それいけぼくらのまがんおう第16話
「決戦!教師と生徒」
100%混じりっ気なしのミスリル銀を使用した装備は、当然の事ながら少ない。
神殿教団の正規装備でもミスリル銀を用いているのは司教クラスの法衣の刺繍からであり、それ以下の者達は基本的に聖別した鎧や剣に魔導皮膜や術式を刻む程度だ。
純ミスリル銀を使用するにはそれこそ教皇・法王・枢機卿・大司教などの一角の人物しか許されていない。
そもそも、幾ら巨大組織である神殿教団でもそんなべらぼうなコストが必要なものは滅多に配備しない。
一応、二度目の世界におけるイスカリオテ機関では対吸血鬼・悪魔部隊に純ミスリル製装備が常備されているが、それとてかの組織の極一部、少数配備でしかない。
それも、とある精霊の協力あっての事だ。
その名はエリーゼ・ミスリライト
ご存知、ミスリル銀の精霊である。
ことミスリル銀の精錬・産出・加工技術ではエリーゼ興業が世界トップクラスに常に君臨しているのは、やはり彼女の存在が大きい。
彼女の能力はミスリル銀の召喚と操作。
これは魔導力と信仰が続く限り行使可能なため、生産・武力チート両方が楽しめる素敵仕様だ。
その能力と優秀さ、カリスマから部下達からは女神とも呼ばれている。
事実、神霊と言っても過言ではない程の実力を持っているため、今大会の優勝候補の1人として注目されている。
そんな彼女が、ガチで戦闘すればどうなるだろうか?
イスカリオテ機関式の戦力評価なら、最低でも準アウター級。
相手のアウターとの相性にもよるが、例えば炎鬼やリッチといった魔に属する者ならほぼ同等と言ってもいい。
逆にマリーチやワルキューレといった天に属する者の場合、どうしても素の能力で相対するため、アウター達よりも若い彼女では不利とも言える。
では、同じ準アウター級との戦闘ならどうか?
それはこれから解る事だろう。
降り注ぐ聖銀の槍への対処は、簡単だった。
簡単だったが、それが狙ったものが問題だった。
(全部、ヒデオに!?)
取られるのは嫌だ。
奪われるのは嫌だ。
無くすのは嫌だ。
親を目の前で亡くし、育ての親にして師を、自分の過失で失った。
何処にいるの? もう一度会いたい。 会って、もう二度と離れたくない。
願いはただそれだけだ。
ただそれだけのために幾星霜と世界を回った。
回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って 回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って 回って回って回って回って回って回って回って回って回って回って
漸く、漸く見つけた。
なのに、あの人は脆弱な身になり、別の誰かを傍らに置いていた。
許せない。
だから、今度は私が奪う。
誰にも奪われないようにその命を奪い、別の命を与え、庇護する。
こうしてあの人を傷つけているのも、そのために過ぎない。
こんな脆い器じゃなく、もっと頑丈な器に移して、私の元に。
でも、他の誰かに殺させるのは、絶対に嫌。
邪魔をするなら、誰であっても許さない。
一薙ぎで、聖銀の槍は蹴散らされる。
同時に、既に上空のエリーゼは第二波を放っている。
「■■■。」
それを身のこなしだけで回避し、お返しとばかりにその場から動かずに魔法で反撃する。
超高速詠唱を実現する圧縮詠唱。
未だこの世界では研究段階のそれだが、既に私にとっては既知の技術だ。
「ちっ!人間業じゃないわね。」
そうとも、何を今更言うのだろう。
「あなただって、人間じゃないでしょう?」
この都市で異種族は珍しくない。
こんな事を思いつくなんて、やはり鈴蘭さんは優れている、という事だろうか。
そんな感心を余所に、死闘を続け
ようとした所で、左手に違和感を感じた。
見れば、マリアの左手にひでおが手を添える様に触れている。
「何を」
この程度、騒ぐまでも無い。
無いが、この元先生は何をやらかすか解らない。
取り敢えず眠らせて、今は眼前のエリーゼに集中すべき。
そう判断し、マリアが圧縮詠唱を唱え始めるまで実に0,07秒。
だが、その判断はやや遅かった。
「え?」
左手に上手く力が入らない。
しかも単純な筋力の話ではなく、「本当に力が入らない」。
まるで風船に小さな穴が空いているかのように、しっかりと力を入れる事ができなくなっている。
「ッ、この!」
右手に持った神器での打撃も、既に左腕から逃げたあの人には届かない。
「やってくれましたね…ッ!」
「はん、この程度でピーピー騒いでんじゃないわよ!」
「コホ、コホッ。」
咳こむひでおは威嚇し合う2人を見てゲンナリしているが、そんなものはこの漢女どもには毛ほどの価値も無い。
「気孔だけではありませんね?…道教の、魂魄ですか?」
「解説はしない。」
「でしょうね。」
この場合の気孔とは体内の力の流れの結節点を指す。
魔力・気・霊力その他はどれも体内を循環し、常に流れている。
その結節点に何らかの刺激を与えれば、その流れに影響を与える事ができる。
主に東洋医学からイスカリオテ機関がこれまた医療用に発展させたものだ。
だが、上手く使えばこうして相手の力を乱れさせる事もできる。
…ちなみにこれ、元々は毎日デスマーチのイスカリオテ文官組の「少しでも疲労軽減を!」という切実な願いの元に開始された各種医療開発によって生み出された技術だったりする。
「気をつけろ。あの十字架は元々人間のままでアウターとやり合う事を前提にした武器だ。直撃を受けたら君とてただでは済まない。」
「また厄介なもんを…。貸し1って事で良いわね?」
共闘するにも、この2人は全く齟齬というものがない。
何せひでおはエリーゼの手の内は全て知っているし、エリーゼも会社に多くの利益を齎しているひでおを見放すつもりは無い。
「…良いですよ。お二人がその気なら、私は2人とも相手にするだけですから。」
そして、仕切り直しと言う様に、マリアはまた一歩踏み込んだ。
「えぇ!?マリアさんが攻撃してきた!?」
聖魔杯ゴール地点。
そこではゴールした先頭集団がウィル子の話を聞いていた。
「はい、どうやらますたーとは以前因縁があるらしくって。恐らくそれが原因かと。」
「…で、どうなんだ、そこのあんたは?」
リュータが一向に沈黙したままのマリーに鋭い視線と共に告げる。
「クスクス♪…さぁ、どうかしら?」
「ちょっと、マリーチさん!」
「ノンノン、魔法少女マリーちゃん☆」
鈴蘭が詰め寄るが、ちっちっちっと指を振るマリーは面白そうに告げた。
「あの子はずっと我慢してきたわ。それが今回弾けちゃっただけよ。たーくん、貴方なら解るんじゃないかしら?」
「何?」
事態の推移に頭を痛めていた貴瀬だが、自分の名が出た事に疑問符を上げる。
「あの子はヒデオに会いたいって一念だけでここまで来たの。所がまぁ、会いたかった本人はすっかり平和ボケしてるわ女の子侍らせてるわでプッツンしちゃったんでしょうねぇ。」
「それが何故オレに繋がるのだ?」
ますます訳が解らん、と頭を悩ませる貴瀬に、マリーちゃんはそれはもう良い笑顔で告げた。
「あなた、堕ちたみーこを殺せる?」
「…ッ!」
貴瀬はその余りの内容に絶句した。
「あなたが殺したがってたみーこが何も知らないただの女性になってたら、貴方はそれを殺して満足できる?」
要はそう言う事なのだ。
幾星霜と世界を渡って求めた相手が自分よりも弱く儚い存在となり、(これが最も重大なのだが)傍らに自分以外の女性を侍らせていたのだ。
しかも、その女性と先日キス、ベーゼ、接吻まで致したのだ。
これで恋する乙女が怒らないであろうか?
否!! 十中八九ブチ切れる事だろう。
「…あー、つまり痴情の縺れか?」
「まぁ端的に言えばそうね。」
いきなり深刻となった雰囲気が、翔希の一言によってどっかにすっ飛んで行った。
「えーと、つまり事態はヒデオ君の男としての甲斐性にかかってるって事?」
「ぶっちゃければ。」
ぶっちゃけ過ぎであった。
そこまで来て飽きたのか、関心が薄れたのか、エルシアが歩き出した。
「何処行くんだエルシア?」
「ここだと濡れるもの。」
そう言ってフードを被ったまま建物内へと向かう。
「取り敢えず、私達も控室に行こう。このままじゃ風邪ひいちゃうし。」
「そうだな。ヒデオはもうちょっと掛かりそうだし、オレも中で待つ。ウィル子はどうする?」
未だに車から降りずにぽやーっとしているウィル子に、翔希が問うた。
「だいじょーぶなのですー。ますたーは直ぐに帰ってくるのですよー。」
「私ももう少し待たせてもらうわ。」
そう言って、2人だけが一先ずその場に残った。
「で、どう思う?」
「ますたーなら毎度の如く妙ちくりんな手段でどうにかしてしまうのですよー。」
「目に見える様だわー。」
少しくらい心配してやれよ。
そう突っ込む者は残念ながらここには居なかった。
仕切り直し、再び放たれた一撃は、しかし、先程の速さも風圧も威力も無かった。
それでも常人なら一撃でミンチとなるそれは、ひでおは勿論エリーゼにとっても直撃すれば危ないだろう。
その突進に対し、エリーゼは多量の小刀やナイフ、手裏剣などの投擲で応えた。
その数、実に30以上。
だが、マリアは一切の減速を行わず
「っ!」
真っ直ぐ刃の群れへと突っ込んだ。
(ミスリル銀は厄介ですが、それだけです!)
以前、訓練で行われた誘導魔法を付加した対戦車ライフルの飽和射撃に比べれば、何と言う事は無い。
速度も視認可能、誘導性は無し、貫通性はあるが威力は低い。
「はぁっ!!」
神聖具現改を下から掬い上げると同時、術式を発動、局所的な豪風が下から上に吹き荒れ、刃群の機動が乱れ、道が開く。
その間を先程の掬い上げを予備動作として神聖具現改を肩へと担ぎ、更なる加速と共に突き進む。
そこでひでおが前に出た。
「っ」
既にウィル子への供給は停止し、身体は十全に動く。
並列思考も既に6個が最大処理速度を以て稼働中だ。
ひでおは慌てず騒がず呼び出した神器「狂い無き天秤」を発動、先ずは放たれる風圧を消した。
身体のすぐ横を神聖具現改が振り降ろされるが、それが周辺の大気を引き裂いた事で発生する筈の風は今は無い。
「っ!」
振り下ろされた神聖具現改が地面に着弾、先程の様に森の腐葉土が衝撃と共に巻き上げられる。
だが、それは先程の仕切り直し前に比べて一見派手だが明らかに勢いと量に劣り、ひでおでも何とか戦闘を続行できる程度だった。
当然だ。先程は両手で扱ったが、今は片腕しかまともに使えない。
速さなら兎も角、膂力に関して言えば両手持ちよりも片手持ちの方が劣っている。
「シッ!」
「っ」
ヒデオから見て神聖具現改の右から懐に飛び込み様、呼気と共に放たれる顔面狙いの貫手。
だがそれは顔を反らせる事で簡単に回避される。
「甘い。」
勿論、それは織り込み済みだった。
貫手を途中で人差し指だけ伸ばす形にして、左方向に急速に身を回す。
今度は側頭部、『耳』を標的に手を横向きにする様に突く。
人の耳は勿論の事ながら急所である。
外耳道を通り過ぎれば直ぐ鼓膜があり、更に先には重要な器官が多く存在する。
特に三半規管は身体のバランスを司るため、破壊されれば戦闘能力は殆ど喪失してしまうと言っていい。
「らぁッ!」
「ぬッ!」
だが、マリアもそんな事はとっくに解っている。
耳を狙うとなれば、貫手となった右手は殆ど真っ直ぐ伸ばす事となる。
ある程度間接をたわめて何時でも動かせるようにしているが、その分、身体はどうしても近づく必要が出て来る。
だから、マリアは思いっきり眼前のひでおに頭突きを喰らわせた。
「っ、か!」
堪らないのはひでおだ。
咄嗟に首を後ろに引いて衝撃をある程度殺したは良いものの、それでも身体強化と小型障壁を展開した状態での頭突きである。痛くない訳が無い。
特に額は血が出やすい。直ぐに視界を塞ぐようになるし、頭への打撃で脳が揺さぶられる事もある。
そのまま反動を生かして後方に宙返り、スタンと見事に着地する。
無論、マリアはその隙を突こうと接近するが、今度はエリーゼの刃群が降り注ぎ、後退せざるを得なかった。
((埒があかない。))
元師弟2人の思考は、こうした戦術・戦力面ではとてもよく似ている。
これは経済・政治面でも同じであり、彼女を教育した当時、えるしおんが自身の後釜として育てた事によるものだ。
一部ではえるしおん以上に柔軟な面を持つのはマリアという女性だが、えるしおんはそういった点を経験で補っているため、早々簡単に裏をかく事は出来ない。
(次で終わるわね。)
エリーゼは両者の空気が変わった事を悟った。
マリアはこれ以上時間を長引かせればエリーゼ以上に厄介な聖魔王一派が来るかもしれない。
ひでおはウィル子のためにもさっさとこの場を切り上げてしまいたい。
そう予想するエリーゼもさっさとゴールしてしまいたい。
そんな考え事をしていたためか、エリーゼは次の瞬間に対応するまで刹那の時間を必要としてしまった。
すっと吹いた湿った風により、木から一枚の木の葉が散った。
それがマリアとひでおの中間地点に落ちた時、両者は踏み込んだ。
マリアの先程同様に砲弾の如き速度での踏み込みに対し、ひでおのそれはまるで友人に歩み寄るような足取りであり、明らかに戦闘を目的としたものではない。
それでも、マリアは全速でひでおへと接近する。
「まるで焦っている」かの様に、彼女は行く。
ひでおは、そんな元弟子を見て笑っていた。
笑いながら、彼は「左の貫手を自分の首に向けていた」。
「はあぁぁぁっ!?!」
エリーゼが絶叫するのを余所に、マリアは焦りを隠さずにひでおに近づき、その左手を封じにかかた。
無論、高速移動からそんな行動に移れば、必然的に慣性の法則でその勢いのまま進んで行く訳で
ひでおとマリアは勢いよく森の木々の合間へとすっ飛んで行くのだった。
「何やってんですか、あなたはッ!!」
パシンッ!と乾いた音が湿った森に響く。
マリアがひでおの頬を張った音だ。
「あなたは、あなたはウィル子ちゃんとの約束も放って、マリーチの事も放り捨てるつもりで、一体…ッ!!」
「…漸く、以前の顔になったな。」
そう言ったひでおの顔は、笑みを作っていた。
気付いた瞬間、マリアは自分の頬に血が集まるのを自覚した。
(嵌められたっ!)
恩師であり、育ての親であり、尊敬する先輩であり、想い人であるこの男は、自分をこうやって嵌めるためだけに自分の首を貫手で貫こうとしたのだ!
(なんて出鱈目!)
否、「必要とあれば」自分すら謀略の中に組み込んでしまうのは、以前から知っていた。
知っていたが、実際にされた事は無かったため、すっかり失念していたのだ。
無理もない。
彼女が生まれ、えるしおんの元で師事していた時代は1990年代。
えるしおんが、イスカリオテ機関そのものが壊滅的打撃を受ける様な攻勢に晒される機会は歴史上2回だけであり、直接目にした事は皆無だった。
一度目はかの悪名高い十字軍遠征である。
虐殺されそうになった民間人と少数種族を避難させるために実働部隊の6割近くを使ってゲリラ・避難活動を行い、多大な被害を受けつつも何とか任務を全うした。
二度目は第二次世界大戦。
人類史上最悪の大戦をイスカリオテ機関はその全力で止めようとした。
しかし、ナチスドイツを傀儡として動く九尾の狐と銃の精霊の各種工作により実働部隊はその2割が壊滅、その活動を大きく阻害され、結果としてアメリカの原爆投下を許してしまった。
この二度の騒ぎで、えるしおんは陣頭指揮を行い、アウター級・準アウター級とも交戦し、重傷を負っていた。
この記録はマリアも知る所だが、しかし、記録だけでは実感は伴わないのは当たり前の事だった。
ましてやそれが優秀かつ尊敬できる師なのだから、何処かで何かの間違いだと思っていたのだ。
「な、何を言ってるんですか!それよりもですね、元十字教の聖職者ともあろう者が自害なんて…!」
「解った。解ったから上から降りてくれ。」
気付けば、興奮してマリアはひでおを押し倒して馬乗りの体勢となっていた。
「わ、わわわ!」
「コホ、コホ。」
顔を更に真っ赤にして跳び退くマリアと、着地の衝撃で息が詰まっていたのか咳き込むひでお。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ、安心した。」
「へ?」
疑問符を浮かべるマリアを、ひでおはただじっと見つめた。
その目には遠く、懐かしいものを見る様な、望郷にも似た色があった。
「君が優しいままだという事に、安心したよ。」
「んな…っ!」
マリアはもう耳どころか首まで真っ赤になった。
そんな、そんな事をそんな顔で言われては羞恥が限界突破してしまいます…!
マリアの乙女心キャパシティーはもういっぱいいっぱいになりつつあった。
「お前がオレを殺そうとするのは……まぁ、百歩譲ってあり得るとしよう。しかしだな、態々自分を追い込む様なやり方でやらなくてもよいだろう。」
「そあかった。れは…それは…。」
まるで狂人の様に、只たった一人の男の命を狙う。
恋は狂気と言うが、それ以上に確固たる理性を持つ彼女は愛しい男を殺すには、敢えて理性を押し殺し、狂人を装うしかなかった。
「もう少し、もう少しだけ待ってくれないか?やるべき事も、この都市で殆ど終わるだろう。その後は手足をもぐなり、首を刎ねるなり、消し炭にするなりして構わない。」
「そうじゃない、そうじゃないんです!」
えるしおんの、ひでおの言葉に、マリアは違う、こんな筈じゃなかったとばかりに否定の言葉を紡ぐ。
ただこの人と居たかった。この人の傍にいたかった。
でも安住の場所は自分と他一名のミスで失ってしまった。
そして、またその居場所を得るために当て所無い旅を幾星霜と続けたのだ。
だが、見つけた嘗ての居場所には、他の女がいた。
それが、彼女は堪らなく辛く、許せなかった。
でも、これは違う。
激情でついカッとなってしまったが、この人にこんな事を言わせるためにしたんじゃない。
もう自分を置いて何処かに行って欲しくない。
ただ、それだけなのだ。
だというのに、自分がやったのは何だ?
イトシイヒトを、もう無くしたくない人を、傷つけるばかりではないか。
それを考えたのも実行したのも自分。マリアは自分が許せず、悔しくて悲しくて涙があふれ出そうだった。
「私が!私が悪いんです!あの時、私がもっと冷静だったら…!」
「IFを語った所で仕方ない。悔いは誰にだってある。なら、重要なのは何だ?」
「っ、ぐす…今後の、行動でずっ。」
「そうだ。」
ひでおは地面から起こした身体を木の幹に預けながら話し続ける。
「優しい君なら、一度平静になればオレを殺そうとは思わない。そう思ったから、オレは先程の様に君の頭を冷やした。今の君なら、自分が言うべき、すべき事は解るな?」
「はい゛っ。」
しっかりと頷いた愛弟子に、ひでおは満足そうに頷いた。
「ごめんなざいっ。」
「よろしい。もうするなよ?」
ばい、と涙声で言う大きくなった娘の頭を、師父は笑みを浮かべながら撫でた。
「で、もう良いのかしら?」
「あぁ、待たせたな。」
「っ!きゃっ!」
ジトッとした目を向けるエリーゼに対し、ひでおは動じず、マリアは跳び上がった。
「ったく、少しは驚きなさいよ。可愛げのない奴。」
「君こそ、少しは御洒落にでも気を使ったらどうだ?」
暗に「正直制服は無いよ」と告げるひでおに、エリーゼはちょっと青筋を浮かべた。
「~~~っ!……ふん!まぁ良いわ!もう良いらしいから、私はゴールに行くわよ。あんた達も後から来なさい。」
そう言って、エリーゼはやや桃色で甘い空気を漂わせる2人の元から去っていった。
「さて、オレ達も行くか。」
「あ、はい。」
いい加減木の幹から身体を起こし、ひでおは身体を伸ばした。
先程の戦闘かそれとも着地の衝撃、身体がギシギシと悲鳴を上げているのが解る。
「あ、回復しますね。」
「頼む。」
断る理由も無いので、マリアの回復魔法を素直に受ける。
柔らかな癒しの光が木々の間を僅かに照らす中、マリアはぽそりと、ひでおにも聞こえない程度の大きさで呟いた。
「でも、諦めませんから。」
その瞳には、確かに確固たる意志が宿っていた。
その頃のゴール地点
キュピーン☆
「「はっ!ひでお(ますたー)がフラグ立てた予感が!?」」
何かNT的勘を働かせる電子の神と神の目だった。
何か最後グダグダだなぁ(汗
真剣に文才が欲しいですはい