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No.21743の一覧
[0] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!【現実転生→林トモアキ作品・第二部】IFEND UP[VISP](2012/01/10 16:44)
[1] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!嘘予告[VISP](2011/09/07 13:41)
[2] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第一話[VISP](2011/09/07 13:41)
[3] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第二話[VISP](2011/09/07 13:42)
[4] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第三話[VISP](2011/09/07 13:42)
[6] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第四話 改訂版[VISP](2011/09/07 13:42)
[7] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第五話[VISP](2011/09/07 13:42)
[8] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第六話[VISP](2011/09/07 13:42)
[9] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!番外編プロローグ[VISP](2011/09/07 13:42)
[10] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第七話[VISP](2011/09/07 13:43)
[11] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第八話 一部修正[VISP](2011/09/07 13:43)
[12] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第九話[VISP](2011/09/07 13:43)
[13] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十話[VISP](2011/09/07 13:43)
[14] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十一話[VISP](2011/09/07 13:43)
[15] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十二話[VISP](2011/09/07 13:43)
[16] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十三話 修正[VISP](2011/09/07 13:44)
[17] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十四話[VISP](2011/09/07 13:45)
[18] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十五話[VISP](2011/09/19 21:25)
[19] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十六話[VISP](2011/09/24 12:25)
[20] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十七話[VISP](2011/09/25 21:19)
[22] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十八話[VISP](2011/12/31 21:39)
[24] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第十九話[VISP](2012/01/01 00:30)
[25] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第二十話[VISP](2012/01/08 23:12)
[26] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第二十一話UP[VISP](2012/01/10 16:05)
[27] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!特別編IFEND UP[VISP](2012/01/10 16:06)
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[21743] 【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第二十話
Name: VISP◆773ede7b ID:b5aa4df9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/08 23:12
 それいけぼくらのまがんおう! 第20話





 「いやぁ……ばれちゃいましたか。」
 
 スーツ姿の男、アーチェスは意外な程あっさりと認めた。
 しかも有ろう事か、殺気を迸らせるリュータに向けて旧交を深めようとでも言う様に、一層笑みを深くして

 「いえ、久しぶりですねリュータ君。本当に久しぶりです。私は君を見違える程だったのに、君の方は覚えて「ふざけんなてめぇ!!」

 朗らかに話そうとするアーチェスを、リュータの咆哮が遮った。

 「こっちは毎晩毎晩血塗れで笑うてめぇの夢に魘されてきたんだ!!忘れようたって忘れられるか!!」

 血の滲む様なリュータの声がダンジョン内に響く。
 頭の中でその声、その目がまざまざと蘇る。
 この男はあの日もこうして笑っていた。
 頭から返り血を浴びても嫌な顔一つせず、イカレタ様子も無く、ただこうしてニコニコと優しく笑っていた。
 幼心にそれがどれ程不気味だった事か。
 この男は多くの組織の長の様に冷酷や冷徹とは違う。
 計算高くはあるが、決して聖者の顔を崩さない。
 温かみという仮面を被る冷酷者なのだ。

 (とか何とか考えてるんだろうなぁ…。)

 ヒデオは正確にリュータの内心を推測していた。
 人間独り言を内心で言うと口内で舌が動き、それに連動して頬も僅かに動く。
 そうでなくても人間は意識せずとも、その時の感情によって何らかの動きを見せてしまう性質がある。
 これはどうしても出てしまう生理的な現象であり、訓練どうこうで克服できるものではない。
 その道のプロもいる程で、犯人の虚実を見抜くなど犯罪立証にも役立っている。
 無論、人間工学・人間魔道学・心理学等々…多くの学問を修めているひでおにとって感情が発露し易い質のリュータの内心を察する事は比較的容易だった。

 (普段から笑顔ばっかりだと勘違いされるとあれ程言ったのになぁ…。)

 常に笑顔で余裕を見せる事で部下を安心させるのも上司の仕事だが、常に笑顔であり過ぎると敵味方に勘違いされるというのに…。
 しかも無力化したとは言え敵側の少年兵士と接触する時に戦闘状態(血濡れとかフル武装)そのままに声をかけるとか……トラウマになるから止めろと前に言ったのが、こっちでは見事にそのままだったらしい。

 (あー、どうするべきか……。)

 ひでおが頭を悩ませるのを余所に、事態はどんどん突き進んでいく。

 「笑うんじゃねぇ!」
 「いや、そう言われましてもですね……これが私の地顔、地声なものでして…。」
 
 アーチェスは頭をかいて苦笑を見せるが、その仕草はリュータの激情を買うだけだ。

 「だから止めとけって言ったんじゃないか、親父。」

 ザジと呼ばれた少年もまた、リュータと数瞬も遅れずに腰のホルスターから銃を引き抜いていた。
 彫金と象眼の施された見事なリボルバー式拳銃は一切の遅滞と淀みもなく、リュータの眉間に向けられていた。

 「銃を下ろしなよ。その馬鹿でかいデザートイーグルで、オレと勝負する気かい?」

 ちなみにデザートイーグルの重量は約2kg。
 対して、小柄なザジが持つ拳銃は相応に軽い。
 人間と魔人の筋力を入れても、早撃ちではリュータが負ける。
 そして技量においても、膂力や魔導力の不足を銃を極める事でカバーしているザジにリュータが敵う道理は無い。
 
だが、リュータは微動だにせず、喰らいつく様な視線だけをザジに向ける。

 「ガンマン気取りの餓鬼はすっこんでろ。」
 「餓鬼はあんただよ。オレだってこう見えても魔人さ。第一次大戦の頃からこれを振り回してるんだ。」

 ちなみに第一次世界大戦は1914~1918年にかけて行われた。
 つまり、ザジの年齢は既に80歳を超えている事になる。
 そんなザジの得物はS&Mのスコフィールドだ。
 一世紀以上も昔に開発され、耐久性の問題こそあるものの大型の中折れ式という構造故に、リボルバーであるにも関わらず素早い排莢を実現している。
今では既に骨董品に分類されるが、リボルバーという兵器のシステムを完成させたとも言える名銃である。

 「上等だ、どっちが速いか試してみるか…!?」
 「いいけど、そいつじゃ親父は死なないよ。あんたは脳味噌ぶちまけるけど、親父はタンコブ作って終わり。あんただって解ってるんだろ?親父がただの魔人じゃない事くらい…。」
 「っく……!」

 呆れる様なザジと、万歳する様に両手を上げるアーチェス。
 正直、かなり苛立つ。ムカつく。反吐が出そうだ。
 だが、ザジの虚ろな目には虚ろだからこその言い難い迫力があった。
 あのひでおの様にいざとなったら一切躊躇わず、呼吸する様にこちらを殺しにかかる目だ。
 
 「いや…タンコブもできないか。そんなに震えてちゃ、当たるものも当たらない。」
 「ッ!!」

 言われて初めてリュータは気付いた。
 長年追っていたファミリーの仇を目前にして、気付く余裕も無い程に興奮していたのか。
 或いは…

 「怖いんだろ?」
 「黙れ!!」
 「カムダニアは親父の予想を遥かに上回る地獄になった。あんた人間だろ?その歳であそこにいたんじゃ、そりゃトラウマに「黙れェッ!!!」
 
 ザジの声を遮る様に、銃声が轟いた。

 「っ…」

 聞き慣れた、自分が放った銃声。
 僅か2mという距離。
 だというのに、放たれた弾丸はアーチェスの髪を数本ばかり飛ばしただけだった。

 そうだ、恐ろしいのだ。
 アーチェスの何の害もない笑顔が。
 渦巻く炎の紅蓮、血飛沫の真紅、硝煙の匂い、人の焼ける黒煙、その中で見た笑顔が恐ろしい。
あのカムダニアでの地獄は、当時まだ子供だったリュータの精神に深刻な心的外傷を刻みつけていた。

 「あ…あぁあ…っ」

 今のリュータでは銃を取り落とさないだけでも良い方だ。
 既に狙いを定める気力すら根こそぎ奪われている。

 「あんた、運が良かったよ。親父に言われてるから、外す分にはオレは撃たない。」
 「ぐ…う…ッ!」

 チャンスだ。チャンスなのだ。
 ファミリーの仇。故郷の、家族の仇。
 10年以上も追いかけてきた仇が目の前にいるというのに、どうして指一本動かせないんだ…!!

 「うにゅー…めんどくさい事になったよ~、鈴蘭どうする~?」

 心底面倒そうに言うVZに応える様に、進み出た鈴蘭が落ち着き払った声で告げた。

 「リュータ、銃を下ろそう。」
 「なっ…なんだとテメェ!?どっちの味方だ!?」
 
 鈴蘭は自身の得物に手を触れてもいない。
 ただ一貫して傍観する様な姿勢を保っている。

 「テメェもアルハザンを追ってたんじゃ「あのね、私とリュータじゃ目的が違うの。」
 
 言い募ろうとするリュータに言い聞かせるように鈴蘭は告げる。

 「私はただこの大会で悲しい事が起こらない様にするだけ。リュータが死んでも悲しいし、アルハザンの誰かが死んでも悲しいの。」
 「じゃぁガーベスは何だ!あいつの事は「彼なら、あの後すぐに私の仲間が助けたよ。」

 その言葉は、怒りと恐怖に凝り固まったリュータの中で劇的な反応となった。
 
 「てめぇ!!」

 反転し、銃口が鈴蘭へと向けられ
 しかし、それよりも速くVZの愛剣の切先がリュータの喉元へと突き付けられた。

 「あ、う……!?」
 「鈴蘭を狙うのは、ダメダメ。」

 人間には知覚不可能な速度だった。
 首に冷たい感触があったのは解ったが、それがVZの剣の切先だと気付いたのは声を掛けられてからだった。

 「て、てめぇら…!」
 「不様ね。」

 今まで沈黙を保っていたエルシアまで冷めきった声で告げる。
 
 「あなたの標的は何?」
 「あ……」

 そうだ。
 少なくとも鈴蘭ではない。
 自分が狙うのは、今そこで銃口が外されてほっと胸を撫で下ろしている優男の筈だ。
 それが何でまたVZに剣を喉元に突き付けられなけりゃならない?

 (オレは…逃げちまったって言うのか…?)


 激情に駆られて銃を向けてしまったとは言え、アーチェスから逃げる口実のために鈴蘭を狙ってしまった。
 そこで漸くリュータは腕を下ろし、そのまま項垂れた。
 それを見たVZも剣を下ろし、鈴蘭の元に戻る。
 そして、ザジは疲れた様に溜息をついた。

 「ったく、余計な茶々入れてくれちゃって…。」

 面倒そうな様子を隠す事もなかったが、ザジは未だに銃口を下ろす事は無かった。

 「ったく、余計な茶々を入れるなよ。こっちの本命はあんたなんだから。」
 「「っ!」」

 極自然に鈴蘭へと向けられた銃口は、そのまま一切の遅滞無く引き金が引かれ
 パンッ!と、ダンジョン内にまたも銃声が響き渡った。



 

 
 (さて、どう動くべきか……。)

 正直、ここでリュータに死なれると困る。
 それは勿論鈴蘭とVZ、アーチェスとザジにも当て嵌まる。
 
 (だが、少なくともこの場で人死にが出る事だけはない。)

 何せ鈴蘭がいるのだ。
 あの楽しい事が大好きな鈴蘭が、だ。
 悲しい事が起きて、皆が楽しめなくなるという事態は絶対に避けられるだろう。
 
 (リュータに退場されるのも、な。)

 彼はアルハザンに、魔人に対し強烈な負の感情がある。
 もし今後魔人勢力がこの都市に移住する事となった場合、リュータが率先して過激に魔人を警戒・監視してくれれば、他の者達が彼らを迫害する事も少ないだろう。
 もしも彼らを本気でどうこうするとなれば、それこそエンジェルセイバーを投入する位しか手が無い。
 そうでなくても、この都市は聖魔王一派の御膝元。
 下手な事をすれば、死にはしないが一生毟られる事は十分あり得る。

 (優先すべきは情報収集の続きだな。本当にこの先に行方不明者達捕えられているかどうか確認したい。)

 気配を周辺に溶け込ませ、呼吸を抑え、アーチェス達の視界から焦れったくなる程にゆっくりと消えていく。
 一流の暗殺者でもできるかどうか解らない程に、見事な気配遮断スキルだった。
 
 (マリーチには意味が無かったが、教皇すら騙しおおせたこれならば気付かれる事もあるまい。)

 するりと、まるで野生動物の様にひでおは険悪な空気の流れるその場を後にした。




 (ここまでだな…。)

 ひでおは暫く進んだ後に足を止めた。
 
 (戦闘…それも複数の者が大型の魔獣を相手取っているか…。)

 何処で入手したのか、掌サイズの高性能集音機を地面に当ててそこから聞こえる音を分析していく。
 最初はもう少し奥に行こうかと思ったのだが、不意に床下から震動を感知したひでおは素早く物陰に移動すると集音機を使用した。
 勿論、ダンジョンの分厚く頑丈な床を隔てている訳だから、生身では殆ど感じられない。
 しかし、2000年も研鑽し、錬魔し続けた経験を持つこの男にとってほんの僅かな震動を感知する事位は可能だった。

 ちなみにこの震動感知、基本的に妹と同じ城に住んでいた頃に、廊下や部屋で彼女の足音を察知するためだけに磨かれたものだったりする。
 しかし、相対的に夜討ち朝駆けが増えたので、更に別の察知手段を必要とする事となったので役に立ったかどうかは微妙な所だ。
 気配遮断スキルも元は妹対策なのが、ひでおのひでおたる所以だろう。

 それはさておき

 聞こえて来る音の中に爆音や衝突音だけでなく、どうも魔導力が多量に込められた音声もあるのだ。
 明らかにただ事ではない。

 (今回はここまでだな…。)

 潮時だと、ひでおは判断した。
 これ以上の潜入はリスクが大き過ぎる。
 向こうの騒ぎもそろそろ収束する事だろう。

 (最悪の事態だけは避けねば、な。)

 そして、ひでおはその場から撤退した。






 パンパンパンパンタタタタタガゥンガゥンダンダンダン!!!!

 突如展開された激しい銃撃戦に、ダンジョン内は途端に騒がしくなる。
 物騒な空気にダンジョン内の魔物達も空気を呼んだのか、命が惜しかったのかは解らないが、全く近寄ってくる気配が無い。
 
 「ねぇねぇカッコ!なんかヒデオ君がいないけど知らない!?」
 「え~私解らない~。リュータは何か知ってる?」
 「あぁ!?あいつら出てから回りに気ぃ配ってられるかよ!」
 「…親父、不味いんじゃない?」
 「ですね……鈴蘭様ー、すいませんがうちのザジ君もそろそろ弾切れになりそうなんですが……そちらはどうですか?」
 「えー?もうー?」
 
 アーチェスの言葉に、詰まらなそうに鈴蘭が返す。

 「うーん、私達の方ももう無いかな……あーあ、折角楽しかったのに。」
 「あ、そうですか。良かった良かった。それじゃぁですね、失礼を働いたザジ君には私かたきっつーーーく言っておきますから……ここは示談という事で一つ。」
 「うん、いいよー。」

 いともあっさりと了承された。

 「は、はぁ!?リリー、お前命狙ってきた相手に…!」
 「別に死んだ訳じゃないし。」

 その言葉に、リュータは寧ろ違和感を抱いた。
 いくらなんでも行き過ぎている。
 どうして笑っていられる。

 「それに私、会ったの初めてだけどそんな感じの悪い人じゃ無さそうだし。」

 どうして、そんな簡単に笑顔を作れる!

 「騙されてんだよ!解らねぇのか!?あいつはそうやって人間を騙して取り入って利用して!気付いた時には…!」
 「だったら、その時だよ。」
 「は…?」
 「だったら、その時は私達が地獄を見せてやるだけだよ。」

 鈴蘭は笑った。
 その笑みはリュータが今まで見た、あどけない無垢な笑顔ではない。

 「私は兎も角、私の仲間達はね。一線を越えられて黙っていられる程甘くはないんだよ。地獄を見せようと思ってるのなら、それ以上の地獄を見せる。だって、私達にはそれだけの力があるんだから。それが聖魔王っていうものなんだよ、リュータ。」

 その陰惨かつ凄絶な笑みに、リュータの背筋は総毛立った。
 自分と同じ位のこの少女がどんな経験を持っているのかは知らない。
 だが、彼女はきっと自分には想像もつかない生き地獄を歩いてきたのだけは断言できる。
 それを知り、それを使役できるからこそ、彼女は聖魔王なのだ。

 「だったら何も急ぐ事は無いよ。地獄を見せるのは、地獄が始まってからで良い。なら何処まで突っかかってこれるか見ようよ?その方がずっと面白いし、ずっと楽しいよ。ねぇ、リュータはそう思わない?」

 リュータは己の認識が間違っていた事を悟った。
 まともじゃない、否、まともである訳がなかったのだ。
 人間でありながら常識の外側の、その極地である者達を率い、さらにその同類達とぶつかり合い、生き残った女なのだ。
 リュータはただ、漸くその片鱗を垣間見ただけなのだ。
 
 リュータが息を呑む間に、鈴蘭は立ちあがって歩いていく。
 その後に続くVZが、リュータを振り向きにこっとVサインして告げる。

 「大丈夫!問題ないない♪」
 (なんて連中だ…。)

 単に度量が広いとか、そう言う話ではない。
 信じるものがあり、それに足る実力を持ち、その使い方を心得ている。
 故に恐れず、怯みもしない。
 如何なる艱難辛苦すら、彼女達にとっては人生の彩を添えるためのものに過ぎないのだ。
 
 アーチェスもザジを連れて元いた場所へと戻っていく。
 それを見て、リュータは壁に拳を叩き付けた。
 皮膚が破れ、血が滲む。
 壁は傷一つ付いていない。
 その惰弱、脆弱さに思わず自嘲の笑みが浮かぶ。

 「オレにも……力さえあれば…ッ!」

 視界に入った瞬間に、殺せていれば。
 鈴蘭の静止も、ザジという障害も、何もかも跳ね返す力さえあれば。
 そうであれば、有無を言わさず殺せたというのに。

 「…もう、名前は忘れたのだけど。」

 エルシアがアーチェスの去った方を向けて呟く。

 「知ってるわ。あなたがアーチェスと呼ぶあの男。」
 「な、に…?」
 「えぇ。だから懐かしいと感じたのね。」

 納得した様に頷くエルシアは、直ぐに興味を失った様に視線を戻す。

 「お母様の側近だった男よ。」
 「先代魔王、の…?って事は、あいつも円卓の…?」
 
 ふるふると、エルシアは首を振って否定した。

 「お母様が先遣隊としてこの世界にやってきた時の側近だったの。」
 「じゃぁ、あれか。あいつも生粋の魔族ってことか?」
 
 エルシアは今度は肯定した。

 「ノルカとソルカが言ってたわね。アルハザンは魔族の復権を目指していると。」
 「…確かにそう言う事なら当て嵌まるが…。」

 復権とは、元あった権威を取り戻す事だ。
 つまり、当初からそれを持っていた者達にこそ当て嵌まる。
 だとすれば…。
 リュータが内心で考えた事を、エルシアは率直に口にした。

 「あなたの敵う相手じゃなかったわね。」
 「だな。」
 「?」

 素直に認めたリュータに、エルシアは疑問の視線を向ける。

 「お前やリリーにVZ、さっきのザジにアーチェス……オレは、まだまだ弱い。」
 「解っているのなら」

 諦めるのか?
 そう口にしようとしたエルシアを、リュータは手で制した。

 「解ってんだよ、人間が魔人や魔族にそう楽に勝つなんてできない事はよ。」
 「ならどうするの?」
 「鍛える。」

 リュータはそんな当たり前の事を言った。
 
 「身近に人間のくせしてぶっ飛んだ奴がいるからな。そいつに頼み込むつもりだ。」
 「ヒデオに?」

 あぁ、と頷くリュータの瞳に、もう迷いは無かった。
 警察も司法も届かない、常識の外側のこの場所で、力を持った人外を殺す。
 だが、今の自分では絶対にできない。
 だからこそ、それが出来る可能性がある人間に教えを乞う。
 脳裏に浮かぶのは、人間でありながらなお人外に抗し得る数少ない猛者。
 
 (待ってろよヒデオ。)

 途中から姿を消していたが、よく考えればあの場の誰もそれに気付いた様子は無かった。
 つまり、その気になればひでおはあの面々を不意打ちする事が出来たのだ。
 その穏行を学ぶだけでも、リュータにとっては万金の価値があるのだ。

 「……。」

 メラメラと、背に烈火の如き炎を背負ったリュータを見て、エルシアは思う。
 先程まで、完全に火は消えた筈だった。
 それが今はこんなにも燃え盛っている。

 (不思議なものね。)

 これだから人間って面白い。
 すぐに壊れるというのに、他の誰よりも熱く燃え上がる。

 (もう少し、見続けてあげる。)

 歩き出したリュータの後を、エルシアはそっと追いかけ始めた。






 「なぁ親父。」
 「何ですザジ君?」
 「ちゃんと気付いてるんだろ?」
 「勿論です。」

 ダンジョン奥の拠点に戻る途中、ザジは懸念を口にした。
 
 「ヒデオさん、いませんでしたね。」
 「最初は確かにいた筈だ。けど…。」
 「気付いたら蛻の殻でしたねぇ。」

 ザジは魔人としては若い部類だが、強力だ。
 アーチェスに至っては齢数千年を超える、歴戦の魔族だ。
 その2人に気付かれずに姿を消す。
 生半可な実力でできる事ではない。

 「厄介過ぎる…。」
 「まぁレナさんが接触している様ですから、そちらに期待ですね。」

 ダメであれば、その時に考えましょう。
 そう言って、アーチェスは鈴蘭達との会合に意識を移していく。

 (あんまりぼったくられないと良いんですけど…。)

 彼の願いは勿論の事ながら敵わない事となる。






 「さぁって、どうなるかなー?」
 「にゃはは、鈴蘭ったら楽しそー♪」

 2人の少女が楽しそうに街を歩く。
 先程の銃撃戦の余韻は欠片もない。
 ウィンドウショッピングも、血沸き肉躍る闘争も、彼女達にとってはどちらも等しく娯楽なのだ。
 日常と非日常。
 普通なら区別されるソレは、彼女達にとっては些細なものなのだ。

 「さーて、会場のセッティングしないとね♪」
 「おー臨時収入だね?」

 どん位ぼったくろうかなー?
 そう呟く少女の姿に、聖魔王としての絶大な影響力を感じる者はいなかった。
 
 




 「うふふ…くすくす♪」
 「マリーチ、また何か視えたのですか?」

 白のローブを纏った少女が笑みを零し、シスターが声をかける。
 容姿こそ美少女と美女なのだが、実力だけを言えばこの都市でも最上級の2人だった。

 「そうよ。でもダメ。まだ速いわ。」
 「そうですか…。」

 こうやって焦らされるのも何時もの事。
 シスターはそう割り切ると紅茶を淹れる準備を始める。
 幸いにもこの隔離空間都市でも高級茶葉は入手できるのだ、チケットさえあれば。

 「もうすぐ歴史が動く。」

 くすくすと、童女の様に無垢に、あどけなく、清純に笑う。
 イトシイヒトは、きっと歴史の節目に立ち会う事だろう。
 否、寧ろ積極的に変えていくに違いない。
 より良くなると判断すれば、彼は躊躇い無く踏み込む。
 自分が、自分達が愛した男はそういう奴なのだ。

 「あぁ楽しみ…。」
 うふふ…くすくすくす♪

 今はまだ、少女は視続けるだけだった。












ハッピィィィィィィィィィ……ッ
 ニューイヤァァァァァァァァァァァァァアアアアッッ!!!!!!!!!!!

 読者の皆さん、理想郷の皆さん!
 今年もよろしくぅぅぅぅ……お願いしまアアァァァァァァすゥッッ!!!!!!!!











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