<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.21942の一覧
[1] 第一話 会議は踊り・・・・[凡人001](2010/09/16 19:24)
[2] 第二話 帝国の事情、共和国の策略[凡人001](2010/09/27 22:59)
[3] 第三話 アスターテ前編[凡人001](2010/09/17 17:07)
[4] 第四話 アスターテ後編[凡人001](2010/09/17 21:14)
[5] 第五話 分岐点[凡人001](2010/09/18 20:34)
[6] 第六話 出会いと決断[凡人001](2010/09/19 07:25)
[7] 第七話 密約[凡人001](2010/09/26 18:21)
[8] 第八話 昇進[凡人001](2010/09/26 18:18)
[9] 第九話 愚行[凡人001](2010/09/26 19:10)
[10] 第十話 協定[凡人001](2010/09/26 17:57)
[11] 第十一話 敗退への道[凡人001](2010/09/26 18:01)
[12] 第十二話 大会戦前夜[凡人001](2010/09/26 23:45)
[13] 第十三話 大会戦前編[凡人001](2010/09/26 18:11)
[14] 第十四話 大会戦中編[凡人001](2010/09/26 19:08)
[15] 第十五話 大会戦後編[凡人001](2010/09/28 06:24)
[16] 第十六話 英雄の決断[凡人001](2010/09/28 20:58)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[21942] 第八話 昇進
Name: 凡人001◆f6d9349e ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/26 18:18
『 イゼルローン攻防戦の原因について考察する手記より

今となっては遅いが、イゼルローン回廊に要塞を建設する案は共和国にもあった。では、何故それをしなかったかと言うと第二次ティアマト会戦にその要因があると思われる。第二次ティアマト会戦は当初の予想通り帝国軍の壊滅に終わった。それはいい。しかし、その結果軍上層部は安易な、だが確実な艦隊増強案に走った。当時の国民世論は勝利に沸いており、その原因を見た目で分かる、宇宙艦隊に求めた。それは正しいものの見方だった。だが、それは新たなるものの見方ではなかった。イゼルローン回廊を巡る戦いは、フレデリック・ジャスパー提督のジンクスではないが、勝勝負勝勝負を繰り返しており、共和国軍優位のまま進んでいた。だから要塞建設案よりも艦隊増強案を議会は可決したのだ。これは私案としてブルース・アッシュビー提督(時の宇宙艦隊司令長官)が宇宙艦隊増強を認めさせる代わりに要塞建設を簡単に放棄した点でも分かる。当時の為政者たちは、『要塞』、それは過去の遺物であり、現在の戦争にはそぐわないと思われたのだ。それが大きな間違いだと気づくのに、我々は二千万に近い人命を浪費してしまった。罪深いことだ。あの要塞をもし我々が建設していればより優位な立場で外交なり戦争なりを継続できたであろう』



『 銀河帝国宇宙艦隊司令長官より皇帝陛下への奏上

此度のティアマトでの敗戦、真に申し訳ありません。まさに臣の不徳の致す所でございます。されど陛下、もしもご温情いただけるならば臣にもう一度機会をお与え下さい。必ずや共和国を僭称する反逆者どもに目にモノを見せてやります』



『銀河帝国勅令 帝国暦462年 5月

帝国領土防衛のためのイゼルローン回廊における新要塞建設のメリットについて
1、帝国内部へ侵攻する共和国軍への防壁となる。
2、帝国軍艦艇を駐留させる事により、防戦一方であった我が国が逆侵攻にでれる。
3、イゼルローン回廊に戦略物資の貯蔵施設を設けることで国庫への負担を軽減できる
4、共和国軍をイゼルローン回廊へ向かわせることで、フェザーン回廊からの同時進行を避けられる(余はフェザーン自治領の中立政策に頼るのは危険と判断した)

以上の点をもって、帝国艦隊は共和国軍の動きを万難をもって排除し、要塞建設を支援することを命じる、これは勅令である』



第八話 昇進



二週間後、アスターテの戦場よりイゼルローン要塞を経由して首都星シリウスに帰還したヤンたちを待っていたのは凱旋式を思わせるほどの熱狂的な歓待であった。
新たなるブルース・アッシュビー、第二のリン・パオ、ユースフ・トパロフルの再来を一目見ようと、あるいはインタビューに答えてもらおうと巨大な人の壁、人の渦が辺り一面を多い尽くしていた。

『ヤン提督だ、魔術師ヤンだ!』

『何!? どこだ? どこにいる!?』

『いた、ヤン提督だ。奇跡のヤンだ。』

『ヤン提督、何か一言!!』

『アスターテでの感想を!』

そういったシュプレッヒコールは無視していたヤンだが、ある記者の一言には胸を痛めた。
それはこんな内容だった。

『今回の無駄な出兵で死んだ遺族にはなんと説明するつもりですか?』

ヤン自身、今回の出兵が自分を排斥したい宇宙艦隊司令長官ロボス元帥の独断と選挙に勝ちたいラザフォート大統領の思惑が一致した為と知った今、自責の念に駆られている。

(違う、私は英雄なんかじゃない! ただの人殺しなんだ!!)

そう叫べたらどんなに良かったか。

(だから、もう私に付きまとわないでくれ!)

そう、言い切れればどんなに楽か。

だが。それはもう彼には許されない。

フレデリカと関係を持った以上、彼女を見捨てて無責任な事は言えない。
彼女には打ち明けた。



side フレデリカ 一週間前


(何かしら) 

フレデリカ・グリーンヒルはこのところ彼女の伴侶が元気がない、いや、何か思いつめているのに気が付いていた。

(私にも言えない・・・・他の女? まさかね)

少しばかり見当違いをしてしまうのは恋する乙女の勲章だろう。
だが、そんなほのぼのとした感想は彼の呼び出しを受けた時に瓦解する。

「フレデリカ」

いつになく険しい表情。
怒っているような、泣いているような、戸惑っているような、そんな表情。

「ごめん、フレデリカ」

(何がごめんなの?)

「・・・・実は」

深刻そうな彼の表情を見て彼女も決意した。

「別れ話、でしょうか?」

それを聞いてきょとんとするヤン。

(あれ?違うの?)

一瞬拍子抜けしたフレデリカ。
一方ヤンも何を言っていいのか戸惑う。

「ええと、ちがうんだ、そうじゃない、そうじゃなくて・・・・・」

そしてヤンは話した。オーベルシュタイン大佐との話を。



side シドニー・シトレ 統合作戦本部本部長室

白のベレー帽に白い軍服で入室してきた青年士官をみやる。
軍服を着てなければどこかの大学の芽の出ない学者にしか見えない男。
だが、いまや小学生以上の国民なら9割は知っているに違いない英雄。

(思えば10年前にも似たような事があったな)

思い出すのはエル・ファシル脱出直後の彼。
まだ何も分からない子供と言っても良い若手の中尉が怒涛のインタビューラッシュ、講演会への強制参加といった混乱と騒動の洗濯機に叩き込まれていた。
そんな中、私が挨拶しに行くとどこか安心したような表情を見せた彼。

(・・・・だが)

だが、今まさに元帥へと昇進する彼の目は変わっていた。
明らかに10年前の、あるいは、イゼルローン要塞陥落時に辞表を提出した彼とは違った。

(何かあったな・・・・やはりアスターテの件か)

無能では軍の最高指揮官は務まらない。
彼とて政界や財界に独自の諜報網はある。
そして知った。ヤン・ウェンリー謀殺計画とでも言うべき暗躍を。

「ヤン・ウェンリー、ただ今帰還しました。」

「ご苦労だった、大将。ところでわざわざ呼ばれた理由は分かるかね?」

ヤンは少々考える振りをしてから切り出した。

「自分の艦隊と昇進についてだと考えます」

「そうだ、まあかけたまえ。」

「失礼します、本部長」

(やはり変だ。ここまで物事をはっきりいうタイプではなかった・・・・まあ良い事なのだろう)

ヤンはヤンでタイミングを計っていた。いつ、オーベルシュタインの件を切り出すか。

「此度のアスターテにおける活躍は見事だった」

本部長ともヤンとも違う声が聞こえる。
それは総参謀長ドワイト・グリーンヒルであり、ヤンがフレデリカと共に事前に根回しをした成果でも合った

「いえ、運が良かっただけです」

その後なんどか謙遜の応酬が続き、本部長が本題に入ってきた。

「さて、ヤン大将、貴官の処遇だが・・・・貴官にとって喜ばしいかどうかは不明だが、ヤン大将、貴官を明日1200を持って元帥へと正式に昇進させる。何か異義や要請はあるかね?」

ヤンは即答とした。
それは彼にとって始まりの第一歩であった。

「人事の件、でもよろしいでしょうか?」

「うむ、許可しよう。で、どんな人事かな?」

「亡命者の中にパウル・フォン・オーベルシュタイン大佐がいます、彼を少将の地位にいたことにして、彼を准将の階級に据え置き国内諜報部門のトップに据えていただきたい」

ヤンは堂々と言ってのけた。
これにはグリーンヒル大将もシトレ元帥も即答はさけた。

「理由は?」

「彼が非常に優秀な諜報員であり情報参謀であるからです。彼自身が共和国への憧憬を抱き、隙を見て敵艦隊旗艦からシャトルを奪い脱出。我が軍に亡命してきました」

「それだけ、かね?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「それだけでは話にならない、他になにかないのか?」

グリーンヒル大将も聞いてくる。

・・・・そして、彼はジョーカーを切った。
最強にして最悪の鬼札を。

「アスターテの裏側」

「「!!」」

二人の顔がこわばる。いや青くなったと言っても良い。

「彼はアスターテを知っています。それをマスコミにリークすることも出来ます。でしたら、彼の言うとおりにしたほうが良いと考えます」

ぶつかる視線。
だが、何故か笑みをたたえる本部長。
それをみて遣外な表情をとる総参謀長。

「ヤン候補生、私は君の味方かね?」

「私としては味方であって欲しいと考えます、校長先生」

「君は相変わらず笑顔で毒を吐く。その癖を直してもらいたいものだ」

ヤンが苦笑いをする。
自覚しているが、どうにも直らない。
フレデリカにも言われた。『閣下は毒舌家ですね』と。

(私はそんなつもりは無いんだけどなぁ)

「元帥ともなればなおりましょう。部下たちの安全の為にも、ですが」

それはシトレの望んだ回答でもあった。

「よかろう、人事局には明日にでも正式に伝えよう。で、偽名はなんと言う?」

少し戸惑った、いや罪悪感に苛まれた後でヤンは告げた。

「恐らくアスターテで戦死した佐官でポール・サー・オーベルトという人物がいます。彼の軍歴を利用し、同姓同名の別人を作り上げては如何でしょう」

二人で話を進める中、グリーンヒル大将が苦虫をつぶしている。

「グリーンヒル大将、何か意見がありそうだな。遠慮はいらん述べたまえ」

彼が発言する。

「本部長、これは利敵行為ではありませんか?得体の知れない帝国軍人を国内情報部のTOPに就任させるなど狂気の沙汰としか思えません」

「それに、如何に救国の英雄とは言えあまりにも滅茶苦茶な要求・・・・・」

「では、軍内部の不祥事を世間にもらせと? 私はそれでも構わんがそれこそ彼の、帝国の狙いだとしたらどうする」

「・・・・しかし」

「失礼ながら本部長、総参謀長、彼の件は直接本人に会ってから決めては如何でしょうか?」

グリーンヒルはしぶしぶ納得した。
それはヤンの策略にまんまと乗せられることとなる。

「では、入ってきてもらいます。オーベルシュタイン大佐をここへ」

軍用携帯電話で従卒に命令したヤン。
二人が止めるまでも無く、一人の、冷徹を表現した男が入ってきた。

「お初にお目にかかります。『元』銀河帝国軍ゼークト艦隊情報参謀のパウル・フォン・オーベルシュタイン大佐です」

そして彼は語った。彼自身の身の上を。
そして伝えた。彼が如何にゴールデンバウム王朝を憎んでいるかを。

「よろしいですね?」

シトレは鷹揚に、グリーンヒルは渋々と言った感じで。
だが、二人も老練な策士だ。
釘を刺すことを忘れない。

「ヤン提督」

「グリーンヒル閣下?」

「ここまでしたのだ、娘を不幸にだけはするなよ」

初めて浮かんだ両者同時の笑顔は、確かな信頼関係があった。
そしてシトレ元帥は伝えた。
かつて、教え子が二階級特進で少佐になった時、初めて声をかけたあの時の様に。

「ああ・・・言い忘れた。元帥昇進、おめでとう、ヤン候補生」



一方、帝国では。

ラインハルトが残存艦艇およそ6000隻を率いて帝国本土、首都オーディン宇宙港に帰還していた。
帰還へとかっかた時間は役3週間。ヤンの第13艦隊とは違い敗残の艦隊である。また、生存者の救出にも時間をかけたので通常2週間弱のところ3週間近くモノ時間を費やした。

「大貴族らならばここで平民主体の軍人を見捨てるでしょう。ですが、ラインハルト様の道にはその平民たちの支持が不可欠です」

「敵艦隊は完全にアスターテから退却しました、ですから助けられる限りはぎりぎりまで助けるべきでしょう」

このキルヒアイスの進言を受け入れたランハルトはシュターデン艦隊だけでなく、エルラッハ、ゼークト艦隊の残存兵力をも吸収し一時は1万隻もの大軍となった。
しかし、傷つき航行に支障をきたす艦艇が多く結局のところ廃艦せざるおえなかったが。

そして戦勝祝い(共和国軍によるアスターテ星系進入を阻止したのだから強ち間違いではない。)としてシュワルツラインの館にあるアンネローゼ・フォン・グリューネワルトに会いに行く途上だった。
無論、親友のジークフリード・キルヒアイス中将を連れて。

「遅いな、この馬車は・・・・」

金髪の若者が不機嫌そうにぼやく。
彼こそ、皇族を除けば銀河帝国最年少の上級大将ラインハルト・フォン・ローエングラムだ。

「ラインハルト様にとってはアンネローゼ様にお会いする全てのものが障壁なのでしょうね」

穏やかな口調のキルヒアイス。
それに毒気を抜かれたラインハルト。

「キルヒアイスらしいな」

「ええ、もう10年来の付き合いです。ラインハルト様の事でしたら大概のことは分かりますよ?」

「ふん」

そっぽを向いているラインハルトに、キルヒアイスは思った。
アスターテで敗北した自分たちを取り込んだ皇帝の思惑を。



3時間前 ノイエ・サンスーシ

人事を司る軍務省ではなく皇帝の宮殿に直接呼ばれた事に違和感を感じるラインハルト。
それは赤毛の親友、ジークフリード・キルヒアイスを伴うように、という勅令で不信感は頂点に達した。

(元帥ならともかく、一介の中将を呼び出すとはいったい何事だ?)

(まさかアスターテでの通信のことか?)

思い出されるのはヤン・ウェンリーとの通信。

(いや、あれは極秘通信で俺とキルヒアイスしか知らないし、記録にも残していない)

即座に懸念材料を振る。

(では、何故?)

そうしている間に彼らは皇帝の間(銀翼の鷲)に到着した。
そして頭をたれる。
そこには皇帝フリードリヒ4世と、宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー、国務尚書クラウス・フォン・リヒテンラーデの三名がいた。
皇帝は腰を掛け、残りの二人は直立不動のまま傍らに立っている。

「此度の戦、まことにご苦労であった」

灰色の皇帝。彼の声が木霊する。
自分たちは何も言えない。
言えば、不敬罪として断罪されるであろう。
何せ自慢じゃないがラインハルト・フォン・ミューゼルの大貴族からの嫌われっぷりは半端なものではない。
ベーネミュンデ侯爵婦人やラードル・フォン・フレーゲル男爵など宮中には敵しかいない。

「艦艇34000隻を失いながらも、よくぞ全軍崩壊の危機を乗り切った礼をいうぞ」

皇帝が臣下に礼を言う。
その前代未聞の言葉に衝撃をうける国務尚書のリヒテンラーデ侯爵。
だが口を挟めない。如何に大貴族で宮廷貴族(閣僚)とは言え皇帝の発言に口を挟めばそれだけで不敬罪になるのは目に見えているからだ。

「そこで、だ。卿も20歳を超えたことだし此度の武勲を持ってローエングラム伯爵家を正式に継がせる」

普段では聞かれることのない断固とした意思。それが存在した。

「またな、元帥、例のものを」

そういって皺くちゃな手で威風堂々たる宇宙艦隊司令長官を名指す。

「ハッ」

そして恭しく取り出される一枚の紙。

「ラインハルト・フォン・ローエングラム、アスターテ会戦で味方の全滅を防ぎ、のみならず共和国を僭称する反逆者の侵入を阻止した功績をもって卿を二階級特進させ、上級大将へと任ずる。また、ジークフリード・キルヒアイスを中将へと3階級特進させ、エルラッハ、ゼークト、シュターデン艦隊を一つにまとめキルヒアイス艦隊の司令官に抜擢する、以上だ」

驚いたのはキルヒアイスだ。
彼は平民。しかも普通の家庭出身で20歳で大佐という異例の出世を遂げている。
それが更に3階級、しかもさしたる武勲もなく出世するのだ。
驚くな、というほうが無理であろう。

「なに、余からの誕生日プレゼントじゃよ」

それを見抜いたかのように笑う皇帝。

「それにここは銀河帝国。誰も余の決定には逆らえぬ。ああ、それとローエングラム伯には近い将来、キルヒアイス提督を含めた三人の中将を部下につける」

今度はラインハルトも驚く。
ローエングラム伯爵家の継承問題はアスターテ以前に一度話し合われたきりだが、こうも簡単に野望への階段を上ることになろうとは。
そして、二人の提督にも心当たりがあった。

「何か、意見はあるか?」

「いえ、ございません。」

「そうか、ならばみな下がれ。バラの手入れの時間なのでな」



side リヒテンラーデ

(陛下はいったい何をお考えなのだ?)

老人と言って良い彼だが、その脚力はいささかも衰えていない。
それはそうだろう、このノエイ・サンスーシは『弱者に生きる資格無し』としたルドルフ大帝の遺言を繁栄してエレベーターだとかエスカレーターだとかそんなものは存在しない。
で、あるならばら、脚力がなくなった時点で引退を余儀なくされる。
だから、意外かも知れぬがこの老人は朝のランニングを欠かさずに行ってきた。それは今でも変わらない。

温室の前まできた。中ではフリードリヒ4世が一人バラの世話をしている。

「陛下、よろしいでしょうか?」

皇帝はバラを切りながら答えた。

「国務尚書の言いたいことは分かるつもりだ。余がアンネローゼの弟、そしてそれに付随する者に権力を与えすぎた、そういいたいのであろう?」

内心の驚愕を隠しながら続ける。

「陛下のご晴眼真に恐れ入ります。なればこそ、宮中に不穏な空気をばらまくのは危険と臣は考えます」

「というと?」

「ブラウンシュバイク公爵やリッテンハイム侯爵ら貴族への配慮を承りたく存じ上げます。上級大将昇進はともかく、特にローエングラム伯爵家の継承問題は新たなる火種になりかねません」

必死に訴えるリヒテンラーデ。
だが返ってきた答えは彼の想像を脱していた。

「良いではないか?」

「は!?」

思わず絶句する。

「銀河帝国とて元を正せば銀河共和国の一部に過ぎぬ。それに不死の人間が存在しないよう不滅の国家もありえんのだ・・・・余の台で銀河帝国ゴールデンバウム王朝が終焉を迎えても仕方のないことやも知れぬな」

「それに外敵の存在もある。あの赤毛の青年は分からぬがローエングラム伯は紛れもない武勲を立ててのし上がってきた。それで大貴族どもは納得すまいが・・・・まあ、国務尚書も近いうちに分かるじゃろうて。何故余がローエングラム家を与え、彼の者を上級大将に昇進させたのかが、な。」

リヒテンラーデを退出させた皇帝は一人思った。

(さて、あの若者は余の寿命が尽きるまでに目的を達成できるかな?)


side アンネローゼ

弟が帰ってくる。ジークと共に。

『アスターテでの帰還艦艇数6000隻、3名の司令官は全員戦死』

という凶報には耳を疑った。
それが真実だと知った時は胸が押しつぶされそうだった。

ヴェストパーレ男爵夫人が『弟さんたちは無事よ、それどころか武勲を挙げて帰ってくるんですって』

という言葉で心底安堵した。

だが自分はどっちにより安堵したのだろうか?

ラインハルトに? それともジークに?

どちらでも良いことであった。今はただ生存を喜べばよい。

『ラインハルト・フォン・ローエングラム伯爵、おなーり』

そして数分後。
金髪と赤毛の若者が入ってくる。

「姉上、ただいま帰還しました」

「お久しぶりです、アンネローゼ様」

知らずに涙が流れる。

「あ、アンネローゼ様?」

先に気が付いたのはキルヒアイスであった。

二人を抱き寄せるアンネローゼ。

(良かった・・・・本当によかった。二人が無事に戻ってきてくれて)

しばしの幸福に浸る3人。だが誰もが分かっていた。これが一時の事でしかないと。

「ごめんなさいね、取り乱して」

「いえ、こちらこそ姉上に心配をおかけして申し訳ありませんでした」

ラインハルトが謝る。もしもこれをフレーゲル男爵などがみたら目を疑うだろう。
あの金髪の小僧が身上に謝っているのだから。

「そうだわ、今日は二人に会いたいという方をお招きしているの」

「ラインハルト様だけ、でなくて、私たちに、ですか?」

「ええ、是非に、というものだから・・・・ごめんなさいね、勝手に決めて」

「いえいえ、姉上の紹介ならいつでも喜んで。なあ、キルヒアイス」

「ええ。それでどなたなのですか」

呼び鈴が鳴る。
ドアが開いた。
金髪のショートカットの女性、おそらくはラインハルトらと同年代の聡明そうな女性が入ってきた。

「はじめまして、ラインハルト・フォン・ミューゼル中将、ジークフリード・キルヒアイス大佐」

「私はヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ。此度は閣下にお願いとお頼み、そして誓約のためにまいりました」




ラインハルトがヒルダと面識を得た日から約一月後、銀河共和国ではある議案が最高評議会賛成9、反対3で可決され、大統領令A108が実行されようとしていた。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024174213409424