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No.21942の一覧
[1] 第一話 会議は踊り・・・・[凡人001](2010/09/16 19:24)
[2] 第二話 帝国の事情、共和国の策略[凡人001](2010/09/27 22:59)
[3] 第三話 アスターテ前編[凡人001](2010/09/17 17:07)
[4] 第四話 アスターテ後編[凡人001](2010/09/17 21:14)
[5] 第五話 分岐点[凡人001](2010/09/18 20:34)
[6] 第六話 出会いと決断[凡人001](2010/09/19 07:25)
[7] 第七話 密約[凡人001](2010/09/26 18:21)
[8] 第八話 昇進[凡人001](2010/09/26 18:18)
[9] 第九話 愚行[凡人001](2010/09/26 19:10)
[10] 第十話 協定[凡人001](2010/09/26 17:57)
[11] 第十一話 敗退への道[凡人001](2010/09/26 18:01)
[12] 第十二話 大会戦前夜[凡人001](2010/09/26 23:45)
[13] 第十三話 大会戦前編[凡人001](2010/09/26 18:11)
[14] 第十四話 大会戦中編[凡人001](2010/09/26 19:08)
[15] 第十五話 大会戦後編[凡人001](2010/09/28 06:24)
[16] 第十六話 英雄の決断[凡人001](2010/09/28 20:58)
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[21942] 第十話 協定
Name: 凡人001◆f6d9349e ID:4c166ec7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/26 17:57
『フェザーン建設の歴史

フェザーン自治領(共和国名称は特別自治州)が建設されたのは今から約100年前宇宙暦690年になる。それは独立国家フェザーン建国、そういっても良いかもしれない。名目上は帝国の自治領、共和国の特別自治州としても外交・軍事・内政・司法の4つの権力を保持しているのだから。フェザーン人はフェザーン人としての独自性、独立性を保障されており、それ故に両国家間を行き来できる。だて本筋の歴史について述べよう。銀河帝国とどう接触したのかはあまり知られていない。公式的には時の皇帝マクシミリアン2世と個人的友誼があった為、と、言われている。共和国の情報網をもってしてもそれ以上のことは分かっていない。分からない以上それが真実なのやも知れぬ。
時の皇帝マクシミリアン2世は政治闘争で身の危険を感じた彼は、共和国に一度亡命し、その後帝位についた。彼は共和国との宥和政策を掲げ、その治世5年ほどは両国に平和への兆しが見えた。だが、共和国憎しとの念に駆られた一部の貴族が彼を暗殺してしまう。
その5年間、その5年以内にフェザーンは、我ら共和国人が『休戦期間』と呼ぶこの時期に、帝国と何らかの密約を結んだものと考えられる。
帝国史から見たフェザーン建国の謎であり、恐らく真実であろうと学者たちは考える。
一方でマクシミリアン2世がフェザーン自治領を建設を認めた背景には、幼い頃をすごした共和国への憧憬と底力を知っており、またその責任感の強さから帝国の改革と存続を目指していた。その為の講和の仲介役としてフェザーンを使いたかったのではないか?
それが現在の共和国の一般的なものの見方である。

一方、共和国内部には詳細な資料が残っている。レオポルド・ラープ以前に3名の地球出身の代議員がいた。名前は活除するがこれら3人もラープ氏に負けず劣らずの活躍を中央議会で行った。
彼らは、当時未開拓地域であり軍の管轄下(帝国領と接しているのだから当然である)であったフェザーンのテラフォーミングと開拓を強く訴えた。否、訴えただけでなく新型テラフォーミング技術の実験として、フェザーン恒星系第7惑星でそれを実行させた。
当時の軍部は帝国侵攻の後方拠点として、経済界は単なる新技術の実験として行ったと後にコメントしている。
兎にも角にも、テラフォーミングは成功し、後は州への格上げを行うのみ、となる。そこで登場したのがレオポルド・ラープだった。
歴代の自治領主の中でもっとも中央議会に近かった彼は(彼自身、最高評議会、国土交通委員会委員長を務めている)その政治力を利用して、ある時は経済的な利益を、ある時は軍事的な脅威を、ある時は帝国との架け橋の可能性を訴え続けた。
その結果、独自の州軍2個艦隊を保有を認めさせ(共和国からみれば帝国への無言の圧力となると当時は考えられた)、特別自治州として外交権(この点は大論争になったが情報を定期的に共和国へ流す、という事で了承された。それが帝国にも流していると気が付いた時にはフェザーンは確固たる地位を確立していた。余談だがこの事態を知った、時の大統領は辞職に追い込まれている)、司法権(この点は各州が州裁判所と州法、州立議会を持っているので特に問題視されなかった)、内政権も同様だ。他の州が持っているのにフェザーン『州』にだけ認めないのはおかしい、とラープ氏の弁は的を得ていたので付与された。
さて、ここで問題となるのは軍事拠点としてフェザーンを利用したかった軍部である。経済界は新しい取引先の成立と独立系商人(G8やNEXT11などの財閥に属さない、準大手の企業や個人商社など)が大挙したおかげで追い払えた感があった為、さして問題にはしなかった。では軍部は? 意外なことにある程度の文句をつけた程度で終わっていた。
宇宙暦646年4月のダゴン会戦(接触戦争)から当時までの軍部は宇宙艦隊の増強を少ない予算(それでも帝国軍の1.5倍は出ていた、出ていたが、共和国全土を守るにはあまりにも少ない。その理由はダゴン会戦の圧倒的勝利に求められるだろう。当時の共和国上層部は向こう数十年の本格的な武力侵攻は双方ともに無いと判断したのだ)の中でやりくりしており、その予算代わり(盾代わり)を自前で用意してくれるなら寧ろありがたい、そういう風潮であった。
すんなり、とはいかないがフェザーン特別自治州の案件は通ってしまう。それはフェザーンという交易国家の始まりでもあった』



『成績優秀なユリアン・ミンツ訓練生並びカーテローゼ・フォン・クロイツェル訓練生を第五艦隊に配属とし、帝国領土侵攻作戦「ストライク」に参加する事を命じる』 統合作戦本部人事局より



『帝国軍上層部が我々を反逆者、と呼んでいるのには訳がある。彼等にとって現在の広大な共和国領土は本来、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム氏が継承するはずだった、そう考えているのだよ。しかし、それは大きな誤りだ。ゴールデンバウム氏は自己の意思で共和国を離れたのであり、私たちが追い払ったような言われようは不本意であるからな。また、共和国の公式文章には戦争中にもかかわらず、否、戦時かだからこそ慢心することなく帝国を銀河帝国ゴールデンバム王朝と明記している。これは我が国の方が銀河帝国に比べて言論の自由を保障し、また、敵を侮らないという鉄則を守っている証拠に他ならない』by ヨブ・トリューニヒト


『新たな恒星系の一つバーラト恒星系にある惑星ハイネセンは第二の首都だ。首都機能をそのまま移転できるよう整備されている。だからハイネセン州の発言力は大きい。人口30億を数えればそれだけ多くの議員を輩出できるからさ。あの、若い女史、ジェシカ・エドワーズなども、ね』by ある自由共和党議員の日記より


『ジェシカ、今度はシリウスで会わないか?テルヌーゼンへの帰省はまた今度になりそうだ。
ヤンとお前と、それとグリーンヒル少佐、それにアッテンボローとユリアン君の6人で大切な話がある。よい返事を期待している。
ジャン・ロベール・ラップより』


『銀河帝国軍・国防白書 帝国暦437年7月 

軍務尚書の上奏より抜擢

新要塞郡建設について。臣は新たにガルミッシュ、レンテンベルク要塞を建設し、それぞれの主要航路に配置し、共和国軍の侵攻を食い止めることを念頭に入れております。特にガルミッシュ、レンテンベルク要塞を結ぶ線は帝国防衛の為の必須条件と考えます。いわば絶対国防圏であります。ブルース・アッシュビーなる反逆者の蠢動のため宇宙艦隊の大半を失い、反逆者どもの大規模侵攻の可能性にさらされている今、帝国が存続する為にも要塞建設は必要不可欠であります。また、宇宙艦隊再建の暁にはイゼルローン回廊にも帝国軍の要塞を設置すべきと考えます。残念ながら第二次ティアマト会戦の結果、我が国は向こう20年間は迎撃に特化せざる終えません。そこで艦隊再建の傍ら、本土決戦の補給・防衛線として要塞が必要との結論に達した所在でございます。どうか、要塞建設のご聖断を』



第十話 協定




side ホアン・ルイ 
帝国領土侵攻作戦「ストライク」発動の二週間前 首都シリウス



『和音の亭』
俗に言う『和食料理』を出す高級レストラン。
だが、ただ高級ではない。
ここは多くの政治家や企業家が愛用する場所。
それはここが秘密を守るのに適したセキュリティーシステムを装備しているからだ。

そこに中高年の少し頭皮が薄い男が入ってくる。
カーゴ色のスーツに薄い緑色のネクタイ。明らかに高級素材でフルオーダーとしたと分かるシャツ。

「英雄からのお誘いとは恐れ入るね」

それは共和国最高評議会人的資源委員長ホアン・ルイだった。
そして向かい側に座っている、ブルーのジャケットに白のスラックス、黒のシャツを着ている男。
冴えない風貌とそれに似合わない鋭い眼光。

「お初にお目にかかります、ヤン・ウェンリーです」

そう言ってヤンは頭を下げる

「いやこちらこそ、彼の英雄とご一緒できるとはうれしい限りだよ」

右手を差し出す。

「人的資源委員長のホアン・ルイだ。よろしく頼む」

(そう、この男こそ今や国民的な英雄となったヤン元帥だ)

(だが、レベロから聞いている印象とはまるで違う)

(やはり、あの噂は本当だったのだな)

握手をしながら、ホアン・ルイが頭の片隅でアスターテの噂を思い出している。

(・・・・出所は不明だが・・・・)

『アスターテの噂
アスターテ会戦の初期の過程がダゴン会戦と似たようになったのは銀河帝国に情報を流した軍高官が存在するからだ。その目的は目障りなヤン・ウェンリーの謀殺。』

(あの噂の出所はついに掴めなかった。噂の噂では軍部からと聞くが・・・・まさか自分の失態を、下手をすれば軍法会議ものの情報を流すはずがない)

「それで、私に何を頼みに来たのかね?アスターテの噂の真偽を問いただすならば無駄だよ、元帥」

ヤンにかまをかけてみる。
だがヤンの反応は彼の予想を斜めに行くものだった。

「とんでもない、もっと政治的なことですよ、人的資源委員長閣下」

ヤンは何事もなかったかのように言い切った。
政治的野心が自分を持っている、と。

「ほう?」

興味がわく。
あのヤン・ウェンリーが何を目的に、何を狙っているのか。

(政治的野心の無い、稀有な人物と見ていた私の観察眼は間違っていたのか?)

ホアン・ルイは言葉にださず、日本酒のグラスをあおる。
ヤンもまた彼に習い、グラスをあおった。

「閣下は今回の出兵に反対しましたね」

ヤンが確認するのはA108と「ストライク」作戦の議題だった。

「ああ、反対した。もっとも私とレベロ、それにトリューニヒトの3人では否決できなかった。共和国の法に則り、君を含め多くの軍人たちを無謀な出兵に参加させてしまって申し訳なく思う」

それは紛れもない本心。

「そうお考えですか?」

ヤンが切り込もうとしてきた。

(?)

「ああ、そう考えるね。」

ヤンが切り込んだ

「でしたら、お願いがあります。戦争を終わらせるために」

ホアン・ルイは思わずグラスを落としかけた。

(彼は何を言った? 今、戦争を終わらせる、そう言わなかったか)

戦争。
聞き間違い出なければこの長い戦争のことか?
まだ誰も終わらせるどころか終わらせる糸口も見えない戦争のことなのか?
ホアン・ルイの衝撃を無視してヤンはカバンから一枚の分厚いファイルを取り出した。

(ほう、今時めずらしい、紙媒体のファイルとは・・・・それだけ重要な事だという事だな)

「ここに私がまとめたむこう1世紀の共和国の情報と推移が乗せてあります。どうぞごらんになってください」

渡される資料。
最初は流し読みをしていたホアン・ルイだったが、どんどん真剣に、そして熱心に何度も何度も読み返した。

「これは君が書いたのかね?」

「ええ、ある人物には手伝ってもらいましたが」

そこにはむこう半世紀以内共和国軍は徴兵制度をしき、民間需要を萎縮させ、軍備拡大路線に傾き、帝国を滅ぼし、その新領土の重さと軍需産業の依存により自壊していく事が事細かにデータ付で乗せられていた。
その未来予想図にホアン・ルイの顔が青ざめる。

(よく出来てる。それに否定できる材料がほとんどない!)

さらにヤンは畳み掛ける。

「その切っ掛けとなるのがこのたびの遠征でしょう」

一口飲む。
飲んでのどを潤す。ヤンも緊張しているのだ。

「勝っても負けても共和国は軍備増強路線に走ります。勝てば占領地維持のため、負ければ損害回復と復仇戦を挑むために」

ホアン・ルイが後を引き継ぐ。

「そして軍需産業は今以上に増え肥える、という事かね」

ヤンは続けた。

「ええ、そして議会は安易な軍人確保手段として徴兵制の議論を開始するでしょう。それが中長期的に見ては国庫の破綻や国家の人的資源能力の枯渇へと繋がります」

さらに言葉を重ねる。

「それを避けるには、大敗北をきっした直後に帝国と、それも通商条約を含んだ講和を成立させることです」

「軍人の君から敗北と言う言葉を聴くとはな。新鮮な驚きだよ」

「委員長!」

ヤンが怒ったような声で、実際には怒っているが、彼を怒鳴りつける。

「分かっている、そう怖い顔をしんさんな。だが、確かに君の言うとおりだ・・・・しかし、ただ戦争を終わらせるだけでは駄目なのかね」

ホアン・ルイは至極真っ当な質問を返す。

「それでは失業者問題に対応できません」

そしてヤンはかつてユリアンに語った事をそのまま語った。

「なるほどな」

先ほどから何杯も口につけているが二人は全く酔ってない。

「もしもだ、仮に講和が成功すれば良いとしてゴールデンバウム王朝が存続し、鎖国したらどうするかね?」

「その時は、選抜徴兵制度の廃止と辺境恒星系開発、フェザーンの三角貿易への直接介入とで不況を乗り切ろうと思います」

ホアン・ルイは驚いていた。
それは彼やジョアン・レベロが考え、夢物語として捨て去った構想。
それをヤン元帥は蘇らせた。重大な危機感と共に。

「第3の黄金期、それを創造するというのかね?」

ホアン・ルイは新しいグラスに手をつける。これで何杯目かはもう分からない。
だが、むしろ普段以上に鋭い感覚で物事を見ていた。

「ヤン提督、君の案は確かに正論だ。だがね、惜しいかな軍人では・・・・・言い難いが・・・・・共和国の政治には何も出来んよ?」

ホアン・ルイは語る。
それはこの国の常識だった。

「君の戦争を終わらせたい気持ちは分かった。私たちは同志と言っても良い」

嘘偽りはない。
彼は本気で戦争を止めたいというヤンの思いに応えたかった。だが、応えられない。
・・・・何故なら彼は軍人だからだ。

「だが、敢えてもう一度言う、軍人は政治に関与できんし、するべきではない」

ホアン・ルイも譲れぬものがある。
彼は確かにヤン・ウェンリーを支持したいと思う。仮に彼が本当に政治の場で活躍するつもりなら。
だが、それが分からない。

(この男はどれほどの覚悟を持って停戦、講和、通商条約の締結といった言葉を並べたのか)

言葉だけの政治家は古来から現代まで極めて多い。
だが、口先だけで終わらせてしまう、あるいは鈍らせることは多々ある。

(それに絶対的権力を持って人が変わるかもしれん。アーレ・ハイネセンのような人物はむしろ稀なほうなのだぞ)

ヤンはすこし考えた後口に出した。
恐らく、アスターテがなければ彼が絶対に拒否したことを。

「それは分かっています。ですから、閣下にもうひとつお頼み申し上げたいことがあります」

真摯な目。
ホアン・ルイも思わず姿勢を正す。

「何かな?」

ヤンは一呼吸置いていった。

「ホアン・ルイ委員長と同じ自由共和党に属している、今回の出兵にも反対票を投じた方、国防委員会委員長のヨブ・トリューニヒト氏と面接の機会を下さい」

と。

(!!! あの反トリューニヒトのヤン元帥が自らトリューニヒトに会いに行く、だと!?)

それは、彼が茨の道を歩むことを覚悟した言葉だった。




side ジェシカ・エドワーズ代議員 帝国領土侵攻作戦「ストライク」発動の12日前 首都シリウス


久しぶりに夫に会える。
アスターテの報道を聞いたときはどうなるかと思ったが、それは幸運なことに杞憂で終わった。
ヤンが彼を、ジャン・ロベールを救ってくれた。

(私に話って何かしら?)

ヤンが奥さんを手に入れつつあるのは知っている。
以前、ジャンから通信が来たときのことだ。

『あの時はほんとうにびっくりしたよ』

『信じられかい?あのヤンに優秀な女性だぜ?』

『しかもエル・ファシルから10年もの片想い』

『普通なら諦めるか、他の男に目移りするはずだろ?』

『それがずっと、エル・ファシルからずっとだ。そして想いを遂げた』

『まさにミラクル・ヤンだ』

続けて、その奇跡の瞬間を邪魔せざる負えなくなった愚痴が続く。

『冗談抜きで愛し合っていたらどうしようかと思ったよ』

『電話にはでないし』

『ヤン閣下に銃殺される、と、少し本気で思えたね』

回想はおわりジェシカは学園祭の頃のヤンを思い出した。
ダンスの一つもまともに踊れない新米候補生。
私に気があったのは分かっていたけど、彼は私をもう一度ダンスに誘うことはなかった。

その、ヤンに彼女か。

(私を振っといてよくもできたものね)

ジェシカは笑みを浮かべながら、彼女を乗せた機体はアーレ・ハイネセン空港に到着した。




side ラップ 帝国領土侵攻作戦「ストライク」発動の12日前 首都シリウス


ヤン、ラップ、ジェシカ、フレデリカ、ユリアン、アッテンボローの6人はヤンの官舎で歓待を受けていた。
といっても、フレデリカははさむモノ以外は苦手だし、ヤンはご存知の通り生活無能力者。
そいう訳で訓練学校から帰宅したユリアンがジェシカとともに厨房に立つことになる。

雑談が過ぎ、ワインのビンが2,3本空けられた頃、ヤンは切り出した。

「みんな、話がある」

いつになく深刻そうなヤンにみなの視線が注目する。

「私は今度の大統領選に出馬するつもりだ。戦争を止めさせるために」

ラップが思う。

(やはり、か)

ジェシカは絶句する。

(なっ!)

ユリアンは突然のことで何といってよいのか分からない。

「ヤン、詳しく話をしてくれないか?」

ラップはうすうす感ずいていたが、敢えて彼に話を振った

「うん、まずはみんなに知ってもらいたいのはアスターテの件だ」

そして彼は語りだす、オーベルシュタインとの出会い、本部長との密約、ホアン・ルイとの会談。

「そんな、そんな事ってあんまりです!!」

ユリアンが怒り叫ぶ。
むろん、そのベクトルはヤンを謀殺せんと企む軍上層部にむかっていた。

「それで、どうする? 俺たちに何をして欲しい」

ヤンは逡巡した後に絞りかすのような言葉で口を紡いだ。

「友でいて欲しい」

と。

「どういうこと?」

ジェシカが問う。

「軍部はシトレ元帥や私自身の名声で抑えられる。財界にも手はうつ。だが、国民は駄目だ。自由共和党が与党とはいえ議席の過半数をかろうじて保有するのみ」

「待って!自由共和党は右翼よりよ?講和を望むなら何故、私たちの州民連合に参加しなかったの!?」

「それは・・・・・」

ラップに視線をやる。
それだけで分かった。

(長い付き合いだからな)

(そして、俺たちを呼んだ理由はそこだな、俺たち、じゃなく、ジェシカ、か。)

「ジェシカ」

ラップが口をはさむ。

「ヤンはね、君の政治基盤を当てにしているんだよ」

「ヤン!!」

その言葉に顔を上気させるジェシカ。
(裏切られた!? 私たちは親友ではなかったの!?)

バチン!!!

ジェシカが身を乗り出し、ヤンに平手打ちを食らわした。

「あなた!」

「提督!」

「先輩!」

フレデリカはジェシカを鬼のような形相で睨みつけた。
一方ユリアンとアッテンボローはどうしていいのか分からないまま場違いな感想を持った。

((女って怖いんだな))

お構いなしに怒鳴りつけるフレデリカ。
それを涼しい顔で受け止めるジェシカ。

「何をするのですか!?」

ヤンの頬におしぼりを当てながら反発するフレデリカ。

「それはヤンに聞きなさい! 私を利用するつもりで今日呼んだ、貴方の彼氏さんに、ね!!」

フレデリカもすかさず反論する。

「あの人は、ウェンリーはそんな人じゃありません」

ジェシカも半ば泣きそうな表情で言い返す。

「ええ、私もそう思っていたわよ。今の今までは。」

「でも違った。こうやって自分の派閥を作ろうとしている、そうでしょ!?」

「しかもヤン、貴方、私が断れないようにする為にジャンを巻き込んだわね!?」

ジェシカはヤンが最初からラップを懐柔し、自分を抜き差しならぬ状況に追いやったと感じた。だから思わず手が出てしまった。
一方フレデリカは、ジェシカが感情的になって手を出したとしか思ってない。

「戦場でこの人がどれだけ苦心したか、あなたには分からないの!?」

フレデリカは知っていた。アスターテで、イゼルローンで犠牲になった両軍の兵士たち、その遺族。それに心を痛めているヤンを。

「わかるつもりよ!」

「嘘だわ! でなければこの人が、ウェンリーがどんな思いで今日を迎えのか分かる筈だわ!!」

エスカレートする二人の女、女の戦い。

「いいかな」

ラップが仲裁に入る。

(アッテンボローは役に立たないし、ユリアン君には荷が重過ぎる。そしてヤンは当事者)

(結局俺が仲裁に入るのか)

その態度はいかにも恐る恐る、といった感じだった。

(絶対にヤンに酒を、それも飛びっきりの良い奴を奢らせてやる、必ずだ)

「ヤンの話を最後まで聞いてからでも良いんじゃないか?第一、謀殺されかけたのは事実なんだし、戦争終結の為に協力する事がそれほど理不尽なこととも思えない。それにだ、ジェシカ。俺だってヤンが政界への転出を考えているって知ったのは今日が初めてなんだぜ?」

「だから、ジェシカ。ジェシカの思うような卑劣な策をヤンが弄した訳じゃないんだ・・・だからな、少し落ち着いてくれ」

ラップの言葉に憤懣仕方ないといった表情で座りなおすジェシカ。
ヤンはフレデリカの手を止めると自分の構想を語りだした。

「ジェシカ、議員では駄目なんだ。今回の出兵をみてもA100シリーズは大統領権限になる。逆に言えば大統領ならば行政権を利用して戦争を止めることができる。そして私が欲しいのはたかだか数十年の平和なんだ」

ヤンはかつてイゼルローン攻略作戦時にシェーンコップたちに語った事と同じようなことを。

「だが、ジェシカ、議員は国民から選ばれる上に任期の制限がない。そのため、一度選ばれると多くの人はその地位にしがみ付きたがる」

「・・・それは」

思い当たる節があるのかジェシカの声のトーンが下がった。

「そして現在の議会は和平派と継戦派が半々で、継戦派が有利だ。だが、彼らの大半はG8やNEXT11といった大規模な企業、特に軍産複合体の代弁者でしかない」

「本気で帝国全土制圧を考えている人間なんて一握りしかいないのさ」

そこでラップは思った

(今回はその一握りに動かされたわけだな)

ラップの思惑を知らずに彼、ヤンは続ける。

「そこで私は、軍産複合体、通称ロゴスに新しい利権を与える。戦争以上のうまみを持つ恒星開拓と・・・・銀河帝国55億との和睦による貿易」

「私の予想ではだが、せいぜい1億2千万人の利益よりも開拓された55億の購買層に彼らの目を向かわせることが出来る」

「だから私は超党派の議員連合と、市民の支持、財界への新たなる利権をもって大統領選にでる。そしてこの無意味な戦争を終わらせる」

珍しくヤンが断言した
そんな親友をみてジェシカは思った。

(私はテルヌーゼンの中央議会代議員に選ばれた。そして多くの同志、とくに戦争で大切な人を失った人々派閥を作り上げた)

(いえ、祭り上げられたというべきかしら。でも私は精一杯の努力を、反戦に向けた活動を行った)

(でも、私たちは無力だった。今回の「ストライク」作戦に反対したけど、数の差に押し込まれてしまった)

(政治は結果。結果がなにより評価される)

(そして講和派代表であるはずの、州民連合の代表者である評議会議員7名の内、出兵に反対したのがジョアン・レベロ先生だけだった)

(そして、私にはヤンのような経済への視点が欠けている)

長い沈黙が流れた。
そして、ジェシカが口を開いた。

「いいわ。協力しましょう。ただし、ここまでするからには大統領になりなさい、ヤン。そしてこんな馬鹿げた戦争を終わらせて」

数秒の沈黙の後、強い口調で彼は頷きいった。

「ああ。終わらせるさ、こんな馬鹿げた戦争を」

そして4人は後にした。ユリアンは訓練学校の寄宿舎へ、アッテンボローとラップは官舎へ。ジェシカはホテルへ。




side アッテンボロー


無人タクシーを捕まえる二人。
ジェシカはまだ拘りがあるのか、一人でホテルへと戻ってしまった。

「ラップ先輩、何故ヤン先輩はあんなに嫌がっていた政治の世界に飛び込む気になったのでしょうか?」

アッテンボローは疑問を投げかける。
それはラップにとっても疑問だった。

「さて、それはお前さんの方が分っているんじゃないのかな」

アッテンボローが肩を竦める。

「あんまり分りたくないんですけどね」

だがラップは笑いながらも逃げ道を残さなかった。

「言ってみな。ここには俺とお前の二人しかいないしな」

数秒の間。

「俺達の為、ですよね?」

「ああ、そうだろうな」

ラップは続けた。苦虫を噛み砕きながら。

「今回の出兵が成功するとロボス元帥は統合作戦本部長になるだろう」

伊達に26歳で中将に昇進してないアッテンボローは即座に続けた。
なお、アスターテ会戦参加者はヤン元帥を筆頭に一階級昇進している。

「そうなると人事権をえる。俺たちをバラバラにして最前線送りにする、ですか?」

「うん、それもある」

どうやら、ラップ先輩の問いの半分しか正解点には届いてないみたいだ。
ラップは補足した。

「逆に一生辺境めぐりというパターンもあるわけだ」

アッテンボローもようやく我が身の危うさを理解した。

「それから身を守るためには二つの道しかない」

アッテンボローが引き取る。

「辞めるか、偉くなるか、ですね?」

それは答え。

「そう、そしてヤンはもう辞めれないだろう。ユリアン君の件は聞いているな」

ラップが確認を取るかのように聞いてきた。

「選抜徴兵制度・・・・・」

そこでアッテンボローは気が付いた。
この悪法の重大な欠点、いや悪点を。

「あれ? いやちょっと待ってください、あれって片親が軍人でも適応される制度でしたよね?
だったらラップ先輩とジェシカ先輩の子供も対象じゃないですか!?」

アッテンボローが叫ぶ。

「そう、軍の頂点を極めても、戦争が続けば俺たちの子供は軍人になるしかない。そして親より早く死ぬかもしれない。
丁度、第5艦隊のビュコック提督の二人の息子のように、ね。何よりの親不孝だ。親より先に死ぬなんてな。」

ここでようやくアッテンボローも気が付いた。
ヤンが政界に転出してまで平和を求めた理由を。

「じゃあ、ヤン先輩があそこまで戦争終結に拘るのは・・・・・」

「俺たちの子供たちのためでもあるのさ。そしてジェシカもそれに気が付いたから一旦ホテルに帰ったのだろう。覚悟を決めるために」




side オーベルシュタイン


フレデリカが後片付けをしている頃、ヤンは一人の人物と連絡を取っていた。
彼の名前はパウル・フォン・オーベルシュタイン元銀河帝国軍大佐。
現時点では国内諜報部門第三課局長ポール・サー・オーベルト准将。

「お久しぶりです、閣下」

無機質な声。
感情を感じさせない声にもなれた

「やあ、准将。元気かい?」

あえて明るく振舞うヤン。
誰が盗聴しているか分らないのだ。ことは慎重に運んで損はない。

「はい、閣下の要望通りの品、確かに手に入りました」

要望した品、それは軍産複合体19社の汚職、売春、脱税、暗闘、不良債権などの資料である。
むろん、二人以外は誰も知らない。

「いやあ、悪いね。ただ航路図は今回の遠征に必見だからね、どうしても予備が欲しかったのさ」

航路図は要望した品の暗号だ。

「御意、ところで閣下のお会いしたい人物ですが、どうしても日程が合わず小官のみで先方に伺うこととしました」

「うん、先方にはくれぐれも例の件を強く押しておいてくれ」

例の件、それは55億の市場の魅力と辺境のフロンティア・サイドの可能性、そして徴兵制導入による購買層の激減の可能性のことだ。

「御意」

「それではまた後ほど、統合作戦本部で。」

通信が切れる。
携帯の液晶パネルを見つめ続けるヤン。

「あなた」



side フレデリカ

「あなた」

ヤンは答えない。

フレデリカは聞いていた、今の会話を。
それは決してヤンが望んだ会話ではないことも分っていた。

「泣いても良いのですよ?」

ハッとするヤン。

「泣きたい時くらい誰にでもあります」

フレデリカは続けた。

「良い友人方じゃないですか。ラップ准将にアッテンボロー中将、ユリアンにジェシカさん」

「誰も貴方のことを恨んではいません」

ヤンがようやく答える

「そうだろうか・・・・私は・・・・ジェシカを、ラップを」

唇を唇で塞ぐフレデリカ

「フレ」

「私は何があっても貴方の味方です。たとえこの宇宙が原始の塵に還ったとしても」

フレデリカはさらに言葉を紡ぐ。

「貴方はね、戦死なんてカッコの悪い死に方をする人ではありません。私たちの孫に囲まれて、もうだれも貴方の武勲を覚えていなくなったころ、静かに生きを引き取る、そして孫がそれに気づいて子供たちを呼ぶ、そんな死に方が相応しいと私は思います」

子供、孫、といって言葉に少し動揺するヤン。

「・・・・・しかし」

そんなヤンを意図的に無視してフレデリカは続けた。

「少なくとも・・・・貴方だけを逝かせません」

それは決意表明。
一生を添い遂げると。一生を共にすると。

「フレデリカ」

今度はヤンの方から口付けを交わす。
それはフレデリカのプロポーズに対する答えだった。

(私から言うのも、なんだか変な気分ね。まあ、恋する乙女の特権という奴かしら?)

「今日は一緒に寝て、愛し合いましょう? 貴方が少しでも軽くなるよう、努力させていただきます」





ヤン・ウェンリーの蠢動は続く。
それは彼が望まない行動であり、現実が彼に要求した行動でもあり、もしかしたら時代が求めた行動なのかもしれなかった。
宇宙暦796年7月22日、パウル・フォン・オーベルシュタインはある人物と面会を果たした。
そしてその面会は彼の思惑通り進み、ヤンを政治の表舞台へと押し上げる原動力となるのだった。


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