第6話
災難は連続するもの
大会初日の午後5時過ぎ、居住区路地
「全くもう!知り合いなら知り合いだと説明してくれれば、あんな事にはならなかったんですよ!」
「いや、説明する前に攻撃され痛い痛い痛いって。すまん、オレが全面的に悪かったからいい加減に許してくれ。」
プンスカ!と解り易く「私怒ってるんです!」とばかりに頬を膨らませるウィル子と、彼女に一方的に叱られているひでお。
そして、そのやや後ろにいるのは、あはは…と曖昧に笑っているミッシェルと未だに不満顔の美奈子。
今、4人は買い出しの帰りであり、スーパーの買い物袋を持ってアパートへの帰路についている。
引越しならび初戦勝利のお祝いとして親睦会を、と言う事で今夜はミッシェル嬢がアパートの住人達(美奈子&岡丸ペア、マリア&マリーペア、ひでお&ウィル子ペア)とミッシェル嬢の友人を誘って宴会をする予定だった。
数時間程前の事だ。
彼の入居したアパートの一室は見事に全損した。
原因は言わずもがな、マリアが振るった神器、神聖具現改の余波によるものだ。
美奈子の一撃を迎撃するだけならあそこまでの威力はいらなかったのだが、恥ずかしい所を見られてしまった羞恥心から、加減に失敗してしまったらしい。
…ちなみに、美奈子は多少の打ち身をもらったが、手加減されていたために軽症で済んでいた。
今、ひでお達は空いている部屋に改めて入居する事で、根無し草は避ける事が出来ていた。
しかし、初日に故意では無いとは言え借りた部屋を全損させた事に関しては、修理費用を払わなければならなかった。
そこで、「私が原因ですから」とマリアが地下にあるというダンジョンに「狩り」に向かった。
彼女の実力なら心配はいらないだろう。
今日中に修理費用以上の金額を軽々と稼いできてくれる事だろう。
実際、魔物退治に関しては彼女はかなりの経験者でもある……具体的にはフル装備なら単独でダンジョンを攻略できる位に。
…ちなみに、「じゃ、私はひでおと一緒に」とちゃっかりしていたマリーは有無を言わせずマリアが引っ立てていった……怖いもの知らずと言うか、単に遠慮が無くなっている気がする。
そして、ひでおとウィル子が宴会の材料の買い出しに向かったのだった。
「にしても、マスターの交友関係の広さに驚かされました…。」
「…オレも、まさかこんな所で再会するとは思っていなかった。」
呆れ混じりのウィル子に、苦笑を返すしかないひでお。
だが、ひでおにとって彼女達との再会は非常に有意義なものだったと言える……今後の周辺被害や自身が被るだろう心的外傷は除くが。
「全く!朝っぱらから女性とあんな事をするなんて破廉恥にも程があります!」
「あはは…でも、ノックもせずに開けた私達も悪いと思いますニャ。」
未だに怒り冷めやらぬ雰囲気の美奈子とそれを宥めようとするミッシェル。
マリアとマリーの説得で何とか矛を収めたものの、先程見た光景が中々頭から抜けず、ひでおに警戒心バリバリの美奈子。
マリーの説得により事無きを得たものの、恐らくこれだけでは終わらないだろうなぁ…というのがひでおの予測だった。
美奈子は自分が喧嘩を売った存在が、この世で最も敵に回してはいけない者達の筆頭格に当たる事を知らない。
岡丸は何か言いたげな様子だったが、言った所でどうにも出来ない事が解っているため、敢えて何も言う事は無かった。
「ともあれ、買い物も終わった事だし、早めに戻るとしよう。」
「そですニャ。私も早く仕込みをしないとですニャ。」
「…まぁ、良いです。しかし、酒の席だからと不埒な真似は許しませんよ!」
『美奈子殿、いくらヒデオ殿でも女性が多い場で狼藉を働くとは……。』
「…にしても、マスターも変わったものを買いましたね。」
ワイワイと皆で言い合う中、ウィル子がポソ…と零した。
「ん?あぁ、これか?」
そう言ってひでおが掲げたのは、長さ40cm程度の特殊警棒だった。
材質は学術都市製のスーパーカーボン、伸縮機能があり、最大120cmまで伸ばす事ができる。
主に護身用の代物であるが、流石は学術都市製、相当頑丈な作りになっている。
偶々近くのスーパーにあったため、得物も無かったひでおが自費で購入したのだ(お値段2万7000チケットの良心価格)。
幸い、杖術には心得があるし、棒状の物ならそれなりに使う事が出来る。
流石に大佐クラスの者には付け焼き刃に等しいが、そんな連中がゴロゴロしている訳でもないし、どの道得物は必要であるため購入に踏み切った
他にもマグネシウムやライター、最終兵器としてシュールストレミング等、色々と役に立ちそうなものを購入した。
…だが、収入の無い現在、既に残金は1万チケットを切っているため、何処かで稼ぐ必要があるのだが。
『ヒデオ殿はやはり武術の心得が?』
「達人という程では無いが、な。」
「またまたそんニャ。やり方はどうあれ、あの大佐に勝ったのですから、もっと胸をはっても良いですニャ。」
「マスターは本当に底知れない人ですねぇ。」
困った。
何やら勘違いされている様だが、これはどう解けば良いものか?
いや、そもそも解くべきなのか?
これはこれで利用する事も出来るのだろうが……。
ひでおは相変わらずの表情筋麻痺状態で会話しつつ、うーむ、と悩む。
無暗に人を欺くのは性分ではないが、それが利益に繋がるのであれば黙認するべきなのだろうか?
要は良心と損得の板挟みだ。
しかし、彼の悩みは思わぬ事態によって強制的に中断させられる事となる。
「…あんたが大佐を倒したって奴かい?」
ザリ…と砂利を踏む音と共に、横の路地からいやに何処かで聞いた事のあるような気がする熱血系なBGMと共に、これまた何処かで見た事のあるような気がする一人の熱血系男が現れた。
「オレの名は柴崎甲子郎!だがッ、それは仮の姿だ!オレの正体は…ッ!」
そして、何やらポージングと共に柴崎甲子郎が光を放った。
…この時点で攻撃すべきなのだろうが、生憎とまだ勝負を受けた訳でもないし、「お約束」に違反するのもアレなので、黙って見ている事にした。
すると、、柴崎甲子郎はこれまた見た事のあるような気がする姿をなっていた。
「凝・着!地球刑事ジャバン!」
使用されている技術は確かに凄いし、浪漫にも満ち溢れているとは思うのだが………良いのか、これは?とひでおは思った。
「こ……これはすごいのですよー!」
そこで、歓声と共に物怖じせずにウィル子がぺたぺたとスーツに触ったが、その後ボソッと呟いた。
「…でも、蒸着ではないのですか?」
「いや…それはアレだ、宇宙刑事だろ?」
いいのか、版権元が怒鳴りこみかねないぞ?
ひでおはそう思ったが、藪をつつく気も無かったので黙っていた。
さておき
「このオレと勝負だ、目付き悪怪人!!」
…………………………
……………………………………
……………………………………………
…………………………………………………………ふぅ……………。
「………誰が、何だって?」
「ま、マスター?気にしちゃいけないです、よ…?」
ヤクザや殺し屋はまだ解るが、怪人は無いだろう怪人は。
いきなりの怪人呼ばわりに、ひでおの額にあの皺が復活し、背後から暗黒面のフォースがドドドドドドドドドドドド…ッ!!と某少年漫画風に吹き出ていた。
横ではウィル子が健気にも宥めようと声をかけるが、疑問符が出ているせいか、余り効果は無いようだ。
「な、なんと刑事殿でしたか!?ならば、本官も助太刀いたします!」
そこに更なる凶報が舞い込んだ。
「しかし、日本の警察で地球刑事とは……。」
「黙りなさい、目付き悪怪人!素直にお縄を頂戴しなさい!」
「………………。」
暗黒面のフォース、3割増強。
それを、おおぉ…という感じで眺めるウィル子。
既に止める事は諦め、今はひでおの暗黒面に落ちた様子に頼もしさすら感じているようだ。
「…流石は国家権力の犬。面相が悪いだけで犯罪者扱いとはな…。」
「む!どういう意味ですか!」
「…解らないか。なら例を上げよう。」
解りやすい挑発にあっさりとかかる美奈子。
それを見て、ひでおは予想通りとでも言う様に鋭い目つきを向けながら口を開いた。
「度重なる交通違反の揉み消し。」
「うぐっ!」
「度重なる暴力団との癒着。」
「いやーっ!」
「度重なる誤認逮捕。」
「そ、それは制度上仕方ないですし、別に違法でも……!」
「一度でも逮捕された者は、その後の人生に大変な苦労を強いられようともか?」
「いや、その、はい……大変、遺憾に思ってます、はい。」
美奈子、ひでおの切れ過ぎる眼光と正論に敗北。
違法じゃなくとも問題がある事なんて日本だけでも幾らでもあるのだ。
最近では検察の汚職も目立つが、それはお門違いなので置いとくとして。
「ふん、そんなものは日本の極一部に過ぎん!それにオレは地球刑事!そんなちっぽけな正義も霞む、超正義!!」
腕を組み、それが当然だとでも言う様に胸を張るジャバン。
しかし、ひでおから見れば傲慢そのものに見え、怒りのボルテージが上がっていく。
「あのー……刑事殿?」
「法の無いこの都市では、このオレこそが法!このオレの超正義を世界へ広めるため、優勝へのヴィクトリーロードを邪魔する奴は全て悪!即ち、オレ以外の参加者は全て怪人!」
よし、ぼこったら十字に張り付けて鴉の多い場所に立てて、鳥葬しておこう。
ひでおはジャバンの言葉を右から左に流しつつ、処刑法を決めた。
「ほ、本官もですか!?」
「心配する事は無い。このオレと一緒に戦い、最後の良い所で勝ちを譲ってくれれば……新たな超正義の世界で、君を副長官に任命しよう!」
やっぱり、局部麻酔をして頭蓋骨の中身を強制的に見させた方が良いかな?とひでおは思い直した。
…ちなみに、これをやると発狂するという、一部では知られた拷問法だったりする。
他にも音も光も一切無い空間に放置とか、意味の無い単純な作業を延々と繰り返させるとかもある。
詳しくはグーグル先生にでも聞いてね。
さておき
「で、勝負するのかしないのか!」
「…では、受けよう。」
「おお、マスターが殺る気に!」
字が違うぞ。
「まぁ、命は取りませんよね。それやったら失格ですから。」
そうだな、うん。
命は取ったらダメだよな、命は。
……それ以外は保障しないが、な…。
きっちりヤル気になっているひでおだった。
「では、勝負成立と見なして私がジャッジしますニャ。」
先程から空気になっていたミッシェルが運営側として審判役を買って出た。
彼女の獣人特有の動体視力なら、間違っても不正その他は見逃さないだろう。
「よぉーし!マスター、このまま勢いに乗りましょう!」
「…で、勝負方法はなんだ?」
「…何?そうか、やはりな!」
突然、何を思ったのか、ジャバンは腰に装備していた近未来的なデザインの銃を抜き打ち、ひでおに向けて光線を放った。
しかし、その行動を半ば予想していたひでおは手持ちのビニール袋を射線上に放り投げる事で盾代わりに使用、防御した。
…なお、光線は純粋なレーザー兵器という訳ではなかったようで袋自体は無事だった。
「ふ、ジャバン・ブラスターをそんなもので防ぐとはやるな!」
「ななな何をやってるんですか、大家さん反則ですよ!?」
ジャバンの奇襲(とも言えない不意打ち)に、美奈子が慌ててミッシェルに不正を叫んだ。
「それが……反則ではないのですニャ。」
ミッシェルが困った表情で説明を始めた。
曰く、昨日ひでお達が帰宅後、勝負を始めようとした参加者達だったが、全く勝負方法が決まらないという事態になった。
そこで、大会本部は基本ルールを設定、勝負方法が決まらない場合、これを適用する事を決定した。
その内容は「勝負方法が決まらない内に勝負が成立した場合、勝負方法は強制的に戦闘となる」というものだった。
…せめてランダムにするなりすれば良いのに、とひでおは思ったが、昨夜のうちにルールの隙を突いた人間の言い分では無いだろう。
なお、そういった事になると昨夜の内に予想していたひでおはあっさりとジャバンの不意打ちに気付き、対処する事が出来たのだ。
ちなみに、ひでおはミッシェルの話を聞きつつ、投げ捨ててしまったビニール袋の中身が破損していないか調べていた……のん気である。
「ちなみに、オレはジャバンとの勝負は受けると言ったが、北大路女史との勝負は受けた覚えは無いんだが。」
「その場合だと、美奈子さんが手を出すのは反則になりますニャ。」
「さらっと相手側の戦力を削るとは、マスターも鬼ですねー。」
しかも、抜け目なく美奈子の参戦までも阻害していた。
「うーん……じゃぁ本官は傍観に徹します。」
「何!?裏切るのか婦警!」
「…さっきから聞いていれば自分以外は怪人呼ばわり、更には正義でありながら不意打ち。あまつさえ自身が法などと言う傲慢!そんな方に正義があるとは、私はどうしても思えません!」
「ぬぅぅ…ッ!?」
決然と言い切る美奈子に気圧されるジャバン。
ひでおとしては、もっと早くに気付けよ…という気持ちだが、無粋なので言わなかった。
「…ふん。ならば、あの目付き悪怪人を倒した後に貴様を倒してくれる!」
言い捨て、今度は腰に刺していたサーベルを引き抜き、ひでおに向かって斬りかかった。
「喰らえ、ジャバン・ソード!」
「…………………。」
だが、まだビニール袋を持っていたひでおは、慌てず騒がずに何時の間にか手に持っていたライターを着火した。
瞬間、その場に閃光が発生した。
「うひゃぁ!?」
「きゃっ!?」
「ニャァ!?」
「ぐぉ…ッ!?」
突然の事態に、住宅街の路地に驚きの声が上がる。
響いたのは美奈子、ウィル子、ミッシェル、そしてジャバンの声。
そしてもう一つ、何か金属同士がぶつかり合った様な衝突音だった。
「ぐぬぅ!一度ならず、二度までも!」
「見た目に違わず、頑丈だな。」
顔の下半分を抑えて、よろよろと後退するジャバンと、それを鋭過ぎる目付きで見据えるひでお。
ひでおは先程買った特殊警棒を持っており、既に60cm程に伸ばされている。
そして、何故かひでおの足元には先程のライターとビニール袋の他にもう一つ、掌大の小箱があった。
「砕けたマグネシウムリボンで閃光を!?」
美奈子の言葉、それを否定しない事でひでおはそれが正解である事を肯定した。
落としたビニール袋を確認していたのは、単に装備を整えるだけではなく、次に仕掛けて来るだろうジャバンを油断させ、的確に迎撃するためだった。
しかも、今の時刻は夕方であり、周りは暗くなり始めている。
ジャバンのセンサーもそれに対応して感度を上げていた状態であったため、センサーに焼き付きが生じてしまったのだ。
だが、ひでおの場合、着火するタイミングが解っていれば、マグネシウムの発光も一瞬だけのものなので、タイミング良く目を瞑ればある程度は防げる。
その時、ジャバンはひでおに向かって大上段にジャバン・ソードを構えて攻撃しようとしていたため、その動きは並列思考を使って計算すれば簡単に予測できるものだった。
無論、ジャバンが動揺して急停止しようとする事やそのままジャバン・ソードを振り下ろそうとする事も考慮した立ち位置で、ジャバンが停止し切る前に仕掛ける等抜け目は無い。
後はジャバンの装甲の比較的薄い、或いは装甲があまり関係無い部位、首や顎、関節部を攻撃すればいい。
「くぬぅ…ジャバン・スーツを着ているというのに、ここまで効くとは……。」
そして、ひでおが選択したのは顎先。
人体の急所の一つであり、上手く揺らせば脳も揺れ、足がまともに動かなくなったり、最悪の場合は気絶する事もある。
ジャバンの顎先が来る位置に警棒の先端を構え、どっしりと重心を低くする事でひでおはジャバンの勢いをそのまま攻撃に利用した。
要は、地面に突き刺さった棒に自分から突進したようなものである。
しかし、スーツの防御力か、本人のタフさか、それともひでおの手足が安定していなかったのか、ジャバンは多少のダメージを受けてふらついているが、しっかりとジャバン・ソードを構えたままだった。
「さて、まだやるのか?」
「当然!地球刑事はこの程度の窮地で諦めん!」
若干ふらついたまま叫ぶジャバンに、ひでおは警棒を1m近くまで伸ばし、身構える事で返答とした。
大佐の様な総合力は無くとも、一対一の白兵戦ならジャバンはかなりの実力者だろう。
ひでおとしては先程のカウンターで終わりにしたかったのだが、こうなってしまっては仕方ない。
実力で打倒するしかないか、と警棒を握り直し……
「マスターマスター、止めはウィル子に任せるのですよー。」
そこに割り込む様にウィル子が間に入った。
しかし、直接攻撃力のない彼女に何か出来るのか?
そう思ったひでおだが、ウィル子の眼に悪戯っ子特有の光(主に二度目の預言者で見なれた)があったため、素直に一歩引いて譲った。
「こら、退いていなさい!ジャバンは女の子に手を上げたりしない!」
「おぉ、期待を裏切らない答えですねー。でも、既にウィル子達の勝ちなのですよー。」
言って、ウィル子は見せる様に両腕を広げ、自身の周辺に十数枚のモニターの様な立体映像が浮かび上がった。
途端、ジャバン・スーツから警報が鳴り響いた。
『ジャバン・スーツに警告!ジャバンOSVer2.01bがWill.CO21に感染しています!』
「んな、何だってーーッ!?!」
そして、ジャバンは直立不動となり、その動きを停止した。
「う…!?身体が、動かない!?」
必死にもがいているのか、多少左右に揺れるのだが、ジャバンにはそれだけしか出来なかった。
「先程ウィル子がぺたぺた触った時に感染したようです。削除しますか?」
「さ、削除?Yes、Yesだ!」
「はい、ジャバンOSを削除します。暫くお待ちください。」
「NO!!」
「はい、Will.CO21は削除されません。」
「違う!OSを削除しないで、ウイルスを削除するんだ!」
「いやです。」
きっぱりと真顔でそう答えるウィル子。
必死な人間をこうまであっさりと地獄へ叩き落とさんとする姿は、正しく超愉快型極悪感染ウイルスだった。
それを見た美奈子はうわぁ…という顔で引いており、ひでおは、ひでおは……やはり無表情で見ていた。
そこら辺、組織のTOPを張り続けていた経験故のポーカーフェイスか、単にいい気味だと思っているのか判別がつかない。
「Will.CO21はお食事中です。暫くお待ちください。」
「やめろーー!?」
「Will.CO21はジャバン・パワーアシスト機能を美味しく頂きました。」
「喰うなーー!!」
「Will.CO21はジャバン・パワーアジャストシステムを美味しく頂きました。」
「いやだーーッ!!」
「Will.CO21はジャバン・ジャバンバランスコントロールドライバを美味しく頂きました。」
「もうやめてくれーーッ!!」
「Will.CO21はジャバン・カメラコントロールドライバを美味しく頂きました。」
「み、見えないー!!」
「Will.CO21はジャバン・ライフセービングシステムを美味しく頂きました。」
「…………ッ!?!」
「御馳走様でしたー♪」
そして、遂に宇宙刑事はバランスを失って仰向けに倒れてしまった。
「にははは、所詮は一惑星規模の偽物刑事!ウィル子に勝てる道理はないのですよー♪」
やっほー、とばかりにひでおの周囲を旋回しまくるウィル子。
彼女がひでおと組んでからなってから初めて活躍した訳だから、恐らく嬉しいのだろう………単に腹が減っていたという事もあるが。
「た、助けてくれ!動けない!暗い!狭い!い、息が!?」
「にひひー、助かりたければウィル子達に負けを認めるのですよー。」
鬼か?否、電子ウイルスだ。
ジャバンに降伏を勧めるウィル子の顔は、実に邪悪そうに笑っていた。
「わ、分かった……!超正義は悪ふざけが過ぎたと思ってる!憧れてただけなんだ…だから、頼むから助けてくれ!兎に角、息が…ッ!死にたくない!!」
「ウィル子、殺したら失格だぞ。」
良心からか、単純に勝ち負けからか、ひでおはウィル子を咎めるが、不幸な事にウィル子は首を横に振った。
「全部消化しちゃいました。」
「そ、そんな…っ!??!」
ウィル子の一言に、絶望するジャバン。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり、美奈子が岡丸を振り降ろし、ジャバンのヘルメットを割ったおかげで窒息死から免れる事に成功した。
『拙者、まともな出番が今回これだけでござるな……。』
岡丸のメタ的嘆きはさておき
「よくこの男の思い上がりを正してくれた…礼を言う。」
そこに、またも何処かで聞いた覚えのあるBGMと共に塀の向こうからよっこいしょとばかりに学者然とした白衣の壮年の男が現れた……やはり何処かで見た覚えのある人物だった。
その手には今や珍しくなったカセットデッキがあり、先程からのBGMは彼が流していたらしい。
「お、おやっさん…!」
どうやら、ジャバンのペアらしい。
その姿からジャバン・スーツの開発者は彼のようだ。
是非とも学術都市でスカウトしたい人材だな、とひでおは思った。
「何だか別のお話が混ざってるような……。」
ウィル子の疑問はもっともだが、それは置いておかないと話が進まない。
そして、おやっさんなる男性はジャバンの肩にポン、と手を置くとゆっくりと話し始めた。
「解ったか、甲子郎。これが世界の広さだ……それを、その世界さえ飛び越え、いきなり地球刑事を名乗る事がどれ程愚かな事か、解っただろう…?」
「あぁ…目が覚めたよ、おやっさん。村落刑事、ご町内刑事、島刑事というステップアップにはそういう理由があったんだな……。島で通用した刑事が世界にまで通用する訳じゃない、か……。」
えらい地道なステップアップである。
と言うよりも、それで本当に地球に通じると思っていたらしい。
…やはりここで止めを刺しておくべきだっただろうか?
ひでおは物騒過ぎる思考を巡らせたが、結果的には無事に勝てたのだし、良しとしておこう。
「すまんな、アンタ達。この勝負は勝ちを譲るよ。」
「え、良いのですかー?」
「うむ、ワシは技術屋で戦闘能力は無い。ジャバン・スーツもこの有り様だ。今回の事で弱点も発見できたし、こちらから言う事は無いよ。」
そして、おやっさんは白衣から特殊な工具を取り出すと、ジャバン・スーツの一部を解体し、甲子郎を動けるようにすると彼に肩を貸して歩き出す。
「…何時か、オレもあの画面に輝いていた宇宙刑事になるために、島刑事からやり直すぜ…ッ!」
「うむ、その意気だぞ、甲子郎。」
そろそろ地平線に沈むだろう夕陽に向かい、2人は去っていった。
「な、何だか釈然としないのですが、勝ちは勝ちなのですよー。」
「えぇっと……一先ず、ヒデオさんとウィル子さんペアの勝利ですニャ。」
そして、ちょっと微妙な顔をしながら、ミッシェルがひでお達の勝利を告げた。
「所でマスター?」
「む?」
帰り道、回収したビニール袋を手にし、ひでお達は今度こそ誰にも邪魔されずにアパートへと向かっていた。
「どうしてさっきの勝負で素早くマグネシウムを使用できたんですか?普通なら、あの場面ならもっと手間取ると思うのですが?」
「んー、あー……昔、かなり使ってたからなぁ…。」
まぁ、気にするな、と話を濁すひでおと、ちゃんと説明するのですよー!と膨れるウィル子。
しかし、ひでおは笑って誤魔化して、アパートへ向けて駆け足を開始。
それを、待つのですー!と追いかけるウィル子と、そんな2人を何処か微笑ましく思いつつ、美奈子とミッシェルは追いかける。
本当ならウィル子だけには話すべきなのだが、生憎とこの話は二度目の頃の話になるのでおいそれとは言えないのだ。
嘗て魔王制が廃止し、うっかり旗頭に祭り上げられてしまったえるしおんは余りの仕事量に時々突発的に逃げ出す事があった。
しかし、優秀な部下達はそれを的確な対処と連携を以て防いでしまう。
それを突破しようにも、生憎と戦闘訓練を受けていないえるしおんでは無理がある。
そこで、当時のえるしおんは素早く多数の対象を無力化できる鎮圧装備の開発に乗り出した。
規模自体はささやかなものだったが、元々普段は研究や実験三昧だったし、一度目の多少の科学知識もあったため、ひでおは閃光弾や音響爆弾の再現を試みた……仕事をしながら。
術式でも再現はしたのだが、二度目以降は魔導力の高まりによって感知され、側近Aの開発した対閃光防御術式や絶音術式によってあっさりと対処されてしまった。
そこで、事前に魔導力を一切使用しない閃光弾や音響爆弾を自作し、逃走時に使用するようになった。
これだと魔導力も感知されないので対処のしようが無いため、その時点では成功と言えた。
しかし、敵もさる者。
側近A・Bは今度は閃光や大音量を自動的に感知し、対抗術式を発動する魔導具を開発してみせた。……仕事をしながら
だが、えるしおんは諦めずに自由への逃走のため、数々の逃亡手段を実験し、失敗と成功を繰り返し、それと同じ位に側近A・Bを始めとした旧魔王城の部下達は上も下も対抗手段の模索に奔走し続けた……仕事をしながら。
だが、これらの試行錯誤が後に法王庁やイスカリオテ機関における対人戦闘のノウハウの蓄積や装備の開発に大いに役立つ事となる……当事者達からすれば痛し痒しだったが。
(まぁ、損にはならなかったんだし、割り切っておくとしよう。)
そう思いながら、ひでおは怒るウィル子から逃げるために足を動かすのだった。
ついつい眠気に負けて更新できなかった……。
ども、VISPです。
今回は対ジャバン戦ですが、どうにも婦警達が空気(汗。
やっぱりキャラを自在に動かすのは難しいなぁ…。
さて、次回は遂にヴェロッキア戦。
酔っぱらったひでおの運命や如何に!?
…まぁ、結果は見えてますがww