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No.21942の一覧
[1] 第一話 会議は踊り・・・・[凡人001](2010/09/16 19:24)
[2] 第二話 帝国の事情、共和国の策略[凡人001](2010/09/27 22:59)
[3] 第三話 アスターテ前編[凡人001](2010/09/17 17:07)
[4] 第四話 アスターテ後編[凡人001](2010/09/17 21:14)
[5] 第五話 分岐点[凡人001](2010/09/18 20:34)
[6] 第六話 出会いと決断[凡人001](2010/09/19 07:25)
[7] 第七話 密約[凡人001](2010/09/26 18:21)
[8] 第八話 昇進[凡人001](2010/09/26 18:18)
[9] 第九話 愚行[凡人001](2010/09/26 19:10)
[10] 第十話 協定[凡人001](2010/09/26 17:57)
[11] 第十一話 敗退への道[凡人001](2010/09/26 18:01)
[12] 第十二話 大会戦前夜[凡人001](2010/09/26 23:45)
[13] 第十三話 大会戦前編[凡人001](2010/09/26 18:11)
[14] 第十四話 大会戦中編[凡人001](2010/09/26 19:08)
[15] 第十五話 大会戦後編[凡人001](2010/09/28 06:24)
[16] 第十六話 英雄の決断[凡人001](2010/09/28 20:58)
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[21942] 第十一話 敗退への道
Name: 凡人001◆f6d9349e ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/26 18:01
G8とNEXT11について 宇宙暦835年 3月30日 ある士官のレポートより

G8やNEXT11は所謂大財閥の一員である。その設立は様々だが、一番古い企業、『ヒイラギ重工』は旧暦3600年代まで遡る。他の企業、特にG8加盟企業はシリウス戦役を母体に登場した新興企業であった。『同盟工廠』『ネルガル重工』などその典型例であろう。彼らは共和国の事実上の支配者といわれている。
何故なら、共和国が選挙制度をとる以上選挙多額の資金が必要であり、それを供給してきたのだから。実際、全盛期には大統領の首さえも代えられると豪語する者もいた。
だが、宇宙暦300年代と宇宙暦500年代に新たなる潮流が登場する。その新たなる潮流の企業群、NEXT11と呼ばれる新興(彼らからみて)の財閥により地位を脅かされることとなる。いわゆる、ライバル出現、という奴だ。
その後の暗闘、両陣営は今でも秘密にするほど合法・非合法な活動が展開されたと聞く。その後は緩やかな協調関係にもどり共和国経済を裏から操る巨大企業群に変貌して行った。
それがG8とNEXT11がたどった歴史的経緯である。やがて戦争が始まるとまるで謀ったのかのように企業群は各々の得意分野で戦争に貢献した。軍艦の建造から軍服の製造まで、ほとんど競争原理が働かないままダゴン会戦から30年あまりが経過する。流石に見過ごせなくなった最高裁判所はG8とNEXT11の合計19社に談合の中止と独占禁止法違反の疑いで莫大な課徴金を課す。
もっともこれは一種の増税であり、その課徴金(なんと当時の共和国年収の1割強に匹敵した)は軍備増強へとまわされるので、あまり意味が無かったと言われている。それから120年、兎にも角にも共和国経済を支えてきた19社はある男たちとの出会いで一世紀に渡る軍産複合体からの脱却を迫られることとなるだった。』



『銀河帝国軍上級大将ラインハルト・フォン・ローエングラムより、フリードリヒ4世皇帝陛下への奏上

現在行われようとしている共和国軍をイゼルローン近郊で縦深陣をしき迎撃するのは困難なものと考えます。
それは以下の点から成り立ちます

1、共和国の物量
(当然ながら共和国艦隊の全軍が9個艦隊であるわけでもなく、他に予備兵力として6個艦隊が存在することが確認されております。遺憾ながら陛下の温情そろえた11個艦隊では15個艦隊に勝てるとは思えません)

2、補給線の短さ
(前途した1に関係しますが補給線が短いほど、彼ら共和国軍は戦い易いのです。その為、共和国軍との決戦をイゼルローン近郊に選んだ場合、士気の高い9個艦隊相手に大いに苦戦するものと考えます)

3、艦隊錬度の低さ
(皇帝陛下の温情の下、各貴族領土から集めた艦艇ですが、それはテストもしていない新造艦艇から、廃艦寸前の旧式艦艇まで様々です。また共同訓練も実地しておらず、最低3ヶ月は各艦隊の訓練が必要であります)

以上の点を持ちまして、臣、ローエングラム上級大将は以下の作戦を提案します。

『ガルミッシュ、レンテンベルク要塞、両防衛線までの後退と辺境外縁部を放棄することによる長期持久戦』

1、二つの要塞からの補給を受けられること。

2、艦隊編成・練度の向上の為の貴重な時間を稼げること。

3、辺境惑星から物資(主に嗜好品、医薬品)を引き上げることで、共和国軍の負担を増大させられること。

4、要塞自体を囮にし、治安維持のために後方に展開しているであろう共和国軍を各個撃破できること。

5、依然、保有する各貴族艦隊を危機感で統率しこれによるゲリラ作戦を展開すること。

以上をもって共和国軍迎撃にあてたいと臣は考えます

帝国暦488年8月 宇宙艦隊司令長官主席参謀兼宇宙艦隊ローエングラム師団司令長官 ラインハルト・フォン・ローエングラム』



『帝国領土に敵影無し』 試作巡洋艦『レダ2』艦長より報告。宇宙暦796年9月3日



第十一話 敗退への道



side ラインハルト 帝国暦486年 7月22日

キルヒアイスが不機嫌だ。
それが最近の彼らの日課である。
ここはラインハルトの官舎。
さっきまでは有能な若手将官たちが勢ぞろいしていたが今は誰もいない。

「怒っているな?」

赤毛の親友に問う。

「怒ってなどおりません」

返事は素っ気無かった。

(嘘だな)

ラインハルトは頭を下げ謝る。

「すまなかった」

キルヒアイスも流石に驚いた。
アンネローゼとの会話や幼い頃を除けばラインハルトがこんなに正直に謝るなど無かったからだ。

「キルヒアイスに相談もせず勝手に焦土戦術をとったこと、悪いと思っている」

「ラインハルト様」

「だが、キルヒアイス、お前とて分かっていよう?俺たちには時間が必要なんだ」

キルヒアイスは答えない。
だが、沈黙は先ほどまでの沈黙とは違っていた。

「貴族どもから接取した艦隊は訓練が足りない」

それはそうだ。
貴族の私兵といえば聞こえは良かったが、いざ集めてみると名ばかり艦隊ばかり。
最低でも向こう2ヶ月は訓練に当てなければならない。

「向こう数ヶ月はこちらから積極的な攻勢に転じられない」

ラインハルトがキルヒアイスの内心を見透かしたかなのように言葉を紡ぐ。

「だから、仕方ない、そう仰るのですか?」

「・・・・そう、言えば、キルヒアイスは気が済むのか?」

「・・・・いえ」

「俺だって食うや食わずの下級貴族出身だ。空腹感の辛さは分かるつもりだ」

思い起こされるのは父親がガス代・電気代を止められ真っ暗になった少年時代のこと
姉上のベッドに逃げ込んだ程の怖さ。
そして、食べるものがないからと先祖伝来の土地を手放し、幾ばくの報酬かと共にこいつの、キルヒアイスの隣に移ったときの事。

「・・・・・・・」

親友の言葉を待つキルヒアイス。

「だがな、こんな策を弄するのは一回だ。この一回限りだ。だから頼む、俺を許してくれ」

数瞬をおいてキルヒアイスが放った

「頭をお挙げ下さい、ラインハルト様。もしもこれが完全な焦土作戦であれば私も断固反対したでしょう。しかし、領民に食料を残す、例えそれが我が軍に不利な事であっても、です。ですから今回だけは私は受け入れます」

「ですが、ラインハルト様?」

そこでキルヒアイスの言葉が止まった。

「うん?」

怪訝な顔をするラインハルトにキルヒアイスは怖いくらいの笑顔で釘を刺す。

「一回は一回です。この意味、お忘れにならないようお願いします」



side イゼルローン要塞 宇宙暦796年9月25日

戦勝。戦勝、また戦勝。
無血で解放(占領)が進むにつれロボスの機嫌は良くなっていく。
それは作戦を主導したアンドリュー・フォーク准将も同様だった。

「いや、ここまで帝国軍が抵抗が無いとは・・・貴官の予測通りだな、フォーク准将」

呼ばれた准将は答える。

「はい、やはりヤン元帥は神経質になりすぎていたのでしょう」

それはロボス元帥の望んだとおりの回答だった。

「ああ、そうだ、その通りだ。
そんな神経質な元帥にこれほどの高度な柔軟性を維持しつつ行われる作戦に口を挟まれてはたまらぬ。
ヤン元帥には休養を兼ねてシリウスで第10艦隊、第12艦隊、第13艦隊の合同演習を命じておいて良かったよ」

続けるフォークには侮蔑の炎がその瞳にあった。

「もっとも、あの目障りな、失礼、神経質な元帥閣下も今年末には到着する見込みです」

「それまでに、決着をつけたいものだ」

ロボスは故意にフォークの上官侮辱罪を見逃す。
彼自身がそう思っているのだから、仕方の無いことかもしれない。

「以前のアスターテ同様、マス・メディアはヤン元帥が出兵に反対した事を知っています」

少し驚いた顔をするロボス。

「ほう?我々はリークしてないが?」

(そうだ、アスターテの隠蔽のためにわしの政治力はほとんど削がれてしまった。黒髪の青二才め)

的外れな、当人にとっては死活問題の苦言。

「ヤン元帥自ら報道に出ているそうです。これは一種の売名行為です」

それをきいて心底嬉しそうな、だが口には深刻そうな言葉で、

「・・・・売名行為、か、それはいかんな」

と言う。

「左様です、軍人は政治に口を挟むものではありません」

これを後世の歴史家が知ったとき、同じ事を感じたという。
((大統領府にかけあって出兵計画を立案したのはお前たちではないか!!))

と。

「うむ、ヤン元帥には査問会を招集し、被告に立ってもらう必要もありそうだな」

もっともそんな後世の批評など知らぬロボスはヤン元帥の待遇を口にする。

「必要とあれば」

便乗するフォーク。

「ところで前線の状況はどうだ? 何か変化はないか?」

「順調です。下級貴族たちは捕らえられませんでしたが、解放政策と相まって民衆の支持は我々にあります」

後方主任参謀のセレブレッゼ中将は頭を抱えている。

(良く言いますな、その民衆3億の嗜好品を届けるのにどれだけ国庫を圧迫しているか分かっているのですか?)

「たしか、趣向品や医薬品がないと聞いたが?」

「病院施設や宇宙港、電力供給施設も破棄されておりました」

それを副後方主任参謀アレックス・キャゼルヌ少将が聞いて内心怒鳴った。

(分かっているじゃないか! それを直すためどれだけの工兵を初めとする後方支援部隊がどれほどの期間を拘束されると思っているんだ!?)

だがロボスは理解していないようだ。
事の重大さに。インフラ施設の全滅、それの普及には数ヶ月を要することを。

「まあ、些細なことだ。それよりも帝国軍宇宙艦隊のほうだ、何か動きは無いのか」

だが、彼はそれを些細なことだと言い放った。
彼の関心は一向に出現しない帝国軍宇宙艦隊に注がれていた

「正規艦隊は我々に恐れをなして逃げたものと思われます。貴族の私兵艦隊がいくつか戦闘の末仕留めた程度です」

実際はゲリラ戦を組織的に仕掛けられ、補給部隊や艦隊から分派した哨戒部隊が少なくない損害を払ったのだが・・・・それはフォークの胸のうちに秘められたままだった。
というより、フォーク自身が重要視していない。そしてゲリラ戦を仕掛けてきた艦隊の7割を逃がした事などすっかり忘れ去られていた。

(その程度で撤退してくれたらありがたいんだが・・・・ヤンならそうするだろうな)

「うむ、作戦は順調のようだ」

「ええ、作戦は順調です。このまま一気にオーディンまで攻め上がりましょう」

本気で言う二人。
一方、キャゼルヌは叫びだしたいのを必死に押さえていた

(ちょっと待て! そんな物資は予算に計上されていないし、用意できない。今だって3億の帝国人を慰撫するための輸送に精一杯でこれ以上占領地を拡大されたら補給計画は確実に破綻する!!)

「占領地をさらに拡大せよ、これは宇宙艦隊司令長官の厳命である!!」

共和国軍の9個艦隊はさらなる領土拡大に向けて分散出撃した。
各地の占領地帯(解放区)に1000万名を越す将兵を治安維持・インフラ整備に残して。
それが、それこそがラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将の策力であるとも知らずに。



side 占領地

一方占領地では、解放軍として共和国軍を迎え入れたかというとそうではない。
辺境地帯になればなるほど共和国軍の侵攻を受けてきた、そしてそのつど撤退している為、ある種の達観があった。
今回もそうであろう、と。

さらに。

とある屋敷で有力者が会合を繰り広げていた。
豪華な、とはいかなまでもそれなりの料理が並んでいる。

「確かにインフラを直してもらえるのはありがたい」

一人が口を開く。そこには感謝の念があった。

「だが、共和国軍が未来永劫ここにいるとは限らぬ」

また一人が口を開く、それは疑念。

「それに共和国が来訪した惑星はほんの一部と聞く」

そうだ。9個艦隊で全惑星を制圧できるはずがない
帝国の航路も全て掌握できているわけではない。
これは、先ほど、飲みにきていた共和国軍の補給部門の左官が漏らした言葉だ。
恐らく間違いないだろう。

「貴族様は自分たちが侵略者と戦うのだと喜び勇みワシらを置いていってしまった」

思い起こされるのは100隻から2000隻までの艦艇の出撃。
たぶん他の星でも行われたに違いない。

「いざとなれば、武器を持て、と言われてな」

露骨に迷惑そうな顔をする老人。

「ふん、国民皆兵制度をとっとる国じゃ。わし等に戦え、そういうに決まっておる」

それに付随する別の老人。

「では共和国軍が狼藉を始めたら・・・・・」

それは恐怖。
長い駐留期間の間、インフラを破壊され、満足に娯楽を提供できない今、いつ暴発するのか。
特に前線に来ている将兵たちのストレスと欲求不満はいかほどの事か。
それが怖い。

「自分の身は自分で守れ、と言う事だろう」

そうして最初の老人が締めくくる。
彼らの隠し部屋にはいくつものライフルが置かれていた。

これから2ヵ月後、共和国軍の下士官の一人が婦女子に暴行を働き死なせてしまう事件が発生。
もちろん、残っていた住民が抗議に出たが黙殺された。
そればかりか、対応に出た士官がガチガチの共和主義思想家で、第11艦隊のウィレム・ホーランド中将のようにこの遠征で皇帝の首をとると公言して歯ばかりなかった。
その士官は最悪の行動に出る。それは、デモ隊への発砲であった。




side ドワイト・グリーンヒル大将 宇宙暦796年12月1日


グリーンヒルはヤン艦隊と共に要塞へと着任した。
ヤン艦隊はそのまま査問会への出頭を命じられ、ヤンは司令部に顔を出せる事さえ許されずにいた。
査問会は3日続き、ヤンの神経をすり減らし、決意をより強くするのだが、その時点では本人以外は分からなかった

そしてグリーンヒルは状況をキャゼルヌ少将から聞くと顔を青ざめ、急ぎロボス元帥へとアポを取る。

「閣下、各地の占領地で暴動が相次いでおります」

(まさかここまでひどい事態になろうとは)

グリーンヒルは思った。
これは不味い、と。そして早く撤退しなければ、と。

「このままでは我が軍は戦わずに疲弊します」

だがロボスの反応は鈍い。

「即時撤退すべきです」

しかし返ってきたのは予想だにしなかった発言だった。

「ならん、帝国軍と一戦も交えずに撤兵したとあっては我が軍の沽券に関わる」

(軍の沽券?)

もしもヤンが聞いたら激怒していただろうう、軍人としての名誉を全うするために、いや、今回は司令官個人の自尊心を満足させるために撤退しないと言っているのだから。

「事はそういう問題ではありますまい、閣下。それに数度にわたって帝国軍を撃破しているではありませんか」

グリーンヒルの脳裏にヤンが見せた資料が流れる。
あんな未来はごめんだ。自壊する共和国など見たくもない。

孫のためにも。




side ヒューベリオン ヤン元帥の私室 宇宙暦796年11月15日

3人いる。
一人はヤン・ウェンリー。
一人はドワイト・グリーンヒル。
一人はフレデリカ・グリーンヒル。

ヤンが頭を徐に下げた。
そこには統合作戦本部長室で見せた謀将のかけらもない。

『お義父さん、と御呼びすれば良いのかも知れません、フレデリカをもらいにきました』

『・・・・・・』

頭を下げる二人。
ちょっとした沈黙の後、グリーンヒル大将が口を開く。

『フレデリカ、本当にヤン君で良いのかね?』

『はい』

即答するフレデリカ。
しばしの間、目を瞑るグリーンヒル

(・・・・・・)

(・・・・・・)

二人が黙っているとおもむろに言葉を発し始めた。

『・・・・・こんな娘だが、私にとっては妻の形見でもある。前にも言ったが・・・・』

グリーンヒルが睨む。
それに答えるヤン。

『不幸だけには、決してしません』

ヤンの決意を見るグリーンヒル。そこには外見とは全く似合わない決意が表示されていた。
頷くグリーンヒル。

『よろしい』

『ありがとうございます』

心からお礼を述べるヤン。

それから3人で雑談をしていたが、グリーンヒルが突如話題を切り替えた。

『ところで、ヤン君、私に何か見せるものがあるのではないかね?』

核心を突く言葉。第三者が聞いても分からないであろう言葉。

『・・・・ご存知でしたか』

驚くヤン。それをいつ伝えるか迷っていたのだから。

『総参謀長という役職を舐めないでもらいたいものだね、ヤン君?
君がオーベルト准将と何か作成している事は知っていたのだよ?』

『何故、放置を?』

フっとグリーンヒルが笑った。
そしてヤンにとっても意外な言葉を続ける。

『我が国にとって大切なことではないかと、そう直感を感じたから。それと・・・・・娘の夫を収監したくなかったからだ』

そしてヤンはホアン・ルイに語った事と同じ事をグリーンヒルに事となる。




side グリーンヒル 宇宙暦12月1日 イゼルローン要塞司令部。


「閣下! お考え直しください。まだ間に合います」

必死に訴えるグリーンヒル大将。もしも今損害らしい損害を出さずに撤退できるなら、あのレポートの前提が崩れる。
そうすれば孫が軍人になるのを防げるかもしれない。
何せあのレポートの大前提は広大な占領地帯を保有するか、大敗北を喫するかどちらなのだから。

「撤退が無理ならば、せめてヤン元帥の軟禁を解いてください」

ヤンは売名行為のかどで艦隊に軟禁されていた。
さらに理由がある、それは早期撤退論を誰振りかまわずしゃべった為である。

「いいや、だめだ。彼には礼儀が足りん」

実際ヤンに撤退の進言をする権限はあっても、撤退命令を下す権限はなかった。
だからヤンは要塞内部に撤退論をつくりロボスを少数派に追い込むつもりであった、あったのだが。

「彼は私を無視したのだぞ!」

ロボスを無視したのは悪かった。いや、結果を急がずに回り道をしてしまったヤンが不運だったのか。
温厚で紳士的と呼ばれているグリーンヒルも流石に呆れた。

(それは感情論ではないか!)

結局、双方の論理は平行線を走り、侵攻作戦は継続されることになる。
ただし、流石のロボスも罪悪感を覚えたのか、比較的後方地帯を占領していた第7艦隊のアレキサンダー・ホーウット中将に補給船団の護衛を命じた。
だが、補給艦隊の総数に比べ、護衛艦艇の艦艇数はあまりに少なかった。

それが新たなる悲劇を呼ぶことになる。




side ラインハルト 帝国暦486年12月5日


宇宙艦隊司令長官の命令でラインハルトが訓示をたれる。
ミュッケンベルガー元帥は既にガルミッシュ要塞防衛の任についており、ここにはいない。
彼がどれだけ皇帝に疎まれたかが分かる人事だった。
また、貴族連合軍を纏め上げ新たに艦隊を編成したアーダベルド・フォン・ファーレンハイト中将(いくつもの小規模な艦隊を統合し練兵し、1個艦隊を再編した腕前をもって皇帝より少将から中将に任じられた)はレンテンベルク要塞防衛の為に進発しており、同じく帝都にはいなかった。

「卿ら、時はきた」

ラインハルトは9名の提督たちを座らせると言った。
彼らの傍らに副官たちが座る。

ウィルバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将

ウォルフガング・ミッタマイヤー中将

オスカー・フォン・ロイエンタール中将

ジークフリード・キルヒアイス中将

カール・グスタフ・ケンプ中将

コルネリアス・ルッツ中将

アウグスト・ザムエル・ワーレン中将

エルネスト・メックリンガー中将

フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト中将

いずれも有能な9名の提督たちである。

「共和国軍は罠にはまった」

ラインハルトの端正な顔が一瞬ゆがむ。
もっとも気が付いたのは赤毛の親友だけであったが。

「キルヒアイス中将、説明を」

「ハッ」

キルヒアイスが端末を操作する。
そこには各地に分断され半ば孤立している共和国軍とレンテンベルクに1個艦隊、ガルミッシュに1個艦隊を釘付けにされた状況が映し出された。

「ごらんの通り、我が国の3分の1を占領した共和国軍ですがその距離、そして各地に派遣した分艦隊のゲリラ戦術で満足な補給が受けられている状況ではないと情報部は判断しました」

分艦隊規模のゲリラ戦、各地に備蓄されていた物資を切り崩して行われた。
それは皮肉にも50年以上前、第二次ティアマト会戦敗北後に本格的に議論された本土決戦を想定しての作戦であり、それが実った形となる。
いわば共和国軍は50年前の大勝利のつけ、それも予想だにしなかったツケを払わされていたのだ。

「それを裏付けるかのように、帝国深遠部に近い共和国艦隊は物資の略奪を始めております」

そう、共和国艦隊は無計画な進出にしたがい、自己の艦隊を維持するだけの水や食料が不足していた。
帝国軍はもちろん知らなかったが、共和国軍の最前線の艦隊に至っては汚水を浄化して飲み水に変えているくらいである。
それはヤンが指摘した距離の壁であり、撤兵時期の無計画さのツケでもあった。

「そしてそれに対抗すべく艦隊の占領地域では大規模なパルチザンが展開されており少なくない損害を出しているとの事です」

陸戦部隊を投入しても数で圧倒される、しかし投入しなければ自分たちが餓える。
そんなジレンマを抱ええる共和国軍。もはや解放者としての仮面はなかった。

「さらに、4ヶ月前に占領された辺境各地でも大規模な暴動が発生しております。これは軍規の甘さとそれによって生じた問題、対立とが原因と思われますが、その対処に武力を持って望んだため民心は急速に共和国軍を見放しております」

キルヒアイスの握られた左手から血が滴り落ちる。
怒っているのだ。彼は。

「そして各艦隊はあまりにも遠く相互支援できる状況にはありません。また、前線の物資不足を補うためイゼルローンから100億トンもの物資を輸送する計画が持ち上がり、今年12月中旬に実行される見通しです」

「そしてその補給艦隊を私が急襲します」

キルヒアイスは締めくくった。
そしてキルヒアイスが先に退席する。作戦を実行するために。

「卿ら、現状は分かったな?」

メルカッツが手を挙げる

(メルカッツほどの人物が分からぬとも思えぬが)

「何か不可思議な点でもあるのか?」

「いいえ、上級大将閣下。現時点で共和国軍が息切れした点は良く分かりました。
しかしながら、何故ここまで民衆を苦しめる必要があったのですか?」

幾人かの提督がハッとして金髪の若い司令官を見る。

「・・・・・国を変えるためだ」

彼は小さな、小さな声で呟いた。
それは全員に聞こえた。
メルカッツが聞き間違いかと反復する。

「国を?」

そこには先ほど沈んだ若者の姿はなく、英雄の姿があり、彼は断言した。

「勝つためだ、それ以外の何がある?」






宇宙暦796年、帝国暦486年12月24日

クリスマスイブの惨劇と呼ばれる戦いがタラニス恒星系で発生する。

キルヒアイス艦隊は共和国軍が掌握できなかった航路を使って、各地のスパイや偵察艦艇、フェザーンから野情報を総動員し第7艦隊と補給艦隊の位置を割り出したのだ。
そしてタラニス恒星系の隕石地帯で待ち伏せを行い、一気に急襲。共和国第7艦隊旗艦『ケツァル・コァトル』が沈み、ホーウッド提督も戦死した。艦隊旗艦を撃沈され艦隊が一時混乱。そこをキルヒアイス艦隊につかれ前後に分断、分断後キルヒアイスは前方集団の殲滅に全力をそそぐ。
前方集団7000隻は突如現れた15000隻の艦隊に対応できず崩壊、中央攻撃で2000隻を、その後はほとんど何も出来ずに味方7000隻を失った後方の4000隻は、かろうじて生き残った副艦隊司令官アーノルド少将の命令により補給艦隊ともども投降する。

この戦闘でキルヒアイスは、その戦闘速度の的確さと戦闘時間の短さ、犠牲の少なさから、味方の帝国軍から、絶大な信頼を得てローエングラム陣営No2の座を確実なものとなる

100億トンもの物資もキルヒアイス艦隊の手に落ちた。
それは共和国軍の補給線が完全に瓦解した事を意味する。

そしてそれから1週間後の宇宙暦797年、帝国暦487年1月1日、帝国の逆襲が始まった。


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