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No.21942の一覧
[1] 第一話 会議は踊り・・・・[凡人001](2010/09/16 19:24)
[2] 第二話 帝国の事情、共和国の策略[凡人001](2010/09/27 22:59)
[3] 第三話 アスターテ前編[凡人001](2010/09/17 17:07)
[4] 第四話 アスターテ後編[凡人001](2010/09/17 21:14)
[5] 第五話 分岐点[凡人001](2010/09/18 20:34)
[6] 第六話 出会いと決断[凡人001](2010/09/19 07:25)
[7] 第七話 密約[凡人001](2010/09/26 18:21)
[8] 第八話 昇進[凡人001](2010/09/26 18:18)
[9] 第九話 愚行[凡人001](2010/09/26 19:10)
[10] 第十話 協定[凡人001](2010/09/26 17:57)
[11] 第十一話 敗退への道[凡人001](2010/09/26 18:01)
[12] 第十二話 大会戦前夜[凡人001](2010/09/26 23:45)
[13] 第十三話 大会戦前編[凡人001](2010/09/26 18:11)
[14] 第十四話 大会戦中編[凡人001](2010/09/26 19:08)
[15] 第十五話 大会戦後編[凡人001](2010/09/28 06:24)
[16] 第十六話 英雄の決断[凡人001](2010/09/28 20:58)
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[21942] 第十二話 大会戦前夜
Name: 凡人001◆f6d9349e ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/26 23:45
『         大統領召集の安全保障会議議事録 1198

記録では、最高評議会議員12名とラザフォート大統領、報告のためイゼルローンから帰還したドワイト・グリーンヒル大将の14名が参加していたとある。

『貴官を前線のイゼルローンから呼んだのは他でもない、ストライクの事なのだ。大将、私は正確な情報がしりたいのだ』

『ロボス元帥は戦勝の報告しかしないが、本当に勝っているのかね?』

『それとも、実際は負けているのではないかな?』

『今回の閣僚人事に現役の軍人アドバイザーとして、秀才の誉れ高いアンドリュー・フォーク准将をいれたが、彼も戦勝を報告している』

『だが、国庫、特に軍事予算関連は当初の見積もりの4倍にまで膨れ上がり、福祉や教育、恒星開拓といったほかの分野でも悪影響を与えだしている』

『この点はどう考えるのかね?』

『現時点、9月18日時点で侵攻軍3600万に目立った被害は出ておりません、大統領』

『そうか、つまり勝ているのだな?』

『ですが、大統領。現在の作戦は帝国領土全域を制圧すると言う無計画な作戦で、これ以上の作戦遂行は国庫に多大な負担を加えます』

『うん? 何が言いたいのだ、ドワイト・グリーンヒル大将?』

『即時撤兵を進言します』

『!!』

『それはなりません!』

『何故ですか、ウィンザー国土交通委員長?』

『これは専制政治を打倒する正義の戦い、国庫に負担があるからといって一戦も交えずに撤退するなど・・・・聖戦にあってはならない行為です』

『そもそも今回の侵攻計画はグリーンヒル大将、あなた方軍部から持ち出されたものではありませんか?』

『それが良識派のグリーンヒル大将ともあろうお人が臆病風に吹かれたようでは・・・・とても安心して夜も眠ることが出来ません』

『そうお考えでしたら、一刻も早く撤退すべきです。確かに帝国軍正規艦隊とは交戦し、これを撃破しておりませんが小規模な艦隊ならばいくつも撃破しております』

『大統領閣下。もう戦果としては十分ではないでしょうか?』

『・・・・いや、だめだ』

『何故です!?』

『有権者により目に見える形で成果をあげなければならぬ。このたびの遠征で議会は臨時増税を可決した。消費税の10%への値上げをな。それは来月にも異例の速さで施行される』

(・・・・・そんなことが・・・・・いつの間に)

『だからな、大将、目に見える成果を挙げるのだ。特に、我々が有権者の支持を会得するためにも、な』

『大統領閣下、それは命令ですか?』

『そう、命令だ。付け加えるなら最高評議会の三名の議員を除く全ての議員の総意でもある』

『さしたる大戦果も無しに占領地からの撤兵など、もはや国民世論が納得しないのだよ、大将』

(それは貴方たちの理論では・・・・いや、止められなかった私も同罪か)

『よって大統領府としては今回の作戦を継続する事を命令とする』

『もちろん、帝国軍に大打撃を与えれば撤兵してもかまわんよ?』

宇宙暦860年 『愚行の過程』より抜粋





第十二話 大会戦前夜



side オーベルシュタイン 宇宙暦796年12月22日

ホテル・ローマ、スィートルーム。
ここに一人の老人と一人の若者がいた。

一人はG8筆頭『ヒイラギ総合商社』の、つまり軍産複合体連合議長のアキラ・ヒイラギ。
茶色の着物を着た大人しそうな爺、といった雰囲気だ。
もっとも、眼光は鋭く、第一印象で彼を侮ると痛い目を見る、そんな風格がある。

もう一人は次席筆頭の『同盟工廠』のミルド・ダン。
両者は三十歳近く年が離れているが、両者ともこの国を影で操る実力者といって良い。
とくにブルーのネクタイにブルーのスーツできたダンなど、若干31歳で『同盟工廠』を取り仕切っているのだから。

「オーベルト准将、じゃったな? 此度はどういった用件かのう?」

「ええ、そうですね。まさか僕らの正体を知らずに迎え入れたわけではないのでしょう?」

二人は挨拶もそこそこに本題に入る。
本来であれば別の要件で忙しいのだ。
それを無視するほどのものをこの男は提示してきた。
だからこそ、ここにいる。しかも、イルミナーティ幹部の二人が。

「そうですな、まずこれをご覧下さい」

紙媒体の資料が手渡される。
それはヤンに命じられてオーベルシュタインが作成した、G8とNEXT11の表沙汰にしたくない資料だった。
それを読み終える二人。
もっとも驚きは少ない。最初の手紙に載せられていた自分たち個人の汚職、売春などに比べれば想定の範囲だった。

「確かに良くできた脅しじゃな」

「ええ、これは立派な名誉毀損罪になりますね」

二人の返答は予想のものだった。
白を切る、当然だろう。

「では、明日の朝一番にでも公表してよろしいので?」

「・・・・・」

「!!」

まさかそう返してくるとは思わなかった。
そんな中、老人は薄く笑い、青年は絶句する。
この辺は修羅場をどれだけ潜ったかによるのだから、二人の反応の違いは仕方ないのかもしれない。

「わしはこういった駆け引きを好まぬ」

一番の年長者が口を開いた

「何が望みじゃ? 言うてみぃ」

オーベルシュタインは淡々と答えた。

「ヤン・ウェンリーを支援していただきたい」

若者が聞く。
彼の目は、老人と同じく真剣であった

「見返りは?」

当然だ。彼らは商人。
ボランティアで誰かを支援することなど無い。
そういう物好きは理想に燃える者の特権だ。
ジェシカ・エドワーズ代議員などその良い例だろう

「戦争の終結による民需産業の更なる勃興とフロンティア・サイドの開拓、そして」

ほう、と老人が頷く。

「そして?」

若者が促した。

「銀河帝国55億の民への貿易権」

それは銀河帝国との講和を前提にした話であった。
さすがに二人とも驚く。
それは150年に渡って議論され、誰も成しえていない偉業だからだ。

「銀河帝国と講和じゃと?」

老人が訝しげに聞く。

「左様です」

オーベルシュタインは淡々と答える。
まるで機械のように、感情にこもらない声で。

「できるのか?」

老人が確認する。
できるのか、と。

「ヤン・ウェンリーならば確実に、と言いたい所ですが確証をすることは出来ません」

オーベルシュタインは正直に答えた。
ここで確証を与えて自分たちの手足を縛っては何も意味がない。
あくまで自発的に味方になってもらわなければならないのだから。

「それでは話にならないよ」

若者が侮蔑を隠さず言い放つ。

「ですので、こちらの資料をご覧下さい」

さらに二つのファイルが手渡される。
そこには銀河共和国の自壊への道しるべが掲載されていた。
食い入るように見入る若者と、老い先短い性か達観している老人。

「お主は優秀じゃな?」

若者はまだ衝撃から抜けきれないのか何も言わない。
だが二人は理解した。
このままでは600億の市場を失うことを。

「恐れ入ります」

オーベルシュタインは頭を下げる。

「共和国の自壊。そう言われればそうかもしれない」

若者にとっては衝撃だった。
まさか数十年先に自分の故郷が崩れ去ると言われたのだから。

「これが本当になるなら協力しなければなりませんね、会長」

「果たしてなるのかのう?」

「ですが徴兵制度はまずい。若い良質な労働力を奪われます、引いては民需の弱体化に繋がります」

若者と老人が言い合う
彼らG8やNEXT11とて何も軍事だけで食っているわけではない。
むしろ、軍事の利益はそれほど大きくない。民間企業だけあって、600億の市場を席巻するほうが甘味があるのだ。

「かといって選抜徴兵制度を続ければ同じことです。いずれ不公平感から世論はいずれかに傾くでしょう」

そこへオーベルシュタインが爆弾を投げ込んだ。

「徴兵制度導入か、志願制度への移行か。そして後者の可能性は戦争が継続していく限りあまりにも低いでしょうな」

そう、民意は時として誰にも止めるられなくなる。不公平感が爆発すれば時の政権はオーベルシュタインの言う選択を迫られるだろう。

「そうじゃが、軍需産業で儲ければよいでのはないかな? 敢えて火中の栗を拾わずとも良いではないか?」

オーベルシュタインは即座に反論した。
まるで待っていたかのように。

「購買層の低下、民需製品の方が利率が高い事は経済を知っている者の常識でしょう。それを捨て去るとは思えません。」

更に煽る

「そして軍需産業に傾倒して、戦争に勝った暁はどうするのですか? 内戦でも起こさない限り軍需の利益は縮小されます。その時莫大な損失を被るのはあなた方イルミナーティのメンバーでしょう」

そうだ、戦争中は良い。だが、万一大勝利を収め、圧倒的な国力差で帝都オーディンを落としたとしたらどうなるか?
戦後不況だ。それも今、戦争に勝って終わるのとは比べ物にならないほどの。

「そこまで分かっていて、講和派のヤン元帥を支持せよと命令するか」

「御意」

チャキ。
ダンがブラスターを取り出す。

「ここで君を殺せば全て無かった事にも出来ますが・・・・どうでしょう?」

「話は全部無かったことにしませんか? お互いそれが一番利益を、少なくてもここ数十年間は生む」

オーベルシュタインは無言で懐からある装置を取り出した

「「ゼッフル粒子発生装置」」

二人の声が重なる。

「そういうことです、代表」

しばしのにらみ合い。
先に折れたのはダンのほうだった。

「やれやれ、あなたは怖い人だ。自分自身をも賭けの道具に使えるとは」

それは賞賛の声。
彼は素直に感心した、この不気味な男の覚悟を。

「そうでもありません。私にも怖いものはあります」

「それは是非とも次の機会に聞いてみたいものじゃ」

「ええ、そうですね」

老人が口を開く。

「ヤン・ウェンリーの件は了承した。悪行ばかりの人生じゃったが、だからこそ一度くらい善行をしても罰はあたらんじゃろう」

老人は損得計算で、一度の賭けならば決して悪くないと考えた。
それに例のレポートもある。あれをばら撒かれるのはやはり痛い。

「全く、とんでもない人物だ。私たちイルミナーティを手玉に取った。それだけで賞賛に値しますよ」

「まあ、信じないでしょうけど僕も戦争は嫌いです、儲けが少ないですからね」

彼も老人と同様の結論に達した。
新たなる市場開拓、その可能性に一度くらいかけてみようと。
なあに、掛け金は思いのほか少ない。

「ヤン・ウェンリーという小僧を支援する、それだけで良いのじゃな?」

確認する。
ヨブ・トリューニヒトのように、支援すればよい。
奴が何か言ってくるのは目に見えておるが、そんな事は次の一言でどうとでもなる

『順番が変わった』
と。

そこでオーベルシュタインが彼らを思考の海から引き上げた。

「ではそちらの資料はお渡しします。信頼の証として」

「信頼か、利用の間違いじゃろう?」

「ま、僕も協力しますよ。そう言うのは嫌いじゃない」

こうしてオーベルシュタインはパイプを手に入れた。
そのパイプは共和国という大樹の地下深くに根をはるイルミナーティ、軍産複合体連合は、彼の目論見どおりヤンへの大きな支持基盤に変貌するのだった。




side ビュコック 宇宙暦797年1月3日



「今すぐ、総司令官にお繋ぎしてもらいたい!!」

ようやく繋がった。
全く何基の中継衛星を利用しているのかわかっているのか。

「それが、その」

対応に出た士官は少尉。
老練な名将の怒りの前にたじたじだった。

「貴官では話にならん。急いで繋げ」

そこで向こうで、イゼルローンでひと悶着あった。
ある人物がオペレーターを押しのけて通信に割り込んだのだ。

「あ、ちょっと」

「失礼しました、アンドリュー・フォーク准将です、ビュコック提督」

不思議に思うビュコック。
わしは確かにロボス元帥との面談を要求したはずだ、と。

「何故貴官が出るのだ!? わしはロボス元帥に直接進言したいのだ!!」

「ですから、まずは小官を介してもらいます」

フォークは柳のようにビュコックの怒りを無視して話を始めた。

「何故?」

「それが規則だからです」

(埒が明かんな、これは)

「じゃな、ならば言わせてもらう。補給作戦が失敗した今、今すぐに退却の命令を出してもらいたい」

フォークは舞台俳優のようにビュコックの正論を精神論で拒否してきた。

「これはこれは、60年近くも帝国軍の侵略を阻んできた勇将の発言とは思えません」

(ふん、何とでも言えばよい)

だが次の瞬間、ビュコックの堪忍袋の緒が切れた

「臆病風に吹かれたのですか、提督?小官なら撤退などしません。むしろこれを好機に帝国艦隊を撃滅してご覧に入れます」

数瞬の間。
ビュコックは静かに口を開いた。

「そうか、わかった、ならば代わってやる」

「は?」

なにを言われたのか分からない、そんな様子のフォーク。
実勢なにを言われたのか頭の中で整理がついていないのだろう。

「代わってやると言ったのだ。そこまで自身がおありならば安全なイゼルローンにモグラのように引き込んでいないで前線に出てくるが良い」

そしてビュコックは代弁した。
今前線にいる全ての艦隊司令官たちの言葉を。

「そしてわしらの代わりに艦隊の指揮を執れ!!」

フォークはたじろいだ。思えば前線に立ったことなど彼は一度も無かったのだから。

「む、無茶を言わないでくさい」

ビュコックの怒りは収まらない。

「無茶を言っているのは貴官の方だ、貴官は自己の才能を示すのに弁舌ではなく実績を示すべきであろう」

「それができないからヤン元帥に嫉妬している、違うか!?」

「しかも他人の影に隠れて功績を横取りしようとしているのではないのか!!」

そして一枚の命令書を出し、手の甲ではたき付ける。

「極めつけはこれだ・・・『現地調達せよ』だと? 自らの失敗を棚に上げてよくもぬけぬけと戦えなどと言えたな!!」

その途端。スクリーン越しのフォーク准将が引き付けを起して倒れた。
軍医が呼ばれ、診断し、ビュコックに事情を説明する。
ビュコックは心底あきれ返った声で言う。

「やれやれ、わしらは赤ん坊の立てた作戦でこんなところまで来てしまったようじゃな」

「お見苦しいところをお見せしました」

ドワイト・グリーンヒルが通信に映し出される。
肩で息をしているところをみるとよほど急いできたらしい。

「なんの。自業自得じゃて。それより総参謀長、撤退の許可はいただけるのでしょうな?」

無言で首をふるグリーンヒル。彼は良識派の軍人だ。
だからこそ、自分の職権以上の事をしてはならないと考え行動してきた。
それ故に、軍内部で出世できたと言っても良い。
得てしてそういう人物ほど若い頃からの生き方に囚われてしまいがちであった。

「私には権限がありません、そしてロボス元帥は今昼寝中で誰も起こすなとの命令です」

「昼寝・・・・ですと?」

「はい」

呆れた、諦めにも似た空気が双方に漂う。

「分かりました、司令部がその気ならば仕方ない。こちらは現地裁量でやらせてもらうとお伝え下さい」

「・・・・・提督」

「ああ、それとグリーンヒル大将、ロボス元帥が起きたら、『このアレクサンドル・ビュコック』が良い夢を見れましたかなと、気にしていた点をお忘れなくお伝え下さい。では」

敬礼して画面から離れるビュコック。

「閣下、言い過ぎです。ヤン元帥の拘禁の件もあります、あまり」

ファイフェル少佐が苦言を言う。

「そういうな少佐。それより撤退準備だ。人員の収容を最優先にする。急げ。荷物は全て置いていって構わぬ」

有無を言わせぬ命令。

「・・・・・ブービートラップは仕掛けますか?」

参謀長のチュン・ウー・チェン少将の提案も拒否する。

「いや、そんな時間は無い。撤退を最優先にせよ。他の艦隊にも通達。責任はこのアレクサンドル・ビュコックが全てとる、とな」




side キルヒアイス



補給艦隊と第7艦隊の残存艦艇を拿捕し、全速力で根拠地にもどるキルヒアイス。
根拠地の名前はロンギヌス。
ロンギヌス基地は来るべき共和国軍との決戦を支援する目的で建設された惑星要塞である。
その為、通常航路から若干外れたところにある、後方支援の秘密基地としての役割を持っていった。
故に、ロンギヌス基地は共和国軍の航路データバンクには搭載されておらず、今回の大遠征でも平穏を保っていた。

だが、それも過去形で語られることとなる。
キルヒアイス中将が100億トンの物資と4000隻の敵艦艇を拿捕して戻ってきたのだ。

「ベルゲングリューン大佐、報告をお願いします」

「戦況の、ですね?」

ベルゲングリューンは確認する。
自身がはじめて認めた上官に。

「はい」

説明が始まった。

「まず帝国暦489年1月7日、ガルミッシュ要塞攻略中の艦隊はムーア中将の第4艦隊と判明しました。これを後方から我が軍のルッツ艦隊が強襲、それに呼応してミュッケンベルガー元帥も出撃、第4艦隊は8隻を除いて全て撃沈したとの事です」

「続けてレンテンベルク要塞ですがこちらも同様であります。同日7日にはファーレンハイト中将とワーレン中将の艦隊に挟み撃ちにあい第6艦隊は消滅。残存艦艇2000隻あまりが捕縛されたそうです」

大勝利と言ってよい。
もっとも、共和国の回復力を考えればそれほどではないのかもしれないが。

「ほかの星系は?」

キルヒアイスが続ける。

「キフォイザー恒星系ではロイエンタール艦隊が8日に敵第3艦隊と交戦中。7日には要塞攻防戦と時を前後して、イザヴェル恒星系ではミッタマイヤー中将が敵の第8艦隊と、グラズヘルム恒星系ではケンプ艦隊が敵の第9艦隊と、我が軍の先鋒であるメルカッツ艦隊はヴィグリード恒星系で敵の第5艦隊と9日に交戦中との事です」

ふと疑問に思う。第2艦隊は遠すぎて狙えないから報告に無いのはわかる、わかるが。

「敵の第11艦隊はどうしたのです?」

ここでビューロー大佐が変わりに報告する

「逃げました」

キルヒアイスは一瞬目を丸くした。
そしてビューロー大佐に聞き返した。

「逃げた?」

「はい」

「それほど早く撤退準備が整っていたとは聞いていませんが・・・・・」

「ローエングラム伯によりますと、共和国軍はエルムト恒星系に展開させた自軍の陸戦部隊15万名を放置していたとのことです」

「な!」

(そんな非常識なことが!)

キルヒアイスが怒っている間にも報告は進む。

「恐らく、どこかイゼルローン近郊の恒星系で決戦を挑み、その場でその失態を取り戻そうとする魂胆でしょう」

「卑劣なまねを・・・それでビッテンフェルト中将、メックリンガー中将を率いるローエングラム伯はどうされたのです?」

「追撃しております、おりますが・・・・」

「どうやら友軍を見捨てるつもりのようで追いつけない状況だとか」

キルヒアイスが言った。

「卑劣な男、ですね」

と。

「全く同感です」

そこでキルヒアイスは今に戻る。

「捕虜にした共和国軍将兵は丁重に扱ってください。暴行、略奪は一切厳禁、破った者は極刑に処す、と」


この後、帝国軍は各地で共和国軍を撃退。特に緒戦で無傷だったのは全てを捨てて逃げたホーランド提督の第11艦隊と、最後尾を守っていたため帝国軍の攻撃範囲外にいたパエッタ中将の第2艦隊だけであった。
その他は疾風ウォルフの異名を持つほどの快速で撃退された第8艦隊のアル・サレム中将。
ヘテロクロミアのロイエンタールにより戦力の半数を失った第3艦隊。
お互い近接戦闘には移行しなかったものの、双方2割の損害を出した第5艦隊とメルカッツ艦隊。
逆に近接戦闘で6割の損害を出した第9艦隊。

だがそれでも各艦隊は10日午前には撤退を完遂し、後はイゼルローン要塞に逃げ込むだけとなった。
そのときである、イゼルローンから艦隊が進発したとの報告が入ったのは。

宇宙暦797年1月11日、ロボス元帥がイゼルローンの予備兵力8000隻を率いて出撃し、そのほかの艦隊は恒星系アムリッツァに集結せよとの命令を伴っていた。
戦力分散の具を犯した共和国軍は各地の味方を見捨ててアムリッツァに集結する。

一方帝国軍も少なくない損害をおったが、士気の面、国力の差から今、敵艦隊を少しでも減らす必要があるため艦隊を再編成し、アムリッツァに兵を進める。

ここに第二次ティアマト会戦以来50年絶えてなかった5個艦隊以上の大規模な艦隊決戦の舞台が幕を挙げようとしていた。



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