【ネタ】それいけぼくらのまがんおう!第17話
マリアの説得も終わり、負傷していた美奈子(&岡丸)を拾い、暫し歩いて漸くゴールに着く寸前。
ひでおはぐらりと自分の視界が歪むのが解った。
「ぬ…っ。」
「ヒデオさん!?」
「ますたーっ!?」
ひでおは、ゴールを目前にして倒れた。
魔殺商会地下区画
常に薄暗く、蛍光灯とモニターのみが光源となるこの場所に、ひでおは運び込まれた。
「不完全骨折7か所、脱臼2か所に打撲多数。おまけに肺炎まで発症してるし、かなり衰弱してる。これじゃ倒れるのも無理ないねぇ。」
ひひひひひひひひ!
特徴的な不気味な笑いを洩らしつつ、ドクターこと葉月の雫は診断結果を告げた。
「一応、可能な限り回復魔法をかけたのですが…。」
「ひひひ!術者が気づかない程微細なな罅じゃ流石に治せないさぁ。それに本人が痛みを完全に抑え切る程の意思がある場合、魔法の反応が落ちる時もあるしねぇ。」
気まずそうなマリアの言葉にも、ドクターは如才なく原因を上げる。
そもそも、イスカリオテ式の回復魔法は大前提として「最低でも死なない程度に治癒する」という条件が存在する。
これは人間主体の国軍と異なり、人員の補充が難しい魔人・魔族が主体のイスカリオテの性質から来たものであり、主に緊急時に使用される。
マリアがひでおの治療に使用したのもこれの亜種なのだが、如何せん貫手が傷つけた首筋の方を集中して治癒したため、全体的にはあまり効果は無かったのだ。
極め付けにひでお自身が全くそれを表に出さなかったため、彼女は全くそれに気付く事が出来なかった。
「要するに、やせ我慢なわけ。」
くすくす♪ 困った旦那様ねぇ♪
男の(師としてかもしれないが)意地に対し、微笑ましげにコメントする元預言者現魔法少女であった。
「まぁ、取り敢えず処置はしておいたから、死ぬ事だけなないさぁ。」
ひひひひと薄笑いを浮かべる姿は凄まじく怪しいが腕だけは確かなので、今まで深刻そうに沈黙していたウィル子や美奈子は漸く一息つく事が出来た。
「っとにもう、ますたーったら……ええかっこしいなのも大概にしてほしいのですよー。」
「全くです!起きたらカツ丼をお供にお話しです!」
プンスカプン!と怒気が吹き上げてきそうな2人はそう言いながらも決して病床で眠るひでおの傍から離れようとはしない。
「あ、そうそう。」
ニヤリ、とドクターが笑みを浮かべる。
「ウィル子君、君にこんなものが届いてるんだけどねぇ♪」
取り出したるは請求書。
その額たるやなんと
「な、700万チケットォォォォォォォォッ!?!」
あまりにも大きな額に、ウィル子は絶叫した。
ついでに作画崩壊も起こしていた。
「ひひひひ!い、今ならこの最新型ブレードアンテナを付ければ全てこちらで負担し「はいはいそこまで。」げひょぉぅッ!?」
赤いブレードアンテナ片手に狂気の笑みを浮かべながら震えるウィル子へと迫り来るドクター!
直後、マリアに殴られて吹っ飛ぶドクター!
「ウィル子ちゃん、優勝賞金は?」
「あ、はい。ますたーの医療費込みで850万チケットになります。」
「まぁ妥当ですね。取り敢えず、ひでおさんには起きてから事情を説明するという事で。」
こうして、ウィル子はシャ○専用機化を免れる事となった。
で三日後、ひでおは目を覚ました。
「あら、起きるわね。」
「先生!」
「…何か、始終枕元で騒がれていた様な…。」
「き、気のせいなのですよ!」
「そ、そうです!ひでおさんの気のせいですよ!」
以上が起き抜けのひでおが聞いた言葉だった。
「ぬ…。」
ゆっくりベットから身体を起こすと、ひでおは呻いた。
身体の節々が硬く、鈍っている。
数日はリハビリに専念しなければならないであろう状態に、眉を寄せる。
先日のレースでのマリアとの戦闘も考え、完全に戦闘向けに鍛え直す事を決定していたのだが、これでは予想より昔のカンを取り戻すには時間がかかるだろう。
「あ、手伝いますね。」
「すまない。」
すぐに気付いたマリアが介助に入る。
その慣れた様子は流石はシスターと言うべきか、手慣れた様子が見て取れる。
「で、あの後どうなった?」
「あ、はい。ますたーと別れた後、ウィル子はちゃんとトップでゴールしました!それ時ですね…。」
楽しそうにレースの顛末を話すウィル子に、ひでおは頬を緩める。
自分の相棒だと、そう宣言した彼女だが、実際はまだまだ若く、幼い所が多分に存在する。
そうした所を見るのは、彼にとって確かに癒しとなった。
「おおっと、目が覚めたのかい!」
暫しの歓談の後、ドクターが姿を現した。
ドリルもアンテナも持っていない様子から、今は普通に仕事しているらしい。
「ドクター、身体の方はどうだろうか?」
「ひひ、それは君の方が詳しいんじゃないのかい?…まぁ診断するから、一先ず女性諸君はちょっと退室してもらうよぉ。」
ドクターの言葉を聞いてちょっと目が血走った面々であったが、一応医者の言葉なので表向きは大人しく、内心では渋々ながら退室していった。
「…で、どうだ?」
「随分無茶したものだよ。」
ドクター、否、葉月の雫はがらりと雰囲気を変えて告げた。
言うまでもないが、既に盗聴その他諸々に関しては万全である。
マリーは兎も角、未熟なウィル子では機械の無いこの部屋では先ず無理だろう。
「魂が随分と疲弊してる。あのレースの様に常にあの子に色んなモノを捧げ続けたら……そうだね、後3時間と持たなかっただろうね。」
葉月はひでおに幾つかの資料を渡した。
それはここ数日葉月が詳細に検査したひでおの容体に関する情報だった。
肉体は完膚無きまでに治療し切った。
だが、問題は魂にある。
天界由来の神器という超高位の神秘を後付けされた魂は、何をしていなくとも徐々に消耗していく。
この20年少々、僅かながら神器を使う事はあったが、この都市に来てからはそれが加速し、消耗が顕著になっている。
ヴェロッキア戦の様に数える位しか使わないのならまだ良い。
しかし、長時間に渡るウィル子への力の供給はひでおに、その中の人に大き過ぎる負担を与えていた。
「そうか…もうそこまで進んだか。」
ひでおは、それだけしか言わなかった。
元より解っていた事だった。
嘗ては主に魔導力を代価として支払ってきた。
人より遥かに大きく、しかし同族からみたら些細なそれすら今は無い。
だからこそ、それよりももっと貴重かつ効率の良い魂を代価に捧げてきた。
ザリザリと、ゆっくりヤスリに欠ける様に自分の中で最も奥深い部分が削られていくのが解る。
それでも、この都市に来てまですべき事があった。
それだけの代価を払ってでも、したい事があった。
「あの子達、泣くよ?」
「一時だけだろう。」
怒られるだろうが、な。
そう言って、ひでおは少し苦みを混ぜた笑みを浮かべる。
こんな事をする自分にどうして彼女達は惹かれるのだろうか?
何度も考えたが、これに関してはさっぱり解らない。
でも、ただ一つだけ解る事がある。
彼女達とすごした日々は、確かに幸福だったのだ。
「(正直一度死んだ位で開放されるとは思えないけど…)…まぁ、したいようにすればいいさぁ。」
「そのつもりだ。」
その暫く後、葉月の雫は自分の懸念が的中している事をはっきりと知る事となる。
三日後、ひでおは退院した。
「ウィル子。」
「なんですかー?」
安アパートへの帰り道、ひでおは相棒たる少女へ話しかけた。
「今から君に調べ物を頼みたい。」
「それは…態々頼むような事ですか?」
「あぁ。」
ひでおの真剣過ぎる横顔に、ウィル子は僅かな心配とそれ以上の喜びを感じていた。
あぁ、この人が私を正面からこんなに頼ってくれるなんて、と。
「オレはその間別行動を取る事になるだろう。暫く君1人が行動する事になる。それでも良いか?」
「誰にモノを言っているのですか?」
その念の押し様に、ウィル子はひでおが内心では断って欲しいのだと言う事を理解した。
けど、だけど、その「お願い」を彼女は聞けない。
「私は電子の神にして、この世全ての電脳を治めるモノ。―――人間1人の願いくらい、ちゃちゃっと叶えて差し上げるのです。」
だから笑顔でそう告げる。
自信満々に矜持を抱いてそう告げる。
それこそが、この人のためになると信じて。
「そうか……なら、頼もう。」
それを見て、ひでおが何を思ったのかウィル子は知らない。
でも、何処か嬉しそうに、眩しそうに微笑むひでおを見て、この宣言が間違いなんかじゃないと信じられた。
「では電子の神よ。マルホランドに関するありとあらゆる情報を攫い、調べ上げてくれ。」
「Yes、Mymaster.」
こうして電子の神とその従者の、「世界を変える下準備」が始まった。
ここから一気に加速します。
原作との乖離がいよいよ強まるので、見たくない方はスルー推奨です。