン元帥はもちろん賛成なのであろう? 何せ史上最年少の元帥閣下だからな」

「それにヤン提督は第10、第12艦隊を指揮下にいれ、公式にもヤン艦隊の通称を認めよう。それで良いかね?」

明らかに侮蔑を含んだ言葉で問うロボス。
3個艦隊を指揮下にもつ、軍人としては大変な栄誉だ。それだけにロボスもヤンが黙ると思ったのだが・・・・

「私は反対です。そもそもこの出兵計画自体に否といわせてもらいます」

会議のざわめきがさらに大きくなる。
あの、ヤン・ウェンリーが反対したのだ。
当然、様々な感情が交差する。そんな中を彼は泳ぎだした。

「まず第一に、補給の面が心配です。帝国軍が辺境地帯から洗いざらい物資を引き上げたときはどうするつもりですか?
まさか、艦隊の補給部隊で補えると思ってはおいででないでしょうね?」

そう、艦隊の人員は精々200万人。対して帝国領は分かっているだけで50億を越す。
辺境地域にどれほど住んでいるかは分からないが1億を下回ることは無いだろう、そうヤンは予測していた。

「第二に、作戦参謀は貴族たちが平気で軍門に下ると仰っていましたが本当に下るのですか?むしろ処刑なり財産没収なりを恐れ徹底抗戦されたらどうするおつもりですか?」

これは歴代の政権、特にイゼルローン要塞建設前の政権がお茶を濁すような出兵で満足してきた理由でもある。
『窮鼠猫をかむ』、それを今回はどう考えているのか分からない。

「第三に、帝国軍と帝国領土の奥深さを侮っているとしか思えません。帝国領土は長征1万光年の長旅で建国された領土です。うかつに攻め込めばその距離の長さ自身に足をすくわれると考えます」

距離は防壁である。これは古代の戦争を見れば分かる。
ヤンの頭には補給が追いつかず敗北した大日本帝国軍の姿が映し出されていた。

「第四に、いったいいつ撤兵するのかが不明確です。敵艦隊に打撃を与えてよしとするのか、オーディンを制圧するのか、先ほどのウランフ提督の発言ではありませんが、いったい何処まで進むのか、それをはっきりさせてもらわなければ前線部隊が迷惑です」

確かにそうだ。無秩序な侵攻は引き際を誤りかねない。

ヤンの指摘で紛糾する会議。
それに対してフォークは精神論を展開するだけ。
思わずヤンは言ってしまった。

「この遠征は利敵行為です」

フォークの顔が真っ赤にそまる。

(なんだと、この、運だけの男が!!)

「ヤン提督!! 貴官の態度は増長が激しすぎるぞ!! 以降の発言を禁止する!!」

「どういった理由で!」

ダン。ロボスが机を叩き付ける。

「理由などわかっておろう」

ヤンも反論する。
ここで黙ってしまえば数千万が犠牲になるかもしれないのだ。黙っていられるか。

「異議を求めます」

二人の元帥の押し問答。
すかさずシトレが止めに入る。

「待ちたまえロボス元帥、彼は確かに言い過ぎた、だが提督の発言を禁止する、そこまでの権限も貴官にはない」

出兵に反対の提督たちからも援護射撃が行われた

「そうじゃな、確かにヤン提督は言い過ぎた。だが、間違ったことをいっとる訳でもなかろうて」

「そうだ、今回の出兵計画は空前絶後なのだろう? ならば慎重に慎重を施す必要がある」

「まあ、若いのだから大目に見てあげてください」

ビュコックが、ウランフが、ボロディンがヤンを擁護する。

だが、ヤンは知っていた。
前線の指揮官がいくら騒いでも、文民統制の共和国で、大統領が決定した戦争行為を撤回させることは出来ないと。

「ヤン元帥はイゼルローン要塞に残り、ヤン艦隊の指揮を取れ」

それは武勲を立てさせたくないロボスとフォークの思惑だった。

「必要とあらば出撃してもかまわないが、出撃にはそれ相応の理由を設けること。もしも勝手に武勲を手に入れるために出撃し、イゼルローンが戦場となった場合は抗命罪に処する」

「首都シリウスには第1艦隊、第14艦隊、第15艦隊の3個艦隊が駐留することとする」

ヤンの思惑通り、否、最悪の予感が的中し、会議は出兵することだけを決め、重要なことは何一つ決めないまま終わってしまう。



side フェザーン 自治領主府 ランドカー


レムシャイド伯爵は急いでいた。急ぎ帝国へ報告せぬばならない。

(9個艦隊、それだけの動員が本当に可能なのか?)

それは今から1時間前のことだった。
至急の知らせがある、との事で、高等弁務官事務所からフェザーン自治領主府に出向いた。

(ここでも国力の差か。共和国の同時進行を防ぐ為にも屈辱的だがこちらから出向くしかない)

その高等弁務官事務所を後にしたレムシャイド伯はとんでもない報を耳にする。

『共和国は貴国に対して大規模な、そう、9個艦隊もの大兵力で侵攻する構えをみせております』

ルビンスキーは差し出されたウィスキー片手に語った。

(あの黒狐。これみよがしに笑いおった)

内心でははらわたが煮えくり返る怒りを感じながら。

『それは興味深い。しかし、その情報を帝国に流してフェザーンにいかほどの利益がおありかな?』

『これは異な事を。われらフェザーンが一度でも帝国に不利益を与えたでしょうか?』

『いや、過分にしてそのような記憶は無いのぉ』

『帝国の安寧を願い、この重大な情報を急ぎレムハイド伯爵にお伝えせねばと思い、お伝えした所存でございます』

退席しようとするレムシャイド伯を止めるルビンスキー。

『ああ、どうです、帝国暦440年ものワインがあるのですが一杯いかがかと』

『お生憎であるが、医者から休養を進められましてな。それでは失礼する』

(とにかく、一刻も早く軍部と皇帝陛下に伝えなければ)




side 帝国 ノイエ・サンスーシ



軍務尚書エーレンベルク元帥の報告を聞きながらフリードヒ4世は思った。

(ついに動きおったか、共和国軍)

「ローエングラム伯を呼べ、ああ、それと書記官を呼ぶようにな。勅令を出す」

(来るが良い、共和国軍。そちらの思惑通りにことは運ばさぬ。我が国は滅びてもかまわぬ、構わぬが共和国に滅ぼされる訳にはいかぬのだからな)

「ハッ」

参事官の一人が退出する。
そこでエーレンベルク元帥が疑問を投げかけた。

「陛下、ローエングラム上級大将に与えた4個艦隊をもってしも我が軍が総動員できるのは残り2個艦隊のみ。しかもそれは宇宙艦隊司令官直卒の艦隊とメルカッツ艦隊です。」

イゼルローン失陥以来、明らかに変わった皇帝に、軍部も好意的な視線を送るものが多くなった。

「続けたまえ」

「艦隊の絶対数が足りません。このままでは我が国は共和国の・・・・」

エーレンベルク元帥は発言を続けられなかった。
皇帝が右手をあげた。つまり、もう発言をやめろという意思表示だ。

「その点は抜かりない。何の為に書記官に勅令を書かせると思うか?」

よほど自信が在るのか、フリードリヒ4世に迷いはなかった。
だが、次の瞬間、軍務尚書はその思考を止められてしまう。

「ブラウンシュバイクとリッテンハイムに勅令を出す。貴下の私兵から2個艦隊ずつ軍部に無償で提供せよ、とな」

「陛下!」

思わず止めに入ったのは国務尚書のリヒテンラーデであった。

「お考え直し下さい、陛下。仮にそのような勅令を出したとしても、その後陛下は宮廷から疎まれます」

リヒテンラーデは続ける。己の政治信念に基づいて。

(皇帝陛下だけでも守らねば)

「2個艦隊といえば、貴族が持てる私軍の三分の二にあたります。それを取り上げたとあっては・・・・真に申しにくいのですが」

皇帝が続けた。

「余の命さえも危険にさらされる、と言いたいのか」

「御意」

「だがな、国が敗れて荘園だけ残っても仕方あるまい?」

それはそうだ。
共和国に貴族制度がない以上、『銀河帝国ゴールデンバウム王朝』あっての貴族領であり、荘園であり、私兵集団を保有できるといえる。

「ですが、指揮官が足りません」

今度はエーレンベルク元帥が実務面で指摘する。彼もまた貴族。
その反発の恐ろしさを知っているからこそ自身の保身の為にも前言を翻して欲しかった。
だが、皇帝の意思は固い。まるで開祖ルドルフ大帝が乗り移ったように。

「じゃからこそ、ローエングラム伯を呼ぶのだ。伯は平民階級や下級貴族の有能な将校と親しいと聞く。艦隊司令官も作戦も彼に選ばせればよい」

「「陛下!」」

それでは現職の宇宙艦隊司令長官の立場がない。
それを指摘しようして、皇帝は続けた。

「わしは自他共に認める無能な皇帝だ、だから失敗も三度まで許そう。じゃがイゼルローン陥落、帝国領土への通商破壊作戦、そして極めつけのアスターテ会戦」

それは暗に宇宙艦隊司令長官グレゴリー・フォン・ミュッケンベルガーをさしていた。

「これが最後の奉公とあの者も奮起するであろう」

それは、勝てば勇退、負ければ引責辞任のことを指していた。
そしてローエングラム伯が謁見の間に現れ、その命令を承った。



side 第5艦隊司令官室



「どういうことですか!」

ヤンが珍しく詰め寄る。

「まあ、落ち着きたまえヤン元帥。これを知ったのはわしもつい今しがたじゃ」

それは一枚の辞令。

『ユリアン・ミンツ、スパルタニアン訓練生を軍曹待遇とし、パイロットとして第五艦隊に配属する』

「・・・・・・私が暴れたせい、でしょうか?」

ヤンのトーンが落ちる。

「いや、違うじゃろうな。これほどタイミング良く辞令が交付されることは常識からしてありえん」

「では」

ビュコックは一呼吸おいてから言葉を放つ。

「言いにくいが、貴官はまた嵌められた、ということじゃろう」

「!!」

ヤンの顔に驚愕が走る。

「ご存知だったのですか?」

それはアスターテの件をこの老提督が知っている、と言うことだ。

「まあ、伊達に年をとってはおらん。貴官が政界への転向を目論むのも分かる」

ヤンの目が鋭くなる。
そこまで知っていて何故自分に接触したのだ?

「・・・・ビュコック提督・・・・私はただ」

彼は派閥争いとは無縁な人物のはず。
それが何故?

「戦争を終わらせたい、そうじゃな?」

ビュコックの目が鋭くヤンを射抜く。

「はい」

「ならば年長者を信用することじゃ。少なくともわしはロボス元帥のように貴官を嵌めるような真似はせぬ」

「提督は私に味方してくださる、そう仰っていると伺いますがよろしいですか?」

ビュコックは無言で頷いた。そしてヤンを退出させた。

「ジャック、ルード。御主らが生きていてくれたらわしも今頃は悠々自適な隠居生活をおくれたはずじゃ」

独語は続く。

「じゃからわしは戦争が憎い。戦争を止めたい。だが、今から何かをするにはわしは年を取りすぎた」

「じゃからわしはあの若者に賭けてみようと思う。同じく家族を守るため、そして、同じく選抜徴兵制度の犠牲になった子を救うため」

「だからな、許してくれまいか?」





宇宙暦796年8月、『新年には帰るよ』と言い残し、多くの将兵、総兵力3600万名が帝国領へと出兵した。
そして数ヶ月間、彼らは焦土戦術と無軌道なゲリラ戦に悩まされるのだが、現時点でそのことを予測する共和国首脳部は、ヤンを除いて誰もいなかった。


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